※とても悲しい目にあうゆっくり達がいます
ちょっと鬱展開ですのでご注意下さい
「人間は幸せだ。贈り物がたくさんある」
彼は少し考えてから答えた
「そりゃ、手足とか文明とか、神様からの授かり物ってことか?」
ゆっくりは呆れて言った
「自惚れ屋さんめ」
反射的に言ってしまったことを軽く後悔する
「ゆっくり達が何も最初から無いみたいだね」
ゆっくりらんしゃまは、ぶんぶか9本の立派な尻尾を振ってみせる。
「大体ゆっくりが全員首だけって見方が先入観だよ!!!」
「あんたの村は全員生首だそうじゃないか。 ――――で、贈り物ってのは何だい?」
「確か、結婚記念、入学、その他色々。たまに、恋人同士で、何でもないくせにプレゼントするらしいね」
「それは、外人どもの話だろう」
そういう意味か。確かに一年を通じて贈り物は、人付き合いのある人間ほどもらったりあげたり。しかし、ゆっくり達は
孤独ではあるまい
「誕生日にはみんなで贈り物するけどね。肉とか」
「肉・・・・・・・・? それ以外の日にも贈り物をすればいいじゃないか。むしろ何故送らない?」
「その発想はなかったよ」
元々、野山に生きていたゆっくり達だから、「物」を贈るという発想は確かに湧かないだろう。道具もそれほど使わないだろうし、
共同生活の中、食べ物も分け合って生活しているから、嗜好品の保存していた肉なんぞを、何か良い事があった時に
余分に分けるくらいの事はしているとみた。
こうすると、何だか共産主義的な社会に見える。目撃したものによると、ゆっくりすいかの割合が異様に高いというから
何か関係があるのだろうか?
そんな社会体制に行き詰ったのかどうかは知らないが、割と大規模なゆっくりの集落が山にできたという噂があった。
目撃したのは、一番上が16の男の子で、そこから下は皆幼子ばかり。だから、それ程山奥にある訳ではないのだが、
大人は誰も見た事は無い。
ただ、割と麓の村でもゆっくりを多く見るようになった。
村はずれの、あまり流行っていない雑貨屋に―――――このゆっくりらんが通うようになったのはいつの頃からだろうか?
流石に金は工面できないと見て、沢で採っているらしい魚や果物・茸等、時折高価なものを買う時には、鳥や既に捌いた
肉等を抱えて来る。
「交換に応じてくれるのはここだけだよ。どうしても必要になったからね」
他の店は、ゆっくりというだけで怖がってしまうらしい。
確かに、最初は店の外から声だけが聞こえ、お代を扉の隙間から差し入れ、「戸口に品物を置いて欲しい」というから驚いた。
実際に外を見たら、ゆっくりだったので驚いたが、最初の方の驚きが大きかった。
続けていくうちに、お互い面倒になり、壁は無くなっていった。
独居老人の店にとっては、現物での商売は却ってありがたい事もあるので応じていた。ゆっくり達は基本人間を信用していない
のだそうだが、これは信頼されているのか、馬鹿にされているのか
「記念日かぁ」
「村の建設記念日でも祝えばよかろう」
「それは、当たり前の話。誰にプレゼントしようって言うんだか」
「この前カレンダーを持って行っただろう。そこに色々書いてあるから、実践してみるといい。」
「何か面白い記念日はないかな。12月だし」
「じゃあ、この『クリスマス』ってのはどうだい。あれは大体お互いにプレゼントだ」
この地方には人間にも殆ど縁のない営みだが、街から届けられる雑誌などで情報は入る。
都会の方では、この時期夜も昼かと言うほどけばけばしく飾り立て、皆浮かれ騒ぐのだとか
「ふん。西洋の祭りにね。具体的には何をするんだろう?」
「この絵本も持っていくかね」
らんしゃまに渡されたのは、古びた子ども向けの絵本。赤い服を着た老人ばかりが表紙。彼の娘が、孫と一緒に来た時
置いていったもの。
「ありがとう。調べてみるよ」
北風吹きすさぶ中、器用にふさふさの9本の尻尾に本と買い物を挟み込んで、らんしゃまは山の方へ向かっていく
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店の前に、大山女魚と干し柿が一山置かれていたのは翌日だった。
言葉を失っていると、その山の後ろから、ひょっこりらんしゃまが顔を出す
「お願いがあるよ。これで手を打ってほしいよ」
「うん?」
その顔は、紅潮していた。
楽しそうだった。
町の浮かれた連中も、町へ行ったきりの子供らもこんな様子だったかと、彼は何となく思った
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ゆっくり達の村は、地蔵の裏手にあった。
10体ほどスキマ無く立っていて、一人首が欠けている古い地蔵だ。
「おお・・・・・・・・・」
小学校の校庭――――というのは広すぎか。ゆっくり達は元々大きい者で、水桶程の大きさだったが、予想以上にしっかりとした
都市計画が進められている様子だ。
皆首しかないのにどういう原理かはしらないが、これはまま事とは言わせまい。彼自身も、今の3分の1の身長ならばここに
住めるかもしれない。
―――――どう考えても、あの地蔵の裏に隠しておける規模ではない。
しかし、地蔵の前から見ると、この村(町?)には気がつかない。そもそも、別に山奥ではなく、かなり麓に近い所なのに、誰にも
発見されていない。
どういうことだろう?
「じいさん、とりあえずみんなに、クリスマスの何たるかをレクチャーしてやって欲しいよ」
見ると、作業をしていたゆっくり達が、一同集まって整列すると、彼のを方を見上げている。
どこで調達したのか、赤い尖がり帽子を装着している奴等が4割。ピンポン玉みたいなサイズの子供まで付けている。
先ほどのらんしゃまと同じ目だった
「はて・・・・・・・・・・・・・・」
改めて村を見渡す。
中央に、これまたどこから植えたのか、小さいがもみの木。
やたら派手な色の折り紙で、飾りをつくりかけの様子。
ハンドベル。
甘い菓子類
食用と思わしきしめた後の鶏が数羽、羽を毟られている。
「―――――恐らくこれで十分だ」
「「「「「―――――は?」」」」」
中にはあからさまにしらけた顔の者も。
「要は、雰囲気だけ良くして、木に飾り物をして、クリスマス用の歌を歌って、鶏肉食って、ケーキでも食べて、お互い贈り物をしあって、あと酒も
あるとなおいいだろう。そんなもんだ」
「な、何かちがうよ!!! こう、このサンタクロースって、じいさんの誕生日だろ?もっといい感じの祝い方があるでしょー?」
「・・・・・・・・ん? そんな設定だったか? まあハメ外して楽しめばいいさ」
「プレゼントどうするの?」
そう―――――サンタクロース、は決定的に欠けていた。
「元々、贈り物のし合いをしたくて、何か行事を真似しようって話だったじゃないか。深く考えるな」
「誕生日だろ!? このじいさんの!!! 人間はどうやってるのさ!!?」
何か違和感を感じながら、その日は帰った
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謎の肉が、一山店先に詰まれていたのは翌日だった
「昨日もくれたじゃないか」
「昨日のあれは、交換用」
らんしゃまだけではなく、ゆっくりてんこも一緒に居る。
「これは、お礼の贈り物。いつもは誕生日とかに渡すものだけど、これは、あげる。何もしてくれなくていい」
「何で?」
「いつも御世話になってるからね。ありがとうね」
「ありがちょうにぇ」
らんしゃまは9本の尻尾をボフボフ。二周りほど小さいてんこは、突起がないのでぴょんぴょんと跳ねる。
「贈り物は、記念日や見返りがあるからじゃなかったよ。そんなの後付設定だね」
「そりゃ言いすぎだ」
「その人に、喜んで欲しいから、あげたくてあげるんだよ」
「こっちも嬉しいからあげるんだよ」
「だから、おかえちなんきゃ しなきゅていいでゃよ!」
「お前らなあ・・・・・・・・・・・・・」
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「そういう事は、お返しが本当は欲しい時に言うもんだ」
「・・・・・・解らないよ~」
昼間から肉もどうかと思ったが、ゆっくり達の村で。野外で焼く謎の肉は、中々美味しそうな匂いがした。
素直に嬉しかった。
が、量も多い。皆で食べる事にした。予想を全くしていなかったようで、ゆっくり達は嬉しそう。
「そういや、何で村を作ろうと思ったんだ?」
「飽きちゃったんだよね~ 野生の暮らしに」
「????」
「あと、もう人間となるべく遭いたくないからね~」
軋轢は確かにある。
隠れ里伝説とか、身近にこの国にも堕落しつつある文明に捨て、結界で閉ざされた別の世界があるとか無いとか。
非常に近場ではあるが、ゆっくり達は人間にどこかで見切りを付けたという事か。
しかし、そのために人間の文化を積極的に取り入れたがっている。 贈り物云々とやらは、そのためか。
他人事ながら、前途多難を感じた
「人間と遭いたくないのに、わしをこんな所に呼んでいいのか?」
「来て欲しくない奴に、大事な肉なんてあげないよ」
「・・・・・・・・・所謂
『ゆっくりプレイス』ってのがここかい」
「・・・・・・・・・・・???何それ。初耳。知らない」
村は、着々とクリスマスの準備も進行している様だった。
流行り始めたのか、あのサンタクロースとやらの帽子を皆被っている。
本当に美味しかったため、肉は全員で全て食べ尽くした。最後に、気になって聞いてみる
「そういや、誕生日にだけは贈り物をするのは何故だ?」
「決まってるよ」
ひとしきり食べ過ぎて、全体的に丸くなって仰向けになったゆっくりれいむが答えてくれた
「生まれた日を、祝わないでいつ祝うの?」
「そらそうだが」
「人間は喜ばない人が多いらしいね。『こなくてもいいのにくる』『またとしをとった』『もうよろこべない』」
「贈り物だって、お菓子だって食べられるそうなのにさ」
「一年生き延びられたのに、それを喜ばないなんて、おお 愚か愚か」
非常に間抜けなふてぶてしい顔でれいむ達は笑っていたが、彼は笑えなかった
「そりゃ、肉も渡すよ」
「お前等、肉が基本なのか・・・・・・・」
「でもね。もう一つ気がついたよ」
少し底のある皿にお茶を注いで、らんしゃまがよちよちやってくる。
「全員に誕生日はあるから、自分がいつか祝ってもらえるから、肉を上げてるんだと思ってた」
「じいさんに、お魚や果物をあげてたのと同じだね」
でもそうじゃない
「嬉しいし、そのゆっくりが好きだから渡すんだね」
どんな記念日よりも、それは尊い
「クリスマスも、贈り物をするには良い日だよ。まーサンタクロースさんの誕生日って事で、あんまり関係ない
後付設定だけど、いい事に気がついた記念日になるよ」
そんなものだ
「それじゃ、そろそろ帰るわ」
「また来てね」
「お店には行くよ」
「あー・・・・・ところで、クリスマス自体って、何日だっけ?」
カレンダーを見ろ・・・・・・と言いたかったが、彼は気前よく答えた
「24日が前日祭。25日が本番と言われておる」
「あ・・・・・・・・やばい」
ずるずると茶を啜っていたれみりゃが顔を上げる。
他の連中に比べ、やたらと丸っこいフォルムのため、ただ太っているだけだと思ったら
「その日に産んじゃうよ・・・・・・・・」
「近いのか。というか、それ妊娠してるのか」
「う~ん・・・・しかもちょっと前に、人間の子供に、羽を撃たれちゃって、飛べないので辛い」
「おやまあ」
ちなみに、彼の妹は元旦に生まれた。微妙な思いをし続けたのは、兄としてよく理解できた。
「被っちゃうよー」
「いいじゃんいいじゃん、クリスマスに生まれるなんて素敵だよ!!!」
「う~・・・・・・・ だったら、プレゼント年に一回しかもらえないよ~。しかもどっちがどっちか解らない・・・・」
「大丈夫だ。祝え。ついでに他の記念日を制定したらいいだろう」
「じゃあ、5月14日に・・・・・・・」
踵を返した彼に、らんしゃまが最後に後ろから言った。
「12月25日に迎えに行くよ~ またきてねー」
「「「「「またきてねー」」」」」
彼が制定してしまった記念日に生まれた子供の、行く末を見たいと願った。
出産を見るというのは流石に悪趣味だが、生まれたばかりの子供が、どんなものか、 あのれみりゃの
その時の嬉しそうな顔を見るのも、彼は密かに楽しみにした
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見る事はできなかった
25日の朝
羽も乾いていないれみりゃの赤ん坊は、藁の上に敷かれた布の上で眠り、ぱちゅりーが見守っていた。
母親には、白い布がすっぽりと被せられていた。
「いつか、こういう日が来るんじゃないかと思ってた」
深くは聞かなかった。
嗚咽しているのは、ゆっくり
さくやとめーりん、ゆっくりほぼ全員が集まって俯くか、すすり泣いている。
ゆっくりふらんだけが、何かを押し殺したような眼で、あらぬ方向を向いていた。
「事故だよ。仕方がなかったんだ・・・・・・・・・」
「クリスマスが、こういう日になってしまった」
「・・・・・・もういや・・・・・こんなせかい・・・・・・・」
あの時の赤ちゃんてんこだけが、泣いていなかった。いや、目を赤くして、涙が彼果てたようだった。
ゆっくりできる村ができて、皆で制定した記念日は。
新しい子供の誕生日は
「こういう日」になってしまった。
一人、仲間がいなくなった日
何かが起こった日
とてもゆっくりできない日
彼一人で亡骸を運ぶ事はできたが、ゆっくり達に任せる事にした。
村の外れに、埋葬しながら――――――――ふらんが漸く口を開いた
「今日は何の日?」
「こういう日だよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「違う」
姉に向けた背中が、小刻みに震えている
「今日は姪っ子が生まれた日だ。 お姉さまの子供の誕生日だ。 それにクリスマスだろ」
らんしゃまが、しゃくりあげるのを堪えながら答える
「れみりゃが死んだ日だよ。これは、変わらないよ。忘れちゃいけないよ」
「忘れちゃいけないから―――――――」
振り向いたふらんは、涙を拭っていた
「あの子の誕生日を、『こんな日』にしちゃだめでしょ!!?」
元々そういう顔だと言うのもあるが――――生まれたばかりのれみりゃは、静かに、薄っすらと笑いながら眠っていた。
「生きる事自体が苦しみ」だとか 「自然は優しくない」とか 「人間は想像以上に汚い」とか 「戦う事が宿命」だとか
そんな格言が戯言にしか思えないような。 そんな言葉を吐かなければならない土俵とは、全く別の場所に立っているような。
この世の幸せという要素を一心に受けているような寝顔。
墓碑を立て、花を沿え―――――村の中央の集会所に集まり、眠る赤子を尻目に、ゆっくり達は、押し黙っている。
彼は、その中に入る事もできず、ただ見ているしかなかった
一時間も経っただろうか。
制止する声を振り切るように、小さなてんこが飛び出していった。
続いて、パトパトと、ふらんとめーりんが集会所から姿を現した。
「案内してね」
「あなたの店へ」
「何だって?」
めーりんの帽子の下には、中々手に入らない薬草や木の実が入っていた。
「プレゼントがいるんだよ」
「クリスマスのためと、あの子の誕生日だから、2ついるんだよ!!!」
静かに、その薬草を払い下げ、帽子を被せて彼は踵を返した
「ちょっと待ってろ」
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――――贈り物は、記念日があるから、見返りがあるからじゃなかったよ」
――――その人に、喜んで欲しいから、あげたくてあげるんだよ」
3つの意味を持つ日と、交換される二つの贈り物
12月25日
赤い帽子に赤い半纏という、珍妙な格好で、店の絵本やおもちゃやその他の雑貨を袋に詰め、
山へ出かける彼を、誰もが疑問に思ったが、その理由を彼はずっと黙っていた。
それでも、彼はニヤニヤしながら出かけていた
了
- タイトルからは想像もつかないシリアスっぷりに驚いた -- 名無しさん (2009-12-27 16:23:54)
- みんなに幸せな未来があらんことを。 -- 名無しさん (2009-12-29 08:32:41)
- あとはタイトルのセンスだけだな。
文章はもはや神レベルだがタイトルが・・・ -- 評価お兄さん (2009-12-30 14:21:43)
最終更新:2009年12月30日 14:21