キズナのキセキ
ACT1-24「武士道」
□
春になって、日が昇るのが早くなったことは、今朝の俺にはありがたかった。
早朝の花咲川公園で、俺と大城は準備をしていた。
桜並木に囲まれた広場。ここが決闘の舞台になる。
俺は二人の対決を見届けなければならない。この決闘の立会人に近い立場だった。
なにしろリアルバトルの立ち会いだから、それなりの準備も必要だ。C港での大ケガみたいなことは、二度とごめんだった。
早朝の花咲川公園で、俺と大城は準備をしていた。
桜並木に囲まれた広場。ここが決闘の舞台になる。
俺は二人の対決を見届けなければならない。この決闘の立会人に近い立場だった。
なにしろリアルバトルの立ち会いだから、それなりの準備も必要だ。C港での大ケガみたいなことは、二度とごめんだった。
「……こんなものかな」
「……遠野よぉ……やっぱ考えなおさねぇか? 俺はどうしても納得いかねぇ」
「……遠野よぉ……やっぱ考えなおさねぇか? 俺はどうしても納得いかねぇ」
大城はこの期に及んで、ぶつぶつとぼやいていた。俺はあえて堅い口調で答える。
「今さら何言ってるんだ。今回の策は、どうしても必要だし、お前に嫌な思いはさせないって何度も言ってるだろ」
「けどよぉ……」
「俺が信じられないか、大城」
「けどよぉ……」
「俺が信じられないか、大城」
俺は大城を見た。
大城が気に病んでいることは、痛いほどに分かる。だが、それもしばらく後に分かることである。
決戦はもう目前なのだから。
視線をはずしたのは大城の方だった。
大城が気に病んでいることは、痛いほどに分かる。だが、それもしばらく後に分かることである。
決戦はもう目前なのだから。
視線をはずしたのは大城の方だった。
「……わかった。俺も覚悟を決めらぁ」
「よし」
「よし」
俺は頷く。
俺の策にずっと協力してくれていた大城だからこそ、菜々子さんにも内緒にしているこの策を任せられるのだ。
もうそろそろ、二人が来る。
その時だ。
俺たちの後ろで、何かが動く気配があった。
俺の策にずっと協力してくれていた大城だからこそ、菜々子さんにも内緒にしているこの策を任せられるのだ。
もうそろそろ、二人が来る。
その時だ。
俺たちの後ろで、何かが動く気配があった。
「誰だ」
俺は緊張する。
このバトルを知るのは身内のごく一部だが、『狂乱の聖女』が絡んでいるだけに、用心にしすぎるということはない。
大城もまた身構え、気配の方に鋭い視線を投げている。リアルに修羅場をくぐり抜けているだけあって、その姿はやけに様になっていた。
茂みががさがさと動く。
出てきた顔は、よく見知ったものだった。
このバトルを知るのは身内のごく一部だが、『狂乱の聖女』が絡んでいるだけに、用心にしすぎるということはない。
大城もまた身構え、気配の方に鋭い視線を投げている。リアルに修羅場をくぐり抜けているだけあって、その姿はやけに様になっていた。
茂みががさがさと動く。
出てきた顔は、よく見知ったものだった。
「安藤……それに君らもか」
安藤の後ろに、ライトアーマー・シスターズの四人が揃っていた。
安藤が少し不機嫌そうに口を開く。
安藤が少し不機嫌そうに口を開く。
「俺たちに声をかけないのは、ちょっとひどくないですか?」
「いや、今回はゲーセンでの対戦とは訳が違う。危険が伴うんだ。君らを危険にさらすわけにはいかない」
「そんなこと分かってます。でも、わたしたちには、菜々子さんのバトルを見届ける権利があるはずです」
「いや、今回はゲーセンでの対戦とは訳が違う。危険が伴うんだ。君らを危険にさらすわけにはいかない」
「そんなこと分かってます。でも、わたしたちには、菜々子さんのバトルを見届ける権利があるはずです」
八重樫さんもいつになく強い口調だった。
他の三人も頷いた。
蓼科さんが、俺を真っ直ぐに見て、言った。
他の三人も頷いた。
蓼科さんが、俺を真っ直ぐに見て、言った。
「だって、わたしたち、チームメイトじゃないですか」
困ったものだ。
あれほどに不信を抱いていた菜々子さんのバトルを、危険を承知で見に来るとは、変われば変わったものである。
いや、彼女たち自身も決着をつけたいのかも知れない。揺れ動いていた心の決着を。
俺は小さくため息をついた。
あれほどに不信を抱いていた菜々子さんのバトルを、危険を承知で見に来るとは、変われば変わったものである。
いや、彼女たち自身も決着をつけたいのかも知れない。揺れ動いていた心の決着を。
俺は小さくため息をついた。
「仕方がないな。俺の後ろの茂みに隠れて、静かに見ているんだ。ケガをしても知らないぞ」
「はい!」
「はい!」
嬉しそうな五人の声が重なった。
喜ぶなというのに。
これから始まる戦いは、バーチャルじゃない。
神姫をぶつけ合い、壊し合う、リアルバトルなのだ。
そして、この戦いに栄光はない。どんなバトルをしたとしても、勝利を得たとしても、人々の話題に上ることもない。
ただ、これから戦う二人の、二人のためだけのバトルなのだ。
喜ぶなというのに。
これから始まる戦いは、バーチャルじゃない。
神姫をぶつけ合い、壊し合う、リアルバトルなのだ。
そして、この戦いに栄光はない。どんなバトルをしたとしても、勝利を得たとしても、人々の話題に上ることもない。
ただ、これから戦う二人の、二人のためだけのバトルなのだ。
「来た……」
大城の囁きに、みんなが息を飲む。
大城を含めた六人は、俺の後ろで身を縮めながら、植え込みの隙間から広場を見ている。
俺は桜の木の近く、植え込みの一つから立ち上がり、二人にその姿をさらしていた。
菜々子さんが立ち止まると、桐島あおいを振り返る。
桐島あおいが、一瞬俺を見て、そして一歩進み出た。彼女はそれで悟ったのだ。ここが決闘の舞台であることを。
彼女もゆっくりと歩を進め、距離を取ったところで振り向いた。
俺の位置からは、向かい合う二人が見え、それぞれ同じ距離にいる。まるで試合の審判のようだ。
一拍の沈黙の後、菜々子さんが宣言した。
大城を含めた六人は、俺の後ろで身を縮めながら、植え込みの隙間から広場を見ている。
俺は桜の木の近く、植え込みの一つから立ち上がり、二人にその姿をさらしていた。
菜々子さんが立ち止まると、桐島あおいを振り返る。
桐島あおいが、一瞬俺を見て、そして一歩進み出た。彼女はそれで悟ったのだ。ここが決闘の舞台であることを。
彼女もゆっくりと歩を進め、距離を取ったところで振り向いた。
俺の位置からは、向かい合う二人が見え、それぞれ同じ距離にいる。まるで試合の審判のようだ。
一拍の沈黙の後、菜々子さんが宣言した。
「あなたを倒します、お姉さま。今ならはっきり言える。今のあなたは間違っている、と」
菜々子さんは、静かに宣言する。
すでに瞳は神姫マスターのそれだ。彼女からは微塵の油断も感じられない。
すでに瞳は神姫マスターのそれだ。彼女からは微塵の油断も感じられない。
「……そうだとして、あなたにわたしが倒せるの?」
「倒します」
「……すでに二度負けていても、まだ倒せると思うの」
「……ある人が教えてくれました。わたしはもう『アイスドール』 と呼ばれていた頃のわたしではありません。
今のわたしは『エトランゼ』。
その名にかけて……あなたを倒す」
「倒します」
「……すでに二度負けていても、まだ倒せると思うの」
「……ある人が教えてくれました。わたしはもう『アイスドール』 と呼ばれていた頃のわたしではありません。
今のわたしは『エトランゼ』。
その名にかけて……あなたを倒す」
菜々子さんの揺るぎない口調に、桐島あおいもまた、瞳の色を強くする。
「わたしは、今のわたしが間違っているとは思わない。かつて、 あなたに教えたことこそが間違っていたと確信している」
「あおいお姉さま……」
「わたしはあなたを倒すわ、菜々子。そして、今のわたしが正しいことを証明しましょう」
「……ならば……勝負です、お姉さま!」
「あおいお姉さま……」
「わたしはあなたを倒すわ、菜々子。そして、今のわたしが正しいことを証明しましょう」
「……ならば……勝負です、お姉さま!」
公園の緊張が爆発的に高まった。
空気の流れさえ止まりそうな緊張の中、二人は同時に動き出す。
桐島あおいは、叫ぶ。
空気の流れさえ止まりそうな緊張の中、二人は同時に動き出す。
桐島あおいは、叫ぶ。
「マグダレーナ!」
アタッシュケースが開き、呼びかけに応えた神姫が勢いよく飛び出してくる。
『狂乱の聖女』マグダレーナ。
漆黒のシスター型は、黒い閃光と化して一直線に突き進む。
菜々子さんも、アタッシュケースの持ち手に付いた開閉スイッチに指をかける。
『狂乱の聖女』マグダレーナ。
漆黒のシスター型は、黒い閃光と化して一直線に突き進む。
菜々子さんも、アタッシュケースの持ち手に付いた開閉スイッチに指をかける。
「ミスティ、リアルモード起動。入力コード「ETRANGER」、タイプ……ブシドーーーーッ!!」
スイッチが押し込まれ、銀色のケースが直角に開く。
そこにいたのはグリーンの装備をまとう神姫……『異邦人(エトランゼ)』のミスティ。
そこにいたのはグリーンの装備をまとう神姫……『異邦人(エトランゼ)』のミスティ。
「了解!!」
刹那、ミスティが緑の閃光となって飛び出す。
真向かいで飛び出してきた黒き閃光と、同一線上。
二体の神姫は、広場の中央へと突進、邂逅する。
真向かいで飛び出してきた黒き閃光と、同一線上。
二体の神姫は、広場の中央へと突進、邂逅する。
そして。
次の瞬間、その場にいたすべての人間、すべての神姫が驚愕した。
ただ一人……俺を除いて。
ただ一人……俺を除いて。
◆
当事者であるミスティ自身が驚きを隠せない。
すべてを賭けた決戦、その初撃。
それがこんなにもあっさりと受け止められてしまうとは。
いや、手にした剣、エアロ・ヴァジュラの袈裟斬りが、この最凶神姫相手にそう簡単に決まるとは思っていない。
あらゆる攻撃が当たらない。それがマグダレーナの強さではなかったか。
初代も、以前の自分も、この神姫に一撃すら与えられずに敗れ去っている。
にもかかわらず、今、奴はこの一撃を燭台状の槍の柄で受け止め、鍔迫り合いをしていた。
交差した剣と槍の間、目の前に仇敵の顔がある。
マグダレーナこそは、この場にいる誰よりも驚愕していた。
それを知って、ミスティはむしろ落ち着いた。不敵な笑みを口元に浮かべ、口走る。
すべてを賭けた決戦、その初撃。
それがこんなにもあっさりと受け止められてしまうとは。
いや、手にした剣、エアロ・ヴァジュラの袈裟斬りが、この最凶神姫相手にそう簡単に決まるとは思っていない。
あらゆる攻撃が当たらない。それがマグダレーナの強さではなかったか。
初代も、以前の自分も、この神姫に一撃すら与えられずに敗れ去っている。
にもかかわらず、今、奴はこの一撃を燭台状の槍の柄で受け止め、鍔迫り合いをしていた。
交差した剣と槍の間、目の前に仇敵の顔がある。
マグダレーナこそは、この場にいる誰よりも驚愕していた。
それを知って、ミスティはむしろ落ち着いた。不敵な笑みを口元に浮かべ、口走る。
「どうしたの? 『狂乱の聖女』ともあろう神姫が、余裕ないじゃない」
その言葉に、マグダレーナははっとして、ようやく自分を取り戻した。
「……図に乗るな!」
しわがれた声の一喝を合図に、お互い一挙動で得物を引く。
二人の神姫は大きく後退し、身構える。
そこでようやく、マグダレーナはミスティの全身像を確認した。
二人の神姫は大きく後退し、身構える。
そこでようやく、マグダレーナはミスティの全身像を確認した。
「……なんだ、その装備は」
「いいでしょう? タカキのコーディネートよ」
「いいでしょう? タカキのコーディネートよ」
武装のコンセプト自体は、イーダのミスティの武装から大きくはずれてはいない。
しかし、よく見れば、同じ部分の方が少ないことがわかる。
マウントされた二門の「アサルト・カービン」、手にした「エアロ・ヴァジュラ」、ホイールはオミットされているが、副腕の肩部と変形の要になる背面装備は、イーダ型を引き継いでいる。
しかし、副腕はストラーフMK.2のものだし、それに装着された自動車のカウル状のアーマーは見たことがないものだ。
脚部装備はストラーフのごとく大型だが、オリジナルのものと知れた。そして、足首の横に左右一つずつ、ホイールが装備されていた。
しかし、よく見れば、同じ部分の方が少ないことがわかる。
マウントされた二門の「アサルト・カービン」、手にした「エアロ・ヴァジュラ」、ホイールはオミットされているが、副腕の肩部と変形の要になる背面装備は、イーダ型を引き継いでいる。
しかし、副腕はストラーフMK.2のものだし、それに装着された自動車のカウル状のアーマーは見たことがないものだ。
脚部装備はストラーフのごとく大型だが、オリジナルのものと知れた。そして、足首の横に左右一つずつ、ホイールが装備されていた。
ミスティの新装備が、マグダレーナの予測を狂わせていたのか。
否、その程度の誤差を埋められないマグダレーナではない。
では何だ。何が予測を狂わせている?
マグダレーナは、疑念を浮かべながらも、次の戦闘機動へと移行する。
ミスティもまた動く。
距離を取った二人は、銃器を構えた。ミスティは背中から突き出るように装備された「アサルト・カービン」。マグダレーナは側面に備えた十字型の「クロス・シンフォニー」。
マシンガンの咆吼がこだまし、射線が交錯する。
マグダレーナの射撃は、威力も段違いだ。破壊するための違法改造も、裏バトルでは問題にならない。
しかし、ミスティは臆することなく、威嚇射撃をしながら、滑るようにマグダレーナとの距離を詰めた。
否、その程度の誤差を埋められないマグダレーナではない。
では何だ。何が予測を狂わせている?
マグダレーナは、疑念を浮かべながらも、次の戦闘機動へと移行する。
ミスティもまた動く。
距離を取った二人は、銃器を構えた。ミスティは背中から突き出るように装備された「アサルト・カービン」。マグダレーナは側面に備えた十字型の「クロス・シンフォニー」。
マシンガンの咆吼がこだまし、射線が交錯する。
マグダレーナの射撃は、威力も段違いだ。破壊するための違法改造も、裏バトルでは問題にならない。
しかし、ミスティは臆することなく、威嚇射撃をしながら、滑るようにマグダレーナとの距離を詰めた。
ミスティが仕掛ける。
ストラーフMK.2の副腕から繰り出されるのは、抜き手。指を揃えた鋭い突きがマグダレーナに迫る。
それを喰らうマグダレーナではない。迫り来る高速の抜き手を余裕の動きでかわす。
その時だ。
ストラーフMK.2の副腕から繰り出されるのは、抜き手。指を揃えた鋭い突きがマグダレーナに迫る。
それを喰らうマグダレーナではない。迫り来る高速の抜き手を余裕の動きでかわす。
その時だ。
「……なにっ!?」
マグダレーナは咄嗟に手にしたビームトライデントの柄を引き上げ、ミスティの副腕の大きな爪を受け止め、捌く。
予想しない軌道を描いて、ミスティの爪が襲ってきた。連続の抜き手から、いきなり斜め下からの斬り上げ。
どうということはないコンビネーションに見えるが、マグダレーナにとっては全くの想定外だった。
ミスティのラッシュが続く。
マグダレーナは一度ならず、何度も予想を裏切られながら、徐々に追いつめられていく。
予想しない軌道を描いて、ミスティの爪が襲ってきた。連続の抜き手から、いきなり斜め下からの斬り上げ。
どうということはないコンビネーションに見えるが、マグダレーナにとっては全くの想定外だった。
ミスティのラッシュが続く。
マグダレーナは一度ならず、何度も予想を裏切られながら、徐々に追いつめられていく。
□
「出た、ミスティの武士道モード!」
園田さんが控えめに声を上げる。
そう、特訓場でミスティと対戦したなら、みんな知っている。
今のミスティが起動している「リアルモード」は、デビル・タイプ、ビースト・タイプに続く第三の形態だ。
その名も武士道・タイプ。
そう、特訓場でミスティと対戦したなら、みんな知っている。
今のミスティが起動している「リアルモード」は、デビル・タイプ、ビースト・タイプに続く第三の形態だ。
その名も武士道・タイプ。
マグダレーナ対策として、俺が新装備の習熟と同時に着手したのが、新たなリアルモードの修得だ。
初代ミスティが身に付け、受け継がれたデビル・タイプ、今のミスティが苦行の中から見いだしたタイプ・ビースト、その両方ともマグダレーナに破れている。
新たな戦闘パターンを身に付けることは、このバトルの必須事項だ。
初代ミスティが身に付け、受け継がれたデビル・タイプ、今のミスティが苦行の中から見いだしたタイプ・ビースト、その両方ともマグダレーナに破れている。
新たな戦闘パターンを身に付けることは、このバトルの必須事項だ。
菜々子さんによれば、リアルモードとは「心構え」であるという。
今までの二タイプは、勝つことだけしか考えない。デビルは冷酷無比に相手を倒すタイプであり、ビーストは獣のごとく理性を捨てて襲いかかる。
どちらのタイプも、自分を捨てた戦い方だ。
その「心構え」を変える。
悪魔も獣も従えて、両方のスタイルをミックスする。そのための心構えは「戦いに勝つ」、ではなく、「戦いを制する」ということだ。
常に冷静さを失わず、自分を見失わず、はやる気持ちを抑え、焦る気持ちを消す。相手を破壊するのではなく、相手を制する。
それこそ、真にエトランゼが必要とする心構えだ。
自らを制し、相手を制し、戦いを制する。
俺はその心構えを「武士道」と呼ぶことにした。
今までの二タイプは、勝つことだけしか考えない。デビルは冷酷無比に相手を倒すタイプであり、ビーストは獣のごとく理性を捨てて襲いかかる。
どちらのタイプも、自分を捨てた戦い方だ。
その「心構え」を変える。
悪魔も獣も従えて、両方のスタイルをミックスする。そのための心構えは「戦いに勝つ」、ではなく、「戦いを制する」ということだ。
常に冷静さを失わず、自分を見失わず、はやる気持ちを抑え、焦る気持ちを消す。相手を破壊するのではなく、相手を制する。
それこそ、真にエトランゼが必要とする心構えだ。
自らを制し、相手を制し、戦いを制する。
俺はその心構えを「武士道」と呼ぶことにした。
デビル・タイプとビースト・タイプをミックスすることで、ミスティの動きはマグダレーナの予測を上回っている。
だから、ミスティの攻撃に対応できず、マグダレーナは苦戦しているのだ。
ここまではミスティが優勢。
そしてこの後、劣勢に追い込まれたマグダレーナがどう出るか。
俺には分かっている。
この状況を打破する手は、マグダレーナには一つしかない。
マグダレーナがその行動をとる瞬間。
それを俺は待ち続けている。
だから、ミスティの攻撃に対応できず、マグダレーナは苦戦しているのだ。
ここまではミスティが優勢。
そしてこの後、劣勢に追い込まれたマグダレーナがどう出るか。
俺には分かっている。
この状況を打破する手は、マグダレーナには一つしかない。
マグダレーナがその行動をとる瞬間。
それを俺は待ち続けている。
◆
ミスティの動きが読み切れないのは、戦闘パターンだけではない。
遠野が用意したミスティの新しい装備が、マグダレーナの予測に誤差を生んでいる。
特に、両足に装備されたホイールは、ストラーフ並の大型装備を身に付けていながらも、滑らかかつ高速な機動を可能にしている。
初代ミスティとも、先日のミスティとも、まるで違う機動。
以前の戦闘データは全く役に立たない。
ならば次の手を打つのみ。
それを悟ったマグダレーナの行動は早かった。
背部の大型バックパックに接続された、ランプのような形状をしたユニットが唸りを上げる。
一つ目の妖怪のような、中央のカメラが不気味に輝いた。
接続部がはずれ、二体のランプ型サポートメカが宙に浮く。
遠野が用意したミスティの新しい装備が、マグダレーナの予測に誤差を生んでいる。
特に、両足に装備されたホイールは、ストラーフ並の大型装備を身に付けていながらも、滑らかかつ高速な機動を可能にしている。
初代ミスティとも、先日のミスティとも、まるで違う機動。
以前の戦闘データは全く役に立たない。
ならば次の手を打つのみ。
それを悟ったマグダレーナの行動は早かった。
背部の大型バックパックに接続された、ランプのような形状をしたユニットが唸りを上げる。
一つ目の妖怪のような、中央のカメラが不気味に輝いた。
接続部がはずれ、二体のランプ型サポートメカが宙に浮く。
「……行け!」
マグダレーナが左手を振り、短く指示したのと同時。
二体のサポートメカが動き出し、ミスティに向けて殺到した。
二体のサポートメカが動き出し、ミスティに向けて殺到した。
◆
ミスティは焦る。
あのサポートメカは厄介だ。
二体の波状攻撃は、『街頭覇王』の異名を持つファーストランカー・三冬ですら苦戦したのだ。
二体の妖怪じみたマシンが高速で接近してくる。
あのサポートメカは厄介だ。
二体の波状攻撃は、『街頭覇王』の異名を持つファーストランカー・三冬ですら苦戦したのだ。
二体の妖怪じみたマシンが高速で接近してくる。
「やるっきゃないわね!」
自らを鼓舞するように小さく叫び、サポートメカを迎え撃とうと、ミスティが一歩前に出たその瞬間、
「今だ!」
小さく鋭い叫びが聞こえた。
刹那。
光り輝く光芒が一筋、サポートメカの一体を貫いた。
刹那。
光り輝く光芒が一筋、サポートメカの一体を貫いた。
「……え?」
驚く暇もない。
光の筋に貫かれた一体がどうなったのか確認する間もなく、もう一体との距離がゼロになる。
ミスティは、サポートメカの腕に装着されたクロス・シンフォニーを払いつつ、サポートメカのメインカメラを殴りつけ、そのまま地面に思い切り押し倒した。
光の筋に貫かれた一体がどうなったのか確認する間もなく、もう一体との距離がゼロになる。
ミスティは、サポートメカの腕に装着されたクロス・シンフォニーを払いつつ、サポートメカのメインカメラを殴りつけ、そのまま地面に思い切り押し倒した。
さらに次の瞬間。
「あああああぁぁっ……!」
狂おしい女性の悲鳴がほとばしる。
声の方を見れば、頭を抱えてた桐島あおいが、いましも崩折れて膝を着こうとしているところだった。
声の方を見れば、頭を抱えてた桐島あおいが、いましも崩折れて膝を着こうとしているところだった。
「お姉さま!」
心配そうな顔で菜々子が駆け寄る。
一体どうしたというのか。
そこでミスティは気が付いた。
桐島あおいのやや後方、ティアが何かを抱えてバックダッシュしている。
それは、あおいの耳に装着されていた小型ヘッドセットだった。
ティアがいつもの華麗なトリックを決めて、桐島あおいの肩に乗り、ヘッドセットを奪った、という過程は想像に難くない。
この数瞬の間に、何が起きたのか。何をしたのか。
ミスティにとって確実だと言えるのは、自分が地面に押し倒したサポートメカが、行動不能になっていることだけだった。
一体どうしたというのか。
そこでミスティは気が付いた。
桐島あおいのやや後方、ティアが何かを抱えてバックダッシュしている。
それは、あおいの耳に装着されていた小型ヘッドセットだった。
ティアがいつもの華麗なトリックを決めて、桐島あおいの肩に乗り、ヘッドセットを奪った、という過程は想像に難くない。
この数瞬の間に、何が起きたのか。何をしたのか。
ミスティにとって確実だと言えるのは、自分が地面に押し倒したサポートメカが、行動不能になっていることだけだった。
◆
虎実は、いましがた引き金を引いた大型の武装……荷電粒子砲を残したまま、木の幹から飛び降りた。
一撃放ったら、命中してもしなくても、できるだけ早く遠くに逃げろ、というのが遠野の指示である。茂みの下に隠してあった、いつものエアバイクはアイドリング状態で、虎実が飛び乗るとすぐさま起動、蹴飛ばされるように広場を後にした。
作戦は成功した。
木の上から、遠野の合図とともに、マグダレーナのサポートメカを狙撃する。
エアバイクから銃器を撃ちまくるスタイルの虎実は、火器管制に優れた能力を持っている。だからこそ、この役目に選ばれた。
しかし、虎実は納得行かない。
成功しても、嬉しくも何ともない。
一撃放ったら、命中してもしなくても、できるだけ早く遠くに逃げろ、というのが遠野の指示である。茂みの下に隠してあった、いつものエアバイクはアイドリング状態で、虎実が飛び乗るとすぐさま起動、蹴飛ばされるように広場を後にした。
作戦は成功した。
木の上から、遠野の合図とともに、マグダレーナのサポートメカを狙撃する。
エアバイクから銃器を撃ちまくるスタイルの虎実は、火器管制に優れた能力を持っている。だからこそ、この役目に選ばれた。
しかし、虎実は納得行かない。
成功しても、嬉しくも何ともない。
「ほんとに……本当にこれで良かったのかよ、トオノ!!」
正々堂々の決闘に、伏兵による狙撃など、卑怯極まりないではないか。
◆
「伏兵とはな……」
しわがれた声が憎々しげに呟く。
見れば、怒り心頭という顔で、マグダレーナはミスティを激しく睨んでいた。
見れば、怒り心頭という顔で、マグダレーナはミスティを激しく睨んでいた。
「正々堂々の勝負だと言っておきながら、この仕打ちは何だ、『異邦人』!」
「し、しらないわ……」
「しらばっくれるな! よくも舐めてくれたものだ、このわたしを……」
「し、しらないわ……」
「しらばっくれるな! よくも舐めてくれたものだ、このわたしを……」
ミスティは本当に知らなかった。
彼女も、マスターの菜々子も、こんな作戦は知らされていない。
正々堂々、一対一の勝負だと聞かされていた。
彼女も、マスターの菜々子も、こんな作戦は知らされていない。
正々堂々、一対一の勝負だと聞かされていた。
「そうだ、言っただろう。正々堂々一対一の勝負だと」
はっきりとした声が、横槍を入れてきた。
マグダレーナの苛烈な視線がミスティからはずれ、声の方を向く。
ミスティもその視線の先を追った。
視線の先にいたのは……遠野貴樹。
彼は、いつも通りの落ち着いた口調で、言った。
マグダレーナの苛烈な視線がミスティからはずれ、声の方を向く。
ミスティもその視線の先を追った。
視線の先にいたのは……遠野貴樹。
彼は、いつも通りの落ち着いた口調で、言った。
「四対一じゃ、ミスティにハンデがあり過ぎるだろ」
それを聞いたマグダレーナの表情が一変した。
愕然。
激しい怒りを一瞬にして吹き飛ばし、いつもの不気味な余裕さえなくし、ただただ驚いているばかりだ。
ミスティはいぶかしく思う。四対一? 貴樹は一体何を言っているのか? そして、マグダレーナは何をそんなに驚いている?
その場にいた誰しもそう思っていたことだろう。
すると、その遠野貴樹が、ゆっくりと言った。
愕然。
激しい怒りを一瞬にして吹き飛ばし、いつもの不気味な余裕さえなくし、ただただ驚いているばかりだ。
ミスティはいぶかしく思う。四対一? 貴樹は一体何を言っているのか? そして、マグダレーナは何をそんなに驚いている?
その場にいた誰しもそう思っていたことだろう。
すると、その遠野貴樹が、ゆっくりと言った。
「ミスティ、そのサポートメカの外装を引き剥がしてみろ。ティア、打ち合わせ通り、ヘッドセットのカバーをはずせ」
ミスティは押し倒したサポートメカに目をやる。
すでに台座の上の球体は半壊し、外装を剥がすのも難しくなさそうだ。
ミスティは半信半疑に思いながらも、遠野の指示通り、副腕の爪をその丸い外郭に引っ掛けて、剥がしにかかる。
すでに台座の上の球体は半壊し、外装を剥がすのも難しくなさそうだ。
ミスティは半信半疑に思いながらも、遠野の指示通り、副腕の爪をその丸い外郭に引っ掛けて、剥がしにかかる。
■
マスターの合図とともに、わたしは桜の木の陰から飛び出すと、ジャンプして桐島あおいさんの肩の上に着地、すぐさまヘッドセットを奪い取って後退していた。
わたしの行動がバトルに何で必要なのかなんて、知らない。マスターはいまだに何も言ってくれない。
ただ、次の指示で、ヘッドセットのカバーをはずしてみんなに見せろ、と言い含められていた。
わたしはナイフを取り出すと、ヘッドセットのカバーの継ぎ目に二度三度突き立てる。すると、意外にあっさりとカバーははずれた。
わたしは、見た。
ヘッドセットの内部。
わたしは言葉を失う。
こんな……こんなことって……!
わたしの行動がバトルに何で必要なのかなんて、知らない。マスターはいまだに何も言ってくれない。
ただ、次の指示で、ヘッドセットのカバーをはずしてみんなに見せろ、と言い含められていた。
わたしはナイフを取り出すと、ヘッドセットのカバーの継ぎ目に二度三度突き立てる。すると、意外にあっさりとカバーははずれた。
わたしは、見た。
ヘッドセットの内部。
わたしは言葉を失う。
こんな……こんなことって……!
□
ミスティが剥がしたサポートメカの外装から見えた内部。
ティアがはずしたヘッドセットのカバーの中身。
ティアがはずしたヘッドセットのカバーの中身。
「な……なんだ、あれ……」
そう言ったきり、大城は絶句した。
いや、その場にいた誰もが、神姫たちでさえ、その事実に声を失っている。
その二つは同じ形状をしていた。
円形の小さな板の上に、三角形に配置された三つの小さなくぼみ。そこにそれぞれ宝石のように輝くチップがはめこまれている。
神姫マスターならば、知らない者はいない。
なぜなら、必ず目にするものだからだ。
そう、不安と期待を入り交じらせながら、自らの神姫を立ち上げる最初の儀式……その時に。
いや、その場にいた誰もが、神姫たちでさえ、その事実に声を失っている。
その二つは同じ形状をしていた。
円形の小さな板の上に、三角形に配置された三つの小さなくぼみ。そこにそれぞれ宝石のように輝くチップがはめこまれている。
神姫マスターならば、知らない者はいない。
なぜなら、必ず目にするものだからだ。
そう、不安と期待を入り交じらせながら、自らの神姫を立ち上げる最初の儀式……その時に。
「CSC……!?」
蓼科さんの声はかすれていた。
そこから導き出される信じ難い答え。
そこから導き出される信じ難い答え。
「それじゃ……あれは……あれが、神姫……!?」
八重樫さんの口をついて出た言葉。
正解だ。
俺はひとつ頷いた。
正解だ。
俺はひとつ頷いた。