てゐ魂 第三九話-2


~☆~


ゆぶき町にとって夕暮れ時は始まりの時刻。
昼間の仕事の疲れを癒すために訪れたゆっくり達と、
そんなゆっくり達は店に呼び込もうと必死で客引きするゆっくり達の往来により、
ゆぶき町の大通りはどこもかしこもゆっくりで溢れ帰る。
そんな大通りの一角に不自然な空白ができていた。
別に通行禁止になってるわけじゃないのにそこをゆっくりが通ることはない。
その理由はその空白の中心にあった。


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「むう…。」

そこにはショーウィンドウガラスに映り込んだ自分の顔を睨みつける八坂号の姿があった。

「ま、まりさ、あれは一体何なのかな…?」

「れいむ、近寄るな、なるべく視界に入れないように気をつけながら進もうぜ…。」

その余りの異様な光景にゆっくり達も近づきたくないと重い、八坂号から意図的に距離をとっていく。
八坂号を中心に空白が出来ているのはそれが理由だった。
そんなゆっくり達の視線をものともせず、八坂号が何をしているのかというと。


「…早苗、境は私遠浅までトコトン飲み会わないか…。
 未成年にいう言葉じゃないな、って言うかこれじゃ誘い文句だ。」


こんな事を呟いては首を横に振るという事を繰り返していた。
八坂号なりに娘との向き合い方について考えているのだ。
鏡に映った自分を娘の早苗だと想定してシミュレーションしているが…。


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「きゃーん、八坂、早苗に話があるんですぅ~…。
 論外だろ、これは普通に!」


この通り、成果と言えるものは出ていない。
ガラスに映るお目目キラキラな自分の顔を見て八坂号は
益々やるせない気持ちになっていった。


「…ダメだねぇ、何を言っても娘に冷たくあしらわれてしまう気がするよ…。」

色々と難しい年頃の娘とどうつき合っていけばいいのか、
それが解らない八坂号はかなり弱気になっている。
しかし、そんな自分に気付いて八坂号は首を横に振る。

「イヤイヤ、娘一人相手に何をビビっているんだい私!
 昔はどんな恐ろしい奴が会いてでも恐れず立ち向かって行ったじゃなか!
 あのころを思い出せ私!立ち戻れ私!」

そういって自分を励まし続ける八坂号。
その脳裏によみがえるのは昔の思い出、
敵の激しい弾幕をかい潜り目に付く敵を叩きのめしていって正に無双気分だったあの頃の記憶。
昔の思い出とともに八坂号はあの頃の自分に立ち戻って行ってるような感覚を覚えていた。


「イヤァアアアアアアアアアア!」


…が、突然聞こえてきた悲鳴に驚き、八坂号は現実へと引き戻されてしまうのであった。


「…な、何だい、今の叫び声は!」


八坂号は驚いて辺りをキョロキョロ見回してみる。
みると、通りの向こう側が何だか騒がしい。



「離して!離しなさいよこのバカ!」

「むきゅ!思いの外暴れるわね、こいつ!」

「ゆっくり大人しくなってください!ゆっくり大人しくなってください!」



そんなやりとりが八坂号の耳にはいる。
八坂号はその声を聞いたとたん、ダッと騒いでいる方に向けて走り出す。

「全く…こんなところで何を騒いでるんだい、あいつは!」

ゆっくり混みをかき分けて騒ぎのある方へと走る八坂号。
彼女がそんな行動をとったのにはちゃんとした理由があった。



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「私はこんな所であなた達の相手をしている場合じゃないのよ!」



その声の主は八坂号がよく知っているゆっくり(?)だったからだ。



「全く、何でこんな町中でアルパカが暴れているのよ!
 通報聞いたときはマジで耳を疑ったわ…。」

「何処から逃げてきたんですかね…とりあえず保護保護。」



通報を受け付けて駆けつけたらしき警察官とその助手が
アルパカを縛り上げている。



「いい加減にしなさい!私はゆっくりよ!
 心はアルパカだけど体はれっきとしたゆっくりなのよ!」



アルパカは警察官にそう訴える。



「…嘘付け、どう見ても身も心もアルパカじゃない。」

「ぱちゅりー様、余り近づかない方が良いですよ、
 唾かけられます唾。」

「失礼ね!そんな汚いまねはしないわよ!」



当然というか、その訴えは全然聞き入れてもらえない。



「所で捕まえたのは良いんですけどアルパカなんてどうすればいいんでしょうか?」

「うーん、とりあえず動物園ね、餅は餅屋に任せましょう。」

「ちょ、ちょっとぉおおおお!だから私はゆっくりだって言ってるでしょうがぁああああ!」



警察官のやりとりを聞いて縛られたアルパカがそう叫んだその時だった。



「うおりゃああああああああああ!」



すざまじい叫び声が辺りに響きわたる。



「むきゅ!?」

「な、何ですか今の地獄の底から聞こえてくるような唸り声は!」


警察官コンビはビックリして辺りをキョロキョロと見回す。



ドドドドドドドドド!



と、今度は何かがもの凄い勢いで走ってくるような音が聞こえてくる。



ゴォアッ!



次の瞬間、巨大な黒い影が野次馬ゆっくりの上を飛び越えて警察官コンビの方へと飛んできた!
その影はそのままアルパカの前へと着地する。


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「ぐるるるる…ぐぁあああああああああ!」

「うわぁああああなんだあれは!?」

「犬だ!それも只の犬じゃない!猛犬だぁああああああ!」

「離れろ!あの犬から離れろ!噛まれるぞ!
 絶対噛まれるぞ!」



野次馬達はアルパカの前に現れた八坂号をみて口々に声を上げ、その場から逃げ出していく。
八坂号はアルパカを守るようにうなり声をあげ続けている。



「ぱ、ぱちゅりー様!なんか凶暴そうな犬がこっちにらんでますよ、どうするんですか!?」


「む、むう…このアルパカとはレベルが違う凶暴さ…
 私たちだけじゃどうにもならないわ。」


「そ、そうなんですか!?
 そんな事一目見ただけで解るもんなんですか!?」


「私ほどのレベルになれば一目見ただけで解るもんなのよ。
 あれは絶対、殺しをしている獣の目よ!」


「えぇ!?マジですか!?ど、どうすればいいんですか!?」


「ここはいったん引くわよ!応援を呼んで体勢を整えるの!」


「そ、そうですね、解りました!」



こうして警察官コンビも野次馬達も逃げ出して、
後に残されたのは八坂号とアルパカだけ。


「…ふう、とりあえずのこれで一安心かねぇ。」


安全を確認した八坂号はうなり声をあげるのをやめて、一息ついた。
そして、アルパカの拘束を解いてやる。


「や、八坂号さんありがとう…。」

「全く、どこまでも世話を焼かせるねぇ、あんたは。」


拘束を解かれたアルパカは即座に立ち上がった。
暴れていた割には大きな怪我はしている様子はない。
まぁ、体の部分は作りものだから怪我なんてする訳無いが。


「さて、とっとと店に戻るよ。あいつ等が応援をつれて戻ってきたら
 やっかいなことになる。」


そう言うと八坂号はアルパカをつれて店に戻ろうとする。
アルパカは慌ててこう叫んだ。

「…!ま、待って!それ所じゃないのよ八坂号さん!
 早苗ちゃんが…早苗ちゃんが危ないの!」

それを聞いた八坂号は足を止める。
そしてアルパカの方へと振り向いた八坂号の顔をみたアルパカは思わず「ひっ」と声を出してしまう。
その理由は簡単だった。

「…早苗に何があったんだい?」


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     \/_ ヽ、__ ___ノ/_/_/___/ ,; ノ         ヽ
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アルパカがみた八坂号の顔は、鬼神の如き顔になっていたからだ。


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「ウホーッウホウホーッ!」

ゴリラの雄々しきうなり声が森の中に響きわたる。
それと同時に木々の間を何者かが駆け抜けていく。
その正体は身も心もゴリラになりきってしまったかぐやである。

「おいこら!変な奇声上げてどこに行く気だてるよぉおおおおお!」

そんな暴走状態なかぐやを慌てて追いかけるてゐ。
なれない猫の義体ではあるがそれでも何とか追いかけられるのは、身体能力と適応力の高さ故だろう。

「ったくあのバカ、いったい何処に行くつもり何だか。」

追いかけながらてゐはそんな事を考える。
木々の間を飛び移りながら移動するてるよ。
そのルートは一見無茶苦茶でありながらも実は殆どまっすぐ進んでいる。
まるで、何処に向かうべきか解りきっているかのように。


「…まさかバナナの匂いとかを辿ってるとかそんな感じなのかねぇ…。」

かぐやが本当に身も心もゴリラになっているならあり得るなぁ、とてゐは思ってしまった。


「ウホ!?」


と、ここでかぐやが今までとは明らかに違う鳴き声をあげる。
そして彼女の木々の間を飛び移る速度が今までとは段違いに跳ね上がった。

「ちょ!ま、置いてきぼりにするつもり!?」

慌てててゐは追いかけるスピードを上げる。
とはいえ、やはり慣れない猫の身体ではかぐやを見失わな
いようにするのが精一杯だ。

それでも必死で追いかけていると、高い壁のようなものが見えてくる。

「…あれって外壁?てるよの奴外に出るつもりなの?」

てゐは目の前に迫ってくる壁をみたとき、最初はそう思った。
しかし、目の前まで近づいたとき、てゐはその考えが間違っていることに気がついた。

「あれ、これもしかして壁じゃなくて岩山!?」

そう、目の前にあるのは壁じゃない。
おそらくワザワザ何処かから運び込んだのであろう、天然の岩山だったのだ。
それだけじゃない、岩山にはあちこち穴があいており、
そこから上海人形が出入りしているのが見えるのだ。
つまりこの岩山、上海達の住処なのだ。

「…ワザワザ上海達のためにあのアリスが用意したのかね、これ。」

てゐは呆れながらそう呟く。
そして岩山から出てくる上海達をじっと観察する。
さっきの触覚アリスを運送していった上海とは違い、
かなりまともな格好をしている。
行動を見ているだけでも割と大人しそうなのが見て取れる。

「…とりあえず危険はないかな…で、てるよは一体何処に…。」

安全を確保の後、てゐはかぐやを探してみる。
かぐやはすぐに見つかった。
彼女は岩山の麓にある一際デカい洞窟の中に入っていくところだった。

「あー、いた、あいつ一体何をしてるのさ…。」

てゐが呆れながらかぐやの後を追おうとして次の瞬間。

「きゃあああああああああああああ!」

洞窟の奥からすごい叫び声が聞こえてきた。

「!?今の叫び声!」

耳の良いてゐはその叫び声に聞き覚えがあることに気づいた。
かぐやじゃない、でも最近聞いたことのある声。
思い浮かべるのは緑色の髪のあのゆっくり。
自分がこんな面倒な目に遭いながらも探し回っているあのゆっくりの声だ!


ドダーン!


そう思うと同時に洞窟の奥の方から大きな音が聞こえてくる。
穴の中に入っていったゴリラ姿のかぐや。
さっきの叫び声。
そして今、かぐやは半ば正気を失っている状態。


「…これは絶対ヤバいね。」


正直、今すぐここから逃げ出したい。
…が、勿論そんな事すれば最悪の事態は免れない。
てゐは中の様子を確かめるために洞窟の奥へと入っていく。

で、その奥でみた物は…。


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            ,ノー'       i ̄ ̄\``-ソ
         , -′  ' ; 丶     ヽ  _ゝノ\
        /      ; ,  (ヽ    ヽ  ヽ、   `,
      , '     /  / ,i  ';;;\       i   ;;; ',
      ノ      i  i;;;i i;;', ';;;;;;:\__    ト  ;;;;;;, i
       i      ',   i;;;; i;;;;-´ ̄ ̄:::::::`    |ヽ ';;;;;;;;; ',
     ノ  ; i  i ,ーゝ、j::::丶::::::>t===≦   ノ;;::;;;;;;;;;;;; 丶
     /   ', `iヘ i,,=‐、::::::::::' i弋 ノイ‐' ̄~`i;;;;;;;;;;;:::;;; ',
    ノ    ;;', i;;;`(弋ノi ,     ̄~ |    |;;;;;;;;;;;;;;;; \
   /    ;;;ソ;;;;,、;;ゞ ~′'       人  __ノ;;;;;;;;::::;;;; i
  ~      ;;;;;;;'  ) ;;ヽ、   __  ∪/ ゝ ̄`j;;;;;;':::i );; |\
         ;;;;'  ;;;;;;;;;;ヽ     , ´i / __ i ;;;;'::ノ i;; ノ
         ;;;'  ノ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`..,- ´ ニ二ー‐-`'';;;:::/-―::


洞窟のあちこちに積み上げられたガラクタの陰で怯えている早苗と。



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      __       ,. '"::::::::::::::::::::::::::::::::`ヽ.         r='===ミ ヽ
    /‐- 、 \   ,.':::::::::::::::::;::::::::::::::::::::::::::::::ヽ.        /´ ̄ ̄   │
.   / ̄ ‐-、ヽヽ│ /__二ニ=-ハ::::::i:::__i_::::::、::::::::::::',    | rr‐、      ',
   |  ーヘ  i i 」′/:::/::::::ハ::::::! !::::ハ::__!_::::::::';:::::::::i       |__jノ/:.、    .:.
   |   /.:ゝ:'-く、  i::::i:::::/!:,!ヽ.! L::! ー- ヽ!::::i:::::::::::|==ミ.:.、 /.:´.:.:.:.:`ー、_.:.:./
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白目を向いて倒れているかぐやと。



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その足下にあるバナナの皮だった。


「………。」


そんな光景を無言で見つめるてゐ。
と、そこで震えていたさなえがてゐの存在に気がついた。

「あら、貴方はもしかしてあの時の新入りさん…。」

話しかけられたてゐも我に返り、さなえの方を見る。

「迎えに来たよ…と言う前に一つ聞いて良い?
 この洞窟で何があったの?」

てゐの問いかけにさなえは難しい顔をする。


「…何があったのか、と言われると難しいのですが。
 ちょっとここで探し物していたら、後ろからウホウホという声が聞こえてきたんです。
 それで、振り向いてみたら変なゴリラが立っていて、
 で、思わず大声で叫んだらゴリラがビックリして後ずさりして、
 それで何かズルって音がしたと思ったらゴリラが仰向けに倒れていたんです。」

「長い説明ありがと、
 …つまりてるよの奴、この子の声に驚いて後ずさりしたときにバナナの皮を踏んで
 ズッコケタってこと?」


何とも間抜けな話だとてゐは思った。


「…はっ、ここは何処?あなたはそこにいますか?」


と、そこでかぐやが頭にタンコブを作りながらも起きあがる。


「あ、正気に戻ったね。」

「てゐ、あなたに義体の動かし方のレクチャーをしてからの記憶がないんだけど
 一体何が起きたのかしら?」

「身も心もゴリラになれば解るんじゃない?」

「…てゐ、何訳の分からないことを言ってるのよ、熱でもあるの?」

「そんな訳の分からないことを先に言い出したのはてるよなんですけど。」


そこまでてゐとやり取りしたかぐやはその隣にいるゆっくりの存在に気づく。


「あ、もしかして…。」

「えーと、確か貴方も新入りさんですね?
 …あの、私のことを心配して、捜しに来たんですか?」

「ええ、その通りよ。
 一応先に一説くけど貴方のお父さんは関係ないから
 ここに来たのは私たちの意志だから。」

「…そんな細かいフォローはいらないですよ。
 何だか迷惑かけてしまいました、すみません。」


さなえはそう言ってぺこりと頭を下げた。
目つきは怖いし、時々きついことはいうが、本来は礼儀正しいゆっくりのようである。



「その辺が解ってるなら、何でこんなワザワザこんな危険なところにやってきたりするのよ。」



呆れ顔でそう問いかけるかぐや。
すると早苗の方は、何故か顔を赤くした。



「そ、それは…ちょっと探さなくちゃいけない物があったから…。」

「それって小学校の作文のこと?」



てゐがそう問いかけると、さなえは今度は驚きの表情になる。



「何で知ってるんですか?」

「盗んだ本人から聞いた。」

「あいつ等、予想以上に口が軽そうですね。
 …後で対策をしておきませんと。」

「…なんか今ブラックな事を呟かなかった?」

「お気になさらずに、とりあえず私は作文を探しますから
 もう少し待ってください。」



さなえはそう言うと積み上げられたガラクタを探り始めた。
その様子を見て、てゐは慌ててこう呼びかける。



「ちょ、何してるのさ!ここは危険だからさっさと引き上げるよ!」



しかし、さなえはてゐの警告に対し、こう返す。



「なんか変な怪物が私の作文をここに運び込む所を見てるんです!
 だからここにあるのは確実なんですよ!
 お願いします、後少しだけ待っていてください!」



そしてまたガラクタ漁りを再開するさなえ。



「あ、あのさ、たかが作文でしょ?
 帰ってから一から書き直せばいいんだから…。」

「そんな事いって!もしここで帰って残された作文が誰かに見つかって読まれたらどうするんですか、
 恥ずかしいです、めっちゃ恥ずかしいです。」

「いや、誰も見ないしホントに危険だから!
 とにかくここから離れる!」

「絶対にノウ!」



さなえは凄い強ばった顔でてゐの誘いを断った。
凄い勢いで作文を探し続けるさなえを見ててゐはため息をつく。


「だめだ、こいつ全然空気を読めてねぇ…。
 私一人じゃ手に負えないかも…。」


そう思ったてゐはとりあえず後にいる筈のかぐやに手伝ってもらおうと考えた。


「おーいてるよ!あんたもこいつに何か言ってあげなよ!」


そう言っててゐは後に振り向いた。


      /^\      ,.へ、_
      i   _ゝ、-──'- 、 L
     / , '"         `ヽi
    く_γ        、    ヽ,.
    く,'  / / _ハ  ハ ハ_',  ',
     l  ノ レィ __,;!、イ レ、__、i  .i
     i ヽ、 i ttテュ;:::::::;rェzァiハノV
   ヽ、'  i l ハ. ""     ""! |/i
   .ノ  ,' iヽ iヽ、.  ( ̄ノ .,イイ| l.
       ハ_イレ^r> --- イヽViノ          _,,.. --─- 、..,_
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   /::/:::/ | ! .|  /:: ._, -X_.入:: :: :: : ',  W iT -‐‐ 'V  ‐‐-,' | | i
   !/:::/  ! .| ! メ∠匸 !l/.ヽ.イ .入_:: : ,':〉  i ヘ) ttテュ;   ;rェzァ !∨ ヘ!
  レ':::l  l l l"/:: |.ヾ" へ〉 /ハ∨:: :/:ハ   〉ハ'"        "ハ ○ノ  
                        ゝ ヽ ヽ,      ヽ   ノ| .| (
                        ( ト 乂 ヘ>: 、.,,__,,. イヘ ヘ .V
                        ゝ '、 i , ゝi\ ,〈フ」ヽ!, >l'ァ〉`
                          く,.へ_,.ヘ__,.、_」ト !  `>、
                          7^ー'^7ー「   モ`^iヘi´
                          /     |   モ  | ',    ___
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そこにはかぐやではなく、
あの時、触覚アリスを誘拐したシャンハイが立っていた。
同じ外見をした別のシャンハイではない。
なぜなら、あの時おもいっきりあのシャンハイに運ばれていった触覚アリスがぶら下がっているのだから。



「ルガールゥ…。」



てゐはこちらを見て唸り声を上げているシャンハイを見て目を丸くしている。
そんなてゐに向かって触覚アリスはこう言った。


「そうね、とかいはなアリスの意見としては
 一時のプライドより命を優先させるべきだと私は思うの。」


「いや、おまえに意見は求めてねぇよ。」



目の前の最悪な状況から現実逃避するため、
とりあえずてゐは触覚アリスにつっこみを入れるのだった。


続く


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最終更新:2013年04月03日 17:47