おしまいの安息(最後の手段)◆xR8DbSLW.w



  ◇


 鑢七花――真庭蝙蝠に拾われたあの人物を七花とあえて呼ぶならば――彼の惨状たるや、
口にするのも憚られるほど極まっているが、しかし、しかし。改めて考えてみると奇妙な点もある。
『混沌よりも這い寄る混沌』球磨川禊と、『天災』鑢七実の複合体が奇妙でないわけがないが、
それを踏まえても――なぜ、鑢七花は眠っていた?
 刀が人を斬った代償としてはあまりにも大きい代償を負い、仕合に負けて、不貞腐れていた。
不貞寝し、腐っていたのも、間違いない事実ではあろう。
一方で、『誰の心境』が、そうさせていたのか。
これも質さなければならないことだ。
 鑢七実の性質か――いや、いや。
さながら死体が生命を得てしまったような、押したら崩れてしまいそうなほど儚げな七実ではあるが、彼女はその実、目的意識の塊だ。
かつて、『七花八裂』の脆弱性を指摘するために島から出たことも、
七花を研ぎ直すための場をわざわざ設けたことも、七実の機能性を象徴している。
今この場における刀としての彼女の行動など言わずもがなだ。
彼女が刀――道具であればこそ、己が機能、目的を果たさんとするのは必然とも言える。

 では誰だ。誰の影響か。決まっている。
『却本作り』の出自を辿れば、球磨川禊しかあり得まい。
 しかしそれこそ本来はあるはずがないのだ。
負け戦なら百戦錬磨、敗北すること一騎当千、そして、立ち上がること無二無三。
たかだか致命的な挫折ぐらいで不貞腐れるなど、矛盾と言わず何という。

「■■■、■■■■■■■■■■■■」

 かつて、あるいは未来。
『彼女』は言った。
生徒会戦挙の会長戦。『人間比べ』のその果てにて。
『彼女』は問うた。
球磨川禊の負けても這い上がる姿について、負けてなお、立ち上がる球磨川禊の『強さ』について。
『彼女』は説いた。
球磨川禊が、弱くも果てしなく強かだからこそ、『却本作り』に制されてなお、立ち上がれるのだと。
 では、鑢七花は?
彼が立ち上がれなかった理由とはなんだ?
そして、『とがめ』という新たな『拠り所』を見つけた彼が、
曲がりなりにも――刀身も刀心も折れてなお、立ち上がれた理由とはなんだ?


 ◇


 これもまた、少し前の話。

『ふわぁ……』

 夜。草木の匂いも薄く、虫の音も、鳥の声もない。
生命感の乏しい閑静な街中にあくびがこだまする。
殺し合いの最中というにはあまりにも不釣り合いなほど呑気で、かつ退屈極まる大きなあくびだった。

「お疲れになられましたか」

 虚刀流、鑢七実が振り返りざまに尋ねる。
虚弱さ薄幸さが形を成したような女に体調を心配されるとはまことに奇怪ではあるものの、
七実の容態を加味してなお、あくびの主、球磨川の気は緩んでいた。

「禊さんにも眠たくなることなんてあるのですね」
『おいおい、そもそも人は夜に寝るものだぜ』

 過負荷、球磨川禊は当然のことをさも当然のように言う。
いくら弱く、図抜けて弱く、果たして弱かったとしても、生物学上球磨川は人間だ。
人である以上、眠気を抱くというのもおかしくない。
ただそれは、おかしくないというだけだ。
球磨川が眠たいだなんて寝言をほざくのは、なんとも奇妙な話のようにも思えた。
奇矯でこそあれ、奇妙であるとは――。

「でしたら少し、お休みになりますか」

 夜の帳が下り、周囲一帯は暗い。
灯りはついていないものの、このあたりには家屋がちらほらと並んでいる。
休める場所くらいはあるだろう。
ランドセルランドまではもうまもなくであるはずだが、逆に言ってしまえば、十分に休むなら機会はこれが最後になるはずだ。

『七実ちゃんがそういうなら、ちょっと休もうか』

 別に急ぐ理由もないしね、と。
適当な民家を見繕うために、のらりくらりと歩き始めた。
そんな彼の背中をじぃと見つめ、七実は省察する。これまでと、これからを。
見て、観て、視て、診て、看る。持ち手の様子を、様態を、容態を。

 ◇


 探検と称して薄暗い家屋に突撃したわけですが、
案の定何があるわけでもなく、ちぇーと不貞腐れた禊さんは横になられました。
上等な布団に包まる禊さんの顔ときたらあまりにも安らかなものですから、
見たことないほどに満たされておりますから、張り手のひとつでもお見舞いしたくもなりますが、閑話休題。

「さて、さて、さて」

 さて、と。思考を切り替える。思考を、あるいを趣向を。
従者として、そして刀として、わたしがなにを研ぎ澄ませばいいのか、研ぎ、済ませばいいのか。
今一度整理をする必要がある。これからについての、精査を。

「よく眠っていらして」

 眠る禊さんの頬を撫でる。
七花よりも幼く、まだ張りを残した柔らかな頬からは、緊張感のかけらも感じられない。
すやすやと眠るさまはさながら子どものようだ――いや、間違いなく禊さんは子どもなのでしょう。
肉体的においても、精神的においても。
 さながら虫を潰す幼児のように、彼の中には良いも悪いもない。
無邪気な狂気とでも申しましょうか。
彼がしきりに申し開く、僕は悪くないという言葉。
なるほど、言い得て妙かもしれません。
文字通りに、悪くもなければ良くもない。
何をしたところで彼の中では、何事もなく台無しで完結してして、
自分勝手で、他人任せで、どうしようもなく、どうにもならない。
他者と価値観を共有できず、まるごとに全てをおじゃんとする、
群れを好みながらも群れに厭われる様をどうして大人と、人間と言えましょう。

「人間未満――幼きもの」

 しかし、群れに嫌われながらも、負けながらも、それでも禊さんは群れを成していたと聞きます。群れを率いていたと仰りました。
マイナス十三組、『ぬるい友情・無駄な努力・むなしい勝利』の三つのモットーを掲げた泥舟の頭に、禊さんはいたらしい。
曰く、わたしも所属しているそうなので、
伝聞のように表すのも的確ではないでしょうが、良しとしましょう。悪いとしましょう。
ともあれ、あまりにも幼く、世界が己で閉じている彼が、集団行動に向かない彼が、
それでも人を率いることが出来でいたとするならば、彼にあるのは幼さだけではなかったということでしょう。

「目的――目標。モットー」

 勝ちたい。
 常敗無敵である禊さんの悲願は、その一言に尽きる。
彼の持ちうる最大限の人間らしさであり、彼の人間性を担保するものであり、唯一にして無二の、他者と共有できる価値観だった。
だからこそ、群れることをかろうじて許された。成し遂げた。
 先刻禊さんも仰られた通り、生憎とわたしは共感できない価値観ではあります。
ただし、共有することはできましょう。
負けたいと願っていたわたしの願いは、方向性は真逆であれど、
故にわたしの願いこそ他者に理解はされないでしょうけれど、その内実は同じようなものなのですから。
隣の芝生は青いだけと指摘されれば、
返す言葉も見当たらないので返す刀で斬りつけてしまいそうなほど、口にしてしまえば存外に陳腐な願いです。
禊さんには『可能』がないから、わたしには『不可能』がないからこそ、自分にできないことをしたい――。
ええ、当たり前の思いでしょう。

「…………」

 先程、禊さんは勝ちました。黒神めだかに、念願の相手に。
詭弁であれ、奇策であれ、勝ちは勝ち。幼き混沌が掴む勝利としてはふさわしい、むなしくも誇らしい勝利を得ました。
 故に、でしょうか。
禊さんの士気が著しく低下している、ように見えるのは。
彼は大嘘吐きですから気のせいかもしれません。
念願の勝利を掴んで次なる目標を失ったというならば気の毒かもしれません。――いえ、いえ。

「それも戯言、ですか」

 誰よりも弱いからこそ、厭世の念に埋まるように浸かっていたからこそ、
誰よりも現実を省みず、現実味がなく、夢みがちで少年のような精神を持ち合わせていたはずのあなたが、
あれなる勝利で満足する道理はありますまい。
週刊少年ジャンプなる絵巻ような現実を切望していたからこそ、あの結末に絶望していたのに。
 そもそも禊さんの記憶は、他ならぬわたしが封印しているというのに、勝利の記憶も何もないだろう。

「殊の外、深く螺子が刺さっておいでで」

 だとしたら、やはり原因は黒神めだかということになるでしょう。
彼女との果たし合いを望んでいた時のあなたは、それはもう思春期のように――思春期相応にうきうきとした様子でしたのに。
わかってはいたことだ。これもまた、他ならぬわたしが言ったことですから。

「あなたは黒神めだかに縛られています」

 いや、黒神めだかの亡き今、――無き今あなたを縛るものなどないというのに。
だとしたら、もはや自縄自縛と言う他にないでしょう。
目標を、目的を、黒神めだかの打倒のみに据えてしまった、あなたの間違い。
勝てば良かったはずなのに、踏み外してしまった過ち。
唯一の人間性を失って、何をどうしたいのか。それを導くのが良いのか、悪いのか。

「いっしょにだめになる。ええ、ええ」

 想いを違えることはありませんとも。
 眠る球磨川の髪をあやすように梳く。
本当に幼児のような寝顔だ。
閉じた瞼の裏にあるのは、あの底知れない闇のような瞳なのでしょうか。
はたまた、底抜けの空虚だとでもいうのでしょうか。
今、禊さんは何を見つめているのでしょう。もはや人と決して分かり合えない、混沌の子。球磨川禊さん。


  ◇

 ×××××。×××××。

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「■■■■■■■■■■■■」

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  ◇


 四半刻も過ぎない頃。
仮眠から起こしてた後、ランドセルランドに着きました。
仮眠をとってなお眠たそうにしていたものの、まばたきをする間にはけろっとしておられます。
「眠気」をなかったことにしたのでしょう。
でしたら先のやり取りはなんだったのかということになりますが、彼の言葉にいちいち荒波を立てることもありません。

「おはようございます」
『うん、おはよう。今日も清々しい夜だね』
「良い夢は見れましたか」
『そりゃあもう、幸せな夢がいっぱいさ』
「左様で」
『さっきあんな話をしたばっかりだからかな、七実ちゃんがいろんな姿で出てきてさ。
七実ちゃんだけに七変化、なんて――おいおいそんな冷たい目で見つめてなんだよ?
可愛い可愛いギャグにいちいち目クジラ立ててたらこの世の中死にづらいぜ。
夢でもそんな目をした七実ちゃんがいたよ。あの子はナース服を着ていたかな。
弱った身体に最も近く、弱った心に寄り添う白衣の天使が、射殺さんばかりの視線を――死線を投げかけている。
そのアンバランスさと言ったら名状しがたき興奮を覚えるけれども、別段僕の被虐性が飛び抜けているというわけじゃあないぜ』
「はい」
『本来あるべき姿とのギャップ――乖離、剥離、別離。
やっぱりトキメキの原点ってそこにあるよね。
七実ちゃんはツンデレって知ってる? あれも典型的な類型さ。
一世代築いただけあって、あるいは今も連綿と続く文化なだけあって、ギャップ萌えとしてのお手本のような形とされているんだ』
「博識なことで」
『でもさあ、本来あるべき姿ってなんだよ』
「…………」
『あなたはかくあるべし、なんて一方的に決めつけておいて、
レールから外れれば「あなたも人間らしいところがあるのね」なんて安心感を覚える。
完璧な人間なんかいないんだと安堵する。
――差別的で、一方的で、侮蔑的で、醜悪さに起因する萌え、
それがギャップというものだけれど、もっとも黄金的な属性なだけに人によって定義が違うんだよね』
「よかったですね」
『とはいえ、とはいえさ、落差が萌えの基本なのは疑いようもない。
『優等生然していた子のパンツが実はいちごパンツだった』なんていうも、取っ掛かりの一つだよね。
ああっ! 夢の中にはセーラー服な七実ちゃんもいたんだぜっ!? 落差っていう意味ではこれ以上ないかもしれないね!』
「はい」
『ラブコメチックな七実ちゃんを見てたら投影しちゃったのかな。
セーラー服こそラブコメのメッカ、ラブコメこそセーラー服!
軍事力のモチーフが今となってはコメディの、日常性の象徴なんてとんだ笑い話だけど、そんな滑稽さも僕は好きでね。
僕が意地でも学ランを着ている理由も青春ラブコメがしたいからなんだぜ、知ってた?
いやあ、箱庭学園にも出会いを求めて入学したけど、まったく全然だ。
食パン咥えて走る女子がいないのなんのって。
せっかく普通科なんてものがある学校に編入したんだから
そんな普遍的なイベントに参加したかったものだけど、やっぱり僕にはだめだったよ』
「そうでしたか」
『僕の悲劇を抜きにしてもセーラー服ってブレザーにはない味があるよね。
だってブレザーってエリートって感じがするだろう?
やれやれブレザーが一般化した今でも放たれるブレザーの主張の強さにはさしもの僕でも辟易するよ。
その点セーラー服の隷属的かつ底辺的普遍性は胸をうつばかりさ』
「困りましたね」
『それで、なんでさっきの七実ちゃんはあんな楽しそうにしてたの?』
「――」
『あっ』

 省略。

『まあでもさ、ラブコメにも落差って必ずある――むしろ落差こと主眼といってもいい』
「……」
『『ビデオガール』や『宇宙人の王女』みたいな位相(リアリティ)の差も然り、
平々凡々と『グラビアの同窓生』なんていう、ありきたりな位相(カースト)の差も然り。
相手と違うからこそ見てしまう、見惚れてしまう』
「……」
『あくまでこれはプラスに生きる奴らの考え方さ。
『主人公(プラス)』と『ヒロイン』――『勝ちヒロイン(プラス)』による舞台の話。
舞台にすら上がれない僕みたいな負け犬は同族で群れるしかない、あるいは同族嫌悪で対消滅するしかない。
話は逸れちゃったけど、めくるめく七実ちゃん大変身には僕も『包丁人味平』もびっくりな実況をしてしまったほどだけれど
二話連続同じ話で紙幅を誤魔化すほど僕も優しくないぜ。だから、夢の映像は僕の胸の内に秘めるとするよ』
「そうですか」
『まったく、これが週刊少年ジャンプなら読者アンケートの集計結果を公表するとともに
七実ちゃんのあられもない絵姿を描画することができたんだけど。
第一位、第二位、第三位、エトセトラエトセトラ――
みんなの願いが、みんなの想いが、みんなの期待が、そのページに詰まっているわけだから』
「ええ」
『人気投票――人気の数値化。よくあるシステム、ありきたりなストア商法、
しかし夢を売る週刊少年ジャンプの一番根底にあるシステムが現実をまざまざと突きつけるアンケートだなんて、酷な話だと思わない?
弱肉強食、自然淘汰――なんて聞こえはいいけど、敗者は敗者のまま、
あなたの作品は不要ですという世論を持ち出されて退場するしかない。
あなたの作品が、あなたの思想が、あなたの信念が、あなたの理想が、あなたの現実が、あなたの存在が、
世の中に噛み合わず、世の中に適合せず、世の中に爪弾かれ、
世の中に疎まれ、世の中に蔑まれ、世の中に嘲笑われ、世の中に抹消され、
不要で、不毛で、不当で、不敬で、不能で、不快で、
どうにもならないほどどうでもいいと負け組レッテルを貼られるだなんて、なんとも奇縁なものだよ』
「はぁ」
『そういう意味では打ち切りリベンジに二作目を引っ提げて帰ってきた作家――
あるいは連載を細々と続けているような作品にしたって、嫌われないために努力しているんだろうね。
趣向を変え、初心に返り、社会を顧み、あまねく試行錯誤の末、結果は期待に適応することを選ぶ。
なんてたって、枠は三つもあるからね。一番じゃなくても二番でいい、二番になれずとも三番ならば。
皆様が望むのならばこのキャラを出しましょう、皆様が望むのならばこのキャラを殺しましょう、
そう、あなたの望む姿に成り代わりましょう。
夢の極地、憧れの最果てにあるのが嫌われないための努力だなんて、なんともナンセンスな話だとおもわない?』
「いえ、なんとも」
『そう、そうだぜ。世の中大半の人はどうでもいいと思っている。
だって、そんな涙ぐましい努力なんて、好かれる才能をもった作品が一瞬で掻っ攫っていくからさ。
好かれる才能と嫌われない努力――プラスとマイナス。
持つべきものが持ち、勝つべきものが勝つ必然。敗者に待ち構えるのは、だらだらとした惰性。
やれやれ、夢を見せるジャンプにしたって、夢を見せてくれないね』
「はあ、それで、なにが言いたかったのです」
『七実ちゃんのクラシカルロングのメイド服が第三位だったという話さ』

 冥土? めいど? なんだか可愛らしい響きですね。
禊さんのこういった類の話は半分ほど聞いておけばいいとして、しかし、望まれた姿――に変質する話。
先程もそういえば、そんな話をされていたような。こすぷれ――成り代わる、確かそんな話を。
気まぐれか、気休めか。それとも、なにか深層心理が訴えかけているのかしら。
 話の途切れ目。わずかな呼吸の音が、一拍分。息をしたのはわたしだったか、彼だったか。
息を呑んだのは、果たして。
間隙を縫うように、わたしは言葉を投げかける。

「ひとつ、お尋ねてしてもいいですか」
『ん? どうしたの?』
「禊さん、あなたの目的――この戦場での目的を、改めてお伺いしても、よろしいですか」

 じぃ、と。
深く、深く、深く、見て見られて、観て観られて、目が合った。
いつものように、嘘のような微笑みを湛えて。

『なんだと思う?』

 今度こそ、わたしは息を呑む。
なにかはわからないけれど。
なにかに圧倒されたような、不思議な心地で、だからわたしの胸は高まったような気がして。
 ですが次の瞬間には、禊さんはすっきりとした風に破顔しました。

『なーんて冗談冗談! 僕の目的は相変わらず、あのじいさんを串刺しにすることだよ。だって偉そうに偉くてムカつくだろ?』

 やっだなー、と。おどけた調子で笑う禊さんの顔を。
わたしはじぃと、ずっと、見つめている。
愛くるしい顔立ちの裏を見ようと、目を背けまいと、彼の瞳を認め、あなたの心が焦がれるよう見惚れていました。
 大袈裟な哄笑をやめ、おっかしーなんて嘯きながら、何気なしに禊さんは口を開きます。

『ねえ、七実ちゃん』
「なんでしょう」
『いい夢見れた?』
「……はい」

 いえ、悪い夢なのかもしれませんけれど。見つめても見惚れても、禊さんの瞳はどこまでも真っ黒でした。


  □


 それから間も無くのことです。
ごちゃごちゃとしたこの憩い場に鎮座するがらくたと遭遇しました。
がらくたの、がらくた。
おもちゃの成れの果てです。

「――人間・認識」

 きっとあれは、夢の痕跡。
刀としての感性が、そういうものだと認識する。


【二日目/黎明/E-6 ランドセルランド内】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はやっぱメンバー集めだよね』
『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『2番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします

【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(0~2)、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
   『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒に行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
 3:繰想術が使えないかと思ったのですけれど、残念
 4:八九寺さんの記憶が戻っていて、鬱陶しい態度を取るようであれば……
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします

【日和号@刀語】
[状態]足部破壊
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。内部巡回
 2:人間・認識。即刻・斬殺
[備考]
 ※下部を徹底的に破壊されたため、歩行・飛行は不可能です。上部がどうなっているか(刀の損傷・駆動可能など)は後続の書き手にお任せします



着包み/気狂い 時系列順 非通知の独解
非通知の独解 投下順 「柔いしのびとして」
着包み/気狂い 鑢七実 待ち人は来ず
着包み/気狂い 球磨川禊 待ち人は来ず
鉛色のフィクション 日和号 待ち人は来ず

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最終更新:2021年11月01日 20:09