「見ろよ、変態パワーじゃ解決しないこともあるんだぜ」
「キョン…」
「オイニーって言うな、俺の名前はキョンだ。
いいか、くそ。腹一杯で十分だ。もう沢山だ。
団長のご機嫌伺いが終わったかと思ってりゃ、今度はデパートの下着売り場で僕っ娘のご機嫌伺いだ。こいつは一体何の冗談だ?
「猪口才なことを、君が…」
「キョンだ!猪口才?ふざけんじゃねえぞ馬鹿野郎。テメェは何だよ、受験戦争の本場、有名進学校の生徒様じゃねえか。
それが何だ、口を開きゃ、胸ムネ胸ムネ言いやがって。
一流大学が目当ての受験生。なのにテメェは勉強そっちのけでバストアップのことばかり。ケツの穴が小せぇにも程があるぞ。
自覚はねぇのか?お前の頭の中にはよぉ!」
「奇麗事を言わないでくれ!君に私(貧乳)の何が分かる?何が分かるって言うんだい!
言ってみてくれ、君みたいな温室育ちに分かることを!どんな扱いをされてきたか分かるはずないんだよ!」
「そうだな、分かるはずがない。俺はお前じゃないからな。
じゃ、聞くけどよ、お前に俺の、何が分かるんだよ?
どんな暮らしをしてたって、生きてりゃそれなりに辛い目にも遭うもんだ。だろ?
そいつを理解するつもりも無いくせに、答えに詰まりゃ都合よく悲劇のヒロインかよ。それがお前の一番卑怯なところだよ」
「うるさい!都合よくも物を見てるのは君の方だ。
ここはね、君が憧れているようなハリウッドの安ピカレスクとは違うんだよ。何が自覚だ、舐めたことを言わないでくれ。
ここを見るんだ、どれをとってもBからDカップのブラばかりで、Aカップの可愛いブラなんてどこにも無いんだよ!」
「Aカップブラがねぇんなら、九曜の情報操作でブラを作ればいい!
変態パワーで胸を大きくするよりは、よっぽどマシな方法だ」
「……うるさい、うるさいチクショウ。本気で怒るよ」
「ああ、やれよ。犬みたいに同じところをグルグル回ってろ。
ここでキレりゃ、それがいい証拠になる」
「どうせなら胸を大きくしたかったのよ!」
佐々木の渾身のビンタ。
佐々木にビンタされても尚、キョンは佐々木を見つめ続ける。
その様子に気圧される佐々木。
「佐々木、忘れたか……俺がここにいる訳を。
うちの団長はな、神妙な顔で、俺の命(秘蔵のエロ本)を切り捨てた(中古本屋に売払った)。
はした金と自分たちが遊ぶ場所のモラルを守る為にな」
(それはキョンが悪いと思う。いくら保管場所に困ったからといって、部室にそんなものを持ち込むのは……)
「俺はお前に誘われた時、何かが吹っ飛んだ感じがした。吹っ切れた感じがした。
朝っぱらから強制ハイキングして、愛想笑いで頭下げて、学業成績に命張ってよ。
巨乳メイドが淹れるお茶と、万能読書宇宙人と一緒に行く図書館があれば世は事もなし。
そんな全部がどうでもよくなったんだ!
そいつを教えてくれたのは、
俺を呼んでくれたのは、
お前だ、佐々木。
俺がこんなに拘ってんのはな、そんな生き方に気付かせてくれたその女が、
俺を裏切った連中と同じ様にポニーを拒否し、未だにショートにしてやがる。
俺にはそいつが、我慢ならねェ!」
「くつくつ、何を言ってるのか分からないよ、キョン。
まったく、本当に面倒な人だね君は。いつか誰かに刺されるよ」
「馬鹿なのも苦労するのもお互い様だ」
「あの…」
「いや、君は僕の上をいく馬鹿だよ。保証してあげよう」
「そうかい」
「君に説教されるようでは、僕もまだまだ…」
「あの、すいません」
キョンと佐々木が声がする方を向くと、店員さんが泣きそうな顔で訴えていた。
「どうか、続きは余所でやってください」
二人は改めて周囲を見渡し、多数のギャラリーが自分たちに注目していることを知る。
そこからの佐々木の行動は早かった。キョンの腕を掴むと、あっという間にその場を後にした。