燃えろ!炎の如く

「出っ来ました!さあ皆さん、朝ご飯にしましょう!……どうしたんですか?」
 緊迫した空気の中、場にそぐわぬ明るい声が響く。声を出した当人である津上翔一は、今の状況をまったく把握できないでいた。
(ギャレンに変身した橘さん。それと対峙するギャレンに似た緑色のアギト。それを遠巻きに見る北岡さんに、木野さんに、バンダナをしてるけどたぶんキングさん。
 ということは……緑色は上城さんかな。よかった気がついたんだ)
「上城さんですよね。よかった、気がついたんですね」
 自分の思いをそのまま口に出し、津上はレンゲルへと近づく。
「っ!離れろ、津上!」
 ギャレンはレンゲルと津上の間に入ると、レンゲルに蹴りを放ち、突き飛ばす。
「……やったな」
 レンゲルはレンゲルラウザーを構えるとギャレン目掛けて、突進していった。
「離れていろ、津上」
 津上にそう言い放つとギャレンもレンゲルに突進していく。
 振り落とされる三つ葉の刃。それをギャレンラウザーで受け止めると、空いた左手で腹に拳を打ち込む。
「睦月、教えてやる。カテゴリーAに支配されたお前では俺には勝てない!」
「うるさいッッ!」
 よろめきながらも、なお、ギャレンに立ち向かうレンゲルに、ギャレンは引き金を引いた。
 無数の銃声を轟かせながら、銃弾がレンゲルに撃ち込まれていく。
「ぐっ、くっ、くそっ!」
 溜まらずレンゲルは外へと飛び出す。だが、ギャレンはそれを追おうとせず、銃口を今度はキングへと向ける。
「ちぇっ、橘強いね。いや、レンゲルが弱いのかな?まあ、どっちでもいいけど」 
「次はお前の番だ。お前もアンデッドなんだろ!」
「確かにそうだけど。やめようよ、僕は戦うつもりはないんだから」
「うるさい」
 引き金を引くため、再度指先に力を込めようとする。だが、その腕を津上が止める。
「やめてください、橘さん。相手は子供じゃないですか」
「違う、こいつは……アンデッドだ」
 橘は津上に説明してなかったことを悔やむ。その隙をキングは見逃さなかった。
 キングは素早くディパックのひとつを掴むと窓から外へと出る。
「しまった。……津上、あいつは少年の姿をしているが、その正体はアンデッドと呼ばれる不死の生命体だ。
 そいつらを封印するのが、俺の使命なんだ」
 ギャレンが手短に説明すると、津上の手が緩む。ギャレンはその手を振り払うとキングを追い、窓から外へと出る。

――BLIZZARD――

 だが、その瞬間、機械的な音声と共に吹雪がギャレンへと襲いかかった。
「何!?うわぁぁぁ…………っ」
 正面からその攻撃を受けたギャレンの身体は凍っていき、徐々に声も失われていく。ギャレンラウザーからカードを抜くが間に合わない。
 やがて、ギャレンの身体は全てが氷に覆われた。
「油断するからだ」
 氷像となったギャレンを前に佇むレンゲル。
 レンゲルは逃げたわけではなかった。アンデッドである橘をそのまま放っておくつもりはない。チャンスを窺い、潜んでいたのだ。
「さすがだね、レンゲル」
 キングが木上から感想を述べる。既にバンダナの男がキングで、その正体がアンデッドであることを睦月は理解していた。
 だが、それでもなお、睦月はキングの言っていることが嘘だとは考えなかった。
 それは既に睦月の精神がスパイダーアンデッドに汚染されていることを示していた。
「ギャレンを倒したら次はお前の番だ」
 ギャレンに止めをさすため、レンゲルはレンゲルラウザーを大きく振り上げ、力の限り振り下ろす。

――カキン!

 だが、その刃は届かない。金属質な音が鳴る。刃がギャレンへと届くより先に、別の刃がレンゲルラウザーを阻んでいた。
 炎のように真紅に煌いた太刀。それを持つ男の右腕と胸の装甲もその燃え盛る闘志を示すかのように、紅く輝いている。
 頭部に大きく迫り出した金色の角を頂くその男の名は――仮面ライダーアギト・フレイムフォーム。
「橘さんに何をするんですか!」
「違う!そいつは橘さんなんかじゃない。邪魔をするなら、お前も殺す!」
 力押しは不利と見るや否や、レンゲルラウザーを、腕を支点に回転させ、下段から切り上げる。
「しまった!?」
 太刀――フレイムセイバーを跳ね上げられ、がら空きになるアギトの身体。そこにレンゲルは素早く突きを打ち込む。
 だが、アギトも負けてはいなかった。紙一重でそれを避けると、そのままレンゲルラウザーを脇に抱え、レンゲルの動きを封じる。
「はっ」
 間髪いれず打ち込まれる肘。続いて、アギトはレンゲルラウザーに沿うように間合いを詰め、フレイムセイバーの塚頭の部分でレンゲルの頭部を打ち据える。
「がっ!」
 溜まらず呻き声を上げ、後退するレンゲル。しかし、怯んではいられない。
 追撃を恐れ、痛みを堪えつつ、レンゲルは構えをとる。
 しかし、アギトはギャレンの氷像に右手を添えたまま、こちらへ向かってはこなかった。
 その態度がレンゲルを堪らなくイラつかせる。
「なめやがって!」
 再度アギトに挑みかかるレンゲル。
「ふん!」
 だが、レンゲルは突然の拳に、突き飛ばされることになる。
「木野さん」
 拳を放ったのはアナザーアギトへと変身を遂げた木野だった。
 敵を射抜く赤色の眼光。生物的なフォルムを残した緑色のボディ。羽根のように伸びた橙色のマフラー。
 その全てが木野というアギトの風格を表していた。
「助けに来てくれたんですか?」
 警戒を解き、アナザーアギトの元へと駆け寄るアギト。だが、そんなアギトに向けられたのは言葉ではなく、拳だった。
「ふん!!」
 反射的に身を翻し、避けるアギト。
「な、なにをするんですか、木野さん」
「アギトは俺ひとりでいい。俺以外のアギトは全て邪魔だ!」
 アギトの疑問の声に、アナザーアギトは冷徹に言い放つと、再度拳を振るった。


「ははっ、超サイコー」 
 キングは自分の引き起こした結果に満足していた。
 なぜ木野が津上を襲っているのか、そんなことはどうでもいい。キングにとっては面白いことが全てだ。
 自分が作った小さな疑念の種。睦月と橘という土壌に蒔いたふたつの種は芽を出し、花を咲かせ、津上と木野という土壌にも種を飛ばした。
 津上と木野が変身できたことには驚いたが、それは自分にとって幸運だったと言わざるを得ない。
 なぜならば、こんなに面白い光景を見ることが出来ているのだから。
「さ~て、北岡はどうするのかな~?」
 ちょこざいにも自分の企みを看破した北岡にキングは興味をもっていた。
 果たして北岡はこのゲームにどう挑むのか?それが楽しみでしょうがなかった。
「さあ、北岡、僕をもっと楽しませてくれよ」


「ちょっと、ちょっと、どうしたのよこれは?」
 風雲急を告げる展開にさすがの北岡も動揺を隠せない。
(ひとまず状況を整理しよう。えーっと、まずキングがなんか小細工して、上城くんと橘が仲違いをした。
 そこを津上くんが助けに入って、それを見た木野が津上くんを襲ってると……)
 そこで北岡は津上から聞いた話を思い出す。木野は以前アギトになって間もない頃、破壊衝動を抑えきれず自分たちと敵対したことがあったということを。
(つまり、今の木野はまた破壊衝動に負けて他のアギトを眼の仇にしてるってわけか。で、どうするよ、俺?)
 北岡は考える。上城も、橘も、津上も、木野も、助ける義理はない。そうなると、どう動くか決める要素は損得勘定、ただひとつ。
 生き残るために仲間は欲しい。と、なると誰の味方をするのが、一番得か?
(上城くんは利用しやすそうだし、一応、俺を助けてくれた恩はある。だけど、明らかに橘を殺そうと立ち回っていた。今の様子はどうもおかしい。
 橘も利用はしやすそうだが、なんというか得体の知れないところがある。信用するのは危険かも知れない。
 津上くんはいい奴そうではあるんだが、どうも俺のペースに持っていくには骨が折れそうなタイプだ。
 木野は……問題外だな。暴走する奴を手元に置くなんて、危険すぎる)
 ふと、木の上で楽しげに状況を観察するキングと北岡の眼が合う。
 すると、キングは挑発的ににやりと笑った。
 その態度に北岡は自分のこれからの行動を確定させた。
(どうだ、見ろ、凄いだろうってところか。まっ、確かにこの状況のきっかけを作ったのは素直に評価しようか。
 侮ってたよ、まさかこんなに爆弾揃いだとは思わなかった。いや、本当に凄い。これを収拾するのは不可能だろうね。
 ……俺以外だったらね)
 北岡はカードデッキを窓にかざす。窓に映ったデッキは鏡の中にベルトを生成し、自分の腰へと自動的に装着させる。
「変身!」
 左腕を構え、右腕を腰に、そして、デッキをベルトへと装填する。
 それと同時に鏡から生まれるライダーの鏡像。それが北岡に合わさると鏡像が実像へと変化した。
 緑色の身体に銀色の装甲を身に纏う屈強なる兵士――その名はゾルダ。
 変身した北岡にキングは一瞬驚き、また笑みを浮かべる。
 混迷を深めるライダー同士の戦いに、更にもうひとり加わる。それを考えると楽しみでしょうがない。そんな顔だ。
 だが、キングの期待は裏切られることになる。
 ゾルダはデッキから1枚のカードを取り出すと、マグナバイザーへと装填した。

――FAINAL VENT――

 その声に従い、地面よりゾルダの契約モンスター、マグナギガが召喚される。
 マグナギガの重みに小屋の床がギシギシと軋む。
「なんだありゃ?」
 窓から除くマグナギガの姿にキングは驚く。同時にキングの本能が危険を告げ始めていた。
「ごちゃごちゃしたのは嫌いなんでね」
 ゾルダはマグナギガの背中にマグナバイザーを差し込み、引き金を引いた。
 マグナギガの胸が開き、両足の砲門が展開する。
「ちょっ、ちょっと待って」
 キングが制止の声を上げるが、賽は投げられた。
 轟音と共にマグナギガから放たれる無数の銃弾、砲弾、ミサイル、光線。それらは小屋の壁をぶち抜き、辺り一面に次々と炸裂していく。
 倒れる木、立ち昇る炎と煙に響く炸裂音。時間にして数十秒の爆撃。だが、標的たちにはそれが何分にも、何十分にも感じられる。
「終わりだな」
 やがて爆撃が終わり、立ち込めていた煙が晴れていく。ゾルダは当然全員が倒れ伏せているものだと思っていた。
 だが、そこにはただひとり、立っているものがいた。
 巨大な角を持つ金色のカブトムシ。キングの正体、コーカサスアンデッドだ。
「ちっ、やるねぇ」
 ゾルダは素直に賞賛の声を送る。
 コーカサスアンデッドは爆炎の只中にいながら、その身体に目立った外傷は見られなかった。
 それもそのはず、ゾルダから攻撃を受けた瞬間、彼は盾を出現させ、自分に来る攻撃を全て防いでいた。
 爆炎の余波を多少は受けたものの、彼の装甲には問題ではない。
「とんでもないことしてくれるね。こいつらは仲間じゃないのかい」
「キング、お前は根本的なところを誤解している。俺が舌先三寸を駆使するのはそっちの方が楽だからだよ。
 仲間がいた方がなにかと便利だけど、仲間のために自分が犠牲になっちゃ本末転倒。必要以上に馴れ合うつもりはない」
「本当にとんでもないね。……でも、面白いよ」
 コーカサスアンデッドは笑い、ゾルダはさてどうするかと思案を再開する。だが、思考を遮る絶叫を上げ、立ち上がる男がいた。
「北岡ぁぁぁ!」
 その男とはレンゲルだ。レンゲルは攻撃の前から地面に伏せていたため、ダメージが浅かったようだ。
「お前、裏切ったな」
 恐らく今の話も聞いていたのだろう。レンゲルはゾルダを睨みつける。だが、ゾルダはその恨みの視線をかわし、飄々と言い放った。
「裏切るつもりはなかったんだがな。恩もあるし。だけど、今のあんたは変だ。
 慕っていると言っていた橘を殺そうとするし。もしかして、カテゴリーAに乗っ取られてるんじゃないのか?」
「うるさい!」
 挑発的なその態度にレンゲルはますます激昂する。
「お前も、カテゴリーKも、俺がみんな倒してやる」
「やめろ、睦月」
 レンゲルに掛けられる制止の声。レンゲルは声の主を探す。ゾルダとコーカサスアンデッドではない。津上と木野は気絶している。だとしたら、一体誰が?
 しかし、レンゲルにはもうわかっていた。自分が最も慕う男の声を間違えるわけがない。
「……橘さん」 
 睦月の視線にはギャレンの姿があった。だが、おかしい。
 ギャレンは氷に閉じ込められ、動くことはおろか、声など出せないはずだ。
「幻聴か?」
 疑問を解消するため、レンゲルはギャレンへと近づく。

――ぴちゃ

 数歩、歩みを進めたところでふと足元から音が聞こえる。反射的にレンゲルは視線を足元へと移す。
「これは……水?」
 レンゲルの足元には水たまりができていた。まるで風呂桶をひっくり返したかのような多量の水による水たまり。
 そして、その水たまりはじわじわとその範囲を広げようとしている。
「まさか!?」
 眼を凝らし、改めてギャレンを確認する。ギャレンを固める氷の表面からは水が浮かび、徐々に溶けていっていた。
 氷の中でギャレンがゆっくりとだが、動き始める。
「そんな、何故?」
 それはアギトの力だった。アギトはレンゲルと戦うために数あるフォームの中からフレイムフォームを選んだのではない。
 氷を溶かすため、ギャレンを助けるためにフレイムフォームを選んだのだ。
 フレイムフォームの右腕が真紅に染まっているのは伊達ではない。
 フレイムアームズと呼ばれる彼の腕は7000度の炎を生成し、バーニングナックルと呼ばれる彼の拳はその炎を自由自在に操る。
 わずかな時間ではあったが、その熱はギャレンの命に炎を灯すには充分な時間だった。
 ギャレンは左手に握ったカードをラウザーに近づける。
「させるか!」
 慌てて駆け寄ろうとするレンゲル。だが、それより早く、カードの効果が発動した。

――FIRE――

「うぉぉぉっ!」
 ギャレンラウザーによって真下に放たれた炎は、地面に当たり、火柱を巻き起こす。
 たちまち火柱はギャレンを包み込むと、氷を一瞬にして溶かす。
「嘘だろ」 
 巻き起こった火柱に、いやギャレンに気圧され、レンゲルの動きは止まっていた。
 当然だろう、自分の身体を自らの手で炎に包み込んだのだ。いくら氷を溶かすためとはいえ、ギャレンの身体はただでは済まない。
 その証拠にギャレンの装甲は所々が黒く焼け焦げていた。
 だが、ギャレンの言葉は力強いものだった。
「睦月、言ったはずだ。その弱い精神力がカテゴリーAに取り付かれる原因になるんだ。
 アンデッドの言葉に惑わされ、本質を見通す力がない今のお前ではレンゲルに変身しても操られるだけだ。
 カテゴリーAを抑えるためには本当に強くなるしかない」
「うるさい」
 脳震盪でも起こしたのか、頭がぐらぐらする。だが、自分が今やらなければいけないことは覚えている。
 脳内に響く声に従えばいい。

――タチバナヲコロセ

(そうだ、橘を殺す!)

――STAB――

 カードによって強化された突きをギャレンの心臓目掛けて打ち込む。
 だが、ギャレンは自ら体勢を崩すことによって、それを避けると、ギャレンラウザーにカードを読み込ませた。

――BULLET――

 うつ伏せに倒れようとする体を、腰を捻ることで仰向けに変える。
 ゆっくりと倒れていくなか、照準を定め、強化された弾丸を撃つ!撃つ!撃つ!
「っ、だぁっ!」
 先程、身体に受けた銃弾とは比べ物にならない破壊力。レンゲルは戦意を喪失しかける。
 だが、頭に響く声がそれを許さない。

――何をやっている!お前は最強のライダーだ!そんな奴に負けるんじゃない。

「わかっている!……わかっている」
「睦月、お前がカテゴリーAの声に、自分に打ち勝てない限り、俺には永遠に勝てない」
「うるさい、うるさい、うるさい」

――BITE――  ――DROP――

 手持ちにある最後のカードをお互いにラウザーへと通す。
 睨み合った二人は同時に空へと跳んだ。
「うわぁぁぁぁっ!!」
「睦月ぃぃぃぃぃぃ!!!」
 レンゲルは両足をコブラの牙に見立て、ギャレンを噛み砕こうとする。
 だが、ギャレンはレンゲルより高く、その頭上へと身体を跳躍させた。
 狙いを一転に定めて、渾身の蹴りを放つ体制を固める。
「っ……!」
 捻られた身体から生まれる回転力と上から下へと流れる重力、そして、ギャレン自身のキック力が加算されたつま先がレンゲルの脳天へと炸裂した。
 そのあまりの威力に脳を揺らされ、意識を失ったレンゲルは地上へと落下していった。
(睦月……)
 次いでギャレンも地面へと着地する。
 倒れ、変身が解けた睦月を見下ろすギャレン。その姿に喜びの感情はない。
「貴様ァ!」
 ふたりが戦うことになった全ての原因。コーカサスアンデッドにギャレンは銃口を向ける。
「残念」 
 放たれた銃弾を盾で防ぎ、一気にギャレンとの間合いを詰める。
 そして、腕を振り上げると同時に剣を出現させ、ギャレンの身体を切り上げた。
「ぐわぁぁっ!」
 ギャレンも限界だったのだろう。その一撃でギャレンの変身は解除され、橘の姿へと戻る。
「無理しない方がいいよ。いくら自分のカードだって言ったって、炎に耐えられるわけじゃないんだから」
 コーカサスアンデッドは橘を一瞥すると、気絶している睦月を担ぎ上げた。
「北岡、ここで別れようか。北岡と一緒にいると楽しそうだけど、もっと楽しそうな奴らがいっぱいいそうだしね。
 とりあえず、次はこいつで楽しむよ」
「ま、待て!」
「またね、北岡」
 橘の制止の声も聞かず、そのままコーカサスアンデットは睦月を抱え、去っていった。
「くっ」
 首を垂れ、自分の無力さを悔いる橘。その時、どこからか声が聞こえた。
 その声は女性によるもので、戦いの無意味さと希望を持つことの大切さを訴えていた。
「どこに行くつもり?」
 いつの間にか変身を解いた北岡が声を掛ける。
「この声の元に行く。きっとこの戦いの無意味さを感じた人たちが集まってくるはずだ」
「その身体じゃ無理だよ。それに……」
 一発の銃声が声を遮る。
「それに、もう行っても無駄さ。世の中、あんたみたいな善人ばかりじゃない。むしろ悪人の方が多いんだ。
 自分の位置を不用意に知らせるなんて、殺してくださいって、言ってるようなもんだ」
 北岡は淡々とそう告げると、うなだれる橘に肩を貸し、立ち上がらせる。
 聞こえてくるのは、自分の無力さを痛感させる音ばかり。
「まあっ、大丈夫さ。悪人の方が多いけど、それに対抗する馬鹿も大勢いるのが世の中だ」
 続いて、聞こえてきたのは女性を助けに来た男の声。そして、男は変身し、キックホッパーと名乗る。
 そのやり取りに橘の険しい顔はわずかに和らぎ、北岡はどこか自嘲じみた笑みを浮かべる。
「ほらね。今はゆっくり休むことだ。この声のおかげで血の気の多い奴らはみんなそっちに向かうだろうからさ」
(こいつは俺を励ましているのか?)
「お前は敵なのか?味方なのか?」
 北岡の行動に、橘は疑問を投げかける。
「んっ?さっきの聞こえなかったのかい。俺は自分が一番かわいいのさ。俺自身が生き残るためにはなんでもやるよ。
 とりあえず、今生き残るためには仲間を増やした方が得だろ?」
 その答えに橘は半ば呆れながらも、今はその男の肩を借りなければならない自分に閉口するしかなかった。
 口を閉じた橘を、納得したものと思った北岡は小屋へと運び、続いて、津上、木野の順に運ぶ。
 ただし、木野はいつ暴れだすかわからないため、首にしていたブランド物のネクタイを紐代わりに、腕を柱に縛りつける。
 一連の作業を追え、北岡は肩を叩き、首を回す。
「はぁ~、疲れた。俺、肉体労働は向いてないんだよね」
 早々にゾルダの変身を解いたことを少し後悔しつつ、手近な椅子に腰をかける。
(さてと、これからどうするかね。考えることは山ほどある。キングは楽しむことが目的っぽいから上城くんを殺そうとはしないだろうけど、何かやらかすつもりだろうし。
 橘を利用するのは少し難しくなった。木野は暴走するし、津上くんはよくわからないし。とりあえず、しばらくはここにいても大丈夫だろうけど)
 これからのことを考えていた北岡の視界に、机の上に並べられた料理が入る。
 幸いなことに壁は破れたものの、マグナギガに守られたおかげで調度品のほとんどは無事だった。
 机に並べられた料理も問題はなさそうだ。
(そういえば、腹が減ったな)
 朝食はいらないとは言ったものの、殺し合いの最中とはいえ、やはり減るものは減るものだ。
(上手そうだし、いただくか)
 北岡は手近にあったシチューが盛られた皿を手に取り、スプーンを使い、口へと運んだ。
(……美味い)
 わずかな時間で出来上がったことから考えて、恐らくレトルトだろう。
 だが、なにか隠し味を加えたのか、そのシチューはとても美味かった。北岡の秘書、由良吾郎にもひけを取らない。
(いい腕してるじゃない。津上くん)
「俺も、喰ってもいいかな?」
 思わず笑顔になったその顔に惹かれたのか、橘が北岡に声をかける。
「いいんじゃないか。人数分あるみたいだし」
 橘はその答えを聞くと、北岡の向かいの椅子に腰をかけ、スプーンを手にした。
 そのまま、男ふたりでガツガツと食べ始める。
 続く殺し合いの中で、ふたりはわずかな幸福を得た。
北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:手負い。でも軽傷。2時間変身不可。
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)、不明(袖口に隠し持てる)
[道具]:ディスカリバー@カブト、不明(睦月のもの)、配給品一式×3(自分とキングと睦月のもの)
[思考・状況]
1:とりあえず一休み。2時間は動かない方がいいだろう。
2:橘と津上と木野をどう扱おうか?
3:……城戸たちとでも合流してみるか。リュウガについて何か分かるかもしれない。
4:人数がある程度減るまでは優勝するかアンデッドになるか、とりあえず脱出を目指すかは保留。
※エンドオブワールドによって、小屋の壁は破壊されています。外からも見えます。

【橘朔也@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:Jフォーム登場辺り。
[状態]:多少の打撲と火傷。極度の疲労。ちょっと凹み気味。2時間変身不可。
[装備]:ギャレンバックル
[道具]:Gトレーラーの鍵(キングが持ち去った可能性があります)
[思考・状況]
1:今は休み、自分と津上の回復を待って、これからの行動を考える。北岡にどう対応しようか?
2:剣崎の思いを継ぎ、参加者を神崎やマーダーから守る。
3:神崎を倒す。
4:仲間を傷つける奴を許さない。
※橘は2時間の変身制限には気付かず、自分の融合係数が下がったためと思っています。
 睦月がカテゴリーAに乗っ取られていると思っています。

【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:本編終盤。
[状態]:気絶中。多少の打撲。EOWによるダメージ。2時間変身不可。
[装備]:なし
[道具]:カードデッキ(オルタナティブ・ゼロ)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト (両方ともキングが持ち去った可能性があります)
[思考・状況]
1:気絶中。
2:木野さんがまた敵に?
3:元の世界へ帰る。
4:橘さんたちと頑張る。
5:氷川、小沢と合流する。
※首輪の能力制限により、一日目のみバーニング、及びシャイニングフォームへの変身は制限されています。
※ドレイクゼクターは島のどこか、もしくは支給品として誰かに配られているかもしれません。

【木野 薫@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海A6エリア】
[時間軸]:本編38話あたり
[状態]:気絶中。肩、腕に加え、脇腹にサーベルの刺傷。EOWによるダメージ。2時間変身不可。
[道具]:救急箱。精密ドライバー(キングが持ち去った可能性があります)
[思考・状況]
1:気絶中。手はネクタイで柱に縛り付けられています。
2:津上=アギト。アギトは俺ひとりでいい。
3:自分の無力さを痛感している
4:力を得るために最強のライダーになる

【キング@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海B7エリア】
[時間軸]:キングフォーム登場時ぐらい。
[状態]:健康。2時間変身不可。
[装備]:なし
[道具]:誰か(津上or木野or橘)のディパック
[思考・状況]
1:あ~、面白かった。
2:今度はレンゲルを使って遊ぼう。
3:戦いに勝ち残る。まだまだ面白いものも見たい。
4:今は戦うつもりは無い。
5:北岡に興味。しばらくしたら、また会おう。
※キングは誰か(津上or木野or橘)のディパックを持ち去りました。誰のディパックだったかはお任せします。

上城睦月@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:朝】
【現在地:樹海B7エリア】
[時間軸]:本編後。
[状態]:気絶中。背中に大火傷。頭部に打撲。その他、身体に軽傷多数。カテゴリーAに取り込まれかけています。
[装備]:レンゲルバックル、携帯電話
[道具]:なし
[思考・状況]
1:気絶中。カテゴリーAに精神汚染中。
2:北岡、津上、橘、木野全員に怒り。
※睦月は橘を偽者だと思っています。
※睦月は禁止エリアの情報を得ていません。
※睦月のディパックと支給品は小屋に置き去りにされています。

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最終更新:2018年11月29日 17:18