武装神姫SSまとめ@wiki内検索 / 「幻・其の九」で検索した結果
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御影市、ひと夏の幻
...・其の八 幻・其の九(微エロです。十八禁ほどではありませんが、読まれる際は自己責任でお願いします) 幻・其の十 幻・其の十一 幻・其の十二 幻・其の十三 幻・其の十四 ~崩れた積み木~ 幻・其の十五 ~夜明け前の暗闇~ 幻・其の十六 ~在処~ 幻・其の十七 ~cogito ergo sum~ 幻・其の十八 ~鼓動、重ねて~ 幻・其の十九 ~価値、そして代償~ 幻・其の二十 ~再会~ 幻・其の二十一 ~それぞれ~ トップページへ -
幻・其の九
……なんというか、強烈な人達だったなぁ。 ベッドの上で、私はつい数時間前の出会いを振り返る。修也さんは研究所に泊まるって言ってたし、今、この家にいるのは私と慎一君、ミナツキとネロ、リュミエだけ。 「……う、ん」 暑い。七月も終わりに近づいて、ここ数日は熱帯夜が連続だと、天気予報は言っていた。正直ウンザリする。 ……寝付けない理由は、それだけではないのだけれど。 「エアコン、もう一度かけようかな……」 ベッドに入る前に設定したタイマーの時間は、とっくに過ぎ去っていた。 「……やめよ」 こんな汗かいた状態で、急に冷やして風邪でもひいたら割に合わない。 とりあえず、暑いと思わないことだ。心頭滅却すれば……。 「あれ? 心頭滅却すれば……、なんだっけ」 「火もまた涼し、です」 机の上から、聞きなれた声がした。 「……ミナツキ、起きてた?」 ... -
幻・其の八
唐突に「来た」攻撃。 「……行くヨッ!!」 ランが手にした銃を放つ。先陣を切っていた一体の鳥型神姫が、弾丸から放たれた電撃に、その機能を停止させ、落下。 「マスター!」 「まだだ! あっちはあっちに任せろ!」 襲撃に気付き声を上げたリュミエを、修也が制する。 「こっちも……、来る!」 修也の腕が、空手でいう正拳を繰り出す。それをカタパルト代わりに、リュミエが飛び出した。 弾丸装備は、直線的な機動しか出来ないように見えて、その実そうではない。サブスラスターとして機能するランディングギア、 主推力ではあるが動きの自由度が高い主翼スラスターを偏向させることで、少なくとも通常の天使型と同程度の機動力は確保している。 すれ違いざま、左手のハンドガンで鳥型の頭部を撃ち抜く。 「……っ」 リアルバトル用の制限プログラムは、今回は外してきた。もちろん、敵... -
幻・其の四
本文を読む前に、幻を紡ぐ少年(修理屋氏作)をお読みください。 「ただいまぁ~……」 御影市にあるアパートの一角、上岡修也の家に、気の抜けたような少女の声が響いた。 「あれ、お帰り。ずいぶん早いな」 「お帰りなさい、梓さん」 この家の主たる修也と、彼の神姫であるリュミエが、たった今帰宅した梓を迎える。 昨日、彼女の電話を(あくまで偶然に)聞いたところによると、センターの前に居座る不審な男について調べに行くらしかったのだが。 「もぉ、聞いて下さいよ修也さん!」 さっきまで気が抜けていたかと思えば、今度は修也相手に結構な勢いで愚痴をこぼす。全く、元気な事だった。 「……どうか、したんですか?」 「聞かないでやって欲しいです。にゃぁ……」 神姫達は、そんな会話をしてたとか。 「まったく、慎一君も慎一君ですよ! 一応刑事さんってことだったけど、そ... -
幻・其の二
・・・・・・行かなきゃいけないのかなあ。 夏休み初日、僕は起きてからずっと迷っていた。 昨日は梓に押し切られ、会う約束を取り付けられてしまったが、やはり気が乗らない。人とはあまり関わりたくないし。 その一方で、久しぶりに同年代の子と話せるという楽しみもあったし、学年内でも人気の梓と、「武装神姫」という秘密を共有している嬉しさも、あった。 ・・・・・・どうしようかな。 「あの・・・・・・」 そんな具合で考えていると、ネロに声をかけられた。 「やはり迷惑ですし、断りの連絡を入れましょう」 最初は同意した。けれど、少し考えている内に、なんとなく、違う気がしてきた。 「・・・・・・そうやってまた、今までみたいに、あんなふうに生きていくの?」 あの時見た、ネロの姿を思い出す。 「ええ、慎一や他の方々に、迷惑をかけるわけには・・・・・・」 「そん... -
幻・其の十一
8月1日。 目が覚めて時計を見てみると、針は朝の九時を指していた。普段なら寝坊なんだけど、今日はなんとなく、起きるのが億劫だった。もう一度、ベッドに倒れこむ。 結局昨日は、ミナツキと顔を合わせるのが怖くて、彼女の電源を切りっぱなしにしてしまった。修也さんも、一日中いなかったから、家がやけに広く感じた。 寝返りをうつと、机の上のクレイドルが目に入った。慌てて体ごと向きを変え、目をそらす。 ……自業自得なのに。こっちに越してきて、寂しいからって入学祝いに買ってもらって、それで、これ。 やっぱり私、最低だ。 家にいても落ち込むだけな気がしてきた。部屋を出てみると、今日も修也さんはいないらしい。 身支度をして、私は外に出た。 住宅街から駅前へ出て、特に当てもなく、商店街をぶらつく。そうしたら、 「あれ? 梓、一人で何してるの?」 聞き覚えのある声。振り... -
幻・其の六
「あ、あの……」 「ったく、久しぶりに外出してみれば、お使い頼まれるし荷物持ちはさせられるし、最悪だ。……おい!」 「は、はい!?」 パンパンと埃をはらいつつ立ち上がった少女の妙な迫力に、梓は気圧されていた。 「手伝えよ」 そう言って、抱えたデカい荷物を梓に差し出す。 「え、あの、でも……」 「いいから早く持てっての!」 梓が躊躇ったのは、関わりあいになりたくなかったから、ではない。少女の後ろに男性が見え、その男が、 ごつん! と 「……痛ってえ!?」 少女にゲンコツをかましたからだった。 「失礼いたしました、お嬢さん」 「は、はあ……」 その男もその男で、やけに気取った……と言うべきか、演技臭い……と言うべきか、そんな口調と仕草で、 「ご迷惑をおかけしたお詫びに、お茶でもいかがです?」 などと言ってくる始末。 ……怪しい。... -
幻・其の三
「さてと・・・・・・」 パソコンのウィンドウを閉じて、俺――上岡修也は一息ついた。 「記憶喪失の神姫・・・・・・か」 今日・・・・・・いや、もう日付が変わってるから昨日か・・・・・・、センターでその神姫と出会った時、すぐに俺は小林に連絡して、偽装データを作ってもらった。とっさに出た行動だと、今思い返しても感じる。 彼女をメーカーなり警察なりに渡さなかったのには、それなりの理由がある。 「マスター」 つらつら考えてたら、俺の神姫であるアーンヴァルのリュミエが声をかけてきた。 「ああ、悪い。今パソコン空けるから・・・・・・」 「いえ・・・・・・。あの、マスター」 「ん?」 「今日、何かあったんですか?」 ・・・・・・なぜにそんなことを聞く。 「明日話すよ。とりあえずもう寝ろ。な?」 「マスター、日付変わってます。そんなに待たせるおつもりで?」 「... -
幻・其の五
「……いいんですか、そんな勝手な事をして」 研究所内の二人の男女。傍目、年齢の離れた兄妹にも見えるこの二人(実際には、女の方が年上なのだが)は、いつの間にか研究所名物になっていた。 「いいんじゃないか? 本人も、どうも祖父母とは折り合いが悪いって言ってたし」 そりゃあ、愛娘を嫁がせた相手が正当防衛とはいえ人を殺したのだ。嫁姑もとい、この場合婿舅の折り合いが悪くなるのは当然だし、その余波を孫が喰ってもおかしくはない、とかすみは思う。 ……思うのだが。 「だからといって、いきなり泊めに行かせますか?」 この幼馴染、修也は絶対、面白がっている。内心こっそり、かすみは溜息をついた。 「……そうなんだ」 慎一から、梓は事情を聞いた。 彼の過去についてはこの間聞いたのだが、さらにそういう事情まであるとは思っていなかった。 「うん。で、来ちゃったんだけど... -
幻・其の十
8月1日。 梓の家に泊めてもらった後、僕たちは結局家に戻った。ずっといるってわけにはいかないし、朝起きてみると、梓が何だか沈んだ顔をしていたから、とりあえずいない方がいいと思って。 その日は外出する気は起きず、家で無為に過ごした。 そして翌日。僕とネロは、また神姫センターに来ていた。 店内の端末を操作して、コミュニティから神姫を探しているという情報がないか、調べる。 「御影市」「ストラーフ」「ネロ」などのキーワードで検索……該当なし。 念のため、範囲を県内に広げる……やっぱり該当なし。 「やはりダメですか、慎一?」 「うん……」 以前と変わらない結果に、僕は少し落胆する。 「ごめんね、ネロ。なかなか見つけられなくて」 「い、いえ、そんな。気を落とさないで下さい」 ……気を落としてるのは、ネロも一緒……いや、もっとつらいはずなのに。それでも気を使って... -
幻・其の七
「……本当なんですか?」 机の上、秋葉が手を止めて、かすみに聞いた。 「少なくとも、あの刑事さんが嘘をつく理由はないわ。それに実際、窃盗事件が多発してるのも事実なんだし」 「だったら何も、わざわざ実験を強行しなくても」 「そうは言ってもね……。半分所長の趣味とはいえ、ここはかなり黒寄りグレーゾーンのモノを造ってるから。それに、私達が実験を行うことで、その窃盗団をおびき出すこともできるでしょ?」 秋葉はその言葉の意味を少し考え、 「……それって、私達が『餌』になるってことですか?」 「そう……なるわね」 溜息をついた。 「ひっでえな、その刑事」 隣で会話を聞いていたはやてが、吐き捨てるように言う。 「仕方ないのよ。いずれどこかがこういうコトをしないと、その窃盗団も捕まりそうにない、って言ってたもの」 「なあ、あたしも行っちゃダメ... -
幻・其の一
今日は終業式、明日からは夏休みだというのに、僕は学校を休んだ。しかも、仮病で。 単純に学校に行きたくないということもあるのだけれど、もうひとつ理由がある。 僕は武装神姫について、なにも知らない。今後、ネロと生活していくとすると、何が必要なのか、どのように接していけばいいのかなど、色々と調べる必要があった。 ・・・・・・そんな理由で学校休んだなんて、口が裂けても言えないけど。 とりあえず、昨日のうちに充電用のクレードルだけはなんとか入手できた。おかげで、所持金がほとんど無くなったけど。 家の中は、静まり返っている。祖父も祖母もまだ元気で、昨日から北海道へ旅行に行っていた。四泊五日の予定らしいから、しばらくは帰ってこない。と、 「ん・・・・・・」 クレードルの上で、ネロが目を覚ました。 「おはよ、ネロ。気分はどう?」 「おはようございます、慎一。久... -
幻・其の十三
「そういう、仕事って……」 「違法神姫……、何らかの部分で法を逸脱している神姫を摘発する仕事。例えば、神姫はその小ささを利用して、暗殺なんかに使われる事がある」 「……暗、殺?」 小林さんの口から出た言葉を、私は思わず繰り返した。 「そういうのを取り締まる仕事だよ。……非合法でね」 「え?」 非合法、って……。 「本来、そういうのは警察の仕事なんだけど、お役所っていうのは小回りが効かなくてね。見て見ぬふりをすることもある。だから、非合法を非合法で解決する、必要悪が出てくるわけだ」 小林さんは必要悪と言いながら、何だか後悔しているように、私には見えた。 「もっとも、僕は半年前にやめたけどね。あの研究所と付き合いがあったから、今はそこに出入りさせてもらってるけど。……話がズレたね。ごめん」 「あ、いえ」 「君の言うとおり、神姫に欲情する男がいることは事実だよ。まあ、... -
幻・其の十二
「かすみー! 連れてきたよーっ!」 はやてに案内されて、僕とネロはセンターの隣、「附属研究所」という場所に来た。 そこで僕達を出迎えたのは、先日あの刑事さんの応対をしていた、あの女性職員さんだった。 「ええ、ありがとう、はやて」 職員さん――かすみさんは、僕達を研究室に連れて行く。どうも修也さんの知り合いらしく、話はもう知っているようだった。 「これまでに、バトルサービスで何らかの理由でロストした神姫について調べてはみたんですが、ほとんどの子がメーカー送りになっています。ネロという名前も数件ありましたが、確証は掴めませんでした」 道すがら、かすみさんはそう説明してくれた。 「で、一回ネロそのものを調べたほうがいいんじゃないかと思ったわけです。……あんまり、気は進まないんですけど」 要するに、ネロのメモリーにかかっているブロックを何とかして外すか、外せなくとも手掛か... -
wiki相関図 最新投稿対応状況
wiki版キャラクター相関図最新投稿対応状況 2007年4月5日時点で、以下の話までは確認しています。 主に相関図の進度確認用のメモ。 もどる Mighty Magic インターバル6 神姫たちの舞う空 コンタクトイエロー CROSS LO[A=R]D 14話 神姫狩人 第五話 武装神姫のリン 3章第20話 凪さん家シリーズ 凪さん家の十兵衛さん第十二話 真・凪さん家の弁慶ちゃん 第一話 凪さん家の弁慶ちゃん/0 TR-2 凪さん家の弁慶ちゃん 3話 ねここの飼い方 そのじゅうよん 劇場版~十一章・終焉~ ねここの飼い方・光と影 ~十章~ 岡島士郎と愉快な神姫達 第十三話 外伝第一話 『不良品』 師匠と弟子 明日の為に、其の... -
幻・其の二十 ~再会~
外気の暑さと身体の熱さが相まって、どうしても眠りにつけなかった。 「……ふう」 すぐ傍には、梓が寝息を立てていた。やっぱり暑いのか、時々寝苦しそうに寝息が乱れる。一応、行為の後にちゃんと服は着たものの、こっちも乱れていた。 ……何を見てるんだろう、僕は。 眠る前の、梓の姿を思い出した。今以上に、どうしようもなく乱れた梓の姿。乱したのは、僕なのか? 梓の心を乱して、そんな行為に走らせたのは、僕なのか? ネロのことを忘れようとして。 わからない。わからないのに、わからないけど、梓を受け入れて、そういう行為を受け入れたのは、僕自身で。 日が昇るころまで、僕のそんな葛藤は続いた。 薄日が差す頃になって、僕は眠るのを諦めた。 「……ネロ」 思わず、その名前が漏れた。 たった十日ほど、僕と一緒にいた神姫。 幻みたいだった、僕のそばにいた神姫。 ... -
幻・其の十六 ~在処~
「どう……なんですか、かすみさん?」 メンテベッドに繋がれたコンピューターを操作する私の耳に、不安そうな慎一君の声が、さっきから断続的に入る。 ネロの状態は、表面上、安定していた。 ただ。 「……まったく、反応がありません。AIの処理がループしているか、あるいはAI自体が反応を拒否しているか……は、わかりませんが」 「そうですか……」 そう答える慎一君の顔は、私を見ていない。ネロを見ている。けど、ここにいるネロじゃなく、動いていた時の彼女を。 「はやて、慎一君を送って行って」 「え、あ、お、おう!」 あんまり、はやてを外へは出したくなかったし、なにより私自身、はやてに傍にいてほしかったのだけれど、今、適任者ははやてしかいない。 ここからの話は、今の慎一君に聞かせられる話じゃない。 二人が部屋から出たのを見届けて。 「……話して、くれますね?」 自分... -
幻・其の十八 ~鼓動、重ねて~
「……ちょっと、待って。それは……」 「言わないと、わかんない?」 そういうわけじゃない。僕だって、普通の高校生の知識は持ってるつもりだ。だから、梓を「抱く」ことの意味くらい、わかる。 「……どうして」 けど、行為の意味がわかることと、どうしてそんなことを言い出すのかをわかることは、別問題で。 「そんなこと……」 「……悲しい顔、見たくないもん」 「そうじゃ、なくて……!」 そんな理由で彼女を抱くなんてのは、いくらなんでもできない。 「どうしてそうまで、僕に構うの!? 僕なんか放っておいたって、いいじゃないか!」 今まで、僕が頑なに他人との接触を避けてきた理由。ひとつは、父のしたことを知られたくなかったこと。そしてもうひとつ、ネロと出会って、過ごして、そしてさっき気付いた。 いなくなるのが嫌だから。仲良くなって、親しくなって、そして別れるのがつらいから。 ... -
幻・其の二十一 ~それぞれ~
「……良かった」 何だか、急に気が抜けた。再会できた慎一君とネロを見ていたら、そんな気がした。 「良かったな」 「……うん」 今回ばかりは、修也君の言葉にも素直に応じられる。 けど、 「でも……、やっぱりわからないな」 「ん?」 素直には、喜べない所もある。 「結局、どうしてネロが再起動できたのか、根本的な原因はわからないままだから」 「……人間だって、自分達の心の中がちゃんとわかってるわけじゃないんだ。神姫の心だって、本当はわからないんじゃないか?」 無責任な言葉だけど、何となく、同意できた。 「……そう、かもね」 「……マスター、本当によろしかったのですか?」 いつしか起動していたらしいミナツキの言葉に、私は振り向いた。 「慎一君を行かせちゃった事? それとも、昨夜の事の方?」 「両方です」 両方か……。前者はいいとして、後者は... -
幻・其の十四 ~崩れた積み木~
「……じゃあ、ネロっていったい何なんですか?」 「わかりません。……わからない事だらけなんです」 メンテベッドとコンピューターとの接続を切って、かすみさんが答えた。 「正直どうしていいか、私にはまったくわかりません」 それきり、かすみさんは黙り込んでしまう。 「解離性同一性障害……」 どれだけ経ったか、かすみさんがぽつりと言った。 「え、っ?」 「わかりやすく言うと、多重人格です」 ……多重人格? 「それって、ネロが?」 「ええ……。彼女は、本来彼女のAIとCSCに宿っていた人格……主人格が、何らかの理由で創った、別の人格の可能性があります」 別の、人格だって? 「どうして……」 「断片的ではあったんですが、彼女の記憶データの中に、いくつかおかしなものがあったんです」 「おかしな、もの?」 「なんて言うか……、上手く言えないんですが、記憶とは... -
幻・其の十五 ~夜明け前の暗闇~
無力感、虚脱感。それが、ネロという神姫を調べた後の私を、支配していた。 どうしようもなかった。 そんな言葉で片付けていい問題じゃない。そんなことはわかってる。 でも、事実、どうしようもなかった。 いっそ、調べなければよかった。そんな風にすら、考えてしまう。後悔先に立たず、とは言うけれど。 「……はあ」 研究所の休憩スペース、そこに座って、そろそろ一時間。外は暗くなっている。夏の日は長いとはいえ、夏至はとっくに過ぎた8月。それなりに、日は短くなってきていた。 いつまでもこうしているわけにはいかないのだけれど、どうにも自分から動く気にはなれなかった。 「……かすみ」 いっしょにいた、はやてに呼ばれた。 「何、はやて?」 億劫ではあったけど、ちゃんとはやての顔を見て、答える。この子も、幾分かショックを受けているのかもしれない。かつて私の所へ来た時のように、... -
幻・其の十九 ~価値、そして代償~
「……どうして、ですか?」 「そうしないと、そもそもあなたは戻れないのよ。抽象的な話になるけど、ここは今、私とあなたが同時にいる事で、バランスがとれた状態になっちゃってる。どっちかが消えてバランスを崩さないと、どうにもできない」 「そんな……!」 「……気にすることなんかないわよ。初対面だし、私は一度死んでる。遠慮なく刺して頂戴」 確かに、生みの親ともいうべき存在ながら、イヴと私は今まで出会うことはなかった。でも、 「……そうしたら、あなたはどうなるんですか?」 「完全に消えるでしょうね。そもそもが、データの屑だし。文字通り跡形もなく、きれいさっぱり消えるはず」 「……」 「ああでも、運がよければ、あなたに私の記憶データが引き継がれるかもね。まあ、あなたは自分の物じゃない記憶に苦しむかもしれないけど」 いずれにせよ、本来生きているはずのイヴは、完全にいなくなってしまう... -
幻・其の十七 ~cogito ergo sum~
ここに来るまでは我慢できていた涙が、「ネロ」という言葉を口にしたとたん、溢れ出した。 落ち着くまで、梓は何も言わず、待っていてくれた。 詳しいことは、僕自身よくわからない。ただ、出口で出くわしたあの人が言った「イヴ」という言葉、その後のネロに起こったこと、かすみさんの推測、落ち着いて考え合わせると、その男性がネロの――ネロの主人格を持った神姫のオーナーだった、ということになる。 そんな内容を、梓に話した。 「……矛盾してた。僕とネロの関係」 仮に普通にネロのオーナーが見つかったとして、その後のことを僕は考えていなかった。 「ごめん……。私のせいだよね、それって」 「ううん……」 たしかにオーナーを探そうと言い出したのは梓だけど、それを了承したのは僕だ。梓が悪いわけじゃない。 そもそも、ネロは本来、何処にいるべき子なんだろうか。 ついさっきは、幻でもいいか... -
御影市紹介
「幻の物語」の舞台である御影市の各所を、舞姫・秋葉・アリスの三人が紹介します。 ~其の一・御影市神姫センター~ 秋葉「本編中でも度々登場する場所ですね」 アリス「つーかよ、ほとんどここしか出てねえんじゃねえか?」 舞姫「今のところ(其の九現在)は、そんなものでしょう」 秋葉「さて、ここは大きな街なら普通にある、普通の神姫センターです」 舞姫「むしろ、附属研究所を紹介するべきでしょうね」 アリス「かすみが寝泊りしてるトコだな」 秋葉「……ちょっと違う気が」 舞姫「センターの所長さんの副業のようなもので、主にワンオフの武装・パーツを開発・研究しています」 秋葉「かなり黒寄りに近いグレーゾーン……とご主人は言っていますが、決してそんなことはないですよ?」 アリス「……なんつーか、あたしがいる時点でそんな事言っても説得力ねー気がするんだけど……... -
第弐章第六節:夢の中で…其の参
{夢の中で…其の参} ☆ 「…またここか」 俺は薄暗い研究所にいた。 しかも地面に足が着いてない。 前に来た時と同じ、俺は夢の中でアンジェラスと思われる奴と会ってそこで俺の九年前の記憶を引きだそうとしている。 前回は何やら女子大生の知能を使う変わりに、その女子大生の弟の生活を会社が援助するという話で終わった。 さて、今回はどのような記憶かな。 「でも、この映像はちょっと酷すぎるぜ」 最初に『薄暗い研究所』と言ったが実際の所は明るい。 電灯もちゃんとついてるし、寧ろ明るすぎる。 でも俺にとっては『薄暗い研究所』なのだ。 まるで俺の視界だけに『ぼかし』と『明るさ調整』の効果をだしてるような感じだ。 なんでこんな事になっているのか…これは俺の推測だが、多分、俺の記憶が所々欠落しているからだと思う。 それに原因はそれだけじゃないはず。 欠... -
第弐章第弐節:夢の中で…其の壱
{夢の中で…其の壱} 「…また、この場所かよ」 前に見たことがる草原に立っていた。 まさか前と同じ夢を見るとはね。 それにこんなにも意識がハッキリしてるのが逆に気持ち悪い。 なんでまたこんな夢を見ないといけないんだ。 「マスター…」 「!…アンジェラスか」 また会った。 人間サイズの神姫。 しかもアンジェラス。 確か前にアンジェラスの口で犯されたんだっけ? …ウゥッ、思い出すだけで勃起しそうなぐらいのエロさだったなぁ。 「マスタァー」 俺に抱き付きアンジェラスの両手が背中に回され絡められる。 同時に俺の鼻孔が甘い香を吸った。 この匂いは多分アンジェラスの香だ。 更に柔らかい身体が俺の胸や腹にピッタリとくっつく。 素直に気持ちいいと思う。 「マスター。今日もしましょう♪」 そう言ってアンジェラスは自分の右... -
明日の為に、其の6!
<明日の為に、其の6!> エストの未勝利記録更新も2桁に差し掛かったある日、一通の手紙が届いた。 面倒な事は省くが、未勝利者を対象とした特別な大会のお知らせらしい。 正直なところ乗り気ではないのだが、当の本人がワクテカしてる訳なので連れてってやるか。 あー、そのー、うーん、会場間違えたか? 目の前にある立て看板には ”ドキッ、神姫だらけの相撲大会(ポロリがあるよ)” これはまたいつの時代のバラエティー番組ですか。 「私は相撲でも頂点に立つ神姫です。」 いやいやエストさん、頂点に立ってないから呼ばれてるんですよ、と。 これ以上無駄な労力費やす前に受付済ませて準備をしてしまおう。 「こちらが今日のレギュと装備となっております。」 相手の装備を全部剥くか、ステージから押し出せばOKなのか。 つか主催が剥くとか書いてる時点で怪しいな。 装備はこの肉襦袢もどき... -
明日の為に、其の3!
<明日の為に、其の3!> 爽やかな朝だが、今日もいつもの無茶なお願いをそろそろ言いに来るはずだ。 ドタドタドタ 「師匠~。」 ほら来た。 「今日は何だ?マントならまだだぞ。」 「師匠、必殺技の伝授をお願いします!」 しまった、教育の際に戦隊成分を多くし過ぎたか。 「臓物をぶちまけるような錬金の漫画みたいに、槍を構えて技名叫びながら突進じゃ駄目なのか?」 「駄目です。」 「そう言われても、生身で一般人の俺は必殺技など使えんぞ。」 言った瞬間にエストが心底哀れだと言わんばかりの目で見やがった。 誰かコイツの判断基準を教えて下さい。 「付いて来い、出かけるぞ。」 さーて、やって来ました我が職場(休んでるけどな)のフィールド部門ー。 「ちわーっす、主任居ますかー。」 「久しぶりだな、神姫とは仲良くやってるか?」 「色々と言いたい事はありますが、今回は要... -
明日の為に、其の5!
<明日の為に、其の5!> 威厳を見せ付けるためとはいえ、腕を酷使した代償は筋肉痛という形となって現れた。 そう、筋肉痛が悪いのであって決して俺が不器用なのではない。 マント作りの過程で残骸となった哀れな元・布を横目で見つつ、誰も居ないのに言い訳する。 既製品は避けたいよなー、見た目が地味だし。 「ホビーショップエルゴ?」 『そう、エストちゃん用の武装を発注しておいたから取りに行って欲しいんだ。』 「勝手にそんな事してたのか。でもまだ初対面の人と話せるか怪しいぞ?」 『大丈夫大丈夫、きっと店長と趣味が合う筈だよ。』 「無駄を承知で聞くけど、領収書貰っておいたら経費で落ちる?」 『落ちる訳無いじゃない、うさ大明神様にもよろしくー』 あ、電話切りやがった。 自分からかけてきておいて、しかも事後通達とは相変わらずだ。 最後に聞こえた怪しげな単語も気になるし、行... -
明日の為に、其の1!
<明日の為に、其の1!> 「これ以上戦えぬ者に手を出す気はありません、再戦を楽しみにしています。」 また今日もいつものように戦闘停止を申告し、結果的にはドローになる。 8戦やって0勝0敗8分、デビューしてから毎回この調子なのだ。 どうやら自分の趣味が彼女に変な価値観を植えつけてしまったらしい。 そもそも巷で大流行の武装神姫を購入する予定は一切無かった。 仕事で散々扱ってきたのに、病気で休職中の時まで見たくなかったのが正直な感想だ。 「リハビリ兼ねて、お前のボーナスは現物支給でコレだから。」 とは上司の台詞である。 本来は開発に携わった人物がバトルサービスに関わるのは好ましくないのだが、 神姫本体では無くバトルサービスのシステム開発部である事と、 ある種の市場調査を兼ねての特例との事らしい。 その際に都合良く休職中の自分に白羽の矢が立った訳だ。 こうして... -
明日の為に、其の12!
<明日の為に、其の12!> 引き抜いたハグタンド・アーミーブレード×2を同軌道に時間差で投げつける。 相手のサイフォスがコルヌで1本目を弾くが、その背後にある2本目には気付いていなかった為に反応が遅れ、身体を捻って避けるので精一杯。その隙にブースターを噴かして距離を詰め、無防備な胴体にヤクザキック。 倒れたサイフォスを踏みつけ 「この写真の男の事を知っていますか?」 サイドボードより転送された、失踪中の師匠の写真を見せる。 質問が戦闘開始前か後かを除けば、ここまではビデオで予習した通りの流れで来てる。 さあ、後は相手から「知らない」と聞いて試合を終わらせるだけだ。 だったのだが、聞こえた返答は予想外のものだった。 「知ってるわ。確か先週関西に居たわよ」 「そうですか、知らないなら仕方ありません。負けてもらいます」 「ちょ、ちょっと、人の話聞いてるの!?」... -
明日の為に、其の2!
<明日の為に、其の2!> ビュンッ、ビュンッ 自分の部屋の中なのに風を切る音がする。 「せいっ!」 「たあっ!」 夢にしてはえらくリアルな声が聞こえるなー。 「素振り終了、朝ですよ師匠。」 いやー、ついに見ちゃいけない類の幻覚見えるかー、ヤバイな俺。 「ちゃんと起きないと一撃かましますよ?」 「ゴメンナサイ起きます、今すぐに起きます・・・ってあれ?」 「何処を見ているのですか、私はここです。」 ご丁寧に窓の外の電柱に登ったのか、わかりやすい奴め。 「馬鹿と煙は高いところがsウグゥ」 その距離を跳び蹴りとは、人間様に対する攻撃リミッターとかどうなってやがるんだ。 「これも親愛表現の一つですから、どうぞお気になさらずに。」 残念な事に、やはり神姫を入手したのは夢ではなかったらしい。 「さて、朝飯も食ったし寝るか。」 「わかりました師匠、早速バトルし... -
閑話休題:其の8、後日譚
<閑話休題:其の8、後日譚> 頭からデビルバニーの最期の表情が離れない。 自我など無い筈なのに、どうして別れの言葉を自分に向けて放ったのか。 そう聞かされたから信じていたけど、本当に自我の無い神姫だったの? 「アナタガ ワタシヲ コロシタ」 違う、暴走を止めただけだ。 「アナタハ ジブンノチカラヲ タメシタカッタダケ」 あの戦闘を心地よく感じていたのは事実。 ならば私は自分の愉しみの為に、バニーに自我がある事実に気付かないフリをして、力を振るって満足感に包まれていただけなのか。 『何してる馬鹿、避けろ!』 私の心を削るかのように、相手のガトリングより放たれる弾丸が、手を足を削り取っていく。 そうだった、確か今は試合の最中だったんだ… 薄れ行く意識の中、大きな光が迫ってくるのが見えた。 当然の如く試合に負けた訳だけども、私を諌めるどころか、師匠は... -
明日の為に、其の7!(前編)
<明日の為に、其の7!(前編)> 初夏の陽射し眩しいあの日、あの時、私達は出会った… 「アレに対抗するには、このシステムを完成させるしかないんだ。」 ある日悪友により渡された映像には、世間を賑わせているらしい魔法少女の戦闘が映し出されていた。 えらくガチンコな魔法少女だと感心したものだが、同時収録のリリカル何とかによると、どうも最近の魔法少女とやらは熱い戦闘が基本らしい。 その中でもライダーシステムとやらが個人的にツボった訳だが、どうせやるなら二番煎じでは無く、別の方向からアピールするしかないとの結論に至った。 「ふみゅ~ん」 無視 「はにゃ~ん」 聞こえない 「ご主人様ぁ~ん」 「ええい、修行のしすぎでついに回路が1本ぐらい切れたのか!?」 「違いますよ師匠、私なりに”萌え”なるものを体現した結果です。」 「間違ってるし、そもそもお前には無理だ... -
明日の為に、其の7!(後編)
<明日の為に、其の7!(後編)> さっきまで布団を叩くような音がしていたのだが、急に静かになった事を不審に思いベランダの方を見る。 エストの姿はそこには無く、PONでライオンが物悲しそうに座っているのみだ。 少々変わった形状の1Fに住んでいる為、ベランダからすぐに外に出られるので度々周囲を走ってたりする事が以前にもあった。 なので今回もそんな類の事だろうと思っていると、神姫サイズのダンボールを抱えて何か言いたそうに帰って来た。 このサイズの中に納まる犬猫が存在すると思ったエストにも呆れたが、やり取りを纏めるとこうなる。 ・名前はSir The darkとかいうらしい。 ・自分のほかにもう一体同系機が作成されたが、性格上の理由で破棄が決定された。 ・気付いた時には箱に入れられて家の前だったらしい。 製作者やら、どうやったらこのサイズでの自律型AIが搭載可能... -
「其の求める名は」
最終幕「其の求める名は」 起動直後の神姫は、最低限のパーソナリティーを有しながらもまっさらな状態で目を覚ます。 それはコミュニケーションをも目的とした玩具、道具であるからである。 余談ではあるがそれは、十数年前まで流行していた育成シミュレーションゲームに取って代わる原因でもあった。 たとえ一度起動したものだとしても、原則的に別のオーナーの所有物になった時点で全ての蓄積されたデータは消去される。新たなオーナーと、新たな関係を作り出すために。 では、この何も加えられてはいない記憶領域に、過去に蓄積された別の神姫の記録をコピーされるとどうなるのだろう。 もちろん、その過去の記録の所有者になるはずは無い。 最低限の個性が、初期段階で生まれているのだから。 しかしそれは、本当の意味で初期状態の個性から派生する人格と言えるのだろうか。 結城セツナの友人となった武装神... -
明日の為に、其の4!
<明日の為に、其の4!> オハヨウゴザイマス、(他称)師匠です。 今日は人を敬うつもりの無いエストをギャフンと言わせたいと思います。 その舞台になるのは 「どっちの実力が上なのかな模擬戦in神姫評価試験室~!!」 「何を朝から室内で叫んでますか、恥ずかしい。」 そんな舐めた口を利けるのもここまでよ、土下座して謝るが良いわ。 と、声に出して言えない俺チキン。 目の前では試験室の使用許可を取ってくれた主任と悪友が何やらセッティング中だ。 「ところで、どうやって私と師匠が勝負するんですか?」 「ここには武装やらフィールドを試験する為の、AIユニットを搭載していない操縦型の神姫がある。」 「それは昨日の会話で知っています。」 「操作方法は特別仕様で、格ゲー用のスティックを使用出来るようにしてもらい、視覚はバイザー着用で神姫視点な訳だ。」 「ワタシソレツカウ、ア... -
明日の為に、其の11!
<明日の為に、其の11!> 本日退院の師匠を迎えに病室へと赴くと、その場に姿は無く、ベッドの上には文字の書かれたメモ用紙のみ。 ”捜さないで下さい” 顔を見合わせるエストとアンの2人。入院中の預かり主兼付き添いの悪友がボソッと 「神姫がマスターから脱走するって話はたまに聞くけど、マスターの方が逃げたのは初めてのケースだろうね」 「師匠は逃げたりなんてしません!! きっと何か事件があって、それに私達を巻き込まないようにする為です」 「その割には落ち着いた文体であるな」 「こんな時こそ私の真の実力を見せる時です」 言うなりアンと何やら相談を始め、病室のカーテンを閉じ、照明をOFFにする。 どこからともなく流れるBGMと、宙に浮いて懐中電灯をスポットライトよろしく照らしつけるアン。 「ひと~つ、人より目立ちたい」 「ふた~つ、踏まれたぐらいじゃ壊れない」 「みっ... -
師匠と弟子
あらすじ 休職中の俺に手渡された現物支給のボーナス、巷で大流行の武装神姫だった。 馬鹿な弟子だがこうなりゃヤケだ、咲かせてみせよう悪の華。 [最終更新日:1月27日(明日の為に、其の13!(後編))] 明日の為に、其の1! 明日の為に、其の2! 明日の為に、其の3! 明日の為に、其の4! 明日の為に、其の5! 明日の為に、其の6! 明日の為に、其の7!(前編) 明日の為に、其の7!(後編) 明日の為に、其の8!(前編) 明日の為に、其の8!(後編) 明日の為に、其の9!(前編) 明日の為に、其の9!(後編) 明日の為に、其の10! ※お食事中の方注意 明日の為に、其の11! 明日の為に、其の12! 明日の為に、其の13!(前編) 明日の為に、其の13!(後編) 閑話休題:パカパカ 閑話休題:白濁液 閑話休題:其の8、後日譚 閑話休題:とある種子の記憶 ... -
師匠と弟子 明日の為に、其の13!(前編)
<明日の為に、其の13!(前編)> 某サナリィ製MSもビックリな分身をしていた鳥子のマスターの声。 それは3人が探していた人物の声ととてもよく似ていた。 唯一つ、普通と違うところがあったとすれば、それは鼻メガネだった… 「こんな感じのナレーションでOKかな?」 「わかりやすい説明をありがとうございます」 見た目は鼻メガネと距離のせいで断定できないけど、あのツッコミの態度は黒須君で間違いないと思うね。 元々彼の実家もコッチだし、エスト達には内緒だけど主任から事情は聞いてるしねっ! 面白そうなのでけしかけてみよう。うん、是非そうしよう。 「丁度今の試合が終わったみたいだし、拳で聞くのが早そうだよ」 「わかりました。特訓中のアレを試すのにも良さそうですし、当たって砕けろです」 「砕けるのはちょっと考えた方が良いのではないか?」 「それじゃ、ちゃっちゃと準備し... -
師匠と弟子 明日の為に、其の13!(後編)
<明日の為に、其の13!(後編)> ”WINNER 月音” ジャッジが告げる。 ギャラリー達もどうリアクションしていいのか、気まずい空気がその場を支配した。 『こっからがウチの見せ場ちゃうんか!?』 「こっちに打つ手がなくなった時点で弱い物いじめになるけど、それは望むところじゃないでしょ?」 『それはまあ…』 『そっちなんて歌っただけマシです。こっちは本当に何もしてないんですから』 負けた時でもここまで落ち込まないのに、見せ場が無かっただけでこの世の終わりみたいなオーラを出されるだなんて、はてさてどんな教育してたんだか。 「茶番も終わったんだし、戻っておいでよ黒須君」 少々飽きてきたので事態の収拾を図るべく、筐体の反対側に座る鼻メガネに声をかける。 ところが何か様子がおかしい。まるで初対面の人間と向かい合っているような不思議な感覚がある。 「確かに師匠っぽいです... -
明日の為に、其の8!(前編)
<明日の為に、其の8!(前編)> 『西暦2036年、世界は神姫ブームに包まれた。』 「って声が聞こえて来そうな感じだよな。」 流れている神姫のCMを見ながら、あながち間違いじゃないよなとか思う。 「ついに師匠が見えてはいけない妖精さんと会話しちゃってます…」 「エストよ、気付かないフリをするのも優しさだぞ?」 神姫と似非猫が勝手な事言いやがって。 『さーて、来週のサザエさんは?』 『ハーイ、チャーン、バブー、の3本でお送り致します。』 現在まで続いている国民的超長寿アニメが終了したようだ。 「そこの馬鹿ーズ、そろそろ約束の時間だし出かけるぞ。」 「はーい。」「うむ。」 否定しないのかよ。 「やっとアンも自由に動けるね。」 「あれはあれで居心地は良かったのだが、自分の意思で動けるのは格別だ。」 例によって困ったときの悪友頼み、アンを拾った経緯を適当に... -
明日の為に、其の10!
<明日の為に、其の10!> どうも、エストです。精神修養の為に正座をしていますが、どうも神姫である私には痺れが来ないので無駄っぽいです。 今回師匠はコーンポタージュの飲みすぎでお腹のダムが決壊したとかで、トイレに篭っています。つまり師匠の声は全てトイレと言う名の聖域からな訳です。 「あ~、KAN○Nみたいな世界に行きてーなー。」 「そんなに教皇にあこがれてるんですか? それとも、単にアナザーディメンションが使いたいだけですか?」 「むしろお前の思考が常にアナザーディメンションだ。」 「我輩の検索能力によると、『うぐぅ』とか言うタイヤキ好きなヒロインや、ちょっと朝が弱い従兄弟が居たりする都合よくも甘美な世界のようだ。」 成る程、それならば私が願望を叶えてあげるべきでしょうか。 「UGUUUU!」 「そんな石の仮面がありそうな世界は要らん。」 何やら意味不明な事... -
第弐章第四節:夢の中で…其の弐
{夢の中で…其の弐} 「よっ。また会えたな」 「はい、マスター」 今、俺がいる場所は果てしなく広がる草原。 ここは俺の夢の中。 何度も言うけど、夢の中でここまで意識が明白というかハッキリしてるのはちょっと気持ち悪い。 けど人間というものは、その環境に慣れてしまえば違和感が無くなる生き物だ。 実際、最初の時よりも気持ち悪さがない。 そしてあの時の約束を果たさせてもらいにも来た。 「では、マスター。そこに仰向けに寝てください」 「ん、こうか?」 「はいそうです。それでは…」 俺が仰向けで寝てる所をアンジェラスが覆いかぶさるようにして俺に抱きつく。 「ちょっ!?」 「動いては駄目です。心を落ち着かせて、身も心もアタシに預けてください」 「で、でもよ~」 「こうしないとマスターの記憶を引っ張る事が出来ません。お願いですからアタシの言う通... -
第弐章第参節:夢の中で…其の弐
{夢の中で…其の弐} 「よっ。また会えたな」 「はい、マスター」 今、俺がいる場所は草原。 細かく言うと俺の夢の中だけどね。 何度も言うけど、夢の中でここまで意識が明白というかハッキリしてるのはちょっと気持ち悪い。 けど人間、その環境に慣れてしまえば違和感もなくなる。 実際、最初の時よりも気持ち悪さがない。 「では、マスター。そこに仰向け寝てください」 「ん、こうか?」 「はいそうです。それでは…」 俺が仰向けで寝てる所をアンジェラスが覆いかぶさるようにして俺に抱きつく。 「ちょっ!?」 「動いては駄目です。心を落ち着かせて、身も心をアタシに預けてください」 「で、でもよ~」 「こうしないとマスターの記憶を引っ張る事が出来ません。お願いですからアタシの言う通りにしてください」 「ん~、解ったよ」 俺は仕方なく身をアンジェ... -
明日の為に、其の8!(後編)
<明日の為に、其の8!(後編)> 鞄の中から取り出した物 「ここに来るまで我輩が取り付けられていた物ではないか。」 「本来ならコイツにAIを組み込みたかったんだが時間が無さそうだしな、お前さんに制御してもらおうって訳だ。」 「それは構わぬが、普通に装備として転送させる訳にはいかんのか?」 「色々とギミック詰めすぎたせいで、その状態だとほとんど役立たずの品になる。」 「もう一つだけ聞いておきたい事がある。」 「何だ?今はあまり詳しい説明はしてやれんぞ。」 「その武装、よもや銃火器はあるまいな?」 どうして我が家の連中の思考は近接一辺倒なんだろうか、後で再教育だな。 「無いから安心して行って来い。」 『師匠、まだですか!?』 さっきまでと違い銃弾を弾く武器は1本になっているが、高硬度の割には中を空洞化する事で重量も軽減してある為、結果的に手数が増えている。 ... -
対決、黒のシュートレイ 其の一
対決、黒のシュートレイ 其の一 あの日から数日後。ひょんなことから神姫のマスターになった私、都村いずるはお正月をアパートの中で迎える事になってしまった。 「まさかここで正月を迎えることになるなんてな…」 本当は今頃、実家に帰って正月を迎える予定だった。ところが家に帰るお金が装備を買ったために足りなくなってしまったのだ。しょうがないので、私は友達と一緒にこっちで向かえる事にするって実家に連絡した。もちろん父さんと母さんは心配した。でも何とかして言い聞かせてもらい、了承を得ることになったのだ。 「ねえいずる、どうしたの?」 考えている私をホーリーベルはふしぎそうに見つめている。そもそも実家に帰れなくなった原因は彼女にある。でも彼女を助けるために自分で使ったんだから、今更嘆いてもしょうがない。 「あ、いや、なんでもないよ。ホーリーはどこか行ってみたい所ない?」 ホー... -
対決、黒のシュートレイ 其の二
対決、黒のシュートレイ 其の二 正月休みも終わり、私、都村いずるはホーリーの身体を診てもらうために、恒一に案内されて神姫センターに行く事にした。この前の事もあって、恒一に言われたとおり検査してもらう事にしたのだ。 「ねえいずる、どうしても行かなくちゃだめ?」 不安そうにポケットの中でふるえるホーリーを見て、私は慰めるように優しい言葉で彼女を落ち着かせた。 「大丈夫さ、検査といっても別に怖がる事はないんだよ。それにセンターにいる人は優しいから心配しなくてもいいんだ」 ホーリーは安心したのか、少し落ち着いた顔になった。 「…分かったよ、検査を受けるよ。ホーリー、いい子にしてるから…」 よかった、検査の事で不安がって、受けたくないって言い出すのかと思った。これで安心して彼女を検査に出せる。 電車に40分ほど乗り、バスで20分ほど乗り継いだところにそれはあった。 ... -
第弐章第八節:夢の中で…其の四
{夢の中で…其の四} ☆ これで記憶を探るのは三回目。 前回は鉄の扉の所で終わってしまったが、今日は鉄の扉の中身を是非とも知りたい。 『No.one』の正体はいったい何なのか。 それを探るべく、今は弟君の姉の方を観察中の俺だが…。 …いっこうにそれらしい話が出ないのだ。 これじゃぁなんにもならない。 自分で何かしようとしても身体全体が幽霊みたいな状態だから、物に触れる事も声を出しても相手には聞こえない、ようするに何にも出来ない。 はぁ~、気長に元女子大生の姉の仕事を見ながら待つとするか。 どーせ俺は動けないし。 「うーん、このステータスで更にあのナンバーアインを強化しろって言われてもなぁ。これ以上の強化するとしたら暴走しかねないし…どうしよう」 何やらお困りのご様子みたいだ。 仕事で上手くいかないなは当たり前。 不可能を可能にするのが仕事... -
第弐章第拾節:夢の中で…其の伍
{夢の中で…其の伍} 俺は夢の中の草原にいた。 空中にはシャボン玉みたいのが無数に浮かび、空には雲がまばらにあり、太陽の光が俺の目を覚ませさる。 「マスター、こんばんわ」 「ヨッ、元気だったか?」 アンジェラスが後ろから声を掛けてきたので、俺は振り替える。 その瞬間、俺はアンジェラスの可愛さに立ち尽くしてしまった。 袖なしの肩紐で白のワンピースを着たアンジェラスがいたのだ。 何処かで見た事があるその白のワンピースに感動。 素直に可愛いと思った俺はポカーン、としてしまい、アンジェラスの奴は不思議そうな感じで俺の顔を覗き込む。 「マスターどうしたんですか?」 「え!?いや、なんでもないよ!ちょっとボーッと、しちゃっただけだから」 「変なマスター。アハハッ」 笑われてしまった。 ちょっと恥ずかしい、話題を変えないと。 「そうだ。早... - @wiki全体から「幻・其の九」で調べる