「ほう、そりゃ初耳だ」
「そうだね。僕も言ったおぼえはなかった」
雨を眺めて、二人でやりあう。
だって、そりゃそうじゃないか
思い出すじゃないか
あの忘れもしない中学三年の二学期、つまらない怒りで道を違えてしまった日をね。
「くっくっく」
「人の膝の上で笑うな。こそばゆいだろうが」
こそばゆいとはまた古風だね。
今は、こうして傍に彼が居る。
一度は道を違えて、一度はきっぱり背中を向けて、……そしてやっぱり忘れられなくて。
「まったく、梅雨には一月早いだろうに。気が早い雨もあったもんだ」
くく、そうかい? 僕は嫌いじゃあないけどね。
「なんでだ?」
言うまでもないさ。だから言わない。
あの春の日の大冒険、巻き込まれたという理由で僕はキミと冒険をした。
けれどね、ホントはそんなの言い訳なのさ。
今なら言えるよ、ホントはただキミと一緒に歩いていられて楽しかった。
だからいつだって笑えていた。
あの頃は、一緒に居るにも理由がいった。……それもあるのだろうね、高校入学以来キミと連絡を絶ったのは。
「くくっ」
でも今は、雨が降っていたって、外に出られなくたって
出かけてなんていないのに、キミが傍にいる。
一緒に居る理由はない、でも居るんだ。
それを改めて確認できるから、とても素敵だと改めて思えるから・・・・・。くく、なんて現金なんだろうね?
「くっくっく、僕はね、雨は嫌いじゃないからさ」
「やれやれ」
いつしか、またキミに感染させてやった僕の口癖。
くく、悪くない気分だ。
実に、実に悪くないよ、キョン。
終わり
最終更新:2014年05月20日 00:47