悪徳の栄え
酷く揺れる車内の中、二人の男が不快な表情をしていた。
一人は白い礼服の上にある厳つい顔を顰め、耳につけた銀のイヤリングが車内の光を反射していた。
「あの脆弱な生物を始末して、車を乗り捨てて進まないか?」
「そう言うでない。余らは力を蓄えておく必要がある。そして、このGトレーラーの装備と移動速度は魅力的だ。違うか? ガライ」
(もっとも、これでは余が運転した方が百倍マシだがな)
答えながら内心吐き捨てるのは、黄金仮面の男。
黒いマントを身に着け、悠然と事を構える彼は、ガライの沈黙を肯定と解釈して、冷静に現状を分析、次の目的地を定めていた。
このGトレーラーの運転手、若い地球人の睦月にも目的地を知らせてある。
彼の支給品の地図を広げる。無論、ただの地図ではない。
トラップやこのGトレーラーや隠しアイテムのありかが記載されている地図である。
もっとも、ジャークは当初、この地図に書かれてあるラウズカードなるアイテムは無視する予定だった。
使い道が分からなかったからだ。だが、レンゲルという仮面ライダーを支配下に置いた今、このラウズカードは効力を発揮する。
ジャークが話に聞いたリモートというカード。これはカードから怪人を呼び出し、敵と戦わせる効果がある。
何らかの制限がある事を加味しても、手に入れる価値のあるカードだ。そして、ラウズカードを手に入れれば手に入れるほど、一人の仮面ライダーを闇に堕とすことができる。
ジャークにとって憎い仮面ライダーの連中に不協和音をもたらす機会。これを逃すはずがなかった。
野望に燃え上がると同時に、ジャークはようやく確認する時間ができたと考えながら、一つの辞典のようなものを取り出す。
グランザイラスの支給品、支給品のデータ集だ。
この殺し合いで配られた、もしくは各参加者が最初に持っているアイテムのデータが事細かく記入されている。
もちろん、隠しアイテムのデータもある。Gトレーラーにたどり着くまで強行軍だったため、確認する時間がやっとできた。
これによりジャークは睦月の言葉が嘘でない事を確認する。同時に、目ぼしいアイテムもないか目を光らせる。
それにしてもと笑みを浮かべた。ネタバレ地図に、支給品のデータ集。自分に集まったものはとても都合がよかった。
もっとも、目指すのは脱出。脱出に使えそうなアイテムがないのは納得したが、まだ諦めてはいない。
(こうなれば、脱出できる能力を持つ参加者に希望を持つしかない。そやつを探し出し、味方につける)
静かな思考がジャークの頭を冷やした。しかし、彼の思考は中断する。
ガコン、と音がして車が止まる。エンストのようだ。
何度目か分からない車の停止に、ガライは舌打ちをしていた。
やがて、Gトレーラーは止まり、中よりジャークが降りてくる。
「ガライ。そちにGトレーラーを守って欲しいのだが」
「構わん。だが、なぜその脆弱な生き物を連れて行く?」
「脆弱ッ!」
「まあ、そういうでない。ついてこい。睦月よ」
そういい、ジャークと睦月はこの世界で二番目に高い建物、時計塔へと昇っていった。
ガライの姿が完全に消え、古ぼけた木の階段をギシギシ音をたてながら進む。
後ろからは睦月が無言でついてきた。脅えている気配が手に取るように分かる。
ジャークの電撃は効いているようだ。
「睦月よ。余はそちに期待している」
「……いきなり何を言っている」
虚勢が可愛く見え、知らず微笑む。鞭の効果はあった。なら、今度は飴だ。
「ガライはそちを脆弱と評したが、余は逆の考えだ。そちが他の仮面ライダーに比べ負けているのは、その若さゆえだ。
そちには光るものがある。余なら、それを引き出せる」
「なんだと?」
「ここに寄ったのも、そちに力を与えるためだ。余を信じるがいい」
疑問を浮かべる睦月をつれ、ジャークは黙々と頂上を目指した。
地図によれば、ここには睦月を強化するものがある。
ジャークたちに不要で、睦月に必要。そして、睦月がいれば確実にジャークたちの戦力強化となるもの。
それは……
「ついたぞ」
「こ、これは……」
古ぼけた時計塔の裏、歯車が稼動し続けている部屋の中央に、ガラスのケースに収められたクラブの10とJのラウズカード。
バクと象の絵柄のついたそれに、睦月が走り寄る。
乱暴にガラスケースをどけ、カードを手にした瞬間、ジャークは睦月の瞳の闇が強くなるのを目撃した。
「これさえあれば、俺は最強の仮面ライダーになれる」
「いや、まだ足りぬ」
振り返る睦月に、静かに微笑む。
「余は多くのラウズカードの在りかを知っている。それを使えばそちは強くなる。
どの仮面ライダーよりも、そちを馬鹿にするガライよりも!」
「強くなれる。俺は、どの仮面ライダーよりも、あの男よりも!」
ジャークの狙い通り、睦月は闇へと沈んでいく。ここまで都合がよいと、吹き出しそうになるが堪えた。
「そうだ。睦月、余とともに、神崎士郎を倒す道を歩もうぞ」
「ああ、やってやる。俺は仮面ライダーだからな!」
(堕ちた)
これでもう、睦月は闇より戻れない。ジャークはそう判断した。
「次は遺跡へ向かうぞ。G3エリアに、クラブのQとKが放置されている。そちを更に強くするため、そこに向かう」
「ああ、任せろ」
意気込む睦月を従え、ジャークは勝利へと足を運んだ。
再び、車内で身体を揺らすガライとジャーク。
何度目か分からないエンストに、ガライはイライラしているようだ。
「だいぶ堪っているようだな。ガライよ」
「こんな酷い乗り物に乗せられれば誰だってそうなる」
「なら、次に出会う敵が一人ならまたそちに相手をさせよう。一人でも倒せば気が晴れるであろう?」
「……まあな」
ニヤリと笑みを浮かべる彼を目の前に、ジャークは随分と感情的になったものだと思った。
最初観察したときは、人形のような印象を持っていたが、今はまるで新しい玩具を手に入れた子供のように見えた。
まあ、多くの部下を従えてきたジャークにとっては、ガライの変化など些細なことだ。
その攻撃性が自分に向かないようにコントロールする自信はある。
今は、地図に記載されたラウズカードを回収することに集中する。
また、車がエンストを起こした。
□
睦月は鍵を回して、エンジンをかけなおす。
排気音を耳に、車が立ち上がった事を確認した。
アクセルを深く踏む。心は新たなラウズカードに向いていた。
(俺は最強のライダーになって、邪魔する奴を全て倒す。神崎士郎も!
そのためには
キング、今はお前の提案に乗ってやる。こいつらも利用してやる!)
―― それでいい ――
地の底を這うような声が聞こえた気がしたが、睦月は気づかない。
更に、深くアクセルを踏む。
砂を巻き上げ進み続けるGトレーラーが、エンストを起こした。
G3エリアに放置されているクラブのQとK。
それは睦月に光をもたらすのか、それとも不発に終わるか。
Gトレーラーは、黙って砂を巻き上げ、エンストを起こした。
【
上城睦月@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:市街地G7エリア】
[時間軸]:本編後。
[状態]:背中に大火傷。頭部に打撲。その他、身体に軽傷多数。カテゴリーAに取り込まれかけています。
[装備]:レンゲルバックル。ラウズカード(スペードのJとQ、ダイヤの3とQ、クラブのA~6、10とJ)
[道具]:配給品一式(橘)。Gトレーラー(G3ユニット、GM-01、GG-02、GS-03、GK-06、ガードアクセラー)
[思考・状況]
1:ジャーク将軍に対する僅かな信頼。今は言うことをきく。
2:ラウズカードを集める。そのためには
キングとのゲームに乗る。
3:ジョーカーを倒す。
※睦月は橘を偽者だと思っています。
※睦月はD7が禁止エリアと思っています。A1が禁止エリアと思っていません。
※睦月は無免許でGトレーラーを運転しています。
※橘と戦ったことは忘れています。そのため、ジャーク将軍にもそのときのことは話していません。
ただし、何かの拍子に思い出すかも知れません。
【ガライ@仮面ライダーJ】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:市街地G7エリア】
[時間軸]:本編開始前。
[状態]:火傷(中程度。再生中)
[装備]:剣。装甲声刃。音撃弦・烈斬。
[道具]:なし
[思考・状況]
1:どんな手を使っても生き残る。
2:ジャーク将軍と協力して、首輪を解除する。
3:ついでに生贄を手に入れる。
4:神崎士郎は残酷に壊す。
5:脆弱な生き物と組むのは気に入らない。
【ジャーク将軍@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:市街地G7エリア】
[時間軸]:ジャークミドラに改造後。
[状態]:健康。
[装備]:杖、変身後は大刀。
[道具]:支給品のデータブック(ハイパーゼクターを除く支給品のデータが記載されています)
ネタばれ地図。首輪(ヨロイ)。ライダーブレス(コーカサス)。変身鬼弦・音錠。
[思考・状況]
1:ラウズカードを集め、戦力の強化。
2:首輪の解析と勝ち残るための仲間探し。
3:
上城睦月の闇を引き出す。
4:神崎士郎を殺し、脱出する。
5:RXを殺す。
6:
城戸真司を探し、神崎の目的を探る。
7:ライダーマン、
結城丈二を支配下に置く。手段は問わない。
※ジャーク将軍は睦月より、ブレイド世界の情報と剣崎、始、橘、
キング、伊坂、北岡、
リュウガの情報を得ました。
※ネタばれ地図には支給品以外のラウズカードの隠し場所も書かれています。
※支給品のデータブックは、支給されたアイテムの効果が記載されています。
余裕ができ、中身を確認したのはGトレーラー内が初めてです。
各参加者の初期支給品も記載されています。
[Gトレーラー組の共通事項]
G3エリアのラウズカードクラブのQ、Kを回収に向かっています。
最終更新:2018年11月29日 17:37