【2011年春企画】緩慢刀物語 永夜章志位 後篇-3


「防衛線100m後退!」
「突撃部隊40%行動不能!!遊撃隊30%行動不能!弓兵部隊と銃兵部隊も敵の弾幕攻撃を受け損害を被っております!」
「こ、これであと一時間半も持たせないといけないのか!?!?」
 ハクアレイ砲によって兵個人の戦力差はある程度埋まったがクローンによる物量作戦によって永夜軍の戦線は次第に後退せざるおえなかった。
既に敵の第五波を蹴散らしたと言うのに敵は依然わらわらと宇宙から湧きだしていく。司令部もこの戦況の悪化に焦燥感を強めていった。
「落ち着きなさい!行動不能と言っても死にさえしなければ体半身失っても戦線に復帰できるのよ!士気を維持させることを第一に!戦術兵器-Uの使用を許可します!」
「は、はい!司令部より指令!突撃遊撃部隊は後退!09部隊!ペタペタフレアキャノンの使用を許可します!!」
 鬼気迫る命令により突撃部隊と遊撃部隊はしどろもどろになりながら撤退し、敵軍との距離が一時離される。
そして橋から約数百メートル離れた場所において赤く、そして核マークが描かれた三つの砲台が敵の方へ向けて照準を移していた。
「とうとうこの兵器を使う時が来たのか……」
「隊長!照準OKです!いつでも発射できます!」
「……ペタペタフレアキャノン発射!!」
 赤い砲台は排熱口から莫大な熱量を放出し、太陽のように光る砲弾を橋の方へ向けて発射する。
砲弾はそのまま放物線を描きながら橋に衝突して、半径100mの全生物を業炎の炎に包んで行った。
「せ、世界の終わりかよ………」
 空気は揺らめき、炎から発せられる光は夕焼けよりも赤く戦場を照らしていく。
そしてその炎が治まった時、橋の上には全ての存在が黒鉛となって噴きあがる風に舞っていった。
「状況確認!!」
「はい!敵の第六波は全滅、またペタペタフレアの残留燃料により橋の600m地点はセ氏7000℃を超えました。残留燃料が消失するまでは後一時間はかかると思われます」
「これで一時しのぎにはなったわね……でも油断しない事、敵もどんな兵器を持ってるか分からない。
 次の敵が来る前に兵達の治療、弾薬、矢の補充を行うこと、あと対光学兵器部隊を橋のふもとに位置させなさい」
 あくせくと命令を下しえーりんは自分の力を抜いて溜息をつく。
本当だったら体全体が垂れるくらい力を抜きたいが皆の前でやるわけにもいかず、またこの状況に油断するわけにはいかないからだ。
神力も削ぎ落したし冥王星からの距離を考えると戦術戦略クラスの兵器は隠密に持ってくる事は出来ないはず、
だがきっと間もなくとんでもないものを仕掛けてくるだろう、えーりんはそう確信していた。
「!!火星付近から巨大な物体が接近中!!遊星爆弾と思われます!!」
「待機中の対空兵器『円鮫』で撃ち落としなさい!大気圏に突入する前に粉々に砕く事!」
「冥王星からレーザー砲が放たれました!!跳ね返すことが出来ましたが再反射まであと五分は必要です!」
「…………」
 急に攻撃を急かすようになってきたな、とえーりんはこの状況に少し疑問を覚える。
確かに歩兵が進めない以上遠隔攻撃に頼るしかないのだがこの急な怒涛の攻撃はあまりにも不自然だ。
「09部隊に通達、橋の2100m地点にもペタペタフレアを撃って通行できないようにしなさい」
「え?分かりましたがあの兵器は威力が大きすぎて兵達の恐怖を煽っています。それに何発も撃てるようなものではないので無駄撃ちはあまり……」
「一つの保険よ、急に遠隔攻撃が多くなってきたからもしかして何かを隠ぺいしてるんじゃないかなと思わざるを得ないのよ」
「……了解しました」
 目的も分からぬまま再びあのペタペタフレアが放たれ再び橋の上は業炎に包まれる。
粘性の高い高熱残留燃料によって橋の上は生命の通行を熱でもって遮ってくれるだろう。2100m程間があけば相手がどんなものを連れてきても十分な対策を練れるはずだ。
「09部隊より司令部へ、連続してペタフレアキャノンを発射したため安全に再発射するには50分は必要とのことです」
「そう……これで、良かったのかしら」
 まだ甘い、とえーりんの脳裏で何かが叫ぶ。
だが敵の姿が無い以上他の兵器を出すわけにもいかない。それにそれらは効果範囲が広すぎる上に倫理的にも問題があり、絶対に使いたくないものであった。
「……この不安はなんなの?敵の動向は変だしあの子の事もある……」
「司令!惑星生命探知機により土星付近に2000以上の生命が移動中とのことです!」
「2000?少し多くない?」
 敵兵が多いのは脅威ではあるがそれは逆に不自然でもある。
何せ戦場が幅が約三丈しかない橋の上だ。兵を増やしても戦力の増加にはすぐには繋がらず味方内ですし詰めになるのがオチである。
500、800、400、700、1000、600と敵は数を投入してきたのだがそれが二倍以上、その差に違和感を覚えざるおえなかった。
「………監視を続けなさい。何か嫌な予感がする」
「はい」
 その敵兵が地球軌道上に訪れるまでは静かなものであった。
炎に怯える者を運んだり、戦線に復帰した兵士を陣形に加えたり、残弾を確認したりしてはいたが大きな動きそのものは無かった。
それはまるで台風の目のように、だが目を抜けだした時には再び暴風雨が訪れるものである。
「……あれは……箱か?」
 望遠鏡で覗いていた総隊長は地球圏内に入ってきた物体を見てそう呟く。
その言葉通りその物体は箱そのものであり、地球圏内ギリギリの場所で約10個置かれていった。
「生命反応によるとあの箱の中に生命体が詰まっているようです」
「クローン兵じゃない………?」
 皆が固唾を飲む中その箱の蓋が一斉に開かれる。
中から這い出てきたのは6本の足、白い甲殻と赤い瞳を持ち、大きさがゆっくりと同等の虫みたいな生物であった。
「\アリダー!/」「いや蟻じゃねぇだろ」「\サンダー!/」「何故に雷?」「なんか綺麗だなぁ」「うっそぉ虫なんて気持ち悪いだけでしょ」
「落ち着け、恐れることは無いぞ。進路上にあの残留燃料がある以上こちらに来れないはずだ」
 虫達はわらわらと揉み合いへしあいしながら進み、一心不乱に永夜軍の方へと向かっていく。
その勢いは残留燃料の前でも留まることは無く、一匹、一匹と自ら残留燃料に足を踏み入れて灼熱の炎に包まれていった。
「…………っ!?」
「よしっ!引っかかったぞ!所詮は下等生物か!」
 いや違う。下等生物なら生存本能から目の前の危険を敏感に察知して自ら熱の塊に足を踏み入れることはしないはずだ。
そう言う風に改造されていたとしても自ら死にに行くのは異常すぎる。
 密集していたためか燃え移るように数百体の虫が炎に焼かれていったが、その時にようやく虫の異常性を理解する事が出来た。
「あれ……まだ生きてないか」
「そんなバカな!?」
 総隊長は嘘だろといったような表情で虫の群れを見る。
炎によって空気が揺らめき細かいところまで見ることは出来なかったが、炎の中の影は未だ虫の形を変えず足をせっせと動かしていたのだ。
「…………ありえん」
 例え神力を伴った月の民であっても7000℃の熱に包まれれば何かしらの損傷は被る。
だがその虫は一歩も留まる様子が無く残留燃料の沼を渡りきり炎を振り払うと、恐るべきことに先ほどと一糸変わらぬ姿を残していた。
「…………………………………」
 たったそれだけのことであったが、前線も司令部もこの化物じみた虫に対しただただ開口するしかなかった。
あんな生物兵器を相手に自分達は勝てるのか?というかあれはそもそも生物なのか?
 だが呆然と足踏みしているわけにもいかない。こうしている間にも虫達は着実に歩を進めていっている。
「………09部隊に通告、ペタフレアキャノンをあの生物に向けて発射いたしなさい」
「ええっ!?先ほど言った通り再発射にはまだ時間が……」
「7000℃の熱が効かないというのにどうやったら剣と槍で倒せると言うのよ!!」
 あの不死身のような生物を前線にまで迫られでもしたら恐らく戦線は混乱の極みに陥るだろう。
そうなる前に多少リスクを冒してでもあれは排除しなければならない。多少混乱はしていたもののえーりんは考えうる対策を打ち出した。
「ペタフレアキャノンの中心温度は一億℃……あれを受けては月の民でさえも……」
「09部隊に通告!ペタフレアキャノンを発射せよ!なに?あと二十分はかかる?二度と起動できなくなってもいいからせめて暴発しなように調整して下さい!!」
 通信兵の怒号が司令部に響き渡るとペタフレアキャノンは万遍に冷却ガスを浴び橋へと照準を合わせる。
それでも全体から発せられる煙は抑えきれず排熱口からは熱とともに溶けた金属まで流れ出してきた。
「くそっ!時給が高いからって志願するんじゃなかったぜ!」
 舌打ちしながらも09部隊の兵は制御用のコンピュータを動かし発射用のボタンを勢いよく押す。
煙は噴出すべきでないところからもうもうと湧きだし、冷却用のガスさえも平然と吹き飛ばす。それでも砲台は動き始め灼熱の核熱弾を発射していった。
「ペタフレアキャノン着弾!狙いは少しずれましたが敵生命体の80%を効果範囲に巻き込めました」
「80……?分かったわ」
 戦況報告を聞いて頷くえーりんであったが残りの20%、約400体をどう抑えるかで一つも安心することが出来なかった。
それに09部隊からの連絡が無いことも気にかかる。無理をさせてしまったせいでもしかして何かあったのではないだろうか。
不安で不安で気がおかしくなりそうになる。だが一つの報告が入ったことでえーりんのそんな不安は一気に吹き飛んだ。
「……ほ、報告、し、し、します……敵生命体……未だ健在……あははははははははははははははははqはは………」
「………………………………」
 嘘だと言ってよバーニィ。
まるで滑稽だ、まるで喜劇だ。でも、その事実はモニターを通じ、どうしようもなく人々に伝えられてしまった。
「容貌から多少の損害は受けているようですが……生命活動を止めるには至りませんでした。あーもー世界は終わりだーいやっほぉォォォォォォ」
「地球万歳ちきゅうばんざーい」
「せめてしぬちょくぜんまでゆっくりする。ゆっくりだもの」
「お腹いっぱいだんごたべたい、もしくはステーキ、またはイナゴの竜田揚げ」
 この衝撃的な報告に司令部は絶望の末に錯乱し司令系統が崩壊しかける。
えーりんだって「ゆ~えーりんはまだまだわかいわよぉ~」とか言って現実逃避したい。それでも月の民の理性をフルに稼働させ皆を一喝した。
「ば、バカなこと言ってないで突撃部隊を配置させなさい!!迎え撃つわよ!!」
「え~世界は終わりです。終わったのです。私達はあの虫にむしゃむしゃ食われるのです。だからゆっくりしましょうぜ」
「……今から碌でもない事を言った者は殺します」
 そう言ってえーりんは傍に置いてあったメスをお下げで掴み全員の首元に突き付ける。
流石にその状況でお茶らける事が出来るものはおらず司令部は一気に沈黙に包まれた。
「どうせ死ぬなら殺してもいいでしょう?でもね、敵の状況を事詳しく把握できるまで諦めてはいけない。まだ勝てる見込みだってあるはずだから」
「……と、7~10の突撃部隊、敵生命体を迎え討ちなさい。い、いわゆるあれですよ。熱耐性があるだけで斬撃耐性は無いかもしれないし……
 とにかく頑張ってくださいーーーーーッッ!!」
 これでなんとか司令系統は維持できたが状況は最悪から脱しただけで依然不利な状況にある。
一番問題なのが防衛線だ。倒すことは不可能でも敵生命体上陸を食い止める事が今の最大目的となる。
だが、あのペタフレアキャノンの残留燃料によって兵達は600m以上先に進むことが出来ないのだ。
それに敵が炎に包まれている間は攻撃することが出来ないため防衛線は少なくともそこから100m以上下がることとなるだろう。
 足止めのために放った残留燃料が完全に仇となった。兵達の士気も未だ低迷している。
「もう一つ通告!もしその生命体を仕留めたらここに持ってきてください!解剖して弱点を探ってみようと思います」
「わ、わかりました。でも殺せるんですかぁ?」
「少なくともペタフレアによるダメージは残っている。可能性はあるわ」
 えーりんは溜息をついて壁に立てかけてある時計を眺める。
覇剣が直るまではあと55分、ダラダラしてたらあっという間だが、地獄のような苦しみの中では永久にも感じるくらいだ。
「それにしてもあんな生物は一体……」
 一億℃の熱を耐えきるなんてまともな生物とは思えない。そんな生物を冥王星は作り出したと言うのだろうか。
神性をはぎ取られてなおあの生命力だ、きっと月の民だってまともに戦えば苦戦する。その上もし攻撃力や繁殖力まであったら。
「………ん?」
 と、そこでえーりんの中にあった一つの疑問が再び思い起こされる。
冥王星の盟主羽鴇は200年ほど前全身に酷いケガを負ったという。
穢れも無い世界で、その上高い神性を持つ彼女をどうやったらそこまでの傷を負わせられるのか。その答えが見えたような気がした。
「ま、ま、まさか!!!!」
 えーりんは真横に置いてあった惑星間通信機を急いで起動させる。
なんてものを送り込んできたのだ、自分達の手に負えない物を使ってくるなんてあまりにも常軌を逸している。
 最初は全然応答が無かったがしつこく発信することでようやく冥王星側と交信することが出来た。
『むむ。この新料理もなかなか美味美味、クローン達にも分け与えてみようかしら』
『楽観的過ぎませんか?相手は蜂月様の腹心不死射心えーりん様ですよ?兵が地球の民でも油断なりません』
『ん。なんか絶対に勝てる新兵器を用意したと技術顧問が言っていたわ。それを信用してもいいんじゃないの?』
「……………」
 なんか羽鴇とよりひめの二人でこたつに入ってラーメン食ってた。
映像越しでも凄く美味しそうに見えたがえーりんはその欲求を抑えて声を張り上げる。
「羽鴇様!!よりひめ様!!」
『ん。緊急回線が開いてしまったのかしら。いったい何の用?』
「あ、あんなものを地球によこして!!自分達の手に負えない物を押しつける気ですか!?」
『え。あんなものってなんの話?』
『……………』
 虚ろな目で首をかしげている羽鴇とは対照的によりひめは申し訳なさそうに沈黙を続けている。
昨日の反応が嘘でないとしたらきっと羽鴇は何も知らされていないのだろう。えーりんは通信機のカメラを司令部のモニターに向ける。
『………………………え。あ。』
『は、羽鴇様』
 今モニターには橋での戦場が映し出されている。時間が経っていたためか兵と生物兵器との戦いは始まっており開始数分でも惨状極まりない光景だった。
それが通信機越しに冥王星へと送られ、羽鴇は酷く苦痛に満ちた表情を浮かべ始めた。
「よりひめ様!もしかして羽鴇様が重傷を負ったのはもしやこの虫が原因では………」
『な。なんであんなものを使っているの!!もしかしてあれが新兵器だとでも言うの!?』
『羽鴇様!落ち着き下さい!!』
 直接的な回答は得られなかったがこの反応だと恐らくこの推察はあっている。
えーりんは答えられなくても尋ねたかったのだ、自分達を傷つけた生物をどうしてそう使うことが出来るのか、冥王星で何が起こったのかを。
 数分ほど宥められたおかげでなんとか羽鴇も落ち着きを取り戻し、よりひめはえーりんに向かって神妙に答えた。
『……確かにそうです。あれは200年前私達の集落を襲った原住生物を改造して生体兵器に転用したものです』
「原住生物?まさか冥王星に生物がいたの!?」
『……私達も予想が出来ませんでした。それらは数万匹と言う群れで地核から突如出現し私達を襲ったのです。
 強固な装甲、刀の如き肢体、神性すら破り全てを食いちぎる牙。私達でも抑えきれず冥王星のその34%は命を落としてしまいました』
「34%!?」
 思わず嘘だと呟きたくなったが実際にあの生物は一億℃の熱を耐えきっており、現実のものとして認識するしかなかった。
『よ。よりひめ!お、思い返させないで!!』
『申し訳ありません羽鴇様。でも、現に兵器として使われている以上今こそ現実として認識しなくてはならないのです……
 正直情けない話ですが、わたし達はその生物を駆逐することが出来ませんでした。
 1年ほど食い止めているうちにその生物が再び地中に戻っていっただけなのです』
「生物の習性に助けられたと言うわけね……」
 その生物は今もなお冥王星の地核に眠っている。いつまた目覚めるんじゃないかと冥王星の人々はきっと恐怖で気が気でならないのだろう。
だから彼らは地球を欲したのだ。穢れていると分かっていながら、足の下の地獄を恐れて。
「……でも、それを地球に送ったら元の木阿弥よ。そこは何か対策はしてあるんでしょうね」
『はい、長時間活動できないように改造はしてあります。ただ残念ですがそれでも3時間は動き続けるでしょう』
 生物兵器としては短時間だがこの戦力では絶対に三時間は保たない。つまり活動限界などあってないようなものだ。
しかし残念ですがと言う言葉がどうも嫌味ったらしい、かつての仲間とはいえ今は敵なのだと改めて認識させられた。
「……なるほど。もうなりふり構ってられないということが分かりました。
 でも羽鴇様? あなたは大丈夫なのですか?自分を傷つけた生物がうようよ動くのを見て耐えられますか?」
『…………ッ!!』
 情報を集め終わったと判断したえーりんはすかさず搦め手に出る事にする。
羽鴇はあの虫に対し全身を傷つけられたことがあって極度なまでに怯えている。生体兵器の事を彼女に知らされていなかったのもそのせいだ。
精神が摩耗しているとはいえ彼女は冥王星の盟主、彼女が計画を否定したらその計画は絶対に通ることは無い。
 その権限をこちらから利用させてもらおう。生物兵器の使用を今からでも撤回してもらうのだ。
例えそれが人の弱みに付け込む形であってもこの地球と人々の命には代えられない。これがかけひき、今こそ非情になりきる時なのだ。
『羽鴇様!今引いてしまってはずっとここで暮さなければならないのですよ!』
 そのえーりんの意図を察知したのかよりひめはすぐに羽鴇を説得するがえーりんは続けざまに語りかける。
「生体兵器が突然変異して繁殖するようになる可能性だってあります。そうしたら安住の地などどこにもありはしません」
『う。い、いや………』
「それに自分の手に負えない物を利用するなど英知と進化の塊と呼ばれた月の民のやることですか?」
『外聞など取り繕っている場合ではありません!月の民の存亡にかかわることなのです!』
 しばらくえーりんとよりひめの攻防が続きその間に挟まれ羽鴇は今にも泣きそうになっている。
だがえーりんには時間が無い。司令部のモニターの惨状はより凄惨さを極め、それに気を取られてしまい少し間が空いてしまった。
「……あ、その」
『…………そう。よね。何時までもお、怯えてはいけない。姉様に笑われてしまう』
「……っ!!」
 その言葉とともに恐怖に覆われていた羽鴇の瞳は徐々に光を取り戻すようになる。
恐怖を乗り越えられたわけではない、だが彼女は恐怖と向かい合う覚悟を決めたのだ。
それは地球にとってある種の死刑宣告のようなものだった。
『……ふぅ。えーりん、私はこの冥王星の民をいつまでも危険に晒すわけにはいかない。
 そのためにはどんな手段だって使う。だからあなたの意は汲めない』
「ゆ、ゆぅぅ……」
『ああ。お互い生きていけたならよかったのに………』
 そんな物寂しい声とともに通信は終わり、えーりんは切なさと悔しさで歯噛みする。
おぞましい事をしている敵に対して憎しみを抱きたいはずなのに、彼女はその敵を憎みきることが出来なかった。
かつては仲間なのだ。かつては友なのだ。もしかしたら、今でも仲間なのかもしれない。
「……羽鴇、よりひめ………」
「防衛線140m後退!!突撃部隊の60%が戦線復帰不可能な状況になりました!!
 弓兵部隊と銃兵部隊の援護も全く通用しません!ヤゴコロさまぁ!はやく命令をぉ!」
「……」
 戦場では兵達が既に水際にまで攻められており、もう長くないことは誰の目から見ても一目瞭然だった。
スピーカーからは兵達の阿鼻叫喚が聞こえてくる。モニターには兵達の血飛沫があがる。
『た、たすけてくださいいいいいい!!!うああああああああああ!!!』
『刀が折れたぁぁぁ!!なんで、なんでだよぉぉぉ!科学の結晶じゃないのかよォォ!!!』
『ゆわああああああああああ!!!ゆっくりできないよぉぉぉぉぉぉ!!!』
『な、何で後ろから……こ、こいつら橋の下を渡ってきてる!!!ちくしょう挟まれたぁぁぁぁ!!』
「……なんて、こと」
 月の民でさえ押さえられなかった生物を地球の民が抑え切れるはずが無い。
派手な攻撃は無かったが甲殻で覆われた生物兵器の多脚は兵達の体は見るも無残に貫いていき、物言わぬ死体にへと着実に変えていった。
それはあまりにも酷いワンサイドキルゲーム。司令部の誰もが思わず目を覆いたくなった。
「……ここで、終わりなのかしら」
「秋らめましょう……わたし達の命運はここで尽きたんです……」
「降伏が出来ないんだよね、謝って済まないんだよね、もういや」
 もはやこの現状で立ち向かう術を持たず、命令を出すことも無く司令部は沈黙状態になってしまう。
スピーカーから響く声だけが司令部を彩っていったがそんな中数人の兵が血と汗に塗れて司令部に入ってきた。
「ヤゴコロ様ぁぁ!!よ、ようやくあの生物兵器の死骸を手に入れました!!」
「………そう」
 今更解剖ごときでどうにかなると思っているのか。
それで打開できると言うのなら冥王星の人々はああも怯えたりしてはいない。
 しかし無駄だと分かっていながらもほんの少し心の中に希望が残っていたのか、えーりんは静かに承諾し司令部にその生物兵器の死骸を持ってこさせた。
「……瞳は四つ、形状としては蜘蛛に近いが足は六本、前足は攻撃用に鋭く発達、残り四本は吸着力が備わっている。重力が弱い冥王星での移動のためかしら」
 甲殻が焼けただれて死骸となった生物兵器を黙々とえーりんは観察していく。
だれもが朗報に期待していたがえーりんは酷く疲れた顔になって嘆息をついた
「……死後硬直により甲殻と甲殻の隙間が完全に閉じているわ……解剖は不可能よ」
「そ、そんな!!!嘘ですよね!!」
「……体液の跡から致命傷となった部分は推測できる。
 恐らくこの生物兵器は甲殻の隙間を閉める事で一億℃の熱を耐える事が出来るのね……無敵、と言うわけではないということかしら」
「でも、でも………」
 再び司令部は沈黙に包まれそうになったがえーりんは一つこの生物について妙な点をみつける。
「この虫………口が無いわ」
「口………ですか?」
「ええ、捕食用の牙も削がれている。元々こういう生物だったのかしら……」
 いや、違う。確かあの時よりひめは『強固な装甲、刀の如き肢体、全てを食いちぎる牙』と言っていたからこの生物には口となるべき部分があったはずなのだ。
では何故その部分をオミットしたのか。原因は色々考えられる。
 一つは栄養を取らせないため、この生物は短期決戦用に作られたのだから捕食活動を許して繁殖されては自分達の首を絞めかねない。
もう一つはこの星の空気がこの生物にとって毒であるから。折角送り込んだのに呼気をされて死なれてしまっては全く意味が無い。
 よりひめの言葉から考えると明らかに前者だ。だがそれで武器である牙を殺ぐのは少しリスキーのような気がする。
時間制限を付けるのならもっと効果的な方法があるはずだ。
「……何かが、何かが変………」
「や、ヤゴコロ様ぁ、いつまで死体をここに置いておくんですか?腐臭が漂って辛いですよ」
「腐臭?ああ、慣れてしまっていたから……」
 待て、生物が腐ると言うことは死ぬと言うことだ。それはいわゆる穢れにも繋がる。
穢れはいわゆる細菌と同じようなもので物を腐らせる作用だってある。しかし死んだばかりの生物がもう腐るなどと………
 そこで全てが閃いた。
「そうだ、この虫も穢れのない冥王星の生物……だから……この生物も穢れに弱いのよ!!」
 だからこの生物には捕食機能がないのだ。地球の生物はほぼすべて穢れを携えている。
それを捕食すれば体内にケガレをため込むことになり決定的な致命傷になってしまうからだ。
 そう、澄み切った水に墨汁を垂らせばあっという間に濁るように。
「そ、そうなんですか!?ようやく弱点判明ですか!?」
「穢れなら地球にいっぱいあるんでしょう!?だったらあいつらを地上に誘導すれば」
「いや、それではダメ」
 現に目の前にある生物は傷口の方から腐臭をまき散らしている。
恐らく穢れのダメージを与えるためには体内に直接ぶち込まなければいけないのだ。
「でも口が無い以上、装甲の隙間を縫うしか方法はありませんよ?それが出来れば苦労は……」
「蓬莱城に通達!今すぐ第三封印を解きミヅチ隊を前線に送りなさい!」
「え?ミズチ隊とは?」
「そのまま伝えるだけでいい!あと前線にいる部隊を戦略兵器起動のためにと言って撤退させなさい!」
「せ、せ、戦略兵器!?」
 通信兵はそのえーりんの言葉をありのままに伝えるが他の人はそのえーりんの言葉に驚きを隠せなかった。
あのペタペタフレアキャノンだって戦術兵器クラス、それを超える戦略兵器とは一体どのようなものであるのか想像さえできない。
「ヤゴコロ様!ミズチ隊出発したようです!あと前線の兵達も撤退を始めました!」
「……そう」
 これで何とか兵達の士気も持ち直すことだろう。あとは自分の推測があっている事を自分の目で確かめるだけだ。
今まで気を張りすぎていたためかその反動でえーりんはゆっくりらしく垂れてしまう。
「ところでヤゴコロ様、ミズチ隊とはなんなのですか?」
「見れば分かるわ、本当に使いたくなかったんだけどね」
 自分自身が全て狂気と悪意よって穢れた気になってしまうから、と呟く。
そして数十秒もしないうちに大型車によって戦線にミズチ隊が到着し車から大きな籠を三つほど取り出した。
「ミサイルですか?マイクロウェーブ砲ですか?」
「ゆっくり出来るものだといいなぁ」
「絶対にゆっくり出来ないものよ」
 全身が物々しい装備の兵によって幾重にも渡るロックが外され籠の蓋が開く。
その中からはちょうど手のひらサイズの虫や小型の爬虫類がわらわらと数百体にもわたって這い出してきた。
「うわっまた虫ですか」
「今度はちっちゃくてきもちわりぃなぁ」
「………………………」
 百足のような虫、蟻のような虫、蛇のようなもの、様々な種類の虫や爬虫類がいたが共通点として全てが全て黒く染まっていた。
その中には光など無いように、何を混ぜても黒にしかならないほど濁った黒であった。
「……ま、まさかあれは」
「見なさい、あれこそが悪意そのもの、死そのもの、永夜の科学が生み出した最悪の殺戮兵器よ」
 黒い生物たちは橋の上を右往左往しながら進み、そのまま黒い生物の群れとと白い虫の群れが互いに衝突しあった。
とはいってもどっからどう見たって攻撃能力がなさそうな黒い生物達はただただ愚直に進み白い虫達の体を這いずりまわることしか出来ない。
だがその瞬間、白い虫はぐちゃりと体から体液を噴き出しそのまま言切れてしまった。
「……え?」
「…………………」
 そのあとも全く同じ展開で、黒い虫達が這いずる回ることにより白い虫達は体をぐちゃぐちゃに溶かされていく。
一億℃の熱に耐えたあの白い甲殻も虫喰いのように至る所に穴が空き、そこから汚く体液を噴き出していった。
「う、うぇぇっ!!きもじわるぅぅ」
「ゆっくりできないよぉぉ!!」
「ヤゴコロ様!あれは一体!」
 今まで自分達を苦しめてきた虫達が死んでいくのを見ても、司令部には喜ぶ者はおらずただただ不快な表情を浮かべるばかり。
えーりんはその光景を見つめて淡々かつ神妙に語った。
「あれはケガレそのものよ。地球にあるケガレを数万倍にまで濃縮した最悪の毒。
 触れればたちまち生命は腐り死に至る。下手すれば一つの国さえも毒の沼地にしかねない、まさに殺戮兵器よ」
「こ、こ、こ、こんなものをどうして開発していたのですか!?」
「さぁ……どうしてでしょう」
 そうとぼけながらもえーりんはしっかりと覚えていた。
あの日、橋が完成して宣戦布告を受けた日、彼女は冥王星の人々に裏切られたと感じた。
仲間だと思ったのに、友だと思ったのに、彼女は怒り狂った。その感情に背を押され数百年の間培ってきた穢れの研究を全てこの兵器のために転用したのだ。
全滅させてやる、そんなおぞましい意志を持って。
 しかし完成して見ればあまりの威力に彼女自身も恐怖を抱き、そのまま永遠に使われないように封印をした。
それを今使ってしまったことに心が辛い。裏切られてもいないのに、本来の目的で使ってしまった事を激しく後悔している。
 表情には出てなかったがその心境は周りにも伝わったようで一人の将校が宥めるようにえーりんの頭を撫でた。
「………おあいこですよ。あっちだってあんなものを使っていたんですから」
「……そう、かしら」
「そうです!そして今こそ好機!挽回してやりましょう!!!」

 黒色の穢れにより冥王星の生物兵器はほぼすべて駆逐され、最後の一匹が悲痛の表情を浮かべてその命を終わらせる。
橋の上はもう腐りきった生体兵器の死体によって埋め尽くされ、穢れによって腐敗が加速化されほぼすべてが液状化していた。
「……な、なんですかこれは……最強の生物兵器ではなかったのですか!?」
 戦況の様子を確認しようと幾人かのクローン兵が成層圏地点に潜んでいたが誰もが目の前の光景に驚きを隠せなかった。
何せ自分達の決戦兵器が見るも無残な姿に変えていたのだから。彼らにだって普通に感情はある。
「本部に報告!生体兵器は全滅……ん、なんだこの虫……」
「か、体が溶ける!!!!!!まさかケガレか!?」
「嘘だろ!?この橋の上ではケガレは浄化されえあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 確かにこの橋には未だ宇宙に漂っているケガレを弾くためにケガレを浄化させる術を施してある、
だが触れば死に至るほど濃縮したケガレを浄化するのには時間がかかりそのまま成層圏のあたりまで上り詰めてしまったのだ。
クローン兵ごときにこの穢れを対処するすべもなくただただ恐怖に包まれながらその身を朽ちさせていく。だがその状況の報告だけは通信機によって冥王星に伝わっていった。

「残り30分………」
 生体兵器を駆逐してから数分が経ったが敵兵の姿は未だなく戦場は再び静寂に包まれる。
命を殺しきり橋によって浄化されたのか流石にあの濃縮ケガレもほとんど霧散し、生体兵器の死体も残留燃料によって燃焼され影も形も無くなっていた。
ただそのせいで戦場の空気は言いようもない状態だ。腐臭と毒臭と熱された空気で全てが淀んで見える。
「突撃部隊も残り32%……遊撃部隊も大分減っているわね」
「逃亡兵がいるのがきついですよねぇ……しょうがないと言えばしょうがないんですが」
 敵の最大戦力を駆逐したからと言って敵にはまだクローン兵による戦力が十分に残っている。
寧ろここからが正念場だ。もう大型兵器が残っていない以上今あるわずかな戦力でどう持ちこたえるかが問題である。
「………!土星付近に敵兵感知!生体反応によるとおよそ400人です!」
「白虎槍の陣を取らせなさい!持ちこたえることに専念するのよ!!」
 あらかた指示をし終ええーりんは固唾を飲んで敵の襲来を待ち受ける。
戦場に倫理など存在しない、だからどんな手で来てもおかしくは無い。それだけは覚悟していた。
「地球圏内に敵兵襲来!!後か火星方面より遊星爆弾が7つ迫ってきています!」
「同時攻撃とはね……円鮫を稼働させて遊星爆弾を破壊しなさい!歩兵の方は残留燃料で足止め出来るわ!」
「!!敵先頭は特殊な装備を装着しているようです!これはタンク……?他には狙撃銃なども携えています!」
「…………!」
 この場にいる誰もが敵は距離が取らざるを得ないから狙撃銃を持ってきたと思っているだろう。
しかしえーりんだけはその狙撃銃の携帯の目的に気づき、その真意を伝える頃にはもう手遅れであった。
「しまった!相手の狙いは……」
「円鮫によって遊星爆弾は全弾破壊……!!」
 その報告が入った瞬間、モニターの一部に映っていた対空兵器「円鮫」は突如大爆発を起こす。
一瞬何が起こったのか理解できなかったが、モニターの中心に映し出されている敵兵の姿を見る事によってその謎は瓦解した。
「て、敵兵の狙撃銃により円鮫全機大破!!してやられました!」
「狙撃銃はこれのためか!遊星爆弾を全弾破壊した後だからこそ良かったものの……」
「ま、待ってください!!もう一つ遊星爆弾の反応があります!!予想着弾地点は……この司令部です!!」
 その報告から司令部にざわめきが起こる。
恐らくこの絶望を彩るために一つだけステルスでもかけて打ち出したのだろう、遊星爆弾を撃ち落とす円鮫はもう存在しない。
自身の安全を図ろうと誰もが司令部から避難しようとするがえーりんは勢いよく一喝した。
「大丈夫よ!永月宵夜親衛隊神弓小隊!!」
『了解!!』
 その号令がかかると司令部よりさらに離れた蓬莱城の屋根において弓を携えた五人の兵士が弓を構える。
背中の矢筒には二三本くらいしか矢が入っていない。だがどこかしらその矢からはほのかな光が漂っておりただならぬ雰囲気を漂わせていた。
「神の力を携えたこの矢なら」
「きっとこわしてみせましょう」
「岩をも撃ち抜く力なら」
「きっとできるぜまりさ達」
「シューティンアローは大地から!」
「「「「「必殺!!昇流星!」スターボウブレイク!」マスタースパーク!」エンジェルシュート!」神風矢!!」
 全くセリフはあっていなかったが五人は同時に矢を放ち、矢は空から降ってくる遊星爆弾にへと一直線に向かっていく。
あの橋の上でないのならハクアレイ砲の影響も受けず神の力も残ったまま、その上彼ら五人の弓は地上部隊の弓の数倍もの神の力を携えていたのだ。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
 神の力を纏った矢は勢いを衰えさせることなく上空を目指していく。
そして対流圏において全長およそ50mある遊星爆弾と衝突し、激しい音を立てて爆散していった。
「ぐぅぅっ!!」
 永夜の至る所がその衝撃に巻き込まれまるで台風のように暴風が吹き荒れる。
元々爆弾だったため巨大な塊は残らなかったが細かい破片までは砕ききれず、大惨事は防げたものの永夜に石の雨が降り注ぐ結果となった。
「衝撃備えて!きゃあああ!」
 破片の一部が司令部の近くに落下し司令部は激しい震動に襲われる。
その際電源が電気の供給が途切れ一時全ての機器が使えなくなったが、すぐに緊急電源が入り司令部は赤い光に包まれた。
「……あ、危なかった……今度という今度は死ぬかと思った……」
「親衛隊がいるとは聞いていたけどまさかこれほどまでとは………」
「姫様が設立したのよね……まさかこんなにも役に立つとは思いもしなかったわ」
 とりあえず未曽有の危機は去り、宇宙から音沙汰がないことを見るとあれが最後の遊星爆弾だったようだ。
戦場にもそれほど被害は無いらしく、司令部はなんとか落ち着きを取り戻し通常運行を再開する。
「敵兵の様子は!?」
「報告します!敵兵は……!?現在1000m付近を通過中です!」
「なんですって!?」
 2100m地点には確かペタフレアキャノンの残留燃料が残っていたはずだ。
それで残りの時間足止めが出来ると思ったのだがそれをどうやって通過したと言うのか、えーりんは敵兵の先頭集団に注目してその理由を知った。
「あのタンクはもしかして冷却ガス!?7000℃の熱をそれで冷やしたと言うの!?」
 それ自体恐ろしいが一番問題なのはそれを前線において使われることだ。
気体相手に防御の手段は無く下手をすればそのまま地表にまで押しきりかねない。
 そこでえーりんはすぐさま戦線にいる銃兵部隊に通信を取った。
「狙撃兵に通達!先頭集団が持っているタンクが見える!?それを撃ち抜きなさい!」
『しかし、ここから見る限りタンクを持った敵は二、三列目にいます。撃ち抜くためには一番前の敵兵の隙間を縫わなければ……』
「その精密さを持つからこその狙撃兵でしょう!?とにかくやりなさい!!」
 そうぶっきらぼうに通信が切れ、戦線の銃兵隊長は頭を抱える。
かなり困難な任務な上自分達の部隊も負傷者や逃亡者が多く、まともに狙撃銃を撃てるものは自分を含めてもう3人しかいなくなってしまった。
盾を持った敵兵が前にいるのにこれでどう成功させろと言うのだ。自分も逃げ出したくなったが部下の狙撃兵がそんな隊長に向かって力強くこう言った。
「隊長、やりましょう」
「………」
「やらなくちゃならないんです!地球のためにも!!」
「そうだな……」
「れいむも頑張るよ!!!」
「ああ、三人でやるしかない」
 というかうちの部隊にゆっくりがいたのかと、どうやって持ってるんだという疑問を捨て起き三人は兵達の一番前にでて狙撃銃を構える。
「……くそっ、空気が熱されてるからかなり誤差が出るぞ……だが撃つしかない」
 だが隙間が空いている今が最大のチャンスだ。もし一回でも外せば相手は完全に警戒しタンクを撃ち抜く事は絶対にできなくなる。
三人は時間をかけて精神を集中させ、三人同時に狙撃銃の引き金を引いた。
「!!!!!!!!!」
「やった………のか!?」
 三発のうち二発は最前列の敵兵を倒すことしか出来なかったが、最後の一発はタンクを持った兵を貫通してタンクを撃ち抜いた。
それによってまるで爆発するかのように冷却ガスが噴きだし敵兵の前列は完全に冷却ガスに包まれていった。
「よっしゃあああ!!!やったぞぉぉぉ!!」
「ゆいやっふぉ!」
「いや、ちょっと待ってくれ!!」
 その白いガスの中から一人のタンクを持った兵が体中氷塗れにしながら走り抜けていく。
氷は体の中心から広がり足が凍ってそのまま倒れてしまったが、最後の力を振り絞ってタンクを残留燃料の中に投げ込んだのだ。
「!!!」
 熱によってタンクは溶け中の冷却ガスが噴出し再びガスによる大爆発が起こる。
そして霧が晴れたころには完全に凍りついた敵兵達と薄黒い固体となった残留燃料だけが残った。
「し、しまった。これでは足止めが……」
「……これが最後の戦いだ!!!!全軍突撃ィィィィィィィィィ!!!!!!!!」
 呆然とさせる暇も与えず、総隊長の怒涛の号令が戦場に響き渡る。
もう負けるわけにはいかない、その意志が形になったように兵の波は轟音を立てながら敵兵にへと向かっていった。


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最終更新:2011年06月13日 22:02