Treasure Children 前編

 ザバザバと、船から岸に飛び移るのに失敗し、みょんは濡れながら移動した。
 渡し守は何をしているのかと思っていたら、すやすやと居眠りしている。
 ゆっくりこまちだった。


 (言伝えどおり―――――――)


 こんな事が、どれほどあるのか解らない。
 しかし、川の付近にも、先の岩山にも、人影は見えない
 罪悪感――――というより、何かゲームで相手にはばれなくとも、巧妙にちょっとしたずるをする気分
になる。


 ―――もしかしたら、自分が何もしなくてもどうにかなるかもしれない

 しかし


 ―――奇跡は自分から待つものじゃない むしろ自分で作るもの―――


 大事な言葉が思い浮かぶ


 ―――あの子を喜ばせたい。 自分と同じ思いをさせてあげたい――――



 意を決して、みょんは公道ではなく、わき道に入っていった。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++










 項垂れているきめえ丸に、どう声をかけていいものかと悩んでいる内に、他の病室から産声が上がった。
 普通の病室からだった。
 特にそのまま、感情の揺れも見せない。
 タイミングが悪かったと思ったが―――――目的の一つではある。


 「行く?れみぃちゃんのを見にさ」
 「おお、すまぬすまぬ」


 ノックをしたが、中は悲鳴交じりの歓声で、ろくに聞こえない。
 ちょっとした悪質な冗談を思い出した


 ―――ゆっくりすいか・ゆうぎの結婚式と葬式の違いって?
 ―――酔っ払いが一人少ない


 中では、人間が一人と――――かなりの数のゆっくりがひしめいていた。そして、ベットには疲れきっては
いるが、この上なく幸せそうな顔の若いれみりゃが一人。
 その上を、体の無い赤ちゃんれみりゃが、ぱとぱとと3人羽ばたいている。


 こんなに幸せな風景を、2人ともついぞ見ていなかった。


 この世界に生まれた事が楽しくて仕方ないように、赤ちゃんれみりゃは元気よく飛び回った。疲れなんて知ら
ないみたいに。
 やがてころり、と落下しかけるのを、すかさずベットの上の親れみりゃが受け止める


 「ゆー!ゆっ!!」
 「うー?」
 「赤ちゃん………赤ちゃん!!!れみぃの赤ちゃん…………!」


 目に涙をためて、そっと胸に赤ちゃん達を抱き寄せ、そして母親は全員に頬を寄せた。
 初めての感覚が余程気持ちいいのか、うっとりした顔で、執拗に赤ちゃん達は頬をすり合わせた。


 「ありがとう…………本当にありがとう………!!」


 誰に言うともなく、礼をひたすら言ってるのは、その当の母親である。
 ベットの上に、今度はそのさらに母親―――赤ちゃん達にとっては祖母に当たる少し年をとったれみりゃが、そ
の赤ちゃん達を抱える。


 「おちびちゃんの赤ちゃん………赤ちゃん………!!」
 「ママ、もうれみぃおちびちゃんじゃないよ?」
 「もう、おちびちゃんがママになったんだね!!!」


 同じくらい年配のゆっくりさくやとぱちゅりーも目に涙をためながら頷く


 「お孫様ですわね、おぜうさま!!」
 「わたしも赤ちゃんが生まれた時のことをおもいだすわー」


 主に、祖母れみりゃの友人とその家族と思われるゆっくり達は、赤ちゃんの誕生に興奮しながら、肉親達のすりす
りが終わったのを見届けると、我々もと赤ちゃん達を抱きたがった


 「ゆ~~~!!!」
 「かわいいのー!!!」
 「ゆっくりした赤ちゃんだね!!!」


 たくさんのゆっくりにすりすりを繰り返され、やや困惑気味の赤ちゃん達だったが、うーうーと愛くるしい笑顔は
絶えることもなく、病室の面々をさらに喜ばせた。
 きめえ丸の元にもやってくる


 「あ、どうもです。兎に角おめでとうっす!!」
 「おお………… めんこい めんこい………!!!」


 背を向けて、端のほうですりすりをしているのは、泣いているのが恥ずかしいからだろう



 ―――それは、感動の涙だけではないのだ



 最後に、最初からいた女子大生と思われる人間の手に渡った。
 女子大生は、あまり表情を表に出してはいなかったが、端から見て解るほど感動して、笑いを押さえきれないことが
よく解った。
 震える手で、あかちゃんを乗せ、顔に近づける。
 赤ちゃん達も、精一杯すりすりを始める――――――

 そして、それは起こった


 「まーま」
 「みゃみゃー!!」
 「みゃみゃっ!!!」


 歓声が少しずつ小さくなり、やがて止んだ。
 笑ったまま、皆何と言っていいものかと止まっている。
 当の祖母れみりゃと母れみりゃだけが、今一状況を把握できずに、笑いながら首をかしげている


 「ええと……これはその……………」
 「れ、れみりゃの赤ちゃん達、何言ってるの?赤ちゃん達のママはみれりゃだよ?それは人間さんで、ゆっくりじゃないよ?」
 「みゃみゃ!!!みゃみゃ!!!」
 「もっとしゅりしゅりして~」
 「うー!!!」


 大汗かきながら、言い訳をする女子大生と、それを無邪気に疑問に思う三世代れみりゃ。
 何やら怒髪天をつきそうなさくやさんとぱちゅりー。
 気まずそうな友達のゆっくり達。――――――ひと際、みょんが物凄く嫌悪感を露にしている


 「ゆっ!!!人間風情がどういうこと!!?」
 「いえ……その、わたしはれみぃとは何の……健全な関係で…」
 「でも、赤ちゃん達があなたのことをママって呼んでるよ!!!」
 「た、単なる、か勘違いでしょ?」
 「うー……隠さないでぇえ」


 母れみりゃはベットか起き上がると、よろよろと飛びながら女子大生の元までいく。
 それにしても、さくやさんの発言が酷い。


 「もう隠さなくてもぉ、いいでしょう?」
 「いや、でもね?あのね?」
 「ママ、紹介するよ?」


 ちょこんとれみりゃと女子大生の頭の上に腰(?)を下ろした赤ちゃん達と一緒に、全員に、少し恥ずかしげに母れみりゃは
言った。


 「れみぃのぉ、お嫁さんでーす!!!」
 「―――子ども産んだのあんたなのに、私が嫁かいな」


 瞬時――――祖母れみりゃが卒倒し、さくやさんがそばにあるものをとりあえず投げつけ始め――――何故か、みょんが女
子大生噛みついていた。
 血が出ていた。



 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 大事な話には違いなのだが、まだ回復していない母れみりゃを病室に残し――――他の階にある、子ども遊戯室を使って話
は行われた。
 野次馬根性で、よせばいいのに、知り合いであろうゆっくり達は全員現場についていった。
 人間の子ども達は遊んでいたが、お構い無しに、幼児用の椅子に祖母れみりゃを座らせ、その横にさくやさんとぱちゅりー
が陣取り、女子大生は何とも言えない顔で、体育座りをしている。
 その横に、恐ろしく機嫌の悪そうなみょんが構えている、
 それを、幼児達にほっぺをつねられたり弄ばれたりしながら、ゆっくり達は遠巻きに見ている。


 「むきゅー、どういう事なのかゆっくりせつめいしてね!!!」
 「どういう事って言われましてもねえ……さっき説明したんですが、れみぃが、私の子どもを産んでくれたって事で…」
 「ゆっくり相手に何してるの?馬鹿なの?何ふぇちなの?」
 「痛いほど解ってます…………」


 ゆっくり自体は邪魔にはならなかったのだが、いい年の人間が多数のゆっくりに説教されている姿は、子どもの情操教育に
悪いと思ったのか、移動したり「見てはいけません!」と戒める親がいた。
 その後、どうやって赤ちゃん達を養っていくのだとか、仕事は何をやっているのだとか、基本的な質問が続き、力無く女子
大生は答えていった。ややあって、状態を飲み込み始めた祖母れみりゃが訪ねる


 「お姉さんは、ちびちゃんのどこが好きになったの?」
 「う~ん………」


 腕組みして、自分に言い聞かせるように


 「体の相s………」


 言い終わらない内に、みょんが背中に噛み付いていた。


 「いや、体とか、そうした不健全な話ではなく――――可愛いからです!大好きなんです、れみぃの事っ!性格も見た目も!!」
 「そうだよねえー。ちびちゃんかわいいよねえー」
 「ええ、もう世界一かわいい!!あのいつも笑ってる目とか、丸っこい体とか、全部が全部!!どこが好き?って聞かれても
  却って困るくらいです!!」
 「これからも?」
 「年取ってもお母さんみたいな感じなんですよね?多分ずっと大丈夫だと思います。いや、ずっとずっと好きです。彼女の事
  今も―――あいつのいない部屋なんて想像できない!!」


 祖母れみりゃは諸手を上げて無邪気に喜んでいる


 「むきゅー いいの?喜んでるの?」
 「大体、お話するのが遅すぎるよ!!!」
 「そ、それもそうですね」


 女子大生は、当初黙り通そうとしたという事もあって、素直に正座すると、ずりずりと祖母れみりゃの前まで膝で移動し、
頭を下げた


 「お母さんと呼ばせてください!!」


 周りの人間はひそひそといぶかしんでいる


 「いいよー」
 「おぜう様!!!早すぎですよ!!!」
 「メエド長と呼ばせてください!!!」
 「さくやさんでいいよ!!?」
 「ぱっちぇさんと呼ばせ下さい!!!」
 「むきゅう、あなたにぱっちぇさんと呼ばれる覚えは無いわ!!!」


 椅子から下りて、頭を下げ続けている女子大生に、赤子をあやすようにずりずりと祖母れみりゃは頭をなで始めた。


 「これからもちびちゃんをよろしくね?」
 「大事にします、お母さん!!!」


 これはこれで嬉しそうな祖母れみりゃの肩を、さくやさんは、ぽふ、と叩いた。


 「おぜう様、ちゃんとよく考えなければだめですよ?」


 困り顔を浮かべる主人に、さくやさんも心苦しいのだろう
 と、眉をしかめているさくやさんの肩を、ぽふ、と叩くものがいる


 「むきゅう、れみぃもいろいろ考えての事なのよ?自分で決めさせましょ?」
 「ぱっちぇ様………」


 女子大生に愛称を呼ばれて怒っていると思ったが、やはり本人達の事は本人で、という事だろう。
 妙に暖かい眼差しのぱちゅりーの肩(?)を、ぽふ、叩くものがいる。


 「みょんっ、人間なんてゆっくりは皆同じだとおもってるよ!!!しんようしたらだめだよ!!!」
 「そうかしら………?」


 先程から噛み付いてきたみょんだった。顎(?)全体でぱちゅりーにのしかかっている。
 その目は悪意に満ち溢れていた。が、その肩(?)を、ぽふ、と叩くものがいる


 「ゆゆ~、みょん?これは他所のおうちに問題だよ?みょんはそんないじわる言わないであげてね?」
 「おかあさん、あいては人間だよ!!!」


 今までいなかった、ゆっくりゆゆこであった。顎(?)全体でみょんにのしかかっている。
 駆けつけてきたのか、少し息があがっている。いつ来たのだろうと思っていると、その肩(?)を、ぽふ、と叩くものがいる


 「察してあげよう」
 「きめえ丸さん?」


 ずっと見ているだけのきめえ丸であった。
 知り合いであろうが、ゆゆことの交友関係は聴いたことが無い。
 どういった付き合いで、やたらと怒っているみょんの、何を知っているのかと思っていると、その肩(?)を、ぽふ、と叩くも
のがいる


 「ところで、最近不動産業に進出したよ。新居は”因幡物置”をよろしくね!!!」
 「れみりゃに言え」


 親指を立てつつ、不適な笑いを浮かべるゆっくりてゐであった。
 少し怒り気味のきめえ丸を尻目に、てゐはごそごそとポケットから何かを取り出そうとしていた。
 さっきまで本当にいなかったし、知り合いでもなさそうだった。
 とりあえず、彼はその肩を、ぽふ、と叩いた


 「誰だよ?お前」
 「”因幡物置”よろしく」


 そんな彼の肩を、ぽふ、と叩くものがいる


 「物置なの?家じゃないの?」
 「知らないよ。誰だよお前もいつ来た?」


 ゆっくりうどんげであった。こいつもさっきまではいなかった。
 ゲラゲラと病的に笑ううどんげの肩を、ぽふ、と叩くものがいる


 「うどんげさん?暇なのはわかりますが、そろそろ病室に戻ってください?」
 「そうだね!!!」


 看護士であった。
 その看護士の肩を、ぽふ、と叩くものがいる


 「お仕事お疲れー!」
 「―――ありがとうございます」


 祖母れみりゃがぐるりと廻っていたのだった。


 「――ゆゆっ!!!」
 「すごい!!!」


 ぐるりと、れみりゃ・さくや・ぱちゅりー・みょん・ゆゆこ・きめえ丸・てゐ・人間・うどんげ・人間の輪が!!!


 「ちょっと困ったな」
 「むきゅう、とりあえずまた赤ちゃん達を見に行きましょ?」
 「「「「そうだね!!!」」」


 看護士だけが離れ、9人はずるずると廊下を歩いていった。他のゆっくり達も加わる。


 「「「きしゃ♪ きしゃ♪ しゅっぽーしゅっぽー」」」
 「病院内ではお静かに!!!」
 「サーセン」
 「サーセン」



 加わりたがる人間の赤子を抑え、人間の親が呆れてみている。


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 後半から、ちょっとおめでたいとはいえない空気になった病室を後に、彼はきめえ丸と二人でいきつけの居酒屋で夕食をとって
いた。
 ちびりちびりと飲みながら、彼は聞く


 「きめえ丸さん……何で子どもがほしいの?」


 まずそうに胡瓜をかじりながら、きめえ丸は少し考えてから答えた


 「それが、生き物の、行動だから」


 考えてもいなかった。
 子どもを宿す事も、相手に授ける事もできないと診断されたきめえ丸だったが、予想以上の落ち込みの理由は想像していたもの
と違った。
 もっと、自分の蓄えや、長期連載のコラムを後継人とか、そうした理由だと思っていた。
 だったら、別に他のゆっくりに受け継がせたり、養子でももらって来たらどうだろうか、と言いかけていたので、改めて理由を
聞いておいてよかった。
 こんなに根本的な問題とは


 「自分の遺伝子を残したいとか、そういう話?」
 「子どもはめんこい」
 「まあねえ」
 「宝物よ。私も、喜びたい」


 昼間の、病室でのれみりゃの家族を思い出す。
 確かに、あんな喜びは当人なってみないと解るまい。ただ、きめえ丸の場合は更に小難しい事を考えてる様だった。過去に何か
があったのだろうか。付き合いは長いが、立ち入るのは怖い気がした。
 焼酎をあおりつつ、明るめの声で言う


 「きめえ丸さん、それ以前に生き物かー?」
 「おお、暴言暴言」
 「中に詰まってるの何だっけ?普通の内臓?それとも煎餅だっけ?米だっけ?」
 「おお、ぐろいぐろい」


 わざと暴言を吐いてみるのが、きめえ丸への励まし方だった。
 ひとしきり笑った後、ふと思い出した


 「話は全然変わるけどさ、病院でやたら怒っていたみょんがいたじゃない」
 「…………」
 「あいつ何?親族でも同居してる訳でも無いくせに、やたらちょっかい出してきたんだけど、どういう関係なの?」


 考えられるとすれば、れみりゃの恋人となるが、きめえ丸ずてに聞いていた話には、そんな三角関係は浮かんでこなかった。
 一体何を怒っているのか?
 あの人間自身の知り合いなのか?だとすると、何でわざわざ噛み付いていたのだろう
 きめえ丸に振ってみると、悲しげに首を振った。

 今日、一番悲しそうな顔だった


 「おお、知らぬが仏 知らぬが仏」


 とは言え気になる


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 数日経つと、もうクリスマスイブだった。
 これだけ近い日に生まれてしまった子れみりゃ達の、誕生日祝いとクリスマス祝いが同時にはしょられるか否かは、あの親
れみりゃと人間女の甲斐性にかかっているだろう。
 ちなみに、きめえ丸は元旦に生まれたため、誕生日とも正月ともつかない祝われ方が嫌だったと言っていた。
 子どもを作るならば、なるべく祝日から離れた日にと決めていたらしい


 「子どもの頃、何をもらったの?」
 「TENGAかな」
 「人気あるなあ……いや、きめえ丸さんTENGA関係なくない?」


 仕事帰りの2人が向かうのは、西日暮里の、託赤ちゃんゆっくり所だった。
 電車の中、停車する駅の度に多様なゆっくりが増えて言ったと思っていたら、全員西日暮里で降りた。バスやら何やらで、
下りてくるゆっくりも多い。
 すぃーもそこら辺を駆けている。
 少し嫌な予感がしていたが、ゆっくり達は全員同じ方向に向かっていた。
 今や、道はゆっくり達で溢れていた。

 全員目が据わっている。

 どこから鳴っているものか、腹の音がグルグルとコダマしている。
 皆腹をすかしているらしい。何やら戦後の配給へ向かう列のようだ。
 見ると、どのゆっくりも若い。保護者と一緒に来ている者もいるが、大抵は学校にあがって間もない頃だろう。


 「もしかして…………」
 「全員………」


 横を行く学校にあがったくらいのれいむに聞いてみた


 「クリスマスだから、託赤ちゃんゆっくり所へいくんだよ!!!」
 「クリスマスだからぁ?うちらと同じ理由ですかねえ、きめえ丸さん」
 「―――君は、赤ちゃんの頃、『体験』しなかったの?」
 「れいむがいたとき、ありすがわるさをしたんだよ!!!だから、お祝いできなかったんだけど、ことしはやる、ってきいた
  んだよ!!!」
 「ちょっと興味あるなあ……。毎年やってる訳じゃないのか…………その年は何を食べたの?」
 「大根さんがあまってたから、ふろふき大根にして皆で食べたよ!!!」
 「それはそれでおいしそうじゃないか」
 「大根さんじゃ代わりにならないよ!!!もっと甘いものをお腹いっぱいたべたかったよ!!!」
 「おお、わがままわがまま」


 しかし、念願が今年はかなうわけだ。
 程なくして託赤ちゃんゆっくり所に着いたが、以前よりも大幅に増築していた。この不景気の最中、どこまで繁盛している
のやら
 しかし、中で行われている事は――――


 「ゆっぐりでぎないいいいいいいいいいいいいいいい」
 「おながすいたあああああああああああああああ!!!」
 「まだ?まだ?」
 「ゆええええええええええええええ!!!」


 さながら伝説となった、旧西ドイツの第3ゆっくり加工所である
 勿論、中で人間がゆっくり達に何かを悪事を働いている訳ではない。


 「こんばんはー」


 中は阿鼻叫喚と化していた。
 所狭しとゆっくり達が床には転がり、人間をあたふたと手伝っている。役立つ者もいれば、そうでない者もいる
 受付で葉書を提示し、大ホールへ向かって行くと、早良いにおいが………


 「おお、これ これ」


 途中でボロボロにやつれた男に遭う。


 「お疲れ様ですねえ」


 聞こえていないのか、男は大きな隈を作りながら、されど嬉しそうに歩を進める。


 「きっとこの日が嬉しくて仕方が無いんだな」


 きめえ丸も、この日が楽しみで仕方ないという。
 ややあって、知り合いの職員に挨拶をしている時だった。


 「お兄さん お兄さん」


 振り返ると、この前の一団が勢ぞろいしている。祖母れみりゃ、母れみりゃ、孫れみりゃ達。更に、気まずそうな
の女子大生がいるが、孫れみりゃ達は祖母と母親が一人ずつ抱え、もう一人は飛んでいた。女子大生は何故か不服そ
うにぱちゅりーを抱っこしていた。抱えられて、まんざらでもないのか、ふてぶてしい笑顔を浮かべていた。


 「おお、来られましたか」
 「今年は開催できてよかったね!!!」
 「もう3年間もできなかったしね」


 彼は今一このシステムを理解していなかった事に気がついた。


 「クリスマス会だろ?何なんだ?これ」
 「説明するとだね」


 昔は、毎年必ず暮にホットケーキを大量に焼いて、思う存分赤ちゃん達に食べさせていたのだろうな
 しかし、経営も上手く廻り、安定してそこそこの栄養価と味のある食事やおやつを提供できるようになってから、
その年に一度の贅沢を行う必要性が問われるようになってきた。
 折りしも、「貧しい子どものゆっくりに(普通に生活していればまず縁の無い)人間の食事を与え続けて、味を覚え
させ、通常のゆっくりの生活では満足できなくさせてコミュを崩壊させる」という密かな遊びが韓国で流行ってい
た事がニュースで取り沙汰された。「年に一度とは言え、ゆっくりに贅沢を覚えさせるのはいかがなものか?」という
声があがっていたのだった。


 「だから、視点を変えた見た」
 「ほうほう」
 「年に一度旨い物を食べて、残り一年の食べ物を我慢させるんじゃない。『一年良い子にしていればこんなに美味しい
  ものが食べられる』 と、モチベーションをつけるようにしたんだ」
 「毎年はホットケーキを焼かなくなった訳ですか」
 「給食などを、一つも残さないのは前提にして、良い事をしたら押す、ゆっくりスタンプカードを作るって案もあった
  んだけど、とりあえず今は大きな事件が無かったら、ホットケーキを焼くことにしてる」


 しかし、それはそれで問題があるだろう


 「いじめが余計隠れて行われるようになってるんじゃないかとか、『ばれなきゃいい』って、却ってずるくなる子どもが
  いたりとかね」
 「余計大変ですね、それ」
 「お陰で、ホットケーキを焼ける年の方が少なくなった。連帯責任、って言い方は嫌いなんだけど、そこら辺はゆっくり
  達にも厳しさを教えねばならん」
 「今年は何とか焼ける訳ですか………託赤ちゃんゆっくり所にいる3年間、一回もホットケーキを食べられなかった子も多
  い。だから、ここのOG(?)は、ホットケーキを焼ける年には来てもいい事にしたんだ。――――人数が多すぎて、今じゃ
  規模が大きくなりすぎている」
 「そこまでして食べたいかなあ………」
 「いや………食べたい、って理由だけじゃないんだ。見れば解る」


 この日のために、ゆっくり達は食事を抜いてきたのだろう。
 会場に入ると、テーブルがいくつも用意され、プレートとケーキの素材の他、餡子やクリーム、スライスした果物やチョコレ
ートや蜂蜜・バターなど、ホットケーキを食べるにあたって必要な素材はほぼ網羅していた。
 ややあって、一番奥のテーブルから、じゅうじゅうと焼き始める音が聞こえた。
 人間も含め、会場全体から歓声が起こる。


 「きめえ丸さん、ここのOGなんだ?見るのは初めて?」
 「おお、3回目 3回目」
 「ホットケーキ食う以上に、何があるのさ?」
 「始まるよ!!!」


 気がつくと、結構いい年のれいむとまりさが近くのまだ何も焼いていないテーブルに登っていた。
 中央に、何も乗せていないひときわ大きいテーブルがあったが、そこへ視線が集まる。
 ややあって、皿が置かれ、座布団のようなホットケーキが置かれた。

 そして、そのテーブルに、丁寧に赤ちゃんゆっくり達が乗せられる


 「ゆゆーーーーーーーーーっ!!!」
 「しゅごい!!!」
 「おいしちょうだね!!!」
 「はやくたべたいよ!!!」


 赤ちゃん達は、目を輝かせる。
 何人かはダラダラと涎を垂れ、早くもテーブルクロスを汚していた。
 上に蜂蜜をまずはたらすと、野球の波のように、赤ちゃん達は歓声をあげて体を揺らした。


 「「「「「「ゆウウウウウウ!!!」」」」」」


 何人か、その皿に飛びつこうとしているので、職員達はすかさず盆で押さえている。
 少し高めの椅子に、大人のまりさが乗って、赤ちゃん達に呼びかける。どうやら先生らしい


 「食べるのはもう少し後だよ!!!」
 「せんせーなんでー?もうたべたいよ!!!」
 「ゆっくりちゃんと聞いてね?今年一年、みんな良い子にして頑張ったね!!?」
 「ゆゆ?そうだよ!!!れーむたちみんないいこだったでしょ?」
 「そう!!!良い子だったから、今日はホットケーキを食べられるんだよ!!!」
 「らいねんもいいこにしますからはやくたべさせて!!!」
 「おはなしながいよせんせー!!!」
 「しつこいときらわれるよー!!!」
 「話をゆっくりし過ぎたよ………」
 「まりさ先生、元気出して!!」



 来年も良い子にしてね!!!
 掛け声と共に、赤ちゃん達はホットケーキに群がっていった。


 「「「「「「「いただきまーーーーーす!!!」」」」」」」


 見方によっては、川に落ちた動物に集まるピラニアの様―――――殺伐とした例えが思い浮かんだが、巨大な
ホットケーキは見る間に無くなっていった

 「うっめ、めっちゃうっめ!!!」
 「ぱねエ!!!」


 ――――はむはむはむはむ


 元々、食事制限には厳しく、(昔ほどではないが)あまり良い食事は極力出さず、個人個人満腹にさせることも
ない日々の食事に慣れた赤ちゃん達にとって、取り合う必要も遠慮の必要も無ければ、ほぼ無限に広がる眼前の
ホットケーキの上は理想郷とすら言えた。
 食べても食べても無くならず、喧嘩もお説教も無い。
 忘我の境地で、泣きながらホットケーキを赤ちゃん達は食べ続けた


 「おいしいよおいしいよ!!!」
 「うれじいいいいいいいいいい!!!」
 「むじろゆっぐりでぎないいいいいいいいいいいいい!!!」
 「おいしい 主に 主に おいしい」


 彼は傍らの、にやにやと不気味な笑いを浮かべるきめえ丸に尋ねた


 「これが見たかったの?」
 「おお、絶景絶景」


 確かに悪い絵ではない。


 「「「「「「ちあわちぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」
 「「「へびん状態!!!!!!!!!」」」


 何人か度を越している赤ちゃんもいる。


 「ゆっくり好き――――っていうか、赤ん坊ってものが好きな人にはたまらねえっすねえな」
 「子どもはいい………悪意では動かん。本能だけで生きる。穢れをまだ知らん」
 「ゆっくりの赤ちゃんは生意気過ぎる気もしますけどね……」


 彼は少し気になった。
 きめえ丸が子ども好きなのはよく解るが、このまま、毎年幸せな赤ちゃんを見に来るつもりだろうか?その度に、こうして
他人のたくさんの赤ちゃんを愛で、そして、自分には子どもができないことを呪って一年を終えるつもりなのか?
 寂しすぎる
 早、最初の赤ちゃん達を眺めていたにやにや笑いはもう消えている。
 何と声をかければいいものかと考えていた頃、やってきたものがある


 「この前はごめんね!!!」


 病室と遊戯室で、ちょっかいを出してきたみょんの母親だという、ゆゆこであった。


 「おお、ご無沙汰ご無沙汰」
 「うちのむすめが色々ゆっくりできなくさせてたね!!!」
 「いえ………誰も気にして無いっすよ」


 きめえ丸は、みょんの事はおろか、このゆゆこの事も話そうとしない。


 「ゆゆこさん? 友達でも来てるんですか?」
 「ゆゆ~、みょんが、ここに遊びに行く、っていうから心配になったの」
 「おお、過保護過保護」
 「―――れみぃちゃんを止めなきゃ、ってずっと言ってたの!!!じゃましなきゃって、隠れていくって!!!」


 それは放ってはおけまい


 「あと、ホットケーキが山ほど食べられるからー!!!」


 娘の心配もさることながら、ぐるぐると腹の音が聞こえた。


 「あとで余った分は大量に食べられますから、娘さん探しましょう」
 「おいしそうだね!!!」


 先程れみりゃ一家に遭った時にはいなかったが………
 会場を探し始めると、どこのテーブルもホットケーキを焼き始めていた。いくつかのテーブルには更に小さい赤ちゃん達
が、皿に盛ったホットケーキの本当に小さい欠片をちみちみと食べていた。小さい子にはこれでも相当なご馳走だろう。
 ちょっと心が病んだが、れみりゃとふらんのそうした小さな赤ちゃんは、少し隔離されたテーブルにいた。他のゆっくり
に間違って噛み付いたりしない様にの配慮だ。
 もう既に体つきになっている子もいたが、皿の上で、にこにことじゃれ合いながらケーキの欠片を頬張っている姿は、と
ても共食いをする様に見えず、やはり心苦しい。
 とりあえず、れみりゃ一家の所まで行ってみると、母れみりゃと祖母れみりゃが無節操に余りもののホットケーキを赤ちゃ
んと一緒に頬張っていた。

 赤ちゃんは2人しかいない。


 「もう一人はどうしたんです?」
 「ぱちゅりーとお嫁さんが連れてるよー」


 母親の方は、やはり子どもに食べさせたいらしく、口にケーキを入れて、その度にうーうー返ってくる反応に、同じくうーうー
と応えていた。


 「はー、広いトイレでしたねえ」
 「むきゅう。人間でも十分使えるから凄いわね」


 実は仲が良くなったのか、相変わらずふてぶてしい笑みを浮かべるぱちゅりーを抱えて、廊下から女子大生が来る。
 傍らに赤ちゃんはいない。


 「もう一人の赤ちゃんは?」
 「―――さくやさんに預けたけど?」


 と――――ぐいぐいとズボンを引っ張るものがある。
 女子大生が足元を見ると――――みょんがいた。


 「―――え?」
 「こっちに来てみるがいいよ!!!」


 ぽんぽんと跳ねて行く先には、先程のれみりゃとふらんのテーブルがあった。


 「あ…………」
 「まさか……………」



 少なくとも、彼には見分けがつかなかった


 「あの………みょんさん?何の嫌がらせ?」
 「嫌がらせじゃないよ!!!」
 「おお、嫌がらせ嫌がらせ」
 「おい、糞人間!!!」


 最悪な名称だ


 「何よ、この糞饅頭!!!」
 「―――ぱっちぇさん、自分がクリームだからって売り言葉に買い言葉は………」
 「よく人間がゆっくりに言うじゃない!!!それからあなたにぱっちぇさんと言われる筋合いは無いわ!!!」
 「このテーブルの上に、お前が騙して孕ませた子どもが一人いるよ!!!本当にお前がこれから育てていくあいじょうがあるn……」


 と、テーブルの上の一人が、こちらに気付いてぱとぱと飛んでこようとする


 「みゃみゃ~」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 「みょんっ!?」
 「根本的に欠陥があるなあ」


 と、みょんは素早くテーブルに飛び乗ると、その赤ちゃんの羽を咥えて押さえこむ。更に、テーブルの上の全員に向かって呼びかけた。


 「さあ、赤ちゃんたち?もうおねむさんの時間だよ?」
 「うー?」
 「もっちょたべちゃいよ?」
 「♪きしゃ きしゃ♪ しゅっぽ しゅっぽ」


 根気良く歌を続けると、ややあってテーブルの上のれみりゃとふらんは全員眠りに落ちてしまった。


 「あのさ、何でゆっくりの託児所なんてもんがあるの?あれで眠れるんなら、俺でもできそうなんだけど?」
 「生まれたての時だけ、生まれたての時だけ」
 「まだ単純にできるからかあ?」
 「あ、赤ちゃああああああああああああん!!!」
 「しかし、あの歌って子守唄でもなんでも無いよな」


 女子大生は、それこそゆっくりの様に大袈裟に大声を上げて顔を引きつらせ、うろたえている。
 気持ち良さ気に眠るゆっくり達を尻目に、みょんはゆっくりとは思えないほど悪辣な顔で笑っている。


 「お、おのれえー 何て酷いことをー …………んで、どうするかね、きめえ丸さん?俺違い解らないんだけど」
 「嫁さん次第、嫁さん次第」
 「明美の赤ちゃんがああああああああああああああああああ!!!」
 「あー、あの娘さん明美、っていうんだ。初めて知った……」
 「ゆっくりらしくなってきなね!!!あけみちゃん!!!」



  →  続く



  • 今更だけどタイトルの「チルドレン」のスペル間違ってるのぜ。
    直せないのぜ? -- 名無しさん (2009-01-14 15:13:46)
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最終更新:2009年01月14日 23:01