ギャラクシー (前)-2




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 ―――ゆっくり―――


   林や、原っぱ、その他植物の生い茂る場所に生息する、一見少女の生首の姿をした珍獣。
   内臓や脳は無く、その内部には餡子が詰まっている。原理は不明であるが、生きる饅頭である
   知能は非常に高く、会話は勿論の事、ある程度の社会を形成している。
   人間への好感度は固体によってまちまちではあるが、概ね敵対する事は無い。
   集団で狩などを行い、小動物を捕らえることもあるが、手足が無いことと、動きが緩慢な点からも、
  まず人間にとって安全な生物であるとされていた。

   しかし近年、異様な繁殖かr



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―――「たまに家の前を、親子で歩いている時がある。うちの子供が面白がって構う」(主婦)

―――「夏は見かけないが、冬になるとどんな寒い日でも外で飛び跳ねている」(自営業)

―――「口の周りに、食べかすがつきまくって非常に見苦しかった」(教師)

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 元々、あの喫茶店は好きではなかった。単純にあまりおいしく無いためだ。ただ、カレーはおいしかったし、
夕飯時だったので黒谷と食べられるならばと思っていたのだが、気まずくて二人ともコーヒーを頼んでしまった。
 放課後――――黒谷はもう少しこの町に滞在しなければならないと言っていたので――――それとなく
昨日行った喫茶店を見たが、勿論いなかった。
 その帰路の途中にある、駅前のマクドナルドに行ってみると本当にいた。本人が入る店の候補にあげていた
くらいなので、実際にあの手の店が好きなのか?

 「黒谷さん」
 「ああ…………君。 本当に……」

 いじめられている という事を理解したか。

 「最近の子は、顔は狙わないと思ってたのだけどね。ボコボコにされて……」
 『リンチしてるのバレるから』
 「黒谷さんも、そう年が離れてるとは思えませんが…………」

 腫れた頬を、相変わらずふて腐れた顔で眺める黒谷は、別段哀れんでる訳でもないようだったが、
いつもどおり不機嫌そうではあった。
 しげしげと眺めていたのは、買ってきたばかりらしいCDだった。

 「おお………! 梵Nippori製鉄所!!!久しぶりに」
 「知ってるの?」
 「大ファンでした これで人生変わったって言うか……」
 「ようやく大きな共通点が見つかったわね」


   4th album 「You've got the Horny!」
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│      ,.i (ヒ_]       `ヽ,. /         │
│     ./        へ    ヒ_ン )       ...│
│   _,./__,,. -‐ ''"´ ̄ ̄`"'' .、`ヽ,ー:'  , ┐    .│
│,. ''"´ /´ / ;'     !     ;`ヽ,ヽ、 } {    ...│
│'.、  .;'   ', i ´ハ_ _ハ  ノ メ !,!ヽ,.ヽ.|! |      │
│  `Y    i Vレ'7;__,.!/ V !__ハ ハノ.Y 二 `i     .│
│  ノ     i=ハ ' (ヒ_]    ヒ_ンハ.ノi .{F、  |      │
│ `.>'    iX| ///    /// ,' ノ!レ (   |      │
│∠._   ノ |=ヽ、    へ   ノ!i レ ∧  ノ,ヘ   ...│
│   レ'´ヽ、| |>,、 _____, ,イ|  |ヘ/:::} /::::',   .│
│      'ァ|  !>;`ヽ、「、,ハ.|  | |ー‐´:::::/|     │
│      / !  !、::ヽ、.,___ノヽ. !  |人__/  |   ....│
│    ,:'  `ヽ! ';::::::::ヽ::`'; 'レヘ! /     イ    .│
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 このバンド、今までリリースしたCD(移籍前のレーベルが出したシングルコレクション以外)全ての作品のジャケットに
ゆっくりすわこの写真かイラストが使われているのだが、その意図やコンセプトは依然として解らず、インタビューでも
答えた事が無い。
 お互いフ大ァンだったので、暫く曲や歌詞について二人は歓談した。

 「そういえば解散するって噂があるね」
 「ギター、失踪しちゃったから………」

 2ndアルバムから、これも何故か頑なに本人達の写真を載せない歌詞カードを眺め終わって、恐る恐る
少年は確認する


 「これ、歌ってるの、ゆっくりですよね?」
 「歌ってるのっていうか、演奏もそうね。プロデューサーも最初おりんりんだったって」
 「………おかしくないですか?」
 「何が」
 「何で、林に生息してる不思議な饅頭の珍獣が、普通にCD出して、三歩レコード必殺賞候補にまでなってるん
  ですか?」
 「あの4人は、林に生息してる訳じゃなかったからだろう」
 「いや、何ていうか世界観がこう崩れるというか」
 「嘘つきなさいな。あんた本当は気がついてるんでしょう」

 ―――それが嫌で、自宅でも彼女達のCDを聞く事は控えていたのだ。

 「あんた、そんな気持ちでよく大ファンなんて言えるわね」
 「転校する前は―――――」

 小学校の低学年時の話だが。
 ゆっくりがそこらで仕事していて、例えばちょっと買い物へ行けば、レジ打ちから陳列まで、丸っこい生首が仕事
をしている。
 買い物をする側も似たような連中だ。
 不真面目でゆっくりし過ぎてる奴等が多いため、立候補したり政権をとったりする事は多分ないだろうが、CDも
出せば本も出すし、会社を経営してる奴もいれば、新興宗教を始めたりする奴等すらいる。




 それが当たり前だと思っていたのに。
 この町では当たり前ではない。
 周りがではなく、取り囲んでいる世界自体がそうなのだ。
 全員なのだ。
 もれなく。



 『そういや、ルーミア教の教祖様、逮捕されたわね』
 「ああ、転校生だったんだ。だから苛められてた訳ね」
 「いや、それもありますけど、直接の原因は梵Nippori製鉄所のファンだったからです」
 「――――なるほど。人生変わったってそういう意味でもあるのね」

 ちなみに、周りは洋楽かぶれが多いため、GLAYのファンということでも馬鹿にされた。

 「転校生ってだけでもアレなのに。 ちょっと違う常識を運ぶきっかけを作るなら、そりゃ排除されるわね」
 「この町では、ゆっくりは、林の中の変な生物ですけど、この外じゃそうじゃないんですよね」
 「それは断言できないなあ」
 『実際もっと色々な状況がある』

 マイクから返ってきた。
 聞こえているのか?

 『地方や世界によっては、この町みたいな状況はそこまで珍しくはない』
 「もっと嫌な所もあったわ」
 『この町みたいに、人間がゆっくりを一段下の生物として見なしてる場合もあって、それに甘んじてる場合も
  あるけど、ゆっくりが完全に  特定の区域を文字通り征服して、人間を支配下においたケースも海外には
  多いわ』
 「大体、大まかには皆上手く言ってるのが表向きだけどねえ」
 『人間にとことん迫害されてる場所も、絶え間ない戦闘状態が続いてる所もある。本当に一部だけど、結局
  ゆっくりが人間を皆殺しにしたケースもあったはず』

 それは――――――

 「大事じゃないですか」
 「ね?知らないでしょ?そんな事。私もあんまり知らなかったから結構怖いのよ、この研究」
 「信じられないなあ」
 「例えば台湾では、バナナに関しての食感を表現する単語が30通りあるって聞いたことあるでしょ?」
 「ないです」
 「ないのか。まあ、国によって、認識や世界観の隔たりに関しての話と思ってもらえれば……」
 『それ、バラエティー番組が作ってデマよ』
 「デマなのか。――――言いたい事は解るわね?」
 「何で、そんな事が起きて――――――というか、何でそんなとんでも無い事を、僕達知らないんでしょう?!」

 とは言いつつ、彼には解っていた。

 人間は、自分が信じたいものしか信じられないのだ

 そこで、見たくないものや聞きたくないものは、無意識にシャットアウトされてしまう事がある。――――しかし、
それでもある程度上手く世界は成り立っている―――――というか、こうしていなければ、恐らく皆生きるのが
辛くなりすぎる。
 そして、そのほころびを一点に被る存在も出てくる。

 「まあ、あいつら、傾向としちゃゆっくりってTVとかメディアに出たがらないし、出世欲もないから、基本表舞台に
  立つ事は少ないし、単純に数だって人間の方が多いし」
 「社会適応してるもんなあ」
 「申請して、名字をもらってる奴もいるわね。―――でも、まりさは皆『キリサメ』、さくやは『イザヨイ』って発音
  にするんだけどなぜかしら?」
 『さあ?――ごちゃごちゃ色々言ったけど、単純に 『ゆっくりだから』 で通るのが、ゆっくりの恐ろしい所よ』

 つまる所はそうなのだろう。
 遠い記憶だが、ゆっくりについて真面目に考えるのをやめた、という記憶がある。

 「黒谷さん何者なんです?」
 「ゆっくりが、ちょっと人より好きな、〇ゴブロックアーティストよ」
 「いや、何ていうかその……………やっぱり、この場所で、昔起こった惨劇の事とか調べてるんです?」
 「惨劇って何だ?昨日、ちょっと嫌なものを見ちゃったけど、この町はこの町で平和にやってくんじゃない?」
 『いや、どうだか。ゆっくり自身に会ってないで、言い切れないわよ』

 黒谷は、マイクを明らかに無視して―――うっすらと冷や汗すらかいて続けた。

 「住民は別にこれ以上ゆっくりに危害を加えようとする訳じゃないし。過去の惨劇云々は別として」
 「―――――何で言い切れます?」
 「しっかりしたデフォルトがあるから」

 取り出したのは、短時間で随分読み尽くされ、マーカーと付箋で軽く形を変えた「ゆっくり大全集」

 「ゆっくり達自体が引きこもりで、人間と会おうとしない上に、こういう共通認識があるんだから平和なもんでしょ。
  平和よ。『平和』」
 「いやでも、これって間違えだらけなんでしょ?実際とは違うんでしょ?このパンフレット」
 「違うというか――――驚いたのは、間違っているからじゃなく、この本の存在自体」
 『未だに、こんなものを『作ろうとする意志』に関して』

 本気でゆっくりの全てを正確に網羅している一冊の本を作ろうなどという努力は、前世紀で終わっている。
コツコツと蓄積されているデータベースはある様だが、冊子一つで「大全」と銘打つのは怖いものシラズもいいところ、
という話。
 むしろ――――記されている内容だけなら、かなり正確なのだという。

 「評価するとすれば、間違いだらけ っていうよりは、穴だらけ ね」

 そう

 「ここに書かれていることが全てじゃない」
 『別に、さなえも、ゆかりも、希少じゃないし。この町には単純に少ないんだろうけど』
 「そうなんですか?」
 「例えて言うなら――――『緑』のデータだけを入れた本に、『ポケ〇ン大百科』って名前をつけるようなもの」
 『ただ、このテルヨフが、唯一ゆっくりの間で 〈可愛い〉と評されている って説明は納得いかないわ。どこから
  来たのかしら……』
 「ああ、納得いかないわね――――何なのかしら」

 この例えは少年にしっくりいったらしく、激しく頷かれた。

 「色々旅行して見てきたけど、しばらくこの町は、ゆっくりと人間の紛争地帯になるとか、ゆっくりが人間を襲うとか、
  その逆にもならないと思う」
 「言い切りますね。俺は何だか不安で仕方ないんです」
 「ゆっくりと、人間の関係はもう終了してるから」


 \(^o^)/ ――という意味での、終了だそうな。


 「お互いに無関心。こうした本が存在するのは、ゆっくりを余程探求しようとする人か、もしくはそれ以上興味を
  持っていない全て把握したと思い込んでる って事ね」
 「……………」
 「『ゆっくり大全』とか『ゆっくり図鑑』とか『ゆっくり背景集』とか、そうしたものを作る事自体が間違いじゃない。
  ただ、一部のものを全部と思い込んだり、断片をみて全体を見てるつもりになってしまったり、それを他人に
  前提として話したり」
 『それで自分が全部解ったと思い込んでしまったら』

 探求はその時点で終わってしまう。 ゆっくりに関してのみ言える事ではないが、少なくとも、両者の関係は
一つの終わりを迎えてしまう。

 「まあ、本当に調べようと思ったら、こんな感じになるからねえ」


 黒谷は携帯を取り出すと、動画を再生し始めた。
 かなり前に出回ったらしいものだ。



  =======  VTR START ======

 研究員 「それでは……長年謎とされていた、れみりゃの生殖方法について、本人に尋ねたいと思います
        方法としては、まず直接の質問―――聞き出せない場合は、『模倣』を使います




 研究員 「れみりゃさん、教えてください。あなた達ゆっくりは、どのような形で子供を作り、種を保存しているの
       ですか?」
 れみりゃ 「う~?」
 研究員 「教えていただけませんか。今後の研究のためです」
 れみりゃ 「そんなこと、恥ずかしくて教えられないぞぉ~」
 研究員 「お願いしますよ」
 れみりゃ 「いやぁ~ん~ はぁずかしいぞぉお~ れみぃの口からは、いえないぞー」
 研究員 「真面目に聞いてください。何も嫌がらせで質問している訳ではありません」
 れみりゃ 「そんなこといったってぇ」
 研究員 「……………」
 れみりゃ 「かれんなおとめにこどものつくりかたとか、まじひくぞぉ~」
 研究員 「……………」
 れみりゃ 「は~ず~か~しーいー」
 研究員 「ねぇ~ん~ そんな事言わずに教えてほしいぞぉ~」
 れみりゃ 「うー!うー!」
 研究員 「うー!うー!」
 れみりゃ 「う、う……………………うううううー!?」
 研究員 「恥かしがらないでぇ~ 教えてほしいんだぞぉ~」
 れみりゃ 「う……でも、きいちゃうの~?ししゅんきなの?せくはらだぞー、それ」
 研究員 「おしえてほしいぞ~」
 れみりゃ 「うー!うー!」
 研究員 「うー!」
 れみりゃ 「うー!うー!」
 研究員 「うー!」
 れみりゃ 「………………………………」
 研究員 「うー!」
 れみりゃ 「………………………………」
 研究員 「ねえ、お…………………………………」
 れみりゃ 「………………………しつこいわね」
 研究員 「u……………………………………………………………………」
 れみりゃ 「さっきから何よ、こっちが嫌がっていることを何度も聞いてきて。何かしら?あなた達人間は、平気で
       ゆっくり相手に自分達の性行為の方法について、堂々と正しく質問する事ができるの?それが恥か
       しくないのかしら?」
 研究員 「ええ、その…………」
 れみりゃ 「誰だって聞かれたくないことがあるでしょう。学問のため?発展のため?それが何にでも通じる免罪
       符だと思ったら大間違いよ。それに、そこから得た知識を何に応用するのか、私にここで最初から説
       明できて?」
 研究員 「………………………………」
 れみりゃ 「勝手な好奇心をおしつけないでちょうだい。それから、ゆっくりを馬鹿にしないで」
 研究員 「………………………………………………」
 れみりゃ 「あなた達が嫌な事は、私達も嫌なのよ」
 研究員 「………………………あ………………………あ………………………うぅ…………」
 れみりゃ 「うー?」
 研究員 「………………………うー………………………」
 れみりゃ 「うーっ!!!」
 研究員 「うーっ!!!」
 れみりゃ 「うーっ!!うーっ!!」
 研究員 「うーっ!!うーっ!!」
 れみりゃ 「うーっ!!うーっ!!」
 研究員 「うーっ!!うーっ!!」
 れみりゃ 「うーっ!!うーっ!!」
 研究員 「うーっ!!うーっ!!」
 れみりゃ 「うーっ!!うーっ!!」
 研究員 「うーっ!!うーっ!!」
 れみりゃ 「うーっ!!うーっ!!」
 研究員 「うーっ!!うーっ!!」


 =======  END  ======



 「―――こんな感じだから」
 「初めて見ました」
 「へ?」
 「ネットは禁止なんです」
 「KENZENな町ね」
 『訳わかんない奴等 って事で、興味持ちつつ、全部把握できるなんて思わないで、つかず離れず、
  面白がりながら、相手を探り続ける関係が一番よ』
 「うん。それがベストだわ。この町ではできない事だと思うけど」
 「いや、その、本当に、お互いに無関心なら、それはそれでいいんですが………」

 少年は目を伏せる。

 「その関係も怪しくなってきまして…………」
 「ああん?」
 「ゆっくりと人間って、何のためにいるんでしょう?」
 「多分、それ話してたら季節が終わる」
 「あ、言い方間違えた。『ゆっくりって何のためにいるんでしょう?』………」
 「随分な言い方だなあ。ゆっくりが哀愁を帯びながら、『人間って何のためにいるの?』って言われるのを
  想像してご覧」
 「―――――――連中は、俺の心配の種なんです。決して嫌いなのじゃありません。ただ、見てると不安に
  なるし、色々問題が………」

 黒谷は、パチリ、と携帯電話を音を立てて閉じ、ペンを片手に構えた。もう片手で、「大全集」の目次を開く。

 「見てると不安になる、ねえ………で、何が起こってるの?」
 『見てると不安になる…………?』

 マイクから、明らかに、少年に向けて声が放たれた



 『他者を不安にするために、ゆっくりはいるのかもしれないわね』



 それは、ゆっくり とは対極でないだろうか?
 ふと、客観的な立場に居るとは言え、何故こんな相手に自分は相談しているのだろうと、これはこれで
不安になったが、少年は黒谷に打ち明けた。

 「――――あの林、もう駄目かもしれません。また、惨劇が起こるかも」
 「惨劇いぃ?」

 何故か間髪いれずに、返ってきた


 『そんなもの、おこったためしがない……』



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―――「何段にも重なって、こちらの様子を伺っている事がある」(運転手)

―――「帽子をなくした連中が、珍しく喧嘩をしていた」(教師)

―――「狭い所が好きなのか、建物のスキマを覗くと、そこでゆっくりしているのを見かけた」(自営業)

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 夕暮れ
 ホームレス達は、さして抵抗はしなかったが、中には半泣きの者さえいる。

 「頼むから」

 皆黒谷よりも頭一つ分は大きいはずなのに――――彼女は、かえって恐縮しながら、林の前に立っている
 たくさんの中年達に見守られながら。

 「手荒な事はしないでくれ」
 「しない。そんな概念自体が無い」
 「あいつら、悪い事は何もしておらん」
 「解ってる」
 『おい』

 マイクからのSisの声は、いつになく厳しかった。

 『まだ怖い?』
 「いや全く」
 『入る前に、あの本の13Pを読んでごらん』



 【あきしまい】の項だった


 ――― 多くの場合、姉は「しずは」 妹は「みのりこ」と呼ばれる。
      希少種中の希少種。一時期存在さえ怪しまれた幻の
     ゆっくりである。
      その秘めた潜在能力は、他の種族に比べて研究は遅れて
     いるものの、さしたる脅威は無いと思われる



 「ぎゃはははははははは!!!!」
 『ね? 落ち着いた?』
 「…………ありがとう。いや、本当に」

 ひとしきり笑った所で、思い切って早足で、彼女は林に踏み込んで行った。
 目に見える速度で日が沈む中、できれば明るい内に話をしたかったなどと考えている自分に軽く自己嫌悪したりする。
 道もまともに無い中―――一分と経たず、彼女の前に、現れた。

 「「「ゆっくりしていってね!!!」」」

 いずれも皆小さい。
 3体。
 左にまりさ、右にれいむ。
 中央に――――赤い、チューリップの様な洒落たデザインに、葡萄の飾りをつけた帽子を目深に被った、金髪の子が。

 「おねえさん、きのうきたひとだね!!!」
 「ゆっくりしていってね!!!」
 「ええ………今日はゆっくりさせてもらうわ」
 「なにしにここにきたの?」
 「そうねえ…………」

 しゃがみこみ――――大汗をかきながら、彼女は中央の子に伝える。

 「あなた達の、リーダーにお話があって来たのよ」
 「ゆっ?わかったよ!!!」

 3体は、ポインポインと元気よく駆けていく。
 彼女は、「大全集」を懐にしまい、改めて深呼吸した。



 「みのりこおねえさまーーー おきゃくさんがきたよ!!!」




 続く

  • ゆっくりに対する認識によってゆっくりがどう見えるかがらっと変わる世界なのかな?
    教師とかゆっくりのことをあまり良いように思ってないからそういった存在に見えてるとか
    果たしてこの世界の住人達は同じ風景を見ているのか? -- 名無しさん (2010-04-06 01:37:33)
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最終更新:2010年04月06日 01:37