+から堕ちた者と-に認められなかった者 ◆xzYb/YHTdI
Ⅰ
今、この場は殺し合いが行われている。
と、いう文から始めればなかなかいかれている小説っぽく始められる。
しかしその実情はただ殺し合いが行われているだけであり、それ以上の物語は期待できそうにない。
なぜならこれは『異常』では無いのだから。
例えば動物園の猛獣がここにいるとしよう。
もちろんそこに檻など存在しない。
これは異常なる状況下である。
しかしそのときぼく自身が必ず襲われるかといったら案外そうじゃないのかもしれない。
何故なら檻があったときもだが、その猛獣がぼくを襲ってくることなんて無いからだ。
飼育されているから。日常的に。
いつも惰眠を貪り、何をするわけでもなくただ存在している。
サファリパークもそうだ。『食べていい』と知っている肉がそこにあるからこそ、近づいて食べるだけであり、
『ぼくを襲う』という考えは意外と無かったりする。
手を出さない限りは。ぼくを噛み切るなんて動作はそうそう起こらない。
それが日常だから。
だからぼくはこの状況が囲われてようが壊れてようが割れてようが。
関係があまりない。
日常の対義語は異常であるが、それは言葉上でのみの話であり、
ぼくの日常が壊れようが、異常に囲われることはない。そしてぼくという存在が割れることは無い。
表裏一体。一心同体。日常と異常はそんな関係上にある。
先日のこぐ姉殺人事件においてぼくはこれ以上ないぐらいの『異常』な出来事を体験しただろう。
しかし終わってみればその探偵と助手での物語は物凄く『日常』という形で終わっていた。
いつも通りの起床に。
いつも通りの朝食に。
いつも通りの登校に。
いつも通りの授業に。
いつも通りの昼食に。
いつも通りの眠気に。
いつも通りの下校に。
いつも通りの夕食に。
いつも通りの風呂に。
いつも通りの就寝に。
それの繰り返しの中、ただ一個。『異常』が投じられただけ。
だが『異常』というものは『日常』に飲み込まれてしまう。
だからぼくはたかだか一週間で、姉といういちばん身近にいた人の死を乗り越えられたのだろう。
時間が全てを解決したといっても過言ではない。
そもそもあの事件だって別に警察に任せておけば近い内解決していただろう。
だからぼくはこう考える。
殺し合いがなんだっていうんだ。と。
それこそ他人に任せておけば勝手に終わるだろうしぼくは首を突っ込みたいとは思わない。
足が浸かっても、首は突っ込まない。首は洗わずとっとと脱する。
これは『異常』でなく『異端』。
ぼくの望むべくものではまるで違う。
そもそもこの殺し合いが誰を対象としているかはぼくは知らない。
悪く言うのであればぼくだけがただの中学生で、他は先ほどの『異端』な能力の持ち主だっていうことは十分ある。
もう一度言うがこれは『異常』ではなく『異端』。
ぼくでは手の着けように無いものだ。
日常の対義語は異常。表裏一体。裏表。
であるけれど、異端は違う。
異端の対義語は正統。王道とも言うべきか。しかしこれも表裏一体。
だからこそ、まっるきり正統では無いぼくが『異端』と馴れあえるはずがないのだから。
Ⅱ
悪いけど時系列は少し戻る。
まぁ気絶していたぼくがいきなり普通に話していて驚いただろう?
だからぼくが目覚めたところからね。
ではでは話そうと思う。
まず目覚めたのは、とある一戸建ての一階。どうやら二階もあるようだ。
さて、と。
ぼくが覚えているのは学ラン男にデケー螺子ぱくられて、身体にぶち込まれて、
そしてそのまま気絶したんだっけ。
…………。
なんで生きているんだろうか。
見たところ、この床の血跡が意味するのはぼくの敗北…というか死だろう。勝負でもなかったし。
ならなんだ。この感覚は。輸血された訳ではないだろう。そんなことができるものも無いし。
貧血も起きない。身体の感覚もまるっきり前と同じ。……輸血された訳などないからそのへんよく分かんないけど。
――――いや、この際それは些細な問題なんだ。
これが些細というのもおかしい話だけど。
些細は些細。矮小だ。
なんて覚えたての言葉を使いたくなる気持ちを解放しながら、その強大なる問題を言う。
それは、このこぐ姉のセーラー服と、攻撃を受けた箇所。
普段と何も変わらない。
それが問題だ。
確か記憶が確かな物ならば、ぼくは服ごと心臓に螺子を刺されたはず。
ならば服は血に塗れながら穴をあけ、ぼくの胸にもポッカリ穴があいているはずだった。
しかしそれがない。感覚は少し残っている程度だ。
何も無い。何も変わっていない。
痛みも無く、味わいも無く、因果も無い。
完全にSFの世界だった。
ならば頭をSFにしながら考えよう。
では何をされたらこんなことになるか。
一人議論スタート。
Q治癒能力では
Aそれでは服が説明づかない。次。
Q時間を戻す能力では
Aそれではぼくの記憶が残っているのもあれだし、仮に対象が選べたところで、刺されたという感覚が残っているから違う。次。
Qならいっそ、虚構にする能力では
A……それっぽいがそれはいいのか?殺し合いでそれはいいのか。許されるのだろうか。
まぁもうネタも無いわけだが。
さて、どうしましょうかね。
……。
まぁいいや。そのうちピンと来るのがあるだろう。
それほど急ぐ議論ではないな。
で、じゃあ何しようかな。
この家でも探索するか。
まずは一階でその後二階を調べるかな。
何か良い物有ればいいけど。
Ⅲ
さてと。探索は終わった。
今、支給品も含めると。
『心渡り』という刀。
先ほどの螺子とは違い、一般的な小さい画鋲(大量に保管されていたが何に使うのだろうか)。
絆創膏とかの応急処置道具。
食糧少々。
を手に入れた。
『心渡り』という刀は『怪異』なるよく分からないが、そういうものを斬るためにあるらしいが、
人を斬れないことはないだろう。………斬るつもりもないが。
まぁ良いだろう。
ちなみに今、僕はこの一戸建て自体を調べて見ることをしている。
今は一階でテレビに向かい、電波が飛んでいるかどうか調べている。
電源はつく。
だけど
ザーザーザー
と砂嵐が起こるだけでそれだけで終わってしまう。
…う~ん。繋がるようだったらネットカフェにでも行ってもよかったが期待は薄いかな?
と。
思っていた時。
ギィィ
という音が聞こえてきた。
誰かが入ってきたらしい。
別にぼくは誰かと一緒に行動したいが、無理にしたいわけでは無い。
だって人を失うのはやはりつらい。
中学生のぼくがそんな人の死に何回も立ち会って正気でいられるほど特別ではない。(既に知り合い3人ほど死んでるけど)
まぁよっぽどの人が来ない限り勧誘はするけどさ。
ギィ バタ ギィ バタ
どうやら人を探しているのかな?
ドアを開けたり閉じたりしている。音的にもうすぐそこにいるようだ。
会ってみるのも、いいかな。
さっきみたいな人もそうそういないだろう。
そしてぼくは出口に向かい歩き始めるが、
「こんばんは」
と。
それを制すようにドアから女の人が入ってきた。
髪の長い女の人だった。
………。
危険だ。この人は。
まず見た目が危なすぎる。
服に血がべっとり付いて、異臭を放つ。
何度見ても、その光景は変わらない。
何をしたらこんな状況になるんだ?
―――いや答えは一つだった。
人を、殺した。
―――ダメだ。この勝負、詰んだな。
いやそれこそ駄目だ。考えろ。何か突破口があるはずだ。
「こんばんは。と私はいったのですが」
「ああ。そうだったね。こんばんは。お名前は何ですか」
「
黒神めだかちゃん〈改〉です」
「そう。ぼくは串中弔士だよ。よろしく」
「はい。はじめまして」
何故こんなにもゆったりとした時間が流れているのだろう。
おかしい。
……そうか。このめだかさんは余裕なんだ。
ぼくを殺すのなんて余裕。
しかしこれはぼくにとっていい風に働く。
けど、どうやって?回避する?
刀。画鋲。デジカメ。
そうだ。こういうのはどうだ。
「ぼくはもう行くので。そうですねぇ。あなたの知り合いと遭ったら、
ぼくからも伝えておきますので、一応このカメラで撮っておきますね」
「―――はい?」
という言葉を無視して、スカートのポケットからケータイを取りだし
パシャッ
と。
写真を撮る。
それと同時に、大量の画鋲を撒き散らかす。
まるでまきびしのように。
ぼくの考えはこうだった。
人は急な光を浴びれば本能的に人は怯むと。聞いたことがあった。
だからそれを利用して、デジカメのフラッシュを使い、怯ませ、
その隙に、大量の画鋲をばら撒くという作戦だった。
まぁ全部が全部上に棘を向けているわけではないが、
半分ほどはちゃんと上を向いている。踏めば痛い以上になると思う。(何故だか裸足だし)
前にまきびしもどき、後ろはドア。―――早く退いてくれ。
しかしめだかさんはぼくとまきびしもどきに一瞥して言う。
「――――なるほど。そういうことでしたか。
『異常』ではなさそうな人のやりそうなことですね」
アブノーマル。
普通じゃない。
普通じゃない。じゃない。ようは普通。
―――まぁそうだろうな。さっきといい、この人といい。
異端過ぎる。
人間としての道理を踏み越えている。
「悪いかい?ぼくは精一杯考えたんだよ。これでも」
「いえ、何も悪くありません。ただ私はあなたは敵対したと
みてよろしいのかと思いまして。せっかく見逃してあげてもよろしかったのに」
「ホントにそうだったらよかったのに」
「あら、ばれますか。さすがに」
何でもいい。早くどっかいってくれよ。
ぼくとしては早くこの緊張感から解放されたい。
でも、ぼくの望みは叶いそうにもなかった。
「ふむ。このぐらいでしたら、大丈夫でしょう」
踏み越える。
画鋲も、常識も、道理も、踏み、越える。
「――――――」
「…………やはり歩きづらいですね」
何なんだよこいつ。
常識、どこにいかれるのですか。
「――――んだよ」
「はい?何ですか」
「何なんだよっ!!お前らはっ!!」
刀の柄を握る。
重い。けど振り回せないこともない。
「あなたが勝てるとでも」
「勝てる勝てないの問題じゃないんだっ!こっちはさぁ!」
似合わないのは分かってる。
だけどこいつはなんなんだ!?
ぼくだって命は惜しいが、もうそれしか方法はなかった。
そして、刀を振った。
スゥゥゥ
刀は、すり抜けた。
「―――――え?何で!?」
「まぁ何だってよろしいのですが」
「 跪 き な さ い 」
この声でぼくは、跪かされた。
しかし、だった。
「―――――あなた、この場を早く立ち去りなさい。あぁあとその刀。置いて行ってください」
「――――は?」
「いいから」
「 退 き な さ い 」
そしてぼくはよく分からないまま、
刀を置いてこの場を去った。
Ⅳ
何だったのか。
よく分からない。
もしかしたら何かあの刀が功を奏したかもしれない。
何はともあれ早く離れよう。
目指すはぼくの知ってる場所も無いので、喫茶店にでも行こう。人が集まらなそうだ。
やっぱりこの『異端』な状況下では、ぼくは何もできなさそうだから。
ぼくは駆けだした。
そこに男と美女の死体があったが、気にしない。
ほっておこう。悪いけど。
【1日目/黎明/B‐2】
【串中弔士@世界シリーズ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式、、小型なデジタルカメラ@不明、応急処置セット@不明
[思考]
基本:できる限り人と殺し合いに関与しない。
1:喫茶店に行く。…というか人が集まらければどこでもいい。
[備考]
※デジカメと応急処置セットは現地調達です。
※デジカメには黒神めだかの顔が保存されました。
◇
一戸建てにて、自称黒神めだかちゃん〈改〉は座り、足の画鋲を抜いていた。
(…回復が遅い気がするのは気のせいでしょうか)
そう。回復が遅い。
何故?
それは、心渡り。あれに斬られたからである。
心渡り。
それは怪異を斬れるという刀。
そしてそれは、『不死身性』…いやこの場に限り『怪異性』とでもいうべきか。
何にしたってそれを切り裂いた。それによって、『完成』された『不死身性』は弱体化した。
だから以前ほどの回復力など望めるはずもない。
串中を見逃した理由も別に何のことは無い。
ただ単に、彼があの場にいると、足に刺さったものが抜くに抜けなかったから。
その前に殺してもよかったが、そうすると自然に足に力が入り、痛い。
深々と刺さった画鋲がさらに刺さる。
反射神経がなくとも、痛覚ぐらいはある。
痛いは痛い。
どっちにしたって逃げられるのなら、面子を保っていて損は無いと思ったから。
…というのもあるが、あの『異常』の欠片も無かった串中のために自身を傷つける必要もなかったし。
そもそも、『普通』中の『普通』の串中にやられる奴を『異常』と言わない。
そういう意味では、野放しにしておいたら上手くいけば、逆に自身が『異常』かどうか、厳選をしなくてもいいという理由もあった。
何も彼女は戦闘狂では無い。ただ能力を身につけたいだけ。
能力を身につける人間が、おそらく使えるような武器の無い串中に負けてしまうなど、あってはならないのだ。
仮に負けた者がいるとしたら、それはめだかちゃん〈改〉にとって過負荷となりえる。それは避けたいところだった。
まぁ何にしたって、串中がやった行為は全てが全て無駄になったわけではないのだ。
もちろんデジカメのくだりは反射神経のないめだかにとっては意味の無いものなのだが。
しかしそれは標的を違うものに変えただけだった。
「お兄様を探しましょう。そして『解析』の異常性で調べさせてもらいましょう」
『心渡り』をもって言うめだかちゃん〈改〉。
串中にわざわざおいて行かせたこの刀。
そもそもこの刀に斬られてから身体におかしくなった。
それはめだか自身も違和感をもっていた。
しかし信じらなかった。
だから調べる。
それが確実であり、なおかつ手っ取り早い。
そしてめだかちゃん〈改〉は再び歩み始めた。
黒神めだかという人間を完成させるために。
ザーザーザー
テレビの砂嵐はまだ、止まらない。
【1日目/黎明/B-1 一戸建て2階】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]足の裏に刺し傷(少しづつ回復中)、めだかちゃん(改)、『不死身性』(弱体化)
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6) 、心渡り@物語シリーズ
[思考]
基本:自分という人間を完成させる
1:真黒を見つけたら、『異常』を『完成』し、殺す
2:色々な異能の持ち主と戦い、その能力を自分のものとする。
3:ついでに殺す
4:左右田右衛門左衛門には警戒しておく。
[備考]
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも先ほど、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃には耐えられない程度には)
※疑問には思っているが、まだ『不死身性』が弱体化したとは本気では思っていません。
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※
宗像形の暗器は不明です。
最終更新:2012年10月02日 08:31