永遠な二人 ~聖夜~

※原作キャラが出ます。多分ゆっくりより出番が多いです。
※しかも二次よりです。所々俺設定です。
※諸君、百合は許せるか?
※私はかぐもこが大好きだ!!




永遠な二人 ~聖夜~


―幻想郷 師走 クリスマスイヴ―

人間の里 某ディスカウントストア(ツッコミ不要)にて。

「え~と、チラシに書いてあった…」
「『職人が作ったゆっくりのゆっくりできるお家 ver.05』は…」

「「あ、あった!!ラッキー、最後の一つ‥」」

 そして、二人はまたもや同時に同じ商品に手を伸ばす。
 必然的に、二つの手が一つの商品の上で触れ合った。

「‥輝夜」「妹紅‥」

 片や、永遠亭の永遠の姫、蓬莱山輝夜。
 片や、迷いの竹林の世捨て人、藤原妹紅。
 そして、悠久に朽ち果てず滅ぶことのない身体を持つ者同士。

 過去の因縁から、永遠に殺し合う運命を持つ者同士。

 殺し合いという名の闘争は互いに死ぬことがない故に延々と続く。時に凄惨に、残虐に、非道の限りを尽くされて。
 ついこの間もこの店で延々と互いに五月蝿く口喧嘩し合ったばかりである。どっちのペットの方が可愛いか、という話題で。
 だが、今回はその時と少し事情が違った。

「へぇ、何を買うかと思ったら貴女もソレをねぇ」
 薄ら笑いを浮かべつつ、内心冷や汗を掻きながら輝夜は妹紅に向かいそう言った。
「おいおい、あんたんとこのゆっくりにゃ永遠亭つう立派なお邸があるでしょう?こんなみすぼらしい家は必要ない。だから私に譲りな」
 対する妹紅は苛立ちを隠そうともせず輝夜を睨みつけながらそう言った。
「あらあら妹紅。さっきまで『ゆっくりのプレゼント何がいいかなぁ』とかきゃぴきゃぴお話し合った仲でしょ。
 ここは助け合いの精神を尊重しましょう?」
「助け合いつったって、残り一つなんだよ!取るか取られるかなんだよ!ナッシングオアオールなんだよ!
 つうかさっきまで『私まだ買うもの決めてないのよねぇ』とか言ってたじゃない、この嘘吐きが!」

 そう、二人の会話で察すことのできる通り、今回の買い物は、普段は殺し合う仲である二人が一緒に、
 わざわざ事前に日程を決め待ち合わせまでして赴いたものなのだ。
 普段は犬猿の仲どころかブッダとマーラな関係な二人が何故二人っきりで買い物などに出かけたのか。
 その理由は極めて明確である。
「決め手は無かったけど目星はついていたのよ!それに見てよこのふかふかした寝床!
 うちのもこたん滅茶苦茶ゆっくりできそうじゃない!だから、ね、妹紅!私に譲りなさい、ほら、100円あげるから」
「イ ヤ だね!あんたんとこのもこうと違ってうちのかぐやは常にゆっくりしてるんだ。基本的に遊ぶときとご飯食べる時しか動かない。
 何もしてない時は基本的に寝てる!だから私の方がソレを必要としているのよ!理解できた!?」
 話している二人と同名な固有名詞が乱立しややこしいことこの上ないが、それもしょうがない。
 輝夜はゆっくりもこうを、妹紅はゆっくりかぐやをそれぞれ飼っているのだから。
 そう、今回の二人きりの買い物も、全ては自分のゆっくりにクリスマスプレゼントを買ってやるため。
 そんな理由がなければこの二人が一緒に殺し合い以外の目的で出かけるなんてことはまずない。


 ちなみに、二人が掴み合っている商品は『匠が作ったゆっくりのゆっくりできるお家 ver.05』。
 里一番の彫り師が何を思ったか気まぐれに作った、最近何かと流行っている謎の生物(ナマモノ)『ゆっくりしていってね』、
 通称『ゆっくり』、それ専用の木で彫られた人口の巣である。
 当初は彫り師の孫が飼っているゆっくりの為に余ったくず木から作ってやったもの(ver.01)であったが、
 流石と言うべきか匠の技、見た目は犬小屋と同じような形だが、通気性がよく湿気が溜まらない、
 よく研磨されているのでゆっくりが傷つかない、純天然素材使用でハウスダストの問題もない、冬暖かく夏涼しい、
 ゆっくりが自分で入り口を開け閉めできるシャッター付きetc‥、ゆっくりにとって非常にゆっくりできる代物だったのである。
 この驚きのゆっくり仕様に、口コミを通じて(←主にゆっくりの)里中にその評判が伝播。
 他のゆっくり愛好家な人間や妖怪が「自分の可愛いゆっくりにも是非」と彫り師に作成を依頼。
 頼まれたものを作っているうちにそのverも5つ目に突入、人間の里各販売店に於いて数量限定で売り出されるまでになった。
 ちなみにver.05は幻想郷の中でも数少ない西洋住宅である紅魔館をモデルにした、
 煙突と小さな暖房のついた冬季限定のスペシャルバージョンである(もちろん防火性)。


「いいじゃん!いいじゃん!譲りなさいよ!譲ってよ!前のときはなんだかんだで有耶無耶になってしまったけど、
 あの『ゆっくりフード徳用パック』は貴女が買ってしまったんでしょう!なら、今度は私が!」
 最早議論ではなく子供の我侭みたいに自分の主張を通そうとする輝夜。
「知らないね!第一あの時私だって買えなかったてのよ!
 あんたが走って逃げ出すのに気ぃ取られて気がついたら最後の1パックも無くなってたの!よって前回のことは関係ないんだよ!」
 余談であるが、目撃証言によるとその最後の1パックはやけに脇を見せびらかしてる紅白色の何かが神風のような速さでレジに持っていったという。
「そんなこと私の方が知らないわよ!それに私のもこたんは火を使うじゃない!だから私の方が都合がいいのよ!
 ほら、これ防火性って書いてあるし!だから絶対私のなのぉ!!」
「あんたんとこのもこうは良い子だから家じゃ絶対火なんて使わないだろ!よって絶対的な必要性なし!!
 私のかぐやの方が有効活用できる!だって寝てばっかだし!!」

「いや私の‥!」「だから私の‥!」

 その後は語るまでもなし。
 どっちのゆっくりがその商品を買うのに相応しいか、毛並み、体調、柔らかさ、ふてぶてしさ、
 一日に「ゆっくりしていってね!!」を言う回数、ゆっくりの至る所までに口論は及んだ。
 その余りにも周りを気にしないぶしつけさに多くの見物客が賑わい、途中半獣の寺子屋講師や狂気の眼を持った兎が通りかかったが、
 目も合わせず迷わず他人のふりをして通り過ぎていった。
 口論は決着もつく予兆も見せず、そのまま延々と続くものと思われたが、

「何よ!!せっかく私が一緒に買い物しに行こうって誘ってあげたんじゃない!!少しは私にサービスしてくれたっていいでしょ!!」
 輝夜が思わず口走ったその一言で状況は一変する。
「ふざっけんなぁ!!お前がしつこく誘うから仕方なく付いていってやったのよ、こっちは!!
 でもこんな結果になるんだったらやっぱ一人で来るべきだったわ!!」
 怒号を込めた声で妹紅が叫び返す。
「な、そんな言い方‥!」
 輝夜が少し顔を俯かせ、今日初めての動揺を見せた。だが、妹紅はそんな輝夜の様子に気付かず更に言う。
「事実でしょ!私はね、あんたと同じ場所で一緒の空気吸うのだって嫌で嫌で仕方無いんだから!!
 ああもう、何でこんなめでたい日にあんたと二人っきりで買い物しに来てんのよ、私は!?」
「‥‥、分かったわよ!!!」
 今日一番大きな声で輝夜が怒鳴った。
「‥私はもう帰るわ。悪かったわね、邪魔をして」
 震えるような声でそう言うと、輝夜は踵を返す。
「お、おい、何よいきなり!!」
「さようなら!!」
 最後にそう言うと、輝夜は湧き出る野次馬をどかし小走りその場から去っていった。
 その足取りはどこかおぼつかなかい。
「‥‥‥、ちくしょう、何なんだよ‥!!」
 さっきまでの単純な怒りではない、訳の分からない苛立ちを感じながら、妹紅は一人嘯いた。


 それと、あまり関係ない話だが、
 その頃の某レジ。
「『職人が作ったゆっくりのゆっくりできるお家 ver.05』、14500円になりまーす」
「うっわ、高っ!あんたもうちょっと負けなさいよ!今度タダで妖怪退治してあげるから!」
 そんな紅白によるやり取りが行われていたとか。



 ―その晩―

 迷いの竹林 妹紅宅にて。

「‥‥ねぇ、もこたん」
 ペットのゆっくりかぐやが妹紅の膝の上からゆっくり声をかけた。もう夜遅いからか、少し眠たそうな声だ。
「なぁに?かぐや」
 ゆっくりかぐやを撫でながら気のない返事で妹紅が答える。
「姫となにかあったの?」
「‥‥‥‥、どうして?」
「質問に質問で返すのは不正解よ、もこたん。そんなのもこたんの顔を見れば分かるんだからね!!」
 このゆっくりは、いつも頭悪そうにはしゃいでたり、眠たそうな顔をしたりしているくせに、
 たまにこういった確信を突く理知的な会話をすることがある。妹紅は軽く溜息をついた。
「‥輝夜をね、怒らせ‥、いや、悲しませてしまった」
「‥‥‥」
 かぐやは聞く体制に入ったのか、何も言わない。
「泣いてたんだ。最後に見たあいつの顔」
 妹紅はゆっくりかぐやに腕を回し、軽く抱きしめる。
「私はさ‥、輝夜のことを憎んでいる。恨んでいる。だから、飽きずに殺し合いなんてものを続けている。
 でもさ、それだけじゃない。私とあいつの関係はそれだけじゃない。それくらい、分かっているよ」
 妹紅は自分の中の感情を確かめるように、誰にも話したことの無い心境を吐露する。
「憎んでいるけど、嫌いじゃぁない。いや、嫌いだけど、好きじゃない訳じゃない。
 恨んでいるけど、殺したい訳じゃない、いや、殺したいのだけど、消えて欲しい訳じゃない。
 はは‥、自分で言ってて訳分からないや」
 自分の中にある相反する感情。云千年の想い。複雑に絡み合うそれは、そうであって互いに矛盾している訳ではないのだ。
 葛藤はない、たまに分からなくなるだけで。
「だから、今日分からなくなった。二人きりで出かけるなんて、初めてだったから」


 最初に誘ったのは確かに輝夜だった。

「ねぇ、もうすぐクリスマスよね。私ね、私のもこたん‥、貴女のことじゃないわよ‥、
 私のゆっくりにプレゼントを買ってあげようと思うのだけど」

「良かったら、貴方も一緒に買いにいかない? いやほらあのね!一緒に考えて買ったほうが互いに良いもの買えるじゃない!!
 他意なんてないわ!だからさ、ね!!」

 顔を少し染めながら何時にない早口でまくし立てられたのはよく覚えている。
 そして、承諾した時の本当に嬉しそうな顔も。

「私が、あいつを憎む気持ちも、恨む気持ちも、そして、そうじゃない気持ちも、全部嘘じゃないんだ。
 けれど、今日出すべき感情を間違えたのはきっと私の方だ」
 滲んだのは後悔の念と罪悪感。
「なら、私はどうしたらいい?どうしたらいいと思う?かぐや」






「zzzzzzz  ゅぅ~、むにゃむにゃ食べられないょ~」


「そぉい」
 妹紅は割と容赦なくゆっくりかぐやを壁に叩きつけた。
「ぐにゃ!!」
 ゆっくりかぐやが軽くはずんで跳ね返って妹紅の方に戻ってくる。
「ゅは!!しまった、寝てしまってたわ!! もこたん、もうクリスマス!?クリスマスの朝になってしまったの?」
「あぁもう色々大丈夫よ、まだ夜」
 妹紅は一瞬で白けてしまった空気に、何て独り言を呟いていたんだと自分で自分を呆れながらそう言った。
「ゆぅぅ、良かったわぁ。それじゃ、明日のクリスマスプレゼント、ゆっくり楽しみにしててね!」
「ええ?あんたも用意してくれてたの?プレゼント」
 いきなりの報告に妹紅は嬉しさより先に戸惑いの声をあげた。
 ある程度の知恵はあるといえ、一応ゆっくりかぐやは妹紅のペット扱いである。
 確かにクリスマスについての知識は教えてあげたが、まさかそこまで気を回してくれるとは思っていなかった。
「もちろんよ!いつももこたんにはお世話になっているもの!!当然の心がけよ!」
 胸を張ってどうだと自慢げな態度を取る。こんな姿がそこはかとなく可愛らしい。
「ああ、でもごめん。私はあんたのプレゼントまだ用意してないのよ。明日一緒に買いにいくってことでいい?」
 結局あの後、最後の一つだったゆっくりハウスも気がついたら誰かに取られてしまっていて、
 複雑な気分なまま妹紅は帰宅してしまったのだ。
「ゆゆ、いいわよ!もこたんからのプレゼントだったらいつでも大歓迎ね!!」
「そっか、有難う。じゃぁ、そろそろ寝るか」
「ゆゅ、了解よ!!」
 取り敢えず今日は寝よう。
 輝夜のことや自分のことは取り敢えず後回しだ。後で何らかの決着をつけなければいけないだろうが。
 そしてまた妹紅は心の中で嘆息した。

(素直に「ごめんなさい」と言えれば、それが一番楽なのにな)



―ほぼ同時刻―

 永遠亭、輝夜の部屋にて。

「ねぇ姫ー!どうしたのー!ゆっくりしてるー!?」
 輝夜が何と無く自分の部屋で横になっていると、心配したのかペットのゆっくりもこうがゆっくり近づいてきた。
「ああ、大丈夫よ、もこたん。私はゆっくりしてるわ」
 可愛いペットに心配はかけまいと、すぐさま起き上がって輝夜は精一杯の笑顔で答えた。
 けれど、何とも無い訳がない。 
「ゆゅ~、それならいいけど」
 腑に落ちないのだろう。相変わらず心配そうな顔でこちらを見上げている。
 そんなゆっくりもこうが堪らなく愛おしくなり、輝夜はゆっくりもこうは自分の腕の中に入れた。
「ゆ、ゆゆ~♪とらうまぁ~」
 本当に嬉しそうな可愛い声を上げるものだ。少し荒んだ心が癒された。
「ねぇ、もこたん」
「ゆ?なぁに、姫?」
 そして輝夜は息を呑み、ゆっくりと尋ねた。

「もこたんは‥、私のこと、好き?」



『私はね、あんたと同じ場所で一緒の空気吸うのだって嫌で嫌で仕方無いんだから!』



「ゆ、もちろん大好きだよ!!今世紀最大のトラウマ級だよ!!」
 きゃぴぃ、と輝夜の腕の中ではしゃぎながらゆっくりもこうは元気良く答えた。
「そぅ、有難う」
 輝夜は笑顔でゆっくりもこうの頭を撫でてやる。
「ゆゅ~もこもこ~♪」
 また嬉しそうな声をあげるゆっくりもこう。
 本当に、可愛らしく、愛おしい。
 それだけに、
 輝夜はまた少し悲しくなった。

(知っていたはず。彼女は、私のことを恨んでいる。殺したいほどに。恨まれている自覚だってある。
 彼女が今永遠の時を無理矢理に生かされているのは、全て私の所為なのだから)

 それなのに、どうしてこんなにも心が痛んでいるのだろうか。
 どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろうか。

(私は‥、私は後悔していない。誰のことも恨んではいない。この身体になったのは自分がそう望んだ結果であることだし、
 例え後悔や悔恨を抱いたとして、現状が変わるわけではないのだから)

 だから、彼女は昔に拘らず、今と言う一つしかない時間のために生きようと決めたのだ。
 幸い幻想郷は今を楽しむ要素に事足りない。今を楽しめなくなることは当分ありそうにない。

(だけど、彼女は違う)

 自分が罪人とするのなら、彼女はその最大の被害者だ。
 罪を認め、今に生きている自分とは違う。
 悔恨を捨てられず、死ぬこともできず、永遠に過去に縛られたままここにいる。

(だから、私は彼女と永遠に付き合わねばならない。過去にそういう風に結びついてしまった因果なのだから。
 私のためでなく、彼女が今を生きるために。過去を現在に繋げて一緒にするために)

 その因果が煩わしく思えることも多々あった。
 輝夜はできることなら過去に捕らわれず生きていたかったから。

(だけど何時の間にか変わってしまった。この因果を手放したくなくなってしまった。
 そして、因果以上のものを求めるようになってしまった)

 いつも一緒に笑い合い、いつも一緒に罵り合い、いつも一緒に殺し合う。

(それ以上のものを求めて、そしてあんな能天気に誘ってしまったんだ、私は。彼女の悔恨も後悔も無視することで)

 だからこそ生まれた綻びだ。
 ただ殺し合っていれば良かったものを。
 自分はあまりに多くのものを求めすぎてしまった。

(それで勝手に傷ついて、今も楽しめなくなるなんて‥。笑えない本末転倒。滑稽の骨頂ね)

 ならば、自分はこれからどうするべきなのか。
 どうしなくてはいけないのか。

「ゆゅうう、姫~。どうしたの?やっぱりゆっくりできてないの?」
 輝夜の腕の中に居るゆっくりもこうがまた心配そうな声で話しかけた。
「あ、ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をね」
 これ以上心配かける訳にはいかない。
 輝夜はまた無理矢理な笑顔を作り出した。
「ダメだよ、姫!今日はくりすますなんだから、もっとゆっくりしようよ!」
 励ましているのか叱咤しているのか分からないが、輝夜を心配しているのは確かなようだ。
「はい、ごめんなさいね。ああ、そうだ‥ごめんなさいついでに思い出した。
 私今日貴方のクリスマスプレゼント買ってこれなかったの。明日一緒に買いに連れてってあげるから、許してくれる?」
 妹紅に色々罵られたダメージが大きくてすっかり忘れていた。
 溺愛しているペットにクリスマスプレゼントも与えてやれないとは愛好家としての名折れだ。
「ゆゆ!別にオッケーだよ姫!それじゃ明日は私のプレゼントをまず最初に姫にあげるね!!」
「…え?  もこたん私にプレゼント用意してくれたの?」
 輝夜もまた嬉しさより先に驚嘆の声をあげた。
 まさか、ペットと思って飼っていたゆっくりにプレゼントをもらうことになるとは流石の永遠亭の姫も予想だにしていなかったのである。
「ねぇ!私に何をプレゼントしてくれるの?」
 好奇心を押さえられず輝夜は聞く。
「ゆっゆっゆ‥。それは明日までのお楽しみだよ!」
 何かを秘めたような笑顔でゆっくりもこうはニヤニヤと答えた。
「いーじーわーるー。いいわよ、じゃ明日の朝は思いっきり驚かされてしまうことにするわ!」
「ゆっくり楽しみしててね!!」
 そんな掛け合いを行いながら、やはりペットはいいものだと輝夜は思った。
 自分の汚い感情を洗い流してくれるようだ。
 だが、それで物事がうまく回って解決に向かう訳ではない。
 決着は自分の手でつけなければいけないだろう。
 ゆっくりもこうを抱きながら輝夜は思った。

(本物の妹紅とも、こんな風に素直に接せられれば、それが一番いいのにな)

 そして輝夜は気付かなかった。
 輝夜とゆっくりもこうの様子をふすまの先から見つめている存在があったことを。
 その人物が、輝夜がいつ寝るのかを見張っているのだということを。



 そして、その後は何事もなくイヴの夜はゆっくり終わっていった。

 新しい一日が始まる。






―幻想郷 師走 クリスマス当日―

 早朝
 永遠亭、輝夜の部屋。
「うぅぅぅううう、むにゃむにゃぁぁ、ああ、あああぁ」
 輝夜は部屋に刺すわずかな陽光に反応し僅かに目覚めた。
 といってもまだ頭の中の88%を眠気が支配しているような状況だ。
「う…うぅうぅん、朝かぁ‥」
 何だか随分ゆっくり寝てしまった気がする。朝なら早く起き上がらないと。
 もしかしたら既に永林が朝ごはんを作っているかもしれない。
 だが、今の季節は冬。
 布団からすぐ飛び出すには色々きつい季節だ。
 輝夜はもう少し布団の中で転がることに寝ぼけた頭で軽く決めた。
 そこでふと輝夜は気付いた。
「…んにゅ? これは~?」
 布団の中に何か居る。
 青白い長髪。赤い紅白の大きなリボン。
「あぁ、もこたんんん~♪」
 どうやらペットのゆっくりもこうが自分の布団の中に入り込んでしまったらしい。
 珍しいことではない。
 昨日のように寒い夜は輝夜のことを暖めようと自分の寝床(大きな籠にシーツを敷き詰めたもの)から出て、
 輝夜の布団の中に入ってきてくれることがあるのだ。
 本当に主人想いの可愛いペットである。
「もぅ、もこたんたらぁ」
 余りに愛おしいのでぎゅっと抱きしめる。
 ああ、暖かい。まるで生きている湯たんぽを抱いているようだ。
 触感だってこんなに柔らかい‥、

 あれ? いつもよりちょっと硬いかなぁ。

 ていうかあんまりゆっくりの感触ぽくない。寒いから硬くなっちゃたのかしら?
 まぁいいやぁ、と、取り敢えず輝夜は尚ぎゅっとその頭を抱きしめ続ける。
「ん~、ん~、苦しぃ」
 ふと抱きしめている頭からそんな声が漏れた。
 あれ?ちょっと強く抱きしめすぎちゃったかなぁ。
 そう思って輝夜は少し抱く力を緩めた。


 藤原妹紅はちょっとした息苦しさに目を覚ました。
(何だ、この息苦しさ‥?)
 何やら柔らかい感触が自分の頭を押さえつけている。
(柔らかい‥? ああ、ゆっくりか‥)
 どうやらゆっくりかぐやが寝ているうちに自分の布団の中に入り込んだようだ。
 それにしてもわざわざ頭の前に居座ることも無いないのに‥。
 少し呆れながら、妹紅はそのまま柔らかい感触に向かって頭を傾けた。
(ああ、柔らかくてふかふかして気持ちいい。 ううん、でもいつもより柔らかさっていうか弾力が足りない気がするなぁ。
 なんていうか小さい)
 そこでやっと妹紅は少しおかしな点に気付いた。
(ああ、ちょと苦しすぎると思ってたら背中を手で押さえつけられてたのか‥。まったく、ほらぁ、かぐや‥手を話せぇ)



 ‥‥‥手?

「あぁん、もこたん。そんなに強く引っ付かないでぇ。ちょっと胸に当たりすぎぃ」

 そんな軽い呻きが妹紅の頭の上の方から聞こえた。
 ‥‥胸?
 それ以前にゆっくりかぐやってこんなにも艶っぽい声を出したっけ?

 そこで初めて妹紅ははっきり目を開けた。


「ん~、もこたん~むにゃむにゃ」

 そこには、幸せそうに眠る蓬莱山輝夜の顔があった。
 ちなみに滅茶苦茶近い。ちょっと近づければ顔と顔が触れ合う距離だ。
 というか、既に互いの身体で触れ合ってる箇所がけっこうある気がする。脚とか胸とか。

「はい?え?え?え? 輝夜? ゆっくりじゃない輝夜?」


 自分の名前を呼ばれ輝夜の頭は半分ほど覚醒した。
「ん? なぁにぃ、私は輝夜ですよぉ」
 必然的にまだ半分は寝ぼけている。
「いや、輝夜!輝夜!? 何でここに、ていうか、え、ここは何処だ!?」
 そこで初めて妹紅はここが自分の家でないことに気付いた。
 自由になる首だけを回して周りの景色を確認する。自分の家とは比べ物にもならないくらい広い間、立派な障子、入ってこない隙間風。
 妹紅はここに何回か来たことがあった。
「え、永遠亭!!」
「そりゃぁ私の家だものぉ~。永遠亭に決まってる…じゃないですかぁ」
 まだまだ寝ぼけている輝夜は気楽な口調でそう答える。
「ええい、輝夜!取り敢えず起きろ!そして離して!ほらいい子だからぁ!今この状況は色々まずい!
 ほら、色々当たってんのよお互いに!!お願いだから離してぇえ」
 顔を真っ赤にして妹紅が懇願する。力ずくで離さそうとしても流石かな、月の永遠の姫。
 寝起きとはいえ結構本気で力を入れているのにさっぱり離れない。
「もぅ、うるさくしちゃメッでしょぅ~。私はもう少し寝たい寒いからぁ」
「ああもう!!ここが屋内でなきゃ好きなだけ焼き殺してやるってのにぃ!離して、マジ離して!!もう色々限界だからぁ!!輝夜ぁ」

(ん‥?そういえばもこたんは私のこと姫って呼ぶはずよねぇ。どうして輝夜だなんて今日に限って‥)


 そこで初めて輝夜は目を全開にして自分が抱きしめている相手を見た。
 人間の顔、人間の身体、人間の手足。
 そして何より凛々しくも可愛いお顔。
 どう見ても藤原妹紅さんその人であった。

「‥‥‥‥‥‥」
「おおい、輝夜さぁん??」
 急に押し黙った輝夜に妹紅が生存確認の声をかける。
 しかし輝夜はそれどころではない。
 自分がさっきまで抱いていた相手が妹紅本人だったのだ。
 今現在脚とか胸とか触れてる相手が妹紅本人だったのだ。
 まぁつまり目の前に居るのが妹紅本人だったのだ。

「…き」
「…き?」



「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 永遠亭に主の叫びが響き渡った。
「お、落ち着け馬鹿」
「妹紅のエッチ、変態ぃいいいいいいいいいいい」
「わ、私は何も、てうあぁああああああああ」

 止める間もなく妹紅は輝夜によってもの凄い投げられ、

 どごんゴロゴロ、と
 障子を破って縁側まで転がっていった。



「はぁはぁはぁ」
 興奮冷めやまぬ状態で輝夜は息を荒立たせる。
 何だったのだろう、先の光景は。
 あんな、妹紅が自分の布団の中に居るなんて。
 夢で見たことはあっても、現実でこんなことが怒るなんて有り得ない。
「…ん、ああ、夢か」
「違っうわよ!」
 破れた障子をどかして妹紅が輝夜の部屋に乗り込んできた。
「いや、本当にお願い。取り敢えず夢ってことにしておいて。でなきゃ私本当に死んじゃいそう‥」
「ああ‥うん、了解。ごめん」
 妹紅は空気を読めるいい娘である。
「しかしいったいなんでこんな‥ん?」
 そこで妹紅は気付いた。
「おい、輝夜。お前の首んとこ何かついてるけど」
「へ?」
 言われて輝夜は首を弄る。確かに何かが巻きついている。
 輝夜は絡まらないように、ゆっくりとそれをはずした。
「‥‥、コレって」
 それはプレゼントを包むために使われる紅白のリボンだった。
 ギフトショップでラッピングしてもらえるものの中で、ビニールで製ではない布で作られた高そうなリボン。
「あ、妹紅。貴女の首にも同じのついてる」
「え?」
 言われて妹紅も自分の首を確かめる。
 確かに輝夜が持っているものと同じリボンが巻きついているようだ。
「‥いったい誰がこんなものを‥、ていうかどういう意味のリボン?」
 訳が分からないといった表情で
「リボン‥それで思い出したけどそういえば今日はクリスマスよね?」
 輝夜が何と無く呟く。
「うん、ああ、そりゃ昨日がイヴだからね。今日はクリスマスってことになるけど」
「‥‥‥‥‥、まさか」
 何か思い当たる節があるらしい。輝夜が少し考え込むように頭を押さえる。
「どうした、輝夜?」
「私にもリボンが付いているっていうことは‥、ねぇ妹紅。昨日貴女のゆっくりは貴女に何か言ってなかった?クリスマスに関することを」
「変なこと聞くな?そりゃ、クリスマスだからクリスマスの話題の一つや二つ‥」


『それじゃ、明日のクリスマスプレゼント、ゆっくり楽しみにしててね!』
『それじゃ明日は私のプレゼントをまず最初に姫にあげるね!!』


 ‥‥‥、え?まさか‥?そういうことなのか?このリボンてそういう意味なのか?
 プレゼントってのは、つまり、その、
 そういう意味か?

「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」

 二人はそんな心境を互いにアイコンタクトで確認しあった。
 恐らく、間違いない。



 二人のゆっくりはあっさり見つかった。
 輝夜の部屋のすぐ隣の部屋。
 どこから持ってきたのかゆっくりサイズのサンタ帽を被って毛布にくるまり仲良さそうに2匹でゆっくり寝ている。
 正直二人にとっては鼻血流血ものの可愛さだが、今はその姿を脳内フィルターに収めている場合ではない。いや、収めるけど。
 取り敢えず輝夜はゆっくりもこうを、妹紅はゆっくりかぐやをそれぞれ掴みあげる。
 そして、

「「そぉい」」

 取り敢えず2匹を壁に投げつけた。

「ゆ!」「ぎゅ!」

 投げつけられたゆっくり達はぽよんぽよんと跳ね返り、主たちの腕に戻ってくる。
「むにゅぅうう。あ、もこたんんぅ~。おはようぅ。めり~くりすますねぅ~」
「むにゅにゅ。あ、姫ぇ、お早う!!メリークリスマスだね!!」
 片方は明らかに眠たそうに、片方は寝起きだというのに元気にそう挨拶した。
「ああちょっと貴方達に確かめたいことがあるんだけど‥、いいかしら?」
「『達』っていうかゆっくりもこうだけに聞いたほうが早そうよ。この子寝起き悪いからなぁ。コラ、また寝るなぁ」




 ―幻想郷 クリスマスより4日前 昼―

 迷いの竹林、某所にて。
「待たせたわね、もこたん!ゆっくりしていってね!!」
「遅いよ、かぐや!ゆっくりトラウマになってね!!」
 そうゆっくり特有の挨拶を交し合う2匹。言うまでも無く妹紅と輝夜が飼っているゆっくりかぐやとゆっくりもこうである。
 2匹は知り合ってから、互いにとても気に入ったようで、主人に連れられなくてもこうしてちょくちょく会うようになっていた。
 といっても2匹だけで多くの妖怪が闊歩する竹林を出歩くのは危険なので、そのことは厳しく禁じられていたのだが。
「さて、今回来てもらったのは他でもないわ!4日後に迫った一大イベント!クリスマス、そのプレゼントについて話し合うためよ!!」
 さも重大な話題を取り扱うようにゆっくりかぐやが深刻な面持ちでそう言った。
 どうやら今回の邂逅の約束を取り付けたのはゆっくりかぐやの方らしい。
「ゆゆ、普段からお世話になっている姫に恩返しする良い機会だね!」
 対してゆっくりもこうはゆっくりらしいのんびりとした口調でありながらも、真面目な目でゆっくりかぐやを見据えながらそう返した。
 2匹のゆっくりにとってこの話し合いはそれほど大きな意味を持つらしい。
「そういうことね!でも私たちはゆっくり!できることは限られてしまうわ!お金もないしぃ」
「ゆぅん。もこうも姫からはお小遣いなんてもらってないよ!何も買えないよぉ」

「だから、買えないもので見繕うしかないわ!二人の欲しがっているものを!!」
「ゆゅゆゆ‥、何も買わないで姫の欲しがっているものを‥。難しいよぉ」
「そうね、その通りだわ!!」
 そこで!とゆっくりかぐやは待ってましたと言わんばかりの態度で仕切りなおす。
 どうやら既にある程度の考えがあるらしい。
「昨日うちに遊びに来ていたよるすずめ、ミスティアお姉さんにこっそりアドバイスを頂いておいたの!!」
「ゆゅ!さっすがかぐや!! それで‥ミスティアって誰?よるすずめって何?」
「もこたん(人間の方)の友達の焼き鳥さんだよ!」
 どうやら微妙に間違って認識しているらしい。ゆっくりだから仕方無い。
「それでね、ミスティアお姉さんが言うにはね‥
『え‥?クリスマスになにをもらったら嬉しいかだって?うぅん、そうだねぇ。取り敢えず鳥料理はごめんだなぁ。
 この時期やたら鳥料理が目立って腹立たしいったらないもの。だからねぇ~う~ん。
 ちょっと分からないなぁ。多分私なら(鳥料理以外)何をもらっても嬉しいよ、好きな人からのプレゼントだったら。
 だってさ、クリスマスにさ。好きな人と居られたら、それだけで物凄く嬉しいじゃない!』ということなのよ!」
 ミスティア本人の認識は間違っていたくせに、言っていた言葉は一字一句()の中にいたるまで覚えているようである。
 こういうところもまたまたゆっくりである。
「ゆ~、恋する乙女の発言だね!!」
「そこでかぐやはこう返したの!『恋する乙女うぜぇ』って」
「台無しだよ!」
「チョップ食らったわ!」
「当然の結果だよ!」
 まぁつまり、とかぐやはまた仕切りなおす。
「これでかぐやたちのすべきことが分かったかしら!?」
「うん!もこうはゆっくり理解したよ!」

 そう、彼女らのすべきこと。プレゼントするもの。
 それは‥、

「姫にはもこたん」「もこたんには姫」
「二人で迎えるクリスマスを」「プレゼントだね!!」




―時間は再び戻ってクリスマス当日 朝―

「以上が前回の粗筋だよ!」「ゆっくり理解できたかしら!」
 何故か自信満々にゆっへんと胸を張る2匹。ちなみにゆっくりかぐやは気が付いたら何時の間にか完全に覚醒していた。
「いや、待て。待て待て待て」
「追いついていけない、追いついていけないわ。いや、本当に」
 本当に頭痛そうな表情で額を押さえながら妹紅と輝夜は言った。
「私の好きな人云々の話でなんで輝夜に話がいくんだよ!しかも即決で!」
「私だって‥!いや、話しちゃったっけ‥?いや、話してないわ!話してないもの!!」
 顔を真っ赤にして二人は即否定する。輝夜の方は少しボロが出ていた。
「いや、それはねー!」「ねー!」
 当然だろという態度で2匹のゆっくりは相槌をうつ。寧ろ何故今更そんなこと聞くのか分からないといった風だ。
「いや、だから‥私は、輝夜のことなんか‥!!」
 言いかけて、ふと、妹紅は輝夜の視線に気付いた。
 別に表情に変化がある訳ではない。いつも通りだ。そもそも輝夜は自分に不利な感情を表に出すことはほとんどない。
 だが、妹紅は言いよどむ。
 今から自分が何を言うか、思い出してしまったからだ。
 その結果も。


『私はね、あんたと同じ場所で一緒の空気吸うのだって嫌で嫌で仕方無いんだから!』


 だからこそ、妹紅は。

「私は輝夜のことなんか好きだと思ってなんかないわよ!!」

 自分の想っていることを迷わず口に出した。
 輝夜の表情がほんの一瞬だけ曇る。だが、それは本当にほんの一瞬。
「えー!」「でもー!」
 納得いってないような文句を2匹はあげる。
 そんな2匹に輝夜は諭すような優しい声をかけ、
「ほら、妹紅もそう言ってるでしょ。まったくもう今回は悪戯が過ぎ‥」
「待て」
 その言葉を妹紅によって遮られた。
「‥何かしら?」
 輝夜は何事かしらと妹紅を見据える。
 同じように妹紅も輝夜の目を真っ直ぐ見て言う。
「だけど、あんたのことをただ嫌いだなんて、少なくとも今は思ってない!」
 澄んだ、響くような、誰が聞いても嘘でないことが分かるような真っ直ぐな言葉だった。

「昨日は‥酷いこと言い過ぎた。ごめん」

 そして妹紅は目を逸らすようにそっぽを向いた。流石に今の顔は見せられないと判断したからだ。
 しかし輝夜にはそれが有難かった。
「な、なによ今更。今更、そんなこと言われたって‥その‥困るわ」
 そして輝夜も顔を見せないようにと妹紅と反対方向を向く。
「ああ、本当ごめん」 
 そんな妹紅の態度に自分の顔が触って確認できるくらい熱くなっていることを輝夜は自覚できた。心臓の鼓動が早すぎる。
 このままじゃ色々ヤバイ。
「そんなに謝るなら、謝ってくれるならさ。それじゃぁ」
 言葉を溜めるように、それでも飲み込まないように、ゆっくりと緊張しながら輝夜は言う。
「今日、ゆっくりのクリスマスプレゼントを買ってあげる約束してたんだけど‥、良かったらだけど、一緒に行かにゃい?」

 やっべ、噛んだ。
 そんな輝夜の第一感想。

「ああ。分かった。行こう」

 そして妹紅は即答する。
 結論に迷いがない。

「え‥でも‥いいの?」
「いいよ、昨日の侘びもこめてさ」

 妹紅が輝夜の右手を後ろから両手で掴んだ。

「言っただろ。あんたのことは別に嫌いじゃない」

 す、好きでもないけどな。そんな風に余計な一言を付け加えて妹紅は言った。

「な、な、なによ。 ‥手ぇ離してよ」
 あくまで自分の表情を見せないように輝夜は少し震える声でそう言う。そんなこと望んでいないことは自分でも分かってはいたが。
「嫌だね」
 妹紅はすっきりとした笑顔でそう答えた。
「‥馬鹿」
 擦り切れるような声で輝夜が呟いた。
 どんな心情でその言葉を呟いたのか、輝夜の顔が見えれない妹紅には推測するしかない。
 だが、それでもその言葉にどんな意味があったのか。
 想像するのは容易いことであった。
「うっせぇよ、大馬鹿」



 永遠亭の永遠の姫、蓬莱山輝夜。
 迷いの竹林の世捨て人、藤原妹紅。

 二人の関係は何と言う言葉で表されるのだろうか。
 互いに助け合う親友ではない。
 互いに支え合う家族でもない。
 互いに同じ目的を持つ同士でもない。
 互いに愛し合う恋人などもっての外だ。
 互いに殺し合う関係なので好敵手という言葉が一番近いのかもしれない。

 だが、恐らくそういったカテゴリー分けは何の意味も持たない。
 二人の関係は『輝夜と妹紅』という言葉だけで十二分に表せるのだから。
 殺し合って、罵り合って、想い合う。
 そんな、どこの誰との関係とも同じではない。
 二人だけに許される、唯一無二の間柄。

 二人は永遠なのだから。



「‥‥、焚き付けた結果がこれだよ!!」「見事に置いてけぼりね!!」
 見事に放置プレイを食らっている愛玩動物2匹がそう呟いた。
 しかし、サンタ帽子を被った二人は非常に満足そうな顔で、
 イチャイチャする二人の様子をニヤニヤしながら見つめていた。
 一日限りのサンタとしての役割は無事果たせたとでもいうように。




                                   永遠な二人 ~聖夜~   ―了―



以降 後書きのようなもの
  • 作者当てには普通に間に合いませんでした!いや、元より隠す気0だったから別にいいんだけどね!
 悔しくなんかないさぁ~   グスン
  • 正直最初に書いたSSくらい短いのを書こうと思っていたのに‥。気がついたら大容量です。
 くそぅ、何処でどう間違えたのだ‥? 即ち長文で済まない。
  • ゆっくり成分がどう見ても少ないです、2割くらいです。マジ済まない。
  • やっぱりかぐもこが俺のジャスティス。
  • 書いた人⇒かぐもこジャスティスの人。
  • ↓におまけもあるでよ。







 ―これよりおまけーね―


 そして、そんな二人の様子を襖を僅かに開け見つめている影が2人いた。
 黒幕のご登場である。
「ふふ、どうやらうまくいったみたいね」
「どうやらそうみたいだな」
 月の頭脳、八意永琳。
 知識と歴史の半獣、上白沢慧音。
 そう、今回の計画はたった2匹のゆっくりでは無茶なことが多すぎる。
 そもそもゆっくりだけの力では少女とはいえ一人の人間を運ぶことなんて不可能だし、そもそも途中で目覚めてしまう危険性がある。
 当初計画を考案したゆっくり2匹はそれぞれの飼い主と一番近しい人物、即ち永琳と慧音に協力を依頼。
 2人は「面白そうだからおk」と快く協力を承諾。
 かくして今回の計画は実行に移されたのである。
 朝までまず起きない都合の良い無味無臭の睡眠薬、永琳プレゼンツ。
 妹紅を永遠亭まで運んだ労力、ついでに紅白のリボンとゆっくりたちのサンタ帽子、慧音プレゼンツ。
 二人の助力あってこのゆっくり達の計画は初めて成功したのである。
「いやぁ、しかし」
 慧音が呟く。
「正直ここまで良いものが見られるとは思っていなかった。もこたん可愛いよもこたん」
 おびただしい量の鼻血を流しながら慧音が言った。
「ええ、自分で言うのも難だけどお互い良い仕事をしたものだわ。ああ姫愛おしすぎます姫」
 同じくおびただしい量の鼻血を流しながら永琳が返す。
 そして二人はお互いに堅い握手を交わす。
「合言葉は」
「てるもこは永遠の輝き」
 爽やかな笑顔でお互いの手を握る2人の表情は本当に満足そうだった。鼻血垂れ流しだけど。


「さて、難題です。さっき私が大きな叫びをあげたというのに、
 邸の主人の悲鳴が永遠亭中に響き渡ったというのに、
 うどんげどころか兎の一匹も様子を見に来ないのは何でだったんでしょう?」
 転瞬。
 二人の死角からそんなどこか澄み切った、それでも所々から怒気が感じられる声がした。

「昨日私が慧音からもらった酒の中に入っていたものも気になるなぁ」
 同じ方向から、苛立ちを隠そうともしない感情丸出しの声が同じく聞こえた。

「あ、姫」「お、妹紅」

「ちなみに、答えは聞いていません」
「言い訳とかも聞かないから」
 二人とも、とても爽やかな笑顔だった。


『神宝「サラマンダーシールド」!!』『蓬莱「凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-」!!』


 師走 クリスマス当日。
 迷いの竹林にある永遠亭。
 微炎上。



                                         おまけーね ―了―


  • キターーーーーー!!! -- 名無しさん (2009-01-03 17:33:37)
  • わざわざ感想有難うございますw  ‥感想ではないか。
    あとまた誤字ハケーンしたので直しときました。ていうか誤字多すぎだろ俺‥。取り合えずけーねに頭突き喰らってきます -- かぐもこジャスティス (2009-01-08 22:34:30)
  • なにこれこのかぐもこはなぢでるよ -- 名無しさん (2009-01-14 08:30:54)
  • むちゃくちゃいいかぐもこでした。読んでる途中ニヤニヤしっぱなし、俺のツボを的確に突いてくるッ!!
    宜しければまた続編が見たいです -- 名無しさん (2009-02-19 19:40:35)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年02月19日 19:40