「佐々木……話がある。」
俺は長門の事件が解決した日に電話に向かってそう切り出した。
『話……?どんな話だい?』
佐々木が怪訝そうに訊いてくる。
大切な話だ。お前と逢って話したい。明日あいてるか?
『明日か……本来なら予備校の自習教室に行っている日だがね、
他ならぬ君からこんなお誘いが来たんだ。開けておくよ。』
予備校の日だったか……だが今俺はそんなことをこだわってられないほど……
そうだな……怒っている。
「悪いな。頼んだ。」
結局俺はそれだけ言って、
電話を終えた。
佐々木……どうしちまったんだ……?
お前はこんな奴じゃなかったはずだ。
俺はいつもの喫茶店で佐々木に向かって言った。
「『こんな』と言うのは先日の長門さんのことかい?
あれは僕がやろうとしてやったことじゃない。
九曜さんの独断専行だ。
まったく……せっかくの休日にわざわざ模試が迫っている僕を呼び出して、
はじめにいうことがそんなことかい?
重要な話があるなどと君が言うから……
落ち着いて考えれば、この前からの私の振る舞いから考えてみても、
そんな話じゃないのは自明の理だったはずなのに……」
妙に怒った口調で佐々木が言ってくる。
なんだって?最後が聞き取れない。
なんなんだ?全て九曜のせいだから関係ないとでも言うつもりなのか?
「その通りだ。彼女達の行動は私の関知するところではないからね。
私は彼女達が何をしようと知らない。」
「お前な!!だがその勝手な行動のせいで俺の仲間は傷ついたんだぞ!!!」
喫茶店の中だということも忘れて、
佐々木の冷たく突き放す口調が頭にきた俺は佐々木を怒鳴りつけていた。
佐々木はひるんだ様だが、
俺は頭に血が上ってしまってそれどころではなかった。
「どうしてこんな事をする!!お前を中心にしてあいつらは集まっているんだろう!?
お前が止めようと思えば止める事だって出来たんじゃないのか!!!」
俺は一息にそう怒鳴りつけていた。
気付いてみると、俺は席から立ち上がって、
佐々木を上から見下ろし、
手をテーブルについて、佐々木に向かっていた。
周りの視線が自分達に集まっている事に気付いた俺は席に座りなおした。
佐々木は下を向いている。
「キョン……ちょっと良いかな……?]
なんだ?いつもと少し違う佐々木の様子に少し良い過ぎたかと思っていると、
すぐにそれは少しどころではなかったと言うことに気がついた。
佐々木の目から光るものが落ち始めている事に気がついたからだ。
佐々木……?
「キョン……キョン……君にとって、この一年間で出逢った人たち。
――SOS団の人達は……どんなに重要な存在なの?
……私なんかよりも。キョン……私だって貴方と一年間一緒に居たんだよ?
ねぇ……キョン……キョン……」
泣きながらそう問うて来る佐々木に俺はすっかり怒りは収まってしまっていた。
全く俺は何をやってるんだ。佐々木だって女の子なんだ。
女の子を泣かせちまって……俺は最悪だな。
だが……佐々木の問いに答えないわけには行かない。
「キョン……私は進学校に通っているのは知ってるよね?
そこでは皆勉強に追われていて、
誰一人心を許せる人も、
歩み寄ってきてくれる人はいなかった。
キョン……僕は臆病でね。
友人を作るほど器用じゃないんだ。
中学の時だってね。
君の方から声をかけて、
歩み寄って来てくれたから僕は君と親友になれたんだ。」
衝撃的な告白だった。
佐々木が新しい高校でそんな思いをしているなんて思っても見なかった。
佐々木は友人をつくるのが巧いと持っていたから、
俺は佐々木が俺の事なんか殆ど思い出さず、
新しいクラスメイト達と仲良く話したり笑ったりしているんだろうとおもっていた。
「キョン……さっきの質問の答えがまだだよ。
私には歩みよってくれるような人はもう……
九曜さんや橘さんや藤原さんくらいしか居ないんだ。」
優しい声で佐々木は俺に問いかけてくる。
佐々木……
「佐々木……悪いが俺は今まで俺は佐々木よりも、
SOS団の面子の方が大切に想っていた。」
佐々木は下を向いてびくっと動いたきり、
動かなくなってしまった。
「だがな……」
「もう良いよ……キョン……」
俺が続けようとした時に、
かぶせるように佐々木が言ってきた。
「もう良いんだ……下手な慰めなんかして欲しくなんかない。
私は勝手に生きるよ。」
人の話は最後まで聞け。それが訊く方のマナーってもんだ。
「いいか……俺は確かに今までSOS団の方が大事だった。
今も正直言ってそうだ。だがな……
まだ俺達には長い時間が有るんだ。
これからお前が一緒にいてくれれば、
お前の事だって大切になるに決まっているんだ。」
なぜかだって……?
そりゃあお前が中学3年生の時を俺と一緒に過ごした、
大切なパートナーだからに決まっているだろう?
「大切なパートナーか。また君は僕のほうに歩み寄ってきてくれるんだね?」
まぁ……早い話はそうだな。
「くっく……ありがとう。君のおかげでまた元気が出てきたよ。」
そういった佐々木はしばらく泣き続けていた。
佐々木がやんだ後、
俺は店員に生暖かい眼で見送られ、喫茶店を後にした。
「全く……酷い顔になってしまったものだよ。
幸い今日は両親が家に居ないからよかったものの、
もしも居たらなんと言われていたことだろうね。」
佐々木がそう話しかけてきた。
確かに佐々木の目は真っ赤だったが、
手で目をこすっていたなかったのが幸いしたのか、
腫れたりはしていないようだった。
それだったら明日には確実に治るだろうよ。
「そうである事を祈っているよ。」
なぁ……ところで佐々木……
「なんだ?突然。やっぱり友人になるのは止めるなどと言い出すのではないだろうね?」
そんなことは言わないさ。ただ……北高に来ないか?
「なんだって……?今なんて言ったのか良く聞き取れなかったようだ。」
いや……北高に来ないかって。
「君は正気かい?こんな時期に出来るわけないだろう?」
ああ、それについては大丈夫だ。問題ない。
こっちには小泉も長門もいるからな。
そのあたりはどうにでもなる。
「そうか……しかしそうなると涼宮さんが……いや……それはそれで面白いかもしれない案だ。」
何か悪戯を考えた子供のような顔をして佐々木がくっくとのどを鳴らしている。
「いいだろう……考えておくよ――」
そういった佐々木は心の底から楽しそうだった。
最終更新:2007年07月21日 08:26