13-792「電話」

特に理由は無い。
強いて言うなら、なんとなくだ。
2年に上がった夏、授業が終わるとハルヒは早々に今日の団活の中止を言い渡しかえっていった。
頭の中がすでに古泉との将棋モードになっていた俺には少々拍子抜けなお達しだ。
団活が無い以上これ以上学校にいる意味は無い。
しかし、ついさっきまで部室でだらける気満々だった俺はすぐに家に帰る気にもならなかった。
こういう日に限って掃除当番でもないのだ。
めんどくさそうな顔をしながら箒を出す谷口と変わってやろうかという考えが頭をもたげたが、
あいつの喜んだ面なんぞ見たくもないので却下する。
荷物をまとめ、下駄箱で靴を履き替え、歩く。
今日は涼しい。
今は夏で晴れてはいるが雲もそこそこ多く、気温は高くない。
何時も登校中の俺を悩ませる坂の頂上に立つ。

気持ちのいい風が吹いた。

その風は、わずかにあったまっすぐ家に帰るという考えをあっという間に吹き飛ばしてしまった。
目をつぶり、頭の中に友人リストを作り上げる。

一番最初に浮かんだのは・・・・・・佐々木だ。

ん?なぜ佐々木なんだ?
俺が思い浮かべるのは谷口・・・は掃除当番だから、国木田や古泉かと思ったんだが。
佐々木は確かに俺の16年の人生通して一番の親友といっていいだろう。
異性ではあるが、それを感じさせないあいつとの会話は俺の好むところだったし事実中学時代は毎日のように話していたものだ。
だが、あいつは学校が違う。
ここからそれなりの距離のある進学校に通っている。
そのせいか高校入学から春に起こった例の事件までの一年間は疎遠になっていたのだ。
あの事件以降俺と佐々木はちょくちょく会うようになっている。
1年のブランクを感じさせない関係は親友の親友たる由縁だろう。
しかしそれは俺にSOS団の不思議探索も、佐々木に予備校の授業も無い休日に2日ほど前から示し合わせてあっている程度だ。
今急に連絡を取ったとして、放課後の暇つぶしに付き合ってくれる・・・付き合える友人という度合いでは最低レベルであろう。
だがまぁ思いついたものは仕方が無い。俺は割りと直感を大事にするほうなのだ。
携帯を出して電話帳を起動し、佐々木のページを開く。
そこでふと思った。
あいつは学校に携帯を持っていっているのか?
まじめなあいつのことだ、学校が携帯の持ち込み禁止ならばもって行くことはすまい。
そうでなくとも授業中だったりHRだったりすればマナーモードどころか電源を切ってあるだろう。
思いつくのは誘いに乗ってこない理由ばかりだ、今回ばかりは感が外れたか?
そんなことを考えながら通話ボタンを押す。
そして1コール。
しないうちに俺の携帯は通話状態になった。
恐らく佐々木の携帯は着メロの音符を3つも鳴らせたならいいほうだろう。

「やあキョン、こんな時間に電話とは珍しいね」

すぐに佐々木の声が俺の携帯から発せられる。
こんなに早く出るとは思わなかったので少々驚いたがとっとと本題を言うことにしよう。

「ああ、たいした用事じゃないんだが・・・・・・これから、暇か?」

必要最低限の言葉しか発しない。
しかし十分意図は通じるだろう。
佐々木のことだ、それどころか俺が佐々木に電話するに至った思考まで読んでくるかもしれない。

「くっくっ、急なお誘いだね。半端に時間が空いてしまったがこの素晴らしい気候のなかさっさと帰るのはもったいないってところかな?」

ほらな。

「そんなとこだ、お前が最初に浮かんだから電話させてもらった」

「そうか、だが生憎今日は・・・・・・最初か・・・・・・・いや、それは明日だったな、よし、付き合おう・・・あと30分もあれば駅に着く」

意外なことにOKが出た。
俺の感も捨てたものじゃないということか。
長い沈黙の間に佐々木が何か言った気がしたがそれは聞き取れなかった。

「わかった、んじゃ30分後に駅前で」

「わかった・・・・・・キョン、今は学校かい?」

「ああ、そうだが?」

「ということは自転車のはずだね、どうだろう、また昔みたいに後ろに乗せてくれないか」

「・・・・・・それもいいな、つらかった日々を思い出すのも悪くない」

「くっくっ・・・・・・じゃあ、30分後に」

「ああ、またな」

軽い挨拶のあと電話は切れた。

「さて、行くか」

坂を下りようと歩き始める。

その時、再び心地よい風が吹いた。

「・・・・・・ああ、そうか」

心地よい風を受けて走る自転車。
それは俺にとってつらい勉強の合間の清涼剤でもあったのだ。
俺が最初に思いついたのが佐々木だったのは・・・・・・。

「心地よい風が吹いてるとき、後ろのいるのはあいつだから・・・・か」

この発想は俺の思考を理由付けるのに十分な説得力があった。
しかし自分の頭に浮かんだ考えになんとなく気恥ずかしさを覚え、んなわけねーか。と付け足した。

さ、急がなくては。
親友との待ち合わせに遅れてしまう・・・・・・。

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最終更新:2007年07月21日 08:30
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