7-587「閨の睦言」

 長い一日が終わった。新婚旅行から帰ったばかりなので仕事がたまっている。俺は疲れた体をベッ
ドに横たえた。
「今度の日曜なのだがね、SOS団諸氏と鶴屋さん、喜緑さん、谷口君、国木田君を我が家にお招きする
ということでよろしいかな? お披露目パーティだ。キミにも準備買出し等で頑張って頂きたいのだ
が。晩婚化が進む中、結婚生活の良さというものを世間に知らしめてやろうではないかね。もっとも
彼らの中で早く結婚できそうな男性は古泉君くらいしかいないと思われるがね」
わが妻の申し様である。ハイ、仰せのとおりにいたしますだ、ってお前、結婚したんだからその口調
止めてくれないだろうか、どっちが亭主かわからんだろが。ついでに言えば、キョンって言うのも止
めてくれるとうれしいが。子供にまでそう呼ばれたら俺は生きていけない。
「あら、そうですか? ウフン、じゃあ、あなた、こういう方がよろしいかしら?」
きらきら輝く眼で俺を見る。なんつうか、もっと気持ち悪いぞ、佐々木。
「私はもう『佐々木』じゃあありませんことよ。名前で呼んでくださいませんこと?」
「……ちょっと時間の猶予をくれ、それはかなり恥ずかしい」
「ウフフッ、私は別に無理してるわけじゃなくってよ。女性とはいつも女言葉で話してたし、会社で
はこんな調子ですからね。むしろあなたと話すときのほうが無理してるのかもしれないわね」
まあ、お前に口で勝てるわけがないのはわかってるよ。
今度の日曜にこいつにどういう口調で友人連中と接してもらうべきか。それが問題だ。友人連中にお
ける俺たちの評価、ひいては俺の一生における俺の家庭内の地位を決定しかねない大問題かもしれな
い。うぉぉぉ、気が狂いそうだぜ。まあいい。ゆっくり考えよう。
「とりあえず、あとは言葉は要らない」
妻はなにもいわず、うなずく。俺は妻に体をあずけた。

(完)

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最終更新:2008年01月26日 23:32
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