【リレー小説企画】ゆっくらいだーディケイネ 最終話-3


目覚めたときに見た光景は、いつものそれとは大分違っていた。

「あ、隊長。起きられましたか」

横からよく知る声が聞こえる。視線を向けると、そこには椅子に座った自分の副官がいた。
そのまま視線を動かして周囲を観察する。どうやらここは病院のようだ。自分の身体にはあちこち包帯やギプスが付けられ、
副官も自分ほどではないが怪我をしているらしい。
どうしてこんなことになったのか、思い出してみようとするがどうも記憶が混乱している。

「…なぁ、一体何があった?どうして私やお前はこんな怪我を…」

副官は鞄から資料を取り出し、それを渡しながら説明を始めた。

「我々は大規模演習中、原因不明の爆発事故…現時点では、武器の何かが誤作動したものと推測されていますが、それに巻き込まれ
その大部分が負傷した状態にあります。幸か不幸か、回復が見込めない程の重傷者および死者は発生していません。
また、おそらくその時の衝撃の影響で一部の記憶に混乱が見られるようです」
「…そうか」

渡された資料をぱらぱらとめくりながら、隊長はその報告にうそ臭さを感じていた。記憶は曖昧ではあったが、たしかかなりの…
大規模攻略戦レベルの部隊で行動していたはずだ。その大部分が武器の誤作動で負傷?そんな馬鹿なことがあるものか。

「………」

しかし隊長は、資料を閲覧し終わるとそれを黙って副官へと返した。記憶と違っているのなら否定もできようが、その記憶自体が
かなり断片的になっている。しかもその断片的な記憶でさえ…

(得体の知れない一頭身の何かに変身して得体の知れない一頭身の何かと戦っていた…妙な夢を見るようになったものだ)

現実味の無い夢として片付けられ、その脳裏から捨て去られた。あるいは何かに、記憶=歴史を食われるように。
何にせよ、覚えていないものを考えるだけ無駄だと隊長は割り切る事にした。

「なおこの事故の原因の調査と負傷者の治療のため、演習に参加していた者全員に最短一週間の休暇が与えられた事を
併せて報告します。休暇の期間については怪我の状態を考慮して追って報せが来るそうです」

返された資料を鞄にしまいながら副官は言った。
休暇。
そんななんでもない言葉が、何故だかとても暖かに感じ、心にしみこんだ。

「…そうだな。久しぶりに…」

そして、この言葉も。

「ゆっくりするか…」



あの演習の事故があった日の夕方。

「おい、大丈夫かー?登れる?」
「んー。もうちょっと待ってー」

同じ世界のどこかの山中。数人の子供たちが遊んでいる。
本当ならこの時間にこんな事をしている暇は無い。塾に行って勉強するか、運動能力を上げるためにトレーニングをするかの
スケジュールが隙間無く入っているのだが、何故だかそれらの大部分が白紙になった。理由はよくわからない。よくわからないが、
なんだか凄く楽しいのでまあいいかと思うことにした。

「うわっ!おいみんな、ちょっと来てみ!」
「どーしたー?」

その中の一人がみんなを集める。何かを見つけたようだ。

「…なんだこれ」

そこにいたのは、人のような顔をした、しかしこれが『人の顔だ』と言い切ってしまうと全人類に対して失礼な気がする何やらよくわからない
一頭身の生き物…らしきもの。
全く知らないものに相対したとき、人は恐怖を感じたりする事もあるが、こいつ相手にそれは無理な相談だった。ツラが間抜けすぎる。

「なに?お前なに?」

子供たちはそいつをつついたり、撫でたり、ぺたぺたと触ってみたりしながら問いかける。人みたいな顔だから、言葉が通じるかもと
思ってのことか。あるいは単に疑問を口にしただけか。
それに応えたのかどうかはわからないが、そいつは子供たちに向かって一言叫んだ。

「ゆっくりしていってね!!!」

後にこいつは、世の中に現れる『ゆっくり』という生き物(のようなもの)の起源となる存在なのではないかという説から、
『誕生』を意味する言葉を名づけられ、こう呼ばれる事になる。
ゆっくり・バース(Yukkuri - Birth)と。





―――5/17 PM5:43

『ざんねん!まりさのぼうけんは これで ゆっくりしてしまった!』

目が覚めたとき、紅里がまず目にしたのはその画面だった。

「んっ…うぅーーーーー…」

身体を起こし、大きく伸びをする。視線を後ろに回すと毛布でくるまって寝ているれいむとまりさの姿があった。

(…ここは私の部屋、日付はあの日のまま、時間は…前時計見たのが確か11時前だったっけ…)

寝起きのぼーっとした頭で思い出す。
…夢、だったのだろうか。今までのあのヘンテコな旅は。まぁ確かに、ゆっくりに変身だとか、違う世界を渡り歩くだとか、
ゆっくりできない世界を壊すだとか…随分と荒唐無稽な話だ。今目の前にある光景は、7時間ほど前と時間以外は全く変わらない
自分の部屋。それらの現実が、あれは夢だったと語りかけてきている。

(けど、夢にしては随分とリアルだったわね…記憶もはっきりしてるし。うーん…)

腕を組んで考える。れいむとまりさが起きた時に聞けばはっきりするのだろうが、下手にこんな事を話したら「ゆふっ」と馬鹿にしたような
顔で笑われる可能性がある。どうしたものか…というか、お腹すいたな…などと考えていると。

『すいませーん、お届け物でーす!』

玄関の方から声が響いた。もちろんゆっくり達のものではない。奴らはまだ寝ている。
お届け物?この間通販で買った本はもう届いたし、実家から何か送ってくるとも聞いてないし…何だろう。
全く心当たりがない。でも何故か、とても良いものが届いたような、そんな気がした。そう、たとえば…

「…ふるさと小包とか、ね」

紅里はそう呟くと、テーブルの上にネックレスとポシェットを置いて、玄関まで歩いていった…











ゆっくりしていってね!!! 創作発表スレ(旧可愛がるスレ)1周年企画 『ゆっくらいだーディケイネ』

<元ネタ>
仮面ライダーディケイド
東方Project
ほか多数

<企画>
えーきさまはヤマカワイイ

<制作>
1~7・23・24話:えーきさまはヤマカワイイ
8・9・14・19・20話:かに
10・11・16話:sumigi
12・13・22話:かぐもこジャスティスの人
15・15.5話:601(仮)
17・18・24(※)話:鬱なす(仮)の人
21話:とりあえずパフェ

※一部シーンのチェック・訂正

<全然関係ないけど偉い人>
四季映姫・ヤマザナドゥ

<挿絵>
むの人
など

<主題歌>
もっちり

<かわいい>
四季映姫・ヤマザナドゥ

<Wiki編集>
いろんな人たち

<スペシャルサンクス>
ゆっくりしていってね!!! 創作発表スレのみんな

<大好きです>
四季映姫・ヤマザナドゥ

(敬称略)























君は人間?妖怪?それともゆっくり?
もしも君が、ゆっくりできなくなった時…

「今度は何よ。めんどくさいわね…」

作務衣を着た、ポニーテールの胸が小さ…もとい素敵なお姉さんが…

「おねえさん!もっとやる気だしてね!」
「そうだぜ!早く終わらしておやつ食べるんだぜ!まりさが全部!」

ゆっくりれいむ、ゆっくりまりさと共に現れたのなら。
そいつは『世界の破壊者』だ。
そいつはきっと…

「私も食べるわよ!独り占めしようとするな!ったく…まぁとにかく、ぱぱっとキメちゃいましょ」

…『ゆっくりできない世界』を壊して、君をゆっくりさせてくれるだろう。

「変身!」
『ユックライドゥ!ディケイネ!』

-Thank you for Yukkuring!See you next journey…-



書いた人:えーきさまはヤマカワイイ

この作品はフィクションです。ゆえに実在する人物だのなんだのとは一切関係ないんじゃないかと思います。
だけど…。




















[ おまけ ]

き ょ う の で ん こ


「すー…………はー……………」

自室のベッドの上で、伝子は大きく深呼吸をした。
元の世界に戻ってきた。
それはつまり、旅が終わったという事。
旅が終わったという事は…

「ッッッ~~~~~~~~」

枕を抱きかかえ、ベッドの上でごろごろと転げまわる。

(ついに…ねんがんの…!)

アイスソーd

(ゆっくりぬいぐるみが手に入るのね…!)

自分の部屋に自分だけのゆっくりぬいぐるみが手に入る。想像するだけで鼻血がぷぺっと噴き出した。んでティシュで拭いた。

(届いたらまず何をしようかしら…なでなでする?むにむにする?すりすりする?
ぎゅって抱きしめちゃう?それとも、ちゅ、っちゅちゅ、ちゅー…)

そこまで想像したところで、顔を真っ赤にして枕に顔をうずめる。

(ああ…幸せすぎて死んじゃいそう…早く来ないかしら…そうだ、こういうときは素数を数えて気を落ち着けましょう。
1、2、3、4、5、6、7、8、⑨…)

伝子さんそれ素数じゃなくてただのカウントアップです。
とにかく、変態がそうしてベッドで数を数えていると…

『すいませーん、お届け物でーす!』

玄関の方から声が響いた。その瞬間、どこからともなく電子音が聞こえた気がした。

『START UP』

同時に伝子がベッドから跳ね起き、通常の1000倍くらいのものすごいスピードで玄関まで移動しドアを開けた。

「はいっ!」
「うおっ!?」

そのあまりの反応の速さと勢いに面食らった配達員だが、早くよこせ今すぐよこせさあよこせと言わんばかりのオーラにあてられて
手に持っていた荷物を差し出す。

「え、と、森定伝子さんに代金引換でお荷物が届いてます」

場の空気が数秒、硬直した。やがて伝子は、「?」といった表情になり、小首を傾げた。

「…代引?」
「はい、代引です」

そうして更に数秒間固まった後。

「…財布とってきます」

ものすごく普通の速さで部屋に戻っていった。

[ おまけおしまい ]

  • 今までのゆっくり総登場、ラスボスさえもゆっくりさせる結末はまさにゆっくりエンドといえますね。
    しかしラスボス、誰がうまいこと言えとw -- 名無しさん (2009-11-15 19:42:32)
  • まさに最終回!跳梁跋扈魑魅魍魎な各キャラを全員集合する手並み流石です。月の軍勢の増援カッコヨスなぁ。
    最後の大技もゆっくりSSらしい締めでしたね。それにしても実質得してない伝子さんカワイソス。

    >「ゆっくりしか来られないような感じだったからな。仕方ないだろう」

    レイチェル「‥‥‥」
    微聞「‥‥‥」
    ローラ「遠く二つの世界からとてつもないシンパシーを感じる‥」 -- かぐもこジャスティス (2009-11-16 23:14:13)
  • こちらでも
    企画と良い最終回ありがとうございました
    こうした大団円に今までの皆が並んでいるのを見て、参加できた事が改めて嬉しいです。

    特に……自分でも異色過ぎると思っていたtenや簡略ゆっくり、そして脚本家まで顔を出してくれた時、本当に目頭が熱くなってしまいました。

    ではまた外伝も楽しみにしております -- sumigi (2009-11-17 12:28:27)
  • コメントを考えるのが苦手なので気のきいたことは書けませんが、
    すごく面白くて楽しくて、最高の企画でした
    皆さんお疲れ様でした -- 名無しさん (2009-11-21 11:18:14)
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最終更新:2009年11月21日 11:18