着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ
少し、前の話です。
『ねえ七実ちゃん。髪切ってみない?』
まったく唐突な言葉。
当時の、それに対するわたしの答えは決まっていました。
「いえ、別に」
理由も言われなかったもので、そう答えたのを覚えています。
何か拘りがあれば、もっと言ってくるでしょう。
その時は風に考えていたのですが特に思うところはなかったようで、と言うよりかは今なんとなく思い付いたから言っただけのようで、少し顔を動かすだけでこの話は終わりました。
そもそもの話。
いえ、別に今も特別な何かを期待していた訳ではありませんしこの先も特に期待することはないでしょうけれど。
良いのか悪いのか。
わたしとしては悪いのでしょうけど。
まあともかくきっとこの時、禊さんとしては会話の取っ掛かりになる何かさえ有れば良かったのでしょう。
話が一気に訳の分からない方に進んでいましたから。
今は興味を持って頭を働かせますけど、それで考えてみても全く分かりませんから。
『と、言う訳なんだよ七実ちゃん!』
「あ、すみません。聞いていませんでした」
『おおっと。イジメとは酷いんじゃないかい?』
「いえ、イジメ? とやらではありませんよ多分」
『差別? 差別?』
「いいえ区別です」
『はい! はい七実ちゃん!』
「却下します」
『それはそれで酷いと思います!』
「却下します」
横を窺って見た。
そんな覚えがあります。
確か、ですけど。
するとどうでしょう。
何やら愕然と、片手で口元を抑えながら白目を剥いています。
ですがそれでも普通に横を着いて歩いているのですから器用なものです。
然程見る価値を感じませんけれど。
さて。
何時までもそんな顔をされていても鬱陶しいので話を進めて頂きました。
「冗談ですので何の話だったか教えていただけます?」
『……うん』
「早く」
『はい』
『何だか七実ちゃんからの当たりが強いここ最近だなぁ』などと呟いているのは聞いていないこととして。
いえ、特に何も言いません。
少しばかり顔を見続けるだけです。
目が合ってから逸らされるまで、微笑んで差し上げながら見続けるだけです。
やがて来た微かな達成感。
ああ、こう言うのもなかなか良い。
いえ、悪いものでしたが。
「まだですか?」
『はい』
――不憫だな、おい。
黙殺。
『いやね。
とてもとても単純な話なんだけどさ。
だから前置きはあんまりしておくのも何だとは思うんだけど、大人しく聞いてくれよ。
前置き、予定調和、与太話――その手の物があって不足はないしさ。
さて、フェチ――そう、フェチって奴は案外侮れないものだと思うんだよ。
いやフェティシズムって言い方でも構わない。
萌え、とはまた違うやつ?
股座がいきり立つとかそんな感じにさ。
足先から足首に腓で膝、太股、まとめて足ときて尻、腰からくびれ、上がって胸から肩で少し下がって腋、二の腕からなぞって肘に手首ときたら指先だろ、戻ると鎖骨で喉でしょ、それで顎の下に歯で鼻を通って目元、耳におっとうなじもだ。
あ、別にぼくとしては部位に限らないぜ?
格好って言うのも良いものだからね。
コスプレは良い文化だよ、七実ちゃん!
今の王道と言えば巫女にナースさん、OL更には着物に追加でバニー、いやいやギャル、おっと神官とか制服、あとは天使と悪魔とか?
ちょっとした背徳感が、いい。
おいおい、制服とギャルが一緒じゃないかって?
君は実に馬鹿だなぁ……それは剣と刀は一緒の物って言ってるようなものだよそれ?
ともかく邪道とか言われるかも知れない辺りは騎士に他意はないけどビキニ、鋭く軍服、忍者でしょう、十二単でしょう、嗚呼お姫様、ちょっとした所では宇宙服とかゾンビ、追加で石器時代に着ぐるみとかかな?
着ぐるみがコスプレに入るかだって?
細かいことはいいんだよ!
それよりマンガやアニメ物、ラノベなんかも悪くない。
大定番のマミる魔法少女はもちろん、近未来的な身体に張り付いたようなのもあるし妖怪(笑)物の衣装、異世界物も素晴らしい。
最終兵器な彼女とかセーラーな土星にロリな紐神様だとか、ゲームでいくと如何にもあかんコレな奴もあるしね。
スリングショットとか実在するんだって感動すら覚えたよ!
スリングショットは実在するんだよ!
魔物に負けるためだけに存在するような忍も悪くはないけど、ああ言う元ネタがどうやってどうしたらこうなったって言うのも、良い。
いやぁ、日本人は発想が狂ってるって言うのは真実だろうさ。
船に城に刀って。
ま、やってるけど意味が分からないのは何でああ言う奴は脱がしちゃうんだろうね?
いやいや何のためのコスプレだよって感じ?
あ。
少し話が外れることだけど、コスプレって言うのはその存在に成り切るって言うのが重要な要素としてあると思うんだ。
成り切る……いや、成り代わると言ってもいい。
誰かに成ることで「自分ではない」安心感を得る。
分かるようん分かる分かる。
『自分じゃないから』『私ではないから』『僕じゃないから』大丈夫。
不幸も、不運も、良心も、良識も、転倒も、転落も、不明も、不抜も、悪意も、悪気も、失態も、失敗も、全部全部全部全部全部僕は悪くない。
彼が、彼女が、あの人が、悪い。
悪い悪い悪い悪い悪いだから悪くない悪いのは向こうでこっちは悪くない。
押し付けだって良いじゃないか、だってそんな人間いないんだから。
そうさ、全部全責任全関与全良悪全部全部全部が全てさ。
おおっとだとしたら、着ぐるみを着てる人は押し付けてるんじゃなくて身を守ってるって解釈になるのかな?
普通のコスプレが身代わり人形なら着ぐるみは鎧、かなぁ?
確かにあれだけの分厚さがあれば多少殴ったり蹴ったりする程度じゃあビクともしないだろうけど、うーん。
謎だ、どうでもいいけど。
これまた凄くどうでも良い話だけど本来のフェティシズム――フェチって言うのはかなり深い拘りを指す言葉らしいんだ。
神仏崇拝だとか最早そう言うぐらいの、一種の信仰の域さ。
だからフェチとか簡単に言えるものじゃないらしいぜ。
本来の意味で使うとなると「それ以外にはどうあっても認められない」とか言うレヴェルじゃないと認められないそうだ。
あ、別にぼくとしては別にどうでも良い話なんだけどね?
じゃあどう言えばいいんだよとか突っ込まれても困るからフェチを使い続けるべきだと思う。
おっと。
更にどうでも良い話を言わせて貰うぜ?
単純に二つに分けると部分だとか物に対する執着をフェティシズムで、状態に対する執着はパラフィリアってことらしい。
この理論で行くと背筋とか舌とか臍とか、あああとは髪もだね。
その辺りに興奮するのはフェティシズムだ。
あと巨乳は正義だ。
七実ちゃんは――うん。
対してサドだとかマゾだとかはパラフィリアになるみたいだ。
一応言っておくべきことだと思うけどぼくは別にマゾじゃないぜ?
ただ単純にボロクソにされる機会が多いだけの善良な一般人なんだから。
七実ちゃんはーーうん。
うん!
あ、濡れ透けで興奮したらパラフィリアってことなんだけどぼく的に悩ましいんだよなぁ。
濡れ透けは良いと思うよ?
だけど裸エプロンに水をかけて胸に張り付いたのに興奮する場合ってどうなるんだろうってさ――そう言う訳でどう思う?』
「あ、はい、削げば良いんですね?」
『…………え?』
「大丈夫です、痛くしませんので」
『あ、ごめん。ちょっと命の危機を感じるのは気のせいかい?』
「ええ、大丈夫です。気のせいです。ちょっと子供を作れなくなるだけですから」
『いやいや、割と大問題だと思うんだけどそれ?』
「このためのおーるふぃくしょん」
『おっと気合いの入った握り拳……クルミぐらいなら軽く握り潰せそうだ。うーん…………これは、本格的にヤバい気配がムンムンとしてきやがったーーーー!』
と、まあ。
わたしにとってまるで意味の分からない言葉が立て板に水の如くスラスラとその口から流れ出していたのを聞き流しておりました。
聞き流していた。
聞き流していても、覚えてはいます。
ですのでこの通り、一言一句に至る子細まで思い出せているわけですし。
「…………それで、ええ、何を言いたかったんでしょうか?」
『んォ…………ちょ……っとカヒュ…………エヴッ……待……ヴッ……って、ね』
遊び過ぎて若干吐きかけているのを見ないようにしながら待ちました。
ああ、この時は実に時間を無駄にしたものです。
ともあれこの後も時間の無駄だったと、今をしても、言わざるを得ませんが。
『七実ちゃん!』
「はい、なんでしょう」
『着物の下は履いてないって本当かいッ?!』
「お死になさい」
『グワーッ!』
爆発四散南無三。
「……いえ、四散していたら生きてはいませんし」
『うん? なになに七実ちゃん?』
――……時々、娘のことが分からなくなります。四季崎です……
「いいえ別に何も」
あ、失礼しました。
今までの全て回想です。
その辺で浮いていた四季崎含めて全部。
「少し思い出していただけです――それで、何でしょうか?」
いえ、わざわざ少し前のことを思い返していたのですから。
全く無意味な質問でした。
聞かれるのが怖かった。
と言うわけではありません。
もちろん聞き逃していたわけではありません。
見逃していたわけでももちろんあるはずがありません。
このわたしに限って。
だからこれは。
そう。
逃避だったのでしょう。
一時はもちろん一刻ですらない。
たった一瞬に満たない逃避。
訳も分からず思わずした、逃げ。
まあ。
どうでも良いことだけれど。
どうでも悪いことだけれど。
わたしの出す答えは決まっているのだから。
わたしの返す言葉は決まっているのだから。
わたしは既に行動を決めて、いるのだから。
『ねえ、七実ちゃん……七実ちゃんは、あ、見えてきたね!』
「はい、そうですね」
『じゃ、中の探検といこうか!』
「はい、ですが」
少し足を早め掛けた所を、失礼ではありますけれど先回りさせていただいて。
踵を返して、目を、合わせます。
見る。
視る。
観る。
見ているのか、見られているのか。
真っ黒な目の底は見通すことが出来ないように深く遠く。
対するわたしの目は果たしてと、思わずには居られません。
このわたしの、
「先にお聞きします――――何でしょうか?」
底の知れた想いを見られては、いないのか。
と。
草染みた矮小なこの思いを、視られてはいないのか。
と。
禊さんに対する重いと
黒神めだかに対する重いが、願いが観られてはいないのか。
見えないように。
視えないように。
観えないように。
後ろに、なぜか震えの止まない手を隠しながら。
何でもないように首を、小さく傾げて診せて。
その様子を、反応を、行動を、仕草を、視線を、看る。
一瞬。
次の時には、
『聞いていいの?』
「っ――はい、どうぞ」
常と変わらない笑っている顔が、目と鼻の先にありました。
見ていたのに。
瞬きした僅かな間に失せた姿を追って目を動かせば背後。
数歩にも満たない、間。
『ねぇ、七実ちゃん』
手をまた隠そうとして、動きが止まる。
有ったから。
三日月のように割れた口が。
『君は………………』
満月のような二つの目が。
遭ったから。
知らず固まろうとする身体を叱咤して。
何でもないように頬に片手を当てて。
隠した手のひらに爪を立てて。
ただ、次の言葉を。
待つ。
待つ。
待つ。
やがて。
月が。
『…………』
崩れる。
『………………着物の下に下着って着けてる?』
「…………見ます?」
『マジで!
えっ、マジで!?!」
【二日目/黎明/?-?】
【
球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はやっぱメンバー集めだよね』
『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『2番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
※『大嘘憑き』に規制があります
存在、能力をなかった事には出来ない
自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
※始まりの過負荷を返してもらっています
※首輪は外れています
※
黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(0~2)、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:
球磨川禊の刀として生きる
0:禊さんと一緒に行く
1:禊さんはわたしが必ず守る
2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
3:繰想術が使えないかと思ったのですけれど、残念
4:八九寺さんの記憶が戻っていて、鬱陶しい態度を取るようであれば……
[備考]
※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
※弱さを見取れます。
※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
※
球磨川禊が気絶している間、
零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
※
黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします
※現在二人ともランドセルランドかネットカフェの前に到着しています。どちらかは後続の書き手の方にお任せします。
『ねえ七実ちゃん』
「髪、切らない?」
最終更新:2021年06月21日 02:01