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ガンダム総合スレ「蒼の残光 第四章」

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Top>ガンダム総合スレ

 「 蒼の残光」 第4章

4.再会

「――ふむ、思ったほど騒いでないな。戦力も損耗分だけが補充されて増援はなしか」
 ギド・フリーマンは呟き、手元の端末に記録した。オリバー・メッツが彼に近寄ると、
別行動の許可を取ろうとする。
「ギド、僕はちょっと別行動を取るよ」
「おい、またかよ?せめて誰かと一緒に動け」
「大丈夫、一人の方が動きやすいよ」
 そう言うとさっさとオリバーは歩いて行ってしまう。ギドは部下の一人に尾行を命じた。
「メッツには尾行などすぐに気付かれてしまうのでは?」
 部下は疑問を口にしたが、ギドは
「構わん。周りが奴を一人だと思ってくれればいい」
 そう言って後を追わせた。
「俺達は戻って情報を一旦整理する。その後、今夜はパーっと騒ごうや」
 ギドとしては目的は終了しており、後は酒でも買い込んでさっさとステーションに戻り
たい所だった。しかし、オリバーのこの行動はある程度予期されたものであり、アランか
らも頼まれている手前強く引き止める気はない。
「まあ、事情は判るからな」
 ギドは呟き、ホテルに戻った。

 

「ギド、すまんな、今回は俺は離れるわけにいかん」
 潜入前、ステーション内のアランの私室でギドはアランから今回の潜入調査の事、それ
にオリバーの事を頼まれていた。
「気にするな。子守ならこの七年間で充分慣れた」
 ギドは冗談めかしてそうごまかす。アランはそれでも生真面目に
「あいつにとっては唯一想い出と言える過去なんだ」
「わかってるさ、あいつを見ていればな」
 ギドの調子は変わらない。これが彼なりの気の遣い方なのだ。
「本当は調査のほうが口実なんだろ?これで作戦行動が本格的になれば当分は――しくじ
れば永遠にか――オリバーの人探しも出来なくなるからな。最後のチャンスってわけだ」
 アランは何も言わない。ズムシティ潜入というリスクを伴う任務が、一人の男の私用の
口実であるなど認めるわけにはいかないのだ。
「ま、いいさ」
 ギドは手にしたバーボンのグラスを空にした。
「なんにしても上手くやってやる。俺も酒を買い込んでおかないといけないからな。あの
木星人、土産の中に酒も入れないとは気の利かない男だ」
「……俺にも買ってきてくれ。お前が飲むから減りが早くて困る」
 フッと笑ってアランはそう返した。
 アランは〇〇五七年、ズムシティに生まれた。士官学校の四年生の時、准尉待遇でフラ
ナガン機関付の守備隊員として任官され、サイド6に赴任した。アランは今にして思う。
既にあの当時、公国の人材難はそれほどに深刻化していたのだ。
 そこでアランはNT被験体の少年少女と出会う。ララァ・スンやクスコ・アル、そして、
その中にマリオン・ウェルチやオリバー・メッツがいた。
 オリバーは気の弱い少年だった。家族で地球旅行に行った際、地球至上主義者による宇
宙港爆破テロによって両親が死亡、彼だけが生き残った。その後養護施設にいたところを
適性を認められフラナガン機関に入所したが、他人に心を開かず、怯えたように大人を見
上げていた。
 そのオリバーが唯一心を開いていたのがマリオンだった。オリバーより一歳年長で、青
い髪と赤い瞳が印象的な少女だった。マリオンは姉のようにオリバーの世話を焼き、オリ
バーもマリオンにだけは笑顔を向けた。
 そのマリオンが実験中の事故で昏睡状態に陥った時、オリバーが半狂乱になった事は想
像に難くない。ひたすらに泣き叫び、彼女の名を呼び続け、クルスト・モーゼス博士に怨
嗟の言葉を吐き続けた。薬物、電気的刺激、催眠術などあらゆる手段を用いて抑え込み、
それでも絶叫は続いた。NTの高い共感力が他の被験者や所員にまで影響を及ぼし、むき
出しの絶望を共有した何人かは彼と同じく薬物による沈静を必要とした。
 アランはそれ以降のオリバーを知らない。戦況が悪化し、彼は本土防空要員としてサイ
ド3に呼び戻されてパイロットとしての教育を受ける事になったためである。彼はリック
ドムを受領し、初め本土防空軍、その後ア・バオア・クーに配置された。
 最初の実戦が負け戦だった。絶望的な物量差は攻城戦の主客のハンデを用意に覆しうる
ものだった。アランは自分がどう戦い、何機撃墜したのかも憶えていない。気がついた時、
彼はバズーカも持たず、折れたヒートサーベルを左手に掴んでア・バオア・クーの周囲を
漂っていた。ドムの右腕は肩から失われていた。
(もう死ぬのか)
 そう覚悟した時、彼は機体毎回収された。エギーユ・デラーズ配下の巡洋艦だった。
 そのままアランはデラーズ・フリートに参加した。茨の園を建設し、ラボでジャンクパ
ーツからドラッツェの開発にも協力した。そこで新たな友人、同胞も得た。ギデオン・フ
リーマンもその一人だ。
 ギドとアランは同年齢だった。但し、ギドは士官学校ではなく兵科学校の卒業であり、
階級はこの時軍曹、ルウムにも参加していた。二人は対照的な性格ながら、不思議とウマ
が合い、「轡を並べて」時を待った。
 二人は〇〇八三年の星の屑作戦を戦い、その生き残りとしてアクシズに合流、リトマネ
ンの指揮下に入った。アランとオリバーが再会したのもその時である。
 その後、摂政ハマーン・カーンとの考えの違いから次第にリトマネンはアクシズ内で非
主流派となって行き、ハマーンによるコロニー落としの直前についに袂を分かち、この忘
れられた宇宙ステーションに去った。以来、グレミー・トトの内紛やアクシズ陥落のニュ
ースにも背を向け、一つの作戦の準備を続けていたのである。
 その間、アランは情報収集として部下と共に何度もズムシティやグラナダに潜入した。
本来は大きなリスクを背負う行動だが、茨の園での経験から、兵に休暇を与える事の重要
性をよく認識していた。部下には決して目立たぬ事、酒を飲んでも正体は明かさない事を
厳命し、同行させる部下に自由行動を許した。稀に規律を守れぬものも出たが、そのよう
な時にはやむを得ず銃殺した事もある。オリバーだけは毎回同行させたのは、アラン自身
もマリオンの事が気になっていた事もあった。
 そうして一年余、作戦も最終段階まで来た。もう後戻りは出来ない。
「どんな形でもいいんだ。終わりさえ来ればな……」
 ギドの帰った私室で、アランはそう、呟いた。

 

 オリバーは杖を突きながら大通りを歩いていた。その歩みは健常者と比べてもむしろ速
い程だった。
 杖には超音波ソナーと、石突にセンサーが付けられている。ソナーで障害物や他の歩行
者との距離を知り、センサーが地中に埋められたビーコンから信号や道路状況のインフォ
メーションを得る。情報はサングラスから音声や振動の形で使用者に届けられ、使用者は
この情報を元に危険を回避する。視覚障害者をサポートする通常のものである。オリバー
はこれに、自身のNTとしての感覚を稼動させる事で全く危なげなく街を歩いていた。
 オリバーが光を失ったのは〇〇八三年の事である。サイド6から撤退し、戦火を逃れ幸
運にもアクシズに脱出できたオリバーは、そこでもNTの能力開発実験を継続した。
 オリバー本人の希望である。彼はEXAMが破壊された後、ほんの一瞬だがマリオンを
感じた。地球圏から遠く離れたアクシズからでも、NTとしての能力が上昇すればマリオ
ンを見つけることが出来ると考えたのである。
 しかし実験に使用した新薬の副作用により失明、皮肉にも視覚を失ってから彼のNTと
しての知覚力は大きく伸びる事になる。
 それでも、マリオンの心は感じ取れなかった。
 リトマネンに付いてアクシズを離れたのは、地球にしか目を向けないハマーンの元では
マリオンを探すのが難しいと考えたからである。アランやギド等、気のおけない友の存在
も大きい。
 そして今日もこうしてマリオンを探して当てもなく歩いていた。恐らくこれが最後のチ
ャンスだろう。オリバーはマリオンが近くにいればたとえ自分の目が見えなくても必ず感
じ取る事が出来ると確信していたが、最近は少し自信がなくなってきていた。
 杖が花屋の前であると教えてきた。鼻腔に柔らかな匂いが届き、思わず笑みが漏れる。
「少し焦りすぎかな」
 これが最後との思いが知らず知らず余裕を奪っていたようだ。いつかのアランではない
が、少し街を楽しむか。
 その時、左から何かが崩れる予感を感じた。小さく身を動かすと左を歩いていた歩行者
が荷物を落としたらしい。彼の足元に何か転がってきた。
 オリバーはそれを拾い上げた。りんごだった。
「すいません、ありがとうございます――」
 りんごの主が礼を述べる。その声が途中で切れた。しかし、その短い声にオリバーは聞
き憶えがあった。
「マリオン?」
「オリー?オリーなの?」
 彼をその名で呼ぶ女性は一人しか知らない。
「やっぱり!マリオンなんだね?やっぱりここにいたんだ」
「オリー、どうしたの、こんなところで。まさかあなたに会えるなんて」
 マリオン・ウェルチはそう言った後、彼の杖とサングラスに気がついた。
「オリー、あなた、目を……?」
「あ、うん……」
 オリバーは小さく頷いた。
「でも、あまり不自由はないんだよ」
「そう……」
「ね、どこかでゆっくり話さない?この辺、カフェはないのかな」
「あ、ああ、そうね。じゃあ、あっち行きましょうか」
 二人は近くのカフェに入った。
「――そう、じゃあ今は『マリオン』ではないんだ」
 オリバーは言った。
「ええ。病院に元情報部の人がいて、その人が新しい出生証明書を作ってくれたの」
 マリオンはこれまでの十年間を簡単に説明していた。
「だから私、一つ余分に歳を取っちゃったのよ」
 そういってマリオンは笑った。
「そうなんだ」
「ね、オリーは?今何をしてるの?」
「僕は――技術者だよ」
「技術者?」
「そう、視覚障害者用の補助デバイスの改良を研究しているんだ」
 オリバーは咄嗟に嘘を吐いた。
「すごいじゃない。あなたにしか出来ない事よ」
 マリオンは素直に感心している。笑って応えながら、オリバーは気がついていた。
(マリオンはNTとしての力を失っている)
 それは既に本人の口から聞いていた。こうして話していても、マリオンに対し精神的な
共鳴は感じない。彼女の言う通り、彼女は少なくとも狭義のNTではなくなっていた。
 そしてもう一つ、オリバーが確信した事があった。
「幸せなんだね、マリオン」
「え?ええ」
 マリオンは左手にはめた指輪を撫でた。
「こんな風に、普通の幸せが訪れるなんて思ってなかったわ」
「ご主人は、いい人なんだね」
「ええ、とっても」
 即答だった。
「今度、遊びにいらっしゃいな。主人も喜ぶと思うわ」
「いいの?せっかく新しい戸籍を手に入れたのに、過去を知る僕が行ったら……」
「大丈夫よ、きっと。施設の話さえ上手くごまかせれば。それに、あの人は無口だから、
そんなに根掘り葉掘り訊いたりしないわ。私にさえ過去をほとんど訊いてこなかったくら
いだから」
「そうなんだ」
「あ、ねえ、連絡先教えてくれる?今度こちらから連絡するわ」
「あ、ああ、えーと……実は、近々異動になるんだ」
 オリバーはまた嘘を吐いた。マリオンにNTとしての能力が残っているなら嘘である事
くらいはばれるはずだ。
「そうなの?」
「うん、はっきりしたら教えるよ」
「そっかあ……じゃあ、私の連絡先だけ教えておくね」
 マリオンはモバイルを取り出し、オリバーのモバイルに送信する。
「はい、これでよし、と。じゃ、落ち着いたら連絡してね」
「ああ、必ずするよ」
 オリバーとマリオンはそこで別れた。別れてすぐ、オリバーはモバイルを取り出し、マ
リオンの連絡先を消去した。
(幸せならそれでいい)
 もしマリオンが今も不幸な境遇にあったなら、オリバーはステーションに連れて帰るつ
もりだった。しかし、幸せならその必要はない。むしろ、過去を消して今の幸せがあるな
らば、自分など近付かない方がいい。オリバーはマリオンの夫が何者であるかにさえ興味
はなかった。
 彼の長年の心配事と、初恋は今終わった

 

「え?それでいいのか、本当に?」
 ホテルに戻ってきたオリバーにギドが訊き返した。
「いいも何も、今幸せなら僕に何が出来るんだ」
「そう言われると何もないが、ずっと探してた相手だろ?随分あっさり諦めるんだな」
「ギド、僕は元々、彼女が幸せであることを知りたかったんだ」
 オリバーは半分は自分に言い聞かせるように言った。
「不幸なら連れ帰った方がまだマシかもしれないけど、幸せだって言うのに、まして結婚
してるのに、一緒に来てくれなんて言えるわけないだろう」
「ま、まあ、そうだ」
「だから、これでいいんだよ」
 オリバーは話を切り上げた。
「じゃ、僕は先に寝るよ。興奮して疲れちゃった」
 オリバーが自分の部屋に戻った後、ギドは部下を一人呼び出した。オリバーを尾行して
いた男だ。
「相手の女、素性は判るか?」
 ギドが訊ねる。部下は頷いて作成したレポートを提出する。ギドはそれにすばやく目を
通した。
「――何だと?」
 ギドが思わず声を上げた。
「おい、これは間違いないのか?」
「間違いありません。私は途中から女の尾行に切り替えました」
「オリバーはこの事は……?」
「恐らく知らないと思います。女が連絡先を渡しましたが、確認せずに消去していました。聞こえた範囲では亭主について何も聞いていないはずです」
「そうか――いや、そうだな。知っていたら、あんな晴れやかな顔貌できるはずない。ご
苦労だった。下がってよし」
 そう言って部下を一旦退席させかけ、すぐに呼び戻して
「この事は他言無用だ。アラン・コンラッドにもな」
 と念押しした。そして難しい顔でレポートを睨みつけた。

 

「ん?今日は何かいい事でもあったのか?」
 自宅に戻ったユウは妻に問いかけた。
「え?どうして?」
「初めて見たぞ、鼻歌歌いながら台所に立つなんて」
「あ、やっぱり判っちゃう?」
 マリーは笑って言った。
「旧い友達に逢ったの」
「看護学校時代のか」
「もっと前、本当に旧い友達よ」
「ほう」
「正直に言うとあまり昔の事はいい想い出ないけど、でも、あの子はとってもいい子だっ
たわ」
「そうか」
「もうじき引っ越しちゃうみたいだけど、連絡先は教えてあるから、今度紹介するわね」
「ああ」
「はい、これ」
 マリーは切ったばかりのりんごをユウに差し出した。

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