NO ONE LIVES FOREVER ◆H5vacvVhok


「なあ、お姉さん。少し気になったことがあるんだが、訊いても良いかい?」
「なにかしら?」
 深い森の中、二人の女―――一人は、髪を散切りにしている少女で、もう一人は触れただけで死んでしまいそうな印象を受けるほど顔色の悪い女だが、それでも人を魅了する美しさを備えた麗人である―――がトボトボと歩いていた。
 傍目からみれば、女の二人歩きなど無用心極まりないが、彼女たちに限ってはその心配は必要ない。
 彼女たちと相対した(してしまった)者は皆一つの教訓を得るだろう。
 人を見かけで判断してはいけない、と。
 一人は、元殺し屋で、もう一人は、病弱な女の皮を被った化物である。彼女たちの名前は、匂宮出夢と鑢七実。
 正しく、最強にして最凶の組み合わせである。
 その元殺し屋である匂宮出夢が、口を開く。

「あんた、弟を探し出してどうするつもりだ?」

 この質問に、無表情を保ってきた七実の表情が変化した。
「……………………」
「別にあんただって弟が心配だから探そうとしてるんじゃあないだろう?」
「そうね。あの子はもう、私がいなくても十分に一人でこの戦いを生き延びていけるわ」
「ぎゃはは! そうだろう。それじゃあ何故、弟君の捜索を? やっぱり家族だからか?」
 そんな出夢の質問に七実は、今にも消え去ってしまいそうな儚い表情を浮かべ
「それもあるけれど、私はあの子と戦って死にたいのよ。そして、最期を看取って貰いたい」
 ただ、それだけよ、と言う。
 七実のそんな告白を受けて、出夢は納得したように、「やっぱりか」と呟いた。
「最初に会ったときから、なんとなくそんな気はしていたよ。僕はさ、お姉さんみたいな奴を一人知ってるんだ」
「…………………?」
「そいつは、なんだか死んでいるのに生きているような、まるでゾンビみたいな奴でさ、全身から負のオーラを発して、常にATフィールド全開にしてるんだよ。
 いや、だけどさ、話してみると案外いい奴なんだよ。でも、多分あいつは人間とそこら辺に落ちてるごみ屑の区別さえついてなかったんじゃあないかと思うんだよ。
 とにかく、僕から見ても変わった奴だったね。いや、変わってるなんて言い方は、ちょっと控えめ過ぎるな。あいつは、他の何よりも逸脱していたよ。だからこそ、あの狐面のおっさんに目を付けられたんだが………。
 とにかくだ、お姉さん。あんたの目は、その厭世観まるだしのアホと同じ目をしているんだよ。とてもまともな人間とは思えない」
 それに、七実は凶悪な笑みを浮かべ
「まさか、あなたに“まともじゃない”なんて言われるとは思わなかったわね。出夢さん?」
 とからかうように言った。
「ぎゃははは!! そりゃあ、悪かったな」
「でも、あなたが語ったその“厭世観まるだしのアホ”っていう人には一度会ってみたいわ」
 その発言に出夢は
「そうだな。一度、会ってみるといい」
 ニヤニヤしながら言った。
「あんな奴は滅多にいないからな。いい勉強になると思うぜ」
 それから、出夢は感慨深そうな表情を浮かべて周りの竹林を眺めた。
(そう言えば、最初に人識と出会ったのは、この“雀の竹取山”だったよな。確か、あの時は昼間だったが)
 『戯言遣い』のことを語ったついでに、あの『殺人鬼』のこともいっしょに思い出したのだ。まるで、箪笥の引き出しを開けたときに、もう一段別の引き出しまで開いてしまったかのように……。
 なんだか複雑な心境のまま、歩を進めると竹林の中から一人の人影が現れた。

「傑作だぜ―――」

 いや、人影という表現は正確ではない。鬼影と言った方が恐らく正しいのだろう。
 暗く、冥い闇の中、その鬼影が愉快そうに口を開いた。
「よう、匂宮出夢。まさか、こんなところで会っちまうとはな」
 それに、出夢は鬼も逃げ出す邪悪な笑みを浮かべ、
「……零崎―――――」
 その鬼の名を、呼んだ。
「――――人識!!」



☆ ☆ ☆

 少し時間を遡る。
 零崎人識は、大量の廃棄物により埋め立てられた湖―――不要湖にて、なにやらゴミを漁っていた。
 彼が、何故こんなルンペンのような真似をしているのかというと、先程まで行動を共にしていた櫃内様刻によって、支給されたナイフをボロボロにされてしまったのである。
 ナイフなしでも、彼は『曲絃糸』と、ある程度の体術は使えるのだが、前者は使用する糸がなく、後者はこの戦いを生き残っていくには、あまりにも心許ないため、こうして支給されたナイフに代替する獲物を求めてゴミを漁っていたのである。
 そして、数分後……。
 すぐに獲物は見つかった。
 脇差し程度の長さしかない日本刀である。
 発見時は、綺麗に鞘に納まっていて、刀を抜いてみると錆も全くなく、刀身に触れただけで切れてしまいそうな程の見事な業物であった。
(獲物はナイフに越したことはないが、贅沢は言えねえな)
 人識は渋々といった感じで、その小柄な日本刀を懐にしまった。
 それから、人識は思い出したように竹林の方に視線を向けた。
(出夢の野郎と最初に殺し合ったのも、そういえばこんな感じの竹林だったな)
 昔の出来事を思い出し、急に懐かしい気分になった人識の足は自然と竹林のほうへと向いていた。
(あの時は、確か兄貴に拉致された挙句に腕の骨を折られて、車から放り出されたんだよな……)
 歩を進めるごとに思い出が次々と人識の脳内シアターに映し出されていく。
(ほんで、玉藻と遭遇してこれから殺し合おうってときに出夢が割り込んできやがって―――)
 どれほど歩いただろうか? 人識が顔を上げると二つの人影が見えた。
 近づいてよく見てみると、二つの人影は女性だということが確認できた。
 そして、一人は人識の知っている顔だった。

「傑作だぜ―――」

 思わず呟いてしまう。
 いま、自分の脳内シアターに映し出されていた人物が目の前にいる。
 その現実に人識の頬は愉快そうに緩んだ。
「よう、匂宮出夢。まさかこんなところで会っちまうとはな」
 それに、匂宮出夢は鬼も逃げ出しそうな程の邪悪な笑みを浮かべて、
「……零崎―――」
 彼の名を呼んだ。
「―――人識!!」

☆ ☆ ☆

 そうして、八回目になる匂宮出夢と零崎人識の殺し合いは幕を開けた。
「おい、お姉さん」
 出夢は殺気立った声で七実に話掛ける。
「こっから先は、あんた一人で弟を探してもらえるかい? 僕は急に用事ができちまったからな」
 それに七実は、
「ならしょうがないわね。ここで別れましょう。短い間だったけど、あなたとの時間は悪くなかったわ」
 いえ、やっぱり悪かったかしら、と凶悪な笑みを浮かべて、すたすたと行ってしまった。
 そして、あとに残された二人は殺戮のダンスを共に踊っていた。
 出夢の『一喰い』―――イーディングワンが、竹をなぎ倒していく。人識は持ち前の素早い動きで出夢を翻弄しつつも攻撃の機会を窺っていた。
「かははは―――」
「ぎゃははは―――」
 こんなにも壮絶な命のやり取りをしているというのに、二人は無邪気に―――まるで、子供がじゃれているかのように、恋人が互いの愛を確かめ合うように―――笑い、明らかにいま展開されている殺し合いを愉しんでいた。
 いま、この瞬間。人識と出夢の間には、あの蜜月の時のような親密な空気が甦っていた。
 人識は出夢だけを、出夢は人識だけを見つめている。
 友人よりも、恋人よりも、家族よりも、強固な絆が二人の間に結ばれていた。
 皮肉にも、それは、“宿敵”という最も残酷な形で結ばれたのである。
 そして、互いの刃と凶手が交差した瞬間に、長きに亘る因縁に決着がついた。

☆ ☆ ☆

 胸の辺りに、鋭い痛みを感じる。
 そこから血が溢れ出し、体中の熱が奪われていく。
 即死は免れたものの、数分後には死に至るであろう傷を負いながらも、匂宮出夢は晴れやかに笑っていた。
「ぎゃ、、は、は、、、人、識。お前、強くなったな」
 それに人識は、酷く冷たい声音で、まるで怒りを押し殺したように言った。
「出夢。お前、なんで避けなかった。お前ならあれくらい、目を瞑ってたって避けれただろう?」
「僕は、さ、もう、疲れたんだよ」
「疲れた?」
「ああ。理澄が、いなく、なって、、もう、全てに疲れたん、だ」
 そこまで言って出夢は、長い腕を人識の首に絡め、強引に引き寄せた。
 人識と出夢の唇が重なる。
 瞬間、全ての時が停まり、世界には二人だけが取り残された。
 それから経過時間して十秒―――二人にとっては、十年分ほどの時間―――程して出夢は、笑顔を絶やさぬまま、
「最期の、相手が、お前で、良かったよ。人識」
 と言って力尽きた。

 それに零崎人識は、俯いたまま、もう動かぬ最愛の“宿敵”に黙祷を捧げた。

【匂宮出夢@人間シリーズ 死亡】

☆ ☆ ☆

 そして、数分後。人識は立ち上がり暗闇の方に向かって呼びかけた。
「おい、見てるのは分かってるんだ。さっさと出て来い」
 すると、竹薮から病弱そうな女が出てきた。
 酷く、気だるそうな感じで出夢の亡骸に歩み寄った。
「出夢さん。あなたは、本懐を遂げたのね。私からも祝福させてもらうわ」
 本当におめでとう、と出夢に語りかけ何処かへ立ち去ろうとした。
「おい、待てよ」
 それを人識は引き止める。
「なにかしら?」
「出夢のやり残したことは、俺が引き継いでやる。なんだたっけ? そうだ、あんたの弟探しを手伝ってやるよ」
 それに七実は、
「そう、ならお言葉に甘えて手伝ってもらいましょうか」
 と悪そうな微笑を浮かべ言った。

☆ ☆ ☆

 こうして結成された殺人鬼と化物の凶悪な二人組みは、果たしてどのような末路を辿るのか……。残酷な運命の物語は、まだ始まったばかりである。

【一日目/黎明/E-8】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]小柄な日本刀
[道具]支給品一式×3、ランダム支給品(2~8)
[思考]
基本:鑢七実の弟探しを手伝う。

【鑢七実@刀語】
[状態]健康
[装備]双刀・鎚
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:弟である鑢七花を探す。
 七花ととがめ以外は、殺しておく。

今は不忍と未だ不完全 時系列順 +から堕ちた者と-に認められなかった者
今は不忍と未だ不完全 投下順 +から堕ちた者と-に認められなかった者
雑草とついでに花も摘む 匂宮出夢 GAME OVER
雑草とついでに花も摘む 鑢七実 天災一過
混沌は始まり、困頓はお終い 零崎人識 天災一過

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最終更新:2012年12月27日 15:36