アスキーアート注意、携帯で読まれている方はアスキーアートの部分を飛ばしてお楽しみください。
説明をわかりやすくするための配慮ですので、要望があれば文章にて詳しく説明します。
ぱちゅりーちゃんが部屋の隅に置かれたピアノ、アップライトのタイプです。それに、近づきます。私たちはぼぉーっと見ていると、ぱちゅりーちゃんから手招きをされてしまいました。
やや小走りでピアノに近づくと、パチュリーちゃんはピアノの蓋を開け、鍵盤に掛かっている布を取り説明を始めます。
「今から教えることは、そうね。たとえ楽器を始めなくても、とても有効なこと。自慢して優位にも立てるし、役に立つ場面も多い。作曲なんかを志すんだったら、必須。覚えておくことね」
前置きをそこそこに、ぱちゅりーちゃんが鍵盤に手を置きます。
「手を生卵を持つようにとかどうでもいいのよ、大切なのは知識。それから、フォーム。人は、皆それを異端というけれど。
…音階、スケールと呼ばれるもの。『ドレミファソラシド』の綺麗な並び、あれが『スケール』」
「…?」
早速話が飛躍して、わからないです。ぱちゅりーちゃん…?
「難しい話ではないわ。単純に『ドレミファソラシドにする作業』と覚えてしまえばいい。試しに、ドからずっと白鍵を弾くと、綺麗な音が聞こえるわよね?」
ドレミ~…と、ぱちゅりーちゃんが音を奏でていきます。確かに、綺麗に音が響いていきました。
「なら、レからなら」
ぱちゅりーちゃんは、黒鍵が2つある場所の真ん中からドレミを弾き始めます。レ、ミ、ファと、なんだか残念な音が聞こえました。
「そんなあからさまに顔をしかめないでよ、聞いてくれてるんだなってわかって嬉しいけれど。これ、『法則』を使って綺麗な音にすることが出来るの」
ぱちゅりーちゃんが、再びレの場所からドレミを弾いて行きます。今度は、黒鍵を交えて。レ、ミ、ファ…、先ほどの残念な響きとは打って変わって、全く『ドレミの響きと一緒』の、音を一つあげた綺麗な響きが聞こえるじゃないですか!
「どう? これが、スケール。これね、きっと音楽の授業で先生から説明を受けているのだろうけれど、皆理解しようとしないで名前だけ知っているだけだと思うわ。『音階』、これは『2、2、1、2、2、2、1』の法則。この221がドレミファソラシドなのよ」
「えっと、」
「『全全半全全全半』ね。もしくは、『2こ2こ1こ2こ2こ2こ1こ』。言葉で説明も出来るけど、絶対に誤解するから。見ていて」
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│ド │ │ │ │ │ │ │ド │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「あぁ~面倒臭い!! そうよ、どうせ手抜きよ! 私には無理、なんか文句ある!?」
「落ち着いて、ぱちゅりーちゃん!」
「これでずれてたらどうしようもないわ。ともかく、鍵盤があるわね。『ド』から始まるドレミの法則」
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ │2 ││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│①│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「ずれた。ごめん」
「諦めないで、ぱちゅりーちゃん!」
「まあいいや、黒鍵の番号は上に表記するわ。ともかく、これが最初の『2』…」
2 2
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│①│①│ │ │ │ │ │ │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「2つめの『2』。2こ数えたわね?」
2 2
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│①│①│1 │ │ │ │ │ │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「3つめは『1』だから2つ『数えない』の」
2 2 2
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│①│①│1 │①│ │ │ │ │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「4つめの『2』…。この数える作業を、1の手前の6つ目まで続けて」
2 2 2 2 2
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│①│①│1 │①│①│①│ │ド │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「それぞれ2つずつ数えて、最後は『1』だから」
2 2 2 2 2
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│①│①│1 │①│①│①│1 │ド │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
「1つ数える。おわり。で、また続けるならドから『2』」
「…、ええと」
「『2』とはグループ、『1』とは単音。口で言われたり文章にされるとなんでわかりずらいかは、『実際にやれない』からなのよ。音を出して、①と1の部分だけ弾いてみて? この場合だと、綺麗に音をだせるのは当たり前だけど」
恐る恐る、震える手でドレミを弾いていきます。
ぱちゅりーちゃんみたいに指全部ではなく、人差し指で、一つ一つ。…何も代わり映えの無い、ただのドレミでした。緊張する必要性はさっぱりでした。
「そんな、不機嫌な顔しないの。今のは例だから、とびきりわかりやすいね。…これを、レの法則に当てはめる」
2
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│ド │①│①│2 │ │ │ │ド │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
↑スタート
「あんまりに面倒だから途中までやっちゃったわ。どう、気付いた? さっきの時は『黒鍵に当てはまってた2』が、『白鍵まで来ている』のよ。
すなわち、次の『1』は」
2 『①』
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│ド │①│①│2 │ │ │ │ド │ │ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
↑スタート
「ここね。わかりづらいかもしれないけど、ここ。黒鍵を使うのよ、そうすれば矛盾が無くなる」
「…!」
2 ① 2 2 『①』 (2)
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ ││││ │ ││││││ │ ││││ │
│ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ │
│ド │①│①│2 │①│①│①│2 │(1)│ │
└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
↑スタート ↑ゴール
「こうなるわね。『2つずつ音を出して、前の音。ときどき1つだけの時がある』って解釈しているわ。どう、わかりやすい?」
「…AAが変だから、なんとも」
「ああもう、本気だすわよ! 見てなさい!」
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ └ ┘└ ┘ │ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ │
│ド │ │ │ │ │ │ │ド │ │ │
└─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘
「こうして、」
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││2│ │ │① │2││2│ │ │① ││ │
│ └ ┘└ ┘ │ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ │
│ド │ ① │ ① │ 2 │ ① │ ① │①│ 2 │①│ │
└ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘
↑重要! ↑
「どうよ!」
「さっきみたいに『1』の部分が割り振りされてないからなんとも…」
「ああもう何とでもいいなさいよ! ほら、さっさと①の部分を弾いて」
ぱちゅりーちゃんは怒り気味ですが、どうしたのでしょう。ともかく、歯向かうと怖いので素直に黒鍵を交えて①の部分を弾きます。
レ、ミ、ファ…。ひ、弾けました! 『ドレミファソラシド』と、『レから始まった綺麗なドレミの並び』が、弾けました!
「…これが、『スケール』。ドレミよ、『コード』を弾く上でとても重要になる。スケールの呼び方は始まりの場所により『Cのスケール』などと呼ぶわ。日本的な言い方だと、『ハ長調』とか。『長調』もスケールと同じ意味で、ドレミよ。
様々な曲は、このスケールにより『8つの音にふるいを落とされて』形成されているの。もちろん、このスケールはどんな場所から、黒鍵からでも通用するわ。本当、『枠組み』ね」
【ついでに、ピアノ フラッシュ でググると一番上あたりにピアノのフラッシュが出てくるわ。パソコンの環境が整ってる方は、是非試してみて頂戴。
携帯の方は、こんなアスキーアート使って申し訳無いわ。私は携帯で見る人を心がけて文章を構成しているつもり、けれどこの説明はどうしてもわかりやすくしたくて。コメントで、要望があればこの部分だけスレに投下するから、べっかんこで見て頂戴】
【ぱちゅりーちゃん…?】
【…閑話休題。戻りましょう】
「なるほど…。これにより、『不協和音』というか、残念な音を防ぐのですね」
「お、物分りいいじゃない。その通り、和音とは限らなくても、『バンドの楽器の音』の残念な音を防ぐために重要。今から説明するコードなんて、まさに防ぎまくりよ? じゃあ、下記を見て」
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │1││3│ │ │2││ ││ │ │ │ │││ │
│ └ ┘└ ┘ 4│ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ │
│ド │ 2 │ ミ │ 1 │ ソ3│ │ │ │ │ │
└─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘
「この『ド、ミ、ソ』。すでに、コードよ」
「なるほど、音が重なってますもんね」
「ええ。これも、法則。一応このドミソはドの『次の音』から数えて『4、3』の区切りになっているわ、数えてみて頂戴」
「…数えました、ちゃんとあります!」
「この『次の音』っていうのが落とし穴で、私もよくだまされたわ…。まあ、これがいわゆる『メジャーコード』。覚えなくていいけどね、どうせ『スケールで変わる』のだから」
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │ ││3│ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ │
│ │1││ミ│ │ │3││ ││ │ │ │ │││ │
│ └ ┘└ ┘ │ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ │
│ド │ 2 │ 1 │ 2 │ ソ4│ │ │ │ │ │
└─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘
※ミはフラット(♭、一つ下がる)になっています!
「これ、『マイナーコード』。『真ん中が一つ下がる』って解釈でいいわ。まあ、法則は【3、4】とあるのですけれど。そんな大事じゃないからすみつきカッコ。
これら、2つを用いるわ。他にも何種類かコードはあるけど、基礎はこれ。覚えきれないだろうし、正直他のコードは『これの応用、展開』だから直接覚えなくていいわ。本格的に『ジャズ』などをやるんだったら必要だけど」
「は、はあ」
「このメジャーとマイナーコード。使い分けは、スケールよ。コードは何もつかなければ基本的にメジャーを差すわ。Dのコードは『レから始まる4、3』で『レ、ファのシャープ(♯、半音上がる方)、ラ』。
でも、スケールがC、『黒鍵がさっぱりない』状況だったら? …『スケールは絶対』、妥協して『真ん中のファ♯をただのファに下げる』。これが、マイナーコードね」
「…なるほど!」
「理解した? 『スケールにあわせる』のよ、ガツガツ和音の種類を覚える必要は無い。メジャーコードを率先して覚えて、余力があったらマイナーも。
スケールはね、既に先人がリストを作っているからググりなさい、そして照らし合わせる。メジャーコードもスケールもなるべく『直感で覚えた方がいい』わね、覚えないと満足に『ソロも出来ない』し、何より面倒じゃない?」
「なるほど、メモメモ…」
【ちなみに、英語のドレミはドから『C,D,E,F,G,A,B,C』になっています! コードのAA、ずれていてごめんね!
だから今紹介したDのコードはレから始まっていることになるんだね! 日本語も、ハニホヘトイロハ! これは覚えなくていいかな、以上咲夜メモでしたっ!】
「うわあ! びっくりした!」
「何驚いているの? それに、メモ用紙持って無いじゃない。ともかく、ざっとこの位かな。これさえ頭の片隅に入れておけば、あとは手が動くだけ。手が動けば、ライブが行える」
今人が居たような気がしたんだけど、気のせいかな。ぱちゅりーちゃんが私に優しく語り掛けてくれます。
ずっと先にあると思っていた、ライブ。案外、手の届くところにある様な気がします。
けれど、キーボードって、こんな簡単なのかな…?
「楽器はね、基本的に簡単なのよ。難しいことを要求しなければ。ベースでいう『スラッピング、スラップ』とかギターでいう『ハーモニクス』、これは簡単か。まあ、とか。
『基礎を固めること!』さなえちゃんにキーボードの楽器説明で『ケーキのデコレーション、苺の部分』って説明したけどキーボードにも『スポンジ』なる『クリーム』なる部分があるの。まずは、『スポンジから』よ!」
ぱちゅりーちゃんが拳を高らかに挙げ、熱く私たち2人を呼びかけます!
私も、なんだかやる気が出てきました…。やるぞお、キーボード…!!
さとりちゃんの様子を伺います。さとりちゃんは、目を点にして思考を放棄したみたいです。サクサクと小刻み良い音を立てながらルマンドとホワイトロリータを口に頬張っています。
戻って来て、さとりちゃん!
「…ぷはっ、何よ、なんなのよ! どーせ私はドラムだもん、ただ叩けばいいんだもんっ! ぷんっ」
「拗ねちゃったわね。いつか機嫌直るでしょう、放っておきましょう」
ぱちゅりーちゃんの手慣れた扱いに、一抹の恐怖を感じました。
「それと、練習に楽器店で触った『ペラペラな鍵盤』のものを使わない方がいいわよ、あれはあくまで『本番用』。ちゃんとハンマーが付いていて『重い』やつじゃないと指の筋力がつかないのよ、変な癖も付くだろうし。
家、近いのでしょう? よかったら家のピアノを使わせてあげるわ、指を動かせるようにする楽譜も簡単なのを用意しましょう。指をある程度。『森のくまさん』が弾ける程度になれば和音は自由に押さえられるわ」
『森のくまさん』…。さらっと言われましたけど、それって十分ピアノが弾けているのではないでしょうか。
まだまだ道のりは遠い…。
「そうでもない、大体『3日』くらいあれば弾けるわ。『1日や2日』じゃあ無理、2日目どうしても弾けなくて不貞寝して、3日目何故かスイスイ弾けるようになるだとか。
『ウィザードリィ』、わかる? 別に、たとえではないけれど。あの
ゲーム、『寝るとレベルがあがる』のよ。手も、休めるとなんか動くようになるのよね」
弦楽器だけでは無く、とことんピアノに詳しいぱちゅりーちゃん。ぱちゅりーちゃんは、本当にピアノやキーボードをやっていないのでしょうか?
「ぱちゅりーちゃん、実は鍵盤弾けるのでは無いですか? さっきのドレミも、『指全体を使って、指5本だけでは足り無そうになったら親指を駆使して』弾いていましたし」
「…むきゅ。まあ、それこそ森のくまさんくらいなら」
「やってみてくださいよ!」
意外な所に、お手本となる人がいたなんて! 是非やって貰いたいです、どんな風なのか!
「ええ、恥ずかしいわ、正直…」
…しかし、ぱちゅりーちゃんは乗り気ではありません。顔に赤みをおびらせ、照れています。…そんな格好には騙されませんよ!
さっき散々不恰好でお菓子をバリボリ食べていた人が恥じらいの何を語るのですか!
「ほら、ほら! やってください!」
「むきゅ…。わらわ、ないでね?」
ぱちゅりーちゃんが不安そうに私たちの顔色を伺います、そして弾き始めました。…あるー日、もりのっなっか~♪
「…ぷ。ふ、くすくす」
上手い、上手いのだけれど! …元々の曲の固有概念と単音だけのチープな演奏、何よりその様な演奏をぱちゅりーちゃんが弾いているというギャップが、笑いを、誘う…!
「は、はっは! あっはっはっはっは! やめて、く゛る゛し゛…!」
先ほどから空気を噴き出していたさとりちゃんがバカ笑いを始めました。堪えられない、十分に堪えたという顔つきです。
ぱちゅりーちゃんの顔色は、湯気が立つのではないかというスピードでどんどん紅潮していきます。
「だから、演奏したくなかったのよ!」
ぱちゅりーちゃんが涙目になりながら、とうとうそっぽを向いて拗ねてしまいました。拗ねる人多いですね、私たち。
ごめんごめんと後ろから声をかけて肩を叩き、ぱちゅりーちゃんを慰めます。
「…くすん、むきゅ。ともかく、あれくらいが目安ね」
「…目安、かあ」
笑ってはいたけれど。私にとっては死活問題です。
確かにチープな演奏でしたが、両腕、指ともしっかり動いていてはたから見て『ピアノが弾ける』といえるほど弾けていました。保育園の先生とか、あんな感じです。
あれを、3日で?
「…できるか、なあ」
「ふふ。難しいかもね、自分の家でゆっくり練習したいでしょ? まあ、最初は『はちぶんぶん』あたりを練習してなさい、楽譜はきっとあるからあげるわ」
「はあい」
私は意識したやる気ない返事をぱちゅりーちゃんに返します。
もちろん、ふざけてですけれど。
「全く。…応援、するわ」
「ありがとう。…ぱちゅりーちゃんは、毎日どのくらい練習しているの?」
「むきゅ。10分」
「…え?」
まさか、そんな? そんな練習時間で、あそこまで上手に?
「気が向いたときに気が向いているだけ弾いているわ。防音室だから、人目も時間も気にしなくていいの。便利ね、軽いスタジオにもなるし」
「…うーん、上手になるまでは?」
「それも、10分。気が向いた時でいいのよ、『縛られるとやる気を失う』わ。やる気を失うだなんてもってのほか、『楽器にすら触らなくなる』のですもの!」
「…そっか」
確かに、一番危惧すべき事。『飽き』、それが来たら最後、惰性でやってもどうかと思うしなあ…。
私は深くうんうんと頷き、ぱちゅりーちゃんの話を理解した事を示します。
「さとりちゃんには、本当に悪いのだけれど。ドラムについては、全くわからないの。個人スタジオには付き添うわ、だから申し訳ないのだけれど、」
「自分でやれってことね。勿論よ、私は人に教えて貰うから始めたのではないわ」
さとりちゃんも、手に拳を作り呼びかける、決意を私たちに示すように答えます。
ううん、熱い。皆が皆、それぞれの意思を持っている…。
「…もう、夕方の5時。早いわね、親の人は心配しない?」
ぱちゅりーちゃんが部屋の壁に掛けてある時計を見上げて呟きます。さとりちゃんが、喋ります。
「私は、帰るわ。妹、…。誰かしら、いるだろうから」
私とぱちゅりーちゃんと違い、家が遠いのも理由にあるのでしょう。特に引き止めず、次に私の決断が求められました。
「…もう少し、居させて欲しいな。ピアノで、練習したいです」
「むきゅ。わかったわ。それじゃあ、一旦解散しましょう、玄関まで見送るわ」
「ええ、お願い」
さとりちゃんが一足先に立ち上がり、ドアを開けて部屋の外にでます。ひょいとお盆を拾うぱちゅりーちゃん、私たちも後に続いて最後だった私は部屋のドアを閉めました。
トタトタとそこそこの音を立てて階段を降り、玄関前で『じゃあね』と挨拶をしあい、さとりちゃんがドアの鍵を開けて外にでます。
パタン、と扉が閉まる音。少しして、ぱちゅりーちゃんは鍵前まで出向き鍵を閉めました。ぱちゅりーちゃんは一旦リビングに入り、お盆を置きました。
「ふう。…さなえちゃん。あなたは、被害者だと思うわ。
…憧れと羨望は違う、羨望はいつしか嫉妬へと行き着くの」
「…ぱちゅりー、ちゃん?」
「ごめん、忘れて」
いきなり、本当にいきなり。ぱちゅりーちゃんから意味深な事を言われて、戸惑ってしまいます。
ぱちゅりーちゃんは素早く階段を駆け上がっていって、『早く、早く!』と囃し立てられてしまいました。
…羨望、いつも。ぱちゅりーちゃん、何を知って…?
「遅いわよ、さなえちゃん! 先に楽譜探して置くわ!」
「あう、待ってくださいよ、ぱちゅりーちゃん!」
…、今は、楽器だ。折角家が近く、ピアノが触れるのだから。めいっぱい、触っておこう!
駆け出すような事はせず、静かに階段を登っていく。目の前の部屋に入り、楽譜はどこだと慌てふためくぱちゅりーちゃんを横目に私も楽譜探しを手伝う事にしました。
「…もしもし、ママ? …うん、ごめんね、どうしてもママに尋ねたくて。尋ねるっていうか、お願い。
うん、えっと、お金を振り込んで欲しいんだ。ピアノとキーボード、それと電子ドラム買うから…。うん、うん、50万くらいあれば足りるかなあ。わからないけど、お願い。いつもの通帳でいいよ、ママも面倒だろうし。
キーボード、始めるんだ。学園の友達で、誘われて。嬉しかったよ、度々ママに相談してたけど、もうその必要も無さそうだよ…。
…いいや。自分の力というか、自分たちの取り巻きでやりたい。また一人でに上手くなったとかで、疎遠になったら嫌だもん。教師は、つけなくていいよ。
…大丈夫だよ、さなえだってママの子なんだから。絶対に、成功してみせる。うん、連絡する。じゃあね、仕事、…早く終わったらいいね」
東風谷さなえのロックバンド!
NEXT,To Be Continued!
- この質と量、読みやすさ。 -- 名無しさん (2009-05-04 11:01:30)
- こりゃあわかりやすい説明だわ
AAをこうやって使う表現方法もあるんだね -- 名無しさん (2009-05-04 13:10:44)
- 今日は更新しないのかな?期待しています -- 名無しさん (2009-05-05 04:05:39)
最終更新:2009年05月05日 04:05