不死者の奏でる狂想曲
「俺が朝ご飯を作ってきますから、皆で食べましょう」
そう津上が言い出したのは、俺達六人が上城君が眠る部屋に集まって
とりあえず全員が名前だけの自己紹介を終えた後、俺が情報交換を切り出そうと思った時だった。
てか、今がどういう状況か分かってんの?一応殺し合いの真っ最中よ。
「……先に情報交換を済ませた方が、良いんじゃない?」
「話ならご飯を食べながらの方が、はずむじゃないですか。
それに皆さん夜からずっと動き詰めで、お腹が減ってるでしょう?そんなんじゃ、いざという時動けませんよ」
いや、話がはずむ必要ってある訳?今の状況で情報より、空腹に気がいく人も居ないだろ。
「確かに、腹は減ってるな」
居たよ。この橘って奴も何考えてんだか。
「私は遠慮しておきます」
木野の方は、やんわりとだが断った。当然の判断だけど。
木野はさっきから俺達の誰かが動く度に、サングラスの奥から警戒の目を向けているのが分かる。
雰囲気から見ても一筋縄じゃいかない人物みたいだ。ま、俺も人の事は言えないか。
「あ、俺もここに来る前に朝食は済ませてきたんだよね。だから遠慮しておくよ」
俺も断りを入れる。本当はゲーム開始から何も食べてないけど、そこは角を立てない為の口実って事で。
「甘いですね~、朝食は一日の活力の源ですから、ちゃんと取らないとその日一日まともに戦えませんよ」
甘いって何が?朝食に対する認識がって事?お宅の殺し合いに対する認識よりましなんじゃない?
「へぇ~、じゃあ俺の分も頼むよ」
こいつアンデッドの癖に、大事な食料を消費する気?
「それじゃ早速作ってきますね」
仕方ない、津上には二人きりで聞きたい事があったし都合がいいかもしれないな。
「俺も手伝おう。えーと津上君って呼んでも良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
「俺はこの山小屋の周りを、見張っておこう」
橘が見張りに名乗りを上げる。
「あ、俺も見張りするよ」
キングも見張りに名乗りを……ってどういうつもりよ?
まあ橘は上城君同様キングがアンデッドだと知ってる訳だし、流石に子供騙しの策略しか出来ないキングに騙される事も無いか。
木野も油断の無い人間だから、この場で変にキングに対する警戒を促してあいつの機嫌を損ねない方がいい。
あういう手合いは気分次第で、極端な行動に走りかねない。
「じゃあ橘さん達はご飯が出来るまで、山小屋の周りを見張ってて下さい。
出来たらご飯を食べながら、皆で情報交換と今後の方針について話し合いましょう」
それだけ言うと津上君は、食糧庫と台所のある方に向かったので俺も後を追った。
いつの間にかあいつが仕切る形になったのは予想外だったが、何故かあいつに悪印象は無かった。
この山小屋は本当に大きくて、小さい食糧庫や台所も含めて複数の部屋がある。
津上君はその食糧庫の中をあさっている。
「まさかここにある食料を使う気?」
「ええ、この山小屋にはたくさん食料が有りましたから」
「毒が入ってるかもしれないだろ」
「でもどこにも毒入りとは書いてないですし、神崎さんなら黙って毒を入れたりしないでしょ?」
「俺達より先に来ていた奴が、毒を盛っているかもしれないだろ」
「袋や瓶に入っている食料しか使わないし、大丈夫ですよ」
俺はそれ以上何も言わないことにした。どうせ俺が食べる訳じゃないし、津上君も満更考え無しという訳じゃ無さそうだ。
「それじゃ北岡さんはこれを、キッチンまで運んで下さい」
そう言って津上君は、野菜の入った袋を渡してきた。
確かに俺はライダーよ、でも俺力仕事には慣れてないんだよな。
結局、俺は荷物持ちをさせられた。手伝うって言ったのは失言だったかな、どうもこいつといると調子が狂う。
津上君は吾郎ちゃん顔負けの手際で、料理に専念している。
「手伝うって言っといて何も出来なくて悪いね。実は君と二人で話したくてね」
「大丈夫ですよ、俺は料理は慣れてますから。それで話って何ですか?」
「君は木野と知り合いなんだよね、なら君も木野と同様に変身出来るのかな?」
わざと言葉の中に仕込んだ針を見せる。出方によって相手の人なりや木野との関係が分かる。
「ええ、俺もアギトに変身出来るんですよ」
間髪入れず屈託の無い返事が返ってくる、やはり調子が狂う。
「へえ、どんな
モンスターと契約したの?」
「契約?さあ……いつの間にか変身出来る様になったんですよ」
「木野って人も同じ感じなのかな?」
俺は津上君の腹を探る事を止め、情報収集に専心する事とした。
その後の津上君の説明で分かった事がある。
アギトという人類の言わば変異種が多数存在し、津上君や木野がそうである事。
またそれらを狙うアンノウンと呼ばれる、生命体が存在する事。
そしてこれではっきりした事もある。
それはこのゲームの参加者が、異なる複数の世界から集められたという事。
自他共に認めるスーパー弁護士である俺は、社会的に大きな事件や警察内部の情報にも詳しい。
そんな俺が自分の世界にあるアギトの存在や、アンノウンによる不可能犯罪を知らないでいる筈が無い。
上城君の説明と合わせて考えてみても、パラレルワールドの様に微妙な相違がある異世界から集められたとみて間違い無いだろう。
………ますますハードルが高くなった訳か。
どんな未知の敵が居るか分からない上、アンデッドになれたとしても元の世界に帰れないんじゃ仕方ない。
それに津上君の話の分には、木野はやはり油断のならない相手みたいだ。
味方に付けるにしても、少し腹を探った方がいい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺はいつか見た闇の中に閉じ込められている。俺が闇の奥を覗くと、闇も俺に話し掛けてくる。
―――俺を受け入れろ。
嫌だ!
―――生き残りたいなら、俺の力が必要だ
俺はもう、お前には頼らない!
―――俺を拒絶すれば、お前は死ぬしかない。
黙れ!俺は……俺は二度とお前に取り込まれたりしない!
―――死にたくないだろう……ブレイドのように。
何だと!?どういう意味だ!?答えろ!剣崎さんがどうしたって言うんだ!!?
「!?……あれ………ここは?」
「気が付きましたか」
目を覚ますと、うつ伏せになってベットの上に居た。
「あなたは気絶したまま、私達が居たこの山小屋に連れて来られたんですよ。
私は医者でして、ずっとあなたの治療をしていたんです」
俺が状況が掴めなくて呆けている内に、隣に居た男が説明してくれた。
「治療といっても火傷に障らないよう、楽な姿勢で寝かせて消毒と他に外傷が無いか調べただけですが。
心配しないで下さい火傷の他には特に外傷は診られませんでしたし、火傷もいずれ治まるものです」
男は落ち着いた態度で怪我の具合を説明し、俺の不安は幾分和らいだ。
「……そうですか、ありがとうございます」
俺は礼を言ったきり男が居るのとは反対を向いて、ベットに潜り込む。
多少不安は和らいだと言っても、とても誰かと話がしたい気分じゃない。
殺し合いの最中に気絶していたという事は、もし隣に居た男がその気になっていたら……
改めて思い返したら、ぞっとする。
アンデッドとの戦いも命懸けだったけど、それとは異質な殺し合いの恐怖。
それに、夢の中に出てきた闇とその声……
俺は克服した筈だ。幼い日の闇も……そしてあいつも………
「……放送はもうされたんですか?」
「ええ、一度だけですが」
「誰が死んだか教えて貰えますか?」
闇の奥からの言葉を思い出し、問いかける。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は山小屋の周囲を見回りながら、睦月の事を考える。
自分が睦月と会った最後の記憶は、あいつはカテゴリーAに乗っ取られていた。
カテゴリーキングである嶋さんを封印したが、その後姿を消した。
最初は頼りに出来ると考えたが今になって思い返せば、おそらく睦月はカテゴリーAに乗っ取られたままだろう。
だがその確証は無い、なんとか睦月の状態を確かめないと……
「……どう、異常無い?」
キングに声を掛けられ、思考を中断する。
「ああ………そう言えば君には睦月が世話になったな、礼を言うよ」
「睦月?……ああ、レンゲルの事ね。実はその睦月の事で相談があってさ」
キングは携帯の写真を、俺に見せる。
睦月の事をレンゲルと言い直したのが引っ掛かったが、写真を見たらそれどころでは無くなった。
「これは!?」
「……これ睦月が持ってた携帯なんだけどさ。この子に銃を向けてるライダーが、橘だって言うのは本当?」
明らかに年下の者に呼び捨てにされたのがさっきより引っ掛かったが、それより解決すべき問題が出来た。
「確かにこのライダーは俺だ。だがこれはこの少年が人を殺したからだ!」
「……ふ~ん、でも睦月は橘が危険人物で、ゲームに乗ってるって言ってたけど……」
「睦月がそう言ったのか!?」
「でも橘は危険人物に見えないし、睦月も様子がおかしかったから、確認の為に聞いてみたんだけど……」
間違い無い!これで睦月がカテゴリーAに乗っ取られている事がはっきりした!
「……あっ、ちょ、ちょっと待ってよ!! 」
俺はキングの制止も聞かず、山小屋の中に戻っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
やっと引っ掛かる人間が出てきたよ。
でもギャレンとレンゲルを戦わせる為には、もう一押ししないとね。
ただレンゲルは俺の顔を知ってるんだよな、どうしょっかな……そうだなあのカーテンの端を切って
大きさはこれ位でいいか、これをバンダナの要領で頭に巻いて……っと。
ずっと付けてるつもりも無いし、窓ガラスに写して見たら印象も変わってるし、まあこんなもんで良いだろ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「嘘だ!!あの剣崎さんが……剣崎さんが死ぬ筈が無い!」
ベットの上で、立ち上がる。
「落ち着いて下さい。傷に障ります」
「剣崎さんが死ぬ筈が無いんだ!だって……だってあの人は!」
「………」
「俺や橘さんがどれ程惑っても、あの人だけは何時も目の前で苦しめられている人を助ける為に、
揺らぐ事無く戦い抜いてきたんだ!……それに………あの人はもう人間じゃ……」
「成る程、嘘や間違いの可能性も否定出来ませんね」
男の言葉に、俺の気勢は止まる。
「私はちゃんとあなたに死亡者を教えました。それは他の人に確認を取ってもらえば分かります。
しかし主催者が我々を操作する為虚偽の情報を流したり、参加者が自分が死んだと偽装した可能性も有ります。
いずれにしても……」
男は椅子に座り直す。
「ここであなたが騒いで、確認出来る事ですか?」
俺もベットに座り直す。
「……すいません……あなたにこんな事を言っても、仕方ないですよね……」
俺は我ながら不安げに、手元のレンゲルバックルを見つめる。
大丈夫だ、俺はあいつに打ち勝った。
確かに今はカテゴリーキングもクイーンも無い。
だが今はもう嶋さん達の力を借りる必要も無い、あいつはもう居ないのだから。
―――ではお前は誰の声を聞いているのだろうな?
己の内から、何時か聞いた闇の声がする。
―――お前はいずれ俺を受け入れる、生き残る為にな。
黙れ、黙れ、黙れ!!
「睦月から離れろ!!」
耳障りなドアを乱暴に開ける音をたてながら、部屋に入るや否や橘さんはそう言い放った。
「……橘さん?」
「睦月、お前を拘束する」
俺は思わず身構える。
「な、なんなんですか!?いきなり?」
「安心しろ、殺しはしない。だが今はお前を指導している暇は無い。だから拘束する」
「そんな事言われて、安心出来る訳無いじゃないですか!訳を言って下さい」
「お前と化かし合いをするつもりは無い。睦月……いや、カテゴリーA!」
カテゴリーA―――その名で呼ばれた時、己の内であいつが笑った気がした。
「橘さん、さっきから何を言ってるんですか!?俺はもうカテゴリーAじゃないと知ってるでしょう?」
不安を隠しきれない俺は、レンゲルバックルを握り締める。
「睦月、バックルを俺に渡せ」
「嫌です!」
「何故だ?」
「今の様子のおかしい橘さんには渡せませんよ!」
「それを渡さないのなら、お前は自分が睦月じゃなくカテゴリーAだと認めることになるぞ」
「だから違うって言ってるだろ!!さっきからなんなんだあんたは!」
俺は不安と恐怖で増幅された苛立ちを、そのまま橘さんにぶつける。
「やっぱり橘は普段と違ってるんだ」
いつの間にかドアの前に立っていた、バンダナを巻いた少年が話に入ってきた。そして俺に携帯を投げ渡す。
その画面に写っていたのは、ギャレンが子供に銃を向ける写真。
「そのライダーが、子供を殺す所の撮ったんだけどね」
「違う!俺は殺して等…」
「何が違うんだよ!今もレンゲル……睦月から武器を奪おうとしてただろ」
橘さんの声に被せる様に、少年が話を続ける。
「そのライダーは変身が解けた後、橘の姿に戻ったんだけどさ……」
「お前、一体何…」
「その橘の姿から化け物に変化していったんだよな」
橘さんの声を遮り、更に話を続ける。
「大方この橘も、そいつが化けた偽者って所だろ」
そうか、こいつは橘さんじゃ無かったのか。
そうだ、俺は間違っていない。間違っているのはこいつだ!
「お前はカテゴリーAと組んでいたんだな……」
偽者が訳の分からない事を少年に言っている。
何時までも橘さんの声で喋りやがって、黙らせてやる。
「変身」
『OpenUp』
アンデットとの融合によるライダーへの変身が、妙に心地好い。
「睦月、お前を救う為には戦うしか無いようだな……変身!」
『TurnUp』
光壁を通り抜け、偽者はギャレンに変身する。
「変身出来たか……」
偽者がまた橘さんの声で訳の分からない事を言って、俺を苛立たせる。
―――ギャレンを殺せ。
言われなくても、やってやるよ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
上城君が眠る部屋がどうも騒がしいと思って戻ってきたら、何よこれ?
二人のライダーが睨みあってる。
片方はレンゲルで、もう片方は確かギャレンか。
木野は状況が掴めないといった様子で二人から離れているし、これはキングの仕業と見て間違い無い。
その証拠に似合わないバンダナをしたキングが、俺にこんな事を耳打ちしてきた。
「余計な口出ししたら、殺すよ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ライダーもそうでない者も、不死にあらざる者は皆
その部屋に入る限り異様な緊迫の中、膠着を余儀無くされた。
「出っ来ました!さあ皆さん、朝ご飯にしましょう!……どうしたんですか?」
否、一人だけ違っていた。
【
上城睦月@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:本編後。
[状態]:背中に大火傷。精神不安定。
[装備]:レンゲルバックル、ディスカリバー@カブト、携帯電話
[道具]:不明。
[思考・状況]
1:橘への対処。
※睦月は橘を偽者だと思っています。
【
北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:手負い。でも軽傷。
[装備]:不明。(袖口に隠し持てる)
[道具]:不明。
[思考・状況]
1:橘と上城君を何とかして止めよう。
2:ついでにキングにどう対処するか(こいつもう変身出来たっけ)
3:
木野薫に警戒する。
4:……城戸たちとでも合流してみるか。
リュウガについて何か分かるかもしれない。
5:橘を利用する。人数がある程度減るまでは優勝するかアンデッドになるかは保留。
【木野 薫@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:本編38話あたり
[状態]:肩、腕に加え、脇腹にサーベルの刺傷
[道具]:精密ドライバー、救急箱(元は岬ユリ子の道具)。
[思考・状況]
1:とりあえず状況を把握
2:自分の無力さを痛感している
3:力を得るために最強のライダーになる
※木野は時間軸のずれにより、津上のことを葦原の友人としか認識していません。
【キング@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:キングフォーム登場時ぐらい。
[状態]:健康。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:やっと面白くなってきた。でもここからどうしよう。
2:戦いに勝ち残る。まだまだ面白いものも見たい。
3:今は戦うつもりは無い。
【橘朔也@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:Jフォーム登場辺り。
[状態]:多少の打撲。ちょっと凹み気味。
[装備]:ギャレンバックル
[道具]:Gトレーラーの鍵
[思考・状況]
1:睦月を倒す。
2:剣崎の思いを継ぎ、参加者を神崎やマーダーから守る。
3:神崎を倒す。
4:仲間を傷つける奴を許さない。
※橘は2時間の変身制限には気付かず、自分の融合係数が下がったためと思っています。
また、時間的な差異からキングをアンデッドとは思ってません。
睦月がカテゴリーAに乗っ取られていると思っています。
【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:本編終盤。
[状態]:多少の打撲。
[装備]:カードデッキ(オルタナティブ・ゼロ)
[道具]:ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
[思考・状況]
1:さあ朝ご飯にしましょう……ってあれ?
2:元の世界へ帰る。
3:橘さんや木野さんたちと頑張る。
4:氷川、小沢と合流する。
※首輪の能力制限により、一日目のみバーニング、及びシャイニングフォームへの変身は制限されています。
※ドレイクゼクターは島のどこか、もしくは支給品として誰かに配られているかもしれません。
最終更新:2018年11月29日 17:09