トレジャーハンター睦月
彼の眼の前に広がるのは闇ばかりだった。
彼は闇など望んでいない。されど、闇は彼を放さない。
一度は闇を切り裂きながらも、再び闇に溺れる彼は光を掴めるのだろうか?
風にそよぐ、草木の音を聞き、睦月は目覚めた。
頭が痛い。眼の焦点が定まらないのは寝起きのせいばかりではないだろう。
「俺は一体何を……」
橘さんの偽者に向かっていったことまでは覚えている。
だが、その後、自分がどうなって、どうしてこんなところにいるのか、思い出せない。
(北岡さんたちはどこにいったのだろうか?)
「やっと、気がついたみたいだね」
自分の頭上から掛けられた声に睦月は顔を上げる。生い茂った木々の上にそいつは立っていた。
「お前は……カテゴリー
キング!」
不敵な笑みを浮かべ、こちらを見下ろすのは、自分が封印すべき敵――アンデッド。
その中でも上級に位置するこいつは、人間に擬態する能力を持っている。
本来はカブトムシのような姿をしているが、今は自分と同年代ぐらいの青年の姿だ。
アンデッド時の体色と同じ色をした黄金色の髪と、それとは対照的な銀色のアクセサリー。
一見すると小柄で、弱そうに見えるが、その細い眼から覗く眼光は獣の鋭さを確かに持っている。
睦月は
キングを睨み付ける。相手がカテゴリー
キングとはいえ、怯えてはいられない。
「おいおい、そう構えるなって。僕は戦うつもりはないよ」
「うるさい。お前を封印して、俺はもっと強くなる」
懐からレンゲルバックルを取り出し、蜘蛛が描かれたクラブのAのカードを装填する。
バックルから出力される無数のカードがたちまち睦月の腰に絡まり、そのバックルをベルトへと変えた。
手を額へと翳し、光を遮る。あたかも光を嫌う闇のライダーへと変身することを証明するかのように。
「変身」
―Open Up―
開かれたバックルから放たれる長方形の光。それをくぐり抜けることでレンゲルへの変身は完了する。
光は自動的に睦月へと向かうとそのまま睦月を……
「うわっ!」
弾き飛ばした。
「あははっ、なにやってるのお前?も、もしかして、融合係数が下がっちゃったとか?」
変身に失敗した睦月がよほど愉快だったのだろう。
キングは爆笑する。
その笑い声に睦月は憤慨し、反論した。
「違う。2時間経ってなかっただけだ」
「にじか~ん?なんだよ、それ。どんな言い訳だよ」
「この首輪のせいで一度変身したら2時間は変身できないんだ!」
ふと、
キングの顔が真剣さを取り戻す。
(そういえば北岡の奴、最初に会ったとき、僕をアンデッドの姿にさせたがってたな。そういう意味があったのか)
合点がいったのだろう。自分の考えに何度かうなずく。
そんな
キングを睦月は憎々しげににらむと踵を返した。
「おい、どこへいくんだよ」
「カードを探す。そして、強くなってお前を倒してやる」
もう話すことはないとばかりに、睦月はそのまま、どんどん歩みを進めていく。
だが、
キングの話はまだ終わっていない。ここからが本題だ。
自分のゲームに睦月を引き込むための。
キングは木を伝い、睦月の正面に回り込む。
まだ何か用があるのかと、邪魔そうに
キングを見る睦月。逆に、
キングは笑みを顔に貼り付けている。
「どうせカードを探すならゲームしない?」
「ゲーム?」
「そう、ゲーム。宝探しゲームさ」
キングの話をまとめるとこうだ。
自分は優勝とか、脱出とかには興味がない。だが、参加者に支給されているベルトや珍しいものには興味がある。
二手に分かれて、ラウズカードや支給品を手に入れ、ある程度、集まったらお互いに必要なものと物々交換をするというものだった。
「ラウズカードは、僕が持っていても意味がないからね。もし僕が見つけることができて、何か珍しいものをレンゲルがもっていたら、トレードしてあげるよ」
「信用すると思っているのか?」
「おいおい、こんなにいい話はないよ。僕は珍しいものが欲しい。君はラウズカードが欲しい。お互いに利害が一致してるじゃないか。
以前はカリスのカードを提供したりもしただろ?利害が一致していれば、僕は裏切らないよ」
睦月は考える。今、自分が持っているカードはクラブのA、2、5、6の4枚だけだ。
剣崎さんでさえ、生き残れなかったこの戦いをたった4枚のラウズカードで生き残ろうとするのはあまりにも無謀だ。それなら。
「わかった。その話、呑んでやる」
「ははっ、それじゃあ早速、1回目のトレード。君が持ってる携帯電話と、これ、交換してあげるよ」
キングは睦月にディパックを投げつける。
「誰のディパックかは知らないけどさ。山小屋から逃げるとき、適当に持ってきたんだよね。
僕は食料とかなくても平気だけど、君はないと困るだろ」
睦月はトレードの代償として、
キングに携帯を投げると、早速、ディパックの中身を確認する。
どうやら自分のものではないらしいが、入っているものは食料品、名簿、地図と、固有の支給品である剣と拘束紐を除いては全て一緒だ。
いや、ひとつだけ、異なるものがあった。恐らく、これがこのディパックの持ち主の支給品なのだろう。
「鍵?」
鍵にはGトレーラーと書いたタグが括りつけてある。車のキーのようには見えないが、Gトレーラーと呼ばれるものの鍵なのだろうか?
「あまり良い物は入ってなかったみたいだね。じゃあ、おまけで放送の内容を教えてあげるよ。聞いてないだろ?
禁止エリアは7時にD7。9時にD5。11時にF8。今、言った時間以降、そのエリアに入ると首輪が爆発するってさ」
爆発という言葉に、睦月は慌てて、メモをとる。その滑稽な様子に
キングは笑みを浮かべつつ、言葉を続ける。
「あと、H10エリアには宝があるっていってたな。とりあえず、そっちに行って見たらいいんじゃない」
「お前の指図は受けない」
「そう。まあ、勝手にするといいけど。それじゃあ、僕はこっちに言ってみるから。3回目の放送までにH3の遺跡付近で待ってるよ」
軽く手を上げると、
キングは西へと去っていった。ひとり残された睦月は地図を広げ、これからの動向を考える。
地図には先程、急いで書き込んだ禁止エリアの印。ここには絶対に近づいてはいけない。
次に確認するのは自分の居場所だ。ここは恐らく樹海エリア。だが、自分が今、樹海エリアのどこにいるかまではわからない。
調べるためには南に下るしかないが、樹海エリアと市街地エリアの間には禁止エリアとなっている場所がふたつもある。
(東に行くしかないか)
だが、一抹の不安もある。地図では一番端のエリアは切れておらず、延々と続いているように書かれている。
もし、この地図の範囲を出ると、首輪が爆破される仕掛けになっているとしたら。
自然と身体に震えが走った。それは死に対する本能的な恐怖。だが、睦月はそれを否定した。
(何を恐れているんだ。俺は最強のライダー。最強のライダーは死など恐れない!)
睦月は右手につけた腕時計を確認する。現在、9時5分。睦月は東へと歩き出した。
「やっぱり、レンゲルは単純で扱いやすいね」
東へと向かった睦月の背中を見やり、
キングはまた、にやりと笑う。
口では指図は受けないと息巻いていたが、睦月は自分の思い通りに動くしかないのだ。
禁止エリアのひとつは真っ赤な嘘。7時から禁止エリアになるのはD7エリアではなく、A1エリアだ。
しかし、その嘘は睦月を南東へと誘導するために必要だった。
今まで自分たちがいたのはB7エリアといったところだろう。禁止エリアをD7エリアと思い込ませれば、南に進む気はなくなる。
北は樹海が続くだけ、西は自分が向かった。そうなると睦月は東に、そして、南に進むしかなくなる。
「期待しているよ、レンゲル」
宝探しゲームの真の目的はこのゲームをぶち壊し、自分が操ること。
このゲームは面白いが、神崎士郎という人間に支配されていることは気に入らない。
支給品は戦いを加速させるための道具がほとんどだろう。ならば、それを奪ってしまえば、戦いのスピードは減速する。
そして、自分が選んだ参加者に支給品を渡し、このゲームのスピードを支配する。
最終的には時間切れが理想だ。神崎の目的はわからないが、1週間、死亡者が出ないと全員死亡させるとメモには書いてあった。
(じゃあ、1週間決着が着かなかったら、この戦いはどうなるのかな?)
少なくともゲームがぶち壊しになることは予想できる。
そのためにはレンゲルが必要だ。彼がカテゴリーAに乗っ取られれば、単純な奴を思い通りに操ることは容易い。
(強くしてやるよ、レンゲル。強くなればなるほど、レンゲルは益々力に溺れ、カテゴリーAに支配される)
キングは邪悪な笑みを浮かべると、今度こそ本当に西へと向かった。
この時点では、全てが
キングの思い通りに運んでいたといえる。だが、
キングにも誤算はあった。
睦月が向かった先に待ち受ける人物。それは睦月を
キングの想像を超えた存在に変えることになる。
「なんだ、これ?」
睦月は思わず疑問の声を上げる。
敷き詰める木々に苦戦しつつも、睦月はB7エリアから、B10エリアの端へと辿り着いていた。
そこで睦月は今まで自分が体験したことのない感覚を味わうことになる。
木々が続いているのは見える。手を伸ばせば、確かにそこに空間は存在していた。
だが、進めないのだ。壁があるわけでも、向きが変えられているわけでも、幻覚でもない。
石は投げると、飛んでいき、地面へと落ちる。しかし、離れた地面に落ちたその石はいつの間にか自分の足元にあった。
地面に印をつけて、歩いても、進んでいるという確かな感触はあるというのに印はまったく動かない。
まるで自分と一緒に空間そのものが動いているかのように。
数分の間、なんとか進もうと奮起したが、結果は変わらず、あきらめた睦月は南へと進むことにした。
(ここが東端であるならば、禁止エリアは脱したはずだ)
――ピ~ン♪ポ~ン♪パ~ン♪ポ~ン♪
(なんだ、この音は?)
睦月が初めて聞くことになるこの音は、放送を知らせるチャイムの音。
場にそぐわぬ陽気な声で、死亡者と禁止エリアの発表がなされる。
伊坂の名に、睦月はわずかに反応したが、実戦では役に立たないカード。すぐに次の禁止エリアの発表に耳を奪われる。
(G5エリアに、F2エリアに、D10エリア!?これから行くところじゃないか。……まあ、5時なら大丈夫か)
ふたつの情報を得て、睦月は歩みを再開しようとディパックを抱えなおす。しかし、次なる情報は睦月の気を引くには充分な内容だった。
『そうそう、五時に禁止エリアになるD10エリアに便利な乗り物が放置されています。
ドライブを楽しみたい人は忘れずに寄ってみてね☆ 』
(便利な乗り物………ドライブ………車………Gトレーラー?)
便利な乗り物+ドライブ=車≠Gトレーラーという公式が睦月の頭をよぎった。
自分が持つGトレーラーと書かれたタグがついた鍵。確証はないが、D10エリアに行く価値は充分にある。
睦月は走った。自分の公式が間違いでないことを確認するために。木々を掻き分け、丘を下り、採掘場へと歩みを進めた。
「どこだ」
採掘場に出たということはここがD10エリアであることは間違いないだろう。
睦月は必死に辺りを捜索する。だが、一向に目標物は見つからない。
一面を見渡そうと、手近な丘に登ったが、それらしいものは見当たらなかった。
「くそっ、どこにあるんだよ」
次第にイライラが募り、ムシャクシャしてくる。
「最強のライダーが探してるっていうのに。ちくしょ!」
八つ当たりに、足元にあった石を蹴り飛ばそうとする。だが、その蹴りは石にかすりもせず、バランスを崩した睦月は丘から滑り落ちた。
「うわぁ」
一度、勢いがついた身体が、そう簡単に止まるわけもなく、回転しながら一気に最下層まで転がっていく。
樹海と違い、止める木々がなかったのは不運だったのか、幸運だったのか。
特に目立った外傷を受けぬまま、平たい地面に辿り着いたことで、ようやく睦月の身体は止まった。
ただ、ぐるぐるぐるぐると回転したことにより、睦月は平衡感覚を完全に失っていた。
つまり、
「おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
吐いた。
しばらくお待ちください。
ようやく、平衡感覚を取り戻す睦月。最強のライダーらしからぬ愚行は忘れることにした。
「ここ、怪しいな」
偶然にも、落下した先にぽっかりと開いた穴を見つける。かなり深そうな洞窟だ。
(偶然手に入れたGトレーラーの鍵。偶然放送された乗り物の位置。そして、偶然見つけた洞窟の入り口。
今、俺はついている。きっとここにGトレーラーがあるはずだ)
今しがた嘔吐したことは綺麗さっぱり忘れて、睦月は洞窟を進んでいく。
洞窟はかなり深く、数分の探検が必要になったが、やがて光ある場所へと辿り着いた。
天井から吊るされた多数の電灯が照らす広大な空間。その中心には睦月が目的とする1台の車が位置していた。
「これがGトレーラーか」
全長4mはあろうかという巨大なトレーラー。青に彩られた車両部には睦月も知っている有名な車メーカーのロゴと桜の大門が埋め込まれている。
そして、その上部には赤いパトランプが装備されており、警察が作ったことを示していた。
(何時の間にこんなものを作ったんだ?いや、今はそれよりも)
睦月はGトレーラーに駆け寄り、鍵を取り出す。
「頼むぞ、合ってくれ」
睦月はサイドドアの鍵穴に鍵を差し込む。そして、ゆっくりと廻した。
――カチリ!
広大な空間に響く、開錠の音。それと同時に車のエンジンは鳴き声を上げ、パトランプは燦然と輝き、カチリ、カチリと各所で開錠の音がする。
「やった!」
睦月の心は喜びにつつまれ、思わず口からは歓喜の声が洩れる。だが、それに水を刺すかのように厳かな声が響き渡った。
「ご苦労だったな」
慌てて睦月は後ろを振り向く。そこには黄金の仮面を被った悠然たる男と礼服のような白いスーツを着た男が立っていた。
黄金仮面は右手に持った杖で左手をポンポンと叩きながら、睦月に語りかける。
「待っていたぞ。……このGトレーラーとやら、余程、重要な装備らしく、余たちが何をしようとも開けることができなかった。
だが、開ける手段を持っている者は必ずいるはず。わざわざ放送を使って呼び出したぐらいだからな。
そこで余たちは待った。このGトレーラーの鍵を持っている者を。……思いの他、早く来てもらって助かったわい。ガライ」
黄金仮面に従い、ガライと呼ばれた白服の男が前へと出る。
ガライは右耳につけたイヤリングを弾くと、どこからか発生した煙がガライを包み込み、一瞬にして白きコブラの怪人へと姿を変えた。
この後の展開は馬鹿でもわかる。
(だが、残念だったな。俺は最強のライダーだ。そうやすやすとはやられはしない)
睦月は懐からレンゲルバックルとクラブのAのラウズカードを取り出す。
「変身」
―Open Up―
ベルトとなったバックルから放たれる蜘蛛の絵柄が刻まれた光の板。
迫ってくる光の板を、今度は悠然と待ち受ける。
(時間は充分とった。もう変身できないということはありえない)
光の板が睦月の身体を通り抜ける。光が身体に巻きつき、睦月を人間からライダーの姿へと変えた。
「ぬぅ、その姿は。貴様、仮面ライダーか!」
「そうだ。俺は最強のライダー、仮面ライダーレンゲル」
レンゲルラウザーを構え、見得を切るレンゲル。だが、ガライは気圧された様子もなく、ディパックから武器を選び、手にした。
3つの剣からガライが選んだのは、音撃弦・烈斬。
刺すことに特化するため、先端をギザギザに尖らせ、柄を長くしたそれは、剣というよりも槍といったところだ。
レンゲルの武器も同じく槍。間合いを考慮した上の選択だろう。
(武器が同じなら、勝負を決めるのは腕の差だ!)
先制はレンゲル。レンゲルラウザーを中段に構え、切ることよりも突くことを選択する。
ガライの腹を狙い、思いっきり突く。
「トリャ!」
気合の入った掛け声を上げ、放った最初の攻撃は、ガライにあっさりとかわされる。しかし、それは想定内だ。
「トリャ!トリャ!トリャ!」
連続して放たれる突き。ひとつひとつ、ガライはギリギリでかわしていく。
(中々やるな。でも、あと少しだ。何回も撃てば、いつかは必ず当たる。それに!)
何回目かの突きをかわし、ガライは烈斬を構え、反撃に転じる。ガライが狙ったのは頭。
(来た!)
「3!」
橘との訓練で鍛えられた動体視力は、ガライの攻撃を難なく見切り、烈斬による一撃をかわす力を与える。
(この程度のスピードなら、俺には絶対に当たらない。そして、今の攻撃で身体ががら空き、カウンターだ!)
かわすと同時にステップを踏み、懐へと飛び込む。そして、下段から一気に上段へと切り上げた。
切り裂かれるガライの皮膚。その感触がレンゲルラウザーを通して、レンゲルへと伝わる。
(決まった。なんだこいつ、全然大したことない。いや、俺が強すぎるのか)
勝敗は決した。レンゲルは止めを刺すため、右腰に装備されたカードケースからクラブの2のラウズカードを抜き去る。
―STAB―
レンゲルラウザーに通されることで効果を発揮するカード。クラブの2の効果はラウザーの強化。
これでガライの頭を叩き潰すつもりだ。
「なるほど。そのカード、そうやって使うのか」
「わかったところで、これで終わりだ」
レンゲルは思いっきり、レンゲルラウザーを叩きつけた。
―ドスン!
大きな音を立て、強化されたレンゲルラウザーがその能力を発揮する。
その対象は抉れ、欠片と呼ぶにも困難なほど、粉微塵に破壊される。
ただし、破壊されたのはガライの頭などではなく、
「なにっ!」
単なる岩であるのだが。
ガライは頭に当たる瞬間、レンゲルラウザーを烈斬の柄で受けた。そして、烈斬を傾けると、長いその柄を利用して、地面へと攻撃を逸らしたのだ。
言葉で言うのは簡単だが、初めて使う武器を手に、力を受け流す技巧とタイミングを計る判断力。
それは同種の武器を扱う『腕』が、ガライが勝っていることを示していた。
「ガライ、いつまで遊んでおる」
「そう言うな。この星の脆弱な生き物をいたぶるのは悪くない」
ガライは楽しむという感情を得ていた。獲物をいたぶり、嬲り、そんな中、必死で反撃しようとする弱者を強者の力で叩き潰す楽しみを。
そのためにあえて攻撃を受けてみたりもした。傷の痛みがガライに怒りを与え、その獲物を粉砕する喜びを倍増させてくれる。
だが、ジャークの言うことももっともだ。そろそろ壊すか。
ガライは烈斬を振るう。狙いは先程と同じくレンゲルの頭。
(何度来たって)
レンゲルの動体視力は烈斬の動きをはっきりと掴んでいた。だが、それだけだった。
(は、早い)
烈斬がレンゲルのマスクを切り裂く。次に狙われたのは腕、その次は腹、その次はふともも。
次々と放たれる烈斬の斬撃、レンゲルは致命傷こそ避けるが、全ての攻撃はレンゲルの身体を切り裂いていた。
感知はできている。しかし、今度の斬撃はレンゲルが身体を翻すより先に迫ってくる。
脳からの命令に身体が追いつかない。
(くそっ!)
堪らずレンゲルはバックステップで後方へと退避した。
強者の余裕か、ガライは間合いを詰めず、レンゲルの出方を窺っている。
「武器で負けたって、俺にはまだ切り札がある」
レンゲルの手には2枚のカード、クラブの5と6。敵を蹴り砕くBITEと氷漬けにするBLIZZADEのカード。
この2枚を同時に使えば、BITEはBLIZZADEのカードで強化され、どんな相手でも粉々に砕く。
温存しておきたかったが仕方がない。
―BITE― ―BLIZZADE―
―BLIZZADE CLASH―
コンボ成立。レンゲルラウザーに通されたふたつのカードは同時にレンゲルの力となり、必殺技としてその能力を発動させる。
「はぁ!」
大地を蹴り、空中へと舞うレンゲル。
吹雪で相手の眼を眩ませ、凍らせることで動きを封じ、一気に蹴り砕く攻防一体の技。それがレンゲルのブリザードクラッシュだ。
キックの体勢をとったその足から生まれた吹雪は、ガライへと降り注ぐ。
「無駄だ」
ガライは烈斬を横に持つと、上段高く構えた。槍投げの体勢だ。
「ふん」
キックを仕掛けるレンゲル目掛け、烈斬を投げる。回転を加え、ドリルのように相手を穿ち、貫くように。
それは烈斬の持ち主である斬鬼や轟鬼の投げ方と同じ投げ方。回転が加わった烈斬は吹雪を弾き返し、まっすぐにレンゲルを狙う。
「がぁっ!」
レンゲルが迫る烈斬に気づいた時にはもう遅かった。回転した烈斬はレンゲルに命中する。
威力がありすぎたのは幸いだった。
装甲により、僅かに逸らされた烈斬の軌道はレンゲルを貫くには至らず、装甲をひとしきり削り取った後、空を切って、遥か後方へと飛んでいく。
しかし、傷は決して浅くはない。レンゲルから強制的に放たれたカテゴリーAの光板はレンゲルを通り、その姿を睦月へと戻してしまった。
「その程度で最強のライダーを名乗るとは片腹痛い。RXはもっと我らクライシスを手こずらせていたぞ」
倒れた睦月の首筋に触れる刃。ガライはディパックから新たに取り出した剣を睦月の首へと向けた。
「さて、色々しゃべってもらうぞ」
ディパックとレンゲルバックルを取り上げられ、地面へと正座させられる睦月。
変身を解き、Gトレーラーの調査を始めたガライに変わり、睦月の眼前には黄金仮面――ジャーク将軍が杖を持ち、悠然と佇む。
「反抗的な態度をとるようならば……」
「ひぎゃぁぁぁっ!」
ジャーク将軍の杖から放たれる電撃が睦月の身体を走る。あまりの激痛に悲鳴が抑えられない。
「このように罰を与える。わかったな」
睦月は肯くしかなかった。
それから、睦月は自分が何者なのか。今までどのような戦いを演じてきたのか。そして、このゲームに参加してどんなことがあったのか。その詳細を強制的にしゃべらされる。
途中、何度か嘘を吐こうとしたが、その度に見破られ、電撃の洗礼を浴びた。
結局、睦月はその情報の全てを話すしかなかった。
「ふむ、実に興味深い話だ。そちの情報を総合すると面白いことがわかる」
睦月の情報に得心がいったようだジャーク将軍はクックックッと笑う。
何が面白いかわからなかったが、睦月にはそんなことはどうでもいい。
全ての装備は持ち去られ、全ての情報を話した睦月にはもう手札はない。つまり、用なしということだ。
睦月が出来るのはもう祈ることしかない。眼前の男が気まぐれを見せることを。
「さて、そちの処遇だが……」
運命の瞬間が来た。ジャーク将軍が次の言葉を繋ぐまでの刹那の時が、睦月には1分にも1時間にも感じられた。
(こんなところで死にたくない)
だが、どうしようもない。ほぼ確定された『死』の宣告がジャーク将軍の口から紡がれた。
「余と一緒に来るがいい。そちをGトレーラーの運転手として雇おう」
そう死刑宣告とも言うべき、Gトレーラーの運転手という役を睦月は与えられたのだ。
「えっ?」
睦月は自分の耳を疑う。
「そちも脱出したかろう。余は脱出を目指しておる。そのためにはそちの力が必要と言っておるのだ」
意外だった。即刻処刑、良くても人質が精々だと思っていた自分に差し伸べられたのは剣ではなく、救済の手であった。
「一体、どういうつもり」
「これ以上、話すことはない」
ジャーク将軍は身を翻すとGトレーラーへと入っていく。
睦月もそれを追い、Gトレーラーへと入った。
「渡してやれ」
「………」
中へ入るとジャークがガライに何事か話している。
ガライはこちらを冷めた眼で見つめる。とても歓迎しているようには見えない。
だが、ジャーク将軍の命令だからなのか、ガライは睦月にレンゲルバックルとカードを差し出した。
「これは」
その中には今まで自分が持っていたクラブのA、2、5、6に加え、クラブの3と4、スペードのJとQ、ダイヤの3とQが入っていた。
「俺の支給品だ。お前なら使えるのだろう?」
睦月は恐る恐るそれを受け取った。
「!」
そのカードを受け取った瞬間、睦月の意識が真っ白に染まる。
色を取り戻したとき、睦月は別の場所に移動していた。
そこには一度だけ、行ったことがある。以前、クラブのQとKである城光と嶋さんに会った場所だ。
だが、そこにいたのは城でも嶋でもなかった。見覚えのない3人の男女。
ひとりはスーツに眼鏡といういかにも真面目なエリートサラリーマンという感じの男。
もうひとりの男は、それとは対照的にけばけばしい服装から、短絡的な印象を受けた。
そして、ノースリーブで胸が大きく、髪の長い、にやけた笑みを浮かべる女。
3人は睦月に話しかける。
「あなたはバトルファイトを正常な状態に修正しなければいけない。今のバトルファイトを壊し、カリスを取り込んだ憎きジョーカーを排除しなさい」
「ふぉー!まあ、そのためにぃ、同じアンデッドであるよしみだ。俺たちの力を貸しちゃうぜ。俺を舐めやがったブレイドもいないしさ」
「あー、はっはっはっ。あー、はっはっはっ」
口々に勝手なことを言う3人。だが、不思議と睦月は不快には感じなかった。
それどころか、その勝手なことを達成しなければいけないとすら思えてしまう。
「……はっ」
気がつくと、睦月はGトレーラーの中へと戻っていた。
睦月の手の中にはレンゲルバックルと新たなカード。
「スペードのJ、スペードのQ、ダイヤのQ。どれも上級アンデッドのカード。俺に力を与えてくれるカードだ!」
睦月の身体には今までとは比べ物にならないほどの力が漲り始めていた。
だが、睦月は気づかない。その力と比例して、心の闇も膨張を始めていたことを。
「どういうつもりだ。使えない生き物はその場で抹殺か、人質にする予定だったはずだ」
上城睦月を運転席に追いやるや否や、ガライは余の考えに口をはさんで来おった。
小生意気ではあるが、予想できた質問であったので、答えてやる。
「使えると判断した。我々はGトレーラーの運転は出来ぬだろ?」
余の言葉でガライは黙る。納得せざる得ない理由だったからだろう。
だが、余が運転できないと言うのは嘘だ。
確かに地球の車は運転したことはないが、クライシス帝国にも似たようなものはあった。恐らくほぼ同じ機構であろう。
しかし、使えると判断したのは嘘ではない。
上城睦月の話を聞き、余は使える奴だと判断したのだ。
奴は仮面ライダーと名乗った。だが、奴の物語の中に出てきた仮面ライダーは4人。どれも知らぬ名前だ。
逆に、余がRXや他の仮面ライダーの名を出すと奴は知らないと答えた。クライシス帝国のことも知らぬと言う。
そこで余はひとつの可能性を確認するため、次の質問をした。
「そちは西暦何年から来た?」
余の予想通り、
上城睦月は余が居た年より未来の西暦を答えた。
以前、RXの過去に進入し、BLACKである奴を抹殺する計画を実行したことがあった。
後一歩で成功するところであったが、なんとライドロンによって、別の時代から集まった3人のRXに阻止されたのだ。
それと同じことがこの儀式では行われておる。
ここに集った参加者たちはそれぞれ別の時間、別の時空から集められたものだ。
グランザイラスは復活したものと思っていたが、あやつも倒される前の時間軸から連れてこられたのだろう。それならあの過信ぶりもまだ納得がいく。
そして、その事実は仮面ライダーといえども、利用できる可能性を示している。
(もし、他の仮面ライダーがRXのことを知らなければ、そいつらをRXにぶつけてもいい)
その一人目が
上城睦月。本人はカテゴリーAの支配から抜け出したと言ったが、余はそうは思わん。
言葉の端々に滲む、己こそが最強だという自負。ガライがカードを渡した時、余は確信した。こやつの心には決して消えない闇があると。
薄っぺらい正義という言葉では覆いきれるほど、強力な闇が。
それを引き出してやれば、こやつはいい働きをしてくれるであろう。憎き仮面ライダーBLACKRXを倒す刺客としてな。
彼の眼の前に広がるのは闇ばかりだった。
彼は闇など望んでいない。されど、闇は彼を放さない。
一度は闇を切り裂きながらも、再び闇に溺れる彼は光を掴めるのだろうか?
Gトレーラーは走りだす。絶望と希望、闇と光、両方を乗せて。
【
上城睦月@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:採掘場D10エリア】
[時間軸]:本編後。
[状態]:背中に大火傷。頭部に打撲。その他、身体に軽傷多数。カテゴリーAに取り込まれかけています。
[装備]:レンゲルバックル。ラウズカード(スペードのJとQ、ダイヤの3とQ、クラブのA~6)。
[道具]:配給品一式(橘)。Gトレーラー(G3ユニット、GM-01、GG-02、GS-03、GK-06、ガードアクセラー)
[思考・状況]
1:ジャーク将軍に対する畏怖。今は言うことをきく。
2:ラウズカードを集める。そのためには
キングとのゲームに乗る。
3:ジョーカーを倒す。
※睦月は橘を偽者だと思っています。
※睦月はD7が禁止エリアと思っています。A1が禁止エリアと思っていません。
※睦月は無免許でGトレーラーを運転しています。
※橘と戦ったことは忘れています。そのため、ジャーク将軍にもそのときのことは話していません。
ただし、何かの拍子に思い出すかも知れません。
【
キング@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:樹海B6エリア】
[時間軸]:
キングフォーム登場時ぐらい。
[状態]:健康。
[装備]:携帯電話
[道具]:なし
[思考・状況]
1:レンゲルとのゲームのため、ラウズカード探し。
2:この戦いを長引かせる。そのため、支給品を取り上げる。
3:戦いに勝ち残る。まだまだ面白いものも見たい。
4:今は戦うつもりは無い。
5:北岡に興味。しばらくしたら、また会おう。
【ガライ@仮面ライダーJ】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:採掘場D10エリア】
[時間軸]:本編開始前。
[状態]:火傷(中程度。再生中)
[装備]:剣。装甲声刃。音撃弦・烈斬。
[道具]:なし
[思考・状況]
1:どんな手を使っても生き残る。
2:ジャーク将軍と協力して、首輪を解除する。
3:ついでに生贄を手に入れる。
4:神崎士郎は残酷に壊す。
5:脆弱な生き物と組むのは気に入らない。
【ジャーク将軍@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:採掘場D10エリア】
[時間軸]:ジャークミドラに改造後。
[状態]:健康。
[装備]:杖、変身後は大刀。
[道具]:不明(グランザイラスにもらったもの。中身は確認済み)
ネタばれ地図。首輪。ライダーブレス(コーカサス)。変身鬼弦・音錠。
[思考・状況]
1:Gトレーラーは手に入った。とりあえず禁止エリアから移動。
2:首輪の解析と勝ち残るための仲間探し。
3:
上城睦月の闇を引き出す。
4:神崎士郎を殺し、脱出する。
5:RXを殺す。
6:
城戸真司を探し、神崎の目的を探る。
7:ライダーマン、
結城丈二を支配下に置く。手段は問わない。
※ジャーク将軍は睦月より、ブレイド世界の情報と剣崎、始、橘、
キング、伊坂、北岡、
リュウガの情報を得ました。
※ネタばれ地図には支給品以外のラウズカードの隠し場所も書かれています。
最終更新:2018年11月29日 17:33