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妄想神姫:第五十九章(後半) - (2007/12/23 (日) 21:59:24) のソース
**主の無き華と、新しき風(後半) ---- 私は、アルマ・ロッテとクララに強請られて新作を着せてやる事とした。 尤も“菫色”だけは、そのまま手を付けぬ。誰に着せるべきか、結局私は 判断が付かなかったのだ。いずれ打開策が見いだせたら……とは思うが、 それよりも今は目の前の着替えだ。こう、なんというかドキドキしてな? 「ん……ニーソックスとブーツまで、ちゃんと細かく出来てますの~♪」 「そ、そうか?お前達の“硬質の肌”を侵さぬ様に、質感を厳選したが」 「大丈夫です、よマイスター!これ、引っかからないし快適ですっ!!」 「な、ならいいのだがな!?……う、うぅ。ほれ、ブラウスだぞクララ」 「よいしょ……マイスター、何故か顔赤いけど風邪でも引いたのかな?」 「う゛!?そ、そんな事はないッ!至って健康だぞ私は!!……多分っ」 実は“告白”以後、私が手ずから服飾を着させるのはこれが初めてだ。 ジャケットやスカートの類に始まって、“フィオラ”で培った神姫用の アンダーウェアまでも完備したトータルコーディネイト仕様のそれは、 神姫にとってもなかなか手間の掛かるお洒落となっていた。だがしかし それだけに、こう……彼女らが着替える姿はとても眩しく見えたのだ。 け、決して疚しい心がある訳ではないぞ!無いったら無いのだッ!!? 「……マイスター、マイスター。もう皆着替え終わったんだよ、ほらっ」 「はえ?!そ、そうか……ついつい夢中になってしまったな。どうだ?」 「とても軽くって、動きやすいですの~☆ほらっ、くるっと一回転ッ♪」 「うわ……こ、こほんっ!スカートが上手くパニエで膨らんでいるな!」 「帽子も被りやすくていいですよ♪戦闘には少々辛いですけど……うん」 そう。今回は割と、戦闘より日常を意識した設計となっている。一応は 防御能力もあるのだが、戦闘に役立つ程の動きやすさや耐久性は無い。 私の心情が反映されているのかもしれんが、今回はそういう服なのだ。 「テーマは『春の虹』だ。橙と藍、黄色のワンポイントがあるだろうっ」 「あ、飾りの色が確かにそうなってますの!“紫”にも、ありますの?」 「藍色メインでな。橙と黄のブローチも作ったから、全色揃う事になる」 紫を暗めの色とはせず、藍色はワンポイントに。あくまでも全パターン、 『明るい春の装い』という意識で配色している。華やぐ春の日に似合う、 可憐な服を着せてあげたい。そういう想いが、やはり私の胸にあるのだ。 「ともあれ、色調以外はその形式で作ろうと考えているが……どうだ?」 「問題ないですの、マイスターとお揃いで歩くのが楽しみですの~っ♪」 「そうですねぇ、皆でコレを着て春の公園とかでお散歩するんです……」 「……アルマお姉ちゃん、微妙に不吉な言い回しって気がするんだよ?」 バツが悪そうなアルマを撫でて、私はココアを用意する為に席を立った。 温かそうな湯気と香ばしい匂いが、五感を刺激する。四人前の飲み物は、 冬の冷たさと“新しい風”の予感に震える私達を、癒してくれそうだな。 「まぁとりあえず、これでも呑むとしようか。お前達も冷えるだろう?」 「あ、いただきます……わぁ、甘くて美味しそうなココアですね……♪」 「ん……んく、んく……美味しいんだよ。なんだか、気持ちが解れそう」 「春になったら、また違う味だと思いますの♪そういう予感がしますし」 「どういう予感だ、ロッテや?口振りからすると、色々ありそうだが?」 私の疑問に、ロッテは唇へと指を当てて考え始める。恐らくは、自分でも 明確な認識になっていない、でも確実に感じている“何か”なのだろう。 カップを躯全体で抱えていた一人の神姫は、徐にその“感触”を述べた。 「よくわからないんですけど……何かがあるって、確信していますの♪」 「“確信”か……私も何かを感じている、それが何かは分からぬのだが」 私が感じていたのは『“告白”を乗り越えた先にある何か』なのだがな。 しかし、私達はそれを掴みかけていた……何かが起きる、という確証を。 「……ボクも、この先に何かあるって気はしてるんだよ。多分大事な事」 「ですね……でも、それを畏れてたら何処にも行けなくなっちゃいます」 「全くだ、なるようにしかならん。私も、踏み出さないとな……あちッ」 ココアの温かさが、舌を刺す様な熱さにも感じられて、私は少々驚いた。 それを見て、三姉妹達はクスクスと笑い出す……よほど滑稽だったのか? しかし先程のカップル共とは違い、彼女らに笑われるのは悪くなかった。 「全く、笑う物でないぞ。しかし、お前達と居るのは本当に心地が良い」 「……あたしもです。マイスターや皆と一緒にいると、満たされますね」 「ぽっかりと欠けてた“何か”が埋まる様な……そんな感覚だよ、うん」 「それならもっともっと、皆の暖かい心で皆を満たしていきますの~♪」 ──────私の心も満たしてくれる貴女達、春の様な暖かさだね。 ---- [[次に進む>妄想神姫:第六十章]]/[[メインメニューへ戻る>妄想神姫]]