夜雀たちの歌 その後の後 Cパート

Bパートより続き





夜雀たちの歌 その後の後 Cパート






「なんで!?」
「閻魔がっ!?」

狙いが自分たちだったということもあり、
誰よりも早く身の危険を察知した吸血鬼とスキマ妖怪は、複数の蝙蝠に変化して、作り出したスキマ空間にその身を滑り込ませて、
それぞれの方法で迅速に客間を脱出し、すぐ外の白玉楼中庭へ飛び出していた。
ちなみに、さっきまで晴れていた天気は、何時の間にか崩れ曇りが目立つ。
吸血鬼の生態的に、ぎりぎりセーフな天候であった。

「あの馬鹿閻魔ぁ!! 部屋の中よ!? 何考えてんだ、関係ない奴ら何人も巻き込みやがった!!」

レミリアが信じられないといった表情で、珍しく顔を青ざめながら片手で額を押さえ、唸るように呟く。
閻魔という、神レベルの存在の、最高クラスのスペルカード。
弾幕勝負という決闘用の技だとしても、あのクラスとなれば、この世に存在する色んなものを破壊することが可能となる。
それを、狭い室内で突然発動させるなど、正気の沙汰ではない。

「まぁ、あの面々なら、死人は出てないでしょうけど‥」

紫もまた、彼女のにしては珍しく狼狽した様子でレミリアの呟きに言葉を返す。

「あ‥!! 私のゆっくり‥!!」

本当にしまったという顔でレミリアが口に手を当て叫ぶ。
自分の身だけを案じていた所為ですっかり失念していた。
あの場所には彼女の大切な愛玩ゆっくりが居たのだ。それがあの爆発でどうなったのか‥。
レミリアが更に顔を青ざめようとした時、

「はい、これ」
「ゆっ!」

紫がぶしつけに、今レミリアが一番心配していたその対象を手渡した。

「ゆゆーい!」
「私のゆっくり!?」

驚愕するレミリアを余所に、レミリアのゆっくりれいむは嬉しそうに彼女に対してほっぺをすりつけて嬉しそうに鳴く。

「私のゆっくりのついでよ。礼なら要らな‥」
「紫ぃ!あんたマジ良い奴! もう大好き!!」
「ぬぁあ!? い、いきなり抱きつかないでよ!」
「ゆゆー!」
「そのゆっくりも顔を舐めるな!ダブルで懐くな!さっきまで喧嘩してたでしょ、私達!」
「そんな大昔のこと気にしてたらまた胸がでっかくなっちゃうよ!  ‥しかし、でかいな本当に‥」
「ドサクサに紛れて触るなぁあああああ!!」

「不純同性交際は禁止っー!!!」

ついでに、そんな二人の戯れを見ていたのは、顔を真っ赤にしたちっこい閻魔。

「あ」
「ゆ‥?」
「お、閻魔」

今再び、白玉楼の中庭にて五つの閃光が爆散し轟き渡った。





―一方、白玉楼客間。

「あー、外に出てっちゃった‥」

小町『落ち着いてください、こんなとこで本気で暴れちゃ駄目ですって映姫様』
四季『えー、小町が私に説教なんて随分偉くなりましたねー? いつもさぼってばかりのサボタージュ小町の癖にぃ!』
小町『説教ていうか、当然の制止というか‥。ほら、良い子だからスペルカードから手を放して!』
四季『やだぁ!閻魔だぞ!偉いんだぞ!』
小町『我侭言っちゃいけません!』
四季『なんだよ、小町の馬鹿ぁ!!』
小町『あ、行っちゃ駄目ですってぇー!』

今や焦げ跡や爆発跡によってボロボロとなってしまった白玉楼客間にて、
そんな寸劇、というか親と子の会話のような一場面が繰り広げられ、
結果、酔っ払った四季映姫・ヤマザナドゥは客間から障子を隔てたすぐ外、
といっても今となって障子も破壊され完全に吹き抜けになっていたが、外の中庭にへと走っていってしまった。

閻魔四季映姫・ヤマザナドゥは、つまり、酒乱である。
それも、極めてタチの悪いタイプのだ。
酔拳使う訳でもないのに、彼女の酔っ払った酒の席では、破壊と悲鳴の特大嵐が巻き起こることになる。

外には四季映姫の攻撃から間髪入れず脱出した吸血鬼とスキマ、二人の妖怪の姿が見えたので、
また彼女達に向かって大規模なスペルカードを発動してしまうかもしれない。

(あぁ、こうなるって知ってるから、四季映姫様に酒は飲ませないよう配慮してたし、
 四季映姫様本人だって極力アルコール類は飲まないようにしてたってのに‥)

やれやれと頭を抱えてそこまで考えて、

「あれ?」

小町は一つのおかしな点に気付いた。

(ていうか、飲んでなかったよな?
 四季映姫様ずっとオレンジュジュースとウーロン茶しか飲んでなかったよな、うん、ずっと見てたから間違いない‥。
 今はもうバラバラに吹き飛んでるけど、あそこら辺の席で、鬼の隣で‥)

ふと、小町は、こんな状況だというのに未だに御猪口に日本酒を注いで飲んでいる小さな鬼と目があった。


伊吹萃香。
萃と疎を操る(色んなものを集めたり散らしたりする)程度の能力を持つ鬼。
例えば、そこら辺の酒からアルコール分だけを抽出し、
飲んでいる本人にも気付かれないうちにオレンジジュースやウーロン茶のアルコール度数を高めることだってできるであろう能力。

「犯人はお前か」
「おう、私だ」

何の悪びれもせず朗らかに答えた鬼に対し、取り合えず、小町は無言で鎌を手に持って思い切り振りかぶった。




―再び、白玉楼中庭。

突然の閃光爆撃と共に再来した閻魔に対し、紫とレミリアは即席の共同戦線を敷きながら対応していた。

「ああ、もう限界! わたしのゆっくり紫のスキマの中にしまっておいて!」
「ゆー!」
「分かったわ! はやくこっちに!」

閻魔の弾幕を、自在に宙を舞い華麗に避けながら、レミリアは紫のスキマに手に持ったゆっくりれいむを放り投げる。

「サンキュ! それで、どうすんの、この閻魔? 殺していいの?」
「どんな事情があれ、流石に閻魔様を殺しちゃまずいでしょ? そもそもそう簡単に殺せるものでもないけど‥。けどさ」

子供のようにはしゃぎ回りながら容赦のない弾幕の嵐を放ち、白玉楼の中庭をこれでもかと蹂躙している四季映姫を見やって、
紫は性格の悪さを感じさせるニヤリとした笑みを浮かべる。

「けれど、突然暴れ始めた閻魔に対して、その破壊活動を止めるため、ちょっとだけ、
 ほんのちょっとだけ、ボコボコにして動けなくするくらいは止むを得ない、そう思わない?」
「ちょっと‥、コレを機に合法的に普段の鬱憤を晴らそうっての?いくら閻魔が相手とはいえ、二人で囲んで? 酷い話ね」
「そういう話、あなた好きでしょう?」
「うん、大好き!」

レミリアは、こんな場面だというのに、子供のように悪魔のように、嘘が一つも混じっていない純粋な微笑を楽しそうに浮かべた。



―奇襲。


神槍「スピア・ザ・グングニル」
廃線「ぶらり廃駅下車の旅」


「ほぇ?」


スキマ移動。
紫の作り出したスキマ空間にもぐりこみ、好き勝手に弾幕をばら撒く閻魔のすぐ後ろへと回り込むチート技。

「死ぬなよ? ちょっと殺すだけだから」
「おいたわしや、閻魔様。せめて一瞬で往ってくださいな」

二人はそれぞれ、単発火力の高いスペルカードを解き放つ。
レミリアは紅色の閃光で構築された燃え上がる、本人の何倍もあるような大きさの巨大な槍を構え、
紫のスキマからは、高速で走り行く、車輪の付いた巨大な鉄の乗り物が、
四季映姫目掛けて真っ直ぐに突き抜けた。





「それでさ、鬼っ子さん」

「角を掴むなよ輝夜姫」

「どーして閻魔様を酔っ払わせたの?知ってたんでしょ、閻魔様ああなっちゃうって」

「うん、でもねぇ、折角の酒の席だ。どんな事情があれど飲んだ方が良いに決まってるし、楽しいだろ?」

「それは今現在部屋の角で精神ズタボロになってる半人半霊を見てもいえる台詞なの?」

「楽しめばいいのに‥」

「ひたすらに酷ね。それに、こうなったら閻魔様だって無事じゃ済まないでしょ? 
 ただでさえ普段から皆に煙たがられてるっていうのに‥。
 こんなの、普段の鬱憤晴らしていいですよ、っていう体の良い口実になるに決まってるじゃない」

「私はそこまで嫌いじゃないよ?」

「私は嫌いよ?」

「お前さんも歯に衣着せないねぇ、まぁ正直なのは良いことだ。ま、それでも、大丈夫だと思ったからさ。あいつが居たから」

「あいつ‥?」

「絶対に、閻魔の敵にならない、サボり魔が一人居たからさ」





レミリアと紫のスペルカードは、確かに四季映姫目掛けて、真っ直ぐに突き抜けた。
それは、確かなことだった。
だが、その攻撃は結局閻魔に届くことはなかった。
本当に、彼女達の攻撃は、ただ突き抜けただけだった。

「困るねぇ、困るんだよ」


四季映姫がいた場所より、遥かに後方。
レミリアと紫の攻撃が突き抜けた砲撃線上の、すぐ隣。

「今日の四季映姫様の護衛役はあたいなんだ。そんな中、四季映姫様が怪我したら、あたいの責任になっちまうだろう?
 そういうの、本当に困るんだよ?」

黒く鈍く輝く大鎌を背負い、片手には先ほどまで暴れまわっていた閻魔を抱えた、
本当に困った、面倒だ、そういう顔をしながら突っ立っている死神がいた。

「‥なんで? なんであいつ一瞬で閻魔連れてあんな後方に動けるのよ? テレポート?」

レミリアは気落ちした様子で、小さく溜息をつきつつ、紫に尋ねる。
確かに、二人の攻撃は四季映姫の居る空間目掛けて狂いなく撃ち放たれ、四季映姫の方もそれを避ける様子はなかった。
それなのに、何時の間にか当の閻魔は、死神によって助け出されている。
レミリアにはその状況が気に入らなかった。

「テレポートというのも強ち間違いではないわね。
 あれは三途の川で渡し守をやっている死神。三途の川を繋ぐ死神は、距離を操ることができる。
 私達の一撃は、閻魔の座標そのものを動かされたことで避けられた」
「なにそれ、面倒くさい能力ね」
「面倒くさいのはあたいの方だって言ってるだろ?」

同じく小町も面倒くさそうに大きな溜息をつく。
一方、小町に抱えられている四季映姫は、「わーい、浮いてるー」と楽しそう小町の腕の中で手足をバタバタさせて遊んでいる。

「まぁ、いいや。そこな死神、そこの閻魔を置いてどけ」
「吸血鬼。あんた、始末書書いたことあるかい? さっき言ったろ?
 四季映姫様が怪我したらあたいの責任になるんだよ?面倒なんだ、そういうの」
「そう困る必要は無いわ。どうせ閻魔は大かれ小かれ怪我を負う。大かれ小かれ切り刻まれる。
 その中に、あなたが入るかどうか、そういう話なのよ、これは」
「どっちにしろ始末書書けってか? どちらもゴメンだよ」

その小町の返答に紫が薄く小さく笑う。

「あら、貴女はもう少し利に聡い性格だったと思ってたのに。思った以上に上司思い?
 それとも本当に責任取るのが面倒なだけ? どちらにせよ感心ね」
「よしておくれよ。あたいが仕事熱心なのは、いつも通りさ」

ヒヒヒと笑って、小町は大きく鎌を振り回し、ズシンと地面に突いて刺す。

「あんた達こそ分かっているのかい? ここにおはす方はこれでも閻魔で、これでもあたいは死神さ」

そして、その突き刺した鎌を横に引き、自分と相対する二人の妖怪に対して、
境界線を引くように、地面を抉って一つの線を地面に描く。
まるで、ここから先は自分達の陣地だと示すように。
小町は、相対する二人の妖怪に宣告する。

「今この時より、この先三途。落ちたら仕舞いだ、生きて戻れぬ餓鬼・畜生・地獄の三悪道」

普段は怠けてばかりいる暢気な死神は、
自分の上司に敵対する二人の妖怪を、
この上ない敵意と殺意と熱意を持って睨みつけた。

「それを承知で歩み逝くなら、命を置いていくんだね」





「わ‥、わ‥、わきゃー!!」

だが、その小町にしては珍しく熱の入った口上に、
一番最初に反応したのは彼女が脇に抱える閻魔だった。

「か、格好良い!格好良いですよ、小町ぃ!さすが私の部下です、偉いのです!わきゃー!!
 はい、撫で撫でしてあげますねー」
「四季様、流石に空気読んでください」

その光景を見て、レミリアは本当に、心の底から落胆したように、大きな溜息をついた。

「途中まで格好良かった、残念」

その言葉を終えた頃には、既に彼女の攻撃は撃ち放ち終わっていた。
今再びの神槍「スピア・ザ・グングニル」。

「点数つけるなら23点。赤点追試確定ね」

紅い槍状の閃光は、今度こそ閻魔と死神目掛けて、彼女達が避ける間もなく真っ直ぐに突き抜けていく。
呆れながらも、彼女にとって高威力のスペルカードを相手の動向を待つ間もなく一瞬で解き放ったのは、
彼女がこの二人の死神と閻魔に対し、少しの隙のある感情、容赦も油断も抱くことがなかったからだ。

――これ以上、面倒になる前にさっさと片付けて宴会を再開しよう。

それ故の速攻。打算や策略を巡らす暇がない代わりに、相手にも同じものを与えない。
ただ、そんな計算抜きの彼女の行動に、敢えて計算違いがあるとするなら、

―距離を操る程度の能力―

その能力の、真価を見定めることなく攻撃をしかけてしまった、その攻撃の速さにこそある。

「まだまだ途中さ、評価は全てが終わってからにしてくれないかい?」

彼女の真横より、
先ほどまで、八雲紫が立っていた位置から、
大きく力強く振るわれたのは、死神の大鎌だった。
それは、鎌鼬のような鋭さと速さで、レミリアの血と肉を斬り裂いた。

「あ?」

レミリアは驚きよりも、突然の痛みによる苛立ちと共に、
彼女を斬り裂いた死神を睨みつけ、

それと同じタイミング、
死神によって、無理矢理に、自分と相手との“距離を無理矢理に入れ替えられた”八雲紫は、

「ちっ」

レミリアが放ったスペルカード、神槍「スピア・ザ・グングニル」の直撃を、今、まさに受けようとしていた。

避けるには、速過ぎる、
ガードするには、重過ぎる、
直前まで迫ったスピア・ザ・グングニルに対し、紫自身は何の対抗手段もなく、ただその直撃を受けることしかできない、
そう思われた。

(スキマから、何か防御壁に使えそうなものを‥!)

交通標識、墓石、飛行虫ネスト‥、いつも使っているようなものではとても防ぎきれない。
何か、もっと丈夫で、すぐにでも召喚できるようなものは、何かないか‥。
そう考えた彼女は、

「蓬莱人バリアッー!!!」

すごく身近、白玉楼の客間から、
高みの見物を決め込んでいた八意永琳を召喚した。

「え?」

もちろん、本人の了承などありはしない。
いきなり、スキマによって連れてこられた永琳は、本当に何もなす術もなく、

「きゃぁああああああ!!!」

スピア・ザ・グングニルの直撃を受けた。



「うわー」←レミリア
「酷いことしやがる」←小町
「くろー!」←四季映姫



その後、
この白玉楼で唐突に始まった洒落にならない奴らの弾幕騒動、
その展開は、
更に混沌と迷走の様相を呈することとなる。混沌とか迷走とか、妖怪らしいと言えばらしいことなのだが。
それは、子供の喧嘩のような幼稚な動機から始まった、地獄の戦場黙示録。


この出来事から先、何が起こったかを簡潔に説明する。


「良かった、紫‥。ごめんなさいね‥、私の軽率な攻撃の所為で、また紫に迷惑をかけてしまったみたい」←レミリア
「大丈夫よ、レミリア。この蓬莱人が、不死身であるという特性を活かして、私を身を呈して庇ってくれたから。
 さぁ、反撃開始よ!みんなで力を合わせてあの憎き閻魔と死神を倒しましょう!」←紫
「待てや、コラ」←永琳

この時点で、『吸血鬼&スキマ妖怪』VS『閻魔&死神』であった戦いに、+VS『蓬莱人』の図式が追加される。

「うちの庭が‥、今朝、手入れしたばっかりだったのに‥、美しかった白玉楼の庭があっという間に見る影もなく‥」
「妖夢、気をしっかりもって!妖夢!妖夢‥!!」

その惨状を客間から見ていた白玉楼の庭師の表情からは、瀟洒なメイドの必死の慰めも空しく、
目からは光が消え失せ、絶望だけが浮かびがっている。

「このままじゃ、妖夢が‥!誰か、この惨劇を食い止めることができる人はいらっしゃいませんか!?」

咲夜は辺りを見渡し、まだ客間に残っていた人妖に目を向けた。


咲夜がまず注目したのは、その闘争を酒を飲みながら同じく見物していた鬼の娘、萃香。

「よし、じゃ私も一暴れしてこようかな!!」
「うん、あんたは最初から期待してなかった」

閻魔暴走の元凶、伊吹萃香参戦!

「がおー!お前ら全員のしてやるぜー」←萃香
「うわ、ッデカ!!」←小町
「のっけからミッシングパワーで突っ込んで来ないでよ、萃香!」←紫

この時点で、『吸血鬼&スキマ妖怪』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人』の図式、
『吸血鬼&スキマ妖怪』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人』VS『鬼』の闘争にレベルアップ。


次に咲夜が目を向けたのは、ポケっとした顔で同じく闘争を見物していた月の姫、蓬莱山輝夜。

「永琳一人じゃ可哀想だし、私も混ぜてもらってこよう!」
「えーと、他に、他にもっと頼りになりそうな人は‥」

お転婆月娘、蓬莱山輝夜参戦!

「情けないわね、永琳。手伝いが必要かしら?」←輝夜
「輝夜‥、私を助けに来てくれるなんて‥!何て良い子なのかしら、この子は!」←永琳
「わーい、誉めて誉めてー!」←輝夜

この時点で、『吸血鬼&スキマ妖怪』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人』VS『鬼』の図式、
『吸血鬼&スキマ妖怪』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人タッグ』VS『鬼』の闘争にグレードアップ。


次に咲夜が目を向けたのは、部屋の隅でなにやらゴソゴソやっていた策士の九尾、八雲藍。

「いや、紫様の命令でね」

その場にいたのはゆっくり達、
ゆっくりみすちーと闘ったゆっくりふらん、ゆっくりちぇん、
そして紫のゆっくりれいむに、先ほどレミリアが紫のスキマに避難させたレミリアのゆっくりれいむ、
計4匹を闘争の巻き添えを食わないように部屋の隅に集めて保護していたようだ。

貴重な常識人だー!と咲夜が喜んだのも束の間。

「いや、私もああいった馬鹿げた争いは止めたいけど‥」
『式神 八雲藍 召喚!!』
「こう呼ばれちゃうと‥、ご主人様には逆らえなくて‥」
「‥。心中、お察しします」

咲夜は丁寧に頭を下げ、戦場に駆り出される狐の妖を、涙ながらに見送った。

「さて藍。私の盾になるか、防御壁になるか、シールドになるか、さぁ選びなさい」←紫
「弾でお願いします!」←藍

八雲紫の式、八雲藍参戦!

この時点で、『吸血鬼&スキマ妖怪』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人タッグ』VS『鬼』の図式、
『吸血鬼&スキマ妖怪+式』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人タッグ』VS『鬼』の闘いにビルドアップ!


最後に咲夜が目を向けたのは‥、

「‥ああ‥もう‥」

ふらり、と危うげに、虚ろな眼のまま立ち上がった、
すぐ眼の前にいる、半人半霊の少女だった。

「もう‥なんかもうどうでもいいや」
「妖夢‥?」

現在進行形で破壊の限りが尽くされている、白玉楼の美しかった中庭(過去形)、
それを悲しげな瞳で見つめた妖夢は、ポツリと、目の前の少女に告げる。

「あそこにいる全員、なんかもうどうでもいい」

そして、脇に差す二本の刀を静かに、力強く、
確かな闘志と共に引き抜いた。

「奴ら全員の身体、二つに分ければこの巫山戯た闘いも終わるだろ?」

言うや否や、妖夢は中庭目掛けてジャッカルのような踏み込みで走り向かった。

「だ、駄目よ!妖夢!!」

妖夢の剥き出しにされた只ならぬ殺気を肌身で感じた咲夜は、
時間を止めて、庭に降り立った妖夢の眼の前に一瞬で移動し、立ちふさがる。

「落ち着きましょう!ここで貴女までもがこの闘争に加われば、被害は広がるだけよ。
 それに貴女一人でここに居る人全員に勝てる訳ないでしょ?」
「咲夜さん、私の邪魔を?」

妖夢は、今まで自分を慰めてくれていた咲夜を前にしても、
その鋭い眼差しを一辺も曇らせることなく、殺気を込めた言葉で問い返した。

「分かるでしょ、貴女みたいに殺意でギラギラになっている人が、
 お嬢様を含めたあの場全員を敵と判断し葬ろうとしている。
 私は立場上も、そんな貴女を止めなくちゃいけない。けれど私は貴女と闘いたくなんて‥」

咲夜が言葉のすべてを言い終える前に、妖夢は動いていた。
咲夜のその細い首筋目掛けて、
寸分の容赦もなく、手に持った刀の一振りを、叩き込む。


―時間停止―


その刀が触れる擦れ擦れのところで、咲夜は自身の能力を発動させ、妖夢の後ろに回って攻撃を避けた。

「まだ‥私の話は‥!」
「いつから、ですか?」

飽くまで説得を続けようとする咲夜に対し、妖夢は冷たく言い放つ。

「いつから、私と貴女は、『戦いたくない』なんて、優しい言葉を言い合えるような、甘ったるい間柄になりました?」
「そんな言い方‥、確かに、初めて出会った時は、お互いの立場から傷つけ合うしかなかった‥、でも‥」

二度、三度、刃を交える内に、咲夜は妖夢のことをだんだんと理解していった。
責任感の強い性格、命じられた任務を忠実にこなし、主へと絶対の信頼と忠誠を寄せている。
だが、頭の固いところもあり、一度勘違いすると、周囲の制止に構うことなく暴走してしまうことも度々ある。
でも、咲夜はそんな不器用な妖夢のことが、決して嫌いではなかった。
だから、彼女は叫ぶ。
目の前の少女を止める為に。


「私たちは、友達でしょう!?」




―時間解凍―


妖夢の頭上から、何十にも重なった銀のナイフの豪雨が、
完全に彼女の不意を突いて降り注いだ。

「ぃっ!!!」

避ける時間はない。
妖夢は二振りの刀を自分の頭上に向け、がむしゃらに叩き込んだ。

六道剣「一念無量劫」

二つの刀から青白く鋭い無数の弾幕が放たれ、降り注ぐナイフを撃ち落としていく。
その最中、
必然的にノーガードになった妖夢の腹部目掛けて、更に多くの数のナイフが、
彼女の前方より放たれた。

「くそっ、舐めるなぁああああ!!!」

人鬼「未来永劫斬」

上空に向けて振り上げた直後の、一振りの刀に力を集中させ、前方のナイフの群れ目掛けて、
妖夢は目一杯の力で振りおろした。
青い閃光が地面を走り、ナイフの群れを一つ残らず蹂躙し蹴散らす。

「はぁ‥はぁ‥」

全ての攻撃を防ぎ切り、肩で息をしながら、
妖夢は今再び眼の前の敵に向かって睨みを飛ばした。

「これだから貴女は油断ならない。こちらが全力で警戒し殺気を飛ばし続けても、
 貴女はそこから隙を見つけて攻め込んでくる」
「そんな‥、人のことをペテン師が何かみたいに言われるとは心外ね」

嫌だ嫌だと、迷惑そうに首を振って咲夜は答える。
その両手に、溢れんばかりの数のナイフを握りながら。

「私は貴女のことを本当に友達だと思っているし、本当に闘いたくなんかないって思ってる。それは本当よ」

言いながら、咲夜は何でもないようにナイフを投げ放ち、
妖夢も確実にそのナイフを刀ではじいて打ち落とす。

「ただ、同時に貴女が私の仕事をする上での、邪魔物や障害物になるというなら、
 それはそれで仕方ない。さらば友よ、黙って消えてもらうだけですわ」
「まったく、貴女は本当に、本当に完璧で瀟洒なメイドだと思う。本当に本当に鬱陶しい」

忌々しげに咲夜を睨みながら、魂魄妖夢は再び二振りの刀を構える。

「悪魔の犬め、まずはあなたから真っ二つだ」

同じく、ナイフを放つ体制を整え、十六夜咲夜は宿敵と相対し、薄く微笑む。

「その、ちんけな刀、たった2本で?」
「数ばかり多い、あなたの短小なナイフに言われたくない」

二人の従者は、互いの武器を熱く握り、
白玉楼の中庭にて、この因縁の決着を付けるべく立ち合い睨み合い、

「リーチの違いをッ!」「教えてあげるッ」

そして、重厚な金属音が響き合い、
二つの刃物が重なり合い交じり合い、
熱き火花を灯し合った。



この時点で『吸血鬼&スキマ妖怪+式』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人タッグ』VS『鬼』の図式、
『吸血鬼&スキマ妖怪+式』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人タッグ』VS『鬼』の闘争、及び『メイドVS庭師』の決闘に、

―今、最終進化。






「うわー」
「うわー」

ちなみに、話に全然付いていけてないで客間に残されているのは、この物語のヒロイン、
夜雀ミスティア・ローレライと、ゆっくりみすちー、

「ウわああああああああ」「うにゃああああああああ」「うわあああああ」「うわああああああああ」

そして、ゆっくりふらん、ゆっくりちぇん、ゆっくりれいむ×2、それぞれ驚愕で目を見開き、恐怖からかガタガタと震えている。

「あらあら、ウフフ」

そしてこの屋敷の主人、どこまでも剣呑としている西行寺幽々子であった。

「ここまで発展しちゃうと、流石にもう私にも止められませんわね。傍観することしかできないなんて歯がゆいわー」

言葉ではそんなことを言いつつも、中庭の激闘を興味深げに、
如何にも面白いものが見れたとばかりに傍観している様からは、歯がゆさなんて欠片も見えない。
明らかにこの状況を楽しんでいる。

「妖夢も、あのメイドと戦ってる時は凄く楽しそうねー。仲の良い友達が居るってことは、本当に素晴らしいことですわ」
「いやいや、どう見ても殺意丸出し鬼の形相です、本当にありがとちんちーん」

呆れながらゆっくりみすちーが幽々子に対して見たままのツッコミを入れる。

「フフ、それで良いのです。例え友人同士であろうと、どうせ喧嘩するなら、
 感情も技術も底力も、全て剥き出しこそが望ましい。本気でぶつかって、初めて見えてくるものは、
 それこそ数多存在します。そこから生まれる絆だってあることでしょう」
「そーなのかー」

分かってなさそうに首を傾けるゆっくりみすちー。
一応幽々子の先の発言は、ゆっくりみすちーとミスティア、そして自分の関係も考慮に入れてのものだったが、
どうやらまるで気付いていないようである。
そこがまた可愛らしくもあり、また幽々子はフフフと微笑む。
そして、幽々子は、おや?と気付いた。
先から自分の言葉に反応しているのはゆっくりみすちーだけで、当のミスティアは無言のままだ。
彼女の方を見ると、

「あわわわ‥」

中庭の戦闘描写を見て小さくなって震えているようだ。

(あらあら‥、まぁ幻想郷の一妖怪にとっては、ちょっと刺激が強すぎたかしらね)

数週間前、自分に勇ましく挑んだ夜雀の、すっかり可愛らしくなってしまった姿に、
また幽々子はニコリと微笑むと、ミスティアの肩にポンと手を置きフォローの言葉を送る。

「大丈夫よ、確かに酷い光景だけど、この部屋の中に流れ弾が入ってこないよう、私が護って‥」
「あああ、もう‥駄目‥!!」
「駄目‥?」

ここで、幽々子がミスティアの顔を覗き見れば分かっただろう。
彼女の尋常でない表情に。
彼女が決して恐怖から来る感情で震えている訳ではないことに。
何故ならば、彼女の心中にあった感情は‥、

「もう駄目、我慢できない‥!」
「え‥?」
「死神に閻魔に鬼にメイドに庭師に、あと、よく分からないけれど強い奴がこんなに、こんなに集って、
 こんなに凄い弾幕勝負を繰り広げてる‥!! こんな状況、初めてだよ‥!!」

そう、彼女の表情に満ち溢れていた感情は、歓喜。
子供が無邪気に誕生日を喜ぶような、混じりっ気のない喜びと期待。

「こんなスペシャルステージがあったら‥、歌うよね‥? 歌うしかないよね‥!?」

夜雀にとって、
ハードでロックな歌を愛する夜雀にとって、
ミスティア・ローレライにとって、

何より大切なことは歌うこと。
素敵に派手に過激に劇的に、自分の存在を指し示さんと大声で歌うこと。

そして、観客もステージも、素敵に派手に過激に劇的に、はしゃいで鮮血弾けてイカレ狂ってる、今現在の白玉楼中庭、
彼女にとって、これ以上の舞台はない。

「ていうか歌う!! もう歌う!! 歌う歌う歌う!!!」

そこに自身の身の危険を危ぶむ恐怖のような計算高さが介入する余裕など、
夜雀の頭の中には欠片も残っていない。

「私‥絶対歌う!!」

ただ、この舞台を我が物にし、精一杯気持ちよく歌うことしか考えられない。

「ちょっと‥、あなた流石に」

危険じゃないかしら? そう言って制止しようとした幽々子の指先は、

「うったぅうううううううぃいいいいヤッホウゥゥウウ」

目をキラキラさせて中庭へ羽ばたいて行った夜雀を止めるのに、全然間に合っていなかった。

「お姉さん、凄ぇ‥。みすちーは全然分かっていなかった。歌への情熱というものを‥。
 この姿に進化してか慢心してたよ。みすちーは全然お姉さんと比べて歌への情熱がまったくもって足りて‥」
「言ってる場合じゃないんじゃないかしら?」

何か先のミスティアの行動を良いことっぽく語りだしたゆっくりみすちーを横目に、
幽々子は今日一番の焦燥感を肌で確かに感じていた。

「流石にこの弾幕に巻き込まれたら、いくら妖怪だからって‥」

そう、いくら生命力の高い妖怪だって、粉微塵に身体が破壊されてしまっては、
吸血鬼並みの再生力を持っていない限り、復活は難しい。
しかし、そんな難しいこと、今のトリップしたミスティアに分かるはずもなく‥。

「うぃやっほう!! みんなぁぁ! 乗ってるかぁぁいいぃ!!」

中庭で一番高い桜の木の頂上に止まり、ミスティアは全力で声を張り上げ、庭中に自身のシャウトを響き轟かせる。
その周囲の状況を気にも止めず大声を張り上げる様は、正に放歌高吟。

「突然だけど、ミスティアのゲリラライブ、只今より強ッ制ッ開ッ幕ッ!!
 みんなぁ!!否応なしでも私の歌を聞いてもらうわよ!!」

ミスティア。翼をピンと張り詰め、鋭い爪をこれでもかと振り上げる。乗りに乗っている状況。
もう本当に、どんな危険に包まれようと、歌をやめようとはしないだろう迫力である。

「それじゃぁ、最初のナンバー。我らが夜雀の歌をさっそくぅぅ」



「「五月蝿いわぁぁぁあ!!!!」」


中庭で弾幕勝負の最中だった数名、
真剣勝負の最中にそんな庭中に響く五月蝿い声を聞かされて、流石にキレる。
と、同時に、反射的にミスティアに向かって全力で弾を発射。
突然発生した騒音に対するツッコミのようなものだったのだが、全力勝負の真っ最中だったので、手加減はすっかり忘れている。
容赦のない複数の殺陣攻撃がミスティアに真っ直ぐ迫る。


「歌いま‥ がぁ痛ッダッ!!」

ミスティア、全力で被弾。
まず避けるという発想すらなかった様子。

「キャきゅ~」

当たり所が良かったのか、特に身体が四散したり飛び散ることなく、ミスティア地上へ失墜。
漫画のように目をぐるぐる回していて、落ちながらすっかり気絶している様子。
そしてそのまま地面へ、
弾幕飛び交う乙女の戦場へ墜落するかと思われた瞬間、

「危ない!」

ミスティアを後ろから慌てて追ってきた幽々子によりナイスセーブ。
抱き抱える形で、ミスティアを両腕で掴み、そのまま周囲を飛び交う弾幕を避けつつ客間に戻り、畳の上にそっと彼女の身体を置く。

「お姉さぁああん!!いくらなんでも無茶し過ぎだったよ!!」

パタパタと可愛い翼を一生懸命羽ばたかせ、心配そうにミスティアに駆けつけるゆっくりみすちー。
しかし、彼女の意識は完全に途切れており、ゆっくりみすちーの声に反応することはない。
そんな彼女の様子を見つめながら、幽々子は小さく溜息を吐く。

「まったく、世話のかかる子ね‥。私としたことが、本当に、心配してしまったわ‥。
 本当に心配した。妖夢の初めてのお使いのときぐらい心配した‥。」

しかし、ミスティアに命に関わる傷はない。
妖怪の再生力なら、数時間寝ればすぐ治癒される程度の傷だ。
幽々子、取り敢えず一安心。

「ハハ‥、まったく私ったららしくないわね‥。もうちょっと、ゆったりまったり、
 心に余裕をもって亡霊ライフを送ろうと思っていたのに‥ね」

やれやれと、幽々子は疲れたように首を振って、中庭の様子を見つめた。
ミスティアを撃ち落した後も、未だに馬鹿らしい喧騒を続ける中庭の連中を、

「なんかもう‥、心配の波が引いたら‥今度は一気に‥、腹が立ってきたわ‥、妖夢以外」

亡霊らしい冷たい瞳で、
心底恨めしい仇を見るように睨みつけた。



私の、

この私の、

お気に入りの、

可愛い子を、



私の可愛い夜雀を、



無残に撃ち堕としておいて、謝罪の言葉の一つもなしか‥。



「そういうことって、許されないものよね?」



故に、その亡霊は、





―しゃらん
と、






白玉楼の中庭に、

過酷なる戦場の中心に、

優雅に、雅に、儚げに、


美しく舞い降りた。




「だから、死んでしまえよ」




ただ一言。
その場に居る愚か者共に、
人生の終わりを確約する言葉を呪いのように宣告して。

「へ、幽々子?」
「あれ?キレてる?」

数名、その亡霊の本当の実力を知る鬼やスキマ妖怪だけが、
その事態が示す恐ろしさを一瞬で肌で感じとたったが、
そんなこと、
これから巻き起こる更なる惨劇には、何ら影響を及ぼすものではなかった。


「死ぃね」


死の権化、西行寺幽々子。
この中庭の戦場に、
『吸血鬼&スキマ妖怪+式』VS『閻魔&死神』VS『蓬莱人タッグ』VS『鬼』の闘争、及び『メイドVS庭師』の決闘に、

―真の最終参戦。


かくして、このイカれた舞台の完成と終幕は同時に訪れた。











エピローグへ続く

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最終更新:2010年05月22日 10:52