―大切な人がいる




焚き火の明かりには不思議な力がある。
友人と囲めばより心を開かせ、恋人とあたる炎は愛をも温める。
独りで向き合ったときは――

夜の砂浜に座り込み揺れる炎を見つめていると、今は隣にいない友人や仲間達のことが思い出される。
菊池啓太郎、木場勇二、そして園田真理
「……真理」
乾巧は、この夜空の下のどこかにいるであろう真理のことを思う。
鼻っ柱の強い女ではあるが、人が殺せるかと問われれば、おそらく無理だろう。
勝手に死なれたら、啓太郎に何と言えばいいのか。
見上げると、瞬く星々の間を縫うように火の粉が走っている。
今はただ真理がこの炎に気がついてくれる幸運だけを祈り、巧は考えるのを止めた。
乾いた木片が燃えてパチパチと音を立てる他は、ゆったりとした波の音しかない静かな夜。
どれほどの間、独り静けさに身を委ねていただろうか。
それを破ったのは、誰かが砂を踏む足音だった。

「……おい?どうしたんだ!?」
振り向いた先にいたのは、顔を腫らして血を垂らし、衣類は無残に切り裂かれた一人の少女だった。
「どうした?誰かに襲われたのか?」
反射的に巧は立ち上がっていた。濡れたジーンズにへばり付いた砂を払うようにしながら、少女に駆け寄る。
腰をかがめて少女の高さまで目線を落とし、その顔を覗き込んだ。
間近で見れば傷はずいぶん酷く、強い力で何度も殴られたようだった。
「おい、何とか言えよ?」
肩を掴んで軽く揺するが、少女は無言のまま。
ならば無理して喋らせることはない、そう考えた巧は、少女の手を引いて焚き火の傍に連れて行った。
「顔洗うなら、海水よりそっちのほうがいいぜ」
デイバッグからミネラルウォーターのボトルを取り出し、少女に渡す。
「……腹が減ってたら、そこの乾パン食っていいからな」
ボトルの水で、顔に貼りついた血と砂を洗い落としている少女の小さな背中に声をかける。その弱々しいシルエットから嗚咽が漏れるのが聞こえて、巧は目を逸らした。
「まぁしょうがないよな。いきなりこんなところに連れてこられて、
殺し合えとか言われても……現実感っていうの、ないよなあ」
少女に背を向けるようにすると、視界いっぱいに海と夜空が広がる。
少女に傷を負わせたのは誰か、その者が近くにいるのか、そういった心配もあったが、
一方でどこかほっとしている部分があるのも確かだった。
「まぁ、なんとかなるって」
海に向かったままそう言った後、暫く沈黙が流れた。

「すみません」
少女の声が自分のすぐ後ろでしたので、巧は驚いて振り向いた。
「わっ、あちっ」
火のついた木片を棍棒のように振り下ろす少女。背中に熱い火があたる。
衣服が海水を吸っていなければ、燃え移って大火傷をしていたかもしれない。
「やめろっ」
慌てて体をかわす。
「お前、あんな奴のいいなりになって、殺し合いすんのかよ!」
とても人殺しなんて出来そうもない少女が自分に襲い掛かってきたことに、巧は薄ら寒いものを感じた。
己が命を人質に捕られれば、人はこうも残酷になれるのか、と。
少女は喚きながら狂ったように木片を振り回す。巧はすんでのところで少女の手を掴み、押し戻した。
少女が半ば叫ぶように言う。
「それでも……それでも帰りたい場所があるんです!」
その声には再び嗚咽が混じり、怒りとも悲しみともつかない感情が篭っているようだった。

気が動転しているだけなのかもしれないが、少女は見た目に反してかなり力強く、
巧はつい本気で少女を突き飛ばしてしまった。
「痛っ!」
少女が砂浜に転げて、燃える木片がその手を離れた
「あ、悪いっ」
何とかしてこの少女を落ち着かせなければならないと思い、巧は木片を取り上げた。
ちょうどそのときだった。

 虫の羽音を低くしたような音とともに、砲弾のようなものが飛んで来て巧の手にした木片を弾き飛ばした。
木片は燃えたままバラバラに砕け、海へと落ちた。
「――おばあちゃんは言っていた」
海とは逆の方向から、男の声が聞こえてくる。巧と少女は声のする方へ視線をやった。
「男がやってはいけないことが二つある。
食べ物を粗末にすることと、女の子を泣かせることだ、とな」
男は喋りながら巧達の方へと近づいてきた。
暗さもあり遠目にはよく見えないが、声の感じや背格好からして、男は巧と同じくらいか少し年かさと思われた。
「その少女を殺すつもりだったのか?」
あまりにタイミングが悪かった。完全に誤解されている。
戸惑った巧が言葉に詰まる間も、男は歩みを止めなかった。
次第に距離が縮まり、焚き火が男の顔を照らしだす。
近くでみれば端正な顔立ちで、やはり巧よりはやや年長のようだった。
そして、何の根拠があるのか知らないが、男の表情や言葉には自信のようなものが満ち溢れていた。
「……だったら、どうだっつーんだよ」
ようやく口をついて出た言葉がこれだった。
素直に違うといえば、もう少しマシな展開になったのかもしれない。
しかし、巧は人付き合いに関しては本来的に不器用で、
初対面の相手にはつっけんどんな態度をとってしまう性分であった。
少女に対して優しい態度を取れたのは、相手が年少の女の子であったこともあるが、
何より巧自身の内なる不安と孤独に因るもので、言わば例外中の例外だった。
「知れたことだ」
男は超然とした態度を崩さずに巧の傍まで歩み寄ってきた。
「……へっ。やってみやがれ!」
焚き火を焚いたときから、襲われることは覚悟していた。
神崎とやらの言うなりに殺し合うかどうかは決めかねるが、降りかかる火の粉を払うことにはためらいは無い。
初めてベルトを手にしたときもそうであったように。

巧は右の手首を軽くしならせると、男に殴りかかる。
……が、男は巧の大振りのパンチを難なくいなし、逆に殴り返してきた。
もう一度殴りかかるが、今度はパンチを受け止められ、突き飛ばされる。
3度、4度と拳を振るっても、全て無駄のない動きで捌かれ、カウンターを入れられる。
巧も相当にケンカ慣れしているが、男の動きはもっと完成された体術のそれだった。
とうとう、男の蹴りが巧の腹を捕らえ、巧はもんどりうって倒れる。
このまま殴りあっても、勝ち目は薄い。ならば――

「お前を倒す前に聞いておきたいことがある」
砂浜に尻餅をついた巧を上から見据えながら、おもむろに男は言った。
「おいおい、気が早いんじゃねーか?」
巧は殴られた頬を軽く指でなぞりながら、失笑して男を見上げる。
日下部ひよりという女について、何か知らないか?」
「……知らないなあ」
名簿に目を通したとき、ひよりという名前があったような気はしたが、苗字は難しくて巧には読めなかった。
それよりも、やたら偉そうな男が女の心配をしていることが意外に思えて、幾分気が殺がれた。

「俺も聞いていいか?園田真理って女のこと、知らないか?」
殺がれついでに、巧も質問をする。
「……知らんな。その真理という女がどうかしたのか?」
巧は気がつかなかったが、そのとき男は少し眉根をひそめ、巧と少女とを交互に見比べていた。
「そいつに死なれちゃ寝覚めが悪いんでな。本気でやらせてもらうぜ」
巧は奥の手を使おうと、全身に力を込める。
体の表面にうっすらと黒い紋様が浮かび上がり――

「やめてください!」
それまで黙っていた少女が、突然大きな声を上げた。
「私が悪いんです。私がその人を殺そうと思って、焚き火の木で殴ったんです」
巧も男も、少女の方を見つめる。
「その人は、怪我をしていた私を助けてくれたんです」
「お前……」
巧は、少女の肩が小刻みに震えているのに気がついた。
しかしその言葉には、先刻より少しばかりしっかりした意志も感じられた。
「何故恩人を殺そうとした?」
男が少女に聞く。当然の質問だった。
答える前に、少女は二度三度しゃくりあげるように大きく息をした。
「どうしても帰りたい場所があるんです」
声は、震えていた。
「私には……私にも、会いたい人がいるんです!」
喉から搾り出すような叫びとともに、少女は砂の上に崩れ落ちた。
浜の真砂が、少女の頬からぽろぽろとこぼれ落ちる雫を吸う。

男は暫く少女を見つめて、何事か考えているようだった。
それからおもむろに向き直ると、
「どうやら俺の早とちりだったようだな。悪いことをした」
と言って、尻餅をついたままの巧に手を差し出した。
「だが、何故わざわざ誤解されるような態度を?」
「……人付き合いってやつが、どうにも苦手でね」
巧は男の手を借りずに立ち上がって、ジーンズの砂を払った。
「フン、なかなか面白い奴だ」
男は気を悪くするでもなく、むしろ微笑みさえみせて、行きどころを無くした手を収めた。
「アンタも、相当なモンだと思うぜ」
巧は男を一瞥してから少女の元へ行き、大丈夫か、と一言だけ聞いた。少女は小さくうなずいた。
そんな巧の背に、男が言葉を投げかける。
「お前にも、守りたい人がいるのか」
巧は、嗚咽が止まらない少女の背中をさすりながら、男を見やる。
「守りたいっつーか……勝手に死んで欲しくないだけだ。さっきも言っただろ」
「俺にも守らねばならない人がいる。そこの娘にも、会いたい人がいる」
「何が言いたいんだよ?」
男は小さく溜息をついた。それから、巧から顔を逸らし、焚き火を見つめながら続けた。
「手を組んでやる。1人で探すより、大勢で探した方が早い。
さっさとお互いの大切な人を見つけて、こんなくだらん殺し合いから抜け出すぞ」

男の言葉に巧は一瞬戸惑う。
真理を見つけることばかり考えていたが、その後のことは何も考えていなかった。
もし真理を見つけたとしても、最後の1人まで殺しあうならばいずれは――

「抜け出す……できるのか?あの神崎ってヤローは、妙な力を使うみたいだぜ?」
ある日突然知らない場所に集められたと思えば、今度は別の知らない場所へとワープさせられた。
正直言って、ここが日本なのか、外国なのかも分からない。
「それにこの首輪だって……」
指先でそっと喉元をなぞる。
いつの間にか体温に馴染んで忘れかけていたが、巧にも、男にも、少女にも、そして真理にも、例外なく首輪が嵌められている。
下手なことをすれば、あの男のように――飛び散った脳漿のことを思い出すと、口の中の唾液が苦味を増す。
しかし、男は涼しい顔で言った。
「俺が願うことは全てが現実になる。選ばれし者だからな」
「……やっぱり、アンタのほうがずっと面白いぜ」
どこぞの草加とは違う方向で偉そうだ。だが、ここまで突き抜けられると返って悪い気はしない。
ましてやこのような状況であれば、どこか勇気付けられる部分があるのも確かだった。
「首輪は何とかして外そう。そうすれば俺は時空さえ越えられる。仮にここが異次元でも、な」
「時空を越えるか。そいつはいいな」
途方もないことを事も無げに語る男を見て、巧は思わず口の端に笑いを浮かべていた。
そして、少女の肩に手を置いて、
「この子の帰りたい場所ってのにも、飛べるのか?」
と聞いた。
「当然だ」
「気に入ったぜ」
巧は男の言うことを全て信じたわけではなかったが、
 ――真理と一緒に啓太郎達のところに帰ることができるかもしれない――
そう思うと、どす黒いもやに覆われていた心に一筋の光明が差していた。
巧は、傍らの少女に声をかける。
「おい、帰れるかもしれねーぜ。元気出しな。名前、何て言うんだ?」
少女はようやく涙をすするのをやめ、腫れ上がったままの顔を2人に向けた。
「天美……あきらです」
「俺は乾巧だ。アンタは?」
巧に名前を尋ねられると、男は右手を掲げ満天の星空を指差した。
「覚えておけ。俺は天の道を行き、総てを司る男――天道総司だ」



【乾巧@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:海岸J-6】
【時間軸】中盤くらい
【状態】天道に殴られてややダメージ、服が濡れて気持ち悪い
【装備】ファイズドライバー
【道具】ミネラルウォーター×2(一本は半分消費) カレーの缶詰 乾パンの缶詰
【思考・状況】1:園田真理を探して合流する (草加は多分大丈夫的発想。)
       2:可能であれば、脱出して神崎士郎をぶん殴る
       3:脱出できるなら天道と手を組むのも悪くない

天美あきら@仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:海岸J-6】
【時間軸】中盤くらい
【状態】顔は腫れたまま、だいぶ落ち着いたがやや混乱気味。
【装備】破れたインナー・鬼笛・ディスクアニマルアカネタカ
【道具】ファイズフォン
【思考・状況】1:絶対に生き残る
       2:とりあえずは巧と天道についていく

天道総司@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:J-6 海岸】
【時間軸】ハイパーゼクター入手後
【状態】健康 至って冷静
【装備】カブトゼクター&ベルト
【道具】未確認 他食料など一式
【思考・状況】1:日下部ひよりの保護
       2:脱出して(首輪の解除とハイパーゼクターの入手)神崎を倒す
       3:乾巧の心根を気に入り、天美あきらには樹花を重ねている

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最終更新:2018年03月22日 23:33