冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ




「人間の死には、『悪』という概念が付き纏う。ってのが兄貴の持つ信念みたいなもんだった」
「……………………」

全く唐突に零崎人識は語り出す。
別に誰に聞かせるようでもなく。
別に誰に言ってるようでもなく。
別に誰にどうするようでもなく。
ただ思い付いた事を喋るように。
ただ思い出した事を呟くように。
ただ、懐かしむような顔をして。

「それを言ってた兄貴に何か言ったような気がする。
 逆になんにも言ってないような気もする。
 だが思ってるんだ。
 人間の死には、『悪』なんて概念は必要ないってな」
「……………………」
「聞いちゃいねーか」

かはは、と零崎さんは笑った。
言いたかったのはそれだけだったらしい。
黙々と歩き続ける。
静かに、手を伸ばす。
腕を、零崎さんの首に。

「よっと」

絡み付く直前、動いた。
零崎さんがどう動いたかまるで分からない。
しかし次の瞬間、わたしの体は地面に落ちていた。
何が。
そう思っても体が動く。
殆んど間髪を入れず体を起こして、包丁を抜く。
それを、軽く肩を竦めるだけで、零崎さんは何も言わなかった。
何も出さず、来るなら来いとでも言うように。
何かあるのかしら。
ゆっくりと時間が流れる。
でも、決心が付いた。
不意に踏み出す。
首へと包丁を突き出す。
対してただ一歩踏み出しただけに見えた。
次の瞬間には、わたしの手から包丁は消えていた。
零崎さんの手に包丁が握られ、肩が裂けた。
何が起きたのよ。

「くっ……!」
「で、さぁ」

向き直って肩を抑える。
何事もなかったような顔で。

「どう思う?」
「……何がよ」
「人間の死には一体何が必要か、さ」

片手で包丁を弄び、零崎さんは笑った。
気圧されたように下がっていた。
下がって、しまった。
それを全く見もせずに。
指先で自在に包丁を弄ぶ。
答えなど求めてないような。
答えなど聞く気もないような。
答えなど元から知ってるような。
鼻っから期待してないような顔で。

「……………………知らないわ」
「そうか?」
「生きるのには一体何が必要かは知ってるけどね」
「……へぇ」

包丁が止まる。
笑ったままの人識が、わたしに向いた。
先を促すように顔を動かす。
それでも油断なく。
むしろ何時でも逆に殺せるように、でしょうね。
一本の刀を抜く。
片手で振り回すのは無理ね。
鞘を投げ捨てて、柄を両手で握り、その鋒を真っ直ぐ向けて。

「思いよ。思いさえあれば、生きていけるわ」
「俺は水と食い物だと思うけどな」
「そう言う事じゃないでしょ?」
「どう言う事なんだろうな」
「からかってるの?」
「さぁ? それで」
「何事もなかったように続けるつもりね」
「もちろん」
「呆れ果てた愚物ね」
「殺人鬼なんでな」
「あなたって最低のクズだわ」
「また妙な所から持ってきたな、おい」
「そうでもないわ。それよりあなたの所為で話が逸れたじゃない」
「俺の所為かよ!?」
「じゃあ誰の所為よ」
「お前の所為だろ」
「あなたって」
「それはもう良いから」
「ちっ」
「おい、今舌打ちしなかったか?」
「あぁ、ごめんなさい。次からは聞こえないようにするわ」
「そっちか!? 謝るのはそっちか?!」
「少しは落ち着きなさいよ。ハゲるわよ」
「ハゲるかよ」
「その歳で白髪なんだから分からないわよ?」
「あー。確かにな。もうすぐ二十歳だけどそれでこれはまずいかなー」
「え?」
「え?」
「……ごめんなさい。あなたって、幾つ?」
「え? 19」
「……うそ、あなたの身長、低過ぎ?」
「おい。おい! 失礼だなおい!」
「ご、ごめんなさい。真面目に話をするわ。それで、何の話だったかしら? 最近の投稿スピード? 死者数?」
「おい。おい……そんなあからさまに話題変えようとするなよ……」
「チビ」
「殺すぞ!」

やれやれと。
どちらとも言わず首を振った。
それぞれの獲物の切っ先を向け合ったまま。

「復讐するわ。
 黒神めだかに。
 優勝するの。
 阿良々木くんのために。
 どんなに罪に塗れても良い。
 どんな罰でも甘んじて受ける。
 どんな重みを背負ったって良い。
 だからこそ、私は、絶対勝つのよ。
 あなたを殺して、黒神も殺して。
 彼がそんな事願ってなくても
 絶対に別けも渡しもしない。
 押し潰されたまま生きる。
 叶えるわ、彼の復活を。
 それだけ決意してる。
 それでも勝てるの? 勝てると、思う?」
「なぁ」

ただ呟く。
問い掛ける。
笑ったままで。
髪を軽く掻揚げ。
包丁の先を向けて。
どうでもよさそうに。
零崎さんは言ってくる。

「人間生物を殺すにはどうすれば良いと思う?」
「………………決まってるでしょ」
「お? どうするんだ?」
「こうすれば、いいのよ!」

一歩の踏み込み。
刀が振り下ろされる。
にやにやと笑ったまま。
零崎さんが包丁でそれを受け止め、

「は」

あっさりと斬れ、

「あああああ!?」

体を捻った。
早過ぎない、ちょっと。
刀はそのままの勢いで地面を斬って、止まった。
それも勢いがなくなって、と言う形で。
肩の痛みの所為で振り回し辛い。
慎重に刀を持ち上げる。
その頃には多分五歩くらい、人識が下がっていた。

「はああああ!? はあ? はあああ! はああああ?!」
「…………」

うるさい。
やたら叫んでうるさい。
無言で踏み込み。
刀は横薙ぎに振る。
包丁の残った鉄の部分で受け止めた。
でも関係なく斬れる。
体に届く前にはしゃがんで逃げていた。
今度は十歩以上。
すばしっこいわね。

「ねーよ! ねーよ!! 幾らなんでも有り得ねーっての!」
「何がよ」
「馬鹿、そりゃ、包丁が斬られることがだよ!」
「なんでよ? こっちは刀、そっちは包丁。不思議でも何でもないわ」
「馬っ鹿! これだから素人が! 素人の素振りの威力なんてたかが知れてるわ! あーあ、そう言えば随分あっさりあいつの首を落としてると思ったわ!」
「そうでもないでしょ」
「あるわ! 首の骨の太さ考えてみろ! ナイフだったら何回かは受けれるぜ、普通! 包丁でも一回はいけるって」

話をしながら、向こうから距離を詰める。
自然な動作で。
むしろ私の方が身構えた。
何かあるのかしら。
しかし五歩ほどの所で止まり、服に手を入れながら目を細めた。
その目は私ではなく刀身に注がれている。
よく知らないけど、珍しいのかしら。

「…………何よ?」
「気にしてなかったが、珍しいモンだなそれ」
「私が知るわけ無いでしょ」
「もうちょいよく見てみたいな」
「近付いたら見れるわよ?」
「真っ二つになるくらいじっくり?」
「ご名答」
「そのついでに答えてくれよ」
「なにを」
「お前はさ、心ってどこにあると思う?」
「……頭の中じゃない?」
「そっか」
「もう良いかしら?」
「良いぜ」
「じゃぁ」

死になさい。
言いながら、踏み込んだ。
今度は逃がさない。
斜めに振り上げた刀。
真っ直ぐ、振り下ろす。
対して零崎さんは。
服の中を掻いていた手を出すと。
軽く横に一歩動いた。
だけ。
逃がさない。
強引にでも追おうと腕を動かす。

「!」

空を、斬る。
斬った。
零崎さんが移動した場所はそのままだったのに。
そうして。
何もなかったみたいに。
私の横に。
立った。
にも関わらず、わたしは動かない。
否。
動けない。
腕も真っすぐにしか下ろせなかった。
顔もまるで、動かない。
違う。
指の一本も動かない。

「な、こここれれはは……!?」
「極限技」
「きょく?」
「もとい、曲絃糸。糸ってのは、イトだぜ? 思ったより強度があるだろ?」

そう言われれば、体の至る所に妙な喰い込みが見える。
糸。
細い食い込みが幾つも。
まさか急に体が動かなくなった時の。
そう、気付いた。
気付くのはあまりに遅過ぎた。
歯軋りをし、それでも無理矢理体を動かす。
動かそうとする。
動けない。
至る所が裂け、血が滲み、宙に赤い糸の存在を示す。
しかしそれだけ。
どれだけ血を流そうと、体がほとんど動かない。
指一本分すら動けていない。
むしろ動こうとすればするほど肉に食い込んで、骨が軋む。
それでも。
動こうとしている内に、手から、刀を奪うようにして取られた。
目と目が、合う。
今まで、見た事のない。
目が。
なによ、この目。
まるで、まるで。
思考が止まった。
一瞬の怯みだったと思う。
切っ掛けになったんでしょう。
見逃しては、くれなかった。

「ちなみに人間生物をどうやって殺せばいいかだけどよ、俺は」
「まちなさ」
「こうすればいいと思う」

一歩。
前に進んできた。
切っ先を上げて。
さながら別れのために手でも振ろうとするように。
それだけだった。
それだけで、止んだ。
世界が、真っ赤に染まる。
喉から血が溢れていくのを感じる。
それで 、歯を剥く。
首 伸ばしてでも。
動かないなり でも。
動ける ら噛み付い でも殺す。
私は。
私 まだ。
何も出 ていな のよ。

「  、   」

引 抜かれた。
拍子に体から、何か 消え 。
嫌 。
待ちな いよ。
待ってよ。
胸を、刺さ た たい。
痛くは い。
痛み ない。
 だ、致命 な何 がされた。
それだ は分かっ 。
紛れ うのない致命 を。
与 ら た。

「   !」

 だよ。
ま 、生き る。
そ 声を張っ も、何 出な 。
なにか 流 出て くのだ を感じ 。
動き さい、体。
う きな い、腕。
首で いい。
口 も い。
 でもい 。
わたし ゆう ょう て、阿 々 くん 。
って、 ら。
あそ にい の 、

「      ?」

 良々  んじゃ い。
いつ らそ に。
 づかな った 。
いた らい  、いえ  い に。
もっ  や き  い 。
ばか。






一分も経たず、戦場ヶ原ひたぎの動きは止まった。
片手を振る。
細い糸が手に集まった。
横に人識が動くのと、ゆっくりと、ひたぎの体が地面に倒れたのはほとんど同時。
血溜りに、沈んだ。
湿った音を立てて。
崩れ落ちていた。
それでも人識は刀を振る。
手始めに足を斬る。
次に脚を。
振り下ろされて腰が。
薙がれて胴を。
刺された胸を。
内蔵が解され。
肩を。
腕を。
手を。
指を。
首を。
喉を。
顎を、口を、歯を、鼻を、耳を、目を、脳を。
次々と解して。
丹念に並べて。
骨も揃えられ。
血溜りの中に、晒された。

「殺して解して並べて揃えて、晒してやった」

かはは。
と。
人識は血溜りの傍に腰を下ろす。
崩れ落ちた肉塊を眺め。
不意に、

「見当たらねえ、か」

首を振った。

「やっぱやるもんじゃねえわ、こんな事」

思い出したような顔で立ち上がり、伸びをする。
すぐ傍に落ちていた刀の鞘を拾い、刀を振る。
血が点々と跡を残す。
鞘に仕舞う。
ついで血溜りの中のデイパックを鞘に引っ掛けるように拾い上げ。
歩き始めた。
方向は、E-6。
戯言遣いとの合流地点。
そちらに向けて、歩き始めていた。




「あ、そーだ。どーせだから今は亡きおにーちゃんに合わせて言っとくか」



「それでは――零崎を始めよう」



「なんて――――かはは、そんな柄じゃねえな」



「そんな人間じゃなかったろ、俺。いやいや鬼だし人間失格だった」



「ったく、何勝手に死んでんだよ…………本当に、よ」



【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ 死亡】



【一日目/夜/D-5】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語 、医療用の糸@現実、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×8(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×2@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:戦場ヶ原ひたぎ殺しちまったけどま、いっか。
 1:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 2:真庭蝙蝠、水倉りすか供犠創貴を捕まえるか殺す。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:この刀(斬刀・鈍)、ちょっと調べてみるか。
 6:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします



 ※D-5の戦場ヶ原ひたぎの死体は、特に頭の部分を念入りに解された状態で並べられています。

牲犠 時系列順 Velonica
Velonica 投下順 めだかクラブ
球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係 零崎人識 変態、変態、また変態
球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係 戦場ヶ原ひたぎ GAME OVER

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最終更新:2014年09月18日 17:07