お盆の時期に、佐々木の誘いを受け、佐々木の母親の実家に連れて行ってもらってから、ひと月。
初秋の三連休に、俺はまたしてもそこにお邪魔することになった。
ついこの間まで、猛烈な夏の暑さに体もバテ気味だったが、最近では朝晩涼しい空気が心地よく(昼間はまだ少し暑いが)
、体力も回復してきた。
このあたりは俺達が住んでいる所より、自然の移り変わりを感じる事が出来る。
「彼岸花が多く咲いているな」
「もともとこのあたりは田畑が多いから、もぐらよけに多く植えてあるんだよ。それがいつしか名物となって、河原やあぜ道
、裏路地にも植えて、だんだん増えていったんだ。もうすぐ秋桜も咲き始めるから、それを目当てに来る人も増えるよ」
今、二人で川沿いを散歩しているが、河川敷に秋桜が植えてあるらしく、早めに咲いた秋桜の姿が見受けられる。それらが咲
き誇ったとき、さぞかし綺麗な風景が見られるだろう。
「秋桜の後は紅葉と、このあたりは見所が多いんだ」
それも見てみたい気がする。
佐々木の祖父母の家の縁側に、薄を花瓶にさして、その横に、白玉団子と栗と里芋が添えられて並べてあるのを見た。
「そうか、お月見の時期か」
この前のお盆以来、佐々木からいろいろ教えてもらい、少しは日本の風習について関心を持つようになった俺だが、実際に月見
飾りをしている家を見るのは初めてだ。
「この辺では待月夜(たいげつや)と言って、中秋の名月の3日前ぐらいから飾り付けるんだ。今年は18日が満月だから、ちょう
ど今日からが飾り付ける日なんだ」
佐々木の説明に感心していると、庭の草木をかき分けて、目の前に丸々と太った兎が現れた。
「まさか月の兎か?」
「いや、これは僕の叔父さんが飼っている兎だよ。放し飼いにしているんで、よくここにもくるんだ。キョン、触ってみるかい?」
佐々木にだきかかえられて、兎は怯えるわけでもなく、おとなしくしている。
そっと触れてみると、柔らかい毛ざわりと兎の体温が俺の手の平に伝わって来た。
夕食の準備は、俺と佐々木でお祖母さんを手伝い、秋を感じる料理が食卓に並んだ。
「これは僕の自信作だね」
この地方特産の、いまからまさに旬を迎える栗を使った、栗と冬瓜と地鶏のポトフ風ス-プは、佐々木がかなり気合を入れて作って
いた料理だ。
他に、栗とキノコの炊き込みごはん、秋刀魚、里芋と秋野菜の煮物等、佐々木のお祖母さんが作り続けて来た秋を感じる料理はどれも
美味しそうだ。
「あんたのお母さんにも教えたけど、あんたもこの料理、覚えておきなさい。将来の旦那さんにも作ってあげるんよ」
お祖母さんは何故か俺の方を見たあと、微笑いながら佐々木にそう言った。
お風呂に入ったあと、俺と佐々木は縁側にいた。
満月ではないが、いままさに満ちていこうとする月の光が、俺たちと宵闇を照らしていた。
秋の虫(マツムシとか興梠とか鈴虫とか)の音色が静かな田舎の夜に響いている。
ここの庭に咲いている姫向日葵、(この町の花でもある)竜胆、トルコ桔梗、女郎花などの秋の草花も月下に照らされ、、少し遠くに、
かすかに彼岸花の姿も見える。
その静かな夜の風景に、俺達もしばらく無言のままだった。
佐々木の祖父母さんたちは明日農作業があるから、と早めに休んでいてた。
「・・・・・・ねえ、キョン。もう少し君の側に来ていいかい?」
佐々木の言葉に、少しドキッとするが、俺は平静を装い、軽く頷いた。
佐々木は俺の側に来ると、横になり、頭を俺の膝に預けた。
「君の側にいると心が落ち着くよ。とても穏やかな気持ちになるんだ」
そ、そうか。(俺は今、心臓が通常より早く運転しているのだが)
「しばらくこうさせてくれないか」
ど、どうぞ遠慮なく(佐々木のサラサラした髪の感触が感じられて、心地よいのと落ち着かない気持ちで、更に心臓が早くなる)
ようやく心臓も落ち着きを取り戻し、佐々木を膝枕したまま、俺達は秋の夜長を過ごした。
「ねえ、キョン」
なんだ、佐々木。
「また近いうちに、今度は紅葉の時ここに来ようか」
そうだな。お前と二人でゆっくり紅葉をみるのも楽しいだろうな。
「ここに来る楽しみがまた一つ増えたね」
そう言いながら、佐々木は微笑み、俺も頷き返した。
最終更新:2013年12月08日 01:34