26-666「正夢実行計画」

「ところでキョン、君は正夢を見た事があるかい」
何だいきなり。お前の話題はいつも突拍子がないぞ。しかも放課後に残ってまでそんな話か。
「ああすまない。実は僕、今まで正夢を見た事がなくてね。先日テレビ番組で予知夢の存在を
取り上げているのがあったんだけど、編集があちこちになされていてどうにも胡散臭いものだ
ったんだ。だから存在の真偽をこうして君に聞いている訳さ。どうだい、君は正夢を体験した
事はあったかい?」
うーん、そうだなあ…なかったんじゃねえかな。そもそも、夢自体があんまり記憶に残らねえ
からな。たとえ起こった出来事をあらかじめ夢で見ていても、それを覚えてなかったりしてな。
「そうだね、夢で見たことは大抵殆どの記憶が残っていない。おまけにそれは恐ろしく主観的
な世界で、環境どころか時間軸すらも自在だ。数分に感じた夢も太陽が昇るに十分な時間が流
れていたり、逆に数日に感じる事もある。現実と交わる事も、それを覚えている事も非常に稀
だ。そんな中見た夢を珍しく覚えていて、おまけにそれが実現するんだ。予知夢と考えたくな
るのは無理もない。キョン、まったく夢とは不思議なものと思わないかい」
ああ、全く時間軸まで自在なんてデタラメな事は夢の中だけにしてもらいたいね。そんな具合
に現実を改変してみろ。ぞっとしねえぞ。
「……キョン? 何の話をしているんだ?」
「ああ、何か夢の世界を現実に持ち込めるような奴がいると困るなーって言う話だ」
それを聞いた佐々木はくっくっと喉を鳴らし、発想の飛躍っぷりが君らしい、と俺を賞賛した。


「……で、その、あれだよ、キョン」
なんだ? どうした?
「こ、ないだ思ったんだけどね、夢に見たことを実行すればそれは正夢になるんじゃないかな」
なんだそりゃ。そりゃあ、さっきの俺のぶっとんだ発想といい勝負だぞ。それじゃあ予知夢にも
ならんし、むしろ起こった偶然性に人は惹かれているんじゃないか。
「いいじゃないか。僕だって一度は正夢を見てみたいのさ。そ、それで一つ、キョンに協力をお
願いしたい」
話がどんどんややこしくなっている感じではあるが、ひとまず佐々木の話に乗ってみることにす
る。最近はフラグクラッシャーという、付き合いの悪い人間に対する揶揄もあるらしいからな
…え、違う? まあいい、それよりだ。
「俺は何をすれ「キョンは、そうだね、そこで目を瞑ってくれたまえ」
承諾の意見を聞く前に遮って話を続ける佐々木。なんだ、そんなに正夢を見たいのか?
「ほら、早く。目を……悪いようにはしないから」
お、おい、分かったから、そうせかすなよ。目を瞑って立ってるだけでいいんだな。
……ん、何だ、何をするっていうんだ。
俺は視界を伏せて、これから起こるであろう何かを待っていた。
「いくよ………ん…」
なんだ、口になにか…ってこれ…! まさか、お前!
目を開けると、佐々木が目の前に、いや、目と鼻の先にいた。唇などを重ねながら。
うわぁいちかいちかいささきさんくちびるやわらかいといきがこそばゆいせのびがかわいいとじ
ためのまつげがきれい ってちがう、何だ、何だこの状況!?
目を閉じたままするりと身を離すと、佐々木はいつも通りくっくっと笑って、
「済まない、驚かせてしまったね。こんなに実行しやすい夢を見たのは初めてでね。ああ、ふぁ、
ファーストなんとかというのだったならばノーカウントにしておいてくれたまえ。そう、猫に舐め
られた程度に思ってくれればいい。いいかい、他意はないからね、他意は。ではこれから急ぎの用
事があるので先に帰るよ、キョン。つき合わせてしまった埋め合わせは今度何かおごる事で許して
くれたまえ。では、失礼するよ。もう一度言うが他意はないからね」

そういうと、茫然自失とした俺を尻目に佐々木は足早に俺を残して去っていく。…あ、イスの背も
たれに膝ぶつけている。痛そうだが、それもどこ吹く風で教室を走って出て行った。

まあ、佐々木の言う事だからノーカウントと言ったらノーカウントなのだろう。あいつはそんな変
わったやつだ。間違っても恋愛に方向に期待はできない。それは精神病なのだから。
だがそれでも俺は…来たるべきセカンドを待ち遠しくする健康かつ健全な男子中学生なのだ。……そうか、
他意はないのか。やれやれ。…佐々木。

………はあ、はあ、…ああ…やってしまった。あれだけ他意はないと言ってしまうと他意があるように
しか聞こえないじゃないか私の馬鹿! しかも、もし夢は秘めたる欲求の発現である説もあることにキョン
が気付いたら……ああ……でも、非公式とは言えキョンの唇に…ああ、また顔が熱くなってきた、うん
頑張った私、よくキョンの前で赤面しなかった!
そういえば家にビールがあったな、今日は飲もう。こんな気持ち飲まずにいられない、だってノーカウ
ントとは言え初めてのキスがキョンと、あ、でもキョンは初めてだったのだろうか、調べによると男子
中学生の80%以上はまだだと、いやしかしこれは少女雑誌の曖昧な統計だ、信憑性にかけ(ry

以後、延々と佐々木さんの妄想と考察と反省とキョンのキス経験の有無に対する脳内議論が続く。

そして日は暮れる。

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最終更新:2007年12月29日 00:44
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