ナツノクモ ◆CAP.3FrrY.
「………………くそッ」
式が再び意識を取り戻した時、そこにはまた男の死体があった。
全身を切り刻まれその褐色の肌を真っ赤に染めている。
誰がこんなことをしたのか、それが自分自身であることを式は理解している。記憶はないが手応えとだけははっきりと手に残っている。
「なんでこんなことが起きるッ! 私は――……」
以前より心を苛んでいた自分自身への確証のなさが膨れ上がる。
所詮、“私”などは本来の自分が休みを取る際に仮初めにと置いてゆくペルソナなのではないだろうかと。
「気分が悪い……」
式は死体に背を向けると口に手をあて、しかしナイフは握ったままその場を離れていった。
■
深夜の図書館はしかし、入る前の想像とは違い明るく、そして利用者(背景キャラ)も多かった。
髪を後ろでくくった魔法使いっぽい少年が古めかしい本を読んでいたり、棚の間で中学生が上級生に囲まれていたりする。
銀(イン)の行方を捜す黒(ヘイ)はそれら図書館の利用者に話を聞いてみるが、しかし成果は芳しくなかった。
誰も銀の姿を見てないばかりか話しかけても反応しない者も多い。所詮背景キャラと言ってしまえばそれまでだが黒は落胆の息を吐く。
「ヘイさん! こっちです!」
放射状に立ち並ぶ本棚の中心、広くなっている場所に戻ってきた黒はポチョムキンとなった番太郎の声に顔を上げた。
見れば番太郎が2階からその巨大な手を振っている。その明るい表情を見ればなにか収穫があったのだとわかる。
階段を登るのもわずらわしく、黒はワイヤーを伸ばすと本棚の天板を蹴って2階へと飛び上がった。
「いましたよ! インちゃんが!」
確かにそこにインちゃんはいた。図書館の2階、本棚の奥の薄暗いスペースにインちゃんと呼べる銀髪の少女はいた。
「すまない番太郎。この子は俺の探している銀じゃない」
「あ、そうなんですか」
そこにいたのはインはインでもインデックス(@とある魔術の禁書目録)ちゃんだった。
どうして彼女がこんなところにいるのかは謎でしかないが、ともかくとして目当ての銀ではまったくない。
銀は空気のような気配の希薄さはあっても決して空気ヒロインではない。
「次の場所に行こう」
「わかりました」
黒は再びワイヤーを使って2階から1階へと飛び降りる。軽い着地音を立てて、なんら問題なく着地した。
そしてそんな黒の後ろにドスンと大きな音を立てて番太郎が落下してくる。
ニセンイチローに師事して強靭化した身体のはずなのに体力がゴソっと減っていた――が、当人はさして気にしていないようだ。
無論、当人が気にしていない以上、他人である黒が気にしているわけもない。黒が気にしているのは銀のことだけだ。
ドールである銀は普通の人間と比べて自主性があまりにも乏しい。それこそ背景キャラのようにだ。
こんなバトルロイヤルの場であれば、発見された何者かになんの抵抗なく殺されてもおかしくない。
あるいは便利なストライカー代わりにされているかもしれないが、なんにせよ早急に保護する必要がある。
図書館を出よう。そう出入口へと足を向けようとして、黒はそこに立つ不穏な何者かに気づいた。
青い着物の上に赤いジャケットを羽織っている。女性――だが、髪の毛は整えられてなく化粧っけもない。
うつむいていて表情は見えないが、けっして楽しそうな顔をしてはいないだろうとは想像できる。
黒の手が懐のナイフに伸びる。明らかに警戒すべき相手だと身体が読み取っていた。
「そうか……先客がいたのか。悪いな」
ぽつりと零すとその女は踵を返し図書館から出て行こうとする。見送ってもよかったが、しかし黒は彼女の背中に声をかけた。
「待ってくれ。銀髪の、黒い服を着た女の子を見かけなかったか?」
女はぴたりと足を止め、頭をかしげた後、振り返ることなく答える。
「さぁ…………、少なくともオレはまだそいつを殺してはいないよ」
そうして、また歩き出す。
その背中へと黒のナイフが飛んだ――――
『デデデデザタイムオブレトビューション バトーワンデッサイダデステニー』
■
背中に投げられたナイフは空を切り、式の姿はすぐ傍の本棚の上へと移っていた。黒は仮面を被ると自信も本棚の上に飛び移る。
「どうしてオレにしかける?」
「お前は危険だ」
式は大きくため息をつくとナイフを構える。
危険だというのは同感だった。なんなら殺してくれてもいいとすら思う。しかしただで殺されるつもりはさらさらなかった。
本棚の上を駆け、仮面の男を切り結ぶ。強いというのがわかった。そして、相手が殺せる人間であることも。
「悪いな、憂さ晴らしにつきあってもらうぞ」
式は笑う。黒の表情は仮面にさえぎられていてわからない。
■
戦闘が始まってほどなく黒のパートナーであるポチョムキン化した番太郎も加わると、図書館の中は嵐の中のような戦場と化した。
ワイヤーのついた黒のナイフが幾度となく壁や天井の間を飛び交い、式のナイフが背景キャラを切り刻み、番太郎の拳が全てを破壊する。
「なんだコイツの頑丈さは?」
その目で筋肉の塊と化した相手を切り刻みながら式は呆れたように漏らす。彼が『ドM』の起源を持つ殺しづらい者だとは知らない。
背後に飛んでくるナイフの風きり音を聞くと、式は番太郎の肩を蹴って2階へと飛び移った。
「後ろに目でもついているのか……」
ワイヤーをたぐると黒は番太郎に刺さりそうになっていたナイフの軌道を再び式を追う軌道へとのせなおした。
だがそれも間一髪で避けられ、ナイフは2階の欄干に突き刺さってしまう。
幾度となくワイヤーを介して、あるいは黒自身がナイフを手に肉薄したがまだ一度も式にその刃先は届いていない。
「ああ、駄目です! そんなッ! そんな強くしないでくださいッ!」
顔を高揚で赤く染める番太郎だけはこの中で大きなダメージを追っていた。もう体力ゲージの8割が赤くなっている。
しかしまだ2割も残っていた。落下で半分減ってから式のフルコンボを8回受けてこの体力である。
■
「このポチョムキンよえー。つかくらいモーションが妙に長いんだけど、これコンボ入れ放題じゃん」
「でもやたら硬いんだよなあ。フルコンボ入れても1割いかないとかおかしいだろ」
「てか、こいつポチョムキンじゃないよね? デザインも微妙に」
「それよか黒かっけぇわぁ。やっぱ黒使う。ワイヤー使いとかΩレッド的に考えて使うしかないわ」
「式も強そうだけどあんまメルブラと変わらないんだよなぁ」
「けどこれCPU同士なんだよな? ちょっとレベル高すぎじゃね?」
「多分、北斗勢が入ってるから難易度上げてる設定じゃないかな。有名プレイヤー以外は即効で脱落してるじゃない」
「実際これだとゲームならんよなぁ。式とか前の試合即死決めてたし」
「CPUが即死とか永久とかちょっとおかしいよね」
「冷静になれよ。ちょっとじゃなくて全然おかしいよ」
「ん? ポチョムキンのようすがおかしいぞ……」
■
「くそッ!」
式に折られたナイフを捨てて黒は懐から新しいナイフを取り出す。折られるのはこれが初めてではない。手持ちのナイフはもう少なかった。
ナイフを取り出す一瞬を狙って式が再び飛び掛ってくる。黒はその下を転がってやりすごすと振り向きざまにワイヤーを放る。
だがそれも向こうからすれば読めていたのだろう。安直には突進してこず、にやりと笑うと本棚を蹴って2階へと消えてしまった。
「……………………」
黒は本棚から降りてその影の中を移動すると、司書の死体が転がっているカウンターの後ろで息を整えた。
そっとカウンターから顔を出し周囲を伺う。
燦々たる有様だ。あれだけいた背景キャラは皆巻き添えになって死んでいまい、本棚は倒れ、床には敗れた本の残骸が散乱してる。
式の姿は見えない。2階に上がってから降りてきた気配もない。
「番太郎は……?」
そういえばいつの間にかに番太郎の巨躯が巻き起こす破壊の音を聞いていない。
死んでしまったのだろうか。図書館の中をもう一度見回して、黒は図書館の隅に彼が血まみれでうずくまっているのを発見した。
片腕がもぎ落とされ、ドス黒い塊となって傍に落ちている。やはり死んでしまっていたのか。
黒の中でニセンイチローの元で彼と修行を共にした記憶が蘇る。あの少年は病弱な弟のために全てを受け、耐え切ってみせると言っていた。
それをむざむざ見殺しにしてまうことになるとは。兄弟子として、人として黒の中に苦いものが流れる。
…………どるん。
再びカウンターの後ろに姿を隠した黒の元にどこからか音が届く。なんの音だろうか、それは番太郎の声のような気もした。
…………どるん。どるん。……どるん、どるんどるん。
いや、番太郎の声だ。しかも幻聴や気のせいではない。番太郎がどるんどるんと呟いているのだ。
一体何が? 黒はカウンターから顔出して驚く。先ほどは死んでいたかのように見えた番太郎が立ち上がり歩いているのだ。
「どるんどるんどるんどるんどるんどるんどるんどるん…………」
呟いてる言葉なんだろう。なにかエンジンの音を真似ているようにも聞こえる。しかし意識があるようには見えない。
番太郎がそのまま中央のスペースに出てきた時、不意にナイフを構えた式が飛び出してきた。
番太郎の異様に気を取られていた黒は一瞬対応が遅れる。今からナイフを投げても間に合わない。このままでは番太郎が死んでしまう。
「なにッ?」
驚愕の声は襲い掛かった式からのものだった。斬りかかったナイフが甲高い音を立てて番太郎の指先で弾かれる。
式は空中にその身を維持しながら何度も繰り返し斬りかかる。だがその全ての攻撃が番太郎の指先だけの動きで弾かれた。
まるでその姿は番太郎が空中で見えない鍵盤を叩いているようだ。
何がどうしてこんなことに? 黒が疑問に思った次の瞬間、空中にいた式が番太郎の指先に突かれ、壁まで吹き飛んだ。
「どるんどるんどるんどるんどるんどるんどるんどるんどるんどるんどるんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんッッッ!!!」
なにかと化した番太郎が咆哮し、空気が振動する。
そしてその咆哮と呼応するように図書館そのものが蠕動しはじめ、床や壁に異様な魔法陣が浮かび上がった。
「なにが起きて……?」
黒にはわけがわからなかった。番太郎は修行をする前はただの我慢強い子供でしかなかったはずだ。
そして修行の内容にこんな禍々しい力を起こすようなものはなかった。
「なんだ?」
異常な現象はそれにとどまらない。
番太郎の身体がそれこそエンジンのように震え出すと、今度はこの図書館中にあった背景キャラの死体が血と肉に分解され彼に吸い込まれていくのだ。
ズルズルと耳を覆いたくなるような異音を立ててそれを全て番太郎が吸い取ると、ピタリと全ての動きが止まった。
元の静寂な――ただし破壊の後はそのままで、しかし死体だけは全て失せてしまった図書館へと戻る。
黒は動けなかった。
番太郎はどこかで契約者に目覚めたのかもしれない。もしかすれば死体を喰らうことが代償なのかもしれない。
だがなんであろうと、ここまで異様な光景ははじめてだったし、番太郎から発せられる気配はまるで致死性の毒のようだった。
「ちわーっす」
黒の背中に寒気が走る。声のほうを振り返ればさっきまで戦っていた式が立っているだけだ。
だがしかしこちらもその気配はまったく変わっていた。『 』とでも言うべきだろうか、もはや彼女が男か女なのかも判別つかない。
ただなにもかもを触れればそのまま殺してしまうような、ゼロに研ぎ澄まされた殺戮衝動のような気配だった。
番太郎が一本しかない腕を式へと向ける。その腕はいつのまにかに竜を模した大砲のような形へと変化していた。
その竜が顎を開き、閃光があふれる。
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「覚醒したポチョムキンすげぇ。こんな技ギルティじゃ見たことないぞ」
「いやそもそもポチョじゃなくね?」
「式も全一スイッチ入ったなぁ」
「さっきまで一番強そうだった黒がもはや雑魚な件」
「黒は殺意の波動とか目覚めないの?」
「目覚めても殺意リュウとか普通のリュウのほうが毎回強いよ」
「しかしまぁ……」
「これCPU戦なんだなぁ」
「闘劇の決勝みたいな試合してるけどな」
「CPUの中の人が全一だから間違ってないかもだけどな」
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番太郎の最初の一撃で黒の隠れていたカウンターごと図書館は木っ端微塵に粉砕された。
その後のことを黒はよく記憶していない。ただ必死に死ぬまいにと逃げ回り、式と番太郎を殺そうとナイフを振り回していた。
「…………………………」
そしてそのナイフももう残り1本だ。全身は傷つきもはや後一度ナイフを振るうのが限度だろう。
そんな最後のナイフを握り、瓦礫にもたれながら訪れる死を待つ身でしかない黒の前に、式の姿があった。
彼女にこれといった傷はない。ダメージは一度番太郎に指で弾かれた時のものだけだ。
あの後、『 』となった式は99カウントの激闘の末、最終的には番太郎を粉微塵にまで切り刻んでしまった。
どちらも埒外の、黒の記憶の中にはない異次元の戦闘力だった。
「だから、私に構わなきゃよかったんだ」
式の気配――意識はまた遭遇した時のものに戻っていた。今ならどうして彼女がすぐに出あった人から離れようとしたのか黒にもわかる。
「じゃあ悪かったな」
そう言って、踵を返すと式は廃墟となった街を歩いてゆく。
黒はもう間もなく死ぬ。それは最早変えようのない運命だ。だがあんなものを世に放ったままにはできない。
精神を集中し、黒は最後の力をその一投にこめる。集中して集中して集中して――式の意識の間隙を探る。
しかし、結局、立ち去る式の背中に隙はなかった。
残るは後悔だけだ。もしあの時、立ち去る式を見逃していれば運命は変わっただろう。そう、もしここにア*弦///---がいれば、ば、ば。
一瞬、黒の意識にノイズが走る。だがそのノイズが何を意味するのかそれを探る時間はもう彼にはなかった。
【樺島番太郎@百舌谷さん逆上する 死亡】
【黒@DARKER THAN BLACK‐黒の契約者‐ 死亡】
【F-06/一日目 深夜】
【両儀式@空の境界】
[状態]:体力ゲージ9割くらい
[装備]:ナイフ@空の境界、不明(あるかもしれないしないかもしれない)
[道具]:不明(あるかもしれないしないかもしれない)
[基本方針]:不明。
※
MELTY BLOOD覇者のGO1監修AIが起動しました。戦闘めっちゃ強いです。
※AI極めすぎたせいでランダムで人格含めてGO1氏そのものになっちゃいます。
最終更新:2013年01月23日 10:33