昔の話~僕とれいむのゆっくりプレイス~

昔の話をしよう

その時の私はまだ小さかった

私の世界はこの町だけだったし

ご馳走といえばお母さんの作ってくれるハンバーグだった

近所に住む中学生のお兄さんの体はとんでもなく大きく、強く見えていたし

お小遣いが月500円だったから1000円札なんてものは大金以外の何物でもなかった



だからそのときの私にとって、『それ』は侵略に等しかった




「ゆっくりしていってね!!!」

「…おまえ、なに?」

ある日お母さんが連れて帰って…もとい、持って帰ってきた『それ』は、なんていうか…『変なの』だった。
顔は人のそれに近い。
でも、それ以外がない。頭だけなのだ。

「お母さん、これ…」

「ああ、見るのは初めてだったわね。この子は『ゆっくりれいむ』っていって、なんていうか…『変なの』よ。
でも悪いヤツじゃあないわ。ペットみたいなものね」

「ゆっくりしていってね!!!」

お母さんが言うには、会社(うちのお母さんは働いている)の友達が飼っているれいむがちょっと多く
子供を産みすぎたから一匹引き取ってきたらしい。

「ゆっくりしていってね!!!」

どうでもいいが、こいつはさっきからこれしか言わない。他に喋れないのだろうか?

「へいゆー!」

「うわっ!?」

いきなり違うことを喋ったので驚いてしまった。なんか得意げな顔がちょっとムカつく。

「れいむの名前はれいむだよ!ゆっくりしていってね!!!」

自己紹介をしたつもりだろうが、微妙によくわからないところがある。
ところで、さっきからさんざ思っているのだが『ゆっくりしていってね』とは招かれた方ではなく招いた方が言うのが正しいのではないだろうか。

「それじゃあお母さんは晩御飯の支度するから、れいむと一緒に遊んでてね」

「うん…」

「ゆっくり遊ぼうね!!!」

頭だけで、人の言葉を喋る生き物に最初はひどく戸惑ったが、少し遊んでいるうちにすぐ打ち解けていった。
人語を喋る割にはあんまり頭が良くない。
体力的に当時の僕と大した差がない。
遊ぶのが大好き。
つまり、子供の遊び相手としてはうってつけの存在だったからだ。
だから

「むーしゃ♪むーしゃ♪」

「れいむ、おいしー?」

「しあわせー」

「じゃ、僕のピーマンあげるー」

「それはあなたが食べなさい」

「えー」

「好き嫌いはだめだよ!で、でもちょっとくらいならもらってあげてもいいんだからね!」

「ちぇー…むーしゃ、むーしゃ」

「真似しないの」

「むーしゃ♪むーしゃ♪」

「…にがー」「しあわせー」

ご飯を食べる頃にはすっかり仲良しになっていた。





ご飯の後にはお風呂に入って、あがった後にお母さんのひざの上に座ってテレビを見る。
それが僕の日課だった。

だが、そこには先客がいた。

「れいむ、ちょっとどいて?」

「ゆゆっ?ここはれいむのゆっくりプレイスだよ!」

「いや、でも…」

「はいはい、もう大っきいんだからいつまでも甘えないの」

結局、その日はお母さんの隣に座ってテレビを見た。内容はあんまりよく覚えていない。
明日になれば座れるだろう、そう思って我慢した。

「おかあさんのひざの上でゆっくりするよ!」
でも、次の日もれいむは『そこ』にいた。僕の特等席に。当たり前のように。

「ゆっくりテレビを見るよ!」
次の日も。

「ゆっく…zzz…ね、寝てないよ!」
その次の日も。

次の日も次の日も次の日も、そのまた次の日も!

不満は日に日にたまっていき、次第に露骨に態度に表れるようになっていた。



そしてある日、遂に…

「今日も一緒にゆっくり遊ぼうね!!」

「………」

「どうしたの?ゆっくりしていってね!!!」

「…うるさい」

「ゆ?」

「うるさいって言ったんだよ!」

たまった不満は爆発し、喧嘩になった。

「このッ!このッ!」

「や、やめてね!ゆっくりやめてね!」

いや、あれは喧嘩と呼べただろうか。
僕はれいむを一方的に叩く、蹴る。れいむはただ「やめてね」と繰り返すだけだった。
れいむにしてみれば理由がわからないのだ、理不尽な暴力以外の何ものでもないだろう。

「お前なんか、お前なんかッ!」

「ちょっと、何してるの!?」

「ッ!」

お母さんに見つかったとたん、血が上っていた僕の頭は急速に冷えていった。
僕は何をした?
理由も言わず、話し合わず。
れいむに何をした?
誰かと誰かが争った、そんな話を聞いたとき、
いつも「みんな仲良くすればいいのに」と思っていた。
そう思っていた僕は今、何をした?
何をしている?
誰に?
何を?
僕は?
僕が?
どうして?
なんで?



一瞬で冷えた頭は、今度はぐちゃぐちゃになって

胸の奥から湧き出てくる得体の知れない恐怖から逃げ出すように

僕は、外へ走り出した…





夕暮れ時、遊んでいた子供たちがみんな帰った公園の遊具の中。
僕はひとりうずくまっていた。

(どうしよう…)

どうしたらいいんだろう。
れいむになんて言えばいいんだろう。
お母さんにどう謝ったらいいんだろう。
れいむは許してくれるだろうか?お母さんは?
なんであんな事をしてしまったんだろう…

僕の頭の中はそれらがぐるぐると回り続けていた。
世界の終わり。
その時の心境を表現するにはピッタリの言葉だった。





視界の端に、丸っこい影が差した。それに気づいたとき、体がビクッとなった。
答えの出ない思考を続けて周りのことなんかロクに認識してなかったから、こんな近くに寄られるまで気づけなかったのだ。
その影の主は

「…れいむ…」

れいむは一回、こっち側に跳ねると『ぐりっ』と前に半回転した。

「…ごめんなさい!」

「…え?」

さっきの動きは、頭を下げたつもりのようだ。

「おかあさんから聞いたよ、おかあさんのひざの上はきみのゆっくりプレイスだったって!
それをれいむが取っちゃって、だから怒ってたんだよね?おかあさんも『気づけなくて悪かった』って言ってたよ!
だから、だかられいむも…」

「れいむ…」

僕たちは、二人とも涙声になっていた。

「ごぇっ、ごめんなさいいいい!」

れいむは泣きながら、謝りながら僕に抱きついてきた。

「僕も…僕もごめんねぇ…痛かったでしょ?ごめん、ごめん…!」

僕はそのれいむを抱きしめ、同じように泣きながら謝った。



その日の夜…

「ゆっくりプレイスをゆずるよ!」

「え…いいの?」

「なかなおりのしるしだよ!」

お母さんのひざの上は、再び僕の…そう、ゆっくりプレイスとなった。

「あ、じゃあ…」

僕はれいむを、僕のひざの上に乗せた。

「れいむは、ここだね」

「ゆっ?ここもすごくゆっくりできるよ!」

僕たちは笑い、お母さんは少し困ったような顔をしながらも笑っていた。(後から聞いた話だとちょっと重かったらしい。そりゃあそうか…)

「あ、そうだ。ちょっと待ってね!」

「?」

ひざの上のれいむは、なんかごそごそと動いて…どこからともなくキャンディーをひとつ取り出した。

「これをあげるよ!なかなおりのしるし・その2だよ!」

「ありがとう、れいむ…」

そのキャンディーは、今日のれいむのおやつだった。僕は遠慮せずに受け取った。
なんとなくだけど、こういう時に受け取らないのは失礼だと思ったからだ。
代わりに明日は、僕のおやつをあげ…分けてあげよう。

「ん…」

僕は個包装になっていたキャンディーを取り出して、口の中に入れた。

その味は甘くてクリーミーで、こんな素晴らしいキャンディーをもらえる私は、きっと特別な存在なのだと感じました。
今でも私のひざはゆっくりプレイス。
れいむにあげるのは、もちろんヴェルタースオリジナル。
なぜなられいむもまた、特別な存在だからです。


 -End-





※最後の4行以外は全部前フリです

書いた人:えーきさまはヤマカワイイ


  • あぁ~(*´v`*)こんなほのぼのした話って、いつ読んでもイイですね・・・ -- 名無しさん (2009-02-01 15:48:34)
  • ひとつの作品として完成した少年の物語を全部前フリって言い切るその根性に惚れました。 -- 名無しさん (2009-02-01 19:53:16)
  • ウマー(゚Д゚)に通ずるモノを感じたよ -- 名無しさん (2009-02-01 20:47:31)
  • 素晴らしいCMでした。こういうの好きです。 -- 名無しさん (2009-02-04 02:22:24)
  • ちょっwww -- 名無しさん (2009-02-21 23:16:49)
  • ラストがwwww -- 名無しさん (2009-03-01 18:39:35)
  • ラストwwww -- 名無しさん (2010-06-13 13:40:27)
  • 素晴らしいラストw -- 名無しさん (2012-09-26 00:03:37)
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最終更新:2012年09月26日 00:03