知られざる英雄(知られた英雄) ◆xzYb/YHTdI


まだまだ暗い海の中。
アヒルボートのライトを照らしながら、せっせと漕ぐ人一人。
その名も哀川潤
人類最強の請負人と呼ばれる彼女。
ようやく陸も間近に迫り、彼女も少しは一安心する。
そしてさっきよりも早く漕いでいった。

 ◇

日之影空洞は見た。
海が眩しく煌く姿を。
そしてそれが意味することもよく分かる。
海の向こうに誰かいる。きっと懐中電灯か船のライトの光かなんか反射してキラキラしているのだろう。
暗い海だからより一層目立つ。
けど、あの理事長のやること。
まさか一般人を紛れ込むようなことはさせないだろう。
ならなんだ?
そう、参加者である。
それが善人か悪人かは日之影の知るところではない。
しかし待ってみるのもまた一興。
…というよりはそれが悪人だった場合、あの眠らせておいた猫娘はもちろんのこと、
その他参加者に被害が被られることは阻止しなくてはならない。
ついでに先ほど異様なまでにもっていかれた体力を回復をしたいところだったし。
というわけで豪華客船から降りて、砂場に立つ。
威風堂々。凛々と。しかしその姿は、誰にも気づかれない。

 ◇

断章

さて豆知識でもない再確認。
日之影空洞の『異常性』についてだ。
彼の異常名。それは…
『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』。
もはや『反射神経』やらと扱いが違うのは突っ込まないとしよう。
さてさて話が逸れたが、『知られざる英雄』とはだが。
それは彼の『強さ』から成る『異常性』。
その『強さ』は少なくとも地上に限るのならば、あのめだかも、
『十三組の十三人(サ―ティン・パーティ)』において、男の中で最強を誇る、高千穂でさえも足元には及ばないという。
しかし『知られざる英雄』という『異常性』はそれだけでは収まらない。
『強さ』の副作用として、誰にも気づかれない、認識されない。
これは影の薄さ故に、では無い。むしろ彼本人自体はその巨体から目立って仕方がないだろう。
じゃあ何故なんだ。という話であるが、それは。
少し皮肉な話なのだが、日之影自身が目も背けたくなるようなほど、絶対的に、破壊的に強すぎるからである。
大抵の人はその目を背けたいという衝動に駆られるままに目を背け、彼が本気を出せば、記憶からも消えてしまう。
たとえそれが、めだかであろうと。
たとえそれが、善吉であろうと。
たとえそれが、当時の生徒会会員であろうと。
たとえそれが、全校生徒であろうとも、だ。
だから彼は『知られざる英雄』とすらも呼ばれなかったのである。

断章  終了

 ◇

赤。
もはやこれだけで想像できてしまうあのお方。
そう、哀川潤である。
潮の香りが微かに香るが、服も乾いてきた頃あいに、
やっとのこいさで彼女は陸に辿りついた。
見たところ疲れてはいないようだ。…何故疲れないのか逆に不思議なのだが。
そしてそのままアヒルボートを陸に上げ、彼女がようやく歩きだす。
…がそうは問屋が卸さない。

「あぁ?なんだお前」

赤色が問う。
その相手は――――もちろん日之影空洞。その人である。

「ん?なんだお前さんこそ。まさか俺に気付いたのか!?」
「…いや、気づくだろ普通。その巨体のくせして何言ってんだお前?」
「――――いやいや、おかしいな。そんな訳がねぇんだけど」
「いやいやいや、お前もしかして馬鹿?それとも何?自分は認識されねェ能力の持ち主だとでもいうのか。ぁあ!?」
「いやいやいやいや、声をすごめてるとこ悪いが、残念ながらその通りのはずなんだがな」
「………」

その返答に黙る哀川。これはこれでレアである。
それは哀れんだのか、哀れんだのか、哀れんだのか。
全てが謎でこそあるが。
そして次第に二人は睨めあう。
互いの力量を測るかのように。互いの指針を見切るかのように。
その沈黙を破ったのは、哀川潤だった。

「――――なんかノリで睨めっこやっちゃったけど何?
お前は殺し合いに乗っちゃってる系?なら潰すぞ」
「―――――俺は乗って無い。つーか言う前から潰すとか言うなよ
乗る気があったとしても白状する気がなくなるだろ」
「いーんだよあたしは。うんうん、正直者はいいこった」

何故かここでブルリと身体を震わす日之影。
正直者。という言葉に反応したようだがそれが何故かはわからない。
しかしそれもすぐに収まり話題を次に進ませた。

「まず何だ。正直者って俺の心読んだ訳じゃ「読んだよ」……」

黙るしか選択肢を失くした日之影。
それも仕方がないだろう。心を読まれたというのだから。
どこぞの生徒会長と元王風に言うのであれば、
哀川潤の真骨頂①
やりすぎ読心術。
といった感じであろう。やられたらたまったもんじゃない。
戯言遣いが耐えられているのは、彼が真性のMであるからで、嫌だ。と感じるのが普通である。
それでも英雄を名乗る男。
すぐに調子を取り戻し、もう次の話題に進める。

「……でだ。俺はお前を信じていいのか?」
「信じろ」

その鋭き瞳は、日之影に突き刺さる。
その間5秒程。
そして―――、

「いいだろう。『合格』だ。俺はお前を信じよう。俺は日之影空洞だ。―――名前は?」
「哀川潤だ」
「そうか、哀川さ「潤だ」…」

またしても言葉を遮られた日之影。
意気が少し消沈する。

「あたしの名前を名字で呼ぶのは敵だけだ」

何故か少々お怒りの様で。

「つーかなんでよお。お前が合格不合格決めやがんだ」
「――――は?」
「何さまだよ。お前は」
「……」
「…まぁいいか。んで、これからどうすんだ」
「――――そうだな。俺は一人で行動したい。そっちの方が戦いやすいからな」
「ふーん。大丈夫か?」
「あぁ。大丈夫だ」
「―――ならいいよ。別行動をしよう」
「そうか。ならば俺は西の方に向かう」
「じゃああたしは東に向かうわ。骨董アパートってのが少し気になるし」
「なら俺は行こう」
「ならあたしも行くか。じゃあな」
「応。ああそうだ」
「ん?」
黒神めだかってやつがもしいたら、俺が西にいるって伝えてくれ」
「わかったよ。その依頼、あたしが請け負った。――――あぁそうだ、
ついでだからきっとここにいるかもしれん奴紹介しといてやるよ」
「――――?」
「いーたんっつうんだけどよ。あいつはお前とは正反対の奴だ。
あいつは弱いくせして、道化のくせして芯はしっかりしてやがる。
お前は逆だよな。強そうなくせして芯が弱えよ。大黒柱とシャ―芯だ」
「なぁ!?潤さん幾らなんでもその言い草ってねぇんじゃねぇのか!」
「何言ってんだ。これ以上的を射たことはねぇよ。
これはいーたんもだがよ。一人で片付けようとするなよ。
しかもお前はそれができちまうから芯が弱いんだ。いーたんの『戯言』に喰われちまうぞ」
「……」
「―――でも遭わないにこしたことはねぇな。あいつに限っては」
「それはなんでだ」
「狂うからだよ。会っただけで、遭っただけで。無意識のうちに、無為式の内に。
心を掻き乱し、混乱させ、渾沌させ、疲弊させる。そんな感じの奴だよ」
「……それは悪者なんじゃ…」
「まぁ、そいつをどう捉えるかはお前の自由だけど、一つだけ言っておくと」
「――――おくと」
「関与して、どういう意味であろうがただ済むと思うなよ」

ここで彼女はシニカルに笑う。
しかしこんな事言われても、会ったこともない人をそんな風に言われてもピンと来るはずもない。
だから、

「……はぁ?」

という生返事しか返せなかったのだけど。
しかし哀川は話し続ける。

「あいつはお前の力に屈する程軟じゃねぇよ。このあたしでも時々手に余る」
「へぇそうなのか」
「ということであたしは大好きだけど、お前がどうなるかはあたしにはわかんねぇから」
「一応聞いておくが他にいそうなやつ、いるのか?」
「あたしが考える限りじゃ、玖渚友ってやつと、想影真心ってやつだな。
こいつらは……こいつら自体には害は多分はないが……まぁ見かけたら保護してやってくれよ」
お前はどうなんだよ。人に聞いておいていわねぇって事はねぇよな」
「俺の方は、理事長が主催ってことはほぼ確実にさっき言った黒神めだかってのはいると思う」
「へぇ。何?完全なる人間の創造ってあいつの為にやってるってわけ?」
「普通に考えりゃそうだな。あいつは何でもやれるからな」
「何か設定が真心みてーなやつだな」
「まぁこいつは害は無い。断言してやる」
「随分な自信と信頼だな。おい」
「そうだな。そういうやつなんだよ。黒神は。
―――あと黒神がいるって仮定すると人吉がいるはずだ。
あとは……阿久根と喜界島ってやつもいてもおかしくは無い」
「ふぅん分かったよ。見つけたらどうすりゃいいんだ」
「守ってやってくれよ。見たところ潤さんは強そうだ」
「強そうじゃねぇよ。強いんだ」
「―――そうか」
「まぁこんなとこか?まぁせいぜい頑張れ」
「―――――言われなくても」

英雄は違う道を行く。
緋色の英雄と知られざる英雄。
彼らがこれからどうなるか、まだ誰も知らない。


 ◇

断章

豆知識という名の補足。
なぜ、哀川潤が日之影空洞に普通に気づいたか。
答えは至極簡単だった。
哀川潤も、強いから。
そして、好戦的すぎる性格だから。
まずそもそもの前提が彼の強さに目を向けたくならなければ、話にならないだろう。
なら哀川潤は?
彼女は目を背けなかった。むしろその『強さ』をガン見していた。
だから彼女は日之影に気づいたのだろう。
そして、彼女は少々怒っていた理由。
もちろん合格か否かを勝手にきめられたのもあるが、
戦えなかった。というのもあるだろう。
せっかく強敵を見つけたというのに何もしない。というのは
戦闘大好きな彼女にとって、これ以上に酷なことは無いだろう。
かつての事か、今だやらず事か定かではないが、「大厄島」にてあの橙と対面した時の表情が全てを物語っている。
しかし彼女も空気が読めないことは一応無い。
今後に備え、殺し合いに積極的な参加者を潰すため戦うのは遠慮しなければならなかった。
そんなわけで、彼女はムスーッっとしてるが歩き始める。
強いマーダーを探しに。潰しに。壊しに。そして自分も楽しむために

断章  終わり

 ◇

「つってもよー」

誰ともなしに哀川は話し始める。

「そんな強くて積極的なやつっているのか?」

彼女は知らないがもちろんいる。
想影真心、黒神めだか、左右田右衛門左衛門などなど。
もちろん、それを知るのかは今は不明だ。

「……まぁ、ハッピーエンド以外は認めねぇからな」

それは、いつぞや戯言遣いに向けた言葉だった。
今回はどうなることかは、まだ分からない。


1日目/黎明/G-3】
【哀川潤@戯言シリーズ】
[状態]健康 、不満足
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~2)
[思考]
基本:バトルロワイアルを潰す
 1:とりあえずバトルロワイヤルをぶち壊す
 2:いーたん、 玖渚友、想影真心らを探す
 3:積極的な参加者は行動不能に、消極的な参加者は説得して仲間に。
4:東に向かう、(骨董アパートを目先の目標)
[備考]
 ※基本1の三人は居るだろう程度で探しています。本当かどうかは放送待ち
 ※基本3の積極的はマーダー、消極的は対主催みたいな感じです
 ※想影真心との戦闘後、しばらくしてからの参戦です
 ※アヒルボートはG‐3に置いてきました。

 ◇

「何だったんだ?潤さんって」

しかし待った甲斐は少しはあった。
先ほどの猫娘からの謎の攻撃で受けたダメージを回復でき、
『いーたん』という人が危険人物なのかどうか悩みの種をくれた。
これは良い事かどうかは別として。

(さっきの説明から聞くと『異常』…というよりは球磨川と同じ『過負荷』だろう。
『過負荷』ならば俺の敵だ。
……しかし潤さんが大好きだというぐらいだから信用はできそうなんだがな。
こればかりは会ってみなきゃわかんねぇな。―――とりあえず『過負荷』って感じ出し悪者ってことでいいのか?)

この考えが変わるかどうかはわからない。
しかし、

「…まぁいいだろう。俺は俺として動けば…」

元生徒会長は再び歩みを進めた。


【1日目/黎明/F-3】
【日之影空洞@めだかボックス】
[状態] 体力は満足できる程度には回復しました
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:いつも通り悪物をブッ飛ばす。
 1:この場にいるのなら、黒神と接触したい。
 2:西に向かう
[備考]
※戯言遣いをとりあえず悪者と認識しています。(会ったら再判断)

スーパーマーケットの口戦 時系列順 堕落の果て、害悪の跡地にて
スーパーマーケットの口戦 投下順 堕落の果て、害悪の跡地にて
出陣だ 日之影空洞 その事実も今は知れず
アヒル、赤乗せ陸に往く 哀川潤 鷹と剣士の凌ぎ合い

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最終更新:2012年10月02日 08:32