走・想・蒼太 ◆i1BeVxv./w



 アクセルラーのライトが闇を照らした。
光を得て、顕になっていくのは都市部とは異なる石造りの建物。
 何か得体の知れない化け物を模したかのような石像があるかと思えば、恐怖に震える人間のような石像もある。
 だが、石がどんな形であるかなど、今はどうでもいい。
 ここに誰かいるか、それが尤も優先されるべき事柄だ。
 五感を研ぎ澄ませ、誰もいないことを慎重に判断していく。
「ふぅ~、誰もいないみたいだ。とりあえず、ここは安心かな」
 最上蒼太は安堵の溜息を吐くと、アクセルラーを懐へと収め、傍らに佇む日向おぼろに声を掛けた。
「それにしても危ないところでしたね」
「………」
 返事がない。
 蒼太がおぼろの顔を見ると、その顔は青ざめていた。
 訓練とは違う本物の殺気。殺すことに躊躇いのない相手。圧倒的な実力差。
 おぼろにとっては全てが初めて味わう恐怖。そして、当面の危機は去ったが、殺し合いは未だ続いている。
 おぼろが言葉を失うのも無理はない。
「大丈夫です」
 俯くおぼろの肩に蒼太の手が置かれた。細身とはいえ、おぼろと比べれば大きな手。
 おぼろが顔を上げると、眼の前には蒼太の笑顔があった。
「僕があなたを守ります。だから、そんな顔しないでください」
 掛けられた力強い言葉に殺し合いが行われていることを、おぼろは一瞬ではあるが忘れてしまう。
 そして、それと同時に今まで暗く沈んでいた自分の心が浮上していくのを感じた。
(そや、落ち込んでいても良いことなんかない。こんな様じゃあの子たちに笑われおうてしまうわ)
 おぼろの脳裏に浮かぶのは落ちこぼれながら、伝説の後継者として頑張る3人の姿。
 自分と同じ恐怖を味わったというのに、懸命に戦うハリケンジャーの姿だ。
「ありがとう、心配してくれて。でも、もう大丈夫やわ。元気出たでぇ!」
 多少引きつってはいたが、おぼろは今自分が出来る精一杯の笑みを返す。
「そういえば、自己紹介がまだやったな。うちは日向おぼろ」
「僕は最上蒼太です。改めて宜しくお願いします」
 手を差し出す蒼太。それが友好の握手であることをおぼろは理解すると、その手を握り返した。


「うちを助けてくれたってことは、蒼太君は殺し合いをするつもりはないんやな」
「ええっ、もちろんです。一刻も早く仲間を集めて、こんなところから脱出しましょう」
 自己紹介を終え、おぼろの傷の手当てを行いながら、互いの情報を交換する。
 といっても、有益な情報といえば、自分の知り合いが誰で、殺し合いに乗るような性格なのか程度。
 この殺し合いについての様々な事柄は謎のままだった。そんな中、やがて支給品へと話しは及ぶ。
「僕の支給品は1つ。とは言っても実質2つのようなものですけど」
 蒼太はディパックから自らの支給品を取り出す。
 赤と黒のストライプに彩られた長い棍。その先に蒼い爪が装着されている。それはおぼろには見覚えのある武器だった。
「それは」
「説明書によると、これはイカヅチブレイカー。イカヅチ丸という棍とスタッグブレイカーという爪を合体させた武器らしいですけど」
「ああ、知っとる。うちの知り合いの一鍬ちゃんが使っとうた武器やわ。でも、なんでこれがここに……」
(まさか、名簿には載っとらへんかったけど、一鍬ちゃんもここに?)
「どうかしましたか?」
 ふと考え込んだおぼろを訝しく思ったのか、蒼太が心配そうな声を掛ける。
「ああ、いや、なんでもない」
(あかんあかん。つい、いつものクセで考え込んでしまったわ)
「知り合いの武器ということなら、それはおぼろさんに差し上げますよ」
 蒼太の提案はおぼろにとって、願ってもないことだ。
 身を守るためには、武装がどうしても必要になる。それに加え、流派は違うとはいえ、源流を同じくする忍びの武器。
 慣れない銃器を支給されるよりも数倍頼りになる。本音を言えば、すぐに飛びつきたいところだったが、流石に遠慮が先立ってしまう。
 とはいえ、欲しいものは欲しいわけで。
「でも、いいんか?蒼太くんだって武器は必要やろ」
 控えめに、でも大胆に、再度意思の確認を行う。
「僕にはもう身を守るための武装がありますから」
 そう言って懐から覗かせたのは、先程懐中電灯代わりに使っていたアクセルラー。これが変身ツールであることは伝達済みだ。
「本当は女性に武器は持たせたくはないんですけど、心得もあるみたいですし、今のような状況じゃそうも言ってられません。
 それにこれはある意味で、僕からの信頼の証でもあります」
 聡いおぼろにはそれだけで蒼太の言葉の意味が理解できた。
 命辛々のところを助けられたこともあり、おぼろは蒼太のことを信用し切っていたが、こんな状況では信頼を構築するのがどんなに困難なことか、蒼太は危惧しているのだろう。
 自分に敵意はないことを武器を渡すことで、自分が信用に値する人間であることを示そうとしているのだ。
 ならば遠慮をする方が逆に失礼だ。
「そういうことやったら、大切に使わせてもらうわ」
 おぼろは蒼太からイカヅチブレイカーを受け取ると、即座に分離させた。
「でも、半分でええわ。イカヅチ丸だけの方がうちには使いやすそうやからな」
 おぼろはイカヅチ丸を腰に携えると、スタッグブレイカーを蒼太へ差し出す。
 おぼろなりの信頼の証。蒼太はそれを理解すると、スタッグブレイカーを受け取り、自分のディパックへと戻した。
「うん。……そういえば、おぼろさんの支給品は?」
「ああ、うちの支給品はこのメダルだけや。牙忍のマークが入っとるから、一鍬ちゃんのシノビメダルやとは思うやけど、ゴウライチェンジャーやカラクリ巨人がないと使い道ないで」
「使い道……おぼろさん、説明書は入っていませんでした?」
「説明書?」
「ええ、イカヅチブレイカーにも説明書が付いていました。だから、もしかして……ディパックの中、見ても?」
 おぼろが頷くと、蒼太はディパックの中身を探り始める。
「うちの場合、いきなりフラビージョの奴に襲われたからな。そういえば、自分のディパックの中、全然確認しとらんかったわ」
 おぼろのディパックの中には地図、名簿、時計など、蒼太のディパックにも入っている共通の支給品。
 そして、それらに混ざり、蒼太のディパックにも入っていた1枚のメモ用紙。
「ビンゴです。支給品の効果が書いてますよ。……支給品、シノビメダル。バリサンダーと叫び、投げるとバイクになると書かれています」
「そうか、バリサンダーか。うちとしたことがうっかりしとったわ」
「早速使ってみましょう」
 蒼太はおぼろの手にあるシノビメダルを手に取ると、バリサンダーと叫び、大地へと投げてみる。
 蒼い雷が走り、バイクの姿を形作っていく。やがて、雷が治まると、そこには雷の装飾が施された蒼いバイクがあった。
「これがバリサンダーか」
 蒼太はバリサンダーに跨ると、エンジンを吹かせ、慣らし走行を始める。
「ああ、蒼太くん、気をつけてや!戦闘用に改造されとるから……」
 危ないと言いかけて、おぼろは口をつぐむ。
 バリサンダーはただのバイクではない。常に雷神エネルギーを帯び、戦闘用にカスタマイズされたモンスターバイクだ。
 普通の人間ではハンドルが取られて、満足に運転することすら出来ないはずだ。
 だが、蒼太はそれを軽々と扱っている。
「かなり凄い出力ですが、大丈夫!乗りこなせますよ」
(……まあ、ボウケンジャーっていう宝を探す組織の一員って言ってたし、それぐらいのスキル、持ってて当然かも知れへんな)
 蒼太のポテンシャルを多少訝しげに思いながらも、自分を納得させる。
「さあ、行きましょう!」
 一頻りの慣らし走行を終え、蒼太はおぼろに手を伸ばした。
「行くってどこに」
「失礼。この紙によると、おぼろさんの支給品はもうひとつあるらしいですよ」
「もうひとつ?」
 蒼太はメモに書かれていた内容をそのまま読んだ。曰く――

――当たり。あなたには最高の支給品を用意しました。A1エリアの他とは葉の色が違う木の下にお越しください。
   そこであなたがこのバトルロワイアルで勝ち残るための最高のアイテムを用意して待っています。
   ただし、この支給品は早いもの勝ちです。お急ぎを。――

「なんやうさんくさい話やな」
「僕もそう思います。だけど、例え罠だったとしても行く価値はありますよ。
 仲間との合流だけ果たしても意味がないんです。首輪を外し、ここから脱出して、ロンを倒さなきゃ、ミッションは完了とは言えない。
 その糸口を探るためにも僕は行くべきだと思います」
 グッときた。元気をもらった時と同じ、今度は勇気をもらったような気がした。
「はぁ、しゃあないな」
 おぼろはバリサンダーに跨る。後部座席には装飾が施されており、かなり無理矢理ではあるが。
「ほな、行こうか!」
「ええ」
 走り出すバリサンダー。おぼろはなんとなく蒼太の背中に顔を埋めた。


 バイクを走らせながら、蒼太は自分の懐にある物のことを考える。
 蒼太の懐にはもうひとつ支給品がある。

――ヒュプノピアス――

 説明書によれば、受信機を相手の脳に刺すことで脳波に作用し、送信機で相手を自在に操ることのできる道具。
 これを使えば、自分の手足となって働く操り人形の出来上がりというわけだ。
 蒼太はおぼろにこの道具の存在は告げなかった。
 守るといった言葉は嘘ではない。困っている女性がいれば命を賭してでも守る。それが蒼太の流儀だ。
 だが、女性を守ると同時にミッションを達成するのも蒼太の流儀。
 蒼太はおぼろが思っているほど、彼女に心を許してはいない。
 このような限定された空間では人を容易に信じることがどれほど危険か。元スパイである蒼太にはよくわかっている。
 それと同時に人に自分を信じさせればどれほど有利になるかも。
 そのためには、ヒュプノピアスのようなアイテムの存在を知られるわけにはいかない。
 人を操れるアイテムは持っているだけで疑心暗鬼の種になる。だが、捨てるには惜しいアイテムであることも確か。
 結局、蒼太はヒュプノピアスを隠し持つという判断を下した。そして、その存在を知らせる説明書は処分済みだ。
 もし、ヒュプノピアスの存在が知れたら、信頼は瞬時にして瓦解してしまうだろう。だが、蒼太に後悔はない。
 何故なら――
(まっ、こういう状況も楽しいけどね)
 今がどれほど異常な状況かは分かっている。ロンに対しての怒りもある。だが、それでも冒険に対する胸の高鳴りは止まらない。
 それがボウケンブルー、最上蒼太なのだから。


【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:G-3遺跡 1日目 深夜
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品の隠し場所メモ、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間との合流後、脱出
第一行動方針:蒼太と共にA-1エリアへ
第二行動方針:首輪を何とかする

【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:G-3遺跡 1日目 深夜
[状態]:良好
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にA-1エリアへ
第二行動方針:おぼろを守る

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最終更新:2018年02月11日 01:37