ゆっくらいだーディケイネ 第7話

『ゆっくらいだーディケイネ』



これまでのゆっくらいだーディケイネは!

それはさておき、主題歌が完成しました。

「ゆゆーゆゆーゆーゆー♪ゆゆーゆゆーゆーゆゆーゆゆー♪ゆーゆーゆゆーゆー♪」
「ゆゆーゆゆーゆーゆー♪ゆゆーゆゆーゆゆゆゆーゆゆー♪ゆーゆーゆゆーゆゆー♪」


「まさかとは思うけど、『ゆ』だけで一曲歌いきるつもりじゃあないでしょうね?」
「「ゆぐふっ!」」
(図星か…)



第7話 真贋



「ここのあたりで竹林というと、ここぐらいしかありませんね」

めぐに案内され、紅里、れいむ、まりさは竹林の前までやってきた。
『迷いの竹林』などという大それた名前はついていないようだが、結構広いと思われるその竹林は
「迂闊に足を踏み入れてみろ、全員迷子にさせてやるぞ」と言わんばかりの雰囲気が漂っている。

「それで、これからどうするんです?中に何かあるんですか?」

めぐが当然の疑問を投げかける。彼女からしてみれば月が歪んだ現象とこの不気味な竹林の関係など
わかろうはずもない。

「たぶんこの中に永遠亭…とかなんとかいう名前の屋敷みたいなものがあるんだと思うから、そこに行くのよ」
「なんだか確信があるのかないのかわからない口ぶりですね…それで、それはいったい竹林のどこに…」
「…あっ」

紅里が間抜けな声をあげる。そういえば、白玉楼?の時は案内板があったが紅魔館?の時はなかった。
竹林がある、ならそこだと思ってとりあえず来てみたものの少々勇み足だったかもしれない。

「どうやらお困りのようね!」
「誰!?」

竹林の中から声がした。声の主の気配が次第に近づいてくるのがわかる。
その正体は…

「れいむだよ!」
「紛らわしいわ!」

いつのまにか竹林に入っていたれいむだった。

「まりさもいるよ!」
「そうね。それでれいむ、あんた何か知ってんの?」

続いて出てきたまりさを軽くあしらって、何か知っていそうなれいむに尋ねる。
相手が相手だけに情報の信憑性は疑われるが、それでもまぁ何も無いよりはマシだ。

「ゆふふ…おねえさんがのんきにでょろでょろ歩いてる間にれいむ達は情報収集していたんだよ」
「のんきで悪かったわね。あと私はそんな不気味な足音鳴らして歩いてない」
「捜査の基本は足なんだぜ!」
「あんたら足ないでしょうが」
「あのー、話が進まないんですが…」



「じゅー、じゅーいち、じゅーに」
「じゅーさん、じゅーし」
「さっきからなに数えてんの?」

「ついてきてね!」とだけ言われた私達はそれに従い、先行するれいむとまりさの後ろを歩いている。
いい加減、何を知っているのか教えてもらいたいところだ。

「竹だぜ!じゅーご、じゅーろく」
「じゅーなな、ここだよ!」

れいむとまりさが「17」の所で立ち止まった。

「17本目の竹を左に曲がったところにあるんだよ!」
「ふーん…」

その言葉に従い、私達は全員左に曲がる。

「誰に聞いたの?」
「うさぎさんだよ!」

今度は、私の足が止まった。永夜抄の世界、竹林、親切に情報提供してくれるうさぎ。
まさか…

「ゆっ?どうしたの?」
「…そのうさぎさぁ、もしかして、耳がぺたんって前に垂れてて、ウェーブかかった黒髪で、なんかにやにや笑ってなかった?」
「すごいぜおねえさん。その通りなんだぜ」
「…じゃあ多分、こっちよ」

私はくるりと後ろを向いた。こっちという確証は無いが、少なくともこのまま進んでも目的地には辿り着けないだろう。

「おねえさん、なに言ってるの?」
「まりさ達の情報が信じられないの?」
「情報というか、情報提供者というか…たぶんあんたら、だまされてるわ」
「そうなんですか?」
「そんなわけないのぜ!人を疑うのはよくないんだぜ!」
「人じゃないじゃない」
「こうなったら…」
「「麻雀で勝負だよ!」」
「何故そーなる。私もあんたらも作者もルール知らないでしょうが」
(まーじゃん?)



-しばらくお待ちください-



「じゃあ、そういうことで」

だまされてる、だまされてないの言い合いにいい加減飽きた私達は二手に分かれることにした。
私とめぐが右ルート。
れいむとまりさが左ルート。

「人のことを信じられないおねえさんは、この竹林の竹の、竹の、えーっと…たけのこ!」
「最後まで考えてから言いなさい」
「ほえ面かくがいいんだぜ!賞品のおこめ券はまりさたちがいただくんだぜ!」
「そんな約束しましたっけ…」

ぷんすかと怒りながら、れいむとまりさは左ルートに消えていった。

「よかったんですか?行かせちゃって」

未だに事態を飲み込めていなさそうなめぐが尋ねてきた。

「とは言ってもここで問答しててもどーにもなんないしね…まぁ、あいつらならたとい宇宙空間に放り出されても
平気な顔してるだろうし、何かあっても大丈夫でしょ」
「うちゅ…?」

めぐが少し困ったような顔をする。ああそうか、宇宙とかそういうのは知られてないのか。

「とにかく、あいつらなら大丈夫。ほっときゃ何事もなかったかのように戻ってくるわよ」
「…」

きっぱりと言い切ると、めぐの視線が困惑から何か妙なものに変わった。なんかくすぐったい。

「…何よ?」
「信頼、されてらっしゃるんですね」

ふふっ、と微笑みながらそう言っためぐに対し、私は思いっ切り噴き出した。



程なくして、私達は竹林の中にひっそりと建つ屋敷へと到着した。

「本当に着いた…」
「…『永遠T』って書いてある」

洒落を利かせたつもりだろうか。スベっているわけだが。

「とりあえず、入りましょうか」

門の中に入ると…

「ゆっくり立ち止まってね!」

やはり、ここでも門番チックなのが出てきた。声のした方を振り向くと、物置の上にゆっくりが一人いる。
紅魔館?の門番とは違い本物のウサ耳が生えている、いわゆるイナバという奴だろう。

「お屋敷の平和をゆっくり守るイナバ一号、参上!」
「あー………ん?『一号』?」

その名に疑問を投じた時、別のイナバが出てきた。

「イナバ二号、参上!」
「あの、私達は…」
「イナバ三号、参上!」
「イナバ四号、参上!」

わらわら出てきた。

「イナバ五号、参上!」
「イナバ六号、参上!」
(中略)
「イナバ百七十七号、参上!」
「イナバ百七十八号、参上!」
「「「「「我ら…」」」」」
「………」
「すー…すー…」
「「「「「ゆっくり起きてね!」」」」」
「おわっ」
「ふぇっ!?あっ…すみません!長かったもので、つい…」

四十くらいまでいった時、めぐが力尽きて寝入ってしまった。
私も七十いくらかまでは耐えたのだが、そのへんからうとうとしだして記憶が途切れ途切れになっている。
改めてみるとまぁ…凄い数だ。物置の上にゆっくりが178人…

「…その物置、大丈夫なの?なんかミシミシいってるけど」
「「「「「さすがイナバ!100人のっても大丈…ゆわああああああああ!」」」」」

『100人のっても大丈夫』だと思われる物置は、178人の重量の前にあえなく轟沈した。
…全滅、でいいのかな。これって。

「…行きましょうか」
「………はい」

労せず番人を突破できた私達は、永遠Tの中に踏み込んだ。



「…それで、何の御用かしら?」

永遠Tの中をうろうろしていると、『耳がぺたんって前に垂れてて、ウェーブかかった黒髪で、なんかにやにや笑ってる』イナバが
いたので実に平和的な交渉を行い、ここのトップ…かぐやとえーりんに接触する事に成功した。
やたら広い和室にかぐやとえーりん、私とめぐが向かい合って座っている。

「はい…あの月を元に戻して欲しいのです。月が歪められた事により妖怪たちは困惑し、人間に危害を加えるようになっています。
なにか事情がおありでしたら私達も協力しますので、どうか…」

最初かぐやを見たとき、自分の変身するグウヤそっくりなのに驚いていためぐだが、今はもう平静になっている。
それほどこの月の異常に関して真剣なのだろう。『人間に危害』って言ってもまぁ…アレなんだけど。

「つまり、こういう事ね…『月が歪められた事で妖怪たちが困惑し、人間に危害を加えるようになっている。
事情があるなら自分達も手伝うから月を元に戻して欲しい』と…」
「姫、それそのまんまです」
「わかってるわよ!…とにかく、月は戻せないわ。私がゆっくりできなくなるもの」
「そんな…なんとかならないんですか!?」
「…あのさー」

盛り上がっている所に釘を刺すようで気が引けたが…こちらには情報がある。ここで使わない手はないだろう。

「もし『月からの刺客が来ないように月との道を閉ざしてる』とかだったらそれ多分、意味ないわよ。ここら一帯は結界で覆われてるから、
ンな事しなくても刺客なんか来ないわ」
「「えっ?」」

かぐやとえーりんが顔を見合わせる。やっぱ、動機も原作通りか。

(ちょっ…えーりんどういうことよ?あなたが言ったんでしょう『月から刺客とかマジパネェ』って!)
(いや、でも結界なんてほら思ってもいませんでしたし…)
(どーすんのよ!私達めっちょかっこ悪いじゃない!せっかく月隠したっていうのに『全然意味なかった』って!)
(姫、ここはひとまず…)

二人は部屋の隅のほうに移ってひそひそ話をしていたが、まとまったようだ。元の位置に戻ってきた。

「…何を言っているのかしら。愚かでアレな地上のアレのアレすることなんて信用できないわ」
「…ひょっとして、意地張ってる?」
「はってない。だんじて。とにかく月は戻せないわ。とっとと帰ってね!」
「出来ません!せめて理由を!」

理由って言っても…どう見ても意地っ張りです。
どうしたものかと考えていると、必死で訴えるめぐに突然、えーりんが弾を撃ってきた。

「なっ!?」

おそらく威嚇だったのだろう。弾はめぐの足元の畳に当たり、煙をあげる。

「申したはずです。月は戻せないと。あまりしつこいようだとこういった手段をとらざるを得ませんが?」
「…面子守るためとはいえ、ちょっとやりすぎじゃない?」

部屋の空気が重くなる。もはや衝突は不可避だろう。
月の件を諦めるというなら話は別だが。

「わかってないようね。上に立つものとして、面子がどれだけの意味をもつか」
「わかりたくもないわね。上に立つと、器がちっちゃくなるなんて事は」
「やるしか…ないんですね…」

めぐが枝を取り出した。覚悟を決めたようだ。

「えーりん、相手は二人。私も手伝おうか?」
「いいえ姫、それには及びません。どうぞゆっくりなさってください。実はこんな事もあろうかと…」

戦列に加わろうとするかぐやをえーりんが制する。そして、私達が入ってきたのとは別の襖が開いた。
そこにいたのは…


「うっどんっげちゃぁ~ん♪…うどんげちゃんはぁ、おねえさんの事好き?
おねえさんはぁ~…うどんげちゃんのこと、だぁ~い好きだよぉ~♪」
「ケラ…………ケラ…………」

虚ろな目で乾いた笑いを口から漏らすうどんげと。
そのうどんげを抱き、鼻血を垂らし、恍惚の表情で頭をゆっくり優しくなでている伝子だった。この人こわい。
数秒遅れて襖が開いたのに気づいたのか、顔をゆっくりと上げてこちらを見た。

「あ~…かぐやちゃんにえーりんちゃんだぁ~…二人とも、おねえさんと一緒にぃ、ゆっくりしようよぉ~♪」
「なに言ってるの!ちゃんとしてね!」
「えぇ~…?」

ぽやーっとした顔で、ゆっくりと頭を動かし…ようやく私達を認識したらしい。
抱えていたうどんげをそっと傍らに置き(あ、逃げた。気持ち悪かったんだなきっと)、ユルみきった顔を引き締めて
こちらに指をさした。

「しばらくぶりね!紅里!」
「鼻血をふけ」
「…お知り合い、なんですか?」
「残念ながらね。あいつは森定でんこ、見ての通り変態よ」
「つたこよ、つ・た・こ!それに誰が変態よ!人よりちょっぴりゆっくりが好きで好きでたまらないだけよ!」

あいつの世界の「ちょっぴり」は私の知っているそれとだいぶ違うらしい。今度聞いてみ…いややめておこう。
伝子は鼻血を拭き、改めてこちらに向き直った。

「さて…状況を見るに、あなたは姫と敵対してるって事でいいのかしら」
「そうね。状況を見るに、あなたはかぐやに懐柔されたって事でいいのかしら」
「待ってください!」

私と伝子の間に流れる険悪なムードを切り裂いて、めぐが間に割り込んできた。

「伝子さん、あなたは紅里さんのお知り合いなんでしょう!?それに今、月の異常のせいで多くの妖怪や人間が困っています!
私達が戦う理由なんて無いはずです!」
「無駄よ。あのゆっくりジャンキーがゆっくりと敵対なんてできるはずないわ」
「そうね。ゆっくり相手に戦うなんて、考えただけでも恐ろしいわ」
「そんな…!本当に裏切ったんですか!?」
「裏切るも何も、私は元よりすべてのゆっくりの味方よ!」

そういうと、伝子は外に飛び出した。表でやりあうつもりらしい。

「めぐ、あの変態は私がなんとかするわ。こっち頼める?」
「…はい」

とはいええーりんの力は未知数、それにかぐやもいる…早々に伝子との決着をつけて、こちらに加勢する必要があるだろう。
短期決戦を決意し、私も外へと駆けて行った。



永遠Tの庭、歪められた月明かりの下で私と伝子は対峙している。

「ゆっくらいだー同士の戦い…こんなに早く来るなんてね」
「あんたがかぐやサイドについたからでしょうが」

私達は同時にメダルを取り出し、ロケットを開いた。

「私の強さに最初から最後まで釣られてみる?答えは聞いてないわ!」
「混ざってるわよ」
「「変身!」」
『『ユックライドゥ!』』
『ディケイネ!』『ディ・エーーイキ!』

変身後、先に動いたのはディエイキだった。

「先手を打たせてもらうわよ!」

2枚のメダルを取り出し、ロケットに挿入する。

『ユックライドゥ!れいむ!』
『ユックライドゥ!まりさ!』
「なっ!?」

ディエイキが呼び出したのは、黒髪に赤いリボン、金髪に黒いとんがり帽子のよく見知ったゆっくり…

「ふっ、仲間と同じ姿のこの二人、あなたに撃てるかしら?」

ディケイネは長年一緒に暮らしてきたゆっくりれいむを撃てるのか!?
ディケイネは一緒に旅をする仲間であるゆっくりまりさを撃てるのか!?
ディケイネの脳裏に、二人との思い出が浮かび上がる…


『おにいさんおかえり!ゆっくりしていってね!!!』
『ただいま…それと、前々から言おうと思ってたんだけど私は男じゃないわよ』
『ゆっ!?そうなの!?』
『そのうち気づくかなーと思って放っておいたんだけど…ダメだったか。たまに間違われるしね。
ほら、ブラジャーだってしてるわよ』
『見栄で?』
『おい』

『ちょっとまりさ!あんた私のケーキ食べたでしょ!』
『ゆっ!?知らないぜ!ケーキなんか食べてないんだぜ!』
『…言い方が悪かったわ。あんた、私のケーキの『イチゴとクリーム』食べたでしょ!なんで綺麗にスポンジだけ残してるのよ!』
『まりさは大変なものを盗んでいったんだぜ!』
『待ちなさい!』

『おねえさん、そういえばおねえさんはどうして胸のことになるとすぐ怒るの?』
『………あんたがそれを聞く?あのねえ………私も最初はコンプレックスなんてなかったわよ。
でもあんたらがさも欠点であるかのように言い続けたおかげで気になってしょうがなくなっちゃったんでしょうが!』


『スペルライドゥ!野符「将門クライシス」!』

撃てる!
撃てるのだ!

「マサカード・クライシィス!」

しかもけっこうノリノリで!
ディエイキの呼び出したれいむとまりさは、弾幕の中に消えていった…

「ありがとう、なんかスッキリしたわ」

口を開けて呆然としていたディエイキが、我に返って次のメダルを取り出す。

『スペルライドゥ!罪符「彷徨える大罪」』
「なんて事するの!この鬼!悪魔!」
「うるさい閻魔」
『スペルライドゥ!終符「幻想天皇」』



「あっちは派手にやってるわね」

一方こちらは室内。対峙するのはめぐとえーりん。かぐやは後ろに控えている。

「もう一度聞きます。どうしても、月を元には…」
「くどいわ」

質問の回答は、それが終わる前に4文字でぴしゃりと返された。

「そうですか…ならば!」

めぐは蓬莱の玉の枝を取り出し、虚空を真横に斬るように振り払い、頭上に掲げ叫んだ。

「変身!」

枝から発せられた光に包まれ、ゆっくらいだーグウヤへと変身する。
その姿を見たえーりんは驚いた…が、すぐにその表情は怒りへと変わった。

「なんてこと…愚かな地上の人間ごときが、姫と同じ姿になるなんて…」

だがそれに構わず、グウヤは攻撃を開始する。

「行きます!龍の頸の玉!」

五色の弾、そしてレーザーが無数に出現し、時間差で次々とえーりんに襲い掛かる。
しかしえーりんが少し動いただけで一発も命中する事は無かった。

「ならば!火鼠の皮衣!」

炎の弾をバラまき、散らすもえーりんは難なくそれらをかわしていく。

「やはり、愚かね…その姿は姫の模倣。その技も姫の模倣。私は姫の事ならなんでも知っている。
美しさも、知性も、技も…」

えーりんの反撃が始まる。発せられた弾がそれぞれ不規則な軌道を描き、グウヤに襲い掛かった。

「くっ…仏の御石の鉢!」

グウヤは仏の御石の鉢を出してその弾を受け止める。

「そして…その弱点も」
「!」

突如としてグウヤの真下の床が光る。下から来る。だが、鉢は周囲の弾を捌くのに手一杯で、下に回す余裕はない。
回そうものなら今度は周囲を飛び交う弾にあたってしまう。

「あああああッ!」

なす術なく、下からの攻撃をモロにくらったグウヤは鉢ごと吹っ飛ばされた。



「めぐ!」
「甘いわよ!」

悲鳴に反応してめぐの方を振り向いたせいで反応が遅れた。ディエイキの放った弾の直撃を受け、
私はグウヤの傍らに吹っ飛ばされた。

「ぐっ!」
「ううっ…」

私もグウヤも、ダメージにより変身が解除される。
庭からディエイキ、室内からはえーりんと、その後ろのかぐやがゆっくりと近づいてくる。

「どう?少しはわかった?力の差が。わかったのならさっさと帰ってね!」
「『偽者』のゆっくりであるあなた達が、『本物』の、それも月のゆっくりに敵うわけないじゃない!」

かぐやとえーりんが容赦のない言葉を浴びせてくる。その言葉にまず反応したのは、私ではなくめぐの方だった。

「はぁっ…はぁっ…『本物』…?」
「そうよ!あなた達のような姿を変えてゆっくりになる『偽者』と違って私と姫は『本物』、ナチュラルボーンゆっくりなのよ!」
「はぁっ…確かに…」

傷ついた身体に鞭打って、めぐが立ち上がる。その手に蓬莱の玉の枝を握り締めて。

「確かに…私達は、道具を使って変身する…人間です…。…本物のゆっくりとは、言えないかもしれません…」
「『かも』じゃないわよ!なに言って」
「しかしッ!」

キッ!とかぐやとえーりんを睨む。その視線に二人は思わずすくんだ。

「ゆっくり達の言う『ゆっくりしていってね』という言葉は、他の誰かに…相手にゆっくりしてもらいたいという気持ちを意味する言葉。
決して自分達が、自分達さえゆっくりできればそれでいいという意味ではありません。
月を歪め、妖怪を人間をゆっくりできなくしているあなた方に…果たして『本物』を名乗る資格がありますか!?」
「なっ…」
「姫に向かって、なんと無礼な!」

狼狽するかぐやとえーりん。そして、もう一人…



「『本物』の…ゆっくり…」

ディエイキもまた、揺れていた。
自分はゆっくりが好きだ。愛していると言ってもいい。それこそ、人間を敵に回してでも守りたいほどに。
しかし、自分はゆっくりの何が好きなのだろう。いったい何が『ゆっくり』なのだろう。
見た目だけ、ゆっくりの姿かたちをしていればそれでいいのだろうか?
確かにそれも重要だ。しかし、それでは完全ではない。
自分がゆっくりを好きな理由の一つ、それはまさにさっきあの少女が言った「他者をゆっくりさせようという気持ち」もあるのではないか。
相手の都合なんか一切考えず、ただゆっくりさせようとする…そんな身勝手で、図々しくて、そして…優しい存在。
そういうところにも自分は惹かれたはずだ。
しかし、ならば、このかぐやとえーりんは…



「ちょっと、なにしてるの!?やる気あるの!?」

えーりんが怒鳴った先を見ると、伝子が変身を解除していた。

「ごめんなさい…私…なんだかわからなくなって…」
「もういいわ!ゆっくりどっか行ってね!」
「えーりん、私も手伝うわ。早くとどめを!」

ディエイキが抜けて、かぐやが入った。私はふーっと一息吐いて、めぐの隣に立ち上がった。

「紅里さん…」
「やれやれ…ホントはさっきみたいなカッコいい事言うのは私の役目なんだけどね。
まあいいわ…いけるわね」
「はい!」

めぐは蓬莱の玉の枝をかかげ、紅里はメダルを取り出しロケットを開く。

「「変身!」」
『ユックライドゥ!ディケイネ!』

二人は再び変身した。同時に、ディケイネのポシェットから3枚のメダルが飛び出す。

「随分と好き勝手言ってくれたわね…でも、今度はこっちがキメるわよ!」
『ファイナルフォームライドゥ!ググググウヤ!』
「えっ?わわっ!」
「何!?」

グウヤの身体が変形する。その姿は巨大な一本の蓬莱の玉の枝。

「何かするつもり…?させないわ!えーりん!」
「はい!」

かぐやとえーりん、二人が放った無数の弾丸が発射される。

『ラストスペルライドゥ!ググググウヤ!』

ディケイネはラストスペルを発動させ、蓬莱の玉の枝で床を叩く。すると、床から次々に『何か』が生えてきた。
かぐや達の放った弾は突如としてそそり立った『何か』に遮られ、ディケイネ達に到達する前に霧散していく。

「これは!?」

左右から迂回するコースをとっていた弾も、次々と生えてくる『何か』にぶつかり次々と消滅していく。
床から生えてきた『何か』…それは樹だった。蓬莱の玉の枝をいっぱいにつけた、蓬莱の樹だった。

「高密度弾幕を展開する『蓬莱の樹海』はッ!」
『既にあなたたちの周り半径六丈六尺!』

そう…蓬莱の樹がそそり立つ蓬莱の樹海、それはかぐやとえーりんを中心に半径20メートルにまで及んでいた。もはや脱出は不可能。

「え、えーりん!助けてえーりん!」
「こんな…!『偽者』が、こんな…」

スペルが最終フェイズに移り、蓬莱の樹が一斉に輝いた。
聳え立つ木々より発せられる弾幕の大洪水。
その名は

「 蓬 莱 の 樹 海 」

「「「うわああああああああああ!!!」」」

かぐやとえーりんは、その奔流の中に飲み込まれた…





その夜、妖と人の頭上に月が昇った。歪でない、元通りの月だ。

「おー、戻った戻った」
「これで一安心ですね」

紅里とめぐは、永遠Tの縁側からそれを確認した。
そしてその後ろには…

「これでいいんでしょ!後は煮るなり焼くなり好きにしたらいいわ!」
「天ぷらにしてもおいしいわよ!」

ボロボロのかぐやとえーりん。ここまで完膚なきまでに打ちのめされてはもう面子も何も無い。
敗者の運命は勝者に委ねられるものだ。

「…」
「「ひっ!」」

めぐがゆっくりと歩き出す。二人の身体がビクッと震えた。
そしてめぐは…両手で二人の頬を撫でた。

「…なに言ってるんですか?」
「「えっ?」」
「はぁ…あんたらまだわかってないの?」

その続きを語るように、めぐはゆっくりと言葉をつむいだ。

「私達も…『偽者』でも一応、ゆっくりですからね。他者をゆっくりさせたいという思いは持っています。
そしてそれは、あなた達も対象になってるんですよ?」
「許して…くれるの?」
「はい。一緒に、ゆっくりしましょう」

そしてめぐは、二人をゆっくり抱きしめた。

「…しょうがないわね!そこまで言うんだったらゆっくりさせてあげてもいいわよ!」
「態度でかいわね…」
「それはまあ、姫ですからね」

強くはあるが、めぐはまだ幼い。これから先、この世界で一人では立ち向かえない危機に陥るかもしれない。
だがそれを心配する必要はなさそうだ。彼女にはこの日、月からやってきた頼もしい味方が出来たのだから。



「たっだいまー」

紅里は永遠Tで一夜を過ごした後、えーりんから傷の治療を受けてその日のうちに自宅に戻った。
が、れいむとまりさの姿は無かった。もしやまだ迷子になっているのだろうか。

(流石に、探しに行った方がいいかな)

そう考えているとタイミングよく玄関から音がした。

「「ゆっくり帰ったよ!」」

なんだ、やっぱり心配なかったんじゃないかと玄関まで出迎えに行くと…

「…何があったの?」

二人は大量の花束と、何かいいにおいのする包みを持っていた。

「あのあと大変だったんだぜ!竹林を抜けたら、なんかライブ会場みたいなところに出て…」
「それに飛び入りゲストとして参加してきたんだよ!」

左ルートってそうなってたんだ。良かった行かなくて。

「ライブって、何やったの?」
「もちろん歌ったよ!」
「何を?」
「ゆゆーゆゆーゆーゆー♪」
「冒頭のアレ!?」

まさかアレが伏線になっていたとは考えもしなかったろう。今思いついたことだし。

「ところで、これは?」
「お土産だよ!」

包みを開ける…中身は鰻の蒲焼だった。

「おー、いいわね。それじゃあご飯にしようか」
「その鰻の使い方、Yesだね!」

私達は部屋に入り、夕食の準備を始めた。
時刻はもう夕暮れ時、なんやかんやで昨夜はあんまり寝てないし、今日はご飯食べたら早いとこ寝てしまおう。
次の世界がどんなところかはわからないけど、とりあえず…


治ってるといいな、生活リズム。


-つづく-



[ おまけ ]

き ょ う の で ん こ


ゆっくりを、裏切った。
かぐやとえーりんを、裏切った。
敵対こそしなかったものの、一方的に協力関係を打ち切ってしまった。

(これで…良かったのよね…)

勝手に戦線を抜けてしまった後ろめたさはあるが、逆にそれを除けば伝子の心は不思議と晴れ渡っていた。

(見た目に捕われてゆっくりの本質を見失うなんて…私もまだまだね)

『私が一番、ゆっくりを上手く愛すことができるんだ!』と思っていたが、ゆっくりとしての本質を見失っていた事に気づけなかった。

(そう、まだまだ…ゆっくりすととしての修行が足らないわ…)

なんだそれは。

(あ、そうだ。それはさておき帰る前にうどんげちゃんに挨拶しとかなきゃ)

そう思い立ち、伝子は縁側にあがり…室内はなんだか盛り上がっているようなので迂回するような形で
うどんげの去っていった方へと向かった。しかし廊下をすたすた歩いていると、突然…

「わっ!?」

床から何かが生えてきた。

「えっ?ちょっと、なになに?」

見回すと、周囲は次々と生えてきたそれに囲まれていた。見たところ樹のようだが…

「これって確か、あの子の持ってた…」

そーっと樹に手を伸ばす…と、樹がまばゆく輝き始めた。

「へ?」

そして、そこから発せられる弾幕の海へと…

「ちょっ!待っ…」

飲み込まれていった。

「「「うわああああああああああ!!!」」」  ← かぐや & えーりん & でんこ

[ おまけおしまい ]



書いた人:えーきさまはヤマカワイイ

この作品はフィクションです。ゆえに実在する人物だのなんだのとは一切関係ないんじゃないかと思います。

NEXT>>>第8話 月の都(脚本→→かに氏)

  • <撃てる!
    <撃てるのだ!

    ワロタw ここのシーンのテンポよすぎw -- 名無しさん (2009-07-05 23:12:14)
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最終更新:2009年08月11日 18:46