きずな⑨~冒険~前半

きずな⑨~冒険~前半

 太陽が燦然と輝き、生命が命の灯火をもっとも盛んに燃やす季節、即ち夏が訪れた。
 時は8月。耳を澄ませばあわれなる風鈴の音色や、自由を謳歌する蝉の声が溢れてくる。
 あの祭りの日以来、3匹のゆっくり達 ―――ふらん、さくや、めーりんは頻繁に一緒に遊ぶようになった。
 ふらんがさくやとめーりんを連れ空中散歩を楽しんだり、秘密基地を作って遊んでいた。秘密基地と言っても小さな山の廃れた人小屋に少し手を加えただけのものだったが。
 さて、その小屋の中を覗いてみると中に3匹は居た。…が、何やら遊んでいる訳ではなさそうだ。

「お、お、お…」
 めーりんが覚束無い様子で何かを呟く。
「『おめでとう』ですわ!」
 さくやが真剣な眼差しを浮かべ、そう告ぐ。
「お、…お…」
「うー♪めーりん、ゆっくりがんばって!!」
 ふらんがじっと見つめ応援する。
「お、お、お…JAOOOO!!…JAO!?」
 一連のやりとりの後、3匹はほぼ同時に溜息をついた。すっかり気落ちしている。

「うー…またダメだったね…」
「JAOOO…」
「めーりん、げんきだしてくださいまし!ゆっくりどりょくすればきっといえるようになりますわ!」
「JAOO!」
 会話から察するにどうやらめーりんはしゃべる練習をしているらしい。どうしてこんなことになっているのだろうか?
 時は8日前に遡る。


 ―8日前・進宅―


 縁側に進の父親とめーりんが腰を降ろし、庭の眺めていた。
 進は現在宿題を済まそうとしている最中で、邪魔になりそうだったので仕方なくここに移動したのだ。
 すると、母親がやってきた。

「ほら、2人とも~。西瓜切って来たわよ~!」
「おお、すまん。ありがとさん。」
「JAOOO!」

 塩をまぶし、そのみずみずしい甘味を一口一口確かめるように味合う父と母だったが、めーりんは破竹の勢いでがぶりついた。
 早くも実は食い尽くし、皮まで食そうとしている。

「…お前はカブトムシか…」
「JAO?JAOO!」

 種も口周りのあちこちに付着していた。その貪欲な食いっぷりに、2人は思わず吹き出した。
 一時は、めーりんと暮らすことに強く反対していた母親だったがその頃の面影は消え去っていた。今ではそれなりに馴染んでいる様子だ。
 と、父親がふと思い出したように話しかける。

「そういや…もうすぐ進の誕生日だったなあ。今年のプレゼントどうするんだ?」
 人差し指を唇に当て、しばし思案してから答える。
「んー、そうねー…ゲームは…あの子あまりやらないし…やっぱり模型とか本とかの方がいいかしら?」
「えーっと…あーっと…去年は…帆船の模型だったよな。明日にでも探してみるよ。」
「JAOOOOO?」

 何の話なのか分からぬめーりんが首を傾げる。

「ああ、めーりんは誕生日を知らないのか?」
「JAOOO!」

 誕生日。それは誰もが持つ生まれた日を1年に1度祝う記念日。だがそんな人の習慣など、めーりんは知る由がなかった。
 教えて欲しいと言うように、父親の袖を口で引っ張る。

「ははは。分かった、分かった。いいかい、めーりん。誕生日ってのはな。年に1度の記念日なんだ。」
「JAOOO…?」
「その日は、その人の生まれた日。だから誕生日って言うんだ。」
「JAOOOO…」
 分かったような分からないような…曖昧な表情を浮かべた。そんな様子を見かねてか、母親が補足する。

「誕生日は、プレゼントを渡したり、ごちそうを食べたり、ろうそくの火を消してお祝いするのよ。『お誕生日おめでとう』と言ってね。」
 プレゼント、ごちそうという言葉に反応するめーりん。何となくゆっくり出来そうな物だとは伝わったらしい。

「めーりん、あなたも何か進にプレゼントを渡すといいわ。きっと喜んでくれるわよ。」

 ぷれ…ぜんと…?

「おいおい、無茶言うなよ…」
 苦笑いしながら妻を窘める父親に、頭を小突きながら舌を出す母親。
 その一方でめーりんは一人、物思いに耽っていた。



 ―その翌日―


 めーりんは、ふらん、さくやと秘密基地へと集まり、誕生日なるものについて聞いてみることにした。

「おたんじょうびですか?もちろんしっておりますわ!」
「うー♪ふらんもしってるよ!」
「JAO、JAOOOO?」
 昨日の2人の説明ではカンペキには理解出来なかったのだろう。催促するように詳しく教えてくれとと頼んだ。

「とってもゆっくりできるものですわ!おじょうさまのおたんじょうびにはおともだちもたくさんいらっしゃいましたわ。」
「うー♪けーきについたろうそくのひをけすんだけど、そのときおうたをうたうんだよ♪はっぴぃばーすでぃーちゅーゆー♪ってね!」

 新情報はともに+イメージを加えるものだった、が、めーりんが知りたいのはもっと違うことだった。
「JAOO、JAOOO!?」
「ゆ!どんなぷれぜんとをわたせばいいのか、でございますか?」
「うー♪ふらんはたいちのおたんじょうびにえをかいた♪」
「わたくしはぷりんをつくってさしあげましたわ!」
 2匹とも誇らしげに胸を張る。

「JAOOO…」
 めーりんは思い悩んだ。自分にはどんなプレゼントが渡せるのかと。だが、自分には絵を描いたり、ましてやプリンを作るなどという芸当は到底できそうにもない。
 2匹にもそれを打ち明ける。

「うー…」
「ゆー…どうしましょう…」
 ふらんとさくやもいっしょに考えてくれるらしい。

 考え過ぎて頭がオーバーヒートしはじめた頃、
「ゆぴーん!そうですわ!」
 さくやが何か閃いたようだ。めーりんもふらんも注目する。
「おはな、なんてどうでしょう?」
 花…成る程、これならめーりんでも用意できそうだ。
「JAOOO、JAOOOOOO!!」
「うー♪いいかんがえ!でもぉ、どんなおはなにする?」

 再度3匹は悩みだす。何せ、3匹の花についての知識はあまりに乏しかった。
「…できるだけうつくしいものがいいとおもいますわ…」
 だが、ここで行き止まりとなってしまう。その美しい花がどんな種類でどんな姿でどんな名前でどこで咲いているのか。肝心のこの点が出てこない。

「うー…でも、ふらん、あまりおはなにくわしくない…」
「JAOOOO…」
 進展はしたが、半歩程度。結局は悩むの繰り返しとなってしまった。

「JAOOOOO…」
「ゆー…こうなったら…ものしりけんじゃのぱちゅりーさまにたずねてみるのはどうでしょうか?」
「うー?ものしり…けんじゃ…?」
「JAOOO…?」
 聞きなれない単語にふたりは戸惑った。
「このやまにごいんきょされているとてもいだいなけんじんさまですわ!わたくしもちいさいころによくおせわになったものです。」
 どうやらその人物はさくやも一目置く偉い存在らしい。

「うー♪よくわからないけどぉ、そのひとならおはなさんにもくわしそうだね!」
「JAOOOO!!」
「ぱちゅりーさまならきっとおはなにもくわしいはずですわ!」
「よーし♪じゃあ、けってぇーい!!」

 3匹は物知り賢者・ぱちゅりーの下に行くことにした。ここから山を登らなければならないが、飛行能力をもったふらんがいれば造作もないことだ。

「ぱちゅりーさまはちょうじょうのおおきなきのしたにすんでいらっしゃいますわ!いもうとさま、がんばってくださいませ!」
「うー♪まっかせて~♪」
 さくやの指示で小気味よく頂上へと向かった。ここからだと尾根沿いの道を通ることになる。
 比較的緩やかではあるものの、急激な谷沿いであっても空を飛べば関係はなく、しかも短い距離で辿り着くのだが…

 目の前でリスの集団が横切る。やや大きいのが2匹に小さいのが2匹。家族だろうか?忙しそうにキョロキョロ見渡していた。

「あ、りすさんですわ!」
「JAOOO!!」
「うー♪うー♪かぞくでゆっくりしてるねー♪」

 3匹にはこの豊富な自然とゆっくり触れ合う方が合ってそうだ。

 飛び続けること45分。ついに目的地に着いた。と、同時に頂上の中央の木が目に入ってくる。

「JAOOOOOOOO!!!」
「うー♪これ…すっごくおおきい!!」
 初めて見るめーりんとふらんはその大きさに興奮した。地上から見上げてもてっぺんが全く分からないのだ。10mはくだらない。
 それに…何やら成熟した威圧感を放っている。樹齢も相当なものであることは容易に想像できた。
 3匹は木の根元の入り口らしき所へ向かう。

 さくやが息を吸い込んだ。
「ぱちゅりーさまあー!!いっらしゃいませんかー!?」
 出来る限り声を張り上げるものの、返事は皆無だ。呼び声が虚空へと溶け込み、場は再び静寂を取り戻す。
「JAOOO…」
「うー…いないのかなぁ…?」
 これからどうしようかと思い始めた時だった。

『上から来るわ!気をつけて!!』

 天からいきなりそんな声がこだまする。不審に思い見上げると…何だろうか?巨大な塊が落下してくる。
「JA、JAOOO!?」
 こままで押し潰されてしまう!
「ゆ、ゆっくりにげましょう!!」
「うー!ふらんにまかせて!!」
 ふらんが2匹を素早く抱え込むと背後へと慌てて逃げ出す。と、瞬間、稲妻が落ちたような轟音が唸り、地響きが一帯を支配し、砂煙が舞った。
 正に間一髪と表現するのが相応しかった。
 この塊の落下に巻き込まれていたら、間違いなく命はなかった。
 無事なのはふらんの機転のお陰だ。

「JA、JAOOOO…」
「ゆ!あぶないところでしたわ…」
「うー…なんだったんだろう?」
 砂煙が徐々に晴れてゆく。

 薄い桃色の帽子を対比されるように鮮やかな三日月。
 魅惑的な紫色の髪。
 濁りのない白色の肌。

 そこに居たのは、ぱちゅりーだった。…ただし、それはとても巨大だ。実に2m程の体長を誇っている。
 病弱かつ寿命が短いとされる一般的なぱちゅりー種とは無縁のサイズだ。

「ぱ、ぱちゅりーさま!?」
 さくやの声が裏返る。どうやらこのぱちゅりーが例の賢者らしい。
「むきゅ!誰かと思えば…さくやだったのね!久しぶり!20年振りかしら!」
 軽い挨拶で済ますぱちゅりーであったが、危うく殺されかけた3匹―――特にふらんがそのいい加減さに怒る。

「うー!ゆっくりしね!もうすこしでふらんたちしぬところだった!!」
「むきゅ…ごめんなさい。最近、この山も物騒になってきたものだから…侵入者かと思ったのよ。」
 まだ怒りが収まらないといった様子だったが、さくやとめーりんがなんとかして宥めている。

「むきゅ!そういえば、さくや大変だったわね…群れを追い出されたんでしょ?心配してたのよ。」
「あのあといろいろあったのですが…いまはにんげんのおじょうさまのもとでくらしていますわ。」
「そう…でも、元気そうな顔が見れて何よりよ。…で、今日はどんなご用件かしら?」
 その言葉に一行はようやくここに来た目的を思い出した。
「そうでしたわ!実は…」

 さくやたちはめーりんの友達の進がもうすぐ誕生日で、そのプレゼントとして渡す美しい花を捜し求めてるがどんな花が良いのか分からず困っている、という旨を伝えた。
 一通り話しを聞き終えた後、ぱちゅりーは2度3度頷いた。

「むきゅきゅ!ゆっくり理解したわ!ここじゃなんだから、私の家でゆっくりしていってね!」
 3匹は勧められるがままにぱちゅりーの家の中に入ることとなった。

「うー♪♪」
「JAOOOOOOO!!」
 ふらんとめーりんが目の前の光景に感動する。
 その中は自分が住む人間の部屋にも劣らぬ程広く、光蘚生息しているからであろうか。地中だというのに金色の輝きが放たれていた。
 さらに驚くべくは、数多くの棚とゆっくりサイズの本が設置されていたことだ。
 ここは、まさに知の宝庫―――図書館と呼ぶのがふさわしい。

「むきゅ!ゆっくりしていってね!」
 字が読めるかどうか甚だ疑問…いや、それ以上にこの何百ものサイズの本を一体どのように集めたかも気になるがところだが…
 このぱちゅりーにはドスまりさ同様、何か不思議な力が宿っているのかもしれない。

「す、すごい~!!ごほんがいっぱい♪」
「JAO、JAO、JAOO!!」
 その2人の興奮しきりな反応に、ぱちゅりーは満足げに微笑むと本棚へ向かった。
「むきゅ…確か植物図鑑がこの辺に…むきゅ!これだわ!」
 どうやら見つかったようだ。口で丁寧に図鑑を咥えるとめーりんたちの下へ戻って広げる。
 そこには多種多様な植物の写真がひらがなでの説明が添えられて掲載されていた。
「JAOOO!」
「これならすてきなおはなさんがきっとみつかりますわ!」
「うー♪うー♪どれもきれいだよ♪」
 図鑑を囲い込みページを1ずつ捲ってはこれはどう?あれはどう?と検討し合う4匹。
「むきゅー…今の季節だと…向日葵か、朝顔か…鳳仙花辺りが咲いてるのかしら…」
 候補は幾つかあるのだが…なかなかこれだというものは見つからなかった。
 と、次のページを捲ると全員の目が1つの花の…写真ではなく絵に留まった。
「JAOOO!!?」
「うー!!??」
「こ、これは!!」
 特にぱちゅりーを除く3匹への衝撃は強かった。その花は…どこかで見たことがあったのだ。
 6本の花弁を持っており、それぞれの色が…性格に言うと加減が若干異なるのだが、黄、白、空、紅、緑、紫と別の色で染められていた。
 偶然とは何と恐ろしいものか。そう、あの時の花火と同じなのだ。
 まるで、この花を探せと運命が囁いているよう感じてしまう。

「むきゅ…なんでも“極・六王栄華”(ごく・ろくおうえいが)という伝説の花らしいわ。」
「JAO…?」
「でんせつ…でございますか?」
「むきゅきゅ…一度咲くと永久に枯れることがない…だそうよ!!すごいわ!」
「うー♪すごくゆっくりできるおはなさん♪」
 4匹は大いに喜ぶが、名前、説明、どちらからしても胡散臭いと言わざるを得ない。それでも、この花をプレゼントすることに満場一致で決まった。

「ぱちゅりーさま。それで、そのはなはどこにあるのでしょうか?」
 再び図鑑に目を戻す。
「むきゅきゅ~…現在、その生態は…よく分かっていない…」
「JAOOOO…」
「うー…」
 せっかく素晴らしい花と出会えたのに…と落胆する3匹。
「むきゅ!ゆっくり待って!続きがあるわ!ええと…ゆう…か、ゆうか種と深い関わりがあるという説もある…って書いてあるわ!」
「JAOOO?」

 ゆっくりゆうか。植物を育てるという習性を持ったゆっくりだ。また、幾千もの年月を生きながらえたゆうかは農耕を営む幻の種、のうかりんへと進化するという噂もある。

「うー♪ゆうかっていうゆっくりにあえば、なにかわかるんだね!」
 一度消えかけた希望が再点灯し、歓喜するめーりんとふらん。だが、対照的にさくやはどこか浮かない顔をしている。不安のような…恐れとも取れるような。
 そして、重々しく口を開く。
「…ですが…ゆうかといえば、はなをいのちとおなじようにたいせつにおもっているゆえ、とてもきょうぼうなかたがただときいたことがありますわ…だいじょうぶでしょうか?」
「JAOOO!?」
 さくやの言葉にめーりんは急に怯え始めた。すると、ふらんがめーりんを抱きかかえ自信満々に言い放った。
「うー♪あんしんして!めーりんもさくやもぜったい、ふらんがまもるから♪」
 実に頼もしい限りだ。
「むきゅ…実際に会ってみるととても良いゆっくりかもしれないわ。お花を育てるなんて大変なことができるゆっくりは、きっと心も綺麗な筈よ。」
 それでも眉間にできたしわは消えない。
「そう…でございますわね…」
 杞憂であれば幸いなのだが…一抹の不安は心にこびりつき、離れなかった。

「うー♪それでぇ、ゆうかはどこにいるの?」
「むきゅ~…ええと…確か…この山の南の麓に住んでいた筈よ。」
「うー♪ここからならすぐだね♪めーりん、さくや、ゆっくりすぐにいこ!」
「JAOOO!!」
「そうでございますわ…ぱちゅりーさま、ありがとうございました。」
 頭を下げ、慇懃にお礼を述べるさくや。
「むきゅ!礼には及ばないわ!困ってる時はお互い様よ!また今度、ゆっくりしていってね!」



 3匹はぱちゅりーに見送られ、今度は谷伝いに南へと下ってゆく。早く花の情報を得たいのか、ぱちゅりーの家を目指す時よりも幾分か速く飛んでゆく一行だった。

「…ですが、みなみのふもととは…ぐたいてきにどのあたりなのでしょうか?」
 そう…みなみといっても範囲は広大だ。アバウト過ぎる。
「うー…ゆうかはどこにいる?」
「JAOOOOO…」
 この山一帯を探すには中々骨の折れる作業だ。なんとかゆうかの消息に関する手掛かりが欲しいところだが…それさえ見つからない。

 ゆうかを探し始め、1時間程たった頃だった。
「JAO…JAOOO!?」
 めーりんが何かを発見する。
「どうなさいましたか?」
「JAOO!!JAOOO!!」
 めーりんがこっちを見てと訴えると、その視線の先には段丘一面を埋め尽くす程の花畑が広がっていた。
「うー♪おはなさんがいっぱい!!ゆっくりできそう♪」
 ふらんは呑気にはしゃいでいたが、さくやはその光景に違和感を覚えた。
「ゆ…それにしても…まるでなにものかがていれしているかのように、ととのっていますわ…」

 さくやの洞察力は優れていた。そう、よく見ると明らかに人工的なのだ。花が種類・色ごとに区切られていて、整然と咲いている。
 …一体誰が…?人間の仕業か?…ここまで立派に育てられる者はよっぽどの花好き…ここまで考え、1つの結論にたどり着いた。

「ゆ!ゆうかですわ!ひょっとしたら、ゆうかがこのはなばたけをつくったのかもしれませんわ!」
「JAOOOOO!」
 めーりんが同調する。それが手掛かりとなるかはまだ、確かではないが行ってみる価値はありそうだ。何せ、ゆうかが最も好むものが存在するのだから。
「うー♪ちかくまでいくよぉ♪」
 ゆっくりと高度を落し、花畑へと向かった。



     ―――花畑―――
「ゆー♪ゆー♪ゆー♪」
 ここは、花の楽園。30匹程のゆうかたちが集い、雨の日も風の日も雷の日も雪の日も、毎日一生懸命世話をし作りあげた汗と涙の結晶だ。
 彼女たちはみな苦悩と苦難の末、ここにたどりついた。元々一匹狼で、植物を育ててゆっくりとした生活を楽しむのがゆうか種の性質であるのだが、敵が多すぎた。
 まずは人。人は美しい物を好む。それは花も例外ではない。
 彼ら―――特に子供が多いのだが―――は強欲…いや、純粋ともとれるが、“欲しい”と思った花を根こそぎ摘んでゆうかたちから奪ってしまうのだ。

 そしてゆっくり。これが人よりもさらに深刻かもしれない。ゆっくりたちは植物に対してゆうか、人と同じように『美しい』だとか『ゆっくりできる』という思いを抱くものも少なからずいる。
 だが、その食欲の旺盛さ故に植物に対して“食料”だという認識を持つものが圧倒的に多い。
 一端植物を発見すると、ねこぞぎ食い尽くしてしまうのだ。まるで、盗賊かハイエナである。
 当然ゆうかは植物を守ろうとするが、往々にして『独り占めにする気だ』と誤解され、攻撃されてしまう。
 天候の悪戯も敵になり得るが、その人とゆっくりによる被害は甚大だった。

 いつしか、ゆうか種たちはいつの間にか1匹、2匹、3匹…と集団を組み始める。
 互いに協力し合って植物を育て守っている内に、これ程までの立派な花畑と群れを形成していった。

 と、1匹のゆうかが慌てて、仲間の下に走り来る。
「ゆ!!み、みんな!たいへんだよ!!!」
 その只ならぬ様子にみなが何があったのかと心配そうに駆け寄った。
「どうしたの?ゆっくりおしえてね!」
 息が絶え絶えになりながらもなんとか、みなに伝えようとする。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…た、たたった、たいへんなの!!!
「ゆ!おちついて、ゆっくりおしえてね!」
「て、ててって、てて、てきしゅうだよ!!!!」
「てきしゅうだって!?な、なにがきたの!?」
「めーりんとさくやと…ふ、ふふふふ、ふ、ふらんが!!!」

 めーりんとさくやという名前を聞いたときは特に反応がなかったゆうかたちだが“ふらん”という名前を聞いた途端、顔が恐怖で歪んだ。

「「「ふらんー!?いやああああああぁぁぁぁぁ!!!!!ふらんこわいいいいぃぃぃ!!」」」

 一斉に叫び泣き喚くゆうかたち。ふらんは天敵の捕食種の中でも最も上位に位置する種だ。いわば、ゆっくりの中の食物連鎖の頂点。
 その名前だけで恐怖へと陥れることとなるのだ。
「ど、どうしよ?に、にげないとゆっくりできないよ!!」
「でも、もうすぐそこまできてるよ!?きっとみつかっちゃう!!」
 慌てふためくゆうかたち。そこに一回り大きい一匹のゆうかが声を張り上げた。
「みんな!ゆっくりおちついてね!わすれちゃいけないよ!おはなさんをあらされてくるしかった…くやしかった…ゆっくりできなかった。…わたしたちはいかなるしんにゅうしゃも、ちからをあわせてはいじょする。これがむれのてつのおきて!」

 素晴らしく統率力のあるゆうかだった。おおよそゆうかたちのリーダーといったところか。
 この鶴の一声で、先ほどまで落ち着きのなかったゆうかたちの目つきがみるみる内に凛々しくなっていた。
「ゆ!そうだ、そうだ!!」
「しんにゅうははいじょせよ!」
「いえすゆーきゃん!!」
 そんな声があちこちから聞こえてくる。

「てきはふらんだけど1ぴきだけ。ほかにはさくやとめーりんがいるだけだよ!あんしんして!みんなでちからをあわせればゆっくりかてるよ!がんばろうね!」
 おおーという掛け声が上がり、いざ戦場へと赴く。
 …どうやら、さくやの不安は的中してしまいそうだ…


                        ~続く~



以上、ひもなしでした。
謝らないといけないことが3つ。ごめんなさい。
1つは前回から投下が大幅に遅れたこと。
もう1つは予定では、今回が最終回だったのですが…10話完結に変更となりました。
恐らく残りは9話の後半と…10話は前・後で分けるかもしれません。
最後に巨大なぱちゅりーに関して。
まさか皆様がスレで能力を考察している時に投下してしまうとは…
性格や特徴は皆様で考えてあげてください。

  • 本にふりがなをつける程度の能力w -- 名無しさん (2009-09-01 20:34:31)
  • 後半まだー? -- 名無しさん (2012-06-05 22:52:26)
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最終更新:2012年06月05日 22:52