18-652「佐々木と小さな再会」

 不思議探索と呼ばれるSOS団の活動を終えて、さて帰宅だと家に向かって歩いているとふと見慣れたやつがいた。
 中学の時のツレで、親友を自称する女。そう、佐々木である。
 佐々木は俺に気付いて、しかし一切声を発することなく自然に歩調を合わせてきた。俺も何も口には出さずに当然のごとく歩調を合わせた。
 しかし今までに佐々木といてここまで沈黙を守ったことはあったかな。別に居心地が悪いとかそういったことはないのだが、隣にいるのが佐々木ということもあって頭に浮かんだ言葉が脳内でろくに推敲しないで口からでそうになる。
 佐々木が何も言わないのだから何かわけがあるのだろう。もしかしたらただの酔狂かも知れないが。

 数分歩いた頃には我が家が見えてきた。未だにお互い何も言葉を発していない。俺は佐々木に少し待つように目で伝え、自宅から愛用の自転車を引っ張りだした。
 佐々木は嬉しそうな表情に申し訳のなさを混ぜた意思を雰囲気で伝えてきたが、俺は何も言わずに自転車にまたがった。一瞬後に佐々木が荷台に腰掛けた重みが伝わり、やはり何も言わずに自転車を漕ぎ出した。

 佐々木の家までのこの見慣れた道を突き進むときも相変わらずの無言が自転車の上を支配していた。
 佐々木は俺のシャツを掴んだり引っ張ったり、足をパタパタさせたりと子供の様な事をしている。俺はそんな佐々木を背中で感じながら、なぜか懐かしい気持ちになってゆっくりと足を回転させていた。
 中学校の学区が同じということからもわかる通りに佐々木の家というのは我が家からそう離れてはいない。
 飛ばせばすぐに着いてしまうのだが、この空間が終わることがもったいないような気がして速度を落とし、ここ最近味わっていなかった安らぎという感覚を堪能していた。


 落ち着いた、安らかな空間は佐々木の家が見えてきたことによって終わりを告げた。俺は家の目の前に自転車を止め、降りるように促す。
 軽やかに荷台から降りた佐々木が俺に微笑んだ。ありがとう、と言ってる気がする。思わず俺も、またな、と意思を込めて佐々木を見る。
 俺の念は伝わったようで、佐々木は90度展開して玄関の中へと吸い込まれていった。
 佐々木の姿が完全に見えなくなったのを確認してから帰路に付く。そうだ、今度はちゃんと待ち合わせをして佐々木を家まで送っていってやろうなんて思いながら。

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最終更新:2007年08月25日 15:54
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