Round ZERO ~ Clown RESOLUTION ~

 神代剣は、サングラスをかけた、男の死体を見下ろしていた。
 彼はその男を知っていた。いや、知識として持っていた。
 カテゴリーJ、上級アンデッドと呼ばれ、剣崎の先輩である橘を翻弄した強敵、伊坂ことピーコックアンデッドである。
 何故不死である彼が人の姿のままでベルトのバックルを開き、倒れているかは知らない。
 だがチャンスであると悟った彼は、コモンブランクをベルトに落とした。
 カードが身体の上に落ち、光を放ちながら吸い込まれていく。
 死体が消え、ダイヤのJが神代の手に収まる。
(これで目的の一つは果たした。禁止エリアになる前に去るとするか)
 禁止エリアと呼ばれた場所に足を踏み入れた理由はただ一つ、残されたアイテムの回収である。
 加賀美との戦闘を終え、時間の猶予があるうちに、禁止エリアの放置されたアイテムを回収しようと思ったのである。
 頂点に立ち、全てを無かったことにする為。誰もが笑って暮らせる世界を創る為。
 そのためなら手どころか心を汚すことさえ躊躇わなかった。
(俺はカ・ガーミンを殺している。後戻りは出来ん。……だからこそ、俺以外を幸せにする!)
 決意を胸にその場を後にしようとしたとき、天よりそれは響いた。

『みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!』
 驚き、声が聞こえたほうを向く。
(放送? ……いや、拡声器か何かか?)
『殺し合えって言われたからって、人を殺すなんておかしいよ!』
 少女の訴えが胸を突く。
(そうだ、おかしいな。だがな、ショ・ミーンの少女よ……)
『帰りたいから殺すの? 守りたい人がいるから殺すの? ただ殺したいから殺すの? 怖いから殺すの?』
(俺は償いの為に殺す道を選んだんだ。引き返す気はないんだ……)
『そして何も力が無くて脅えている人! 私もそうだった!』
 その言葉に驚愕する。こんな目立つ真似をすれば狙われるのは誰だって分かるはずだ。
 なのに、放送の少女は何の力も持たないと言う。命を懸け、少女と同じ不安を抱える人々を勇気付ける為に訴えを続けている。
『ファイズは、仮面ライダーは……闇を切り裂いて、光をもたらす!』
 その高貴な行いに、彼は、神代剣は目眩を起こした。加賀美に負けないほどの高貴な振る舞いを、何の力を持たないショ・ミーンの少女が行っているのだ。
 無関心を抱けるはずがなかった。しかし、神代の心地よい陶酔を無粋な銃弾が引き裂く。
 一瞬の間をおき、少女の高貴な振る舞いが汚されたことに気づいた。
 憤怒の表情が浮かび、怒りの歩みを丘へ向ける。高貴な振る舞いは、誰にも汚させてはならない。
 どうせ数を減らさなければならないなら、少女を殺すような殺戮者を手にかけてもいいはずだ。
 どんな道を歩もうと、神代剣の本質は仮面ライダーだった。

 そんな彼の足を止めたのは、一筋の光だった。
『俺は闇を切り裂き光をもたらす、仮面ライダー! キック! ホッパァー!!』
 その言葉に耳を疑うが、ザビーとなった矢車を見た事を思い出した。
 声からして、別の誰かを資格者として認めたのだろう。
 認めた相手が闇を切り裂くと言っているのは意外だが、すぐに思い直す。
 もとより資格条件なんて曖昧だ。ただゼクターが気に入るか否か。
 ドレイクやサソードなど、ワームすらも主として選ぶ。それだけのことだ。
 だからこそ、少女を守ろうとするものに力を与えたホッパーゼクターを称えてやりたかった。
 踵を返し、市街地へと戻る。あの場に自分の出番がないのは充分分かった。
 少女の高貴な振る舞いに応えるのは、親友の血で汚れた自分ではなく、闇を切り裂き、光をもたらす仮面ライダーであるべきだからだ。
(新しいキックホッパーよ。もし逢うことがあるのなら、決闘を挑もう。正々堂々と、一対一で!)
 今は道は交わらないが、自分とキックホッパーの資格者では戦うしか道はない。
(ショ・ミーンの少女よ。君の高貴なる振る舞いは受け取った。俺が頂点に立ち、君が夢を追いかけられるような世界を創って見せる!
それまではキックホッパーの胸に抱かれていてくれ。俺は……)
 地面を強く踏みしめ、前を向く。剣の柄を強く握り、地面を抉り火花を散らせる。
(神に代わって剣を振るう男、神代剣だ! 神に代わって、全てを救う!)
 少女の放送を糧に、決意を強める。彼に迷いなど芽生えるはずがなかった。


 ――SWORD VENT――
 ビルの窓より剣が回転し、龍を模した黒衣のライダーが掴む。
 上段より振り下ろされる刃を、カリスは自分の刃で受け止めた。
 甲高い金属が交わる音が静かな市街地に十数度響く。
 カリスはこのままでは埒があかないと判断し、後方に飛び退きながらカリスアローの矢を放つ。
 ――GUARD VENT――
 黒龍のライダー、リュウガは盾でカリスの攻撃を防ぎながら突進する。
 距離が一、二メートルまで近づき、盾を投げつけてきた。
 盾が視界を遮り、焦る。
 甲高い金属音を立て、リュウガは横一文字に剣を振るい、盾を吹き飛ばしながら斬りつけた。
 自分の胸に、傷が刻まれ緑の血が噴出する。
 ――STRIKE VENT――
 続けて龍の頭を模した拳がカリスに重い衝撃を与え、距離をあける。
 漆黒の龍がリュウガの後ろに舞いながら現れる。
 充分距離があるはずなのに、まるでカリスを殴るように拳を突き出す動作を起こす。
 動作の終わりと同時に、黒い炎が龍より吐き出され、カリスに迫った。
 ――Tornado――
 カードの絵柄が光となりカリスの身体に吸収される。カリスアローより風が巻き起こり、炎の軌道を僅かに逸らす。
 炎が地面に直撃して爆発が起こる。身を焼きながら壁に身体を叩きつけられ、血を吐き出す。
 悠然と近付くリュウガに技を放とうと、カードを手に取ろうとするが、腕が振るえ地に膝をつく。
 目の前には剣を構えこちらに近付く黒衣のライダーがいた。
 切り札の一枚、ジョーカーに姿に変え迎え撃とうとする。
(俺は終わるわけにはいかない!)
 救うべきものがいる。蘇らせねばならぬ者がいる。
 唯一つの願いに縋る様に、まだ炎に包まれている身体を無理矢理起こす。
(ジョーカー……あの姿になる事を、俺は躊躇しない!)
 咽元に迫るすっぱい感覚を無視し、自らが嫌悪する破壊の力を降臨させようとした。

「ウェェェェェイ!!」
 聞こえるはずのない声に、動きを止める。
「大丈夫か!? 始!!」
 青い装甲、銀の角、赤の瞳、自分を守らんと剣を振るうその姿、それは彼の知る剣崎一真そのものだった。
(何故お前が生きているんだ? お前は……もう逢えないはずだろ……?)
 混乱し、つい本来の姿に戻るのを止めてしまう。身体に痛みが走り、膝をつく。
「キサマ……」
 リュウガが呟き、剣を払う。
 しかしブレイドは受け止め、刃を滑らせ当て身をくらわせる。
 バランスを崩したリュウガの腰にミドルキックをかまし、二枚のカードをブレイラウザーにラウズする。
 ――Slash・Thunder――
 ――Lightning Slash――
「ハァァァ……ウェェェ――――――ィッ!!」
 雷を纏いし刃が、下段から上段にかけ、リュウガを払い身を躍らせる。
「ぐぅぅ……」
 帯電し、動きが止まる。そのときを狙っていたようにカードをラウズする。
 ――Mach――
 電子音が響き、ブレイドに抱えられる。
 朦朧とする意識に、懐かしい感触に身を委ね、カリスから始へと姿を変えた。


「逃がしたか」
 淡々と呟くと、ガラスが砕け散るように黒龍の鎧が弾ける。
 禁止エリアから逃れるように踵を返し、市街地を進もうとする。
「誰か!! 私を助けてくれ!! ドラス!! 私を助けてくれぇー!!」
 声が聞こえ、振り返る。腕も脚も使えず、身体で這いずり、命乞いをするだけの望月に軽蔑の視線を送る。
 見るに耐えないと言わんばかりに近付いた。自分の姿を見てヒッと恐怖に満ちた呟きをもらしている。
「今楽にしてやる」
 拳銃、デザートイーグルを向け、引き金に指をかける。
 静かな住宅街に雷鳴のような音が轟か――――なかった。
(何故だ! 何故撃てない!!)
 フラッシュバックするのは銃を撃たれ無残な姿を晒していた女性の死体。その光景が、リュウガを躊躇わせていた。
 舌打ちし、望月の腹を蹴る。蛙が踏み潰されたような声が聞こえ、僅かに眉を顰める。
「あと一時間もすれば禁止エリアになる。それまで残りの短い生を噛み締めるんだな」
 心とは裏腹に冷徹な声で吐き捨て、その場を後にする。
 漆黒の龍が去った後には、死を待つのみの男が取り残されたのみだった。


(私は死にたくない!)
 生への執着心を持って、身体で這いずり回る。砂利によって擦り傷が生まれ、血が滲む。
(ドラスに会えれば助けてもらえる。ドラスと合流さえすれば……)
 地面を這いずり進むと、肩に固い感触に当たる。
 ゴミ捨て場より、壊れたオルゴールの箱が落ち、静かな音を奏でる。
 旋律が、望月博士の心を刺激した。

 ――宏、音楽を聴くと優しい気持ちになれる。

 自分が、愛する息子に教えた言葉が浮かぶ。
 箱と同じように旋律も壊れて、音が飛び飛びに演奏される様はまるで今の自分のようだ。
(私の望みはネオ生命体が進化の頂点に立つことだ。人間を抑え、決して間違わない完璧な生命体を作る。
……それだけを願って麻生君を無理矢理改造し、ドラスを作り、今は自分が救われることしか考えていない。宏、駄目な父親ですまない)
 自嘲の笑みが顔を支配し、身体を仰向けにする。消耗した体力ではそれが精一杯だった。
(放送の少女など、私のような人間にも希望を与えようと命を懸けた。なのに私がしたことといえば命乞いだけだ……)
 首輪から甲高い音が鳴り響き、テンポを速めていく。もう自分は終わりらしい。
 そう悟ったとき、再び拡声器を通した声が聞こえた。
『……俺は自分の願いを叶えます! こんな戦いをぶっ壊して、みんなを必ず救い出します。
だから、真理ちゃんが言っていたように希望を捨てないでください! 勇気を持ってください! 正しく生きることを諦めないで下さい!』
 麻生が正義を貫く宣言をしている。少し前の自分なら、彼の決意を馬鹿にし、ドラスを探す方に意識をやっただろう。
 だが今は違う。音楽と昔の自分を取り戻した彼は、麻生の決意に満足気な微笑を浮かべた。
「麻生君、私が無理矢理与えてしまった力を正しい方向に使ってくれてありがとう。そして私はもうお終いみたいだ。
願わくば、この殺し合いを壊して宏の事を守ってくれ。私のことは恨んでくれて構わない」
 音が一際高くなり、最期の時が迫る。万感の想いを込めるため、肺を空気で満たす。
「宏、愛している」
 己の汚さも、悲しさも、優しさも含んだ笑顔を浮かべ、首を爆発に飛ばされる。
 しかし、博士として生き、父親として最期を迎える男に、死の恐怖はなかった。


(今度はキックホッパー……麻生という奴が拡声器を使っているのか)
 聞こえてくる放送にリュウガは眉を顰める。脚を丘に向け、麻生の元へ向かおうとする。
 だが疑問が浮かび、足を止めた。
(行って、俺はどうしようというのだ?)
 もちろん、殺し合いを加速させる為、丘に集まるお人好しを一網打尽にするべきだ。
(あそこに集まる連中を殺すのが正しいはず。なのに俺は……あの少女の願いを叶えたいと考えているのか!?)
 ガラスに亀裂が入るように、リュウガの心に迷いが生まれる。
 鏡を彷徨い続けたライダーは、苛立ちを壁にぶつけた。
(クックック……俺も焼きが回ったものだ)
 血が滴る拳に、狂気を復活させんと、痛みと共に握り締める。
(俺は虚像の存在。人としては存在できない。人と交わることは出来ない)
 心に虚無を満たして歩みを確かめる。先程、殺し損ねた男のいるところへ視線を向ける。
(殺すべきだったな。俺は何を迷ったんだ?)
 自分を嘲笑い、市街を回る事を決める。
(ここは人が多いはずだ。なら、次に会う奴を殺す!)
 その中に城戸真司がいる事を望み、歩みを再開する。
(待っていろ! 城戸真司!! お前を見つけ、俺は俺を取り戻す)
 漆黒の龍が殺戮者としての心を取り戻せるか、鏡だけが知っていた。


 眠っている始の横顔を、剣崎に姿を変えた神代が見つめる。
 先程、助けに入ってしまったのは自分でも予想外の行動だった。
 キックホッパーが勝ったことに祝福し、街を歩いていると剣がぶつかる音が聞こえ、そこに足を運んだ。
 黒龍の戦士と、剣崎の親友である始、カリスが戦っていた。
 戦いの様子を見るだけにしておこうとするが、焦燥が胸を支配していた。
 カリスが追い詰められ、死を運ばれんとする。
 突如身体が物陰から飛び出し、剣崎に姿を変え……いや、剣崎が現れ、始を助ける為にブレイドに変身したのだ。
 撤退し、今は適当な民家に身を隠している。
 ――頼む、君が何を目的にしているは知っているが、今は俺に……始と話をさせてくれ!!
 剣崎の意思が自分に話しかける。先程は不意を突かれて主導権を取られたのだ。
 だが、神代が少し気合を入れただけで消えてしまう危うい魂の欠片でしかない。現に、今の主導権は神代が握っている。
 しかし、神代は剣崎を消さなかった。
 高貴なる振る舞いは汚してはならない。明日夢を見逃したのも、剣崎をそのままにしたのも、その信念の元だ。
 だから神代は決めた。
(始は俺が殺す。だが、その前にお互い積もる話しでもするがいい)
 身勝手なのは百も承知だ。それでも、一度だけは剣崎と始の友情に決着をつけさせたかった。
 剣崎に偽善者と罵られる事を覚悟する。彼の命を奪ったのは、他ならぬ自分だからだ。
 なのに……
 ――ありがとう
 剣崎は、礼を言っていた。
(何を言ってるんだ? お前を殺したのは俺だぞ)
 ――それでも、言いたいんだ。それにあの時はお互い様だ。
 そのお人好しさに溜息を吐いていると、先程のキックホッパーの訴えが聞こえてくる。
 ショ・ミーンの少女の名が真理である事を知った。真理の話で出た麻生という青年が、キックホッパーの新しい主なのだろう。
 真理に応えようと決意を精一杯伝える麻生に、自分は反対の答えを返すしかないとはいえ、笑顔を浮かべる。
 再び始に顔を向け、死人と対面させる為、一時的に剣崎に身体を譲った。
(本当にいいのか?)
 剣崎が尋ねるが、神代の答えは決まっていた。
 ――自分の中に他人がいるなど溜まらん。早く用事を済ませろ。
 剣崎の微笑が自分に向けられ、背中が痒くなる。
 始が起きるまで、それから一時間を要した。


『始、お前は人間の中で生きろ』
 そういい残し、唯一無二の親友は消えた。
 どれほど行方を捜したか分からない。再会をどれほど望んだか分からない。
 その親友が姿を見せ、自分を救った。
『待ってくれ! 剣崎!!』
 暗闇より去っていく背中を掴む為、腕を伸ばす。

 かけられていた毛布を跳ね除け、自らの手が何かを掴んだ。
「どうしたんだ? 始」
 剣崎の腕を捕まえたまま、昔と変わらない穏やかな笑顔を向けられた。
 幻でないことにホッとするが、一つの疑問が脳裏をよぎった。
「剣崎、何故お前は放送で名前を呼ばれたんだ?」
「俺にも分からない。死に掛けたんだが、それを勘違いしたとは考えにくいし……」
 剣崎が頭を捻っている。その様子に、一つの推理が頭に浮かんだ。
(俺が誰も殺してないからそんな真似をしたのか?)
 自分はジョーカーとして参加したが、南光太郎はしぶとく生き残っていたらしく、まだ一人も殺していない。
 そんな自分に業を煮やし、偽の情報を流したのかもしれない。
(くだらない真似をする。次は天音ちゃんを使って俺を脅すか?)
 殺意を孕み、表情が獰猛になる。
(神崎士郎。もし天音ちゃんに何かあったらただではすまさない!)
「始、どうしたんだ?」
 声をかけられ、ハッとしながら表情を戻す。
「なんでもない。少しこの殺し合いについて考えていただけだ」
 剣崎なら殺し合いを止めるために動いているだろうと考えて、無難な答えを返す。
「ああ……そうか。何とかしないとな」
 言葉を濁しているのを意外に思う。真っ先に殺し合いを止める事を提案すると思っていたのだ。
 ――もっとも、剣崎は殺し合いに乗り、敗れた為何も言えずにいるだけなのだが。
「俺はそろそろ行こう」
「一緒には行けないのか?」
「ああ、少しやることがある。それが終わったらまた逢おう」
 再会を約束し、剣崎に無言で頷かれる。立ち上がり、二人はドアの側に立つ。
 剣崎が何かを口にしようと決意しているのが見えた。それを待ちながら、疑問を持つ。
(俺はこいつの親友として足りうるんだろうか……)
 人質をとられたとはいえ、自分はゲームに乗っている。アンデッドである負い目と合わさって、自己嫌悪が始を蝕んだ。
「始、これだけは言っておく。俺はもう二度とお前を封印しない。必ずな」
 その剣崎の言葉に眼を見開く。剣崎は自分を救うためにアンデッドになり、封印しない道を選んだ。
 二人の別離のきっかけ、それを剣崎が間違えるはずがない。
(それなら……こいつは誰なんだ?)
 脳裏に浮かぶのはティターンの引き起こした争い。あの時は四人のライダーが組んで撃退をした。
 そうしなければならないほど敵の擬態能力は高かった。
(そんな奴が参加しているというなら……剣崎は……もうっ!!)
 放送が真実の可能性が高い為、絶望が破壊をもたらすアンデッドにやってきた。
「どうしたんだ? 始?」
 剣崎の仇が、声をかけてくる。
(そんなに可笑しいか? 道化のように友との再会を喜んだ俺を……! 剣崎の姿を使って!!)
 希望の後の絶望、悲しみを怒りの炎に変え、ベルトを顕在させる。
「変身!」
 ――Change――
 ベルトのバックルにハートのAを通す。
 驚きの表情をする剣崎……いや、驚く演技をしている剣崎の偽者に、刃を振るう。
「何をするんだ! 始!!」
「黙れ! その顔で……その声で喋るな!」
 激しい怒りが全てを切り刻む。
 参加者の中にティターンのような能力を持つものがいるのは意外だった。
 しかし、原因が分かったところで、始の怒りが収まるはずはない。
(よくも剣崎を……!!)
 姿を現せと嵐のように剣を振り回す。だが一向に剣崎の偽者は姿を変えない。
「うおおおおおおおおおおお!!」
 悲痛な叫びを上げ、怒りの刃を振り下ろす。
 剣崎の偽者を引き裂き、血を飛ばさんと迫らせた。
 無残な最期を見るために、敵を見つめる。
 相手の目には、自分を信じる瞳があった。

「何故避けない」
 剣崎は頭に寸止めされている刃を、ただ微笑んで見つめていた。
「信じていたから。始なら、絶対止めてくれるって」
 カリスが戸惑うのが見える。これが、他のワームであるのなら、結果は違ったであろう。
 剣崎の意志は強いとはいえ、完全にワームを抑えるほどの力は持たない。剣崎の意思を抑え、生存本能を優先させるワームが大多数だろう。
 だが、神代は違う。彼は、始を信じ無防備になる剣崎の気持ちも、剣崎の仇をとらんと怒りに燃える始の気持ちも理解できた。
 神代は、自分と姉の絆を、自分を育ててくれたじいやとの絆を、親友である加賀美との絆を、ライバルである天道との絆を知っていた。
 絆を知る数少ないワームの一人ゆえに、二人が殺しあうことは無いと信じて命すらも剣崎に委ねたのである。

「すまない。何に怒っているか分からないけど、これだけは言える。
俺は、始と二度と戦いたくない。始がこの殺し合いに乗ったのなら、きっと何かあると思う。
天音ちゃんに何かあったかもしれないし、アンデッドの宿命を終わらせたいと思っているかもしれない。
それなら俺の命を持っていってくれ。始なら、後悔しない」
 そう言い、剣崎が佇むのが見え、確信が胸に宿る。
(こいつは……剣崎だ。間違えるはずがない。俺のために命を捨てていいと言って、行動に移す奴は剣崎以外の何者でもない!)
 カリスは後悔する。誰でもない、剣崎を疑ったのだ。
(だが俺はお前に応えれない。ジョーカーである俺は……!!)
 悲痛な想いがカリスを支配する。
(だから剣崎。お前は少女の言う光の道を行け。俺は!)
 別れのカリスアローを剣崎の足元に放つ。火花が散り、剣崎が身を伏せる。
「俺と戦え! 剣崎!!」
「何でだ! 始ぇぇ!!」
 再びカリスアローを放つ。剣崎の頭上を通り、水槽タンクを貫いた。
 圧力により、水槽タンクの水が噴出し、二人に降り注ぐ。
 剣崎が懐からダイヤのJを取り出した。
「伊坂は俺が封印した。残るアンデッドは君とキングだけだ。出来れば君とは戦いたくない!」
「戦うことでしか……俺とお前は語り合うことが出来ない!!」
 お互い、何時か交わした言葉を告げ、迫る。悲痛の表情を浮かべ、剣崎がブレイドバックルを取り出した。
 カテゴリーAを収め、腰をカード状の帯が一周する。剣崎が右腕を突き出す。
「変身!」
 両手が入れ替わり、右手でバックルを回転させ、スペードの意匠を正面へ向ける。
 ――Turn Up――
 青いゲートが現れ、自分に進むように潜ってくる仮面ライダーブレイドの剣を受け止めた。
「やめろ! 俺たちが戦うことなんてないんだ!!」
 訴えを無視し、蹴りを腹にくらわせる。
 続けて刃を煌めかせ、銀の装甲に切り傷を幾筋も走らせた。
「どうした! その程度か!! いくらお前が手加減しても! 俺は、容赦はしない!!」
 身体を弾き飛ばし、銀のアーマーに拳を三発当てる。
「戦え! でなければ俺はここの人間を殺す! 仮面ライダーとして、人を救うんだろ! 止めて見せろ! 剣崎!!」
 剣をなぎ払い、突き飛ばすが、ブレイドは地面を踏みしめ、その場に留まる。
「何でこんな事をするんだ!?」
「所詮俺は、アンデッドってだけだ!!」
 その言葉に立ち尽くすブレイドを、悲しげな赤の瞳が見つめた。

「所詮俺は、アンデッドってだけだ!!」
 剣崎の耳に、聞きたくない言葉が入る。
(アンデッドの本能に負けて殺し合いを続けているのか? 俺はまた始を封印しなければならないのか?)
 全てを諦め、神代に全てを委ねようと気力を失わせていく。
 だが、そんな彼を誰よりも許さない存在がいた。
 ――諦めるな! 剣崎!!
 悲しみに心を満たしている剣崎に、神代が怒りと優しさを込めた思いを伝える。
 ――始が本心で言っているわけがないだろう! 天音を救い、人類を救った男が!!
 一言一言に、腕に、脚に、気力が充実する。
 ――カ・ガーミンが言っていた! 仲間なら、何度でも道を正すと!
 神代を通して加賀美の言葉が、剣崎の心を刺激した。
 ――だから戦え! 封印の為ではなく、カ・ガーミンのように仲間のために!!
 地面を飛び、上段より剣を振り下ろす。カリスが受け止め、鍔迫り合う。
「やる気になったか!」
「違う!! お前を止める気になったんだ!!」
 ――そしてお前の親友を救え。何よりも変えがたい、友情という財産なのだから!!
(ああ! もちろんだ!!)
 剣と刃が数度交差し、お互いの拳が右胸をつく。
 たたらを踏む二人は、一瞬の停滞の後、猛然と突進する。
 舞うような拳の連打を捌き、カリスの顎に強烈なアッパーを食らわせた。
 カリスは後方に吹き飛ぶが、受身を取って体勢を立て直す。
「俺を救う気でいるなら無駄だ。俺はアンデッド、ジョーカーだ!!」
 カリスは叫び、二枚のカードを取り出す。
「お前は人間、相川始だ!!」
 応えるように、自分も二枚のカードを取り出した。
「……剣崎。決着をつけよう」
「決着はつかない。俺は二度とお前を封印しないからだ!」
 二人のカードが、ラウザーに読み込まれていく。
 ――Drill・Tornado――
 ――Kick・Thunder――
「「おおおおおおおおおおおおお!!」」
 二人の雄たけびが重なり、顔を発光させる。
 ――Spinning Attack――
 ――Lightning Blast――
 風を纏った回転キックと、雷を纏ったキックがぶつかる。
「剣崎ィィィィィィィィィ!!」
「始ェェェェェェェェェ!!」
 風と雷の嵐が民家を、ビルを、ガラスを砕き、瓦礫を作り上げていく。
 力の拮抗が爆発音を上げ、破壊を続けるもお互い譲らない。
 だがそれは勝つ為でなく、お互いを思いやっての拮抗だった。
 だが、剣崎が僅かに押される。友を封印した記憶が流れ、力を充分込めれないのだ。
 ――何をしている。これでは始を止めるどころか、アリ一匹止めれないぞ!
(だけど……始を封印したくないんだ……)
 ――だが気合を込めて、本気でいかねば始は止めれない。
(分かっている。分かっているけど!)
 ――叫べ。
(え……?)
 ――迷って力が入らないなら、叫べ! あの言葉を!
(……お前の親友の技をか?)
 ――ああ、少しは気合が入るだろ!
 気を引き締め、息を吸い込む。その瞬間力が少し抜け、カリスの蹴りにまた押される。
 だが、剣崎と神代、二人の準備は整っていた。
「ライダァァァァーーーーキィィィック!!!」
 ――ライダァァァァーーーーキィィィック!!!
 二人の想いが、蹴りに乗せられ、エネルギーを膨れ上がらせる。
 均衡を失い、行き場を失ったエネルギーの暴発が起こる。
 お互いの姿を見失うほどの距離を二人は吹き飛んだ。
 煙が晴れ、粉塵が舞い落ちきった後には、ただ廃墟が広がるだけだった。


(……無事のようだな)
 カリスから始へと変わり、身体の痛みで意識を覚醒させる。
 デイバックは近くに落ちており、あの爆発と共に吹き飛んだようだ。
 中にある首輪探知機が動く事を確認し、震える脚を無理矢理立たせる。
(俺がすべきことは決まった)
 静かな炎が、男の胸を包み込む。
 続けて後戻りする気の無い歩みを進める。
(剣崎を優勝させる。そのために俺は……全て殺す!)
 最早、親友は亡き者となっている事を知らず、悲しくて、皮肉な決意を固めてしまう。
 自分が対面したのは死者と知らず、道化として殺し合いを求め歩いた。
 しかし、道化の運命を歩ませたものは……


 剣崎の意思がスゥッと消えていくのが分かる。
 ――本当に、ありがとう。
 もともと、親友である始に逢ったことにより、剣崎の意識が一時的に強まったにすぎなかった。
 始との邂逅が終わり、剣崎の魂は知識と力を残し、神代の身体より出て行った。
 自分が、また剣崎に逢えるかは分からない。だが、心を満たしているのは一つの疑問だった。
「何故だ! 何故自分の高貴なる振る舞いを汚そうとする!? 何故自分に自棄になっている!?
始は、剣崎と共に新しい世界で幸せに暮らすべきなんだ! 手を汚すのは俺だけでいいはずなんだ!! なのに何故……」
 今の始は、自分と似ている事を神代は知らない。
「相川始! お前を見つけ出す! そして、その手を汚す前に俺が殺す!! 俺が汚させはしない!! 待っていろ!!」
 サソードヤイバーを杖代わりにして無理矢理身体を起こす。
 結果的に道化の道を歩ませた貴族は、道化を笑わず、ただその心を救うために殺すことを選んだ。


 道化と貴族、二人は同じ道を行く。
 振り返らぬ決意を乗せて。


【望月博士 死亡】
残り36人
【リュウガ@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地D-6】
[時間軸]:劇場版登場時期。龍騎との一騎打ちで敗れた後。
[状態]:健康。
[装備]:コンファインベント。
[道具]:ファイズショット。デザートイーグル(357マグナム)。
[思考・状況]
1:もう一人の自分と融合し、最強のライダーになる。
2:ジョーカーの役目を果たす。

【相川 始@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地E-6】
[時間軸]:本編後。
[状態]:全身に負傷。腹部と胸部に切傷。中程度の疲労。二時間カリスに変身不能。
[装備]:ラウズカード(ハートのA、2、5、6)。首輪探知機(レーダー)。
[道具]:未確認。
[思考・状況]
1:剣崎を優勝させる。
2:ジェネラルシャドウを含め、このバトルファイトに参加している全員を殺す。

【神代剣@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地E-4】
[時間軸]:スコルピオワームとして死んだ後。
[状態]:全身に負傷。中程度の疲労。始に憤り。二時間ブレイドに変身不能。
[装備]:サソードヤイバー。剣崎の装備一式。
[道具]:陰陽環(使い方は不明)。ラウズカードのスペード9&10。ダイヤのJ。
[思考・状況]
1:始と再会し、手を汚す前に自分の手で殺す。
2:この戦いに勝ち残り、ワームの存在を無かったことにすることで贖罪を行う。
3:さらに、自分以外が幸せになれる世界を創る。
[備考]神代は食パンを「パンに良く似た食べ物」だと思ってます。

※剣崎と神代剣両方の姿に切り替えることができます。
剣崎の記憶にある人物と遭遇しそうなら、剣崎の姿に切り替えるつもりです。

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最終更新:2018年11月29日 17:27