【リレー小説企画】ゆっくらいだーディケイネ 第17話-2


 歌を歌ってから何分くらい経っただろうか。歩いていくうちに森の様子が少し変わっていることに気付いた。
木々の密度が薄くなって太陽の光が今までより強く降り注いでいる。
「………声がどんどん大きくなってきた。そろそろよ」
 数十メートル先に開けた場所が見える。そしてとうとう私たちはその声の主の姿をお目にすることが出来た。
「~~~~全然バラバラ~~二つの世界~はぐれてく~♪」
「アイツが……蜂妖怪……ね」
 女性のような体格だが身長は目算170㎝以上ある。背中には大きな昆虫の羽が六枚。
身長に似合わず子供っぽい顔つきで髪型はポニーテイル。私と被っている。
そして1番目を引くのが下半身。足が生えてること意外は殆ど蜂そのもので尻の先にある針も鋭利に尖っている。
 蜂妖怪は私たちの存在に気付かず、羽を常に動かしながらノリノリで歌い続けている。
羽の音が少々喧しいがそれのおかげでこちらの声は聞こえてないようだ。
「…………あんた達は隠れてなさい、それじゃ行くわよ」
「「がんばっていってね!!!」」
「よし、と」
「ちょっと待ってね!!!」
 と、後ろの方から突然声をかけられ私は本能的に振り向きペンダントに手をかける。
敵に後ろを取られたかと思ったが後ろにいたのはあの昨日会ったゆっくりりぐるだった。
「…………なんだ、りぐるか……昨日はありがとね」
「…………………………………その」
「…………もしかしてあなた稗榎さんちのりぐる?稗榎さん心配してたわよ」
「…………」
 りぐるは口を強張らせてあまり私の質問に答えない。
でもそれはただ言葉を押し込めてるだけのように見える。冷やかしに来たわけではなさそうだ。
「これからしゅつじんだよ!!野次馬はゆっくりかえってね!!」
「ひさしぶりのまじたたかいになりそうだぜ!!」
「………………………………………………」
「何か言いたいのならちゃんと言いなさい」
「………………………………………………………………………………いかないで」
 何度も何度も押し殺してようやく放った言葉がそれだった。
私を心配しているのだろうか。けど負けられないのだ。あのゆっくり達のために。
「大丈夫よ。あのレイチェルやゼットンにだって勝ったんだから。だからあの村で待ってなさい。ここは危険よ」
「………………………アイツは………アイツはつよいよ!!だれもかてないんだよ!!はりにさされたらびょうきになっちゃうよ!!
 りぐるはだれもまきこみたくないよ!!!だからもうこないで!!!」
「…………………あなたはあの人達を助けたくないの?」
「たすけたいよ!!でも………………つよいんだよ、あいつは」
「はいはい、それじゃまりさたちといっしょにゆっくりしようぜ!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
 まりさ達はその煮えきれないりぐるの様子に痺れを切らし、ふたりでりぐるを抱え私から遠ざけた。
過度な心配をされるとこちらの心労に繋がる、けれど二人に連れられていくりぐるは悲しそうに泣いていた。
「…………………いくわよ」
 しかし躊躇う暇はない。私は一歩づつ、一歩づつ踏み出して蜂の領域とも言えそうな草原に足を踏み入れる。
そして歌い続けている蜂妖怪を見上げる。相手も私の事に気付いたようで歌うのを止めた。
「………………なに?あんた」
 きょとんと目を丸くして蜂妖怪は私を見つめる。それはもう変な物でも見たかのように。
そんな目で見つめられて少し調子が狂うが気を取り直して蜂妖怪を睨みつけながらその質問に答える。
「ただの正義の味方よ」
「……………………あぁ、なるほど。自己紹介が遅れたね、あたしは微聞 可燐(びーぶーんかーれーん)。あんたは?」
「そのフリガナの間違いはともかく、私の名前は床次紅里、そして」
 私はネックレスのロケットを開き、ポシェットから一枚メダルを取り出す。
『変身!!』
 お決まりのようにロケットにメダルをはめ込み蓋を閉じる。
『ユックライドゥ!ディケイネ!』
 多数の一頭身のシルエットが私に重なり光が放たれる。
そして光の中から一つのゆっくり像が現れた。
「ゆっくらいだーディケイネよ」
 いつものように、そしていつもより気合いを入れて私は変身した。
可燐はそんな私を見てにやにや笑っている。このギャップを笑っているのか。もう慣れたわ!!!
「はは、おもしれーじゃん。ゆっくらいだー。それであたしと戦うの?それとも逃げ帰る?」
「一つ聞くわ、どうしてあの村のゆっくり達を襲う?」
「質問を質問で、と言いたいところだけど……あたしも理由を誰かに言いたかったし、言うよ」
 可燐は空を飛びながら手を頬に当てている。余裕が十分ありそうだ。
「そう言う星回り、簡単に言うなれば…………運命…………いや、シナリオって所だね」
「し、な、り、お……………?」
「そう、悪意ある………ね」
 ふつ、ふつ、と私の脳の中で怒りと呼べる感情がこみ上げてくる。
その悪意のシナリオをたてたのはお前じゃないのか、と。それを運命とか星回りという言葉ではぐらかそうという根性も激しく気に入らない。
ウィノスもレイチェルも悪だったがここまで激しく怒りを覚えるような敵では無かったはずだ。
 私は感情を抑えつけながら周囲に使い魔を六体配置する。通常弾幕用意。
「私はあんたを許さない」
「あっそ、それじゃ弾幕ごっこだね。よぉい、どん」
 その言葉を皮切りに使い魔から大量の弾幕を発射する。しかし如何せん速度が足りず、可燐はいとも簡単に全弾躱していく。
余計に怒りが吹き出しそうになり使い魔も震え、より多くの弾丸を発射していった。
「はっ遅いよ、遅い遅い、ゆっくりしすぎじゃないの?」
 可燐はわざと弾幕密度の濃い所を余裕を持ってくぐり抜けていく。それが余計に私の癪に障った。
「このっ!!!!!!!!!」
「それじゃこっちもいくぜ!!『軍団「レギオンインセクト」』!!!!!!!!」
 スペルカードを宣誓すると共に可燐の周りに大量の蜂が発生し、それら全てが私に向かって突撃してくる。
針はこっちに向いていないがかなりの速度だ。余裕が持てない。
「………同族を弾幕にするなんてね……つまり」
 私はディケイネのポシェットから一枚のメダルを取り出す。それは最強の証。
『ユックライドゥ!チルノ!!』
 可憐は私がチルノに変身したことに驚いているようだがいっこうに弾幕を緩める気配はない。
だが余裕なのもそこまで。私は蜂の波をくぐり抜けながらスペルを発動させる。
『スペルライドゥ!凍符「パーフェクトフリーズ」!!』
 縦横無尽に色とりどりの弾幕が放たれていくがその弾幕自体はあまりにも無作為で簡単に避けられてしまう。
しかし目的は弾幕そのものではない。弾幕が空間に散らばった後、辺り一面の空気が冷え始め弾幕も凍り出す。
 余裕の表情ばっかみせていた可燐であったが徐々に空気の違和感に気付き始めたようだ。
「!!!!」
「今気付いたわね。弾幕が虫だというのなら寒さに弱いはずよ」
 思惑通り蜂たちの動きは遅くなり、結果蜂の殆どは地面に落ちていった。
私はその隙を狙い可憐に狙いを付ける。
「いくわよ!!!名誉挽回!汚名返上!!」
『スペルライドゥ!氷符「アイシクルフォール!-easy-」!!!』
 この距離なら眼前安置に飛び込む暇もないだろう。寒さで身動きが取れなくなった可燐に氷の刃を避ける術はなかった。
「!!!!このっ!!!」
 腕を振るって抵抗するも無数の氷は可燐に命中し、その衝撃で氷の刃は霧散していった。
「……………………絶対、当たったはずよ。何が最凶最悪だか………」
「はん。そんなフラグたてられるとやりがいが無いじゃない」
 ………………………何故だ?
霧の中から余裕たっぷりの声が聞こえる。馬鹿な、完全に当たったはず。その上弱点のはずでしょう!?
 その疑問は霧が晴れることによって至極簡単に解消されることになった。
「……………なによ、それ」
 可燐の周りに六角形が集まったようなバリアが形成されている。そのバリアの中で可燐は意地悪そうに笑っていた。
「ぼ、ボムバリア……………………」
「その通りだよ。何?最凶最悪なんだから当然だろ?」
 いや確かに六面ボスの最後のスペルやエキストラボスにはボムバリアは不可欠だけどさ……………
レイチェルだってそんなの張ってなかったのにここに来てそれは酷だ。通常攻撃がスペカな私にどうしろっつうのよ!!
「でもあたしのスペカ破られちゃったな、それじゃ次行くよ」
 可燐はボムバリアを自分の手で吹き飛ばし六角形の弾幕を放ってきた。
その六角形の弾幕は私を囲むように展開される。そしてそれら全てが私に向かってジリジリ迫ってきた。
「密符『ネストヘキサゴン』」
「この!!!!」
 うだうだしている間にも弾幕と弾幕のスキマが次第に狭まってきている。
私は本来のディケイネに戻り新しく十個の使い魔を展開しながらスキマをくぐり、弾幕を放った。
「ははっ何か面白くなってきたな!!でもまだ2枚目だぜ!」
「うるさいっ!!!」
 使い魔から放たれる弾幕は辺り一面にとにかく広がっていくがそれもまた躱されていく。
そうしている間に可燐はまた新しく私の周りに六角形の弾幕を展開させた。
「スキマばっかね!このまま近づいて一気に撃ち落とすわよ!」
 再びスキマをくぐり抜けて私はどんどん可燐に近づいていく。六角形のスキマが閉じられると同時にまた新しい弾幕が放たれるようだ。
しかしこんなのEASYレベル。グレイズする価値すらありゃしない。
「っ!」
 とうとう使い魔の弾幕の一部が可燐の胴体にかすった。そのまま私は途絶えずに弾幕を張り続ける。
「流石に不味いっ!」
 可燐は先ほどまで私がいたところへと大きく移動する。
この使い魔の弾幕は後ろにも放つことが出来るのが利点だが私は振り返りしっかりと狙いを定める。
しかし、そこで私はとんでもない思い違いをしていたのに気付いた。
 先ほど可燐が放った弾幕が今も残っている。いや、どんどん配置を換えながらまた弾幕同士の密度を濃くしていってるではないか。
 やばい、このまま長引かせるとこの弾幕がこの空間を完全に覆ってしまう。そうしたら逃げ場なんて無い。
「くらえええ!!!」
 焦りからか最大出力で使い魔から弾幕を発射しようとしたがその使い魔も弾幕に挟まれ次々と爆ぜていく。
次第に私の存在するスペースすら取れなくなってきた。
「六角形は円に敷き詰めると一番スキマが少なくできるんだってなぁ、で、そのお味は?」
「最低ねっ!!」
 怒鳴るのは良くなかった。その感情の昂ぶりが冷静さと精密さを失わせ、私はとうとう弾幕同士に挟まれてしまった。
「ぎゃあああああ!!!」
「…………………けっ。」
『スペルライドゥ!始符「エフェメラリティ137」!!』
「!!」
 スペルカードでダメージを与えるなんて思ってはいない。目的は防御のためだ。
私はありったけの使い魔を放ちそれによって放たれる弾幕によって可燐の弾幕を次々に破壊していった。
 その結果可憐に続く道が開ける。私はその道を通り一直線に可燐に向かっていった。
「一気に決める!!」
 苦難の末ようやく私は可燐の目前まで辿り着いた。そこで弾幕を放てば無事では済まないだろう。
相手のスペルカードの性質上自分の目の前に弾幕を出せないのは既に理解している!!!
「うわっ来んなぁ!!!!!!!!!!!!」
 その一言を持って可燐は私を殴った。殴った………殴った………………………
殴りやがったァァァァァァァコイツ!!!!!!!
「だああああああああああ!!!」
 私の体は見事に吹き飛び近くの木に当たるまで勢いは全く止まらなかった。
頬が腫れているのを感じる。しかしそれすらも些細に感じるほど体全体に痛みが走っていった。
「あ、が…………」
「殴らないとでも思ったか?了見が狭いぜ」
 呼吸が乱れ、動く事すら敵わない。一撃でこの有様だ。最凶最悪という言葉もあながち間違いじゃないように思える。
だけど『最強』ではない。一歩も手が出せないわけではないのだ。
「なに?まだかかってくるの?もう止めなって」
「…………舐めたこと言うんじゃないわよ…………ここで……倒れたら………」
「………………あんた、何のために戦ってるの?」
 ふと私の呼吸が止まる。口を閉じて吐き出されることがない息はそのまま喉を通りすぎていった。
 何のために?そんなのとうの前から分かってる。私は正義の味方、そしてゆっくらいだーディケイネであるから。
そして当たり前のようだがそれだけじゃない。私は可燐がゆっくりを苦しめたことに激しく怒っている。血が煮えた切るくらい。
「罪のないゆっくりを傷つける…………それは『邪悪』ってもんよ………………許されるべきじゃない」
「………はは、確かに。もうあたしは『邪悪』かもしれない。どうしようもなくね」
 半ば自嘲気味に笑う可燐。そして服のポケットから1枚のスペルカードを取り出した。
「でもさ、あんたの『正義』はあたしに勝てる?あんたの『信念』はあたしを貫ける?」
「……………早く来なさいよ」
「統符『クイーン・B・B』」
 羽の音が森中に響き渡るほどけたたましい音を立てる。
耳に響く、耳に残る。私の聴覚は完全に可燐に支配されてる。まるで直接脳が揺さぶられているかのように意識はだんだん朦朧としていった。
「う、うう……………」
 挫けるな、諦めるな。まだ相手の攻撃すら始まっていない。
だが聴覚の異常に影響されたのか視覚さえも変化が現れた。
視界がぶれる。可燐の姿にピントが合わない。
「………無理すんなって……もう体ボロボロじゃん」
「うるさいうるさい!!ぐううう」
 可燐の言うとおり確かに私の体はもうズタボロかもしれない。でも絶対に諦めることはしない。
諦めなければ絶対に勝利の糸口は見えてくるはずだから。
だが視界はそんな私の意思に背くかのようにぼんやりとしていく。ぶれにぶれて可燐の姿が五人に見えるほどだ。
…………………いや、本当に『五人』いる………
「「「「「幻術の類………じゃないわよ」じゃないですよ」ではないぞ」じゃないよ」じゃないのよ」
 いつの間にか可燐は五人に分裂していた。単なる分身ではない。真ん中にいる可燐だけは他の四人と少し違って服や体が赤みがかっている。
「圧倒的な力の差、貴方に思い知らせてあげるわ」
 さっきまでの可燐とは口調が違うがあの赤い奴が本体だ。わかりやすすぎる。
しかしそんな看破も全く意味がないことに気付くのはほんの数秒後だった。
「はあああ!!!!!!!」
 いつの間にか他の四人の可燐が私の上部に移動していた。可燐たちはその位置から広角に弾幕を放っていく。
四方向からの一斉射撃。とにかく私は反射的に転がって四人から距離を取った。
「くああっ!!」
 しかしそれで全部避けられたわけじゃない。五発ほど体に喰らいその衝撃で私の体は飛ばされた。
「いい加減負けを認めたらどうなのだ?このまま帰れば無事で済むんだぞ?」「これは貴方の戦いじゃないのよ」「全く無様ね」
「あなたが傷を負う必要は無いと思うんですが………」「そんな無理してると……こわれちゃう」
「ええい!!やかましい!!」
 5.1サラウンドのように(0.1は羽音)話しかけてくる可燐たち。情けをかけているように聞こえるが思惑が分からない。
私は再び使い魔を展開して辺り一面に弾幕を発射する。牽制もあるが狙いは本体だ。本体の方向に弾が行くように使い魔の配置を変更する。
「まだこんな力を残してたんだね………」
「全員墜とす!!」
 この弾幕は見た目の割りにスキマが多いがこうして集中すれば密度が濃くなる。
周りなんて気にしなくて良い。本体さえ倒せればこいつ等も動きも止まるだろう。
「…………………浅はか」
「いっけえええええええええ!!!!」
 弾幕は一斉に展開される。分身体に向けた弾幕はいとも簡単に避けられるがそんな事はどうでも良い。
「この弾幕の雨!かわせる!?」
「………………………」
 だが可燐(赤)は微動さえしない。空中で足を組んで静かな表情を浮かべている。
そして右手の人差し指を突き出し、迫り来る弾幕を待ち望むかのように静かに目を瞑った。
「…………………………知らない?青は安全、黄色は警告、そして赤は」
「!!!!!!」
 可燐が大きく指を動かすと弾幕はいとも簡単に私の元へと戻ってきた。否、跳ね返ってきた。
しかし弾幕の密度は相当濃い。指一本で全ての弾幕が跳ね返せるわけがなく何発かは指の防衛線を抜けていった。
「………………危険、渡るべからず。青なんて期待するんじゃないわよ」

 弾幕が可燐(赤)の体に命中していく。しかし驚くべき事に逆に弾幕の方が消滅していった。
無数の弾幕が可燐を襲うが表情を一切変えていない。きっと痛みさえないのだろう。
私にとっては指で弾幕を弾いたことよりも衝撃的だった。
「…………………あ、か……………」
「一人で戦っているのが敗因じゃない、心の絆がないのが敗因じゃない、私が強いのが敗因じゃない、そして貴方は弱くない」
 呆然としたその一瞬だった。分身体の一人が私の体を蹴り上げる。
体が宙に浮く。そして四人の分身体から放たれたであろう弾幕が私の体を悉く嬲っていった。
「が、あああああああ!!!」
 地面に落ちることさえも許されない。わたしはバレーのボールのようにとにかく打ち上げられていくのみであった。
「………………間違えないで、この物語のヒーローは貴方じゃない」
「……………ま、け、る、も、の、か………」
「…………………………………」
「あんたには!!絶対!!!負けない!!!」
『ラストスペルライドゥ!ディディディディケイネ!』
                「 日 出 づ る 国 の 天 子 」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 最後の力を振り絞って放った私の最後のスペルカード。放射状に放たれる無数のレーザーと弾幕が可燐たちを襲っていった。
その殆どは各々が展開しているボムバリアによって防がれるがそれも限界というものがある。
「くっ、く、くああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 とうとうレーザーがボムバリアを破り弾幕は修復の隙を与えず分身体の一人に命中する。
一つ当たれば二つ、三つ、四つと連鎖するかのように命中していき、とうとう一人の分身体が空気に溶けるように消えていった。
「回避行動を取りなさい!!」
「そ、そんなむりで…………」
 容赦なく辺りを薙ぎ払っていくレーザーに分身体のボムバリアはもう紙同然。
次から次へと分身体たちのボムバリアが破壊されていき、弾幕が追撃をかける。
40秒経つ頃には可燐の分身体も残り二人となってしまった。
「……………まだ………終わっちゃ…………いないッッッッ!!!」
「往生際が悪いッッ!!!」
「撃ち落とすわよっ!!」
 可燐も負けじと三方向からの弾幕を放つがディケイネの圧倒的弾幕の前にそれはもう無意味となっていた。
このまま撃ち続ければ倒すことも出来るだろう。しかし、ディケイネに時間制限までやる体力はもう残っていなかった。
「せめ、て……………」
 レーザーが残った分身体を薙ぎ払う。
もう体力切れしてもおかしくないのに弾幕とレーザーの勢いは衰える様子を見せない。
最後まで諦めず、己の意志を持って戦う。それがディケイネ、それが床次紅里という女性だ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
「このおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
 とうとう最後の分身体が消滅し、残るは本体ただ一人となった。
だが本体のボムバリアはそう簡単に破壊されない。亀裂こそ入ってるが弾幕が入れるほどのスキマはなかった。
「こんなところで負けっかよぉぉぉ!!」
「堕ちろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 そして レーザーが途切れ、あれだけ辺りを埋め尽くしていた弾幕も 止んだ。


「………………………………」
 最終弾幕は終わった。今、この戦場に立っている者はいない。
床次紅里は変身が解除され満身創痍で地に伏している。
可燐は宙を飛んでいた。その身体に、傷は、一つもない。
「…………………くっ………」
 床次紅里は負けた。
「…………………………よくやったよ、あんたはさ。逃げんならとっとと逃げな」
「…………く、な、めんじゃないわよ…………」
 もう動けそうもない傷なのに、紅里はその腕で立とうとしている。
しかしその時可燐から発射された針が手の真横に撃たれて紅里はバランスを崩してしまった。
「まだ立ち上がってくんなら、あたしはあんたをとにかくぶちのめす。それでも逃げない?」
「……………………………逃げ、ない」
「……………毒符『ヘルニードルカノン』」
 可燐の尻の針が紅里に向けられた。
そして一発の針を紅里の真横に撃った。弾幕なんて呼べる物じゃないし避けようとすれば避けられる速さだ。
ただ、紅里は動けなかった。
「…………………………は、針を、私に、向けるな」
 それは幼き頃のトラウマ。蜂に刺され熱にうなされた幼き日。恐怖が紅里の心を支配していく。
もう紅里の戦意は完全に喪失してしまった。だが可燐はもう絶対逃がさないと心に誓っている。
「次は、当てる」
「ひっ………」
 最初から、最後まで可燐は「逃げろ」と言っていた。それを無視したのは、私だ。
いや、その前からもりぐるが泣きながら言っていたではないか。でも私は全てにおいて遅かった。
何を間違えた?何が足らなかった?頼るべきゆっくり?頼りなくともしっかりした年下?それともあのでんこ?
 これが孤独な戦い、か。
「発射」
 可憐の針は何の慈悲もなく発射された。一寸もぶらさず、狙いは私だ。

「おねーさん!!!!!あぶないよ!!!!」
 だが針が紅里に到達するその前にれいむが私の前に飛び出た。
私は孤独じゃなかった。でも!!でも!!!!
「れいむ!!!あなた!!」
「にぎゃっっっっ!!!」
 針が、蜂の針がれいむの頬を貫いた。それはもう容赦なく突き刺さり、口の中を貫通している。
「ゆ、ゆぅ……」
 そしてれいむの体はぽてんと地面に落ちていく。
れいむは弱々しくも嬉しそうな笑顔を私に向けた。
「れいむ!!なんで!どうして!!」
「れいむだって……………おねーさんの役に……………立ちたいよ」
「れいむぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 木陰に隠れていたまりさもれいむの元へと近寄る。
まりさが悲しみの涙を見せるのはもしかしたらこれが初めてかもしれない。
「………おねーさん………ありがとね。一緒に暮らしてくれて………」
「ばかなことをぉ!!いつも通りの馬鹿なことをしてればよかったのに!!」
「うわあああああああああああああああああん!!!れいむぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「……………ゆっくりするよ…………」
 そしてれいむは安らかに、ゆっくりした顔で、その瞳を閉じた。
涙が、涙が、涙が。涙が割れた眼鏡に溜まり、一つの水晶を創った。
             私はあらん限りの叫びを、森中に響かせた。








 と、ここでネタばらし。
さきほどまでまりさが隠れていた木陰からなんと今紅里の目の前で倒れているはずのれいむが。
これには紅里も可燐もびっくり。
 そしてまりさは先ほどまで泣いていたのが嘘のような笑顔を浮かべる。
目の前で倒れているれいむから針を抜き取り髪に付いていたシールを剥がした。
「ゆっくりひとつになるよ!」
 シールが剥がれると木陰に隠れていたれいむと倒れていたれいむが互いに引き寄せ合い空中で一つとなった。
その際顔に亀裂が入ったがそんなのはすぐに治ってしまった。
 ご覧下さい。何事もなかったかのような綺麗な顔をしているでしょう!これぞ楽園の巫女の大魔術!
「「びっくりしていってね!!!」」
 いつもの立ち位置でいつもとちょっと違った掛け声をしてまりさは髪の中からプレートを取り出す。
『ドッキリ大成功!!!』
…………………………………………………………………………………………………
「………………………なに?何が起こったの?」
「うふふのふ、びっくりしてるぜ、作戦大成功だぜ!!」
「命がけだったよ!!」
 …………………………………………………………………………………………………
涙返せ。
「あんたらぁ………………本気で心配したじゃない!!!」
「馬鹿なおねーさんだぜ。まりさ達ゆっくりがあんな針如きで死ぬと思ったの?馬鹿なの?」
「………………………くっ!」
 カノッサ並の屈辱だ。言い返す言葉もない。
……………と言うかさっきまでの地の文は一体誰が喋ってたんだ!?
「……………………」
 可燐も目を丸くして口をぽっかり開けている。莫迦みたいな表情だ。
「ゆっふっふ!おねーさんが苦戦しているようだかられいむ達も、ゲホッ手を貸すよ!」
「全く!おねーさんはまりさ達がいないと不甲斐ないぜ!!」
「おねーゲホッさんゲホッも、れいゲホッ……をみ、みなら………」
 ?様子がおかしい。よく見るとれいむの顔が少し紅潮してきている。
「ひぃ、ひぃ!!あついよ!からだがあついよ!!!」
「れいむ、まさか」
「……………………………最初から逃げれば良かったのに」
 最悪一歩前の事態だ。れいむが蜂の毒に冒された!!!!!!!!
いくら致命傷を回避したと言っても刺されたという事に変わりはないのだ。
「あついよ!ゆっくりできないよ!!!」
「……………………と、とにかく速く治療を!」
 と、私はれいむを抱えて村に戻ろうと思ったが可燐の針が私の足元を抉る。
「逃がすか。逃げねー逃げねーって言ってたんだから覚悟しろ!」
「こ、この!!!」
 手がまた震え始めた。針の照準はまだ私に向いている。蜂の恐怖はまだ私の心を支配しているのだ。
「ヘルスピアーーーッ!!」
「もうやめてよ!!!」
 発射されようとしたその寸前、あのゆっくりりぐるが私と可燐の間に入ってきた。
「いやだよ!これ以上人を巻き込みたくないよ!!」
「………………………りぐる」
 体全身震えているがりぐるは涙を堪えながら私を守っているかのように立っている。
可燐は地面に降りてそのりぐると視線を合わせた。
「…………………殺されないから、来たってわけ?バカ。
 確かにあたしにはあんたを『殺せない』。けど病毒に冒すくらいのことは出来るんだぜ?」
「う、う、ううううううううううううううううううううう」
「全てお前のせいだ。お前が未熟なせいだ。お前のせいで私は。けど」
             私を倒すのはお前なんだよ。旅人を頼るな
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああんん!!!」
 りぐるは恐怖に耐えきれず涙を振りまきながら森の奥へと逃げ帰ってしまった。
可燐はそんなりぐるを一瞥して辺りを見回す。
あの三人の姿がない。りぐると向き合ったときに逃げられた、か。
 可燐は再び空に舞う。だが今度は歌う気になれなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー続く。


  • どうやって倒すんだこいつ……
    最近は変化球気味の相手とばかり戦っていたから、
    剛速球型の純粋に強い相手をどう倒すのか楽しみ -- 名無しさん (2009-09-26 13:20:43)
  • シールのスタンド使いかよれいむw
    むしろシールを剥がさないで分身と
    同化しなかったら毒が効かなかったんじゃないか? -- 名無しさん (2009-09-26 15:40:53)
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最終更新:2009年11月08日 00:05