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Yuri-2-027 - (2010/10/11 (月) 21:37:37) の編集履歴(バックアップ)


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「from 468(二人の花火大会)」


27 :創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 22:18:27 ID:sCoEYg7t

過去作ですみませんが転載しちゃいます
タイトルは当時のものなので気にせず

28 :from 468(二人の花火大会):2010/05/13(木) 22:28:22 ID:sCoEYg7t

「あついぃー!! ジュースかアイス欲しいー! 両方でもいいけど」

なつきが居間で足をバタバタさせながら叫ぶ様を尻目に、あたしは穂先に含ませた水滴を画用紙に慎重に落とし、
独自のエメラルドグリーンを作っていた。
水彩色鉛筆は微妙な表現が出せるが、それでも思うがままの発色とはいかない。

なつきがあたしのほうにごろごろ転がってくる気配を察したので、

「あーもう、うるさいうるさい。学校のプールでも行ってきなさい」

「だって五年生の時間は午前中なんだもん」

「……じゃあ宿題してなさい」

「勉強は暑くない朝のうちにしとくんだよー」

なつきは、してやったりという風に胸を反らして見せる。
さっき、叔母さんが昼ご飯にそうめんを出してくれた。テレビの高校野球は今日の3試合目までいっている。

――くそー、赤ペン先生の入れ知恵だな……。

あたしは自分が中学生の時に挫折した、いまいましい某通信教育教材の代名詞をつぶやいた。

なつきはあたしの従姉妹にあたる女の子だ。
あたしが小さい頃は、当然なつきは赤ん坊だったので、とくに気にも留めないただの「親戚の子供」だった。

それが、昨年久しぶりに会った時にはびっくりした。
あたしが小学三年生のころ会った以来だから、あれから六、七年経ったことになる。

四年生になったなつきは、とってもかわいらしい女の子に成長していた。
かわいいだけじゃなくて、妙に危うい艶っぽさもあった。

あたしはそれ以来、なつきの隠れファンになってしまい、なにかともっともらしい理由をつけては
彼女の家に遊びに行った。なつきもあたしの家によく来たがった。

この、「なつき大好き」感情を表に出してはいけない。
なぜだかよく分からないけれど、なんとなく後ろめたい感じがする。

けれどなつきは、そんなあたしの気持ちなど知る由もなく、抱きついたり耳元で囁いたりするのだ。
あたしはつとめて彼女のスキンシップに気のない返事を装った。

「あ、そうだ! かき氷食べに行こうよ。公園のところの」
なつきは元気よく起き上がると、背中からあたしの肩に抱きついて耳元で叫ぶ。

「あー」

夏休みシーズンに入ると、近くの公園でかき氷を売るようになる。
なつきはそれを買いに行こうと誘っているのだった。

「小学生は本当に元気だなー」

耳がキンキンなりながらあたしは気のない返事をする。その実あたしはとてもドキドキしていた。

「それで帰りに花火買ってさ、夜に二人でやろうよ! ね! 決まり!」

なつきはあたしを背中から羽交い絞めにしている。
魅惑的なシャンプーの匂いがふんわり漂ってきて、あたしはオリジナルエメラルドを作るのをあきらめた。

“花火”という単語に惹かれたのもある。
花火なんて、ここ数年していない。
いつのことからか、花火=打ち上げ=恋人同伴が必須、みたいな式が出来上がっていて、
恋人がいないあたしは無意識に花火から遠ざかっていた。

なつきと二人でする花火。
手持ちのスパークルとか噴き出すオーソドックスなやつ。ベタだけど線香花火。
ちょっと危ない感じのねずみ花火、トンボ花火。男の子専用、って感じのロケット花火。置き型の噴出する花火。

楽しそうだ。よし、行こう。

あたしは描きかけの絵に区切りをつけ、色鉛筆をケースにしまった。
自分の主張が受け容れられたと知ったなつきは、あたしの手を引っ張って玄関へ急ぐ。

そして、この手をいつまでもつないでいたいと想うあたしがそれに続いた。


夜になると夜気が入ってきて、あたりをひんやりとさせる。
叔父さんがろうそくを持ってきてくれて、火種をつけてくれた。叔父さんちの前の空き地で、あたしはなつきと花火をした。

「奈穂ちゃん、火ちょーだい」

「また消したの。ろうそく短いから、大事に使おうよ」

「だって、風が盗っていっちゃうんだもん」

ねずみ花火に火を着けるなつき。

「ちょっと、なつき? それ、手に持ってたら危ないから!」

あわてて放り投げる。
しゅるしゅるいいながらねずみの奴は予測不可能な動きをして足元を這う。
きゃあきゃあ叫ぶなつきを抱え上げ、あたしも逃げ惑う。

ぱふ、というなんとも気の抜けた音を立ててねずみの奴は力尽きた。

気がつくと、抱き上げたなつきと目が合った。

なつきの目はとてもきれいに澄んでいて、あたしをまっすぐに見つめていた。

――こんなに近くで見たのは初めてかも。なんで、こんなにドキドキするの……

あはははは、となつきが突然笑いだした。つられてあたしも笑う。
何が可笑しいのか良く分からないけれど、とにかく可笑しかった。あたしとなつきは抱き合ったまま、大笑いしていた。

「あんたたち、いいかげんにしなさいよー!」

叔母さんが奥から声をかける。買ってきた花火も、もう無くなった。
ちょっぴり寂しく思いながら、火薬の匂いの中でなつきと片付けをした。

なんとなく、流れで一緒にお風呂に入った。

なつきはあたしの胸をじーっと見ている。

「な、なによスケベ親父みたいに」
「……触っても、いい?」
「え……いいけど」

なつきは耳まで真っ赤にして、あたしの胸を触った。
たぶん、あたしの耳も真っ赤になっていることだろう。それは、お風呂でのぼせたわけじゃない。

たどたどしく触る感触は、とっても気持ちが良かった。
でも、何故だか罪悪感があって、それを続けることは躊躇われた。

「いつまで触ってるの」

冗談っぽく言うと、なつきは慌てて手を引っ込めて、俯いた。

その後はなつきの背中を流してあげたり髪を洗ってあげたりした。
そうしていると、とっても幸せな気持ちになれる自分が不思議だった。

以上です


※続きは、2-037



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