「うちを助けてくれたってことは、蒼太君は殺し合いをするつもりはないんやな」
「ええっ、もちろんです。一刻も早く仲間を集めて、こんなところから脱出しましょう」
自己紹介を終え、おぼろの傷の手当てを行いながら、互いの情報を交換する。
といっても、有益な情報といえば、自分の知り合いが誰で、殺し合いに乗るような性格なのか程度。
この殺し合いについての様々な事柄は謎のままだった。そんな中、やがて支給品へと話しは及ぶ。
「僕の支給品は1つ。とは言っても実質2つのようなものですけど」
蒼太はディパックから自らの支給品を取り出す。
赤と黒のストライプに彩られた長い棍。その先に蒼い爪が装着されている。それはおぼろには見覚えのある武器だった。
「それは」
「説明書によると、これはイカヅチブレイカー。イカヅチ丸という棍とスタッグブレイカーという爪を合体させた武器らしいですけど」
「ああ、知っとる。うちの知り合いの一鍬ちゃんが使っとうた武器やわ。でも、なんでこれがここに……」
(まさか、名簿には載っとらへんかったけど、一鍬ちゃんもここに?)
「どうかしましたか?」
ふと考え込んだおぼろを訝しく思ったのか、蒼太が心配そうな声を掛ける。
「ああ、いや、なんでもない」
(あかんあかん。つい、いつものクセで考え込んでしまったわ)
「知り合いの武器ということなら、それはおぼろさんに差し上げますよ」
蒼太の提案はおぼろにとって、願ってもないことだ。
身を守るためには、武装がどうしても必要になる。それに加え、流派は違うとはいえ、源流を同じくする忍びの武器。
慣れない銃器を支給されるよりも数倍頼りになる。本音を言えば、すぐに飛びつきたいところだったが、流石に遠慮が先立ってしまう。
とはいえ、欲しいものは欲しいわけで。
「でも、いいんか?蒼太くんだって武器は必要やろ」
控えめに、でも大胆に、再度意思の確認を行う。
「僕にはもう身を守るための武装がありますから」
そう言って懐から覗かせたのは、先程懐中電灯代わりに使っていたアクセルラー。これが変身ツールであることは伝達済みだ。
「本当は女性に武器は持たせたくはないんですけど、心得もあるみたいですし、今のような状況じゃそうも言ってられません。
それにこれはある意味で、僕からの信頼の証でもあります」
聡いおぼろにはそれだけで蒼太の言葉の意味が理解できた。
命辛々のところを助けられたこともあり、おぼろは蒼太のことを信用し切っていたが、こんな状況では信頼を構築するのがどんなに困難なことか、蒼太は危惧しているのだろう。
自分に敵意はないことを武器を渡すことで、自分が信用に値する人間であることを示そうとしているのだ。
ならば遠慮をする方が逆に失礼だ。
「そういうことやったら、大切に使わせてもらうわ」
おぼろは蒼太からイカヅチブレイカーを受け取ると、即座に分離させた。
「でも、半分でええわ。イカヅチ丸だけの方がうちには使いやすそうやからな」
おぼろはイカヅチ丸を腰に携えると、スタッグブレイカーを蒼太へ差し出す。
おぼろなりの信頼の証。蒼太はそれを理解すると、スタッグブレイカーを受け取り、自分のディパックへと戻した。
「うん。……そういえば、おぼろさんの支給品は?」
「ああ、うちの支給品はこのメダルだけや。牙忍のマークが入っとるから、一鍬ちゃんのシノビメダルやとは思うやけど、ゴウライチェンジャーやカラクリ巨人がないと使い道ないで」
「使い道……おぼろさん、説明書は入っていませんでした?」
「説明書?」
「ええ、イカヅチブレイカーにも説明書が付いていました。だから、もしかして……ディパックの中、見ても?」
おぼろが頷くと、蒼太はディパックの中身を探り始める。
「うちの場合、いきなりフラビージョの奴に襲われたからな。そういえば、自分のディパックの中、全然確認しとらんかったわ」
おぼろのディパックの中には地図、名簿、時計など、蒼太のディパックにも入っている共通の支給品。
そして、それらに混ざり、蒼太のディパックにも入っていた1枚のメモ用紙。
「ビンゴです。支給品の効果が書いてますよ。……支給品、シノビメダル。バリサンダーと叫び、投げるとバイクになると書かれています」
「そうか、バリサンダーか。うちとしたことがうっかりしとったわ」
「早速使ってみましょう」
蒼太はおぼろの手にあるシノビメダルを手に取ると、バリサンダーと叫び、大地へと投げてみる。
蒼い雷が走り、バイクの姿を形作っていく。やがて、雷が治まると、そこには雷の装飾が施された蒼いバイクがあった。
「これがバリサンダーか」
蒼太はバリサンダーに跨ると、エンジンを吹かせ、慣らし走行を始める。
「ああ、蒼太くん、気をつけてや!戦闘用に改造されとるから……」
危ないと言いかけて、おぼろは口をつぐむ。
バリサンダーはただのバイクではない。常に雷神エネルギーを帯び、戦闘用にカスタマイズされた
モンスターバイクだ。
普通の人間ではハンドルが取られて、満足に運転することすら出来ないはずだ。
だが、蒼太はそれを軽々と扱っている。
「かなり凄い出力ですが、大丈夫!乗りこなせますよ」
(……まあ、ボウケンジャーっていう宝を探す組織の一員って言ってたし、それぐらいのスキル、持ってて当然かも知れへんな)
蒼太のポテンシャルを多少訝しげに思いながらも、自分を納得させる。
「さあ、行きましょう!」
一頻りの慣らし走行を終え、蒼太はおぼろに手を伸ばした。
「行くってどこに」
「失礼。この紙によると、おぼろさんの支給品はもうひとつあるらしいですよ」
「もうひとつ?」
蒼太はメモに書かれていた内容をそのまま読んだ。曰く――