成し遂げた完成(間違えた感性) ◆aOl4/e3TgA
人吉善吉という少年について語るなら、それは『普通』以外のどんな言葉でも語ることは出来ないだろう。
どんな異常さえも完成させてしまうどころか、自分の手では異常以前に特別(スペシャル)にさえなれない凡俗なる非才の身。
完璧すぎる少女に惚れている癖をして、どんな奇策謀術に頼ったところで当の少女には絶対に勝てないだろう、弱すぎる男。
どんなに頑張っても結局は美味しいところを持って行かれる、異常や過負荷のような存在に見せ場を食われるだけの、凡人。
とてもじゃないが、完全無欠の生徒会長が背中を任せるに値するほど強い人間ではないし、頭脳も彼女には遠く及ばない。
正義感でも彼女には勝てない。殆ど見渡す限り全ての面で負けている。凡人であるがゆえに、異常の権化の彼女には勝てない。
――だが、それでよかったのだと
黒神めだかは心から思う。
結局のところ自分は、彼のような普通の存在が物珍しかったのかも知れない。
異常なる者達が、
過負荷なる者達が、
悪平等なる者達が、
平然と蹂躙跋扈する日常で、彼だけが違っていたから。
しかし今は、違う。
彼の存在は、自分にとって必要不可欠だったのだとわかる。
力が無くとも、頭が悪くとも、人吉善吉という存在が居てくれたから、黒神めだかは日々に安らぎを感じることが出来ていた。
『十三組の十三人』と戦った時。
心を操られた自分に果敢に向かってきてくれたのは、彼だった。
『マイナス13組』と戦った時。
過負荷のトップと引き分けて、彼は死の淵からさえ這い上がってきた。
『オリエンテーション』では、決裂を経験した。
あまりにも彼が見苦しい姿を見せるのでつい失望し、彼を厳しく叱咤することでより研磨されてほしいと願ったからだった。
確信していた。善吉は自分のところに必ず戻ってくる、二歳の頃から一緒だった彼が戻ってこない筈がない、と。
でも彼はその確信に近い予想を裏切った。
黒神めだかと敵対することを宣言した普通なる少年は、十数年の付き合いの中で初めて、愛する少女と敵同士として向き合うことになったのだ。
――もう一度二人で歩み出す日は、とうとう訪れなかったが。
バトルロワイアルなんて下らない児戯がなければ、彼と然るべき決着を着けた上で和解できた筈なのにと思うと、正義感だとかの一切を抜きにして、自分から大切なものを奪ったあの理事長に個人的な激情が沸々と沸き起こってくるのをありありと感じる。
だが、どうあっても止まる訳にはいかないのだ。
自分は黒神めだか。
箱庭学園第九十九代生徒会長であり、その名の重さと誇りに懸けて、何としてもこの下らぬ実験を打破せねばならない。
それまでは、善吉の死を悼むのもお預けだ。
「――……それにしても、流石に予想外だったな……」
驚きとも哀しみとも、その両方の意味に取れるような表情を浮かべて、めだかは前髪を右手で不意にかきあげる。
そしてそのままのポーズで、めだかは真昼の蒼穹を見上げた。
どこか遠いところを見るような目で、何を見つめているのかも分からないような視線で、彼女はただ天空を見つめる。
これまで、多くの人物に危険視されてきた――それほどまでに異常な正義を貫いてきた彼女だが、今だけは違った。
寂寥の哀愁を漂わせて、ただの失意の少女として、そこにいる。
今の彼女を見ても、誰も天衣無縫の超人とは思うまい。
今回の放送によって呼ばれた名前は、彼女にとって関わりのある名前があまりにも多すぎたのである。
――それこそ、黒神めだかの余裕に傷を付けるくらいには。
日之影空洞。
黒神真黒。
そして、人吉善吉。
実の兄と、以前力を借して貰った英雄も死んでいた。
一瞬だけ放送の真偽を疑ってしまったのも無理はないことだろう。
日之影は本当にひたすら強い男だったし、生半可な異常や過負荷で押し切るなんて単細胞の通じる相手ではない筈だ。
実兄の真黒は確かに戦闘能力に欠けるが、『理詰めの魔術師』と称される頭脳と観察眼を持っている以上、簡単には死なない筈だった。
二人とも死なないとばかり思っていたのに、それをすぐに裏切られた。
親しいとはいかずとも、知り合いと家族・親友が死んだことによる精神的なショックは決して少なくはなく。
更に、未だ何も守れずにいる自分への情けなさ。
二つのダメージが、黒神めだかの心を執拗に責め立てていた。
「…………ならば尚更だ。哀しんでいる暇は、ない」
めだかは苦々しげに表情を歪めて、今の自分に真に必要な行動を狂っているほど合理的に選び取る。
彼女の正義を更に増幅させる要因として、放送で新たなる死者が告げられるという最悪な現実は、皮肉にも最高のカンフル剤となった。
元々燃えていた正義は、油を注がれてよりいっそう激しく燃え盛る。
本来なら『人吉善吉への敗北』というイベントを介して、在る程度正されるその異常性は、誰にも正されぬまま続き続ける。
「見ていて下さい」
告げる。
日之影空洞に。
黒神真黒に。
見せしめで死んだ一人の生命に。
自分が殺した少年に。
この殺し合いで奪われた全ての生命に。
そして、自分を庇って死んだ人吉善吉に。
「この黒神めだかが必ず、全てを終わらせます」
晴れ渡るような笑顔で、約束するのだった。
めだかは歩き出す。全ての哀しみと罪を背負って。
めだかは歩いていく。誰にも理解されぬ業を背負って。
めだかは眩んでいく。正されなかった正義を背負って。
めだかは――――
【1日目/真昼/B-4】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]『庶務』の腕章@めだかボックス
[道具]支給品一式×3(名簿のみ二枚)、ランダム支給品(1~7)、心渡@物語シリーズ、絶刀『鉋』@刀語、否定姫の鉄扇@刀語、シャベル@現実、アンモニア一瓶@現実
[思考]
基本:もう、狂わない
1:
戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先
3:哀しむのは後。まずはこの殺し合いを終わらせる
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限が付いています。程度については後続の書き手さんにお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃に耐えられない程度には)
ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※
宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は、『炎や氷』が具現化しない程度には使えるようです。
※戦場ヶ原ひたぎの名前・容姿・声などほとんど記憶しています
※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(詳細は後続の書き手さんにお任せします)。また、『五本の病爪』の制限についてめだかは気付いていません。
※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです。
※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
最終更新:2013年06月05日 16:14