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Yuri-2-037

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「from 491(田舎の小旅行)」


2-027からの続き

37 :from 491(田舎の小旅行):2010/05/15(土) 23:43:30 ID:mLF1Q94T

叔父さんの家に遊びに行く時は、母さんか父さんが一緒だった。
けれどあたしが中学生になってからは、一緒に行くことがなんとなく恥ずかしかったので、あたしは行かなくなっていた。

ところが、高校生になった去年の夏、あたしは一人で叔父さんの家に行った。

母さんたちが行けなくなったからだが、ちょっとした一人旅がしてみたかったのもある。

無理してまで行くこともないし、今年は無しね……と母さんと叔母さんが電話で話していた時、あたしはとっさに、

「あたし、行く! 一人でも行く!」
と叫んでしまった。

話はあっさり進み、父さんが新幹線の切符をとってくれて、
母さんから叔父さん宅へ届けるお中元を持たせられて、あたしはあれよあれよという間に瀬戸内海を渡っていた。

なつきに会ったのは、そのときだ。

叔父さんの家に着いて、玄関の呼び鈴を鳴らすと、出てきたのが彼女だった。

あたしは三、四歳くらいのなつきしか知らなかったから、小学四年のなつきとどういうふうに接していいかわからなかった。
かろうじて面影をみとめるのが精いっぱいだった。

お互いはじめはぎこちなくて、会話らしい会話も無かった。

でもなつきは、あたしと一緒にいるのを嬉しがってる風だった。
あたしが画材を広げてスケッチをしていると、そばに来て座っていたり寝転がっていたりした。
話しかけると、まっすぐこちらを見て全力で答えようとしてくれた。

なつきに連れられ、近くの沢や山に行った。
あたしは部活ではパレットとイーゼルくらいしか持たないし、美術室と学校の中庭の花壇を往復する程度なので、沢だの山だのは息が切れる。
しかも日差しが強い。一応日焼け止めを塗ってはきたが、それでも心配だ。

「奈穂ちゃん、早くー!」
「ちょ、ちょ……っと、待って、はぁはぁ……」
「あっ、カワセミが来てるよ!」

なつきはバテているあたしなどお構いなしにずんずん山道を入っていく。
なつきの華奢な四肢は健康的に灼けていた。

沢でメダカをすくったり、色の綺麗な野鳥を見たりしているうちに、あたしとなつきは打ち解けていった。

かわいい妹。そんな感情があたしの中に生まれた。


夕食は、豪華にお刺身やら天ぷらやらが所狭しと並べられた。
叔母さんは「張り切って作ったから、たくさん食べてね!」と言い、なつきは盛り付けや配膳を手伝わされてぼやいていた。

叔父さんはビールを飲みながらオールスター戦を見ていたが、ふとあたしたちのほうを見ると誰ともなしにつぶやいた。

「こうしてると二人は姉妹みたいだなー」

ちょうど、あたしがなつきの皿にお刺身を取ってあげているときだった。

「なつき、お姉ちゃんができて嬉しいね」
叔母さんもそれに便乗する。

「え、そ、そんなこと…」
なつきは照れて俯いてしまう。

叔母さん、妹ができて嬉しいのはあたしのほう。
誰かを愛おしく想うのって、こういうことなんだろうか。


普段は使っていない部屋に蚊帳が張られ、蚊取り線香の匂いがした。
蚊帳の中に新しい布団が敷いてあり、扇風機が弱風で回してあった。

あたしが布団の上に座ってタオルで髪を乾かしていると、

「奈穂ちゃん」
なつきが蚊帳の外から遠慮がちに声を掛けてきた。

「なつき? どうしたの」
「あの……、一緒に……寝てもいい?」

俯いて、掠れた声で呟く。上目遣いがなんともかわいい。
そういえば、さっき寝しなに見たテレビで心霊写真特集をやっていた。

「はは~ん、さてはお化けが怖いんだな?」
あたしがからかうと、

「ち、違うよ! こっちの部屋のほうが涼しいんだもん」
そう言いながら、すばやく蚊帳の中に潜り込んできた。


一人用の布団に、二人並んで寝る。
くっついたところから、なつきの体温が伝わってくる。
暑さも忘れて、もっとくっつきたいと思う。

なつきの細い腕。なつきの薄い肩。
抱きしめたい。キスしたい。

でも、それをしたらなつきがショックを受けるだろうから、それだけはしちゃいけない。

――こうして添い寝するだけで十分。あたしは“仲の良いお姉さん”でいなくちゃね。

あぁ、でも。

やっぱりなつきはかわいい。

そしてあたしを寝かせてくれない。
くっついた腕が、おそるおそるといった感じに動いて、あたしの腕に絡みついてくる。

あたしは無言で、なつきの手を握る。
ドキドキしているのが聞こえてきそうだ。


鈴虫の声が聞こえる。

扇風機は回ったり止まったりを繰り返し、微風を送り出している。

蚊取り線香の匂いと畳の匂いがする。

電気の消えた部屋は、月明かりが差し込んで青く染まっている。

指を絡めて握ったなつきの手。
それをそっと持ち上げると、胸のあたりに導いた。

なつきは何も言わない。でも、なんだか緊張しているのが分かる。

胸の前に置いたなつきの小さな手を、両手でそっと包み、胸に当てる。
あたしのドキドキが伝わるように。

「……奈穂ちゃん……」
青暗い部屋に、なつきの囁き声が浮かぶ。

「すごく……ドキドキ……してるでしょ……」
 あたしの声も掠れている。

するとなつきは、そっと身体を動かして横からあたしに密着した。
握っていないもう片方の手を、あたしの身体に巻きつけてきた。
なつきも、ドキドキしているのが伝わってくる。

あたしは手を一旦ほどいて、片手でなつきの肩を抱いた。
もう一方の手は再び、なつきの手を握る。

なつきはあたしの胸に顔を埋めて、つぶやく。

「奈穂ちゃん……、帰らないで。ずっと家にいて」
「うふふ、それもいいかもね……。でも、あたしはなつきを連れて帰りたいな」
なつきの髪を撫でながら、あたしは複雑な幸せを感じていた。

とっても満たされているような、もっと満たされたいような。

なつきに気付かれないよう、そっと髪にキスする。
なつきの髪は、シャンプーと日なたの匂いがする。

まったく眠れたものじゃない。

きっと明日の朝、あたしは目の下にクマを作っていることだろう。
叔母さんになんて言おうか。

以上です

27-30の続きです、三部作の真ん中ですね

『from〇〇』とあるのは、当時SSのプロットになりそうなネタを
「妄想」と称して投下してくれていた方のレス番号です

今は、そのスレも様変わりしていてその方の行方もわかりませんが……
ヒントを下さった方へのリスペクトとして、このタイトルは残しておこうと思っています

()づきのタイトルの方は、有志の方がwikiにまとめてくださった時に
付けていただいた仮タイトルです

これも気に入っているので、ありがたく使わせていただきました
wikiの方、ありがとうございます
自分はネーミングセンス無いので、ホントに有り難いです……

※続きは、2-055



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