72-xxx『僕は雨が嫌いだった』

「ほう、そりゃ初耳だ」
「そうだね。僕も言ったおぼえはなかった」
 雨を眺めて、二人でやりあう。

 だって、そりゃそうじゃないか
 思い出すじゃないか

 あの忘れもしない中学三年の二学期、つまらない怒りで道を違えてしまった日をね。

「くっくっく」
「人の膝の上で笑うな。こそばゆいだろうが」
 こそばゆいとはまた古風だね。

 今は、こうして傍に彼が居る。
 一度は道を違えて、一度はきっぱり背中を向けて、……そしてやっぱり忘れられなくて。

「まったく、梅雨には一月早いだろうに。気が早い雨もあったもんだ」
 くく、そうかい? 僕は嫌いじゃあないけどね。
「なんでだ?」

 言うまでもないさ。だから言わない。

 あの春の日の大冒険、巻き込まれたという理由で僕はキミと冒険をした。
 けれどね、ホントはそんなの言い訳なのさ。

 今なら言えるよ、ホントはただキミと一緒に歩いていられて楽しかった。
 だからいつだって笑えていた。

 あの頃は、一緒に居るにも理由がいった。……それもあるのだろうね、高校入学以来キミと連絡を絶ったのは。

「くくっ」
 でも今は、雨が降っていたって、外に出られなくたって
 出かけてなんていないのに、キミが傍にいる。
 一緒に居る理由はない、でも居るんだ。

 それを改めて確認できるから、とても素敵だと改めて思えるから・・・・・。くく、なんて現金なんだろうね?

「くっくっく、僕はね、雨は嫌いじゃないからさ」
「やれやれ」
 いつしか、またキミに感染させてやった僕の口癖。
 くく、悪くない気分だ。

 実に、実に悪くないよ、キョン。

終わり

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最終更新:2014年05月20日 00:47
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