「いつか見た空」
あぁ、綺麗な空だな。こんなに綺麗な空を見たのはどれぐらい久しいだろうか?
オレは今何をしている?頭の中がぼんやりしてうまく働かない。体は何かに
吸い込まれるように落ちていく感覚を訴えている。
見上げてみると真上からニコルが顔を覗かせオレに向かって何かを叫んでいた。
あぁそうだ、オレは戦車の中にいたヤツ――超重闘士グランドザウートを倒したものの、
想像以上に丈夫な身体を持つヤツは最後の抵抗として村に兵器の照準を合わせて・・・それをミラージュの衣の酷使、足りない分は自分の身体で無理やり軌道を逸らした末に崖から落ちたんだったか。
我ながら無茶をする。しかし村の皆、特にニコルに別状はないようで安心した。
気のせいか、前よりは顔色がよくなった気がする。オレにもしもの事があったら全財産はニコルの治療費としてあてがうように村長に言ってある。治療が上手くいってしばらくすれば普通の少年並みの生活が送れるだろう。そして目の前に今までのニコルとの
思い出が蘇る。オレは落下していく体はそのままに、意識はその思い出に触れる作業に集中させた。
オレは今何をしている?頭の中がぼんやりしてうまく働かない。体は何かに
吸い込まれるように落ちていく感覚を訴えている。
見上げてみると真上からニコルが顔を覗かせオレに向かって何かを叫んでいた。
あぁそうだ、オレは戦車の中にいたヤツ――超重闘士グランドザウートを倒したものの、
想像以上に丈夫な身体を持つヤツは最後の抵抗として村に兵器の照準を合わせて・・・それをミラージュの衣の酷使、足りない分は自分の身体で無理やり軌道を逸らした末に崖から落ちたんだったか。
我ながら無茶をする。しかし村の皆、特にニコルに別状はないようで安心した。
気のせいか、前よりは顔色がよくなった気がする。オレにもしもの事があったら全財産はニコルの治療費としてあてがうように村長に言ってある。治療が上手くいってしばらくすれば普通の少年並みの生活が送れるだろう。そして目の前に今までのニコルとの
思い出が蘇る。オレは落下していく体はそのままに、意識はその思い出に触れる作業に集中させた。
オレは幼少の頃からこの村の最大の使命――何か大切なものが祀られているという
森林を守る力をつけるため、父の元で日夜修行に励んでいた。
父は厳しい人で、一日も早くオレを一人前にしようと常に過酷な試練を課した。
実際何度か死に掛ける事もあり、いつかオレは修行で死ぬんじゃないかと考えていた。
だがある日突然、父が死んだ。いや、それまでに前兆はあった。激しい運動をすると
苦悶の表情を浮かべ、咳をして口元に手を当てると血が滲んでいた。
父は最後に今まで縛り付けてすまなかった、あとはお前の好きなようにしろ。
ただし、誇りだけは捨てるな…それだけ言い残して逝った。
当時はオレも若さ故に縛り付ける者がいなくなった、程度にしか考えない愚か者だった。
しばらくは修行の反動で何もせずに手に入れた自由を楽しむ日々が続いたが、
力を持ちながら代々受け継がれてきた使命を放棄したオレは村人達からは煙たがられるだけの存在でしかなかった。
居場所のなくなったオレは村を出ることを考え始める。どうせなら村から金品をかっぱらってやろうと画策し、手ごろな家を探すと二階の窓の開いた家を見つけた。
幸い姿を消す手段があるので忍びこんでしまえばこちらのもの、とオレは意気揚々として木の上に飛び移った。
だが、オレは『何故窓が開いているのか』については全く考えていなかった。そのため
「すごい…どうやったんです、今の?」
木に飛び移った瞬間、窓の開いた部屋の主と対面する事となった。
森林を守る力をつけるため、父の元で日夜修行に励んでいた。
父は厳しい人で、一日も早くオレを一人前にしようと常に過酷な試練を課した。
実際何度か死に掛ける事もあり、いつかオレは修行で死ぬんじゃないかと考えていた。
だがある日突然、父が死んだ。いや、それまでに前兆はあった。激しい運動をすると
苦悶の表情を浮かべ、咳をして口元に手を当てると血が滲んでいた。
父は最後に今まで縛り付けてすまなかった、あとはお前の好きなようにしろ。
ただし、誇りだけは捨てるな…それだけ言い残して逝った。
当時はオレも若さ故に縛り付ける者がいなくなった、程度にしか考えない愚か者だった。
しばらくは修行の反動で何もせずに手に入れた自由を楽しむ日々が続いたが、
力を持ちながら代々受け継がれてきた使命を放棄したオレは村人達からは煙たがられるだけの存在でしかなかった。
居場所のなくなったオレは村を出ることを考え始める。どうせなら村から金品をかっぱらってやろうと画策し、手ごろな家を探すと二階の窓の開いた家を見つけた。
幸い姿を消す手段があるので忍びこんでしまえばこちらのもの、とオレは意気揚々として木の上に飛び移った。
だが、オレは『何故窓が開いているのか』については全く考えていなかった。そのため
「すごい…どうやったんです、今の?」
木に飛び移った瞬間、窓の開いた部屋の主と対面する事となった。
オレは非常にマズイと思いすぐさま木から飛び降りようと身構えた。しかし
「待って!ウッ…待って、ください…」
そんなオレを必死に引きとめようとし、何故か苦しそうにする少年の表情がオレの興味を引いた。それは儚く、同時に美しささえも感じさせるような表情だった。
「ボクの、話し相手になってくれませんか」
「…何故、見ず知らずのオレにそんなことを?」
「ボクは小さい頃から病気で…友達もいないんです」
同じだ、オレと。妙な共感を覚えたオレは、することもないのでこの少年の願いを聞いてやる事にした。それが少年・ニコルとの出会いだった。
互いに孤独な者同士親しくなるのに時間はかからず、さまざまな事を語り合った。
そのうちこの少年のために何かしたいと考えたオレはその身体能力を生かし様々な芸を覚え、それを披露する日々が続いた。
「いいなぁ、ブリッツは。そんな風に動き回れるなんて」
「こんなの、修行を積めば誰でも出来るさ。何ならオレが教えてやってもいい」
「本当ですか!?…でも、残念だけど無理です」
「そんなにひどい病気なのか?」
「えぇ…ゴフッ!カハッ…」
「ニコル!」
「ご覧の通りです…ボクはもう何年も村の外を出たことはありません」
真っ赤に染まった掌を見せてニコルは自嘲気味に笑った。
その様子は何故だかいつかの父の様子と重なった。
オレは恥を忍んでニコルの病気について村人に聞いて回った。
そして導き出された答えは、オレにとってはとても単純で残酷なもの。
父と、同じ病気。それがニコルを苦しめるものの正体。
治すには莫大な費用が必要であることを知ったオレが動き始めるのにはそう時間は
かからなかった。オレが動いた理由は二つ。自分の力を認め、憧れまで持ってくれた
この少年を救いたいという願い。そして何よりも彼を救うことこそあの時父に何もしなかった自分が為すべきこと、そんなくだらない使命感。
「待って!ウッ…待って、ください…」
そんなオレを必死に引きとめようとし、何故か苦しそうにする少年の表情がオレの興味を引いた。それは儚く、同時に美しささえも感じさせるような表情だった。
「ボクの、話し相手になってくれませんか」
「…何故、見ず知らずのオレにそんなことを?」
「ボクは小さい頃から病気で…友達もいないんです」
同じだ、オレと。妙な共感を覚えたオレは、することもないのでこの少年の願いを聞いてやる事にした。それが少年・ニコルとの出会いだった。
互いに孤独な者同士親しくなるのに時間はかからず、さまざまな事を語り合った。
そのうちこの少年のために何かしたいと考えたオレはその身体能力を生かし様々な芸を覚え、それを披露する日々が続いた。
「いいなぁ、ブリッツは。そんな風に動き回れるなんて」
「こんなの、修行を積めば誰でも出来るさ。何ならオレが教えてやってもいい」
「本当ですか!?…でも、残念だけど無理です」
「そんなにひどい病気なのか?」
「えぇ…ゴフッ!カハッ…」
「ニコル!」
「ご覧の通りです…ボクはもう何年も村の外を出たことはありません」
真っ赤に染まった掌を見せてニコルは自嘲気味に笑った。
その様子は何故だかいつかの父の様子と重なった。
オレは恥を忍んでニコルの病気について村人に聞いて回った。
そして導き出された答えは、オレにとってはとても単純で残酷なもの。
父と、同じ病気。それがニコルを苦しめるものの正体。
治すには莫大な費用が必要であることを知ったオレが動き始めるのにはそう時間は
かからなかった。オレが動いた理由は二つ。自分の力を認め、憧れまで持ってくれた
この少年を救いたいという願い。そして何よりも彼を救うことこそあの時父に何もしなかった自分が為すべきこと、そんなくだらない使命感。
こうしてオレは今までつけた力を傭兵としての仕事に注ぎこんだ。
だが、その稼ぎは莫大な治療費に対してはあまりに小さかった。
全てを稼ぐ前にニコルが死んでしまう。そのことに気付いたオレは決して選ぶまいと思っていた道に手を出す事となる。他人の命を奪い、報酬を受け取る暗殺者。
そう。オレは他者を犠牲にニコルを救うことに決めたのだ。
やり始めてからは早かった。使命感が罪悪感さえも殺し、
オレの手はあっという間に真っ赤に染まった。
人を人と思わず単なる的程度。当然、誇りなどなかった。
それでも、たまにニコルの元へ帰る時だけは本来の心を取り戻した。
オレが毎月稼ぎのほとんどをポストに放り込み、ニコルの両親が遠慮なくそれを治療につぎ込むおかげで少しずつ良くなり、華麗なピアノの演奏を聞かせてもらった時は不覚にも涙が出た。
あの曲を聴くたびにオレは安らぎを手に入れ、さらに聴くためにもっと殺した。
他の者はこの事実を知ればオレを批判するだろう。
しかしどれだけ蔑まされようと、忌み嫌われようとオレはあの少年に夢を追いかけられる身体になって欲しかった。
そのためには手段を選ばなかったし後悔もしないつもりだった。例えその事がニコルに知れたとしても。
今は少しだけ後悔している。オレの戦いぶりを見た時、ニコルはどう思ったのだろうか。
やはりオレに恐れを抱いただろうか。それはあまり考えたくないことだ。
とにかく、無事に村に帰れたらもう殺しはやめて用心棒でもやろう。
どの道ザフトにも戻れないし戻るつもりもない。自分の病気を治すためにオレが人を殺めていた事実はニコルを傷つけるかもしれない。
だが、いつかは話そうと思う。その時が来るまでは彼を見守る。それが、今度のオレの為すべきことだ。もう人も、自分も殺さなくて済む。そう考えるだけで心の重荷がどこかへと行った気がした。
目の前には空だけが映る。ニコルと共に誓いを立てた、あの日の空と似ていた。
この誓いは嘘ではない、本当の気持ちだ。だから、オレは生きる。もう一度この空を見るために。
だが、その稼ぎは莫大な治療費に対してはあまりに小さかった。
全てを稼ぐ前にニコルが死んでしまう。そのことに気付いたオレは決して選ぶまいと思っていた道に手を出す事となる。他人の命を奪い、報酬を受け取る暗殺者。
そう。オレは他者を犠牲にニコルを救うことに決めたのだ。
やり始めてからは早かった。使命感が罪悪感さえも殺し、
オレの手はあっという間に真っ赤に染まった。
人を人と思わず単なる的程度。当然、誇りなどなかった。
それでも、たまにニコルの元へ帰る時だけは本来の心を取り戻した。
オレが毎月稼ぎのほとんどをポストに放り込み、ニコルの両親が遠慮なくそれを治療につぎ込むおかげで少しずつ良くなり、華麗なピアノの演奏を聞かせてもらった時は不覚にも涙が出た。
あの曲を聴くたびにオレは安らぎを手に入れ、さらに聴くためにもっと殺した。
他の者はこの事実を知ればオレを批判するだろう。
しかしどれだけ蔑まされようと、忌み嫌われようとオレはあの少年に夢を追いかけられる身体になって欲しかった。
そのためには手段を選ばなかったし後悔もしないつもりだった。例えその事がニコルに知れたとしても。
今は少しだけ後悔している。オレの戦いぶりを見た時、ニコルはどう思ったのだろうか。
やはりオレに恐れを抱いただろうか。それはあまり考えたくないことだ。
とにかく、無事に村に帰れたらもう殺しはやめて用心棒でもやろう。
どの道ザフトにも戻れないし戻るつもりもない。自分の病気を治すためにオレが人を殺めていた事実はニコルを傷つけるかもしれない。
だが、いつかは話そうと思う。その時が来るまでは彼を見守る。それが、今度のオレの為すべきことだ。もう人も、自分も殺さなくて済む。そう考えるだけで心の重荷がどこかへと行った気がした。
目の前には空だけが映る。ニコルと共に誓いを立てた、あの日の空と似ていた。
この誓いは嘘ではない、本当の気持ちだ。だから、オレは生きる。もう一度この空を見るために。
しばらくして崖の底で鈍い音が響く。それを聞いた者は誰もいなかった。
そしてこの後、ブリッツは。
そしてこの後、ブリッツは。