拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho
「七花、この、馬鹿者がっ!」
ふいに怒鳴られておれは我に返る。
ぼんやりとしていた意識を集中させると目の前にいたのはとがめだった。
いつもと変わらない十二単を二重に着たような豪華絢爛な服。
姉ちゃんに切られたことですっかり短くなってしまった白髪。
……ん、いつも?
「なんだ……とがめか。どうしたんだよ急に」
「そなたのその身なりはどういうことなのだ一体!そんなに傷だらけになってしまって……」
「どうしたもこうしたもないだろう」
また細かいところでいちゃもんをつけてくる。
慣れたものだが、やっぱり一々返すのはめんどうだ。
「わたしが最初にあれほど口を酸っぱくして言ったではないか!『そなた自身を守れ』と」
「それのことか……もう守る必要はなくなったじゃないか。だって、とがめが――」
死んじまったんだから――とは言えなかった。
そうだ。
とがめはもう死んでんだ。
右衛門左衛門に撃たれたときと唐突に巻き込まれた殺し合いとで二回。
この殺し合いで死んだのかどうかは本当のことか確かめる術はないけど、右衛門左衛門に撃たれたときは確実に死んだ。
おれが最期を看取ったんだ。
おれがとがめを埋めたんだ。
なら、おれの目の前にいるとがめは、これは『何』なんだ?
「――――全く、気付くのが遅いぜ、鑢七花くん」
にんまりと浮かべた笑いはいつも見ていたとがめの笑顔とは違っていて。
「僕は安心院なじみ。親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼んでくれたまえ」
目の前のとがめがとがめじゃないことをようやくおれは理解した。
■ ■
横転し、更に扉を蹴破られた軽トラックだったが、動かすことはできた。
日本車の頑丈さに感心しつつ、未だ眠っている鑢七花を助手席に乗せる。
後ろ手で縛っているとはいえ、目覚めたときに暴れられては厄介とシートベルトで固定。
あまりいい体勢とは言えないが、双識には相手のことを考える義理はない。
右側がやけに涼しい状態でまずは喫茶店に向かい、要約してしまえば『
黒神めだかは危険』と書かれた貼り紙を目撃。
店内もざっと見回したが、人がいた形跡こそあれど、気配は感じられなかった。
そのまま地図では最西に位置する施設である病院へ。
開始直後のテンションであったなら箱庭学園でそうしたようにナース服などを嬉々としながら集めまわったかもしれないが、今の双識にはそのような余裕はない。
ハンガーに掛かっていた『形梨』と名札のついた白衣をスルーし、治療器具などをかき集めつつ院内を捜索する。
こちらは人がいた形跡すら希薄だった。
それは病院に立ち寄ったのが元忍者だった左右田右衛門左衛門で、持ち去ったのがメスと瓶に入った血液のみだったからかもしれないが。
そして、悪刀のおかげで感覚が鋭敏になっている双識だからこそ気付けたのだろうが。
生理食塩水や栄養点滴、果てはピンセットなども収集しつつ、病室から事務所など全ての部屋を見て回ったが、潜んでいる者はいなかった。
七花と共に回収しておいた右衛門左衛門のデイパックの中にあった携帯食料を頬張りつつ一戸建てへ行ったがこちらも多くを語る必要はないだろう。
部屋の隅に寄せられた画鋲、洗面所のゴミ箱に入っていた髪の毛、点けっぱなしだった砂嵐の画面のテレビ――
痕跡だらけではあったが、やはり人間はいなかった。
ふと時計を見て気付く。
人識が連絡を入れると言っていた時間を大きくオーバーしていた。
車が動いたことで時間にゆとりがあると油断し探索に時間を割いた結果がこれだ。
急いでクラッシュクラシックに戻ったが当然、もぬけの殻だった。
彼らが逃げ込むとすれば周囲から見えにくい場所――建物か山の中だろうと考え、施設が集中している西側が可能性が一番高いと双識は判断した。
確かに、彼らは建物に逃げ込んだがそれはクラッシュクラシックの南側に位置していた学習塾跡の廃墟だったことが一つ目の『不運』。
更に、山火事が広がっている現在、元いた場所には戻らないだろうと西東診療所を捜索の対象から外してしまったことが二つ目の『不運』。
――結果、真庭蝙蝠と
水倉りすか、宇練銀閣(と名乗った
供犠創貴)を捉えることはできず、家族と再会することも叶わず、収穫はなかったに等しい。
「本当に、何をやっているんだろうな、私は……」
ため息と同時に零れ落ちる言葉。
静まりかえった店内でそれを聞く者はいない。
七花は依然眠ったままなので車内に放置してある。
ピアノの鍵盤に挟まるように隠してあった人識からの書き置きを見つけ、それに伴い携帯電話も曲識の服のポケットから手に入れることはできた。
元々持っていたものとは違っていたため、どこかから入手したのだろうと窺えたが深く考えたところで意味はないと考えるのをやめる。
随分と前から理解するのをやめた弟のことだ、どのような経緯であっても持ち前の気まぐれさで対処したのだろう。
車に戻りながら携帯を開くとそこに表示されていたのは待ち受けではなくシンプルに
掲示板とだけ書かれたウェブサイト。
普通に携帯を操作していただけでは気付きにくいだろうと考えた人識からの気遣いだった。
下にスクロールしていくと『
零崎曲識』と表示された文字列を目にし、驚愕に目が見開かれる。
いつの間にか足は止まっていた。
■ ■
……あれ?いつの間に否定姫が目の前にいるぞ。
安心院なじみと名乗った人物から目を離したつもりはないんだけど。
不思議には思ったが、まあいいか。
よくよく考えてみれば彼我木という前例がいたんだし。
「本来このスキルは君の認識に干渉するから口調も本人のものにできるんだけど、君が混乱しそうだからわざと変えていないだけさ。
それにしてもここにきてようやくうっすらと目的が見えてきたって感じかな。まあ、君に言ってもわからないだろうけどね」
その通りだ。
別にわからなくていいことはわからないままでいいと思っているし。
「まさか『アイツ』がいるとは思わなかったけども……ま、どっちの結末を迎えるにしても確かにこのバトルロワイアルは悪くない手段だ」
おれ、いる意味あるのか……?
もうそろそろ動きたいところなんだけどなあ。
「つれない顔するなよ、七花くん。さっきまでの独り言だって覚えておけば後々いいことあるかもしれないぜ?」
そう言われても返事に困る、としか言いようがない。
第一、刀であるおれに期待しても意味ないと思うんだけどな。
「そんなことはなかったりするんだよなあ。特に七花くんのような稀少な存在はね」
稀少?おれが?
「そりゃそうだろう。人間にして刀、のような存在がそう易々と見つかるとでも思ってるのかい?」
言われてみればそうか。
だからどうしたってのが正直な気持ちだが。
「感情のない大男と言われるだけはあるねえ。刀集めの旅路で獲得した君の人間らしさはどこへ行ってしまったんだい」
こういうときに一々驚いたりと反応を示すのが人間らしさだとでも言いたいのか?
「おっと、そんなつもりはなかったんだよ。干渉できる人間は限られているみたいだからついからかってみたくなってしまってね。
他人が出張ってるとこにいけしゃあしゃあと出ていくほど野暮じゃないし、昏睡状態では夢なんか見れないし」
……いい迷惑だ。
「まあまあ。ならお詫び代わりにちょっとサービスしておくからさ」
さーびす?
聞き慣れない単語だ。
「そういえば君達の世界じゃ外来語は通じないんだったっけ。わかりやすく言うなら贈り物ってところかな」
贈り物、ね。
「物質的なものじゃないから些か語弊があるけどね。少なくとも貰っておいて損はないはずだから安心していいぜ(安心院さんだけに)。」
はあ。
しかし、うまい話すぎやしないか?
「警戒するのもわからなくもないけどね。特に君は優勝狙いのマーダーなんだ、物語からすれば必要だけど終盤には邪魔になってしまうこともある存在だし。
まあややこしい話はこの辺にして本題に移ろうか」
やっと本題なのか。
前置きが長すぎる。
「それは僕の管理不行届きだね、謝っておこう。さて、アドバイス――つまり助言だが、君が目を覚まして最初に会うことになる人間とは手を結んでおいた方がいい。
君一人では知ることができない情報、特に君が最も欲しがっているであろう情報を彼は知ることができる」
おれが最も欲しがっている情報。
つまり……
「そう、とがめ君のことだ。彼女に何があったのかを彼は知ることができるのさ。そして君は彼が最も欲しがっている情報を持っている」
初耳なんだが、それは。
「君は元々持っていて、彼はここに来てから知ったのさ。それだけ言えば察しはつくだろう?」
……ああ、なるほど、そういうことか。
「ご理解いただけたところで僕はそろそろ失礼させてもらおうか。次がつかえてるし」
あ、いってくれるんだな。
「そりゃいつまでも他人の夢に居続けるってのはできないしね、もちろんサービスするのは忘れないけども。××××とはいえめだかちゃんが迷惑かけたようだし」
あれ?また姿が、声が、またとがめのものに変ってる。
おい、なんでおれに近づいてきてるんだ。
「ちゅっ」
……今、口、吸われた、のか?
「七花、わたしはそなたのことを愛していたぞ。――なんちゃってね」
一瞬だけ見せたそれは紛れもないとがめの姿で、声で、表情で、仕草で、本人と言っても問題ないもので。
――そのときおれはどんな顔をしていたのだろう。
■ ■
殺しておくべきだった。
動画を再生し終わった双識は二度蝙蝠を逃がしてしまったとき以上に後悔した。
だが、殺さずにすんでよかったのかもしれないと安心感に浸っている自分もいる。
なぜ曲識ほどの男が抵抗の跡すらなく満足したように死んでいたのか、音声がない以上想像で補う余地はあったが理解できた。
『あれ』は人類最強にも匹敵するバケモノだ。
一度完膚なきまでに殺されたにもかかわらず、復活した少女。
音使いである曲識の技術が通用せず圧倒的なまでの蹂躙を見せた女性。
双識だって、対峙すればあっさり白旗を上げてしまうだろう。
だから。
だからこそ。
「どうして逃げなかったんだよ、トキ!」
怒鳴らずにはいられない。
激怒せずにはいられない。
敵対者は老若男女容赦なく皆殺し。
あるときはたまたま目標と同じマンションに住んでいたという理由だけでそこに住む人間どころかペットまで一切合切殲滅したことがあるほどだ。
「お前のかたき討ちをする俺達の身にもなってみろよ!
あの
哀川潤以上かもしれない存在にどうやって太刀打ちすればいいかわかってるのか!
リルはいないしアスは死んじまったし残ってる家族は人識と俺はよく知らない妹だけなんだぞ!
それなのにそんなに満たされた顔浮かべて……本当に大馬鹿野郎だ、お前はっ!」
周囲の状況を考慮せず思いの丈を吐き出し続ける。
クラッシュクラシックはピアノバーだから防音設備がしっかりしているので問題ない、といった理屈すら頭から抜けているだろう。
きっと周りが開けたどうぞ狙ってくださいと言わんばかりの場所だったとしても同じように声を上げていただろう。
故に、気付けなかった。
「はいはーい、そこまで。いくら君が『資格』持ちだと言ってもこっちに出るのは疲れるんだよね」
「い……一体どこから」
「僕は安心院なじみ。親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」
突然現れた目の前の存在に。
■ ■
「本当は腑罪証明(アリバイブロック)が使えればよかったんだけど、それを使うとさすがに干渉しすぎってことで自重させてもらったよ
「夢の中なら次元を超えるスキルである次元喉果(ハスキーボイスディメンション)と夢のスキルである夢無実(ノットギルティ)
「更に夢を司るスキルである夢人(ビッグチームドリーマー)の重ねがけだけで済んだのにこっちに出たらそうもいかない
「身気楼はただのお遊びさ――なんて君には関係なかったね
「こっちじゃ幻を司るスキルである幻の幻覚(ファンタジーイリュージョン)だけじゃなく
「音を司るスキルである喉響曲不幸和音(グラウンドサウンド)も使わなきゃいけないなんて難儀な話だ
「それもこれも僕の存在を隠すためでもあるんだけどさ
「いや、僕は認知されることはないだろうけど、君の声から突き止められるかもしれないだけで
「
戯言遣いくんはもう八九寺ちゃんに話してそうだからあんまり意味はないとは思うけど保険は欲しいからさ
「ついでに話をとっとと進めるために説得のスキルである無知に訴える論証(ジェネラルプロパガンダ)
「抵抗でもされたら面倒だから戦意喪失のスキルである競う本能(ホームシックハウス)も使わせてもらってるんだけど
「ほら、この異常事態をすんなり呑み込めているだろう?
「え?僕が何者かって?
「さっきちゃんと言って……ああ、名乗ったのは名前だけだったっけ
「平等なだけの人外だよ、といつもは言うんだけど今回はちょっと事情が違うから……
「『物語』を整理する存在、とでも言っておこうか
「理解できないならそれでもいいさ、本題に移らせてもらうよ
「正直な話、ここで君と七花くんがいがみ合ってもらうと困るんだよね
「君達を取り巻く人間関係は随分複雑なものになってしまっている
「ここでどちらか、あるいは両方が落ちることは望まれていないということだ
「もちろん、メリットは存分にあるよ
「七花くんは君が喉から手が出るほど欲しがっている情報を持っている、と言えば十分だろう?
「僕がデング熱による倦怠感は取り除いてあげたし七花くんももう目を醒ましているはずだからさ
「まあ、いつまでも僕のことを覚えられていては後々困るかもしれないから記憶に残らないスキルである忘脚(レフトレッグス)を二人のときと同じく使わせてもらうけど
「すぐには忘れないから情報交換は滞りなく進むはずだろうし心配はいらないよ、尤もこれも忘れちゃうんだけどね
「それじゃあ、期待してるよ――家族愛を重んじる殺人鬼こと零崎双識くん
■ ■
目が醒める。
心なしか体が軽い。
眠っただけの価値はあったようだな。
それにしてもあれは夢……でよかったのか。
夕日が見えたしかなり時間経っちまったようだな。
伸びをしようとして体が拘束されていることに気付いた。
あの夢が本当だとして、助言をするくらいならこうなってることくらい教えてくれてもよかったんじゃ……
そもそもここってどこなんだ?
首を動かして視界に入った建物を見て判断したところどうやらおれは元の場所に戻っていたらしい。
なんだか視点も高くなってるし、これはあのとき凄い速さで走ってたやつか?
つまり、おれをここに縛って運び込んだ人がいて、それがおそらく『手を結ぶ』方がいい相手ってことか。
そうでなくともこの状態で自由に動けなるわけないし、下手に抵抗しない方が賢明だってことくらいはわかる。
あ、建物から誰か出てきたみたいだ。
一人……なのか?
あのとき小柄なやつも一緒にいたはずだけど今はいないみたいだ。
まあ、いてもいなくても困らないけど。
あれ、あいつの胸に刺さってるのって――
……悪刀がなんでここに?
■ ■
現れたときと同様に忽然と安心院なじみが消えた後、双識は車へ戻りる。
無論、すんなり戻ったわけではない。
とはいえ、一度中断させられたことで昂った感情は落ち着き、曲識には再び来るときは水倉りすかの首と共に戻ると誓ってクラッシュクラシックを後にした。
「言ってた通り、目覚めていたか……」
ドアを開ける必要はなくなっていたため回り込んだだけで七花が起きていたことを確認できた。
「おれをこうしたのはあんたでいいんだよな?」
一方の七花も窓越しにクラッシュクラシックを出る双識を目撃していたので驚いた様子はない。
「理解が早くて助かるよ」
「見ての通りおれはこんなんだし、あんたをどうこうする気はない」
「一つ聞くが、安心院なじみという女に会ったか?」
「安心院さんと呼べと言ったあの女のことで合ってるなら」
「……なるほど」
「その口ぶりだとあんたも会ったようだな……おれはあんたと手を組んだ方がいいと言われたんだけど」
「こっちも似たようなことを言われたよ――なんでも私が喉から手が出るほど欲しい情報を持ってると聞いたが」
「……鑢七実、宇練銀閣、真庭蝙蝠、真庭鳳凰、左右田右衛門左衛門」
「ッ……!」
「まだ放送で呼ばれていない中でおれが知ってる人間だ。この中にいるんだろう?右衛門左衛門はおれがさっき殺しちまったけど」
「――その通りだ。それで、求める対価は?」
「三つ、かな。まずはとがめについて知っていることを教えて欲しい」
開始直後に箱庭学園で出会った蝙蝠が変態した姿を思い返すが、求めているのはそれではないだろう。
最初の放送で呼ばれていたはずと聞いていたし――と考え、思い至る。
掲示板で見た動画データの曲識の名前の下にそんな名前があったはずだ。
「それは実はこちらも確認が終わっていない。後回しにさせてもらってもいいか」
「まあ……いいけど。二つ目はその胸に刺さってる悪刀をどこで手に入れたか、だな。最後は――」
「これ、ほどいてくれないか?」
双識の予想にしていなかった範囲からの要求が飛んできたことでしばし呆気にとられる。
「ああ、済まなかったな」
そして数時間ぶりに双識の頬が少しだけ弛んだ。
■ ■
夢のお告げ?の通りにしたのは正解、だったのかな。
おかげでおれは知りたかったことを知ることはできたんだし。
どうやらここは未来の技術が使われているようだな。
建物も木でできてないやたらしっかりとした造りのものだったんだよな、そういえば。
四季崎と会っていたことはおれの現状把握には役立ったらしい。
勝手に動き出す絵にはびっくりしたが。
それにしても……めんどうだ。
とがめを殺したのがおれが壊したはずの日和号だったし、変体刀もどういうわけか普通にあるみたいだし。
こうなってくると残り十本の変体刀もあると思っていいかもしれないな。
双識に欲しがってた真庭忍軍と銀閣、それと一瞬出会っただけの水倉りすかについて話したら黙りっきりだし、正直暇だ。
まあ、これといって困るわけじゃないんだけどな。
おれが一番欲しかった情報は手に入れられたんだし。
しっかし、不要湖に日和号がいるとなると、随分移動しなくちゃいけないんだよな。
話を聞いた限りじゃ、これから東に向かうらしいし、やっぱりここは一緒にいた方が得策みたいだ。
途中で人に会える可能性も上がるってんなら悪くはない手段なんだよな。
もちろん、鳳凰と同じで最後は刃を向けることになるんだろうけども。
なあ、とがめ。
こんなおれでもとがめはおれを愛してくれるのか?
■ ■
「してやられた、というわけか……」
双識が呟いた独り言は七花には届かない。
あのとき真庭蝙蝠と一緒にいた少年は宇練銀閣ではなかったという情報を得られただけでもかなりの収穫ではあった。
他の動画も全て見せ、
阿良々木暦という参加者が殺された映像が判断する限りでは喫茶店の貼り紙と合わないことに疑問は覚えたが。
いずれにしても掲示板の情報と照らし合わせれば、黒神めだかという参加者が危険であることには変わりはない。
七花から聞いたことと、西東診療所に現れたりすかの発言から、あの少年が供犠創貴である可能性が高いと思われるが確証も持てない。
これ以上この場所に留まっても、人識との合流が遅れるだけとなるともたもたしてはいられない。
「ひとまずは私と共に行くということになるがいいか?」
完全に警戒心を取り除いたわけではないが隣に座る七花に問いかける。
「かまわねえよ。おれにとっても移動手段があるというのはありがたい」
「そうか。多少揺れるかもしれないがそれくらいは我慢してくれ……しかしいざ合流したときその格好では少し困るな」
「?――ああ、そういえばおれ血だらけだったんだっけ」
「タオルの持ち合わせはないが、これを使うといい」
貴重な飲み水を消費するわけにはいかなかったので、代わりに生理食塩水で濡らした体操着を渡す。
それを受け取った七花が顔を拭い始めるのを確認すると車のアクセルを踏み込んだ。
(トキやアスの仇を討つためだ、利用できるものは全て利用させてもらう。昔からそうだったんだ、でなければ氏神と関係を持つこともなかっただろうしな)
これでいいのかと内から湧き上がる声を無理やり抑えつける。
家族のためだと理由をつけて。
隣で息を潜め、刃を研ぎ続ける刀に気づかないまま。
(おそらく携帯などの情報機器を持つ参加者は他にもいるはず。やつらは必ず殺すが、徒党を組まれては厄介だからな)
そして双識は爪痕を残していく。
参加者の半数以上が情報を得ることができる掲示板という場所に。
3:情報交換スレ
3 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:uvaupV5IG
>>2
阿良々木暦を殺したのは黒神めだか
浮義待秋と阿久根高貴を殺したのは宇練銀閣
零崎曲識を殺したのは水倉りすか
とがめを殺したのは日和号だ
不要湖にいる日和号は参加者を襲うロボットなので近付かなければおそらく被害には遭わないだろう
また、水倉りすかに襲われ、逃げられたが、彼女は真庭蝙蝠と共にいる可能性が高い
供犠創貴も彼女の仲間のようだ
【一日目/夕方/C-3 クラッシュクラシック前】
【零崎双識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹八分目、悪刀・鐚の効果により活性化
[装備]箱庭学園指定のジャージ@めだかボックス、七七七@人間シリーズ、カッターナイフ@りすかシリーズ、軽トラック@現実、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×3(食料二人分、更に食糧の弁当6個、携帯食半分)、体操着他衣類多数、血の着いた着物、カッターの刃の一部、手榴弾×2@人間シリーズ、
奇野既知の病毒@人間シリーズ、「病院で見つけたもの」
[思考]
基本:家族を守る。
1:七花と共に診療所へ向かう。
2:真庭蝙蝠、りすか、供犠創貴並びにその仲間を必ず殺す。
3:他の零崎一賊を見つけて守る。
4:蝙蝠と球磨川が組んだ可能性に注意する。
5:黒神めだか、宇練銀閣には注意する。
[備考]
※他の零崎一賊の気配を感じ取っていますが、正確な位置や誰なのかまでははっきりとわかっていません。
※掲示板から動画を確認しました。
※真庭蝙蝠が零崎人識に変身できると思っています。
※鐚の制限は後の書き手さんにお任せします。
※軽トラックが横転しました。右側の扉はない状態です。
※遠目ですが、Bー6で発生した山火事を目撃しました。
※不幸になる血(真偽不明)が手や服に付きました。今後どうなるかは不明です。
※安心院さんから見聞きしたことは徐々に忘れていきます。
【鑢七花@刀語】
[状態]疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、刺し傷(致命傷にはなっていない)
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
1:一先ずはは双識と共に行動する。
2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。
3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない。
4:変体刀(特に日和号)は壊したい。
[備考]
※時系列は本編終了後です。
※りすかの血が手、服に付いています。
※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。
※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です。
※倦怠感がなくなりました(次で消して構いません)
※掲示板の動画を確認しました。
※夢の内容は徐々に忘れていきます。
■ ■
「さすがに怪我や体力の回復まではできないけど、これくらいはいいだろう?
「ん、なんだいその顔は
「あはは、恥ずかしがっちゃって
「君がそう思っていたことは間違いないんだろう?
「いくら君、いや、君達が××××だからってその想いは紛れもなく本物さ
「誇りに思っていいんだよ
「なに、そうじゃない?
「なーんだ、僕に先に伝えられちゃったってのがそんなに悔しいのか
「だったらちゃんと伝えなきゃあだめだよ
「後から負け惜しみのように言うのはいくらでもできるんだからさ
「さて、そろそろ僕も介入するのは難しくなってきたし潮時かな
「一応まだ何人か『資格』を持っている人はいるんだけど、しょうがない
「玖渚くんみたいに気付き始めてる人もいるみたいだしね
「目的は何か、だって?
「ふふ、僕みたいな平等なだけの人外に勝手に期待されても困るよ、全く
最終更新:2013年10月23日 17:50