緩慢刀物語 妖夢章 微意 後編-4




「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「……おばあ、ちゃん?」
 ちぇんは今一体この場で何が起こっているのか分からなかった。
突然自分に抱きついたかと思ったら葵は叫び声を上げて苦悶の表情を浮かべて歯を食いしばっている。
「ひゃ、ひゃっひゃっひゃ!!! 座薬マッシ~~~ンガーン! のお味はどうや!! 家族がいるっつうのはほんまらしいな!
 ええなぁ家族愛! 美しゅうて敵わんな! ま、美しいからええってもんでもないがな!」
 体が邪魔して誰が喋っているのか分からないが何か尋常じゃない音が連続して聞こえ、その音がする度葵の表情はどんどん生気のないものになっていく。
その状況から推測にすぎないがちぇんは理解した。葵は自分を庇っているのだと、そしていつもの力が出せず敵のなすがままになっている事を。
「ちぇ、ちぇん。痛くな、い?無事、? ぎゃっ! こ、ここは、危険んああああああああああ!!!」
「お、おばあちゃあああああああああああん!!!!!!! やめてよぉ! わからないよぉ!!」
「ならさっさと覇剣を渡せやぁ!!」
 ちぇんが泣き叫ぶ声が聞こえてもきもんげは機関銃(注:マシンガン、分類で言うなら軽機関銃だ)を止めようともしない。
いつしか葵の着物は血に塗れ、葵は体を動かすこともままならなくなった。これでは覇剣を渡し降伏を願うことすら出来ない。
「どうなんや!! わいはダンマリが嫌いなんや! 何か言え! ほらほら!」
「………ら、らん……」
「「ちぇええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!!!!!!!!」」
 ちぇんの叫びに呼応たのかアホみたいに響き渡る声が天井から聞こえ二人のらんしゃまがドスンと降り立った。
「たまも……きゃすこ……」
「全く世話かけますねぇ、こんな厄介なものと対峙するなんて、ほんと社交性が無いんだから」
「でもちぇんをしっかりと見張っていなかったらん達にも責任はあります。仕方ないけどお守りしますよ、じゃ、行きますか!」
 二人のらんしゃまは三本の尻尾を逆立てて、辺りに妖しい炎を纏ってきもんげに体当たりを喰らわせる。
妖炎が迫りくる弾丸を全て溶かし、またその突撃はゆっくりとは思えないほどのゆっくりしたものでなくまともに食らったきもんげはそのまま吹っ飛んでしまった。
「どへぇーーー!!!」
「はぁ、葵様。自力で立てますか?」
「…いや、どこ見てそんなこと言ってるの、無理、無理だから」
 葵達を安全な場所まで運ぼうととするらんしゃま達であったがその前にまだ動けるてゐ達が立ちふさがる。
らんしゃま達はすぐに身構えたがてゐ達は襲いかかる様子もなく、ただただ一家に向かって言葉を発した。
『らんしゃまたちはあいかわらずばかなんだねぇ、わかる、わかるよぉ。しょうじききもちわるいねぇ』
「!!!!!」
 てゐ達の口から出たのはちぇんと全く同じ声だった。
らんしゃま達はそれがちぇんの口から発せられたものではないと理解していたはずなのに、何故か心にドギツイものをぶつけられたように体が硬直してしまう。
『はぁ~あ、ちぇんはしょせんらんしゃまのあいがんどうぶつなんだねぇ、ひとをばかにしたようにあまやかしてこまっちゃうよぉ』
「う、うそだっ! ちぇんが、ちぇんがこんなこと言うはずが無いっ!」
「落ち着いてたまも! あれはうさぎ! うさぎだっ! 本物のちぇんはここにいるッ!」
「らんしゃまぁ! ちぇんはここ『はげしくうろたえてみっともないねぇ、こんならんしゃまとひとつやねのしたにいたなんてがっかりだよぉ』
 ちぇんはそんなことおもったこと『さっさとぶりてんとやらにでもいってきつねがりされればいいんだねぇ』ちがうよぉ!!!」
「落ち着きなさい! 下手に心乱すと相手の術中に嵌る……」
 葵の忠告も受け取れないほどらんしゃま達は激しく狼狽し、てゐ達はニマニマと胡散臭い笑みを浮かべ畳みかけるようにちぇんの声で叫んだ。
『こんなくっさいきつねみたくもないねぇ、にどとちぇんのまえにあらわれないでほしいよぉ!!』
「「ちぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!」」
 てゐ達のセリフに激しい衝撃を受けたらんしゃま達は恐怖にひきつった表情であらん限り叫び一瞬にして体を石に変化させてしまった。
てゐ達はそんならんしゃま達を激しく笑い、罵り、そしてじりじりと葵達に詰め寄っていく。
「見たか因幡忍法『猫者騙』! ただの声真似では済まさないところがなんとも忍法らしいウサ!」
「この一日二日の調査もまるっきり無駄じゃなかったてことだねぇ、おっと口調戻さんと」
「ぐ、ぐぅっ」
 らんしゃま達が動けなくなった今、ちぇんを守るのはもう自分しかないと葵は痛感する。
しかし体の痛みと焦燥感が集中力を激しく乱し、この場の皆を移動させるだけの次波を作り出す事は出来なかった。
「……こんな日もいつか来るって覚悟はしてた。でも、ちぇんだけは……! ちぇんだけは……ッッ!!」
 これが報いか、刀を奪った事に対する罰なのか。だがその罰を何故罪のない子供にまで与えようとする?
ちぇんは戦で親を、友を、全てを亡くし屍の上でただ一人孤独に泣いていた、何故これ以上この子に悲劇を与えなければならないのだ!
「命に代えても……」
 あいつらの中に飛び込み空間の力を暴走させればあいつらを自分諸共次元の彼方まで吹き飛ばす事が出来ることだろう。
この子はちゃんと一人で生きていけるだろうか、少し甘やかしたけど一人で生きる術は教えたつもり。けれどどうしても不安は尽きない。
「でももう時間は無いか」
「さぁて観念するウサ! うしゃしゃしゃしゃ!」
 てゐ達が襲いかかろうとする前に葵は傷ついた体でてゐ達の中へ飛び込もうとしたが、目の前に一つの影が現れ思わず躊躇した。
「!!!!」
「桂園流!! 桂剥きぃ!!」
 それは銀髪を携えお菓子の剣を構えたゆっくりみょん。
みょんはゆっくりしてない目にも留まらぬ速さでてゐ達の隙間を抜けていき、その合間合間にてゐ達の髪の毛を切り裂いていった。
「……くぅっ! やはりこの傷ではこの程度かみょん」
 だが体中に傷を負った体では実力を出し切れず、てゐ達はつるっぱげではならずに少年みたいな短い髪になるだけであった。
みょんはすぐさま残りの髪を根こそぎ削ぎ取ろうとしたが軽い爆発音が鳴り響きみょんの体は再び吹き飛んでしまう。
「お、おんどりゃあ……折角仕立てた服が台無しやんけ……このお代は高くつくでぇ!!!」
「みょ、みょんッ!」
 らんしゃまにやられた傷がありながらもきもんげは足取り重く機関銃の先をみょんに向ける。
みょんは引き金を引かれるよりも速く打ち倒そうとしたが傷のせいで動きが鈍り、弾丸の連続攻撃を喰らいお手玉のように空中で弄ばれた。
「いだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!」
「ぬっひゃっひゃっひゃあ! 永夜国の科学力は世界一ィィィィィーーーーーーッッ!!」
 機関銃の猛攻でみょんを空中に浮かし続け、きもんげはとどめにと散弾銃の引き金に指をかける。
せめて戦闘続行が出来るようにみょんは浮きながらも必死に身構えたが、今までとは比にならない轟音と共に機関銃の猛攻が止まりみょんも地面にぽてんと落ちた。
「……ん、な、なん、何が……うぎゃああああああ!!!!」
 いつの間にか機関銃と散弾銃の両方に風穴が開いており、そのせいで両方の銃は暴発しきもんげの目の前で激しい爆発を起こす。
座薬弾だったからこそ死ぬような傷は負わなかったもののきもんげは顔を押さえ痛みにもだえ苦しんだ。
「…………」
「手ごたえありぃ、さすが対戦車と言うだけはあるね、みんな大丈夫?」
 何と言うか、あまりにも都合が良いというか、まるで狙って入ってきたんじゃないかって思うくらいの瞬間で、烏丸彼方は長炎刀を携えながらこの場に参上した。
彼方は長炎刀を抱えた方の肩をぐりぐりと回し、だらりと転がっているみょんのもとまで駆け寄る。
「か、かなた殿……た、助かったでござ」
「その前に誰がノータリンじゃぼけっ!」
 何故か不機嫌そうな顔をして彼方は長炎刀の先をみょんにぐりぐりと押しつける。
引き金に指がかかっていないから撃つ気は全くないようだが撃ったばかりの長炎刀の先はやっぱり結構熱かった。
「あなた、どうして…?」
「けっ無様だね、無様すぎる、でもそれ以上に悲惨だよ」
 彼方は苦虫を噛み潰したかのような表情で葵を見下すが、石になったらんしゃま達やちぇんもろとも葵を隣の部屋まで運んでいった。
「……どういうこと? 憎いんじゃ、ないの?」
「うるせぇ!! あんな寒空で一人いたら頭も冷えるさ!! さっさと隠れてろ!」
 そう叫んで彼方は隣の部屋に続く襖を勢いよく閉めて目の前の因幡忍軍達を睨みつける。
てゐ達は彼方の長炎刀に警戒しているのかただただ観察するようにじっとその場から動かなかった。
「あぢぢぢ……しかしかなた殿? 今までずっとそれを探していたのでござるか?」
「ん~、そうと言えばそうだし、そうじゃないと言えばそうじゃないね。
 なんとかこれを見つけたはいいけどすっかり復讐する気無くなっちゃってね、それでとぼとぼ帰ったらなんかこいつらの姿が見えたじゃん。
 そこで私は様子を見たんだよ、いやウザい奴がフルボッコにされてメシウマだっただけだけどさ。なんか洒落にならなくなってきてね。
 ま、そこで私は裏口から入ってそこの襖から好機をうかがって……バーン!ってわけさ!」
 畜生、このアマ狙って入ってきやがったのか。
まぁそんな文句も言う暇もなくようやくきもんげが立ちあがれるほどになり彼方とみょんは互いに武器を構えた。
「ご、ご、ご、しょんべんむすめがぁぁぁ……ぶちのめしたる、ぶっころがしたるでぇぇ!!」
「はぁん! 人がいない間勝手に覇剣買おうとしたり、人が奪ったなんてくっだんねぇ嘘吐きやがってさ!
 てめぇらにやる刀は一本たりともねぇ! 代わりにこの弾丸を喰らいな! そのきったねぇ顔を吹っ飛ばしてやる!!!」
 彼方は長炎刀をきもんげたちに向け引き金を引くが長炎刀は音すら出さず、ただカチカチと引き金の音を鳴らすだけであった。
「…………………………………あ、もう弾が無い。やべぇ買った分全部撃っちゃった!」
「いざって時に……」
 彼方が残りの残弾が無いか探しているうちにきもんげはいつの間にかてゐから一本の鉄柱を受け取る。
恐らくそれは一本の日本刀、鞘に収まってはいるが明らかに人間のために作られた真剣であるように見えた。
「ちぃっ! かなた殿、ここはみょんが戦うでござる」
「えぇ~ケチッ」
 彼方は一応自分の身は自分で守れるほどには強いが真剣相手なら回避率が高い自分の方が良い。
とりあえず彼方を後ろに引かせみょんは痛みに耐えつつ羊羹剣を構えた。傷を負っている点では相手も同じだ。
「遠距離攻撃でさえなければ負ける道理は無いみょん!」
「このドグサレがぁ……この冷前鬼門下の剣捌き受けてみろや!」
 きもんげが刀を鞘から引くと刀身が異常に光りみょんは思わず目を瞑る。
一瞬覇剣の類かと思ったが実際はただ光を反射しているだけ、その刀身は金色に包まれて品の無い光を放っていた。
「……はぁぁ~~~~? 金の刀? ふざけてんのかみょん?」
 錆びはしないだろうがそんなもので戦おうとするとはなんとも見栄っ張りな事よとみょんは思わず鼻で笑う。
きもんげはその挑発に受けることなく刀を振り上げみょんに向かって振り下ろした。
「そんなものでみょんが倒せるかぁ!!」
 意気込んでみょんは羊羹剣でその刀を受け止めるがその瞬間体に激しい衝撃が走り思わず怯んでしまう。
その衝撃のせいでみょんは思うように反撃が出来ず防戦になるしかなかった。
「くっ! や、やはり真剣は重い!」
 相手のきもんげも人間に身体能力が劣るゆっくりだというのにここまで真剣を自由に操れるとはみょんも予想外だった。
しかし金で刀身が出来ているというならば鉄ほどの強度は出せない、付け入るとしたらそこにあるはずだ。
みょんは攻撃が止むその一瞬に羊羹剣を突き立て振り落とされる刀に向かって一気に突きを繰り出した!
「!!!!」
 点と線、強いと言われればそれは一点に集中した突きの方が強い。しかしそれでもなおみょんは押し負けてしまい羊羹剣に一筋のヒビが入った。
菓子剣はゆっくりの刀であるが切れ味や強度はやはり真剣に劣る。
しかしこの『斬れない物はほとんど』がウリの羊羹剣にヒビが入るとは、それに強度なら金なんかよりも上のはずだ。
「!!! なっ!」
 相手の刀も傷が付いてないか確認したそのときみょんは今までの認識がすべて間違っていた事に気が付いた。
今までぎんぎらぎんと光っていたその刀の金色部分が所々剥がれて所々金属特有の銀色が覗かせているではないか。
「め、メッキしていただけっ!?」
「うけけ、ほんまよう騙されるわぁ」
 きもんげは力をためて勢いよく刀を振りみょんを大きく吹き飛ばす。
みょんはなんとか受け身を取ってすぐにきもんげの前へ戻ったがその隙にきもんげは刀のメッキを全て剥ぎ取っていた。
 見た目は普通の真剣で先ほどの金色状態の方がずっと異色だったかのように思える。
しかし刀身に宿る銀色の鈍い光は明らかに鉄でできた真剣とは一線を期していた。
「……ただの刀じゃないでござる……な」
「御名答、これも永夜の科学力が生み出した至高の一品、金烏刀『重命』!!!
 金と烏が表す字はタングステン、鉄なんかよりもずっと硬く重い金属や!!!」
 タングステンという金属の名をみょんは知らなかったが新しい金属で作られた新しい形の真剣だということは理解出来た。
だとするとみょんの羊羹剣とは激しく相性が悪い。羊羹剣はあくまで『斬れない刀』であり、衝撃による破壊に対してはそれほどの防御力を持っていないのだ。
そしてその刀を操るきもんげの力、見た目に反し全く侮れぬ相手である。
「羊羹剣ではこれ以上受け止められぬ……かみょん」
 このヒビでは一、二撃受け止めるのが精いっぱいだ。だからと言って今口の中に仕舞っている刀も羊羹剣以上の硬度を持った刀はない。
きもんげは刀を隙なくみょんに向かって振り回し、刀を受けられないみょんは後退するしか道は無く壁まで追いつめられてしまった。
「ふん、西行国一の武士って噂らしいけど、案外他愛ないなぁ!」
「くっ!」
 まさに絶体絶命という状況、しかしきもんげが刀を振り下ろした瞬間みょんはきもんげの身長よりも高く飛び跳ねてそのまま壁を蹴ってきもんげの頭を狙っていった。
「んなっ! ゆっくりがそんな高く飛べるはずが!!」
「天から与えられたこの力に感謝!! この一撃うけてみろみょん!!!」
 障害物もなく、その重量のために刀を振り上げて迎撃する事も出来ないだろう。
だがきもんげはすぐさま刀から手を放し、飛びかかるみょんを両手で殴りあげた!!
「が、があっ!!!」
 失念していた。相手は体つきとはいえゆっくり、小回りの良さは普通の人間と比べて格段に良いのだ。
(し、しかし、この素早い反応………こいつは並の武士ではないみょんッ)
 流石あの因幡忍軍を預けられるだけのことはある。けれどその考えも続くことなくみょんは天井にぶつかり、そのまま抵抗する事も出来ず無様に落下していった。
「イナバァ!! 撃ち殺せっ!!!」
 とどめは自分の手で付けるというこだわりもなくきもんげはてゐ達に命令を下し、てゐ達は口に棒状手裏剣を含んでみょんに向かって狙いを定める。
しかし手裏剣を放つその直前、部屋に配置されていたはずの大きな家具がてゐ達に向かって投げつけられたことによって陣形が乱れてしまいてゐ達は攻撃する事が出来なかった。
「ウ、ウサ!?」
「……てめえら、一対一じゃないっていうんなら私も頑張っちゃうぞ……」
 彼方はすかさず次の家具を持ち上げるがてゐ達は即座に目標を切り替え彼方に向けて手裏剣を放つ。
放たれた手裏剣は彼方の豊満な肉に容赦なく突き刺さしていくが致命傷になる程ではなく、彼方は一瞬の躊躇もせず家具を投げ飛ばしてゐ達を一斉に吹き飛ばした。
「い、いでぇ……だがなめんな!! こんな傷日常茶飯事じゃい! 次はてめえかぁぁ!!!」
「こ、こむすめがぁぁぁ!!!」
 彼方の家具ときもんげの刀は互いに怒りを載せて何度も衝突する。
刃は激しい打撃を受けてもなおその形状を維持し続け、八回目の打ち合いの末家具を弱い部分を切り裂きそのまま彼方の腕を突き刺していった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「はぁ、はぁ……普通の刀やったら折れてたかも知れんがな……こいつはただの刀とちゃうで!!」
 ありえない、ありえない、この硬度、この重量がありながら普通に切断能力があるなんて。
鍛冶屋が身近にいたからこそ彼方は刀の硬度の限界というものを知っていたつもりであった、基本硬度の高い金属は熱にも強く鋳造するのも不可能なはず。
 それ故に彼方はきもんげの刀を形だけの”鉄棒”だと思っていた。切り裂かれるとは夢にも思っていなかったのである。
「ああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「いてこませぇぇぇぇ!!!」
 今度は体ごと切り刻もうときもんげは刀を振り上げるが彼方の後ろから木片が飛んできて思わず攻撃を止めて構えてしまう。
その一瞬を狙ってみょんが二人の間に飛び込み、きもんげの刀を打ちようやくきもんげを一歩引かせる事が出来た。
「きさまのあいては、このみょんみょん」
「……そんな傷で大丈夫なんかぁ?」
「はっ、貴様に心配されるまでもない! 問題など一つたりともないでござる!」
 みょんはこの場から退くように彼方に指示を出してきもんげと再び打ち合いを始める。
打ち合い自体は先ほどとそう変わらない、しかし明らかに違う所と言えばみょんの持っている菓子剣が変わっている点だった。
「なんやっ? 獲物がかわっとるやないか!?」
「ふっ、何か問題があるのでござるか?」
 みょんの挑発的な笑みが気になりながらもきもんげは刀を振る手をより加速させようとする。
だがその思案とは裏腹にきもんげは何故かうまく腕に力を入れる事が出来ず、むしろみょんに押し負けそうになった。
「どどういうことやっ!! こんなっ!」
「……仕組みは分かったみょん」
 このきもんげの刀の特性は重量と硬度、その二つに特化している。
特に重量は攻撃面において重要な要素だ、鉄を遥かに超える重さにより重力の恩恵を受け刀は加速と力を得る。硬度はそれを補佐しているにすぎない。
つまり、この刀は”振り下ろす”時が一番の破壊力を持つのである。
 そう考えれば打開策は簡単だ。振り下ろす時には反撃を考えず防御に力を入れる。
そして振り下ろされ相手の攻撃を受けきったその瞬間、打ち返すように刀を振るえばいいのだ。
普通の刀相手ならその瞬間を見極めるのは不可能に近い、だが重量に特化したその刀は持ち上げる時に労力がいる故に見極めも容易なのだ。
 みょんはその理屈を己の力と根性でなんとか実施しきもんげをじわりじわりと押していった。
「ぐ、ぐおおおっ!そんなアホな!? 何で菓子剣なんかに押し負けるんや!? 何故折れん!?」
「うっせーー!! みょんと菓子剣なめんな!」
 みょん直々に説明する暇もないのでここで説明しよう。
今みょんが携えている茶色の菓子剣の名は 甲剣「千兵」。甲剣と名が表すようにその剣の特性は「硬度」である。
もちろん特殊合金で作られた金烏刀よりかは劣るがその硬さは菓子剣の中で一、二を争い、金烏刀を受け止めるのには十分な硬さであった。
 そんな刀があるのなら最初から使えと思うかもしれないが、この刀はつい先ほどまで存在すらしていなかった。
菓子剣の特性は製造が容易という点がある、みょんはつい先ほど彼方が敵の目を引き付けている間にこの刀を即興で作ったのだ。
「この刀は……あおい殿の一家のものだみょん」
「は、はぁ!? 急に何を!」
「あおい殿はちぇん殿に歯を強くなってほしいとあえて硬い煎餅を出したんだみょん。まぁ不器用故みょんに親心は分からぬ。
 だが、その家族の幸せを壊そうとするなど言語道断!!! 一家に代わり成敗してくれよう!!!」
 どうやら何時の間にやらちぇんからあの硬い煎餅をかすめ取っていたらしい。
 みょんはとうとうきもんげを壁に追い詰め打ち合いながらもじぃっと隙を窺う。
例えこんな状態でも下手に間合いに入れば殴り飛ばされるのがオチだ、色々な意味でこのきもんげに対しては油断が出来ない。
「うらぁ!!!」
「んみょっ!」
 だが、膠着した状態のまま優位に立ち続けることなど出来るはずが無い。
硬度の差もあってか打ち合っているうちに千兵の限界が訪れ、ピキッと軽い音が響いて千兵に一筋のヒビが入ったのだ。
「!!!!」
 これ以上は長く戦えない。
そう本能で感じてみょんは千兵を真横に構え、きもんげの攻撃をただじっと待った。
「今やぁーーーーーーー!! 隙アリっ!」
「鍵山流! 流し雛!!」
 みょんはきもんげの力を受け流しそれを利用しててこの原理のように空中に跳ね上がる。
この戦法はきもんげも予測していた。寧ろなぜ今までやらなかったのかと疑問に思うくらいであった。
どうせ刀振り下ろした隙を狙って無防備な懐に入るつもりなのだろう。
だがきもんげだって永夜国の者として場数は踏んでいる、そんな事をしようとした敵のゆっくりはどのくらいいただろうか。そのくらいの対処など既に出来ているのだ。
きもんげはみょんが懐に入って来るのを待ち構えるかのように刀の持つ手を緩めるが、みょんは浮きあがった後でもきもんげに近づかず刀の上の空中でくるくると回っていた。
(! 一体どういう事や!?)
 対ゆっくり用の反撃対策、それはあくまで懐に入られた時だけであり今のみょんはきもんげの射程範囲に入っていない。
けれどそれはみょんも同じ、一体どうするつもりだと思っているとみょんは千兵を真下の刀に向かって突き立てたのだ!!
「則巻流!! 霰!!!」
 みょんは刀の刀背に載り、千兵で幾度も連打する。
そのうちに千兵も強度を保ち続けられなくなりボロボロと欠片を溢していくがみょんは何の躊躇いもなく突き続けていった。
「な、そ、そんな、そんなことで折れるかいな!!」
「折る!! 愛は負けぬ!!」
 何いっとるんと思いつつもきもんげはみょんの迫力に負けてつい何もできずに呆けてしまう。
そして千兵の半分以上が欠片になった時であろうか、硬度が自慢の金烏刀に少し亀裂が入っていたのだ。
「ま、まさかかかああああああああああああ!!!!」
 きもんげはすぐさま刀を振り回しみょんを振り落とそうとしたが手を緩めていた事を忘れ、手だけが真上に上がってしまう。
手を放した事によって金烏刀は地面に落ちようとするがその前に千兵はその刀身を全て欠片に変え、金烏刀はバキンと言う音を立ててその刀身を二つに分けていた。
「んな、んな、アホな、そんなアホな……そんなあほなあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「……さて、まだ何か永夜国の科学があるのかみょん?」
 千兵も砕け散り二人は互いに空手となるがもう勝てぬと悟ったきもんげはひぃぃと弱音を吐いてみょんに背を向けてこの場から逃げようとした。
「逃がすかぁ!!!」
 しかしみょんはすぐさま口の中から羊羹剣を取り出し、きもんげの背中を追って思いっきり後頭部をぶっ叩く。
怒りのこもった一撃はあまりにも重く、きもんげはそのままその場で意識を無くしジャリンジャリンと服に隠していた小銭をばらまいて昏倒してしまった。
「………か、勝った」
「ひ、ひぇぇぇ宰相が負けたあ!! 総員退却ーーーーーー!!!」
 きもんげが負けたのを知るとてゐ達は倒れたきもんげを抱えて脱兎のごとく葵の家から逃げ出していく。
これで全て終わり、そう思ったみょんだが少し彼方の事が気にかかる。
あの刀が折れたのも事前に彼方が家具で打ち合っていたからこそだ、労いの言葉でも贈ろうとしたが彼方は部屋の隅で呼吸を荒げながら苦しそうな表情で座っていた。
「か、かなた殿!? 大丈夫でござるか!?」
「………ハァ……ハァ……ハァ……みょん、さん。勝ったんだ、ね。でも血が、血が止まらないよ」
「……ッ!!」
 彼方は全身に十本以上の手裏剣を受け、その上腕をあの刀で切られた。
この怪我は今までの比ではなく体の至る所の傷からは血が止め処無く流れ、彼方の表情もどんどん生気が無くなっていった。
「早く止血を! ええい、どこかに布は!!」
「…これって……罰なのかな……あの子を人質にしたりしたから……?」
「もうその表現は飽きたでござる! 何か……何かぁぁぁ!」
 彼方は静かにゆっくりと目を閉じ、次第に体も力が抜けていってずるずると滑っていく。
みょんはあらん限り叫んだ。この子は自分が守ってやるべきだったのに、どうして気付かなかったのだろうと。
彼方はバカで間抜けであってもギャグマンガの住人ではない。傷つければ痛むし血を流す、そして死んだら二度と生き返れないのだ。
「ぬあああああああああああ!!!」
 治し方が分からないから狼狽しているのではない、寧ろそう言う場数を踏んでいるからこそみょんは嘆いた。
これじゃ血が止まらない、このままじゃ助からない、このままでは死んでしまう。
理解しているがゆえに目の前が暗くなり、どうせなら共に死のうと切腹しようとした瞬間、襖が開き葵が足取り重く部屋に入ってきた。
その腕の中には一本の刀を携えて。
「あ、あおい殿!」
「大丈夫……早くこれを彼女に返してあげて、折れたままだけど効果はあるわ」
 そう言って葵はその刀をみょんに手渡す。形、色、重さ、どこから見ても彼方の覇剣だ。
いや、偽物である破剣の可能性も捨てきる事が出来なかったが僅かな希望の前ではそんな疑惑も吹き飛び、みょんはすぐさまその刀を彼方の体の上に載せた。
「ん……」
「かなた殿」
 覇剣を載せた途端血の色が失せていた肌も生気を帯びるようになり、呼吸も次第に落ち着くようになっていった。
折れていても命の剣と呼ばれた刀か、みょんはほっと安心し体を弛緩させながらも止血の作業を続けた。
「しかし、良いのでござるか?」
「………いいの、全部私が悪かったんだから、ごめん、ごめんなさい」
 いつか見た葵の少女としての顔、それはあまりにも脆く儚げで美しい。
その顔にひたすら懺悔の表情と涙を携え、葵はもはや自分はそんな高尚な存在でないことを示すかのように二人に頭を垂れた。
「今日はもう休みましょう、みんな疲れているわ」
「分かったみょん」
 止血も終えてみょんは覇剣を絶対に放させないように彼方を寝室まで運ぶ。
 こうして二人はようやく覇剣を手元に戻すことが出来た。
特に何か犠牲にしたわけでも特にどこか成長したわけでもない戦いで、はっきり言ってしまえば正義や悪がどこにあるのかすら良く分かっていない。
けれど守れた、結果は零に終わってもそこには暖かい何かが残っていったように感じたのだ。
(……よかった)


「こんなにも、こんなにも頼もしい仲間がいる、もう何も怖くな……はっ! ゆ、夢かみょん」
 珍妙な寝言をほざきながらぐっすりと眠っていたみょんは不意に眼を覚まし頭を再稼働させる。
看病しているうちに自分も眠ってしまったのだなとみょんは目を擦り彼方の容体を確認しようとしたが目の前の布団にその少女の姿はなかった。
「……みょん?」
 これは一体どういうことだ、あんな怪我を負っているというのにどこへ行ったというのだ。
そこでみょんに脳裏に嫌な考えがよぎる。もしや、彼方など初めから存在していないのではないか?
「いや、疑心暗鬼すぎでしょそれ。どんだけ鬱展開にしたいのよ」
 後ろから葵の声が聞こえみょんはぐるりと振り向く。
葵は全身に包帯を巻きつけ満身創痍ながらも元気そうな表情で布団の上にうつ伏せになっていた。
「あの子なら立ち上がれるほど元気になるとすぐにちぇん達の方に行ったわ。どうやら私と一緒に居たくないみたいね」
「うう、また失礼なことを……」
「謝らないで、そう思われても仕方が無いんだから」
 葵はふうと大きな息を吐き顎を枕に載せて物憂げな表情を浮かべる。
先ほどの戦いでなんだかんだ一番影響を受けたのは葵だろう。色々思う所もあるようである。
「……やっぱり、私ってまだ子供かな。あの交渉だって素直に受け止めていれば騒ぎにもならなかったはず。それなのに私、自分のために……」
「いやいや今回も全部あいつらが悪いでござるよ。あおい殿が気にする必要は無いみょん」
「いいえ、確かにあのきもんげの言葉は確かに胡散臭かった、けれどだからって嘘だと断じるのは明らかにこちらの思慮不足。
 もしかしたら私とんでもない事をしたんじゃないかって思うのよ」
 みょんは因幡忍軍に散々襲われているからあちら側が悪と簡単に決めつける事が出来るが葵にはそうもいかないらしい。
物事を多方面に見る事が出来るのか、それとも繊細なだけか、葵は悔しそうに歯を噛みしめて枕に顔を埋めた。
「私あの時から全然成長して無い、自分より年下の人たちより子供っぽいって何度も思った事がある。情けない」
「い、いや、流石に何百年も生きてそんな子供なんて……そんなことないみょん、自虐的すぎるみょん。それに仙人になれるんだから子供のままなはずが」
「違う、私はなりたくて仙人になったわけじゃないの」
 その言葉にみょんは思わず呆ける。え、仙人って成りたくないと思っても成れちゃうもんなの?と。
葵は口を震わせながらその理由を語った。
「昔、私がまだ人間の少女だったころ。本当に少女だったのよ?多分十歳前後のあたりだったかしら。
 私は想い人を戦で亡くした。私は嘆いたわ、その人が死んだというのに村でのんびり暮らしてた自分に対してね。
 力が欲しいと思った。生き返らせる事が出来るならどんなことでもしていいと思った。そう思っていた矢先あれが現れたのよ」
「あれ……とは一体?」
「……仙人よ。そうと断定したわけじゃないけどね。でもそいつは不思議な力を持っていた、宙を操り、世界を繋ぐ不思議な技、次波を。
 私は請い願ったわ、その力があれば異世界から生きている想い人を連れてくる事が出来る。失ったものを埋め合わせすることが出来るのだと」
 その言葉を話している時の葵はとても悔いに満ちていた。
恐らくそんな愚かな思考をした過去の自分を激しく嫌悪している。その方法では埋め合わせなど出来るはず無いとすっかり悟りきっているのだ。
「仙人は私の願いを聞き入れてくれて、自らの力を私に授けてくれたわ。そしてそれと同時に私は人であらざるものとなった。
 つまり私は心が未熟なままこのようなものになったのよ。人としての心の成長を忘れ、いつまでも下らないガキのままの私は意味もなく時代を流れた」
「………………そんなことが」
「だから私は子供なのよ、無理して大人ぶっている感じが痛々しいでしょ?」
 一通り話を終え、葵は気を抜くために背を伸ばしたが傷が開きそうになって悶絶する。
「つ~……まぁ、でも今更人間に戻りたいとは思わないわよ。死ぬのは怖いし、家族いるし、次波便利だし」
「そう言う所をみると本当に仙人らしくないみょん……」
 怪しいもの特有の胡散臭さもとっくに消え失せ葵はすっかり少女らしさを前面にして話すようになった。
すっかり元気になって良かったとみょんは彼方の方へ向かおうとしたが少し心残りがあり再び葵と向かい合う。
「そう言えばあおい殿、今後は一体どうするつもりみょん?」
「ん? どうするといわれても今まで通り普通に家族四人で生活するつもりだけど?」
「しかし、その、覇剣が必要だったのでござろう?それほどちぇん殿は体が弱いのなら西行国一の医師を呼ぶでござるが」
 常時錯乱状態のらん達が体弱いという事は無いだろうから覇剣が必要なのはちぇんのはず。
しかし葵はしまったといった顔でそれを真っ向から否定した。
「あ、あ~あ~………その、あんだけあいつらの前で高らかに言ったはいいけどそんなんでもないの、みんな健康よ」
「……え、ええと、家族のために覇剣というのは………」
「あれね、覇剣は命の刀。その力は所持しているだけでも及ぶもの。
 だからあの剣を装備していれば装備者は寿命以上の生を受けることが出来るのよ」
 それは、なんだ?
確かに寿命以上の生というのは喜ばしい事だ、でもそれを他人に送るのは単なる押しつけにもなりかねない。
もしかすると葵が味わった苦しみをちぇんにも送ることとなるかもしれない、そんなのあまりにも身勝手だ。
「い、いいじゃない! そんなこと百も承知よ! でも、でも……しょうがないじゃん! 怒るなら怒れー! きぃー!」
「あ、あおい殿ぉ……?」
 自分がただの少女として告白してからすっかり葵はそれを隠そうともしなくなった。
この傍若無人で破天荒っぷりはどこかしら彼方を思い出させる。
「はぁ、一人はずっと辛いのよ」
「一人……かみょん?」
「そうよ、私のこれから先長く生き続けると思うけどちぇんは普通のゆっくり、私よりも絶対に先に死ぬ。
 そうしたら私はまた一人よ……この事はあの子にも言ったっけね」
「らんしゃま達は?」
「あの二人はきっとちぇんの後を追うでしょうね。あの子らは私ほど生に執着は無いみたいだし私についてきてくれるほど酔狂じゃない」
 葵はほろりと涙を流し目元を掛け布団で拭いて布団の中に蹲る。
まるでその布団が葵一人だけの境界を作っているようでみょんは少し空しくなり、少しだけでも慰めようと声をかけた。
「ちぇん殿だって一人前のゆっくりとして成長していつかは結婚し、子を授かるみょん。
 あおい殿はその子を見守っていけばいいでござる。その子もまた子を授かる、その子もまた子を授かる。そうして代々共に家族と暮らしていけばいいみょん」
「……そうね、確かにそうかもしれない。でも、私怖い」
「怖い?」
 孤独以上に怖いものが見当つかずみょんは思わず言葉を反芻してしまう。
葵は布団の中声をくぐもらせてぶつぶつと呟いた。
「孤独は紛れる、新しい思い出も出来る。でも、時がたつにつれ、私はきっとちぇんのことを”忘れて”しまう。それが怖い」
「そ、それは一体どういうことでござるか!?何か次波の影響なのでござるか!?」
「……違うわ、ただの生理現象。昔の出来事は新しい記憶に流され消え落ちる。
 私は、私は人間からなった不完全な仙人だから忘れてしまうの。人間やゆっくりのように普通に昔の事を忘れるのよ。
 もちろん大切な人を亡くすのが一番辛いし怖い。けれど忘れることは別のベクトルの怖さなの。
 そう、昔懇意にしていた人の事を忘れている自分がいるという事が何よりも、怖い」
「……」
「さっきね、想い人を亡くしたって言ったじゃない。でもね、私はその人の顔も名前もほとんど覚えてないのよ。
 歪んだ考えとはいえその人のためにこんな生き物に成ったというのに私は忘れてしまったのよ!
 だから、だからちぇんには恒久の時を共にして欲しかった!!!ふえ、ふえ、ふええええええええええええええええん!!!」
 布団の中で葵は滝のように後悔と懺悔、自分の感情を爆発させて涙を流している。
葵は自分が成長していないと言った。だがみょんはそう思わない。葵は自分を省みる事が出来るし愛を授ける立場にもいる。
ただ、ほんのちょっと心の成長が遅いだけだ。いつかはきっと大人になる。
「……まだまだちぇん殿は生き続けるみょん。その時まで見守ってあげるでござる」
「………ひっぐ」
 これ以上みょんにはかける言葉は無い、後は彼女の家族に任せようとみょんは隣の部屋に行こうとしたが、襖を開けて入ろうとした瞬間彼方の足とぶつかってしまった。
「あ、かなた殿……怪我は大丈夫でござるか?」
「大丈夫だ、問題無い…………何と言うか、やっぱ長く生きてるってのも考えもんだね」
 今まで二人の会話を盗み聞きしていたのだろうか。彼方は葵を一瞥するがそこに憎しみの感情は無くそのまま振り返った。
「その、かなた殿。あまりあおい殿を責めてやらないでほしいみょん」
「……もう水に流したよ、まるで雪解け水だ。でも私は個人的にきにくわねー!雪も止んでるしそろそろ行くよ!もう!」
「は、はぁ」
 もう何も言葉はいらないといったように彼方はずかずかとこの場を去っていきみょんはぽつんと取り残される。
これ以上世話になるのもなんなので彼方を追ってこの家から立ち去ろうとしたが、流石に礼の一つでもとみょんは葵に向かって頭を下げる。
「助けてくれた恩義、この真名身四妖夢忘れぬでござる。それではふぉるてあ・ふぉ、ふぉるり?ええと、そのあおいど」
「……四輪」
「へ?」
「本名は四輪 葵(よつわあおい)っていうの、フォルティアってのは洒落で付けた名前なの」
 起き上がった葵の姿は今までの妙齢の女性ではなく年端もいかない少女そのものであった。
恐らくこれが葵の本当の姿なのだろう、みょんも最初は驚いたがすぐに自分を取り戻し再び首を垂れる。
「……では、四輪あおい殿!またいつかまみえることを祈るみょん!」
 そうしてみょんもこの部屋から去っていき、彼方の待つ玄関まで辿り着く。
「おねえちゃんたちいっちゃうんだねぇすこしさみしいよぉ」
「ちぇん殿、あおい殿をよろしく頼むでござるよ」
「わかる、わかったよぉ、じゃあおげんきでねぇ、にゃーん!」
「ちぇええええええええええええええええええええええん!!!……ああ、はやくきゃすこも石から戻ってくれないかなぁ」
 ちぇんとらんに見送られ二人は再び白銀の世界を踏みしめる。
太陽が雪に反射してキラキラ光り、まるで新しい世界に辿り着いたかのようだった。
「さて、結局覇剣は直ってないしなぁ、次どこ行く?」
「ど、どこって……まず家に帰って旅賃取ってくるんだみょん!! 無駄使いばっかして! 今後お小遣いなしみょん」
「そんなぁ、これが無かったらみょんさんヤバかったじゃない。そこをなんとかぁ!」
「そもそもこれが無かったらここに戻る事もなかったみょん!! みょー! みょーーん!!!」
 静かな世界でやかましくこのお話は幕を閉じる。
きっと一家はこれからも暖かい団欒を続け、旅人は世界を回るだろう。終わりはまだ、見えない。







緩慢刀物語妖夢章微意    ~終劇~








~後書き
これもうゆっくりSSじゃねぇと本格的に思い始めた緩慢刀物語妖夢章微意でございます。
何せ古いネタだから本当に書き終えられるかどうか不安でしたがなんとか書きあげられてホッとしております。
さて、今回彼方ちゃんに新しく武器が用意されました。まさに銃×剣です、いや、すみません、なんとなく出してみたかっただけです。
対戦車小銃とかふざけた名前とふざけた破壊力を持ったチート武器かのように思われますが実際は既に残弾0、外国の特注品なのでそこらで弾を買うこともできない。
つまりは今後どうにかしない限りあの銃はただの鉄棒なのだぁーーーーーーーーー!まぁ使いたい時は理屈付けてでも使わせるとは思います。
それでは今回はここまで、次回は一体何が出るのかお楽しみ、ではでは。

  • そもそも自分が覇剣をどっかにやったのが悪いのに、散々彼方の事を失礼だのなんだの言っててこいつ嫌いだなぁと思ったらそういう事情だったんですね
    まぁ嫌いなのは変わりませんが
    -- 名無しさん (2011-04-16 12:51:54)
  • 今回はゲストキャラより、彼方の精神性が気になる話でした。
    元々発狂的なところのある精神の持ち主ということなのか、
    それとも行動の裏に何かがあるということなのか。
    現時点では、彼女自身に対する評価が下しにくい。
    ちょうどこの感想を書いてるのは企画ものの最中ですが、
    このような特殊な部分の裏付けがないと、結構難易度が高い感じがします。
    逆にそういう部分の設定付けを含めて参加者が好きにやっていいというのであれば、
    自由度は格段に上がるかもしれませんね。


    葵の方は、子供っぽいのにこれだけやられててよく自制してるなー、という印象w
    能力ゆかりん精神てんこ、っていったところでしょうか -- 名無しさん (2011-05-01 17:44:36)
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最終更新:2011年05月01日 17:44