新・アリス×ゆっくり魔理沙5



アリスの寝室から出た一人と一匹は、とりあえず座って休める部屋を探すことにした。いつもは勝手に中を歩き回る魔理沙だが、いざ落ち着ける部屋を探すとなると微妙に迷ってしまう。
「うーん、客間でいいか。茶と菓子もあるし」
客間には魔理沙が以前(無断で)置いて行ったマイ急須がある。それで入れたお茶と洋菓子を嗜むのが魔理沙の秘かな楽しみである。他人の家であることは最早気にしてはいけない。
「魔理沙、魔理沙」
胸に抱えたゆっくり魔理沙が話しかける。
「ん、どうした」
「入口のかぎしめてよう。まりさじゃとどかないの」
「あ、そうか」
百八十度進行方向を変え、入口に向かう。歩きながら魔理沙は考える。
(最初に入口近くにいたのは鍵を閉めようとしていたんだな。で、私が来たから咄嗟に隠れた、と)
「うーむ」
「?」
「お前、私みたいな頭しておきながら臆病で真面目なんだな」
「??」
「ん、えーとな、要するにだな……もっと私みたいに大胆不敵でいてもいいんじゃないか、ということだ」
「魔理沙みたいになれってこと?」
「うん、まあそうだ。私は霊夢ほどじゃないが、人妖問わずモテる。アリスだって私のことが何だかんだ言って好きだからな。私みたいになれば、もっとアリスも可愛がってくれるぞ」
「うそつきー!」
「な、どこがだよ」
「おねえさんは魔理沙のこと好きじゃないよ。いっつもまりさに文句ばっかり言ってるもん」
「いっつも?」
「口を開くたびに言ってるよ!」
「迸る愛を受けて胸が張り裂けそうだ」
「???」
魔理沙はゆっくり魔理沙とは奇妙なほどに話が進む。話し相手にちょうどいいので魔理沙は自分の家で飼いたいと思ったこともある。しかし何かことが起きるたびに家を出て飛び回る自分には無理だな、とも同時に考えていた。アリスに飼わせておいて、たまに顔を出して話す。そのぐらいで充分だ。そう考えるようになった。

「……」
魔理沙が歩を止める。
「どうしたの?」
半分空いた扉、正確にはその先の空間を魔理沙は見詰める。
「……誰だ?」
「何だ、魔理沙か。どこのこそ泥かと思ったわ。……いや、あながち間違いじゃないか」
「その声は……永琳?」
魔理沙が一歩下がると、半開きの扉が開かれた。
「当たり。それにしても、鍵ぐらい閉めなさいよ」


ゆっくり魔理沙が頭上に盆を載せて客間を這う。盆の上には湯気の出た湯のみと羊羹が乗った小皿二切れ。邪魔な帽子は部屋の隅に脱いで置いてある。
「あついから気をつけてのんでね!!!」
「はいはい、どうも」
永琳は盆上のバランスを崩さないように、『魔理沙』と書かれた湯のみと小皿を真ん中に寄せながらそっともう一つの湯のみを取り、次いで小皿を取った。
今度はまりさはテーブルの向かい側を目指して這う。
「あついから気をつけてのんでね!!!」
「ごくろうさん」
お茶を入れ、羊羹を切ったのは魔理沙だ。テーブルに運ぼうとしたところ、脱帽したまりさが待ち構えていた。運びたいようなのでやらせてあげたところ、器用に溢さず運んで見せた。手足が使えない分こういったところには長けているのだろうか。
「ふう。玉露はやっぱり落ち着くわ」
「高いんだぞ。味わって飲めよ。そして振る舞った私に感謝するんだ」
魔理沙は安い茶で済ませようとしたのだが、永琳に「その玉露、飲みたいわ」と指定され、しぶしぶ淹れたのだ。
「んで。どうしてアリスの家に来たんだ?」
「私と彼女は仲睦まじかったかしら?」
「知るかよ。月の一件から文通でも始めたのか?」
お盆を仕舞ったまりさが魔理沙の隣の椅子にぴょこんと飛び乗った。
「むつまじいってなに?」
永琳がふふ、と小さくほほ笑む。
「とっても仲が良いってことよ。……まあ実際、彼女とは親交が深いわけではないわ。友情、愛情で訪ねたんじゃない。だとしたら残りは?」
「……仕事?」
「正解。薬の処方に来たのよ」
「薬師自ら出向いてくるなんて、ずいぶんサービスがいいんだな」
まりさがさっきから魔理沙の羊羹をじっと見つめていたので、一切れ食べさせてあげた。
「うちは外来専門なんだけどね。お得意さんがぱったり来なくなっちゃったから、今回は特別よ」
「なるほどね。あー……」
頭に起こされて怒り狂うのアリスの姿が浮かび、魔理沙は顔を顰めた。
「でも、今はタイミングが悪いぞ」
まりさも真似をして顔を顰める。
「おねえさん、ねおきわるいの」
「だからこそ今来たのよ。とりあえずアリスのところに案内して頂戴」


「ねんがんの じりつにんぎょうを てにいれたぞ! ふふ~」
ベッドの上で目をつぶったまま少女がにやけている。向い側のドアが、静かに音を立てて開いた。
(起きると暴れるんだ、大声出すなよ)
(わかったわ)
「わかったよ!!!」

「誰!!?」
アリスが飛び起きた。虚ろな目で、首を振って騒音の犯人を捜す。

(ば、馬鹿野郎! どうするんだ!)
(ゆ、ゆっくりおちついてね! こんなときは……)
「し、しゃんはーい。ほ、ほらーい」

「……」
アリスの動きがぴたりと止まる。

「ろんどん、ろしあ、おる、おれ、おるれあーん」

「なんだ人形か」
アリスがベッドに倒れこむ。

(……)
(……結果オーライね。深く考えたら負けよ、魔理沙)
(……ああ)


やっとのことでアリスの目の前に二人と一匹が辿り着く。数メートルの距離が実に長く感じられた。
永琳はアリスの顎にそっと手を当て、開いた口に錠剤を放りこんだ。
「ふう。これで一安心」
(お、おい起きるぞ)
「大丈夫よ。即効性の睡眠薬飲ませたから。数時間は眠りっぱなしよ」
「もうひそひそはなさなくていいの?」
「そうみたいだな。でもこの状態じゃ、肝心の薬の代金が受け取れないんじゃないか?」
「前払いで貰ってるのよ。数か月先の分までね」
「おねえさんおかねもち!」
「……? 話が見えないな」
「つまり、今みたいな寝たきりの状態になるってことを彼女は予想していたというわけ。これを見て」
永琳が一枚の紙を取り出し、魔理沙に渡す。肩に乗ったまりさも横から覗き見る。
「……なになに」

ゆっくり睡眠病

『人間又は妖怪の頭部に似た姿をした生物(生体、種の分類含めて詳細不明、以下『ゆっくり』と呼称する)が媒介する疾病のこと。ゆっくりとの接触により感染する。症状としては、気だるさや眠気を感じ、思考能力が減退する。この結果、肉体的疲労を感じていないにも関わらず、長時間の休憩を取るようになったり、悪化した場合眠り続けたりするようになる。日常生活を大きく阻害する病であるので、治療法の確立が急がれる。……(中略)……なお、通常の人妖はこの疾病に対する抗体を有しており、ゆっくりを飼った場合の実際の発病者は百人に一人と言われている。また、ゆっくりと人間または妖怪の容姿が非常に似ている場合、その人妖はほぼ確実にそのゆっくりに対する(他のゆっくりからは感染する可能性がある)抗体を持っており、発症例も未だ無い。』

「……アリスはこの病気だと?」
「ぜんぜんわかんないよ!」
「症状から見て、ほぼ確実にそうね。初めに具合が悪い、って私のところに来たときには、既にかなり症状が進行してたわ。彼女のことだから、自分で原因を究明して治そうとしたのかもね。最近発見された病気だから、特効薬と言えるものがなくてねえ。既存の薬をいくつか処方しておいたんだけど、やっぱり効かなかったみたいね」
「じゃあ、薬が見つかるまでアリスはずっと眠りっぱなし、ってことか」
「王子様のキスで目を覚ましてくれればいいんだけどねえ」
「しんでれら!」
「白雪姫だ。……えっと、ゆっくりを通じて伝染するなら、こいつがこのままアリスの傍にいちゃまずいんじゃないのか?」
「その通り。だから、貴女がしばらくその子を預かりなさい。アリスはうちで入院させるから」
「……え」
自分が、まりさの面倒を見る? まりさと共に食べ、共に眠る光景が魔理沙の頭をよぎる。
「貴女霊夢のところにもちょくちょく行ってるんでしょう? 霊夢もゆっくりを飼ってるけど、それでも貴女は感染してない。抗体持ってるのよ。そうじゃないとしても、自分と似た姿のゆっくりからの感染例はないから、安心しなさい」
「魔理沙のおうちにおでかけするの?」
「う、うん、まあ、そういうことなら仕方ないな。心の広い私がしばらくの間面倒を見よう」
「何にやけてるのよ、気持ち悪い」
「に、にやけてなんかないぜ。じゃ、じゃああとはよろしくな」
「おでかけ、おでかけー」
魔理沙は肩に乗っていたまりさを胸に抱えなおし、早々に寝室を後にした。
「……変なの」



「魔理沙、ちらかしたらおねえさんおこるよ」
「散らかしてるわけじゃないぞ。むしろすっきり綺麗になると思う。なんせ、この風呂敷の上に乗っている物は私が借りていくんだからな」
「どろぼー?」
「泥棒とは人聞きが悪い。永久に借りておくだけだぞ」
「わかった、じゃいあんだ!」
「……なんだそれは」



寝室に残された永琳。手には半透明の小袋を持っている。
「実は薬は完成していたのよね~。まだ誰にも飲ませたことがないんだけど」
「うぅ……あぅぅ……」
悪夢を見ているのか、はたまたこれからの危機を察したのか、アリスが小さくうめき声をあげた。
「フッ……奇跡か……そのぐらいの事(早苗さんでなくても)私にもできる!!」
小袋の封を切り、片手でアリスの口を開き、もう片方の手で粉末の薬を流し込む。
「この症状を治す薬はこれだ」
「う……ああ……お、おく、……し……神綺兄さん!!」

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続き→新・アリス×ゆっくり魔理沙6
次回は魔理沙のスーパーゆっくり愛でタイムだよ!
  • 投下乙なんだぜ、今回はとてもよかった。小ネタが面白いし、まりさがそこらへんにいる子供みたいだ。かわいい -- 名無しさん (2008-09-19 19:53:43)
  • アリスの生死やいかにwww -- 名無しさん (2008-09-19 22:35:53)
  • ゆっくりがよつばのようだ。GJ -- 名無しさん (2008-09-20 11:44:37)
  • アリス\(^o^)/ -- 名無しさん (2008-10-03 18:30:47)
  • だめろ・・病気になりそう・・ゆっくりの幻影がみえてきたwww -- ゆっけの人 (2008-10-26 01:31:45)
  • アミバ噴いた -- 名無しさん (2008-10-30 23:22:01)
  • 「読んだ人間はゆっくり幻想郷に囚われる」 これが真のゆくっり症候群なのかー!?w -- 名無しさん (2008-12-09 02:26:11)
  • こっちのシリーズは原作寄りなわけね。アリスとゆっくりまりさの関係はこっちの関係のほうが好きだな。 -- 名無しさん (2010-04-21 13:03:36)
  • 『わかった、じゃいあんだ!』吹いたwwwww -- 名無しさん (2011-03-18 22:55:15)
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最終更新:2011年03月18日 22:55