十一時五十分だった。キョンはベットの上で、時計を目で追っている。普段意識しない一
分がこんなに長いと感じたのは初めてだった。チクタクチクタク。夜はこんなにも静かだ。
佐々木は思う。好きな人と過ごす一時間は短く、今の一分はとても長い。と、キョンが佐
々木の体を抱き寄せた。お互い無言だった。言葉を交わす必要などなかった。ただ佐々
木の体温を、キョンは感じている。佐々木もキョンの体温を感じている。今は、それだけ
で充分だった。
キョンに近づこうと、佐々木がベットの中で動いた。普段見ることのない佐々木の顔。キ
ョンだけが知っている女の顔だ。唇を重ねようとして、止められた。先ほどのキスはレモ
ンの味だった。今はどんな味がするのだろう。この時間が、早く通り過ぎてしまえばいい
のに、と思う。そうすれば、遠い昔、夢見た未来が待っている。女の子の夢。キョンのお
嫁さんになるという夢。誰にも気付かれることがないように、彼女は願う。
最終更新:2007年08月25日 15:54