外来語に疎い白狼天狗(前編)-2


 「だから、私は反対だったんだよ」 
 「だから って何だ……?」

 徐に、椛は崖の壁面を次々に蹴り飛ばし始めた。

 「ここら辺でしょ?入口は……」 
 「ちょっとやめてよ……」

 しかし、ここでルーミアは思い出した。
 「ゴールは頂上」と聞いていたのだ。そして、椛は運んでいる食料を見て「加工前」と言っていた。そして
椛は、「ゴールは中腹」と言っているし、今はその「保護区」とやらを探している。
 絶壁の洞穴にでも作っているか、そこに入口があるのか―――あまり快適な場所ではなさそうで、今は
彼女に肩入れしたい、とルーミアは思い始めていた。
 何かおかしい。
 全員意識に差がある。
 何かしらにとりに隠されている。

 「もういい。千里眼使うわ」
 「やめなって!罰金だよ?」

 割と使い勝手が良い能力と思っていたが、使用時間や範囲に厳しい制限でもかけられているのだろうか?
野良妖怪とは違ったきつい生活だ……
 能力が発動しているのか、ほんのりと発光した目で腕組みしながら壁面を見回していた椛は―――しばらくして、
それをやめた。
 そして、わなわなと震え始めた。
 にとりは、真っ青になって止めようとしていたが、もう遅かった。
 二人とも汗だくになって、恐怖に歪んでいた。

 「にとり………ごめん。あんた…………後生だよ、開けないでくれよ」
 「開けられないよ」

 隠し扉は見つかったようだが、椛はがっくりと肩を下ろした。
 何を見たのか知らないが、勝手に巻き込まれて蚊帳の外なっている状況は耐えがたい。
 ゆっくりれいむは体全体を斜めにして首を傾げた様子を取り、ルーミアは流石に面倒に思ったが、怯えきった
2人を見て、この場から離れたくなった。

 「とりあえず、一度ここに置いとくよ?」

 大八車につながれた荒縄を外し、残りのもう一台を運んで来よう。
 どうやら、この近辺に、ゆっくりの保護区とやらがあるのは間違いない様だし。
 しかし、それならば何故頂上へ行くように指示を出したのか?

 「まあいいか……」

 軽く、すぃーを小脇に抱えたようとすると………

 「手を触れないで!」
 「えっ?」

 ゆっくり とはまさに真逆に、ピッタリと手を吸い付かせ、すぃーはあらぬ方向へ引きずって走り始めた!
 早い。

 「―――あーあ……ゆっくりして乗らなければ駄目なのに……」

 ルーミアをズリズリと引きずりながら、すぃー はまず気の毒にもにとりの足元に当たった。当然反応できず、
派手に転んでにとりはルーミアと共に、すぃーに乗り上げる形となった。
 すぃー の暴走はなおも止まらず、そのまま続く坂を猛烈に登り始めた。
 気が付くと頂上だった。
 それでもすぃーは止まらず、十分すぎる助走をつけて、頂上の崖の上から――――眼下の、もうどこだか
解らない森の上空へと舞い上がった。
 飛べばいいじゃないかー と自分でも二人は思っていたが、何故か離れられなかった。

 ゆっくりれいむが言っていたとおり、ゆっくりしていない者が乗ると、こういう目に遭うのだろう。

 寧ろ、あまりにも早すぎる性能を、ゆっくりが乗る事でぎりぎり制御していたのかもしれない。
 そうでもないと、こんな単純な作りの乗り物が、あんなに重い荷物を運べるはずがない。
 2人は目を閉じた。




 ――――もう一度目を開けると、森の中。

 気絶でもして、時間が過ぎ――――もう宴会も始まったかと、呑気な事を考えてしまったが、ただ暗い
だけであった。
 ルーミアは起き上がり、とりあえずにとりも目を回しながら立っているのを確認した。
 大した怪我はしていまい。

 「大惨事になるところだったね。何だったの?あのマシーンは……」
 「いやもう、私にも何が何だか」

 続いて――――すぃーはどこへ行ったのかと周囲を見回すと


 「うわあああああ」
 「大惨事だ……………」


 見覚えのある屋台がの屋根が大破し、そこに、シンプルな直方体が突き刺さっていた。屋台よりは格段に
頑丈らしく、どこも破損していない。
 同じく、それを呆然と言葉も無く見上げる夜雀がいたが、何気なく客席も覗いて、そちらへ二人は
戦慄した。
 口の周りについているのは血ではなく、鰻のタレだが、関係無しに怖かった。


 「おいおいおいおいおいおい!」
 「っておいぃぃぃぃぃぃいいいいいい?」


 そこには、かのレミリア・スカーレットが、腕組みをして、明らかにこちらを睨んでいたのだった。
 沈黙の後、少し考えたそぶりを見せてレミリアは言った。

 「五里霧中……」

 ああ、全くだ。
 「絶体絶命」とも言いたいが、何から何までごちゃごちゃしてどこへ向かえば良いの変わらない。
まさにそうだ。
 それでも、どこへ向かうか――と言ったら――神社へ早く行きたいのだ。
 一歩、後ろへ忍び足を踏んだのを目ざとく見つけ、レミリアは重い声で一括した。

 「河童、オカッパ!」

 もうルーミアは動けない。
 素直に謝っておこうとも考えたが、気の利いたことなど……

 「どこへ行く」

 さあ、どこだろう?
 もう一歩後退したルーミアだったが………そこで、にとりは、一歩も退いてはいなかった事に気が付いた。

 「えっ?」

 友人の下っ端天狗にとっていた、弱弱しい態度とは打って変わって―――――
 卑下では決してない、「格上」の吸血鬼相手に、にとりは言い放った。

 「山へ。今すぐ。弁償でしたら後で払わせてくださいませぬか!」



  • すぃーに対する意見が目から鱗でした
    なるほど、速過ぎるが故に制御が必要なのか
    化粧をした椛に対する外見については天狗達の台詞から推測していたものと、
    ルーミア達が見た台詞から推測したものとでまるでイメージが変わってしまい笑いました
    ルーミア達の台詞を見たら一気にアダルティにw -- 名無しさん (2012-01-02 10:50:44)
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最終更新:2012年01月21日 16:49