私から私へ。――From me to me.――

「……ウ……ァ……」
寂れた町の駐車場で、苦しそうな声を上げる男が一人。
その男―――リュウガ―――。
息を吐くたび、体に刻まれた傷から血が流れていく。
いくら強い執念でも、先程の傷跡は拭えなかった。
あれほどの傷を負ったのだ。死ぬまで行かなくても、しばらく安静にしなければならない。
だが、彼は止まらない。止まれない。
約束したからだ。この戦いを終わらせる、と。
(そうだ……こんなところで……死ぬわけには……)
震える体に活を入れ、立ち上がる。
壁に凭れ掛かりながら歩いていくと、階段が見えた。
その先を目で追っていくと――――――。
「……ここ……は……」
今まで気付かなかったが、どうやら何かの店らしい。
小さな看板には、ただ『Jacaranda』と刻まれていた。
「……ハカランダ……?」
聞いたことのない名に、聊か引っかかるものがあったが、無視して進むことにした。
扉を潜り、中に入る。
さっぱりとしたカウンターと、それに合わさる形で置いてあるいくつかの椅子。
其処で彼は気付いた。ここは喫茶店だと。
「…………ハァ。」
その辺の椅子に腰掛け、体重を背凭れに預けた。
それに伴い、視線が自然と上を向く。
ぼんやりした頭で、真っ白な天井を見上げた。
支えてくれるものがある所為か、少しだけ安心する。
(この戦いの中で安心する時が来るとは……俺も変わったものだな。)
表情には出さなかったが、リュウガは心の内でそっと自嘲の笑みを浮かべた。
店の中を見渡し、あぁ、そうかと納得する。
何故自分が安心できたのか。
ここは、あの花鶏に近いものを感じる。
(そういえば、あいつを吸収した場所も花鶏だったな。)
ここに来る前のことを思い出す。
今にして思えば、あの時以前の事を思い出すのは初めてだったかもしれない。
(あいつも、こんな気持ちだったのか……)

コツン。

「……?」
音と共に、足元に感じる違和感。
見ると、三枚のカードがご丁寧にもケースに収まって置いてある。
それぞれ、蛾と駱駝、そしてカメレオンが意匠化されていた。
リュウガは、そのカードが何なのか知っていた。
今まで戦ってきたライダーの何人かがこれと同型のカードを使っていた。
――――その名を、ラウズカード。不死の怪物を封じ込める札。
瞬時にこのカードを使える四人の人物が頭に浮かぶ。

まず、ギャレン。本来の装着者である橘は先程の放送の通り既に死亡しているが
それを木野が受け継ぎ、新しいギャレンとして戦っていた。

続いてブレイド。こちらも正装着者の剣崎は死亡してしまったが
神城が擬態し、剣崎としての意識もあったはず。
この二人に渡せば、まず心配ないだろう。

それにもう一人。カリスと呼ばれる黒衣のライダー。
最初に戦ったときはともかく、ジャークとの戦いに加勢してくれた時、その瞳には正義の炎が宿っていた。
多少不安要素はあるが、このカードのうち二枚はカリスの操るハートスート。
力を活かすという考え方で行けばこちらに渡す方がいいのだろうか?

レンゲルは………最早論外だ。
カードを懐に仕舞いこみ、席を立った。
扉を開け、一度だけ振り返る。
が、すぐに前を向きなおす。
外に出ると、やけに盛り上がった土が目に入る。
近くに駆け寄り、少し掬い上げてみた。
「軟らかい……」
土を握り締めたリュウガは、何故こんな物があるのかと考えを巡らせる。
(土が軟らかいということは、ここが一度掘り返されているということ。)
リュウガの頭の中でいくつかの考えが浮かんでは消えていった。
(仮に物を託すためだとしても、誰も気付かなければ無駄骨になるし、第一埋める必要がない。)
其処まで考えて、頭の中である一つの可能性に行き着く。
ここを掘り返して、何かを、いや――――。
(もし、埋めるという行為自体に意味があるとしたら……!)
――――“誰か”、を……?
「……まさか!?」
手が泥に塗れるのも構わず、リュウガは其処を一心不乱に掘り出した。
他人の墓を掘り返すというのは余りいい気のするものではないが、そんな事を考えている余裕はなかった。
土を掘っていくうちにだんだん手応えが出てくる。
そうして出てきたものは、リュウガの予想していたものと同じだった。
「……城戸、真司……ッ」
そう、もう一人の自分。
土埃を被って所々汚れてはいるが、その顔を見間違えるはずはない。
「おい。」
体を揺さぶりながら呼びかけるも、返事はない。
「城戸……ッ。」
呼びかけるリュウガの目から、少しづつ雫が零れ落ちる。
瞬間、リュウガはあることに気付く。
「今なら……城戸を……」
そう。今なら、自分の悲願だった城戸真司を吸収することが出来る。
城戸真司を吸収し、最強のライダーになって――――。

「………?」
………そして、どうするんだ?
城戸真司を吸収し、その後はどうするんだ?
リュウガの脳裏にある出来事が再生される。

それは、丁度太陽が今の月と同じ場所に在った時。
あの時天道と共にシャドームーンを退けた後、皆の元へと向かっている途中の出来事。
「会いたい者に会えないと言う物は辛いが、心配するな。」
突如、天道が口を開いた。
「……!」
「そんな顔をしている。まるでさっきまでの俺のようだ。」
リュウガが疑問を口にする前に、その口から答えを出す。
「………お前に何がわかる。」
「お婆ちゃんが言っていた。傍にいないときは、もっと傍にいてくれるってな。」
天道はなんでもないといったように、祖母がかつて自分たちに伝えてくれた格言をリュウガに伝える。
「そいつとお前がどういう関係なのかは知らないが、お前が想って居る限り、心はお前の傍にある。」
その言葉を聞き、リュウガの足が止まった。

回想を終え、リュウガは再び城戸と向き合う。
「……城戸、もしお前の心が、今も俺のそばに居るのなら……」
――――もし、俺なんかの傍に居てくれるのなら――――
「……その骸は、俺の中に仕舞っておく事にしよう。」
――――せめて、いつでも会えるように――――
リュウガは、誰に言うわけでもなく、一人呟いた。

横たわっている城戸の手を取り、ゆっくりと自分の中へと沈めていく。
半分ほど行った所で体を起き上がらせ、慎重に体を重ね合わせる。
結合部が光を放ち、段々熱を帯びて、二つの体は一つになった。
「…………。」
軽く手を結んだり開いてみる。
これと言って、余り変化がない。
だが、少しだけ体が軽くなった気がする。

―――彼には知る由もなかった。
もし、ここに来なかったらどうなっていたのかが。
掘り返した墓を元通りにし、静かに黙祷する。
すっくと立ち上がり、歩き出そうとしたその時――――。
「……俺の出来なかった分まで、頑張れよな。」
聞こえてくることのない声を耳にし、すぐさま振り返る。
無論誰も居るわけはなく、在るのは簡素な墓の跡だけ。
すっ、と風が頬をなでる感触。
聞こえるはずない。聞こえるはずないのに。

窓の方を見ると、呼んでも居ないのにドラグブラッカーがこちらを見ていた。
いや、それだけじゃない。
龍騎の契約モンスター、ドラグレッダーも居た。
「……何の用だ。」
呼びかけてみるも返事はない。それも当たり前の話なのだが。
星が光る空を向き、語り掛ける。
「心配するな、俺は死にはしない。絶対に生き残り、このふざけた戦いを終わらせる。」
その様はまるで、自分と、自分の中にいるもう一人の自分に向かって言い聞かせているようだった。

しっかりと前を見て、力強く足を踏み出す。
(……そういや、皆が何処に居るのか知らなかったな。)
回りを見渡していると、一際大きな建物が目に入る。
(とりあえず、あの建物に上って探してみるか。)
リュウガが目指しているのはE-4エリア。
それは奇しくも、仲間が集う場所であった。
(出来れば、しばらく歩いていたいな。)
そんな事を考えながら、リュウガは足を進めていった。
【リュウガ@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:夜】
【現在地:市街地E-6】
[時間軸]:劇場版登場時期。龍騎との一騎打ちで敗れた後。
[状態]:体の所々に負傷。特に背中。応急処置済み。左手の骨にヒビ。額、腹部、右掌から流血。
[装備]:カードデッキ(龍騎)。カードデッキ(リュウガ)。装甲声刃。
[道具]:ラウズカード(ダイヤの10、ハートの8と9)
[思考・状況]
1:一刻も早く小沢を助ける。
2:必ず生き残り、バトルロワイアルを終わらせる。
3:E-4エリアのビルに行き、屋上から皆を見つけ次第合流。
4:天道の遺志を継ぎ、ひよりを守るために戦う。
5:神崎に反抗。
6:自分の今の感情の名を知りたい。
[備考]
※1:ドラグブラッカーの腹部には斬鬼の雷電斬震の傷があります。
※2:コンファインベントはリュウガのデッキに組み込まれました。
※3:城戸真司の遺体はリュウガに吸収されました。本人の意思により、解放が可能です。

[大集団全員の共通事項]
時間軸にずれがあること、異世界から連れてこられたことは情報として得ました。
仲間である人物と敵であろう人物の共通認識がされました。

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最終更新:2018年11月29日 17:45