法廷の勝利者

「ねえ、怪我をしたくなかったら、その剣を渡してくれない?」
 金に近い茶髪を持つ、小柄な少年が話しかけてくる。
 シルバーアクセサリーをジャラジャラと鳴らし、こちらへ近付いてくる。
 彼が橘の言っていた殺戮者だろうか。見た目だけでは油断はできない。
 なにより、彼は自分の武器を狙っている。考えられる目的はひとつ。
 この殺し合いで、人を殺す手段として使う。
「断る」
「ならいいよ。力尽くで奪い取るから」
 ただならない気配が漂い、茂が身構える。
 少年の薄ら笑いを見つめながら、彼が動くのを待った。

 その時がどれほど続いただろうか。お互い、隙を見出せず動けずにいた。
 だが、突如繁みの中から人影が躍り出た。
「ハハッ!!」
 男の腕が振るわれ、巨大な金棒で少年が吹き飛ばされる。そのまま木に叩きつけられたのだろう。
 なにかにぶつかる音が聞こえる。身体ごと人影に向き直る。
 女を肩に担ぐ男の身体は意外と大柄ではなかった。
 しかし、その痩身には女一人を担いでることにより、動きが制限される様子はない。
 興奮しているだろうか。色の抜けた髪の下の目を、狂気に輝かせてこちらを見る。
「北岡を殺す前に面白そうな連中に出会ったじゃないか。やろうぜ」
 こちらを見つめて言い放つ。茂は本能的にこの男が悪だと断じた。
 ブラックサタンやデルザー軍団の怪人を凌駕する狂気。
 ただの人の身に、それらを宿して、『敵』が立ちふさがった。
 もし、こいつが橘の言う『殺戮者』だとするなら、なるほど、確かにこいつは殺さなければならない。
 人を殺す。仮面ライダーなら拒否しなければならない思考だ。だが、こいつは人じゃない。
 『悪』。自分たちが立ち向かわねばならぬ存在だった。
 茂は男の肩にいる少女を見つめる。まずは、彼女を救わなければならない。
 剣を構え、目の前の男を迎え撃つ。相手がまだ変身しない為、こちらも変身はしない。
 首輪で変身が制限されている以上、最初に変身すれば不利になることもある。
 特に、生身で見事な動きを見せた敵の前では。
「倒す!」
「俺と戦え!!」

「どっちでもいい!!」

 金の影が茂の横を駆け抜け、上段から腕を振るった。
 少女を担いだ男は見えているのか、避ける。金のカブト虫の怪人、コーカサスビートルアンデッドが剣を振るったのだ。
 木々を巻き込み、地面を抉る。あれでは、少女を巻き込む。
 そうはさせない。茂は決意をした。
 即座に黒いグローブを脱ぎ捨て、左肘を曲げて両腕を右にまっすぐ伸ばす。
 ゆっくりと天に回して、逆方向に両手をそろえて構える。
「変身ッ!」
 揃った両手を高速で擦り、電気を迸らせる。
 雷が茂の身体を包んで視界を白に染める。
「ストロンガーッ!!」
 赤いプロテクターに赤い角。緑の瞳は怪人を映し、星のようにベルトは輝いている。
 ストロンガーはその手に持つ、黄金の剣を振るってコーカサスビートルアンデッドを弾き飛ばした。
「誰だよッ!!」
 少年の声そのままにコーカサスビートルアンデッドが苛立ちを隠さずに告げた。
 楽しそうにこちらを見つめる男と、怪人を前にストロンガーは仁王立ちをする。

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ!!
聞け! 悪党ども! 俺は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー!!」

 揺るがぬ想いを胸に、ストロンガーは少女を救うべく戦いに挑んだ。


「さてと、そろそろ向かっておきますか」
 もちろん、そのつもりは無い。ギャレンバックルを手にした北岡は、内心の喜びを隠して移動を開始しようとした。
 しかし、その彼を呼び止める声がかけられた。
「待てよ。お前、それを持って逃げるんじゃないか?」
 内心の動揺を悟られないように、振り向いて声の主を見る。
 津上と同じくらい長い髪を茶色に染め、不機嫌そうな表情をこちらに向けていた。
 白いTシャツにジーンズの姿はボロボロで、傷が至るところについている。
 厳しい視線を飄々と受け流して、乾巧という青年と目を合わせる。
「何でそう思う? 俺はちゃんと行くつもりだよ」
「どうだかな。そのベルトを見る目、一瞬だけど俺のファイズのベルトを狙っていた奴と同じ目をしていたぜ」
 その言葉に、つい舌打ちしそうになる。迂闊だった。
 そういう経験をしているなら、自分がこのベルトを欲しているのを察してもおかしくは無い。
 だが、所詮は歳若い青年だ。丸め込むのは難しくは無い。それに、自分には武器がある。
 『信頼』という名の、武器が。
「ちょっと待ってください。失礼じゃないですか」
「……北岡なら、橘の遺志を受け継いでくれる。安心して行かせてやってくれ。乾くん」
(ほらね)
 内心ほくそ笑み、北岡は真剣さを込めた演技の表情で巧をまっすぐ射抜く。
「俺を信用できなくても構わない。だが、奴の言う通りにしないとあのあきらって娘が危ない。
だから、俺に任せて欲しい。君たちはここで俺たちの帰りを待っているんだ」
 決まったと思いながら、巧を観察する。浅倉の脅しは強力だ。なにせ脱獄犯。
 本当に何をしでかすか予想がつかない。それを踏まえれば、自分を向かわせるを得ないだろう。
「いやだね。あきらは俺が助ける」
(そうそう、大人しくあきらは俺が助けるって言っていれば……え?)
 巧は踵を返し、ベルトを肩に担いでその場を離れる。
 向かう先は浅倉が消えた方向。
「待ってください! 話を聞いてなかったんですか!?」
「聞いてるよ。だがな、そいつは信用できないし、あきらが危ない。
だったら俺が助けに行けばいい。お前らから聞いた話からすれば、そろそろ変身もできるだろうしな」
「無謀だ。乾くん」
「うるせぇ! 放って置けよ!!」
 津上と木野の制止を振り切り、巧は先を進む。
 ここまで聞かん坊だとは思わなかった。ここから先は、おそらく自分が望まない提案がされる。
「しょうがない。途中まで一緒に行きましょう。北岡さん」
「そうだな。乾くんもそれでいいだろ」
 問題の巧は無言で先を進む。自分は木野たちに頷き返した。
 ここで断っては巧の疑惑を肯定するようなものだ。仕方が無い。
(まあいいさ。適当に戦闘して、逃げればいいし。乾くんも参戦するつもりみたいだしね)
 先を進む三人に続く。ギャレンバックルは鈍く輝いていた。


「仮面ライダーだって?」
 先程の怒りを収めたのか、こちらにコーカサスビートルアンデッドが向き直る。
 対峙し、ストロンガーは睨みつけた。
「そうだ。お前は倒す。そしてそこの男。その少女を離せ!!」
「ハッ、正義の戦士だ? お前もV3と同じ事を言う奴だな。殺し合う、仮面ライダーってのはそういうもんだろ?」
「ッ!! そうか、お前が風見さんを殺した奴か。……覚悟しろ!!」
「最初からそういやいいんだよッ! やるぜ!!」
「僕を無視しても困るんだけどな」
 コーカサスビートルアンデッドが剣を薙ぎ払い、木々が切り倒される。
 狙いは変わらず浅倉を狙っていた。それをパーフェクトゼクターで受け止める。
「人間の姿でソリッドシールドが出せないのは意外だったな。結構痛かったんだ、あれ。
そいつを殺したら相手してあげるから、今は退いてよ。ストロンガー」
「あいつごと少女も殺すつもりだろ。なら、退くわけにはいかない」
「このバトルファイト……というより僕にとってはゲームかな? 素直に従う気は無いけど、そいつを殺せるなら別にその娘も一緒に殺してもいいや」
「ハハハッ! そいつを何とかしないとこいつを殺されるぞ。ストロンガー!」
 煽る浅倉を無視して、コーカサスビートルアンデッドの隙を探る。
 怪人を倒す。殺戮者から少女を取り返す。どちらも同時に行わなければならない。難しいことだ。
 だが、ストロンガーはそこから逃げるつもりは無い。この程度のことができないで、何の仮面ライダーであろうか。
 風見志郎にしろ、橘朔也にしろ同じ決断をしたはずである。
 ストロンガーは剣を振り上げ、コーカサスビートルアンデッドに斬り込む。返す刀で少女を助けに向かう。
 だが、その剣は見えない障壁で防がれた。いや、盾の形をした何かに遮られたのだ。
「残念。君から死にたいようだね、ストロンガー」
(しまった、少女が……)
 迫るコーカサスビートルアンデッドの剣。背後からは金棒を振り上げ、こちらに迫る男の気配を感じる。
 絶体絶命。だが、ストロンガーの目は死んでいない。コーカサスビートルアンデッドの剣を受け止めた。
 甲高い金属の衝突音が樹海に響く。
(身体で金棒を受け止めて、その隙に少女を救う。多少痛いが、しょうがない)
 だが、その決意は叶わなかった。幸運な方向で。
「てりゃっ!!」
 木々より現れた鉢巻をした男が、横跳びに浅倉に蹴りを放った。
 さすがの浅倉も奇襲に対抗できず、少女を落として吹き飛ぶ。だが、嬉しそうな顔で乱入者を見つめていた。
 その男は背中合わせに、浅倉へサイを構えて声をかけてきた。
「無事か!? ストロンガー!!」
「誰だか分からないが、助かったぜ。その娘を連れて逃げてくれ。後は俺が引き受ける!」
「おいおい、霞のジョーの名前を忘れちまったのかい? 明日夢、その娘を頼む!」
「…………はい。天美か」
 明日夢と呼ばれた少年が、沈んだ様子で少女を運んでいく。
 これで心配の種は無くなった。戦いの時だ。
「あいつは風見さんの仇だ。油断するな。行くぞッ! 霞のジョー!!」
「おうよッ!」
 霞のジョーの答えを合図に、それぞれの敵に向かって散開する。
 戦場に、青年の叫びが轟いた。
「あきら!!」


 戦っている全員が声の主を見る。巧は駆け寄ってあきらの無事を確認し、ため息をついていた。
 その様子を見て、北岡は会いたくない人間に三度再会した事実に、信じていない神様を呪いたくなった。
「北岡!」
「何でまだこんなところにいるのよ」
 答えは返らず、浅倉は北岡に向かって金棒を投げた。
 生身なのに、信じられない怪力だ。
「危ない!」
 津上が叫んで北岡を突き飛ばす。金棒が二人のいた地点の、後方の木を砕いていた。
 浅倉が地面を蹴って近寄り、こちらのデイバックを奪う。
「キサマッ!」
「今変身できないお前に用はないッ!」
 浅倉は木野を蹴り飛ばす。それを木野がブロックした為、反動でお互い離れた。
 浅倉はデイバックを漁り、やがてニヤリと笑顔を浮かべて投げ捨てた。デイバックからなにかのグリップが零れ落ちる。
「北岡、これな~んだ」
「ゲッ、津上の支給品はそれかよ!」
 北岡は津上の支給品を今までチェックしていない事実に愕然とした。知っていれば、あれを浅倉に渡さないように手を尽くしたのに。
 浅倉がデイバックから取り出したペットボトルにカードデッキをかざす。
 ゾルダや王蛇と違った、爪が中央に向かっているベルトが浅倉の腹に巻かれる。
 右脚を前に出し、身体を横に向け、右手をゆっくりと前に突き出していく。左手は腰に据えている。
「変身!」
 右手を振って、身体を正面に向かせてベルトにカードデッキをセットする。
 鏡像が幾重にも重なり、黒いライダースーツのような強化スーツを精製した。
 黒いバイザーの下にあるだろう狂気に満ちた瞳は、きっと自分に変身を促している。
 疑似ライダーオルタナティブ・ゼロ。確か、香川という男が作ったライダーだったはずだ。
 オルタナティブ・ゼロは落ちている金棒を回収し、こちらに向けた。
「さあ、やろうぜ。北岡」
「しょうがない。津上、付き合ってくれ。乾はキングの相手でもしていてちょうだい」
「北岡、僕の相手をしてくれないの?」
「先約が入っているって」
 変身したキングの姿を確認した北岡は言いながら、構えている津上の傍に立つ。
 浅倉と同じように、取り出したペットボトルにゾルダのカードデッキを掲げる。
 銀のベルトが北岡の腹に巻かれた。
 津上の方は、腹にベルトを顕在させて、右脚を前に出し、身体を横に向けていた。
 徐々に、右腕を手前へと引いていく。
「「変身!!」」
 叫んで、二人は同時に姿を変えた。
 全身を緑のスーツに包み、その上に銀の鎧を着込んでいる。三本線の細いバイザーは赤い瞳を走らせ、Vの字のアンテナが煌く。
 右手には大型の拳銃が握られていた。
 右隣に立つのは、身体を黒の皮膚に変え、金の鎧を精製した戦士。
 金の角を携え、赤い瞳は、自分と同じ敵を睨みつけている。
 二人はオルタナティブ・ゼロと対峙し、地面を蹴って近付いた。


「あきらは無事か……」
「ええ」
「あいつはあきらを攻撃したのか?」
「していましたよ。それが?」
 あきらと明日夢を木野に任せ、巧は立ち上がる。
 腰にベルトを巻いて、携帯を開く。その様子を見て、あきらを介抱する手を一旦止めた木野が声をかけてきた。
「戦うのか?」
「ああ。どうやら、俺は闇を切り裂いて、光をもたらす仮面ライダーファイズらしいからな」
 その言葉に、ストロンガー、コーカサスビートルアンデッド、ジョーがこちらに向いた。
 視線が集まるなか、ボタンを打ち込む音が響く。

 ―― 5・5・5 ――

(きついな、真理。お前の期待に応えるの。だが、やってやるよ!)

 ―― Standing By ――

「あきらを虐めたツケ、今払ってもらうぜ! 変身!!」
 待機音を響かせる携帯を天にまっすぐ向け、太陽の光を反射させる。
 握る右手に力が入る。仮面ライダー、なんとも重い言葉だ。
 なにせ真理が夢を託した名だ。だが巧は重さを受け入れ、ベルトに向かって携帯を振り下ろす。

 ―― Complete ――

 電子音とともに、赤いラインがベルトから、脚と腕を沿って身体を包んでいく。
 光が瞬いて、黒い強化スーツを一瞬で精製する。
 銀のアーマーが胸を覆い、ギリシャ文字のφを模した頭部は、金の瞳をコーカサスビートルアンデッドに向けていた。
 右腕を振って、ファイズは装着の違和感を緩和させる。幾千と繰り返したその仕草は、もう戦いの合図となっていた。
「うおぉぉぉぉ!!」
 雄たけび、コーカサスビートルアンデッドに向かって拳を振るう。
 障壁に阻まれ、弾かれるが、諦めず再度攻撃をする。
 ファイズは何度も、何度も障壁を殴りつける。その様子を見てコーカサスビートルアンデッドは呆れたように呟いた。
「無駄だよ。分かんない?」
「うるせぇ!! 真理はな、俺が救世主だって言ったんだよ! 夢を守ってくれたって言ったんだよ!!
正直重てぇよ! 逃げたいよ! けどな、いろんな職業から、人から逃げてきた俺だけど……」
美容師になる夢を嬉しそうに語る真理。アイロンがけに四苦八苦していた自分に、アイロンのかけ方を教えた真理。
 自分に当り散らし、その事を謝った真理。美容院での実施試験の結果がよかったのか、嬉しそうに帰り道を歩く真理。
 もう、その真理に逢えない。だが、彼女が託した言葉。
 闇を切り裂き、光をもたらす。仮面ライダー。

「あいつの言葉からだけは、ファイズからだけは、逃げるわけにはいかないんだよぉー!!」

 二度と、真理のような犠牲は出したくない。ファイズである巧の願いはまだ叶わないだろう。
 放送で聞こえた死者の数。それは殺し合いに乗った人間が多い事を示していた。
 目の前のコーカサスビートルアンデッドも、その一人かもしれない。
 だから、自分の願いを叶える為ファイズは拳を振るう。
 奇しくもそれは、未来の乾巧が抱いた『夢』の為に戦う姿だった。
「電パンチ!!」
 ファイズの左隣にストロンガーが並び、拳を振るった。電気が迸り、ファイズの視界を白く染め上げる。
「なかなかいい叫びっぷりじゃないか。後輩」
「勝手に先輩面すんな!」
「するさ。お前みたいな、気持ちのいい仮面ライダーの前ではな!!」
「てりゃっ!」
 今度はファイズの右隣で霞のジョーがサイを障壁に突き刺していた。
 嬉しそうに、視線を仮面ライダーたちに向ける。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ。闇を切り裂くのは仮面ライダーだけじゃねえ。
俺だって、人間だって闇を切り裂いてやる! 行くぜ、ストロンガー、ファイズ!!」
 その声に応えて、三人は障壁に拳を押し込んだ。
 余裕を見せるコーカサスビートルアンデッド。それもそうだろう、障壁は一向に崩れない。
「提案だけど、君たちの支給品を置いていくなら、命だけは助けてあげるよ。どう?」
「断る!」
「ふざけんな!」
「黙っていやがれ!」
 ファイズの目の前で、コーカサスビートルアンデッドがやれやれと言いたげに首を振るう。
 その様子に苛つきながらも、拳は一向に前に進まない。
 コーカサスビートルアンデッドが剣を大きく振りかぶり、死刑執行人のように力を溜める。
 それでも、ファイズは拳に力を込めるのをやめない。
 周りの二人も一緒だ。逃げない。
 それが仮面ライダーかと、ファイズは少し嬉しく思う。真理が願いを託した相手は、間違っていない。
 いっそう力を込めた。無慈悲にも、剣が高速で迫ってくる。


 あきらが目を覚ましたとき、自分たちを助けてくれた黒いロングコートの男、木野が目の前にいた。
 そして、後ろには見慣れた少年が佇んでいた。
「安達くん!!」
「…………なんだよ。天美」
 彼の頑なな態度に疑問を浮かべながらも、知り合いが無事な姿を見て喜ぶ。
 続けて、巧たちを探して首を振る。
「乾くんなら、あそこで戦っている」
「乾さ……巧さん!」
 金のカブト虫の魔化魍が剣を振り上げている。巧の危機に、あきらはつい名前のほうを呼んだ。あのままでは三人が危ない。
 木野に助けを求めようと視線を向けるが、彼は悔しそうに首を振った。
「すまない。首輪の所為で、俺は後一時間強は変身ができない」
「そんな……」
 そういえば、巧も浅倉に襲われたときは変身できなかった。
笛を吹いて、音波を額にかざすが、身体が変化する予兆がするだけで、一向に身体が変わらない。
 歯噛みする彼女の目の前で、コーカサスビートルアンデッドが剣を振るった。
 木野が飛び出し、助けようとする。自分も動くが、間に合わない。

「やめてぇー!!」

 力いっぱい叫ぶ。巧は、この殺し合いの場で自分を助け、慰めてくれた恩人だ。
 そして、自分を守ってくれた人。その巧が、殺されようとしている。
 身が引き裂かれるような想いに動かされ、腹に力を込めて叫んだ。
 想いを込めたあきらの悲鳴に、青い影が剣を弾いて飛び込んできた。
「なに!」
 コーカサスビートルアンデッドの疑問を無視するように、青い影はあきらに纏わりついてくる。
「トンボ……?」
 そのトンボ型のメカは、彼女をある場所へと誘導している。すぐ傍にある、なにかのグリップ。
 あきらはそのグリップを取り、構えた。なにが起きるかは分からない。だが、これが一番いい行動のような気がした。
 トンボがそのグリップに向かって飛び、装着される。

 ―― HENSHIN ――

 グリップより、装甲が精製され、彼女の身体を包む。
 その様子を、木野と明日夢が驚いた表情で見つめていた。
 風を纏うことで鬼へ変身する少女に、ヤゴを模した重装甲の青い射手が姿を見せた。
 彼女は戸惑うように両手を見つめている。
「天美さん、そのまま乾くんたちを援護するんだ!」
「は、はい!」
 彼女は銃を構えて、引き金を引く。発射された銃弾が敵の装甲に弾かれる。
 狙いはいい。何しろ、彼女は銃に似た音撃武器、音撃管の使い手だからだ。
 だが、ドレイクの銃はコーカサスビートルアンデッドを怯ませることもできない。
 自分は巧の力になれないのかと、悔しそうに歯噛みした。


「僕を傷つける者はいないって事さ。さあ、続きを……」
 コーカサスビートルアンデッドの声が途中で止まる。それもそうだろう。
 ピシッと言う音をたて、障壁にひびが入ったからだ。
「なッ!」
「「「りゃぁぁぁぁぁぁ!!」」」
 三人の叫びが重なり、木に障壁ごとコーカサスビートルアンデッドの身体を吹き飛ばす。
 続けて、ファイズはファイズポインターにミッションメモリーを装着した。

 ―― Ready ――

 そのまま脚に装着し、ファイズが跳ぶ。
「ジョー、俺とファイズのキックが当たる瞬間、こいつの赤いボタンを押してから斬り込め!」
「っと、とと。おい!」
 ストロンガーがジョーにパーフェクトゼクターを預け、ファイズと並ぶように跳ぶ。

 ―― KABUTO POWER ――
 ―― EXCEED CHARGE ――

 ファイズの脚から光が放たれ、まだ倒れているコーカサスビートルアンデッドに赤い三角錐のエネルギーを展開させる。
 そのまま右足を敵に向けるファイズとストロンガー。それに合わせて、ジョーが走る。
「ヤアアアァァァァァッ!!」
「電! キィィィ――ック!!」
「うおりゃぁ!」
 ファイズはエネルギーを纏い、障壁を貫かんと迫った。
 ストロンガーは脚を放電させ、障壁に蹴りを放つ。
 ジョーが剣の引き金を引き、赤い光を剣に纏わせた。

 ―― Hyper Blade ――

 衝撃が、三人の身体を駆け巡る。先程ひびが入った障壁を侵略し、ビキビキと音をたてさせる。
「馬鹿な……」
 コーカサスビートルアンデッドは驚き、まだ障壁が崩れぬうちに三人を切り裂こうと構え始めている。
 急いで割らないと。ファイズがそう思ったとき、コーカサスビートルアンデッドの剣を持つ右手が爆ぜた。
 振り返ると、障壁の横から銃を構えている、あきらが変身したドレイクがいた。
(サンキュー、あきら)
 ファイズが内心呟き、最後の一押しをする。

「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉーー!!」」」

 鏡が砕けるような音が反響し、盾を貫いた三人の戦士がその攻撃を王へと届かせた。
 二つの蹴りはコーカサスビートルアンデッドの胸板を砕く。ジョーが振るった剣は腹を横一文字に切り裂いて、緑色の血を吹き出させた。
 コーカサスビートルアンデッドは木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいく。
 五、六本倒したころ、轟音が響き、粉塵が立ち込めた。
 ドレイクが近寄るが、ファイズは手で制する。まだ、倒していない。
 やがて、粉塵から折れた大樹が飛び出されてきた。狙われているのは、変身できない木野と明日夢。
「危ない!!」
 ストロンガーの声に反応して、ファイズは彼と共に二人を庇う。
 衝撃が両腕を駆け巡り、痛みを感じる。しかし、骨が折れた様子は無い。
 木野と明日夢が無事なのを確認して、ホッとする。
 飛ばされてきた先を見るが、コーカサスビートルアンデッドの姿はもう無い。
「さすがだね。仮面ライダーは追い詰めると本領を発揮するって、すっかり忘れていたよ。
僕はゲームに乗っていないから、また会う機会があるかもね。北岡によろしく言っといて。じゃあね」
 声のみを残して、敵は消え去った。
 ストロンガーがカブトキャッチャーを使うが、完全にこの場から離れたらしい。
 悔しさを浮かばせながら、これで戦いは終わりでないことにファイズは気づく。
「あいつらを助けに行く。胡散臭い奴だけど、死んでいい奴じゃない」
「私も一緒に……」
「いや、あきらはここでその男と一緒にみんなを守っていてくれ。まだあいつが戻らない保証は無いからな」
「おい、ファイズ。へばっているなら休んでていいぞ。俺が行くからな」
「誰がッ!」
 ストロンガーに応えて、ファイズは率先して走る。
 自分に並走する仮面ライダーと共に、仲間の元へと走った。


 ゾルダのマグナバイザーが銃弾を吐き出し、木の葉を一枚吹き飛ばした。
 木々の合間を縫いながらオルタナティブ・ゼロが金棒を振るう。
「危ない!!」
 アギトが庇い、手の持つ槍で受け止めている。
 今のアギトの装甲はいつもの金色ではなく青に染め、風を操るストームフォームへと姿を変えていた。
 彼はオルタナティブ・ゼロに力で押されていく。
 このままでは危ないと判断したゾルダは、敵の頭に銃口を向けて、引き金を引いた。
 オルタナティブ・ゼロは頭を動かして、飛び退く。そして、木を盾にしながら走り続けた。
 最悪だ。丘のように障害物が少ないならともかく、こうも木々が多いと、邪魔で狙いがつけにくい。
 ファイナルベント、エンドオブワールドも同様に、木々に遮られて威力を大幅に削られてしまうだろう。
 しかも、今の浅倉はオルタナティブ・ゼロ。おそらくは素早さに特化したライダー。
 これでは相手の思うままだ。なにか打開策は無いか、アギトを見つめる。
 すると、彼は納得するように頷いていた。
「考えでもあるの?」
「ええ、取って置きの作戦があります! 耳を貸してください!」
 耳を貸し、彼の提案を聞く。全てを聞き終えたゾルダは、少し肩を落とす。
「本当にできるの? そんなこと」
「やれます! 俺を信じてください」
「信じないとは言っていないけどね」
 呟いて、ゾルダは一枚のカードをマグナバイザーにセットする。

 ―― SHOOTVENT ――

 肩に装着されるギガキャノン。二門の砲身から砲弾が発射された。
 オルタナティブ・ゼロは左に軽く移動して、砲弾が通り過ぎるのを待っている。
 だが、突然風が吹く。その風を受けて、砲弾が流れ、軌道を変えた。
「なにッ!」
 流れを変えた砲弾の直撃を受け、オルタナティブ・ゼロが吹き飛ぶ。
 驚いたゾルダは、仮面の下を半信半疑の表情にして、アギトを見つめた。
 アギトはどうだ、と言いたいのか、先程まで槍を振り回していた手を止めて、胸を張って誇っている。
 このままアギトと組んでいればオルタナティブ・ゼロに勝てる。ゾルダがそう思い、敵を見つめたときだった。

「ク……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――――――!!!」

 オルタナティブ・ゼロが身体を屈伸させ、跳ね上がって飛び起きる。そのままゆらりと、幽鬼のようにこちらを見つめた。
 ゾルダの背筋にゾクッと、悪寒が走る。アギトを見つめると、自分と同じ状態のようだ。
 浅倉と対峙したとき、時々感じるこの悪寒。この時の奴はヤバイ。
「本当、お前は楽しませてくれる。北岡、おかげですっかりイライラが消えた。
続きをやろうぜ!! ハハハハハハハハハハハハハハハ――!!」
 テンションを高めに、オルタナティブ・ゼロが地面を蹴ってこちらに駆ける。
 ギガキャノンを放つが、速すぎて敵の遥か後方で土煙を上げただけだ。
 これでは風で弾道を変える意味が無い。ゾルダは戦慄した。
 奴はもっとも安全な方向を本能的に察知したのだ。
 オルタナティブ・ゼロが金棒を薙ぎ払い、再びアギトが自分を庇って受け止めている。
 しかし、重い攻撃を受けたストームハルバードは軋んで悲鳴を上げる。
 ゾルダはアギトが近すぎて、銃を使えない。
 表面的な心の内では巻き込んでも構わないと思っているが、それでは勝率が下がるだけだ。
 歯噛みして、成す術がないことに気づく。
 アギトの身体が掴まれ、こちらに投げ飛ばされる。それを受け止めながら、振り回された金棒の衝撃が身体を貫いた。
 十メートルほど吹き飛び、二人は血を吐く。特にアギトは元から負っていた傷が開いたらしい。
 せっかく癒えてきただろうにと、哀れに思う。
「さあ、早く来いよ、北岡。でないと死ぬぜ」
 その挑発を無視して、今度はアギトにゾルダが耳打ちする。承諾するように、アギトが頷いた。
 二人は震える身体を立ち上がらせる。突如、アギトが場を離れていった。
「おいおい、逃げるつもりか?」
 呟くオルタナティブ・ゼロに銃を向け、引き金を引く。
 金棒で防御する敵を前に、ゾルダは自信満々に言い放つ。
「なに、作戦さ。どんな作戦かは、お楽しみにな」
「……しばらくお前が一人で相手になるのか?」
「不満かい?」
「いいや、最高だ」
 再びオルタナティブ・ゼロが笑いながら迫る。銃弾で牽制しながら、少しずつ場所を誘導していく。
 アギトなら、自分の言う通り行動してくれるだろう。その後が勝負所だ。
 へまをするわけにはいかない。一つのミスで自分は命を落とす。
 だが、上手く事を運ばせる自信はある。話術と精神誘導は、時の弁護士としてマスコミに祭られた自分なら得意分野だ。
 それらを駆使して、敵をはめる。
(俺は不老不死になってやる。ここで死ぬわけにはいかないんだよ)
 ポケットにあるギャレンバックルの感触を肌で確かめ、ゾルダは、時間を稼ぎ始めた。


 ゾルダの指示を終えたアギトは、息を潜めてチャンスを待つ。
 風で合図は送った。後はここにゾルダが来るのを待つだけだ。
 正直、彼を一人にしたのは不安だった。だが、彼はこう言った。
(俺は口も腕前も達者なの。だから安心してやってきて頂戴)
 そのときの視線は、一瞬自分の腹を見ていた。特に酷い怪我を見て、身体を癒す時間を稼ぐつもりでもあるんだろう。
 北岡の人なりを知る人間なら、お人好し過ぎると指摘するだろう思考をアギトはする。
 短くも、長くも感じる時間のなか、アギトの待ち望んだ人物は現れない。
 合図からは結構時間が経っている。どうしたのだろう。
 不安のまま、アギトはゾルダを待ち続けた。


 合図の風が、ゾルダの右に小さく渦巻く。アギトと決めた、準備終了の印。
(意外と早かったじゃない)
 時間稼ぎは終わった。後は、誘導だ。オルタナティブ・ゼロと並走して、銃弾を放つ。
 今まで移動しながら銃を放っていたのは、この時の為。場所を誘導しているのを悟られない為だ。
 もっとも、こちらの目的を知ってもオルタナティブ・ゼロは誘いに乗っただろう。
 それほど戦闘狂なのだ。目の前の敵は。
 もちろん、悟られないように慎重に事は運ぶ。作戦を知られていると知られていないでは、結果が違う。
 今は敢えてアギトの消えた方向へと向かっている。それで敵が興奮してきているのが見て取れた。
 アギトと自分が何か作戦を持っているのに期待しているのだろう。
 やがて、目的の地に着く。そこで、ゾルダは銃弾を一発放ち、感嘆の声を上げる。
「……津上の奴、上手くやったな」
「? 何もないじゃないか」
「馬鹿には見えない仕掛けさ。攻めて来いよ。今に分かるから」
「そうかッ!」
 嬉しそうにオルタナティブ・ゼロが金棒を突き出し、ゾルダが吹き飛んだ。
 空気を吐き出し、地面に叩きつけられ悶える。さすがに強力だ。
「おい、どうした? 策って奴を出してみろ」
「だから、これが策だって」
 叫びならオルタナティブ・ゼロが金棒を振り上げる。
 火薬の爆ぜる音が響くが、敵は身を庇うこともしない。
 またも、金棒に吹き飛ばされる。
「……なにつまらないことしているんだ! 立て!!」
「言われなくても……立ちますって……」
 だらりと脱力したまま、右腕を向ける。銃弾がオルタナティブ・ゼロの兜を跳ねる。
 しかし、敵は身体を震わせるのみ。
「ただのはったりか!? 北岡ぁぁぁ!!」
「まさか。はったりは使うけど、それは全部自分の為だって」
「だったら今すぐ自分の命を救ってみせろ!!」
 敵に身体を蹴り上げられ、妙な浮遊感に包まれた。
 ドサッと音がして、衝撃が身体を駆け巡る。立つのも困難だ。
「……お前さ、俺が命乞いの真似をしたとき、怒りまくっただろ」
「それがどうした」
「あの時お前、周り見てなかったよ。今回と一緒でな」

「ハァァァァァ、ハァッ!!」

 アギトが飛び出し、蹴りをオルタナティブ・ゼロの背中に放った。
 数十メートルほどの距離を敵が吹き飛ぶ。飛ばされた先で、四つん這いで周りを不思議そうに見回している。
 それもそうだろう。樹海の中、木々が倒されて、障害物が無くなって広くなった場所にいるのだから。
 気づかないのも無理はない。それくらい微妙な距離だった。もう少し近付かれたら、気づかれただろう。
 自分は銃弾を放ち、反響する音でちゃんと取り除かれているか確かめた。
「だから言っただろ。馬鹿には見えない仕掛けだってな」
 ゾルダはアギトの肩を借り、立ち続ける。マグナバイザーにカードをセットした。
 閉じると同時に、男の低い声が、電子音として発せられた。

 ―― FINALVENT ――

 現れた巨人とも言うべきシルエットは、あらゆる砲身を敵に向けた。
 その背中に自分の銃身を接続して、視線をまっすぐ向ける。
 弁護した時からの浅倉との因縁も、これで終わりだ。
 こちらの必殺の砲撃を邪魔する障害物はアギトが取り除いてくれた。
 わざわざ、攻撃を受けながらも冷静さを失わせ、こちらに身体を張って誘導した甲斐があった。
 これで、必殺の一撃が放てる。

「お前との腐れ縁も、これでお終いさ!」

 言い終わると同時に引き金を引いて、動く火薬庫ともいえるマグナギガの火器を吐き出させる。
 火柱が上がり、稲妻の轟くような轟音が上がる。
 爆発が起こって、土が舞い上がり、ゾルダとアギトの身体に積もっていった。

「やったか?」
「見たいですね」
 二人は顔を見合わせ、とりあえず拳を突き合せた。
 まだ油断はできないが、とりあえず無事ではすまないだろう。
 時間が経つごとに、浅倉との鬱陶しい因縁も終わりかもしれないと思うと、心が躍った。
 邪魔としかいいようが無い奴だ。食い物を奪う、秘書を誘拐する、家を荒らす。
 自分的にも、世間的にもいらない存在でしかない。やっと肩の荷が下りた。
 ゾルダが、迂闊にもそう思った瞬間だった。
「うわっ!」
 アギトが、黒い影に締め上げられたのは。これはミラーモンスター
 なら、浅倉は死んでいない。粉塵の向こうに影が見えている。三連射を影へ放った。
 ドスッという音が、下より聞こえてきた。血が自分の口から吐き出される。腹が熱い。
 視線を下に向けると、自分の腹から剣先が生えていた。
「北岡さんッ!!」
 アギトの叫び声が聞こえる。変身している体力も失っていく。
 変身が解けたと同時に、煙が晴れた。そこには、柄を突き立てられた金棒が、三発の銃弾を受けて立っていた。
「便利だよな。このカードデッキは。動きを速くするカードが混じってやがる」
 爆音に電子音を隠して、剣とモンスターを召還し、動きを速くして攻撃をかわしたのだろう。
 敵は剣を捻って、腸を絡ませている。ぶちぶちと千切れていく音を耳に、北岡は崩れ落ちる。
 ズルズルと腸の絡まった剣を片手にオルタナティブ・ゼロが佇んでいた。
(俺は死ぬのか? 冗談じゃない! 俺は……)
「楽しかったぜ、北岡。おかげですっかりイライラが収まった」
 続けて、敵が押さえつけられているアギトに視線を向ける姿が眼に入った。
「お前とも、また遊ぼうな。ストロンガーにも同じ言葉を伝えてくれ」
 オルタナティブ・ゼロがスラッシュバイザーにカードを通す。

 ―― WHEELVENT ――

 ゾルダとは違った、女の声をした電子音が樹海に響く。
 その声を受けて、モンスターがバイクに変形しながらオルタナティブ・ゼロの傍に立った。
 彼はゾルダのデッキを拾う。
「こいつは記念にもらっておく。じゃあな」
 排気音を響かせ、その場を去っていった。アギトが制止するが、虚しく響くしかない。
 モンスターが一分間しか存在しないのを、北岡は確認している。しかし、たとえ一分間でもそうとうの距離を稼ぐだろう。
 そして、まだ変身時間は三分ほど残っている。絶望的なほど、追いかけるのは無理だ。
 アギトは自分の傍らに立ち、必死に名前を呼んでいる。
(不老……不死に……な……)
 誰かが駆けつける足音が聞こえる。
 遅いよ、と内心愚痴り、彼は意識を手放して、永遠に戻ることは無かった。


 北岡秀一、その男、ゾルダ。
 彼は法廷では望み通りの展開をし、勝ち続け、時にはわざと負けて利益を得続けた。
 ライダーバトルも同様に、不老不死を得るために参加した。
 だが、ここは法廷ではない。
 殺し合いが行われる、殺人遊戯場。
 ここにおいて、法廷の勝利者は脱落をしてしまった。


 盛り上がった土に、木の板が立てられていた。十分ほどで作った簡易的な墓の前で男女が悲しみに沈んでいた。
 特に巧などは、自分への怒りで身体を震わせている。迂闊な事を言ったのではないか、後悔しているのだろう。
 茂は、振り返り、両拳を合わせた。
「どこに行くつもりだ」
「……津上、そいつは東に行ったんだよな?」
「はい」
「分かった」
 茂が簡潔に告げて、その場を去ろうとする。
「待て」
「止める気か? あいつは、風見さんに続いてそいつを殺した。許しては置けねえ」
「違う。俺も一緒に向かおう」
 その言葉に、明日夢を除く全員が次々と木野と同じ言葉を出そうとしたときだった。

『あーあー、マイクテスト中。みんな聞こえてるー!?』


 幼い声から出された真実に、巧は膝をついて、身体を震わせていた。
 無理もない。仲間を喪った直後に、大切な者の死体を弄ばれた事を知ったのだ。
 特に彼は北岡を疑ってしまった為、彼の死に人一倍後悔していた。
 その上、夢を託した少女を、埋葬することすら叶わない事実が明らかになった。
 口から漏れるのは、警戒した犬のような唸り声。
 やがて、巧は天を仰いだ。

「ウオオオォォォォォォォォォォォッ!!」

 後悔と怒りを混ぜて、吠えている。それを痛ましげに見つめている少女。

 巧は想う。
 美容師になる夢を嬉しそうに語る真理。アイロンがけに四苦八苦していた自分に、アイロンのかけ方を教えた真理。
 自分に当り散らし、その事を謝った真理。美容院での実施試験の結果がよかったのか、嬉しそうに帰り道を歩く真理。
 もう、その真理に逢えない。そして、彼女の死は汚された。
 真理を埋葬することも、叶わない。

 やがて、巧は立ち上がり、ふらつきながら声のした方向へ歩いていった。
 それを茂が止める。
「離せッ!」
「待てよ。俺も参加させろ」
 巧が顔を上げ、茂を見つめる。その顔に鬼の表情を浮かばせた男に、彼の怒りの深さを垣間見た。
「ふざけているよな。浅倉にしろ、この声の主にしろ。こいつらが命を軽く扱ったなら、俺はお返しにこいつらの命を軽く扱う。
お前らも気合を入れろ! こいつらを……倒す!!」
 その怒声に、皆の気が引き締まる。やがて、茂はどかっと、座り込んだ。
「まずは休憩だ。変身できるようになるまで、休むぞ。いいな」
 皆が無言で頷く。その様子を確認し、茂は寝息を立てた。
 浅い眠りの中、静かに怒りながら。


 ジョーは懐中時計を見つめる。
水のエル、まだアギトは見つかっていない。それに、探すのが少し遅くなっちまう。
すまねえ。けど、このふざけた奴と浅倉を倒したら、必ずアギトを探す。だから安心して眠っていてくれ)
 そのまま握り締め、決心する。明日夢を見ると、知り合いに会えたっていうのにまだ沈んでいた。
 彼を立ち直らせたい。だから、彼が行った事はまだ自分一人の胸に収めておく。
 ジョーは拡声器を使った声がした方向を睨みつけた。

 霞のジョーは、傍にいる二人が『アギト』である事を、まだ知らなかった。


(ふざけてる……)
 明日夢はあきらが持っているドレイクグリップを見つめて、不満を心の中で吐き捨てた。
 その瞳は嫉妬で満ちている。なぜなら、彼があきらからドレイクグリップを借りたところ、ドレイクゼクターは影も形も見せなかった。
 しかし、あきらに返した瞬間、呼んでもいないのに姿を見せた。
 彼女はその変身道具に選ばれたのだ。仮面ライダーとして。
(鬼に変身できるらしいし、何でそんな天美を選ぶんだ。力の無い僕を選べよ。不公平だ)
 デイバックの中にある冷たく輝くスマートバックルを握る。
 その固い感触だけが、明日夢に安心を与えていた。
(仮面ライダーなんて、嫌いだ)


「津上、頼みがある」
 木野の真剣な表情を見つめ、津上は気を引き締める。
 北岡の死は悲しいが、沈んでいるだけではいられない。
「なんですか?」
「もし、この戦いが終わって、皆が無事に帰れたとしたなら、お前が俺を殺してくれ。仮面ライダーとして」
「なッ! そんなことできるわけ無いじゃないですか!!」
「……俺はこのギャレンのバックルの持ち主、橘を殺した。そして、北岡を救えなかった。
俺に仮面ライダーである資格は無い。だが、橘の遺志を無駄にするつもりも無い。北岡の仇も討つつもりだ。
だが、この殺し合いの後は……」
「……ずっと、闇を切り裂き続ければいいじゃないですか」
 驚いた表情で、木野がこちらを見つめる。
 なんで彼はこんな簡単なことに気づけないのだろう。
「木野さんは、橘さんが死んだとき、傍にいたんです。彼が生きていたら、きっとしていた事を一番しないといけないのはあなたです。
だから、橘さんの変わりに戦ってください。俺も、北岡さんの代わりに、浅倉を倒しますから」
「津上……」
 続けて、拡声器を通した声がした方を向く。
 話に聞いた勇気のある少女を弄んだ悪魔。倒さなければならない。
 津上は、仮面ライダーとしての決意をいっそう固めた。


 木野は、津上の言葉を胸の内で繰り返していた。
 橘と北岡の死を無駄にしない。その為には、この殺し合いを終わらせねばならない。
 ギャレンバックルを握り締める。これを託す相手はもう決めた。
 仮面ライダーレンゲル、上条睦月。
 橘は、彼を闇から救って欲しいといっていた。なら、これの渡すべき相手は彼以外いない。
 木野は、ギャレンバックルを強く握り締めた。


 激闘の三十分を潜り抜けた戦士たちは、ひとまず羽を休めた。
 だがそれは、新たなる戦いの前触れに過ぎない。
 彼らの戦いは、光をもたらすのだろうか。そのメンバーには分からなかった。
 それでも、彼らはそれぞれの希望の為、歩みをやめなかった。



北岡秀一 死亡】
残り28人
【浅倉 威@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海C-8】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:左目負傷、全身に大程度の負傷(打撲、火傷など)、大程度の疲労。腹は満腹。
    清々しい気分。二時間変身不可(オルタナティブ・ゼロ)。一時間半変身不可(デルタ)。
[装備]:デルタフォン、デルタドライバー。音撃金棒・烈凍。
    カードデッキ(オルタナティブ・ゼロ)。
[道具]:ファイズブラスター。三人分のデイバック(風見、北崎、浅倉)。
    グランザイラスの破片。カードデッキ(ゾルダ)。
[思考・状況]
1:寝る。
2:その後、津上とかいう奴や、ストロンガー、あきらを殺しに行くのもいい。

キング@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海A-6】
[時間軸]:キングフォーム登場時ぐらい。
[状態]:全身に負傷大。疲労大。二時間変身不可。
[装備]:携帯電話
[道具]:なし
[思考・状況]
1:今回は失敗。休もうかな。
2:レンゲルとのゲームのため、ラウズカード探し。
3:この戦いを長引かせる。そのため、支給品を取り上げる。
4:戦いに勝ち残る。まだまだ面白いものも見たい。
5:今は戦うつもりは無い。
6:北岡に興味。しばらくしたら、また会おう。

天美あきら@仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海B-6】
[時間軸]:中盤くらい
[状態]:全身のダメージ小。応急処置済み。二時間変身不可(ドレイク)。一時間三十分変身不可(鬼)
[装備]:破れたインナー、鬼笛。ドレイクグリップ&ドレイクゼクター。
[道具]:なし
[思考・状況]
1:巧が心配。
2:明日夢と合流ができてよかった。
3:放送の主(ドラス)と浅倉を倒す。
4:天道さんを助ける。
※ディパック、変身鬼弦(裁鬼)、音撃弦・閻魔はC-6(浅倉と戦った辺り)に落ちてます。

安達明日夢@仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海B-6】
[時間軸]:番組前期終了辺り。
[状態]:右手の中指先端欠損、全身の打撲。応急処置済み。
[装備]: デイパックニ人分(加賀美、影月)。影月は支給品不明です。 スマートバックル。
[道具]:果物ナイフ数本。
[思考・状況]
1:暫くはジョーと行動する。
2:なんで天美なんかを選んだんだ。不公平だ。
※アクセルレイガンは樹海エリアC-4に放置されたままです。

【乾巧@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海B-6】
[時間軸]:中盤くらい
[状態]:全身に負傷中。疲労中。応急処置済み。二時間変身不可(ファイズ)。
[装備]:ファイズドライバー、ファイズフォン
[道具]:ミネラルウォーター×2(一本は半分消費) カレーの缶詰 乾パンの缶詰 アイロンを掛けた白いシャツ。
[思考・状況]
1:放送の内容に絶望。
2:放送の主(ドラス)と浅倉を倒す。
3:神崎をぶっ飛ばす。
4:天道を助ける。
5:草加とも出来れば合流したい。

【木野 薫@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海B-6】
[時間軸]:本編38話あたり
[状態]:全身に小程度の負傷(打撲、火傷、刺し傷など)、中程度の疲労。
    応急処置済み。一時間三十分変身不可(ギャレン、アギト)。
[道具]:救急箱。精密ドライバー。バタル弾。ディスカリバー。GA-04・アンタレス。
    配給品一式×4(北岡、睦月、木野、キング)。ギャレンバックル。ラウズカード(ダイヤのA、2、5、6)。
[思考・状況]
1:放送の主(ドラス)と浅倉を倒す。
2:橘の遺志を継ぎ、闇を切り裂いて光をもたらす。
3:北岡の仇をとる。
4:無力な人たちを守る。
5:医師の使命を忘れない。
6:ギャレンバックルを睦月に渡したい。
※バタル弾は改造人間のみに効果あります。

【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海B-6】
[時間軸]:本編終盤。
[状態]:負傷中。疲労中。応急処置済み。二時間変身不可。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:放送の主(ドラス)と浅倉を倒す。
2:木野さん、死んじゃ駄目ですよ。
3:元の世界へ帰る。
4:氷川、小沢と合流する。
※首輪の能力制限により、一日目のみバーニング、及びシャイニングフォームへの変身は制限されています。

【霞のジョー@仮面ライダーBLACKRX】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海B-6】
[時間軸]:クライシス壊滅後。
[状態]:全身に打撲。負傷大。疲労大。応急処置済み。
[装備]:サイ
[道具]:オルゴール付懐中時計
[思考・状況]
1:放送の主(ドラス)と浅倉を倒す。
2:水のエルの使命を全うする(アギトを倒す)
3:兄貴と合流。
4:明日夢が心配。

【城茂@仮面ライダーストロンガー】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:樹海B-6】
[時間軸]:デルザー軍団壊滅後
[状態]:全身に負傷中。疲労中。応急処置済み。二時間変身不可。
[装備]:V3ホッパー、パーフェクトゼクター
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:放送の主(ドラス)と浅倉を倒す。
2:変身準備ができるまでとりあえず休む。
3:殺し合いを阻止し、主催者を倒す。
4:明日、ジェネラルシャドウと決着をつける。
5:自分に掛けられた制限を理解する。
※首輪の制限により、24時間はチャージアップすると強制的に変身が解除されます。
※制限により、パーフェクトゼクターは自分で動くことが出来ません。
 パーフェクトゼクターはザビー、ドレイク、サソードが変身中には、各ゼクターを呼び出せません。
 また、ゼクターの優先順位が変身アイテム>パーフェクトゼクターになっています。

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最終更新:2018年11月29日 17:38